リポタンパク質

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リポタンパク質リポタンパクしつ: lipoproteinとは、血中の脂質の輸送を担う、脂質とタンパク質の複合粒子である。リポタンパク質はアポリポタンパク質コレステロールリン脂質を含む親水性の外殻が疎水性の脂質コア(コレステロールエステルと中性脂肪)を包む構造をもつ。 リポタンパク質は、古典的には比重(密度)によりカイロミクロン、VLDL、IDL、LDL、HDLの5種類の主要な分画に分けられる。 また、動脈硬化と関連の強い特殊なリポタンパク質としてLp(a)が知られている。 リポタンパク質の代謝異常は、脂質異常症、動脈硬化性疾患などの病態に関与している[1]

リポタンパク質の構造:外殻(アポリポタンパク質・コレステロール・リン脂質)と疎水性の脂質コア(コレステロールエステル・中性脂肪)から構成されている。

機能

リポタンパク質の主要な機能は、コレステロール中性脂肪などの脂質を血中(およびリンパ液中)で可溶化して輸送することである。 コレステロールは動物の生体膜の構成成分として生命に欠かせない機能を果たすほか、ステロイドホルモンや胆汁酸の合成に用いられる。 中性脂肪、すなわちトリアシルグリセロール(化学名)、トリグリセリド(トリグリセライド)は、高いエネルギー密度をもち、生体のエネルギー源およびエネルギーの貯蔵形態(脂肪組織)として重要である[1] [注 1]

副次的な機能としては、細菌の産生する内毒素(リポポリサッカライド)のような疎水性ないし両親媒性の有害物質を吸着して運び去る機能も指摘されている[2]

構造

コレステロールや中性脂肪のような疎水性の脂質を血漿や組織液中で輸送するために、リポタンパク質は親水性の外殻で疎水性の脂質コアを覆う形態をとっている。 外殻は、アポリポタンパク質、リン脂質、コレステロール(エステル化されていない遊離コレステロール)から成る。 脂質コアは、主に、中性脂肪とコレステロールエステル(遊離コレステロールより疎水性が強い)から成っている[1]

アポリポタンパク質には、①リポタンパク質の構造維持、②リポタンパク質受容体への結合(リガンド)、③脂質代謝酵素の補酵素ないし活性化・抑制の調整機能、などの機能がある[2]

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主要なアポリポタンパク質[2]
アポリポタンパク質概算分子量主な産生部位関連するリポタンパク質主要機能
Apo A-I28,000肝臓、小腸HDL、カイロミクロンHDLの主要構造アポリポタンパク質、LCATを活性化、ABCA1・スカベンジャー受容体BI英語版との相互作用に関与
Apo A-II17,000肝臓HDL、カイロミクロンHDLの構造アポリポタンパク質 、機能は不明[3]
Apo A-IV45,000小腸HDL、カイロミクロン不明
Apo A-V39,000肝臓VLDL、カイロミクロン、HDLLPLによる中性脂肪の加水分解を促進
Apo B-48241,000小腸カイロミクロンカイロミクロンの構造アポリポタンパク質(1粒子に1個)[注 2]
Apo B-100512,000肝臓VLDL、IDL、LDL、Lp(a)VLDL、IDL、LDL、Lp (a)の構造アポリポタンパク質(1粒子に1個)[注 3][4]、LDL受容体のリガンド
Apo C-I6,600肝臓カイロミクロン、VLDL、HDL (リポタンパク質間で移動)LCATを活性化、CETP抑制[5]
Apo C-II8,800肝臓カイロミクロン、VLDL、HDL(リポタンパク質間で移動)LPLの補因子(リポタンパク質中の中性脂肪の加水分解に必須)
Apo C-III8,800肝臓カイロミクロン、VLDL、HDL (リポタンパク質間で移動)LPLを抑制、中性脂肪の豊富なリポタンパク質の取り込みを抑制[注 4]
Apo E34,000肝臓・小腸カイロミクロン、VLDL、IDL、HDL (リポタンパク質間で移動)LDL受容体およびLDL受容体関連タンパク質1(LRP1)のリガンド[注 5]
Apo (a)250,000〜800,000肝臓Lp(a)  (Apo B-100にジスルフィド結合)生理機能は不明、プラスミノーゲンと競合して線溶系を抑制?
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表に示した数値は文献により異なることがある。

分類

リポタンパク質は、古典的には、比重超遠心法の分画により分類されている。 比重(密度)の小さい順に、 カイロミクロン(chylomicron、CM)、VLDL(very-low-density lipoprotein、超低比重リポタンパク質、超低密度リポタンパク質とも)、IDL(intermediate-density lipoprotein、中間比重リポタンパク質、または中間密度リポタンパク質 )、LDL(low-density lipoprotein、低比重リポタンパク質、または低密度リポタンパク質)、および、HDL(high-density lipoprotein、高比重リポタンパク質、または高密度リポタンパク質 )の5種類に大別されている。 一般に、比重が大きいほど粒子が小さくなり、アポリポタンパク質の割合が高く、逆に脂質の割合が低い。

さらに見る リポタンパク質, 直径(nm) ...
主要リポタンパク質とLp(a)の性状および成分の乾燥重量比率の例[6]
リポタンパク質直径(nm)概算分子量(MDa)密度(g/mL)中性脂肪コレステロールエステル遊離コレステロールリン脂質アポリポタンパク質主要なアポリポタンパク質
カイロミクロン75〜1,20050〜1,000〜0.9386 %3 %2 %7 %2 %A, B-48, C, E
VLDL30〜8010〜800.93〜1.00655 %12 %7 %18 %8 %B-100, C, E
IDL25〜355〜101.006〜1.01923 %29 %9 %19 %19 %B-100, C, E
LDL18〜252〜31.019〜1.0636 %42 %8 %22 %22 %B-100
Lp(a)25〜304〜51.040〜1.0908 %30 %8 %25 %29 %B-100, a
HDL5〜120.2〜0.41.063〜1.2104 %15 %5 %34 %42 %A, C, E
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表に示した数値は文献により異なることがある。
用語

リポタンパク質関連の英語、"― density lipoprotein"は、 比重超遠心法で比重により分画されたことから、日本では伝統的に「― 比重リポタンパク質」と訳されてきた[7]。 今でも、関連学会[7][8]、 標準的な医学教科書[9]は「比重」表記であり、 厚労省のICD10標準病名[10]・傷病名マスター[11]ではHDL欠乏症は「高比重リポ蛋白欠乏症」である。 しかし、「― 密度リポタンパク質」と訳される場合も少なくなく、本記事では併記とする。 なお、日本語に訳さずに、LDL、HDL等の略語のみを用いる場合も多い。

電気泳動法・HPLC法での分類

リポタンパク質電気泳動:ピークは右からα(HDLに対応)、プレβ(VLDLに対応)、β(LDLに対応)。

脂質異常症の型の鑑別や異常の全体像の把握にはリポタンパク質の分画が有用であるが、 超遠心法は高価で時間がかかるため、日常検査においては、 電気泳動法(アガロースゲル法、ポリアクリルアミドゲルディスク法)、HPLCなどによりリポタンパク質分画の検査が行われる。

アガロースゲル法では、リポタンパク質を主に荷電の差(アポリポタンパク質の種類などによる)により分析する。カイロミクロンは原点付近に残り、陽極に近い方からα(HDLに対応)、プレβ(VLDLに対応)、β(LDLに対応)の3つの分画が得られる。(IDLはβとプレβの間に対応するが分画として明確に観察されるとは限らない。) WHO分類のIII型高リポタンパク質血症(高脂血症)の診断には、アガロースゲル法によるブロードβ(レムナントリポタンパク質)の証明が有用である[9][12]。(レムナントリポタンパク質とは、中性脂肪の多いカイロミクロンやVLDLのようなリポタンパク質が部分的に中性脂肪を除去されて小さく高密度になったものである[13]。)

ポリアクリルアミドゲルディスク法では、主にリポタンパク質の陰性荷電と粒子サイズにより分析され、HDL、LDL、IDL、VLDL、その他(カイロミクロン)に相当する5つの分画が得られる。

HPLC法でもHDL、LDL、IDL、VLDL、カイロミクロンなどに相当する分画に分類可能である。

リポタンパク質の代謝経路

外因性代謝経路

外因性代謝経路は小腸から吸収した脂質の体内輸送に関与している[9][2][6]

① 小腸粘膜では吸収した脂質から大量の中性脂肪を含むカイロミクロンが合成される。カイロミクロンはアポB-48を主要アポリポタンパク質とし、中性脂肪を大量に含む巨大な粒子である。最初の段階ではアポB-48とアポA群を持っている。

② カイロミクロンは小腸粘膜からリンパ管に移送され胸管から大循環に入る。カイロミクロンは血中でHDLからアポC-II・アポC-III・アポEを受け取り成熟カイロミクロンとなる。

③ 血中のカイロミクロンはVLDL同様に毛細血管内皮表面のリポタンパク質リパーゼ(LPL)により中性脂肪が加水分解されて、より小さなカイロミクロンレムナントとなる。

④ カイロミクロンレムナントはアポEによりLDL受容体関連タンパク質1(LRP1)やLDL受容体に結合して肝細胞に取り込まれる。

内因性代謝経路

内因性代謝経路は肝臓で合成された脂質の体内輸送に関与している[9][2][6]

① 肝臓ではVLDLが合成・分泌される。VLDLはアポB-100を主要アポリポタンパク質とし、中性脂肪を多く含む大きな粒子である。VLDLは、HDLからアポC-II・アポC-III・アポEを受け取って成熟VLDLになる。

② VLDLは、カイロミクロンと同様に、毛細血管内皮細胞表面に結合しているリポタンパク質リパーゼ(LPL)により中性脂肪が加水分解されて、より小さなIDLとなる。この際、アポC-IIはLPLの活性化、アポC-IIIはLPLの阻害作用を発揮する。

③ IDLの一部は肝臓でLDL受容体(アポEおよびアポB-100)およびLDL受容体関連タンパク質1(アポE)を介して取り込まれる。 残りのIDLは肝性リパーゼにより中性脂肪が加水分解されて減少し、さらに小さなLDLとなる。

④ LDLはアポB-100を介して肝臓のLDL受容体に結合し血中から除去される。また、末梢組織の細胞もLDL受容体が発現しており、LDLを細胞内に取り込む。(酸化などの修飾を受けたLDLはマクロファージにスカベンジャー受容体経由で取り込まれる。)

コレステロール逆転送系

コレステロール逆転送系は末梢細胞のコレステロールを、肝臓(コレステロール合成の中心)に逆輸送(回収)する[9][2][6][14]

① ディスク状の未成熟HDLは肝臓および小腸で合成される。

② 未成熟HDLは血流にのって移動しながら末梢細胞の膜のコレステロールを除去し、LCAT(レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ)の作用でエステル化して内部に蓄えて、球状の成熟HDLになっていく。末梢細胞からコレステロールを除去する際の主要な輸送担体はABCA1であるが、成熟HDLへのコレステロールの輸送にはABCG1も関与する。

③ HDLに含まれるコレステロールエステルは、CETP(コレステロールエステル転送タンパク質)の作用でVLDL・IDL・LDLに中性脂肪と交換で取り込まれる。VLDL・IDL・LDLに移動したコレステロールは肝臓のLDL受容体を介して肝細胞に取り込まれるが、これは間接的なコレステロールの逆転送経路である。

④ 肝臓のスカベンジャー受容体BI英語版を介して、HDL中のコレステロールエステルが直接肝細胞に取り込まれる経路も存在する。

リポタンパク質代謝で重要な酵素・輸送タンパク質

LPL

リポタンパク質リパーゼ(lipoprotein lipase、LPL)は脂肪組織、心筋、骨格筋、乳腺などに発現しており、それらの組織の毛細血管内皮細胞表面に結合している。 カイロミクロンやVLDLの中性脂肪を加水分解して遊離脂肪酸を放出させる[9]

肝性リパーゼ

肝性リパーゼ(hepatic lipase、HL。別名:hepatic triglyceride lipase、 HTGL)は肝臓で合成され、肝臓の類洞内皮表面に存在している。 小粒子VLDL、IDLなどの中性脂肪・リン脂質を加水分解することによりLDL形成に関与する。 また、大粒子HDL(HDL2)の中性脂肪・リン脂質を加水分解してHDL3に変化させる。 肝性リパーゼ欠損症は稀であるが、IDLなどのVLDLレムナントが血中に蓄積する[9]

LCAT

レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(Lecithin-cholesterol acyltransferase、LCAT)は肝臓で産生され血漿中に存在する。 HDLに結合して遊離コレステロールをコレステロールエステルに変換し、HDL脂質コアに取り込む。 LCATの主な活性化因子はアポA-Iである。 LCAT欠損症では著明な低HDL-C血症がみられる[9][15]

CETP

コレステロールエステル転送タンパク質(cholesteryl ester transfer protein、 CETP)は血漿中に存在する。HDLと結合して、HDLからVLDL・IDL・LDLへコレステロールエステルを転送し、交換にVLDL・IDL・LDLの中性脂肪をHDLに取り込む。 CETP欠損症は高HDL-C血症をきたす。日本人にはCETPの欠損・変異が多く、日本人の高HDL-C血症の原因の一つと考えられている[9]

ABCA1・ABCG1

ATP結合カセット輸送体A1(ATP-binding cassette transporter A1、ABCA1)は末梢組織細胞の膜輸送体であり、末梢組織細胞のコレステロールをHDLに転送するのに主に関与する。コレステロール逆転送系で重要な役割を果たしており、 ABCA1の異常は低HDL-C血症を伴うタンジール病の原因となる[1]。なお、成熟HDLへのコレステロールの輸送には、ABCG1(ATP結合カセット輸送体G1)も関与する[16]

主要なリポタンパク質

以下、主要な5分画(カイロミクロン、VLDL、IDL、LDL、HDL)と、臨床的に重要な特殊なリポタンパク質Lp(a)について述べる。

カイロミクロン

脂質異常症の血液:カイロミクロンのために上清が白濁。
性状

カイロミクロンは最大(75〜1,200 nm)かつ最も低比重(0.94 g/mL未満)のリポタンパク質である。 80〜90 %程度が中性脂肪で構成されている[17][18][6]

主要アポリポタンパク質

生成時には構造アポリポタンパク質としてアポB-48を持つ。さらに、血中で、HDLからアポC-IIやアポEを受け取る。 なお、アポA-I、A-IIなどのアポA群もカイロミクロンに存在するが、カイロミクロン上での機能は十分には解明されていない[17]

機能

カイロミクロンの主要な機能は食事由来(外因性)の脂質(主に中性脂肪)の輸送である[17]

代謝

小腸で合成される。 腸管から吸収された脂質が腸管粘膜でカイロミクロンに再構成され、リンパ管を通り血中に入る。毛細血管内皮表面のリポタンパク質リパーゼ(LPL)により中性脂肪が加水分解され、生成した脂肪酸を末梢組織に供給する。最終的には、カイロミクロンレムナントとして、アポEを介して肝臓の受容体(LDL受容体関連タンパク質1やLDL受容体)で取り込まれる[17]

疾患との関係

高カイロミクロン血症は、リポタンパク質リパーゼ(LPL)の欠損症や、その補因子(アポC-II)などの異常により生じる。 高カイロミクロン血症は急性膵炎を合併することがある[19][20][17]

VLDL

性状

VLDL(very-low-density lipoprotein、超低比重/超低密度リポタンパク質)は、径30〜80 nmでカイロミクロンに次いで大きなリポタンパク質である。低密度(0.93〜1.006 g/mL)で中性脂肪が脂質コアの大部分を占めるリポタンパク質である[21][6]

主要アポリポタンパク質

VLDLの主要なアポリポタンパク質はアポB-100である。VLDLが肝臓で合成されて血中に放出された後、アポC-II、アポEを血中のHDLから獲得して成熟VLDLとなる。

機能

VLDLの主要な機能は肝臓で合成された(内因性)の中性脂肪の輸送である。VLDLは中性脂肪を末梢の脂肪組織、心筋・筋組織などに供給し、末梢組織ではそれをエネルギー源として蓄積または消費する[21]

代謝

VLDL合成は脂質の経口摂取に影響される。 VLDLのアポC-IIは、毛細血管内皮表面上のLPL(リポタンパク質リパーゼ)を活性化してVLDLの中性脂肪を加水分解し、遊離脂肪酸として末梢組織に供給している。並行して、血漿中のCETPにより、VLDLの中性脂肪とHDLのコレステロールエステルの交換が起こる。 中性脂肪を末梢組織やHDLに供給して脂質コアが縮小したVLDLは、最終的にIDLとなる[22][21]

疾患との関係

VLDLはアポB-100を含有するリポタンパク質として、動脈硬化性疾患の危険因子である(大型のVLDLそのものは血管内膜に入りにくく、VLDLのレムナントが重要とされる)。その他、非アルコール性脂肪性肝疾患などとも関連するとされている。 一般に、肥満・インスリン抵抗性・メタボリックシンドロームはVLDLを上昇させる[21]

IDL

IDL(intermediate-density lipoprotein、中間比重/中間密度リポタンパク質)はVLDLが最終的にLDLとなる代謝過程の中間体である[22]

性状

IDLは直径25〜35 nm、比重はVLDLとLDLの中間の1.006〜1.019である。また脂質コアはコレステロールエステルが中性脂肪より多くなってきている[22]

主要なアポリポタンパク質

IDLは主要アポリポタンパク質としてアポB-100を1個含むほか、アポE、アポC-I、アポC-II、アポC-IIIなどを含む。 アポEはIDLの肝臓でのLDL受容体やLDL受容体関連タンパク質1によるクリアランス(取り込み)に関与する。 アポEのアイソフォームであるアポE2はLDL受容体やLDL受容体関連タンパク質1に対する親和性が低いため、IDLのクリアランスが低下し、WHO分類III型家族性高リポタンパク質血症を発症する場合がある。 アポC-IはLCATの活性化に関与する。アポC-IIはLPLの補因子である。アポC-IIIはLPLを抑制する。 アポC-IIIはLPLの抑制によりアポBを含むリポタンパク質の血中滞留を生じるため動脈硬化促進作用を持つと考えられている[22]

機能

新規に生成したIDLの約半分は肝細胞にLDL受容体とアポEを介して取り込まれ、コレステロールや中性脂肪を供給する[22][21]

代謝

VLDLの中性脂肪がLPLを介して減少して生成したIDLは、引き続き、肝性リパーゼにより中性脂肪を除去されてLDLになる[22]

疾患との関係

IDLはアポB-100を含む動脈硬化惹起性リポタンパク質の一つである。 アポEの変異(アポE2)はIDLの除去を遅らせ、ホモ接合体ではIDLやカイロミクロンレムナントが蓄積する(III型高脂血症)[22]

LDL

動脈のアテローム硬化の顕微鏡像:白く抜けているのは蓄積したコレステロール結晶が存在した跡(標本作成時にコレステロールそのものは溶出してしまう)

LDLは末梢組織へのコレステロールの輸送の主要な担い手である。

性状

LDL(低比重/低密度リポタンパク質)は直径 18〜25 nm程度、密度 1.019〜1.063 g/mL のリポタンパク質である。 LDLは含有するコレステロールが重量比で50 %前後とリポタンパク質の中では最も多い[6][18]

主要なアポリポタンパク質

アポB-100を粒子毎に1個もつ[1]

機能

LDLの主要な機能は末梢組織へのコレステロールの輸送である。 また、LDLをはじめとするアポBを持つリポタンパク質(LDL、IDL、VLDLレムナント、カイロミクロンレムナント、リポタンパク質(a)など)は動脈内膜内に滞留し、酸化・変性して炎症を惹起するとともに、マクロファージに取り込まれて泡沫細胞アテローム性プラークの形成に関与する。このため、LDLに含まれるコレステロール(LDL-C)は俗に「悪玉コレステロール」とも呼ばれる[18][23]。 なお、臨床検査で報告されるLDL-CにはIDLやLp(a)中のコレステロールも含まれている(LDL-Cは、カイロミクロン・VLDL・HDLを除いた後に残るリポタンパク質のコレステロールとして測定、または計算されるためである)[24]

代謝

末梢組織の細胞にはLDL受容体が発現しており、LDLを細胞内に取り込む。 最終的にLDLはアポB-100を介して肝臓のLDL受容体に結合し血中から除去される(肝臓のLDL受容体の量は、細胞内コレステロールレベルにより転写因子SREBPを介して発現が促進される。LDL受容体の分解はPCSK9により調節されている)[22]

疾患との関係

LDLは重要な動脈硬化惹起性リポタンパク質であり、LDL高値はアテローム性動脈硬化の重要な危険因子である。 血管内膜内のマクロファージは酸化LDLなどの変性したリポタンパク質をスカベンジャー受容体(CD36、SRA、LOX-1など)経由で取り込む(LDL受容体とは異なり、細胞内コレステロール量によるフィードバックはかからない)。その結果、泡沫細胞が形成され動脈硬化が進展する[18][25]。 LDLが上昇する疾患の代表的なものが家族性高コレステロール血症である。LDL受容体遺伝子の機能喪失型変異、アポB遺伝子の変異(LDL受容体への親和性低下)、PCSK9遺伝子の機能獲得型変異などにより、LDLコレステロールが著しい高値を示し(ヘテロ接合体で200 mg/dL前後、ホモ接合体で600 mg/dL前後 )、 若年時から動脈硬化性心血管疾患を引き起こす[21][26][1]

sd-LDL

粒子サイズが通常のLDLより小さいスモールデンスLDL(small dense LDL、sd-LDL)は動脈硬化リスクと強く関連するとされ、 LDL全般と区別して取り扱われることがある[9]

性状

粒子径は15〜20 nm[25]、比重は 1.044〜1.063とされる[27]

臨床的意義

sd-LDLは動脈硬化惹起作用が大きいとされる。機序としては、酸化など変性を受けやすく、動脈壁のマクロファージに取り込まれやすいことなどがあげられている。このため、sd-LDLに含まれるコレステロール(sd-LDL-C)は、俗に「超悪玉コレステロール」と呼ばれることもある。 メタボリックシンドロームにおいてはLDL-Cがそれほど上昇していなくともsd-LDL-Cが上昇していることがしばしばあるとされる。 ただしsd-LDLの臨床的意義は十分には確立されていない[28][29][9][25]

HDL

HDLはコレステロールの逆転送系を担っている[14][30]

性状

HDL(高比重/高密度リポタンパク質)は、直径 5〜12 nm程度、密度は1.063〜1.210 の、最も小さく高密度(タンパク質の占める割合の大きい)のリポタンパク質である。 HDLは、さらに、比重1.063〜1.125のHDL2と1.125〜1.21のHDL3などの亜分画に分けられることがある。 HDL3はより小型・高密度でコレステロール含量が少なく、コレステロールを取り込む能力が高いとされる。 HDL2はより大型・低密度でコレステロールを多く含む形態である[30]

アポリポタンパク質

アポA-IがHDLの主要なアポリポタンパク質であり、アポC、アポEも存在する。 アポA-IはLCATを活性化する。 アポA-IIも構造タンパク質であるが、機能は十分解明されていない。 アポC-IはCETPを抑制し、LCATの活性化にも関与するとされる。 アポC-IIはLPLの補因子である。アポC-IIIはLPLを抑制する。 アポEはLDL受容体のリガンドである[14]

機能

HDLの主要な機能はコレステロールの逆転送、すなわち、末梢組織のコレステロールの肝臓への輸送である。 マクロファージを含む、ほとんどの末梢組織の細胞はコレステロールを分解することができないため、 過剰なコレステロールを肝臓に回収する仕組みが必要となる[14]。 HDLには動脈硬化巣の泡沫細胞のコレステロールを除去することにより動脈硬化を抑制し、関連する動脈内膜内の炎症を沈静化させる作用もある[14]。 このため、HDLに含まれるコレステロール(HDL-C)を俗に「善玉コレステロール」と呼ぶことがある(ただし、HDL-C濃度は必ずしもHDL機能に並行するとは限らない)[9]

代謝

肝臓および小腸で合成された未成熟のディスク状HDLは、全身を循環しながら末梢細胞の膜のコレステロールやリン脂質を受け取る。この際の主要な輸送担体はABCA1(ATP-binding cassette transporter A1)である。取り込んだコレステロールをHDL上のLCAT(レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ)の作用でエステル化して内部に蓄えて、球状の成熟HDLになっていく。 HDLに含まれるコレステロールエステルは、CETP(コレステロールエステル転送タンパク質)の作用でVLDL・IDL・LDLに中性脂肪と交換で取り込まれる。VLDL・IDL・LDLに移動したコレステロールは最終的に肝臓のLDL受容体を介して肝細胞に取り込まれる。 肝臓のスカベンジャー受容体B1(SR-BI英語版)はHDLのアポA-Iを認識して、HDL中のコレステロールエステル(粒子全体ではない)を直接肝細胞に取り込む。 脂質コアのコレステロールがこのように除去され、肝性リパーゼで中性脂肪も除去されたHDLは小さくなり、アポA-Iを放出して分解される[14]。 その他、一部のHDLについては、HDL上のアポE経由でLDL受容体に結合し肝細胞に取り込まれて分解される経路も存在すると考えられている[30]

疾患との関係

HDL低値は動脈硬化の危険因子と考えられている。ただし、HDLが多いほど動脈硬化性疾患のリスクが減るわけでは必ずしも無く、著しい高HDL-C血症では動脈硬化のリスクが逆に高いことが示唆されている[9]。 なお、家族性低HDL-C血症の原因として、タンジール病(ABCA1の異常)、LCAT欠損症、アポリポタンパク質A-I欠損症などが知られている[7] [31][32]

リポタンパク質(a)

リポタンパク質(a)(Lp(a))は、LDLのアポB-100にアポ(a)がジスルフィド結合した特殊なリポタンパク質である。 動脈硬化惹起作用が強いとされる[9]

性状

Lp(a)は径25〜30 nm程度で、LDLにオーバーラップする比重(1.05〜1.12[33]、文献によっては 1.040〜1.090[6])を持ち、超遠心のみではLDLと完全に分離するのは困難である[34]

アポリポタンパク質

アポB-100にアポ(a)(Lp(a))がジスルフィド結合している。 Lp(a)のアポ(a)分子にはプラスミノーゲン類似のクリングル構造英語版を持つ領域があり、クリングルIV-2の繰り返し数が2〜42回と著明な遺伝的フェノタイプ差がある。一般にクリングル数が多くサイズが大きいほど血中濃度が低い傾向がある。 なお、Lp(a)の比重も、アポ(a)分子の大きさに大きく影響される[33][9]

なお、通常の脂質検査では、Lp(a)中のコレステロールはLDLコレステロールに含まれる[注 6] [31][32]

機能

Lp(a)の生理的機能は知られていない[注 7]。 Lp(a)は動脈硬化惹起作用が強いとされ、その機序としては、アポB含有リポタンパク質全般に共通する動脈内膜への滞留などの他に、プラスミノーゲンとの相同性によりプラスミノーゲンの作用に干渉して血栓形成を促進すること、動脈壁に接着しやすいことなどがあげられている。日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」でも動脈硬化性疾患の危険因子としてあげられている[7]

代謝

アポ(a)とアポB-100はそれぞれ肝臓で合成されて結合すると考えられている[35]。 Lp(a)の脂質部分は、VLDL由来ではなく、Lp(a)のアポB-100部分に関連して形成されると考えられている。 Lp(a)が血中から除去される機序は十分解明されていない。LDL受容体の関与は限定的と考えられている[36]

疾患との関係

Lp(a)濃度には遺伝的要因が大きく関与しており、人種差・個人差が大きい。しかし、同一個人内では、炎症で上昇するのを除けば、比較的安定している。炎症以外の疾患では、腎不全、ネフローゼ症候群、甲状腺機能低下症などで上昇する[9]。 Lp(a)は動脈硬化の独立した危険因子と考えられており、その機序としては、プラスミノーゲンに干渉して線溶系を抑制し血栓形成を促進する可能性などが考えられている。Lp(a)高値が認められた場合は脂質異常症の治療を強化することが推奨されている[28]。ただし、リスク閾値は国により異なる。 現在のところでは、Lp(a)を低下させる治療の有用性はあきらかではない[注 8][31][7]

異常なリポタンパク質

健常人では見られないリポタンパク質の代表例として、リポタンパク質X(LpX)があげられる[37][38]

リポタンパク質X

リポタンパク質X (LpX、またはLp-X)は病的なリポタンパク質である。タンパク質としてアルブミン(と若干のアポE)をもつ。遊離コレステロールとリン脂質が多くコレステロールエステルが少ない。通常のリポタンパク質代謝経路を通過せず、最終的には肝臓や脾臓の網内系で処理される。LpXが出現する病態としては、胆汁うっ滞性疾患(閉塞性黄疸原発性胆汁性胆管炎など)、LCAT欠損症、移植片対宿主病、脂肪製剤の静脈投与後などがある。胆汁うっ滞時の高コレステロール血症の原因の一部はLpXによることがある[37][38]

通常の脂質検査ではLpXを区別するのは困難であり、LpXのコレステロールはLDL-Cとして測定されうる(LpXの比重は主に1.019〜1.063付近で、LDLと同じ程度である)。 他の脂質異常症との鑑別にはアポBの測定や電気泳動などが必要になることがある。 LpXはアポBは持たず、動脈硬化惹起性はあきらかではない(LpXの径は50〜70 nmとVLDLレベルの大きさであり、動脈の内膜に入りにくいと考えられている)。 LpXの有害作用としては、過粘稠度症候群英語版黄色腫(特に手掌)、それにLCAT欠損症では腎障害がある。 通常の脂質降下剤は無効で、原疾患の治療を行う。過粘稠度症候群に対しては血漿交換が行われることがある[37][38]

リポタンパク質と脂質異常症

古典的な高リポタンパク質血症の分類であるフレドリクソン(Fredrickson)分類(WHO分類)は、リポタンパク質により脂質異常症を分類している[注 9]。ただし、近年は、フレドリクソンの各タイプは必ずしも独立の病態ではなく、中性脂肪の多いタイプの多くは多因子性遺伝的素因を共通に有することが知られてきており[39]、 脂質異常症の日常診療は、個々の脂質検査項目(LDLコレステロール中性脂肪HDLコレステロールnon-HDLコレステロール)の異常に注目して行われるのが一般的である[7]

さらに見る タイプ, 増加するリポタンパク質 ...
フレドリクソン(Fredrickson)分類(WHO分類)による高リポタンパク質血症のタイプ(表現型)分類 [7][9]
タイプ増加するリポタンパク質主な血清脂質指標関連する疾患・臨床的特徴
I カイロミクロン中性脂肪の著明な増加家族性カイロミクロン血症症候群、膵炎のリスク、発疹性黄色腫
IIa LDLコレステロール、特にLDL-Cが増加、中性脂肪は正常家族性高コレステロール血症、多遺伝子性高コレステロール血症、腱黄色腫、動脈硬化性心血管疾患のリスク増加
IIb LDLとVLDLLDL-C増加、 中性脂肪増加家族性複合型高脂血症、メタボリックシンドローム、糖尿病など。動脈硬化性心血管疾患のリスク増加
III レムナントリポタンパク質の増加:IDL、カイロミクロンレムナント、VLDLレムナント(β-VLDL[注 10]中性脂肪とコレステロールが共に増加家族性III型高脂血症、手掌線状黄色腫、閉塞性動脈硬化症・動脈硬化性心血管疾患などの動脈硬化性疾患
IV VLDL中性脂肪家族性IV型高脂血症・家族性複合型高脂血症、肥満、糖尿病、アルコール多飲など。
V カイロミクロンとVLDL著明な中性脂肪増加、コレステロール増加原発性V型高脂血症、膵炎のリスク
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この表の「タイプ」は表現型であり、独立の疾患を意味しているわけではない。

脚注

関連項目

外部リンク

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