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ペロブスカイト太陽電池

ペロブスカイト結晶を用いた太陽電池 From Wikipedia, the free encyclopedia

ペロブスカイト太陽電池(ペロブスカイトたいようでんち、Perovskite Solar Cell、PSC)[1]は、ペロブスカイト結晶を用いた太陽電池。色素増感太陽電池の一種でペロブスカイト型では、従来の色素の代わりにペロブスカイト材料を用い、正孔(ホール)輸送材料(Hole Transporter Material、HTM)としてのヨウ素溶液の代わりに、Spiro-OMeTADなどを使用する[2]。

ペロブスカイト太陽電池

研究開発史

光電現象の発見

2005年、色素増感太陽電池の色素に代わる増感剤として使用したハロゲン化鉛系ペロブスカイト化合物に光を当てると電流が流れる(光電変換)ことを、東京工芸大学の小島陽広大学院生が発見し、工芸大の手島健次郎講師を通じて交流のあった桐蔭横浜大学の宮坂力教授に報告。ペロブスカイト太陽電池の開発が始まった。

2005年夏、宮坂が光充電型色素増感太陽電池の開発を行うために桐蔭大の傘下として設立したペクセル・テクノロジーズにおいて、2005年にペクセルに入社した手島によって開発がスタートしたと、当時東京工芸大学で手島が講師として指導していた小島は認識している。一方で手島としては、手島先輩の紹介で工芸大から桐蔭大宮坂研究室に外部研究生として2006年にやって来た小島陽広大学院生の強い希望により開発がスタートしたと認識している。小島はもともと、工芸大でペロブスカイトの特性を調べる研究をしていたが、ペロブスカイトの光を吸収する性質に注目し、もしかしたら光を電気に変える性質を持っているのではないかと考えていた。宮坂自身は初めて小島からペロブスカイトの話をされたとき、よくわからなかったという[3]。

宮坂の研究チームは研究の成果を折々の学会で発表しながらもさらに研究を重ね、2009年、エネルギー変換効率が3.9 %に達した段階で論文を『米国化学会誌』に発表[4][5](なお、小島陽広大学院生はこの論文で博士号を取得した)。小島らの制作した物は、腐食性の液体電解質(ヨウ素系)にペロブスカイト結晶(CH3NH3PbI3)が溶け出すため、安定動作する寿命は数分間であった[6]。そのため実用性はないと考えられ、あまり注目する人はなかった。

成均館大学校教授の朴南圭のみが追試を行い、2011年にはエネルギー変換効率6.5%を達成した。朴はもともと博士課程のときからペロブスカイトを研究しており、2007年にスイスで開催された第2回色素増感太陽電池学会で宮坂の発表を聞いたとき、自分のよく知っているものが太陽電池になるということで、宮坂の論文発表前から興味を持ち追試を行っていたが失敗していた。

研究の急速な発展

2012年8月、ローザンヌ工科大学のマイケル・グレッツェル(色素増感太陽電池の発明者)と共同研究を行っていた朴南圭が初めてデバイスの全固体化に成功し、変換効率9.7%、屋外で500時間以上の寿命を達成(チタニア系)。2か月後、宮坂と共同研究を行っていたオックスフォード大学のヘンリー・スネイス(en:Henry Snaith)らが効率10.9 %を達成した(アルミナ系)。朴とスネイスは電解液を固体化できるのではないかと同時に考えており、固体化したことで耐久性と変換効率が跳ね上がり、ついに10%の大台に乗った。スネイスの論文が『サイエンス』誌に掲載されたことにより、他の研究者もペロブスカイト太陽電池の研究に興味を示し始めた。

スネイスの発表から1年たたずに変換効率は15%に達し、薄膜シリコン太陽電池の効率を超えた。スネイスはもともと、宮坂が研究仲間であるローザンヌ工科大学のグレッツェルのもとに送り出した村上拓郎大学院生のローザンヌ時代の飲み友達で、たまたま宮坂の論文を読んだことで興味を持ったという。オックスフォードに就職したスネイスは宮坂のもとにマイケル・リー大学院生を派遣して、ペロブスカイトのレシピを習得した。このように、当初は注目されなかった研究が「人と人との出会い」から発展したので、宮坂は「人と人との出会い」が大事だと語っている[7]。

もともとは色素増感太陽電池の研究から派生したため、色素増感太陽電池と同じメソポーラス酸化チタンの足場が必要だと思われていたが、メソポーラス足場がなくても大丈夫なことがわかり、有機薄膜太陽電池によく似た構造である「プラナー型」を2013年にスネイスが発表し、有機薄膜太陽電池のノウハウを流用できることが分かった。色素増感太陽電池や有機薄膜太陽電池の研究者がペロブスカイト太陽電池の研究にどっと移って来た。

2014年11月、韓国化学研究院(KRICT)のSang-Il Seokらが変換効率20.1%を達成。ついに20%を超え、当面の目標となるシリコン型太陽電池の25%が見えてきた。

変換効率が急速に高まり、低コストで製造できるため、商業的にも次世代の太陽電池として注目され始めた[8]。

2021年、韓国化学研究院(KRICT)が変換効率25.2%を達成。ついに変換効率25%を超え、変換効率はシリコン系太陽電池とほぼ同等になった。

2022年、ペロブスカイト太陽電池を発明した功績で、マイケル・グレッツェル、小島陽広、マイケル・リー、宮坂力、朴南圭、Sang Il Seok、ヘンリー・スネイスの7名がランク賞を受賞した。

タンデム型セルの商業展開

ペロブスカイト型太陽電池の変換効率の理論限界は30%程度とされており、これ以上の大幅な性能向上は見込めないと考えられている。従来型太陽電池で主流のシリコン型太陽電池の変換効率の理論限界も30%程度で、やはりこれ以上の大幅な性能向上は見込めないと考えられているが、半透明ペロブスカイト太陽電池と従来型太陽電池という、異なる波長の光を吸収する2つの太陽電池を組み合わせた「タンデム構造」を取ることにより、理論的には50%超えの変換効率を持つ太陽電池が可能と考えられている。

シリコン型太陽電池とタンデムする太陽電池の候補として、従来は化合物太陽電池が有望とされていたが、化合物太陽電池で主力のガリウムヒ素系太陽電池がシリコン系太陽電池の数百倍の価格なのに対して、2020年代前半時点でペロブスカイト型太陽電池の主力と考えられているハロゲン化鉛ペロブスカイト太陽電池は、試作段階でシリコン型の2-3倍程度と価格が低く、量産段階に入ればさらに低価格化すると考えられている。

2024年9月、スネイス教授がオックスフォード大学からスピンオフした企業オックスフォード・フォトボルタイクスが、変換効率26.9 %のタンデムセルを世界で初めて商用出荷した。

2024年1月、ローザンヌ工科大学/スイスマイクロエレクトロニクスセンター(CSEM)がタンデム型で変換効率31.25%を達成し、世界で初めて30%を突破。2026年4月には東京大学が2つのペロブスカイトをタンデムした「オールペロブスカイト2接合太陽電池」で変換効率30.2%を達成し[9]、オールペロブスカイトでも30%を超えた。

2026年現在、タンデム型の世界最高効率はオックスフォード・フォトボルタイクスの中国ライセンシーである天合光能が達成した34.2%と一応なっているが、この数字は続々と更新されている。

タンデム型の課題としては、タンデムした2種類の太陽電池のうち、シリコン型よりもペロブスカイトのほうが寿命が短いことが挙げられている。2024年現在、シリコン型の寿命が20-30年ほどに対して、ペロブスカイトの寿命は5-10年ほどである[10]。屋外で紫外線や湿気に晒されたヨウ化鉛メチルアンモニウムペロブスカイト化合物が分解されると、毒性の高いヨウ化鉛が環境に漏れる危険がある。

鉛フリーの開発

ハライド系有機-無機ペロブスカイト半導体 (CH3NH3PbI3) は、2009年に初めて太陽電池材料として報告された材料で印刷技術によって製造できるため、低価格化が期待される[11]。しかし鉛を使用するため、環境負荷が課題となっている。ペロブスカイト層は特に湿気に触れると分解しやすく、長期間の屋外使用により鉛が環境に流出するという致命的な欠陥を抱えている。

ペロブスカイトの光電現象を発見したチームの宮坂力としては、2024年時点で、鉛を使わないよりも「使用済みのペロブスカイト太陽電池を回収して鉛を取り出すシステムを社会として構築する方がよい」との立場である[12]。また、2026年に日本初の商用のフィルム型ペロブスカイト太陽電池である「SOLAFIL」を発売した積水化学工業としては、2025年時点で、「ペロブスカイト太陽電池を10000㎡集めて、鉛蓄電池1個分なんとか集まるぐらいなので、量的には微々たるもの」[13]なので、問題ないとする立場である。

環境負荷に対する研究も進んでおり、鉛の使用量が少ない製品や、接着剤のようなもので封止して水の侵入を防ぐ技術、鉛を全く使わない鉛フリーの製品が開発されている。

鉛フリーのものとしてはスズ系が有力視されている。2025年現在、スズ系の変換効率は10〜17パーセント程度と、鉛系の5割以下の性能にとどまる[14]。スズ系ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けての技術開発を進める京都大学の若宮淳志らは、2030年頃の実用化を目指している。

日本における取り組み

世界で開発中のペロブスカイト型太陽電池は軽量で柔軟性があるため、これまで太陽光発電に欠かせなかった広い敷地の確保以外にオフィスビルの壁や曲面など、これまで設置が難しかったところにも使用できる[15]。従来型のシリコン系太陽電池はコスト競争に敗れてほとんどの国内メーカーが撤退したが、ペロブスカイトの主原料となるヨウ素は日本の生産量が世界2位で日本企業のビジネスチャンスにもなり、自治体(東京都や神奈川県、福岡県など)でも設置費用補助制度の整備を進めている[16]。

国家プロジェクト採択

日本の経済産業省(NEDO)はペロブスカイト型を次世代太陽電池の本命と位置付けており、2030年度までに1 kWh14円以下の発電コストを達成する目標を掲げている。

総額2兆円のグリーンイノベーション基金事業(2021年度スタート[17])でも最大498億円を充てる予定(2024年度スタート[18][注釈 1])。

東京都では、普及拡大に向けた取り組みの一環として「Airソーラー」[注釈 2]と命名している[19]。

実用化

エイチ・アイ・エス(HIS)が出資するポーランドのスタートアップ企業「サウレ・テクノロジーズ」によって2021年9月に世界で始めて量産され、電子棚札向けにポーランド国内のコンビニなどに出荷。日本国内でも2024年12月より東京都豊島区にあるコンビニエンスストア「グリーンローソン」で実証実験が行われた[20]。イギリスや中国の企業も2022年に量産を始める予定で、安く設置場所を選ばないため、普及すれば世界の再生可能エネルギーの割合が高まる可能性がある[21]。

また、スマートテキスタイルへの応用も進められており、2025年日本国際博覧会ではスタッフジャンパーとしてペロブスカイト太陽電池を搭載した発電服の実証実験が実施されている[22][23]。

日本では積水化学工業がシャープ堺工場(堺市)の一部を取得し、2027年に100MWの製造ライン稼働を目指した設備投資を進めている。2030年までにGW級の製造ライン構築を計画する[24]。経済産業省は2024年11月に「次世代型太陽電池戦略」を公表し、2040年までにペロブスカイト太陽電池を20GWの規模まで普及させる目標を掲げた[25]。

東芝による開発

2021年9月、東芝はフィルム型のペロブスカイト太陽電池で独自の成膜技術を開発し、フィルム型では世界最高のエネルギー変換効率15.1 %を達成した。広く普及しているシリコン型太陽電池並みの変換効率を実現している。東芝は2025年までに、変換効率が20 %以上、受光部の面積9平方メートルの実用化に向けて開発を進めており、発電コストは1 kWh20円以下を目指す。

東芝のフィルム型のペロブスカイト太陽電池は、ヨウ化鉛とヨウ化メチルアンモニウムを混ぜた独自のインクと製造装置で、均一な膜を形成する。インクを塗る速度も、量産化に必要とされる毎分6 mを確保した。この研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「太陽光発電主力電源化推進技術開発」の一環で「第82回応用物理学会秋季学術講演会」で発表された。

宇宙事業での利用

宇宙空間では太陽光発電が唯一無二の日照中の実用的なエネルギー源であり、ほとんどの宇宙機に太陽電池が搭載されているが、ペロブスカイト型は太陽電池の最大の劣化要因である放射線に対し極めて高い耐性を有している[26]。一般的な探査機や人工衛星は3接合型化合物太陽電池(以降、3接合型)を使用しているが、こちらは変換効率が約30 %と高くペロブスカイト型を上回っている[26]。しかし3接合型よりペロブスカイト型がコスト面と放射能耐久性において上回っている。今後、研究開発が進み、高い変換効率と熱や光に対する耐久性を有し、高い放射線耐性を兼ね備えた低コストのフレキシブルペロブスカイト型が開発できれば、より過酷な環境下でも探査できると考えられている[27]。

課題点

現在実用レベルに達しているペロブスカイト太陽電池の半導体層は、鉛(Pb)を含む化合物であり(例: CH3NH3PbI3)、鉛特有の毒性をさけることができない。事実、RoHS (特定有害物質使用制限指令)によって規制対象となっている[28]。溶解度積定数(solubility product)KSPは、10−8オーダーである[29]。この値は、かつて太陽電池材料として検討されたCdTeというカドミウムという有害物質を含む化合物半導体のKsp 値(9.5× 10−35)[30]よりはるかに高い。このことは、分解性が高いことを示唆するものである。

従って、バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)という観点に立てば、課題を抱えている。

加えてヨウ素などの原材料は、紫外線などの外部環境により劣化しやすい耐久性の難点も持つ。

脚注

関連項目

外部リンク

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