北九州未来創造芸術祭
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東アジア文化都市北九州2020▶21のメインイベントの一つとして企画された[3]。南條史生(元森美術館館長)がディレクターを務め、29組のアーティストが参加した[1]。
本芸術祭の開催背景には二つの契機がある。第一に、日本・中国・韓国の文化大臣会合により北九州市が2020年の「東アジア文化都市」に選定されたこと(新型コロナウイルス感染症の影響で2021年に延期)。第二に、2018年に経済協力開発機構(OECD)がアジア地域で初めて北九州市をSDGs推進に向けた世界のモデル都市に選定したことである[4][5]。
SDGsの17の目標から「環境問題」と「社会の多様性」の二つの大きなテーマを設定し、現代アーティストの多様な表現を通じて、来たるべき未来のヴィジョンを世界に発信することを目指した[3]。
開催概要
会場
芸術祭は北九州市八幡東区の東田地区を中心に、7つの会場で展開された[6]。東田地区は、かつて日本の近代化を支えた官営八幡製鐵所が操業し、2015年に「明治日本の産業革命遺産」としてユネスコ世界遺産に登録された旧本事務所が所在する地域である[7]。
| 会場 | 会期 | 主な展示 |
|---|---|---|
| スペースワールド駅改札前広場 | 4月29日 - 5月9日 | チェ・ジョンファ |
| 東田大通り公園 | 4月29日 - 5月9日 | 奥中章人、団塚栄喜、淀川テクニック |
| 北九州市立いのちのたび博物館 | 4月29日 - 5月30日 | 落合陽一、ジャン・ワン |
| 東田第一高炉史跡広場 | 4月29日 - 5月9日 | 石井リーサ明理 |
| 北九州イノベーションギャラリー | 4月29日 - 5月9日 | ライゾマティクス、和田永、田中浩也研究室+METACITY |
| タカミヤ環境ミュージアム | 4月29日 - 5月9日 | まちクラ(川口智子、田坂哲郎)、鄭慶一 |
| 北九州市立美術館(本館) | 4月29日 - 7月11日 | 「多様性への道」展(18組) |
参加アーティストと作品
環境問題セクション
SDGsの「環境問題」をテーマとした作品群は、東田大通り公園、いのちのたび博物館、北九州イノベーションギャラリーなどに展示された[3][8]。
- 落合陽一
- 北九州市立いのちのたび博物館で個展「環世界の遠近法 —時間と空間、計算機自然と芸術—」を開催。博物館の膨大な収蔵品(約1億1000万年前のアンモナイトや6世紀の鉄製釣り針など)を高精細画像で撮影し、新しいメディア装置を用いて生命の物語を描き出した。古代と現代、ミクロとマクロ、人工物と自然物、デジタルとアナログの関係性を「環世界」の観点から問いかける展示であった[1][9]。
- 淀川テクニック
- 「北九州のドードー」「北九州のフクロオオカミ」を制作。北九州市の藍島の浜辺で地域住民と共に収集した漂着プラスチックごみを素材に、絶滅種であるドードーとフクロオオカミの大型彫刻を制作した。環境破壊と種の絶滅への警鐘を込めた作品である[8]。会期終了後、レガシー作品として北九州市に寄贈され、いのちのたび博物館付近で常設展示されている[10]。
- 団塚栄喜
- 「Medical Herbman Cafe Project 2021」を東田大通り公園に制作。全長約25メートルの人体型のハーブ畑をつくり、その土地の薬用植物(サルナシ、ヨモギ、タンポポ、オオバコ、アザミなど)を植栽。会期中は薬草茶や薬草料理を来場者に提供し、自然と身体の関係への気づきを促した[8]。
- ジャン・ワン(展望)
- 中国を代表する彫刻家。宋代以来の太湖石鑑賞の伝統を現代に再解釈した「仮山石」シリーズをいのちのたび博物館に展示。実物の奇石からステンレスで型を取り、約1年をかけて研磨する技法による作品を出品した[1]。
- 慶應義塾大学SFC 田中浩也研究室+METACITY(青木竜太)
- 「Bio Sculpture」を制作。3Dプリンターで生態系の受容体を造形し、森の土壌や苔を組み込んで最適な生育条件をプログラムした作品[8]。
- 奥中章人
- 東田大通り公園にて環境と身体をテーマにした大型インスタレーションを展示[2]。
多様性セクション
北九州市立美術館(本館)では「多様性への道」と題したグループ展が開催された。障がいのあるアーティスト10名を含む18組が参加し、杉本志乃がコ・キュレーターを務めた。アール・ブリュットの作家と現代美術の作家が共存する展示構成で、社会の多様性をアートの力で可視化する試みであった[3][1]。
| アーティスト | 備考 |
|---|---|
| 片山真理 | 「you're mine」「in the water」シリーズを出品。義足のセルフポートレート作品で知られる[8] |
| ユキ・キハラ | サモア出身、ジェンダーと植民地主義をテーマとする作家 |
| 山本作兵衛 | ユネスコ記憶遺産登録の炭坑記録画を特別展示。杉本志乃がキュレーション |
| 井上優 | |
| 岩本義夫 | アール・ブリュット作家。studioCOOCA所属 |
| 加地英貴 | アール・ブリュット作家。アトリエライプハウス所属 |
| 紺谷彰男 | アール・ブリュット作家。栗東なかよし作業所所属 |
| 澤田真一 | アール・ブリュット作家。陶芸作品で国際的に評価 |
| 澤田隆司 | |
| SECOND PLANET | |
| 早川拓馬 | |
| BABU | |
| 東本憲子 | |
| 福島あつし | |
| 服は着る薬(鶴丸礼子アトリエ) | インクルーシブファッション。多様な身体に対応する独自の採寸法による衣服デザイン[8] |
| ほんままい | |
| 松本寛庸 | |
| 南村千里 | 「Scored in Silence」(2019年)。聾者の被爆者の身体の動きをデジタル化したパフォーマンス作品[8] |
その他
- まちクラ(川口智子、田坂哲郎)、鄭慶一
- 北九州市環境ミュージアムにて、地元の子どもたちと「みんなが面白いと思うまち」をテーマにしたワークショップ型の展示を実施[2]。
開催地としての北九州市
北九州市は、歴史的・地理的にアジアの玄関口として発展し、国際的に文化が交流し、多くの文化人を輩出してきた都市である。1901年に官営八幡製鐵所が操業を開始して以降、日本の近代化と高度経済成長を製鉄業で支えたが、その代償として深刻な公害(洞海湾の水質汚濁や大気汚染)を生じさせた。1960年代以降、市民(特に女性たち)を中心とした環境改善運動が起こり、長い年月をかけて環境汚染を克服した[4][3]。
この経験を踏まえ、北九州市は環境と経済の両立をめざすモデル都市へと変貌を遂げた。2018年にはOECDからアジア初の「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」に選定され[5]、同年には国の「SDGs未来都市」(全国29自治体)にも選定された。こうした背景が、SDGsをテーマとする芸術祭の開催につながった。
芸術祭の主会場である東田地区は、明治日本の産業革命遺産(官営八幡製鐵所関連施設)のユネスコ世界遺産構成資産を擁するほか、2018年度からは「東田ミュージアムパーク」として北九州市立いのちのたび博物館、スペースLABO、タカミヤ環境ミュージアム、北九州市立美術館、北九州イノベーションギャラリーなどの文化施設群が連携した地域活性化事業が進められている[11]。