マンガワン問題

小学館の漫画アプリ不祥事 From Wikipedia, the free encyclopedia

マンガワン問題(マンガワンもんだい)[1][2]は、2026年2月24日に発覚した、小学館が運営する漫画アプリ「マンガワン」をめぐる一連の不祥事である。小学館マンガワン問題とも呼ばれる[3]

児童に対する性犯罪により逮捕・罰金刑を受けた漫画家を別名義で新連載の原作者として再起用していたこと、さらに担当編集者が被害者との示談交渉に関与し口止めを図っていた疑惑が明るみに出た。この問題を契機に、ONE高橋留美子をはじめとする多数の漫画家がマンガワンからの作品引き上げを表明した。

第1の事案:常人仮面

加害者の経歴

山本章一(やまもと しょういち)は、北海道の私立高等学校通信制課程)でデッサン非常勤講師を務めるかたわら、漫画家として活動していた[4]。2015年よりマンガワンにおいて漫画『堕天作戦』(だてんさくせん)の連載を開始した[5]

性加害の発生

2016年頃、山本は勤務先の高校において、当時15歳の女子生徒(以下「A」)に対し、漫画に関する助言や自動車での送迎を通じて接近した[6]。山本はAに対するグルーミングを経て性的加害行為に及び、この加害は約3年間にわたって継続した[7]。被害はAの卒業後も続いたとされる[6]。Aは解離性障害および心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症し、進学した大学への通学が不可能となり退学に至った[6]

逮捕と略式命令(2020年)

2020年2月、山本は児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)の容疑で逮捕され、略式起訴を経て罰金30万円の略式命令を受けた[8]。これを受け、マンガワン編集部は連載中の『堕天作戦』を休載としたが、公式には「作者の体調不良」を理由としていた[9]。『堕天作戦』は2022年10月にマンガワンでの連載を終了したが、終了理由は「私的なトラブル」とのみ説明された[5]

編集者による示談関与(2021年)

2021年5月頃、Aと山本の間で和解に向けた協議が行われた際、マンガワン編集部の担当編集者がLINEグループに参加する形で交渉に関与した[4][6]。この編集者は公正証書の作成を提案し、その内容には以下の条件が含まれていたとされる[6][7]

  • 山本が証書作成後1営業日以内に示談金150万円を支払うこと
  • Aが漫画連載の再開に対する中止要求を撤回すること
  • Aが本件について口外しないこと(守秘義務)
  • 今後の相互接触の禁止

A側はこの条件に対し、連載を再開するのであれば休載理由が逮捕に起因するものであることを公表するよう求めたが、山本側はこれを拒否した[7]。交渉は決裂し、Aは民事訴訟に踏み切ることとなった[6]

別名義での新連載開始(2022年)

2022年、マンガワン編集部は山本に「一路一」(いちろ はじめ)という新たなペンネームを用い、鶴吉繪理の作画による新連載『常人仮面』(じょうじんかめん)の原作者として起用した[10]。この時点で山本に対する民事訴訟はすでに提起されていた(2022年7月)[5]

札幌地裁判決(2026年2月20日)

2026年2月20日札幌地方裁判所(守山修生裁判長)は、Aが山本および学校側に対して提起した損害賠償請求訴訟において、山本に対し1,100万円の支払いを命じる判決を言い渡した[4][6]。裁判所は、山本がAの自尊心の低さに付け込んで支配的な関係を構築し、Aの意思に反する性的行為に及んだことを違法と認定した[11]。なお、学校側に対する請求は棄却された[7]

SNSでの告発と発覚

判決後の2月24日頃、X上で、同訴訟の被告が『堕天作戦』の作者・山本章一であるとする告発投稿がなされた[5]。この投稿は急速に拡散し、『常人仮面』の原作者「一路一」が山本と同一人物であること、編集者が示談交渉に関与していた疑惑が広く知られるところとなった[5]

第2の事案:星霜の心理士

加害者の経歴と犯罪

マツキタツヤは、2018年1月から集英社[注釈 1]週刊少年ジャンプで連載されていた、漫画『アクタージュ act-age』(作画:宇佐崎しろ)の原作を担当していた[13]

2020年8月8日、マツキは、路上で歩いていた女子中学生に対し後ろから自転車で近づき体を触ったとする、強制わいせつの疑いで警視庁に逮捕された[14]。これを受け、週刊少年ジャンプ編集部は『アクタージュ act-age』の連載打ち切りを発表。新刊の発売を中止し、既刊を無期限の出荷停止し、電子版の順次配信停止を行った[15][16][17]。同年12月、東京地裁はマツキに、懲役1年6か月、執行猶予3年の判決を言い渡した。赤松亨太裁判官は判決理由で「非のない被害者を理不尽にもストレスのはけ口にした」「年少の被害者が突然被害に遭って精神的な衝撃を受けており、犯行の影響は大きい」と述べた。一方で、マツキが医療機関を受診して再犯防止に努めていることなどを考慮し、執行猶予付き判決が相当だとした[18][19]

マンガワンでの起用経緯

2024年8月29日にマンガワンの編集者がマツキタツヤ氏名義のXアカウントに面会を打診。同年8月30日、マツキから小説投稿サイトで『星霜の心理士』の原案となる小説『勇者一行の心理カウンセラー』を執筆していることがメールで共有された[19]

同年9月6日、当時の編集長である和田裕樹の了承のもと、都内でマツキと初対面した。編集者はマツキから被害者への贖罪の感情、事件に対する後悔と反省、執行猶予期間満了までの生活や内面の変化について聞き取りを行った。この時点から、マツキは旧ペンネームでの活動が被害者に二次加害をもたらすことを懸念し、新たなペンネームでの執筆活動を希望した。打ち合わせ内容は編集長に報告され、その承認を得てマンガワンでの掲載に向けたやりとりが開始された[19]

マンガワン編集部は、マツキが事件後に心理カウンセリングを受けたこと、裁判の判決及び社会的制裁を深く受け止め、更生のために心理士との面談を重ね、過去の反省と自己内省を繰り返した経験が本作執筆の動機ともなっていること、マツキの担当心理士がマツキの心的療養、更生が十分になされていると判断したこと、これらのことからマツキが社会復帰を目指すことを否定すべきではないと判断した[19]

「八ツ波樹」という新たなペンネームが採用され、この事実を把握していたのは編集部内のごく一部に限られた[19]。作画担当の雪平薫にはリスクの説明が行われていたとされる[20]。この点は、『常人仮面』の作画担当・鶴吉繪理に一切の説明がなかったケースとは異なる。

小学館の対応

マンガワン編集部の声明(2月27日)

[21]2026年2月27日、マンガワン編集部はアプリ内および公式サイトにおいて「『常人仮面』配信停止に関するご説明とお詫び」と題する声明を発表した[10][22]。声明では、一路一が山本章一と同一人物であることを認め、「起用判断および確認体制に重大な瑕疵があった」「本来であれば原作者として起用すべきではなかった」と明記した[10]。『常人仮面』の配信停止および単行本の出荷停止を発表するとともに、被害者および関係者に対する謝罪を行った[10]

和解協議への編集者の関与については、「編集部が組織として関与する意図はなかった」としつつ、「当事者双方からの求めに応じる形で編集者がメッセンジャーアプリのグループに参加したことがあった」と認め、「不適切な対応であった」とした[10]

調査委員会の設置(2月28日)

小学館は2月28日付で、弁護士を加えた調査委員会の設置を発表した[10]。連載開始の経緯、編集者の和解協議への関与等について事実関係および原因を解明し、調査内容の報告、厳正な処分、再発防止策の策定・履行を行う方針を示した[10]

週刊文春報道への反論声明(3月4日)

3月4日、小学館は「週刊文春」2026年3月12日号(3月5日発売)の記事「被害女性が全告白『私は性加害漫画家と小学館を許せない』」[21]に対する見解を公式サイトで公表した[23]

声明において小学館は、自社が把握する事実関係として以下の3点を示した。

  • 2020年2月の山本の逮捕を把握した時点で「会社として連載中止を指示した」こと
  • 2021年の和解協議について、担当編集者より法務室に相談があったが、小学館は当事者ではないため「弁護士への委任を山本氏に促すよう指示」したこと
  • 2022年に開始された別名義での連載再開については、2026年2月25日にマンガワン編集部からの報告を受けて「会社として初めて確認した」こと

小学館はこの声明において「この和解協議について、会社ぐるみで関与したとの認識はございません」と表明した。ただし、被害女性の証言では担当編集者が示談の場で「法務部にも共有されている」「社長室が決める」と伝えたとされており[21]、小学館の声明が「社長室」への言及を一切含まなかった点が注目された。また、事実の否定ではなく「関与したとの認識はございません」という主観的認識の否定にとどめた表現についても、SNS上では「トカゲの尻尾切り」「責任逃れ」との批判が相次いだ[24]

取締役による原告への直接謝罪(3月5日)

週刊文春の紙版が発売された3月5日、小学館の取締役らが原告代理人弁護士の事務所を訪問し、電話を通じて原告に対し、これまでの対応について直接謝罪を行った。この事実は3月8日に原告代理人が公表した声明で初めて明らかになった[25]。小学館の取締役による謝罪は、一連の声明が全てウェブサイト上の文書のみであったのに対し、初めて経営層が直接被害者と対話した機会となった。

謝罪と人権尊重への取り組み表明(3月9日)

3月9日、小学館は「被害に遭われた方への謝罪と、人権尊重のための小学館の取り組みについて」と題する声明を公式サイトで公表した[26]

声明では、3月5日に取締役らが原告代理人弁護士の事務所を訪問し、電話を通じて被害女性に謝罪を行ったことを小学館側からも公式に確認した。謝罪の内容として、山本を別のペンネームで再起用したことが「女性の人権を蔑ろにした行為」であったこと、「会社としての管理監督責任を痛切に感じている」ことを挙げた[26]。3月4日の声明では「会社ぐるみで関与したとの認識はございません」と組織的関与を否定していたのに対し、本声明では管理監督責任を明確に認める表現へと転換した。

また、原告代理人弁護士から被害女性が「次なる被害者を生み出してはいけない」と強く願っていると伝えられたことに言及し、「女性の切なる思いに寄り添う」姿勢を示した[26]

今後の具体的な取り組みとして、以下の3点を決定済みであると発表した[26]

  • 第三者委員会の設置
  • 人権ポリシーの策定と公表
  • 社内での人権セミナーの実施

人権ポリシーの策定と人権セミナーの実施は、本声明で初めて言及された施策であった。ただし、第三者委員会の具体的な構成や委員名、担当編集者および歴代編集長に対する処分、購入済みコンテンツの返金方針については、本声明においても言及されなかった。

マンガワン連載作家向け説明会(3月16日)

3月16日、小学館はマンガワンオリジナル連載作家を対象とした説明会を開催した[27]。説明会にはマンガワン編集部のほか各レーベルの編集長が出席し、作家側も80名以上が参加した[27]。参加者によれば、説明会は編集部が今後の体制改革について方針を示す「所信表明」の性格が強く、作家側からは厳しい意見も出されたという[27]

具体的な改革案として、作家の犯罪歴は個人情報にあたるため出版社が直接取得することはできないものの、出版社側が定めるコンプライアンス基準への同意を起用の条件とする方針が示された[27]。糸川は、ペンネームの使用により作家が容易に別名義で活動を再開できる漫画業界の構造的問題を指摘した上で、この方針は小学館にとどまらず業界全体、特に大手出版社から追従していくことになるとの見方を示した[27]

なお、同説明会についてはSNSでの発信に制限は設けられず[27]、小学館としてもマンガワンからの公式声明を改めて発表する予定であるとされた[27]

第三者委員会の正式設置

3月19日、小学館は臨時取締役会において第三者委員会の設置を正式に決議したと発表した[28]。3月2日に設置方針を公表してから17日後の正式決定となった。

委員長には元大阪高等検察庁検事長の伊丹俊彦弁護士(WIN法律事務所)が就任し、委員として長島・大野・常松法律事務所の福原あゆみ弁護士および辺誠祐弁護士が選任された[28]

第三者委員会への調査委嘱事項は以下の4点とされた[28]

  1. 本事案に関する事実関係の解明
  2. 本事案に類似する役員・従業員が関与する問題事象の有無の確認(後述の2018年の従業員による問題行為を含むが、これに限らない)
  3. 本事案が発生した原因の分析と再発防止に向けた提言
  4. その他第三者委員会が必要と認めた事項に関する調査

調査範囲について、マンガワンの原作者起用問題にとどまらず「類似する問題事象の有無」を包括的に含む点が注目された。小学館は調査結果について、関係者のプライバシー権等の侵害にならない範囲で公表し、必要な対策を講じていく予定であるとした[28]

人権方針の策定

同日、小学館は「小学館 人権方針」を策定・公表した[29]。同方針は全役員・従業員に適用されるほか、ビジネスパートナーやサプライヤーにも主旨の理解と人権尊重への協働を求める内容となっている[29]。重要な人権課題として、児童・青少年の権利の保護、性暴力・性加害の防止、女性の権利の尊重、あらゆる差別の禁止、ハラスメントの根絶、プライバシーと表現の自由の尊重が列挙された[29]。3月9日の声明で予告されていた人権ポリシー策定が実行された形である。

別の従業員性加害事案の公表

また同日、小学館は「週刊文春」2026年3月19日号(3月12日発売)で報じられた別の性加害事案についても声明を発表した[30]。声明によれば、2018年に小学館の従業員が取引先の従業員に対し、取引関係上の優位性を利用して性的な行為を求め、その後も不謹慎な連絡を行っていた[30]。2020年に被害者から刑事告訴を受けたが不起訴処分となり、社内で処分を実施。その後2025年に同一従業員による別の不適切行為が発覚し、本人が責任を認めて退職したとしている[30]

小学館は文春報道のうち「写真集出版をバーターとしてトラブルを握り潰した」との記述については事実誤認であるとして抗議する一方、「一連の事案において、女性の尊厳と人権を尊重する意識が欠如していたことを重く受け止め、組織としての責任を痛感しております」と述べ、この件も第三者委員会に報告する方針を示した[30]。マンガワン問題とは別の事案についても第三者委員会の調査対象に含める姿勢を示したことで、調査が小学館の組織文化全体に及ぶ可能性が明確となった。

漫画家・業界関係者の反応

作画担当・鶴吉繪理

『常人仮面』の作画を担当していた鶴吉繪理は、自身のXアカウントにて声明を発表し、山本の性加害について「事前に何も知らされておらず、報道やSNSを通じて初めて知った」と説明した[5]。被害者への謝罪とともに「現実世界で人を傷つける行為はあってはならない」との立場を表明した[11]

作品引き上げ・連載停止を表明した主な漫画家

さらに見る 漫画家, 代表作 ...
漫画家代表作対応
ONEワンパンマン』『モブサイコ100「未成年への性加害を明確に強く非難できない人たちとは組めない」と投稿。作画担当の村田雄介もこれをリポストした[31]
高橋留美子犬夜叉』『らんま1/2』『うる星やつらマンガワンから全作品を引き上げた[32]
大童澄瞳映像研には手を出すな!マンガワンでの連載更新を即時停止し、「大幅な改善がなされるまで小学館と仕事をしない」と表明[32]
田村隆平COSMOS担当編集にマンガワンでの連載停止の意向を伝達[31]
麻生羽呂ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜マンガワンからの作品撤去を要請[31]
江野朱美『アフターゴッド』関与した編集者への処分まで連載を休止すると表明[7][注釈 2]
松木いっか日本三國マンガワンからの撤退を表明[11]
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このほか、泉朝樹(『見える子ちゃん』)、雷句誠(『金色のガッシュ!!』)、たかしげ宙(『スプリガン』)、鍋倉夫(『路傍のフジイ』)、七尾ナナキ(『Helck』)など多数の漫画家が編集部の対応への批判を表明した[32]

森川ジョージ

3月11日、漫画家・漫画家協会常務理事の森川ジョージは自身のXアカウントにおいて、原告の代理人弁護士である小竹広子・河邉優子(東京共同法律事務所)と3月9日に話し合いを行ったことを公表し、両弁護士の許可を得た上でメールの全文を転載した[34]。 公開されたメールによれば、弁護士側は森川からの支援の申し出を受け、依頼者である被害女性と協議した上で「教員による性被害事件の被害者を支える会」の設立構想を明らかにした[34]。同会は今回の被害者のみならず、同じ加害者による他の被害者や、教員から性被害を受けた若年者全般を支援対象とし、寄付金は控訴審の裁判費用(印紙代・弁護士費用・鑑定費用等)や、被害者が心身の回復後に学び直しを行う場合の学費などに充てるとしている[34]。小竹弁護士は「経済的な事情で訴訟等をあきらめなければならない方も多々おられます」と述べ、性被害訴訟における経済的障壁の存在を指摘した[34]。 この動きは、漫画家が配信停止や声明といった抗議にとどまらず、被害者の法的支援に直接関与した事例として注目された。

アニメーターによる私見

アニメーターのげそいくおこと奥居久明氏は、3月3日から4日にかけて、自身のXアカウントにおいて、 

“しかし漫画家に清廉潔白神聖でクリアな存在で居て欲しいなんて、世の中変わったなぁ 良くない方向に[35]

“ルールの話すると、わざわざ公表する義務はないってところと犯罪は当時の刑事裁判で罰は既に負精算済み。現在の民事は警察不介入で個人の賠償の問題であって犯罪の問題ではない[36]

と持論を展開、騒動に対して物申した。

専門家による評価

漫画家たちの集団的な抗議行動について、「ビジネスと人権」を専門とする蔵元左近弁護士(蔵元国際法律事務所、ビジネスと人権対話救済機構〈JaCER〉共同代表理事)は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、フジテレビや旧ジャニーズ事務所の問題でスポンサー企業がCM放送を停止した状況と重なる動きであると指摘した[37]

蔵元弁護士は、フジテレビ問題との相違点として、大企業ではなく個人事業主であるクリエイター自身が声を上げた点を挙げた。また、非上場企業である小学館は株式市場からの直接的な圧力を受けにくい構造にあるため、漫画家自身が重要なステークホルダーとしての役割を果たしていると分析した[37]

ビジネスと人権の原則に照らすと、問題のある取引先との関係を直ちに完全に断つことが必ずしも適切とは限らず、関係を断ち切ると相手企業に対して行使できる影響力まで失われるため、取引終了は企業の姿勢を見極めたうえでの最終手段であるべきだと蔵元弁護士は述べた。実際に多くの漫画家は、小学館との関係を完全に断つのではなく、マンガワンでの配信を一時的に停止しつつ早期の対応を求めるプレッシャーをかける手法を採っていた[37]

さらに蔵元弁護士は、読者と作者が共に高い人権意識を持ち、人権を優先した漫画家の行動を読者が支持する構図について「非常に健全な関係性」と評価した。日本でもステークホルダーが問題のある企業に働きかけることが一般的になりつつあるとの認識を示した[37]

蔵元弁護士は別の記事において、第三者委員会には個別事案の解明にとどまらず、メディア企業である小学館の構造的な問題を分析する役割が期待されるとも指摘している[38]

日本漫画家協会の声明

2月28日日本漫画家協会は公式声明を発表し、「漫画家の性加害および出版社の対応に関する懸念が生じている」との認識を示した[39]。事実関係の全容は未解明としつつも「漫画業界全体の信頼に関わる重要な問題」と位置づけ、出版社に対して被害者の尊厳と安全に配慮した透明性のある調査と、結果および再発防止策の公表を求めた[39]。また、今後の連載や契約に不安を感じる漫画家への適切な配慮も求めた[39]

第三者委員会の調査報告を受け、寄稿を取り止めた作家

8月18日、歌人と小説家・川野芽生は、『GOAT meets』(小学館)に寄稿予定だったものの、マンガワンの性加害問題への対応について編集長と話し合ったのち、寄稿を取り止めることに決めた[40]

セクシー田中さん事件との関連

当問題は、2024年に発覚した「セクシー田中さん事件」(原作者・芦原妃名子の死去をめぐる小学館の対応が問題視された事案)に続く形で、小学館の企業体質に対する批判を再燃させた[6]SNS上では「小学館体質」という表現が再び用いられ、漫画家の権利軽視や問題発生時の隠蔽体質が構造的な問題であるとの指摘がなされた[6]

問題に対する論評

この問題について、中居正広・フジテレビ問題と同様かそれ以上の問題であり、スポンサーが降板する可能性を指摘する論評が複数存在する[41][42]

3月7日、産経新聞は、変名での起用は事件や問題の隠蔽行為と映ると指摘し、徹底調査と再発防止を求める社説を掲載した[43]

危機管理の専門家からも小学館の一連の対応に対する批判が寄せられた。東北大学の長沼史宏特任准教授は、マンガワン編集部名義(2月27日)と小学館名義(2月28日)の謝罪声明の足並みが揃わなかった点を指摘し、「当初から全社を挙げて対応すべきだった」と述べた[44]。また、松谷創一郎は小学館の対応が「一貫して後手に回ってきた」と指摘し、第三者委員会への移行も『週刊文春』の先行取材が背景にあったとみられ「自発的な開示とは言いがたい」と分析した[45]

イベントへの影響

当問題の影響は、小学館主催のイベントにとどまらず、他社が関与する放送・動画コンテンツにも波及した。

イベントの中止・延期

2026年3月3日に開催される予定だった『Oggi』発のライブイベント、「Oggi Live」が小学館の都合によって開催が中止となった[46]。同じく3月3日に予定されていた「第71回小学館漫画賞贈賞式」も延期となった[47]

3月4日には、大阪で3月5日から9日にかけて開催予定だった「『BLACK LAGOON』〜弾丸の軌跡〜メタルキャンバスアート展」の延期が発表された。主催のGAAAT運営事務局は「権利元である小学館の諸般のご事情により、開催を延期させていただく運びとなりました」と説明し、振替日程は未定とした[48]

放送・動画コンテンツへの波及

影響は小学館の外部にも及んだ。BSテレ東は2月26日、当日夜に放送予定だった番組「漫画クリスタル」の放送を急遽延期した。同番組にはマンガワンの編集者が出演する予定であった。BSテレ東は理由を「番組制作上の都合」と説明した[49]

2月27日には、マンガワン編集部の公式YouTubeチャンネル「ウラ漫 ー漫画の裏側密着ー」(登録者約15万3000人)が全動画を非公開とした。動画制作を担当していたSync Creative Managementの行澤風人代表は自身のXにおいて「被害に遭われた方の心情を最優先に考え」た判断であると説明し、配信再開の予定はないとした[49]

同日、書店チェーン有隣堂が運営するYouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」も、マンガワン編集部を取り上げた動画を非公開にした。有隣堂は「当該動画出演者の所属する編集部に関する報道および状況を踏まえ、社内で検討した」と説明した[49]

3月2日には、講談社週刊ヤングマガジン公式YouTubeチャンネル「ヤンマガ日常ch」が、マンガワンの編集者が出演した回の公開を中止した。今後の運用については「状況を注視しながら適切に対応」するとした[49]。講談社は小学館とは別の出版社であり、当問題の影響が同業他社にまで波及した事例として注目された。

教育機関への波及

2026年3月5日、京都精華大学マンガ学部は教授会において、小学館との連携活動を一時的に停止することを決定した[50]。同学部では小学館の編集者を招いた作品の講評会や授業などの連携活動を行っていたが、いずれも取り止めとなった。京都精華大学は「マンガ学部として社会的責任、教育的配慮の観点から慎重な対応が必要と判断した」と説明し、第三者委員会の調査結果や再発防止策を確認した上で再開の可否を協議するとした。

海外の反応

この問題は英語圏をはじめとする海外メディアでも広く報じられた。Anime Corner[7]ComicBook.com[31]Yahoo!ニュースMalay Mail英語版配信)[11]、ORICON NEWS英語版(Japan Anime News)[51]などが事件の経緯を詳報した。ONE高橋留美子といった世界的に知名度の高い漫画家による抗議行動が特に注目を集め、英語圏のアニメ・マンガファンコミュニティでも活発な議論が行われた[32]

事件の拡大に伴い、報道は主要英字メディアや専門メディアにも波及した。ジャパンタイムズは3月3日、小学館が性犯罪で有罪判決を受けた2名の漫画原作者を起用していた問題について第三者委員会を設置すると報じた[52]。Tokyo Weekenderは高橋留美子が公式声明を出さずに作品を引き上げた行動を「行動による意思表示」として注目し、ONEが「未成年者への性加害を明確に非難する立場を示せない人たちとはチームを組めない」と発言したことを伝えた[53]

米国のコミック業界メディアComics Beatは、作画担当の鶴吉繪理が山本と直接会ったのは一度だけで、それ以外の連絡はすべて1人の人物を介して行われていたことなど、編集部内部の情報隔離の実態を報じた[54]。Screen Rantは、担当編集者が被害者の沈黙と引き換えに示談に持ち込もうとしたとする疑惑に焦点を当て、ONEの声明が『ワンパンマン』の作画担当・村田雄介にリツイートされたことも伝えた[55]

Popverseは、小学館がVIZ Mediaの親会社であることに触れ、英語圏の漫画市場への影響を指摘した。同記事は和月伸宏(『るろうに剣心』)の児童ポルノ所持事件とも比較し、「ペンネームで正体を隠すことは、読者が自らの倫理に従って消費を選択する権利を奪う行為である」と論じた[56]。Aftermathは漫画家たちの集団的な抗議行動について、「組織的で、力強く、小学館がうやむやにすることが不可能な」ものであり、「真の説明責任に向けた最初の一歩」と評価した[57]

サウスチャイナ・モーニング・ポストは3月6日頃、「Japan's manga industry faces a '#MeToo moment' after Shogakukan scandal」と題した記事を掲載し、本事件を日本の漫画業界における「#MeToo」運動として位置づけた[58]。これにより、海外における報道の枠組みは個別の不祥事報道から、漫画業界の構造的問題に対する運動として格上げされる傾向が見られた。

また複数の英語圏メディアは、西洋の出版社やプラットフォームが日本のタイトルをライセンスする際のデューデリジェンス(適正評価)の不十分さを問題提起し、クリエイターの身元確認に関する国際的な基準の必要性を論じた[59]。本事件は、ハリウッドや欧米コミック業界における#MeTooの動きと比較され、「クリエイティブ産業に免疫を持つ業界は存在しない」との指摘がなされた。

業界構造への批判

3月10日、ジャパンタイムズは「How did publishing giant Shogakukan end up in hot water?」と題した解説記事を掲載し、2月27日の発覚から3月9日の謝罪声明に至る経緯を詳報した[60]。同紙はこれに先立つ3月3日にも第三者委員会設置を速報しており[61]、日本の英字メディアとして継続的に本件を追っている。

3月14日、アメリカのエンターテインメントメディアThe A.V. Club英語版は「A recent sex crime scandal could (and should) cause true reform in the manga industry」と題した記事を掲載[62]。同記事は山本章一・マツキタツヤ両ケースの経緯と相違点を詳細に整理した上で、著名出版社が性犯罪で有罪判決を受けた作家を繰り返し別名義で起用してきたことを「業界に長年存在する不正義」(a longstanding manga industry injustice)と位置づけ、個別事件を超えた漫画業界全体の構造改革の必要性を論じた[62]

Unseen Japanは、3月8日の被害者メッセージ、赤松健参院議員の3つの提案、日本漫画家協会の声明などを含む包括的な記事を掲載[63]。同記事は小学館が2020年の逮捕から2026年の発覚まで6年間にわたり事態を認識しながら対処しなかったことを指摘し、「被害者の福祉よりもビジネスを優先する選択をした」と批判した。

3月18日、フェミニズムの観点からアニメ・漫画を論じる英語メディア「Anime Feminist」は、3月11日から17日の週間まとめにおいて本件を取り上げた[64]。同記事はUnseen Japanの報道を引用し、小学館が2020年の逮捕を把握しながら2022年に示談未成立のまま別名義での連載を開始したことについて「連載の継続を被害者よりも優先したように映る」との指摘を紹介しており、英語圏のフェミニズム系メディアにも問題が波及したことを示した。

原告からのメッセージ(3月8日)

3月8日、原告代理人弁護士(小竹広子弁護士・河邉優子弁護士)を通じて、原告本人によるメッセージが東京共同法律事務所のウェブサイト上で公表された[25]

原告はメッセージにおいて、週刊文春の記事タイトル「私は性加害漫画家と小学館を許せない」について、「私はこのタイトルがつけられることを事前に知りませんでした。私が文春の記者さんにお話したのは『やるせないです』という言葉であり、『小学館を許せない』という発言はしていません」と明確に訂正した。

また、示談交渉の際に編集者に対して求めていたのは「連載を再開する際には読者の方々の為にも体調不良や療養など虚偽の理由を述べずに休載期間について事実に基づいた説明をしてもらいたい」という透明性の確保であったと説明。さらに「前科がある人であっても、絵を描いたりストーリーを考えたりすることはしても良いと思いますし、そういう人に発表の場を与えることも、一概に悪い事だとは考えていません」と述べ、加害者の創作活動そのものを全面的に否定する立場ではないことを表明した。

原告は、3月5日の小学館取締役による謝罪について「終始、穏やかにお話することができました」と述べ、小学館からは再発防止の約束を受けたと説明した。その上で、「これ以上、小学館への批判がインターネット上で炎上することは、望んでおりません」とし、文春に対する批判についても同様に望んでいないと表明した。原告は、漫画家の作品を小学館から引き揚げてほしいとは思っておらず、マンガワンをなくしてほしいとも考えていないこと、自身も小学館の漫画のファンであることを明かした。

原告が最も望むこととして挙げたのは、「加害教員からの被害の実相を広く知っていただき、こんなことが起きないよう、社会全体で子どもを性被害から護る仕組みをつくっていただくこと」であった。

複数被害者の存在と控訴審

同日の原告代理人弁護士からの補足において、「同じ加害教員から性的被害を受けていたのは、原告だけではなく、原告より上の学年にも複数の被害者がいたという情報が寄せられています」と明らかにされた[25]

また、札幌地裁判決(2026年2月20日付)については、学校法人恭敬学園の使用者責任が認められなかったことから原告側が控訴し、加害教員側も控訴する予定であると報じられており[65]、判決は未確定の状態にある。

3月9日、北海道新聞は関係者への取材に基づき、原告の先輩に当たる別の元生徒が同じ男性講師から性被害を受けたと学校側に申し出ていたことを報じた[66]。同報道によれば、先輩女性は在学中に講師だった男性から車中でのわいせつ行為やホテルでの裸体撮影などの被害を受け、卒業後にPTSDのフラッシュバックに悩まされて精神科に通院し、学校に被害を相談したという[66]。学校側は男性から事情を聴取したものの、「今後の動向を注視する」として講師契約を継続し、その後、原告の性被害を巡る警察の捜査を把握した段階で、約15年間続いていた講師契約を2020年2月に打ち切った[66]。学校の運営法人は被害申告があった事実を認め、「被害を防げなかった道義的責任を感じている」としている[66]

なお、男性は原告が起こした民事訴訟において、先輩女性との性的行為があったこと自体は認めながらも、性被害を受けたとする女性の申告は「虚偽だ」と主張していた[66]

札幌地裁判決では学校法人に対する使用者責任の請求が棄却されていたが、原告・被告の双方が控訴しており[67]、学校側が別の被害申告を受けながら講師契約を継続していた経緯が控訴審の争点となる可能性がある。

第三者委員会調査報告書の公表

2026年8月3日、約4か月半にわたる事実関係の調査および原因分析を経て、全106ページの調査報告書が公表された[68]

第三者委は、同社が未成年への性加害で罰金刑を受けた男性漫画家を再起用し、別のペンネームで商業活動を継続させたことについて「人権侵害への加担と評価されてもやむを得ない」と結論づけた[69]

第三者委員会は社として人権問題を評価する体制が小学館には完全には整っていなかったことも指摘した[70]

経営責任

2026年8月4日、小学館は「社会的責任を十分に果たせなかった」として、相賀信宏社長ら26人が報酬の一部を自主返納すると発表した[71]

一方で、従業員(担当編集者)については「就業規則に基づき厳格な対応をとる」と説明するにとどめ。記者会見を開く予定はないとした[72]

マンガワン担当編集者による謝罪

2026年8月4日夜、マンガワン編集部の担当編集者がSNSを更新「判断や行動に重大な誤りがあった。被害に遭われた方に心よりおわび申し上げます」とする謝罪文を投稿した。

 一方、漫画家・山本章一が「一路一」という異なるペンネームを使ったことについては「そこまで考えずに通してしまった」と記し、隠蔽の意図を否定した[73]

再発防止に向けて

2026年8月4日、同月3日開催の取締役会において、人権に関する取り組みを推進するため、新たに「人権委員会」(委員長:専務取締役・花塚久美子)を設置することを決議したと発表した[74]

マスメディアの受け止め

8月19日、東京新聞は『小学館「マンガワン」報告書は疑問だらけ 性加害漫画家のペンネーム変更や再起用、誰が主導した?』という記事を掲載[75]

小学館における組織的な隠蔽(いんぺい)や問題の黙認、関係者間で責任を転嫁する実態が浮き彫りになったと指摘。

記者会見を開かず、担当編集者らの処分も非公表。 識者からは「調査したから幕引き、ということか」との厳しい批判が寄せられた。

また、東京新聞の取材に対して書面でしか受け付けられなかったことや、質問に対し「当社として第三者委員会の認定を超えてお答えすることは差し控えます」という回答が半数を占めていたことも明らかにした。

8月20日には、毎日新聞が『日本は「人権」がお嫌い?』というコラムを掲載、マンガワン問題の他にフジテレビ問題とも絡め、日本人特有の人権侵害に対する感度の薄さに警鐘を鳴らした[76]

関連作品

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作品名作者/原作者作画連載期間掲載媒体備考
堕天作戦山本章一(同一人物)2015年 - 2022年10月マンガワン2020年の逮捕を受け休載、2022年に連載終了
常人仮面一路一(山本章一)鶴吉繪理2022年 - 2026年2月マンガワン2026年2月、配信停止・出荷停止
アクタージュ act-ageマツキタツヤ宇佐崎しろ2018年 - 2020年8月週刊少年ジャンプ2020年の逮捕を受け連載終了
星霜の心理士八ツ波樹(マツキタツヤ)雪平薫2025年 -マンガワン2026年2月、更新を一時停止
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脚注

外部リンク

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