大麻の医学的研究
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大麻の医学的研究(たいまのいがくてきけんきゅう)では、大麻使用による薬理効果、または健康への影響について記述する。医療利用については医療大麻を参照。
大麻の主な依存性、幻覚作用成分はテトラヒドロカンナビノール(THC)である。近年の大麻は、THCが強化されたシンセミア種の大麻草が主流となっており、加えて合法大麻企業が生んだ大麻グミや大麻クッキーなどの食用大麻製品やオイル、電子タバコ用リキッドなどの高THC濃度大麻製品が普及したことにより、大麻の過剰摂取、中毒、重症化も簡単に起こりうる、1990年代までの大麻への認識や経験だけでは通用しない強力な薬物となっている[1][2][3][4][5][6][7][8][9]。
2000年から2018年の間に、世界的な大麻依存症および禁断症状(離脱症状)に関連する入院は8倍以上増加、大麻関連の精神病での入院も4倍以上増加、大麻依存症は大麻使用者の約3人に1人が抱えるものとなっており、大麻中毒による救急外来、転落事故、転落死、死亡事例まで発生している[2][3][4][5][10][11][12][13][14][15][16]。
国際的な臨床診断ガイドラインの最新版である、ICD-11(『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』第11版)、DSM-Ⅴ-TR(『精神疾患の診断と統計マニュアル』第5版改訂版)では、精神的依存だけでなく身体的依存を含む『大麻依存症』および大麻特有の禁断症状『大麻離脱症候群』を始め『大麻中毒』『大麻誘発性精神疾患群』『大麻誘発性精神障害、大麻誘発性せん妄、大麻誘発性不安障害、大麻誘発性気分障害、大麻誘発性睡眠障害』も明記されている[17][18]。
大麻依存症(大麻使用症):大麻の反復使用または継続使用から生じる大麻使用の調節障害。大麻使用への強い内的欲求・渇望または衝動、意図していた量を超える使用または減量努力の不成功などの大麻使用制御能力の低下、他の活動よりも大麻使用を優先する傾向の増加、社会的・対人的問題や身体的または精神的問題が持続的または反復的に起こり悪化しているにもかかわらず使用を続けること、が特徴。大麻の効果に対する耐性、大麻の使用をやめたり減らしたりした後の離脱症状、または離脱症状を防ぐ・軽減するために大麻や類似した他の薬物を繰り返し使用する生理的特徴(身体的依存)が現れることもある。依存の特徴は通常12ヶ月以内に明らかになるが、大麻の使用が連続的(毎日またはほぼ毎日)で少なくとも3ヶ月続いている場合は大麻依存症の診断が下されることもある。大麻の使用は無害であるという誤った認識が一般的になりつつあるため、大麻使用者は大麻依存症の症状が大麻に関連していることを認識しない場合がある。特に複数の薬物依存症を有する場合、大麻に関連する社会的、行動的、心理的問題を大麻と結び付けようとしないため、大麻依存症の鑑別は困難なことがある。また、家族や刑事司法制度など他者から治療目的で紹介されてきた人は、大麻の大量使用や関連問題における大麻の役割を否認するのが一般的である。また、大麻使用者は大麻が体から抜けている状態であっても認知機能、特に高次実行機能が累積用量依存的に低下しており、学校や職場での困難を助長する可能性がある。しかし、大麻常用者は、気分、不眠、怒り、疼痛などの症状に対処するために大麻を使用するとしばしば述べる。そして、大麻依存症と診断される人は、うつ病、双極性障害(躁うつ病)、不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)および反社会性パーソナリティ障害(人格障害)などの精神病疾患の合併も一般的である。慎重に検討すると大麻の使用そのものがこうした症状を悪化させている。大麻の急性作用として、不適切な笑いと誇大性を伴った多幸感があるが、これを治療効果として混同している可能性がある。他の急性作用として鎮静、抗不安、嗜眠もあるが、大麻の離脱症状はこれらとは反対のものであり特に睡眠障害は長期化しうる。また、大麻使用は急性精神病エピソードの発症に寄与し、既存の精神疾患の症状を悪化させたり発作を引き起こす場合もあり、主要な精神病性疾患の治療に悪影響を及ぼす可能性がある。さらに、大麻使用は自殺、自殺未遂、自殺念慮(自殺願望)と関連しており、複数の社会人口統計学的要因、精神疾患や他の薬物依存症の併存、過去のトラウマなどの交絡因子を調整しても、大麻依存症は自殺性および非自殺性両方の自傷のリスク上昇と関連している[17][18][12][19]。
大麻離脱(大麻離脱症候群):大麻の常用を中止または減少させた際に生じる特徴的な離脱症状(禁断症状)。苛立ち、怒りなどの攻撃的な行動、不眠、悪夢、睡眠困難、興奮、落ち着きのなさ、神経質、不安、抑うつや気分の沈み、食欲低下や体重減少が含まれ、大麻の急性薬理作用(多幸感、陶酔感、嗜眠、鎮静、甘い食物や脂肪の多い食物への食欲亢進)とは反対のものである。アルコールやオピオイドの禁断症状とは異なり、睡眠困難、興奮、神経質などの行動・感情症状が身体症状よりも多くみられるが、頭痛、震え、発汗、発熱、悪寒、腹痛などの身体症状もある。症状の多くは通常、大麻の使用中止後1~2週間以内に消失するが、特に睡眠障害は長期化しうる。また、以前に大麻依存症を経験したことがある一部の人は、最後に大麻を使用してから何か月も経った後でも、大麻使用をやめた際の症状に似た症状を経験することがある。特に、薬物関連器具を見る、頻繁に薬物を使用していた場所を訪れるなど、その人が過去の大麻使用に関連していた刺激や状況に遭遇した場合に顕著である。これらの症状は関連する刺激や状況に接触している場合にのみ発生し、大麻離脱中に観察される症状よりも一時的であるため、大麻離脱の診断は下されない。大麻の離脱症状は離脱を繰り返すたびに(「キンドリング現象」と呼ばれる)、年齢を重ねるにつれ、他の疾患がある場合に、より重症化する。大麻離脱は顕著な苦痛をもたらすので、症状を和らげるための使用が続き、中断が困難になり大麻の再使用に至る、あるいは他の薬物使用を開始する。また、大麻使用は無害であるという誤った考えが広まっているため、離脱を経験している大麻常用者は、離脱症状が大麻が切れたことによるものであることに気づかず、自己治療として大麻の使用を継続する場合がある[17][18][12]。
大麻中毒:臨床的に重要な一過性の状態であり、大麻の摂取中または摂取直後に発生する、意識、認知、知覚、感情、行動、協調性の障害。大麻を使用する人はある時点で大麻中毒の基準を満たす症状を経験しているとされている。典型的にはハイの気分で始まり、続いて不適切な笑いと誇大性を伴った多幸感、鎮静、嗜眠、短期記憶の障害、複雑な思考を行うことの困難、判断力の低下、知覚の歪み、注意力の低下、運動能力の低下、浮遊感や時間がゆっくり経過するという感覚、などの諸症状が起こる。重度の不安、不快気分、対人的閉じこもり、その他、吐き気、嘔吐、胸の痛み、心拍数増加、呼吸抑制、パニック発作、妄想(被害妄想、誇大妄想)、パラノイア(偏執病)などの急性精神病エピソードが生じることもある(バッドトリップ)。その他の身体症状には結膜充血(赤目や血走った目)、口腔乾燥(のどの乾き)、食欲亢進(甘い食物、脂肪の多い食物)、頻脈がある。大麻中毒は、大麻草の喫煙の場合は数分以内に生じるが、経口的に摂取された場合数時間かかることがあり、効果も喫煙より持続する。THC、CBDなど大麻の成分のほとんどは脂溶性であり、体脂肪にも蓄積され、時間をかけて徐々に脂肪組織から放出あるいは腸肝循環へ放出されるため、効果は12~24時間の間は持続し、再発現することもある。大麻中毒は精神病症状を引き起こすことがあるが、その持続期間は多様である可能性がある。また、高用量の大麻の定期的使用は、長期的な精神病疾患のリスク増加の可能性がある[17][18][6][20][21]。
大麻誘発性精神疾患群:大麻誘発性精神障害、大麻誘発性せん妄、大麻誘発性不安障害、大麻誘発性気分障害、大麻誘発性睡眠障害があり、独立して臨床的関与を必要とするほど重症である場合に、大麻中毒または大麻離脱の代わりに診断される。例えば大麻誘発性精神障害は、大麻中毒や大麻離脱に伴う典型的な知覚、認知、行動の類似症状を大幅に超えた、妄想、幻覚、思考の混乱、著しい行動の乱れなどの精神病症状を特徴としており、個人、家族、社会、教育、職業、その他重要な機能領域において、著しい苦痛や著しい障害を引き起こしていることも診断要件となっている。大量または長期間の大麻使用は、大麻誘発性精神疾患群を発症する可能性が高くなる。また、せん妄も薬物の中毒や離脱によって引き起こされることがあり、大麻誘発性せん妄は、注意力と意識の急性の混乱状態を特徴としている[17][18]。
また、日本では以前より大麻の有害性について報道がされているが、これまで大麻について肯定的だった海外メディアも、近年の発展した大麻の医学的研究とともに大麻の有害性について報道するところが出てきている[22][23][24][25][26][27][28][29][30][31][32][33][34]。
薬理学
生化学

大麻に含まれる向精神作用のある主な物質は、テトラヒドロカンナビノール (THC、またはΔ9-THC) である。商用栽培の大麻の花穂に含まれるTHCは、クローンや液肥の調整、シンセミア(受粉させずに雌株の花穂を成長させる栽培法)によって、野生の大麻よりも強化されたものが主流となっている[35]。
乾燥大麻の平均THC含有量は、1980年代中頃や1990年代初頭の約3%から2022年には約16%に増加。2020年には食用大麻製品や大麻抽出物製品も登場。オンラインディスペンサリー(大麻販売店)で入手可能な大麻製品の研究では、平均THC濃度は22%、範囲は0%から45%と高THC濃度の大麻製品の供給を確認。その他では、吸引用の大麻抽出物でTHC濃度が最大90%に達する製品もあり、人々は1990年代に比べ、はるかに強力な大麻を使用している[9][1][7]。
高THC濃度の大麻製品は、人間の脳に与える影響もより強く、大麻依存症に進行するリスクだけでなく、大麻中毒により一時的な精神病エピソードを引き起こすリスクも高くなり、そういった精神病エピソードを経験することで、後の人生で精神病障害を発症する可能性が高くなる[8][6][7][17][18][36][37]。
THCは、ヒトの体内に取り込まれた後、化学的な変化を経てカンナビノイドになり、これが脳に直接作用する[35]。
カンナビノイドは、内因性カンナビノイド受容体に作用し脳内の神経伝達物質の放出を調節、細胞同士の伝達方法を変更することができる。人間の脳においてはこれが、自分の置かれた環境への認識、考え、行動および感情に影響を及ぼす[17][37]。
大麻には100種類以上のカンナビノイドを含む、約540種類の化学物質が確認されており、大麻の煙にはタバコの煙と同様の有毒物質、刺激物、発がん性物質も多く含まれている[38][20][21][11]。
1990年、カンナビノイド受容体タイプ1 (CB1受容体) が発見され、他の神経伝達物質と同様に、ヒトの体内で自然に生産され、恒常性に関与しているという理解が深まる[39]。カンナビノイドは苦痛の伝達系等に作用し、特にオピオイドに対してドーパミンアゴニストの役割を果たす[40]。このことが、リスクの比較的高いモルヒネなどオピオイドを代替する鎮痛薬としての医療研究に道を開いたといえる。
翌年1991年に発見されたカンナビノイド受容体タイプ2 (CB2受容体)はミクログリアに発現している。CB2Rは、活性化すると上方制御される。統合失調症は、CB2R遺伝子内の一塩基多型の発現や、CB2Rの機能低減に関連付けられているという説もある。(内因性)カンナビノイドによって、ミクログリア上のCB2Rが刺激され、ミクログリアが活性化する[41]。
2006年の研究では、THCはアセチルコリンエステラーゼ(AChE)を抑制し、かつAChE PASと結合させ、脳の老化に関係すると言われているβアミロイドペプチドを減少させることが発見されている[42]。この効果は、AChE PASとアルツハイマー型認知症の因果関係が証明されて以降[43]、アルツハイマー治療の一定の目標となっていた[44]。
2006年、カンナビノイド受容体タイプ1のアンタゴニスト(受容体拮抗薬)としてリモナバンが、肥満の治療薬として欧州医薬品庁(EMA)に承認された。リモナバンは、脳内だけでなく消化官や脂肪細胞にも発現が認められるカンナビノイド受容体に作用し、ショ糖などの摂食量を減少させた。この機序にはレプチンからの抑制的制御やグレリンなどとの相互作用も報告されている。しかしながら翌2007年、アメリカ食品医薬品局(FDA)は不安感、抑うつの増加、自殺企図、自殺増加などの副作用のため承認を否決、EMAも販売を中止し、日本での治験も中止され、自殺リスクでの全面販売中止となった[45]。
生理的効果
使用後すぐに現れる主な生理学的影響として、心拍数の上昇、口の渇き、目の充血、眼圧の低下、集中力の低下、食欲の亢進(甘い食物・脂肪の多い食物)が上げられる。また血圧の変化、気管支の拡張、嘔吐反応の抑制、眠気、喉の渇きと食欲の増加などがある。また、脳波はアルファ波が通常より若干低い周波数で、長く持続することが知られている[46][12]。
同時に、味覚や嗅覚、聴覚の偶発的な拡張など多くの主観的効果をもたらし、使用量が増すと、時間や空間の感覚がねじ曲がったり、映像や音楽の迷走、一部の多シナプス反射の失調、没個性などが発生する。
大麻の喫煙による効果は、通常数分以内に生じ3時間から4時間の持続だが、最大で24時間持続することがある。THCを含むカンナビノイドのほとんどは脂溶性であり、体脂肪にも蓄積され、時間をかけて緩徐に脂肪組織から放出あるいは腸肝循環へ放出されることにより、12時間から24時間の間は持続、再発現することもある[18][20]。
食用大麻製品を経口摂取した場合はさらに効果が遅く長く、簡単に大麻中毒に陥ることができる。食用大麻製品の場合、効果を感じ始めるまでに最大2時間、完全な効果を感じるまでに4時間、急性効果が収まるまでに12時間かかることがあるため調節が難しく、人々がその間により多くを摂取してしまい過剰摂取となるためである。また、摂取量だけでなく、空腹時であるかどうか、アルコールや処方薬を含む他の薬物の同時摂取など、その他の要因にもより予想以上の酩酊効果を引き起こすことがある[47][48][8]。
また、大麻グミや大麻クッキーなどの大麻系菓子は、子供の誤飲事故を多数引き起こしており、成人の大麻使用が合法化された地域において子供の意図しない大麻中毒による救急外来への訪問を増加させている。子供の大麻中毒の徴候と症状は、嘔吐、混乱、無反応、言葉の不明瞭、足元の不安定、眠気、無気力、呼吸が遅くなる、まれにけいれん、があり症状の重症度は子供の体重と摂取したTHCの量による。子供の大麻中毒は大人よりも深刻であり、昏睡や人工呼吸器の装着など生命を脅かすほど重篤な状態が多数報告されており、死に至るケースもある[10][11][48][8][12][49]。
2016年、アメリカの国家毒物データシステムのレビューでは、2000年から2013年の間に、中毒センターが6歳未満の子供の大麻曝露に関する1969件の電話を受けたことを発見した。92.2%は意図しない曝露であり、75.0%が大麻または大麻製品の摂取によって発生した。眠気および無気力が45.5%であり、報告された臨床症状のほぼ半分を占めた。年次の曝露率は時間と共に増加し、2006年には子供100万人あたり4.21から2013年には10.42に達し、147.5%の統計的に有意な増加に相当した。同期間中、2000年以前に医療用大麻を合法化していた州における年次の曝露率の増加は609.6%と重要であり、州ベースの大麻合法化が、その州における子供の大麻曝露の増加と関連していることを示した[12]。
合法大麻企業による大麻系食品や高濃度大麻抽出物製品が流通しておらず、大麻の平均THC含有量も旧種の約3%であった1990年代の過去の研究においては、大麻の喫煙による酩酊状態は、1時間から4時間。THC含有量の違うマリファナ煙草(0%-3.6%)を実験施設で健康な成人男性10名に喫煙してもらい、その作用時間を詳細に調べると、主観的効果は約3.5時間で消え、心拍数、瞳孔の拡散は一日以内に元に戻ったとなっており、過去1990年代は少なくとも一本のマリファナ煙草の残留効果は小さいといえるとしていた[50]。
なお、大麻の煙にはカンナビノイドだけでなくタバコの煙と同様の有毒物質、刺激物、発癌性物質が含まれているため、「大麻の喫煙」は日本も加盟している麻薬の乱用に対し世界的規模で協同する「1961年の麻薬に関する単一条約」の医療および科学目的に違反しており医療用大麻として本来は認められていない[19]。
大麻煙にはさらにTHCが含まれており、受動喫煙を通じて乳児や子供を含む周囲の人々に移行する。大麻煙に曝露した人々は、ハイを感じるなどの精神活性効果を経験することがある[38][21][20]。
2013年から2015年にかけてアメリカのコロラド州で行われた細気管支炎で入院した生後1ヶ月から2歳の子供を対象にした研究では、16%から大麻煙の代謝物質であるCOOH-THCが検出され(THC陽性)、受動喫煙の大麻煙により子供が曝露していた。COOH-THCの濃度の範囲は0.03~1.5ng/mlであり、2名の被験者からは1ng/mlを超えるレベルが検出された。性別や年齢による差はなかった。ニコチンの代謝物質であるコチニンが2.0ng/mlを超える子供の56%がTHC陽性であったのに対し、低コチニンの子供のTHC陽性は7%であり、タバコの煙に曝露された子供でより一般的であった[51]。
また、妊娠中の母親の血液を通じての胎児の曝露、母乳を通じての乳児の曝露もあり、カンナビノイドは体脂肪に蓄積され時間をかけて徐々に放出されるため、母親が大麻の使用をやめた後でも子が曝露する可能性がある。妊娠中の大麻使用により引き起こされる子への長期的な発達への悪影響として、記憶力、注意力、論理的思考能力、問題解決能力の低下、多動性行動、将来的な薬物使用リスクの増加、などが関連している[21][20][38]。
2015年、出生後の長期的な環境影響が及ぶ前に、妊娠中の大麻摂取が初期の脳の機能回路の発達に与える影響を調査した生後2~6週の乳児に対する研究では、妊娠中の大麻曝露が神経行動および認知機能の障害と関連していることが報告された。胎児期にカンナビノイド受容体タイプ1の発現が高い皮質下シード領域の結合性を調べた結果、島皮質および3つの線状体の結合に大麻曝露特有の違いが見られた。大麻曝露を受けた新生児のグループでは、前部島皮質-小脳、右尾状核-小脳、右尾状核-右紡錐状回/下後頭葉、左尾状核-小脳、全てのクラスターにおいて低結合性を示した。視覚空間や運動学習、注意、そして運動および言語生成に関わる出力の微調整に関与する領域への線状体結合性の変化は、このリスク群で報告されている神経行動的欠陥に寄与している可能性がある。前部島皮質の結合障害は、顕著性ネットワークにおける内受容感覚信号の評価、動機付け、意思決定、さらには後の薬物使用の変化に寄与する可能性がある。カンナビノイド受容体タイプ1は、胎児の神経発達を調節し、後の学業や社会的成功に重要な行動を支える機能的回路の成長に対する大麻曝露を媒介する、としている[52]。
カンナビノイド受容体が多く存在するのは、順に、運動、感情、学習、動機付けなどを司る大脳基底核、運動調整をする小脳、短期記憶とストレスを調整する海馬、脳の高次機能を司る大脳新皮質であり、これらにカンナビノイドが作用することによって、行動に変化が現れる。動物実験、臨床試験ともに、短期記憶の混乱が観察されている。これは、海馬がカンナビノイドの影響により、「一時的に海馬が損傷された状態」になるためで[35]、その結果、海馬神経単位の活動と入力機能が低下し、最終的に記憶形成に関わる課程が阻害される。
大麻が人間の脳に与える長期的な悪影響の一部として、記憶力の低下、集中力の低下、知能指数(IQ)の低下、思考の低下、判断能力の低下があるが、大麻の長期使用では大麻が体から抜けている状態であっても認知機能、特に高次実行機能が累積容量依存的に低下、影響は数日から数ヶ月、あるいはそれ以上続くことがあり、完全に元に戻らない可能性がある[20][18][53]。
2012年、ニュージーランドの大規模出生コホート研究、ダニーデン研究(DMHDS)により、持続的な大麻使用は教育指数を制御した後でも、機能の各領域に渡る神経心理学低下と関連していたと報告された。常習的な大麻使用者においてはさらに認知障害がより多く見られ、青年期に大麻使用を始めた使用者に集中しており、使用が長引くほど認知機能の低下が大きくなることが示された。さらに、大麻使用をやめても、青年期に使用を始めた使用者の神経心理学的機能は完全には回復しなかった。これらは、大麻が青年期の脳に対して神経毒性の影響を及ぼす可能性を示唆している、としている[54]。
過去1990年代は、この作用はTHCが代謝されるに従って失われ、最終的に海馬の機能は通常に戻ると考えられていた。
また、大麻は体の動き、バランス、協調、記憶、判断を制御する脳の領域に影響を与え、調整能力、反応時間、注意力、意思決定能力、距離を判断する能力に障害をもたらす。そのため、大麻使用は車の運転や機器の操作に悪影響を及ぼす可能性がある。この障害は大麻使用後、他の影響が消えた後でも、24時間以上続くことがあり、大麻常用者の場合、最後の使用から数週間続く可能性がある[55][56]。
2014年、大麻の影響下で運転する人(DUIC)は一般的に無謀な運転スタイルを示すことから、自己申告による大麻使用運転と実際の無謀な運転の関係を自己申告の測定および運転シミュレータでの直接観察を通じて調査する研究が行われた。結果は、現実世界でより危険な運転行動をしていると認める人々が、運転シミュレーション課題において、より高い最高速度に達し、より無謀な運転行動を示した。自己申告による大麻使用運転は、幅広い無謀な道路上の行動を含むリスキーな運転スタイルと関連しており、さらに、交絡要因を考慮しても、自己申告による大麻使用運転と観察された危険行動の双方が、現実の交通違反と関連していた[57]。
2018年の世界保健機関の報告書では、交通事故の危険性を小~中程度(20-30%)増加させるとしている[58]。
大麻使用は運転能力を損なう可能性が非常に高いと考えられている。実際、コロラド州とワシントン州において致命的な衝突率の統計的に有意で大きな増加があり、2020年にはコロラド州における全交通死亡事故で大麻陽性と判定された運転者の割合は2013年のほぼ2倍に達した。死亡事故以外も含めた自動車保険の衝突請求率においても、大麻合法化州では合法化実施後に衝突請求頻度が著しく増加している[2]。
しかし交通事故リスクは20~30%と、考えられているよりは低いことに関しては、2009年の大麻の影響下での運転(DUIC)についての研究の中で、大麻使用運転者は一般的に無謀な運転傾向を示すため、このグループにおけるDUIC関連の交通事故発生リスクを、より過大に評価している可能性がある、との指摘がされている。なお、この研究においても、大麻使用運転はリスキーな運転(不注意な運転スタイル、他のドライバーに害を及ぼすことを意図していない意図的な道路上のリスクテイク)やネガティブな感情運転(運転中のイライラと怒り、および他のドライバーにイライラする傾向)と関連しており、危険運転および人口統計的変数を制御した後でも、交通事故に関与するリスク増加と関連している傾向があることが示唆されている[59]。
大麻使用運転(DUIC)は全体的に無謀な運転スタイルに関連しているため、公共の安全政策はより包括的であるべきであり、複数の道路上の危険行動に同時に介入することを目指すべきであるとの提案がされている[57]。
また、イギリス交通研究所が運転シミュレーターを使った反応時間の実験では携帯メールの作成で35%、アルコール(法的容認内)を飲んだ状態で21%、大麻喫煙で12%低下するという結果であった[60]。アルコールの次に、大麻は運転能力を損なうことと最も頻繁に関連付けられる物質である。アルコールと大麻を組み合わせることは、運転能力障害のレベルを大幅に引き上げ、事故による怪我や死亡のリスクを増加させる[56][55]。
精神的効果
精神的な作用としては陶酔や聴覚、触感、味覚の変化がある。一過性のリラックス・多幸感・五感変化など、知覚変容がもたらされる。
一般的な大麻の急性作用「ハイ」は、幸福感や陶酔感、そして内面的な夢想状態と交互に現れるおしゃべりや笑いが増加し、その後に無気力や眠気が続く。大麻の高揚感の特徴は、短期記憶や学習における欠陥と関連した時間感覚の歪みである。大麻の影響下にある人が示す最も明白な異常行動は、理解できる会話を続けることが難しいことである。ほとんどの場合その理由は、数語前に言ったこと、言われたことを思い出す能力が欠如しているためである[61]。
また、大麻離脱症候群には、苛立ち、怒りなどの攻撃的な行動、不眠、悪夢、睡眠困難、興奮、落ち着きのなさ、神経質、不安、抑うつや気分の沈み、食欲低下や体重減少が含まれ、大麻の急性薬理作用(多幸感、陶酔感、嗜眠、鎮静、甘い食物や脂肪の多い食物への食欲亢進)とは反対のものである[18][17]。
これら大麻が直接人間の脳に与える影響によって、人は自分の置かれた環境への認識、考え、行動および感情に変化が起き、学校や職場での社会的・対人的問題、身体的または精神的問題を生じさせる。大麻依存症をもつ人には大麻に関連した社会的関係の問題が広く認められる。大麻の使用は、生活満足度の低下、精神保健の問題による治療や入院の増加と関連する[18][17][37]。
精神疾患の診断
精神症状は、アメリカ精神医学会による『精神疾患の診断と統計マニュアル』(DSM)や、世界保健による『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』(ICD)で診断される。診断カテゴリーは以下があり、以降の節で解説する[18][17]。
- 大麻中毒
- 大麻依存症(大麻使用症)
- 大麻離脱症候群(大麻離脱)
- 大麻誘発性精神疾患群(大麻誘発性精神障害、大麻誘発性せん妄、大麻誘発性睡眠障害、大麻誘発性不安障害、大麻誘発性気分障害)
大麻中毒
乾燥大麻の平均THC含有量は、1980年代中頃や1990年代初頭の約3%から2022年には約16%に増加。2020年には食用大麻製品や大麻抽出物製品も登場。オンラインディスペンサリー(大麻販売店)で入手可能な大麻製品の研究では、平均THC濃度は22%、範囲は0%から45%と高THC濃度の大麻製品の供給を確認。その他では、吸引用の大麻抽出物でTHC濃度が最大90%に達する製品もあり、人々は1990年代に比べ、はるかに強力な大麻を使用している[9][1][7]。
大麻草・大麻製品のTHC高濃度化(強力化)、食用大麻製品・大麻抽出物製品など大麻製品の多様化によって、以前はリスクが低いとみられていた大麻中毒および重症化、過剰摂取は簡単に起こりうるものとなっている[1][4][5][6]。
大麻中毒とは、臨床的に重要な一過性の状態であり、大麻の摂取中または摂取直後に発生する、意識、認知、知覚、感情、行動、協調性の障害。大麻を使用する人はある時点で大麻中毒の基準を満たす症状を経験しているとされている[18][17]。
典型的にはハイの気分で始まり、続いて不適切な笑いと誇大性を伴った多幸感、鎮静、嗜眠、短期記憶の障害、複雑な思考を行うことの困難、判断力の低下、知覚の歪み、注意力の低下、運動能力の低下、浮遊感や時間がゆっくり経過するという感覚、などの諸症状が起こる。いわゆるバッドトリップでは重度の不安、不快気分、対人的閉じこもり、吐き気、嘔吐、胸の痛み、心拍数増加、血圧上昇、呼吸抑制、マイナス思考、絶望感、混乱、パニック発作、さらにパラノイア(偏執病)、妄想(被害妄想、誇大妄想)、幻覚などの急性精神病エピソードがあり、特に大麻の高用量、定期使用で生じる。このような精神病エピソードを経験することは、後の人生で精神病障害を発症する可能性がある。その他の身体症状としては結膜充血(赤目や血走った目)、口腔乾燥(のどの乾き)、食欲亢進(甘い食物、脂肪の多い食物)、頻脈がある[17][18][6][20][62][8]。
THCなど大麻の成分のほとんどは脂溶性であり、体脂肪にも蓄積され、時間をかけて徐々に脂肪組織から放出あるいは腸肝循環へ放出されるため、効果は12~24時間の間は持続し、再発現することもある[18][21]。
大麻により致死量に至ってしまうための安全係数は、サルでのデータから推定すると通常の使用量の1万倍である[63]。大麻単体だけで死亡原因(一次死亡原因)となることはほとんどないとされているが[63]、子供の意図しない大麻の過剰摂取による昏睡や人工呼吸器の装着など生命を脅かすほど重篤な状態は多数報告されており、死に至るケースもある。また、成人においても転落死、自動車事故、水難事故、心不全などの死亡原因(二次死亡原因)はあり、大麻中毒による救急外来も、大麻の使用率が高まるにつれ、嘔気と周期的な嘔吐を示すカンナビノイド悪阻症候群(CHS)とともに増加、ヨーロッパではコカインと共に救急部門において最も一般的にみられる薬物となっている[4][5][10][11][18][12][6][62][13][14][15][16]。
2014年、コロラド州で19歳の男性が、適法である食用大麻製品、大麻クッキーを摂取した後に4階のバルコニーから飛び降り外傷により死亡した。コロラド州公衆衛生環境局(CDPHE)により検死報告書および警察報告書が精査され、大麻中毒が主要な要因であるとされた。亡くなった男性は当初、大麻クッキーを1切れだけ摂取、約30~60分後、効果を感じなかったため追加で5切れを摂取、その後約2時間の間、言動が乱れ、敵対的な行動を示した。そして、最初の摂取から約3.5時間後、残りのクッキーを摂取してから約2.5時間後、4階のバルコニーから飛び降り外傷により死亡した。解剖、死後分析でも多剤使用の証拠は見つからず、男性からはdelta-9テトラヒドロカンナビノール7.2ng/ml、非活性の大麻代謝物であるdelta-9カルボキシ-THC49ng/mlが検出された。また、男性はアルコール乱用、違法薬物の使用、精神疾患の既往歴もなかった[64]。
大麻による転落事故、転落死は多数発生しており、日本でも報道がされている。
2021年、知人らと一緒に大麻を吸いながら酒を飲んでいた22歳の男性が、雑居ビルの4階から転落死した。亡くなった男性は、様子がおかしくソファに寝かされていたが、突然起き上がって走り出し、自ら窓を開けて飛び降りた。他人と争ったような形跡はなく、自殺する動機も見当たらなかったことから、大麻の幻覚作用の影響で転落した可能性があるとみられている[13]。
2024年、サークルの飲み会に参加していた男子大学生が、その後ビル屋上から転落死した。亡くなった男子大学生の尿から大麻成分が検出され、自宅からは少量の乾燥大麻が見つかった[14]。
2025年、男子大学生が「大麻クッキー」によって転落し重傷を負った。違法ではない大麻成分の一種が含まれていたとみられているが、男子大学生は大麻クッキーを摂取した3時間後、寮2階の部屋から転落、その後また再び、2階に戻ってきて飛び降りようとし、周囲に止められた。男子大学生は頭の骨を折るなどの大怪我をしている状態だった[15]。
また、2018年に医療用大麻が合法化され、2022年に大麻の栽培や一般使用が合法化されたタイでは、相次ぐ転落死、水難事故、交通事故、子供の誤飲事故、大麻関連治療費の増加に加え、心不全による死亡事例まで発生している[16][65][66][67][68][69][70][71][49]。
娯楽用大麻を合法化したカナダでも、大麻に関連する救急部門(ED)受診および大麻に関連する入院は増加しており、大麻は薬物治療の主要な原因となっている。2020年の救急部門受診は21,658件、入院件数は14,363件であり、救急外来受診は男性よりも女性で、より増加した[72]。
大麻の有害反応の内訳の参考としては、2018年~2024年までのカナダ保健省の、698件の自発的な報告のみによる有害反応データがある。報告は深刻なケースが443件とほとんどであり「入院」が最も一般的な理由だった。そして、「医療用大麻」の使用によるケースが471件とほとんどであった。有害報告は男性よりも女性においてより多く報告され、年齢が報告されたケースでは18歳から44歳のケースが多いが、2024年は45歳から64歳の症例報告が最も多かった。電子タバコ用リキッド、オイル、カプセル、スプレーなどの大麻抽出物製品による報告が最も多く、次いで乾燥大麻だが、食用大麻製品によるケースの割合が年々増加している[5]。
報告された有害事象の大半は「精神障害」に関連しており多い順に、幻覚、不安、不眠症、陶酔感、混乱状態、パニック発作、パラノイア(偏執病)、興奮、精神病性障害、自殺願望、見当の混乱、うつ病、悪夢などがあった。次に「神経系障害」で多い順に、頭痛、めまい、意識喪失、発作、眠気、震え、記憶障害、感覚異常、失神、脳血管障害、感覚低下、運動低下症などがあった。3番目は「一般的な障害および投与部位の状態」で多い順に、倦怠感、異常な感じ、胸の痛み、薬が効かない、痛み、疲労、悪化した状態、薬物相互作用、胸の不快感などがあった。4番目は「胃腸障害」で多い順に、吐き気、嘔吐、下痢、腹部の痛み、腹部の不快感、口渇、腹痛、カンナビノイド過敏症候群などがあった。5番目は「呼吸器、胸部および縦隔疾患」で多い順に、呼吸困難、喉の炎症、中喉頭の痛み、咳などがあった[5]。
2018年から2019年、2020年、2021年に最も一般的に報告された有害反応は「幻覚」だったが、2022年と2023年では「頭痛」、2024年は「呼吸困難」が最も一般的に報告された有害反応だった[5]。
2023年のアメリカ薬物乱用警告ネットワーク(DAWN)による報告でも大麻による救急外来受診は増加を続けており、アルコールを除き、大麻は最も多く救急部門で報告された薬物だった。大麻、次いでオピオイド(処方薬、フェンタニル、ヘロインなど)、メタンフェタミン(覚醒剤)、コカイン、ベンゾジアゼピン(睡眠薬・抗不安薬)の順で多く、また、薬物の多剤使用による救急外来受診においても、大麻はアルコールの次に最も多く報告された薬物だった[73]。
2024年の欧州連合薬物機関による、欧州薬物緊急事態ネットワークプロジェクトに参加している、成人を対象とした救急医療のデータでは、コカインと共に大麻は最も多く一般的に報告された薬物だった[4]。
薬物使用者の間では多剤併用は一般的であり、全体の65%で報告され、最も頻繁に報告された組み合わせは「大麻とコカインとアルコール」(66%)、次いで「大麻とコカイン」(64%)、「アンフェタミンとヘロイン」(50%)だった。単一薬物使用は残り全体の35%で報告され、最も頻繁に報告された薬物は「大麻」(22%)、次いで「コカイン」(15%)、GHB/GBL(10%)だった。その他、精神科病棟への入院割合にて、最も多い「アンフェタミン」(15%)に次いで「大麻」(8%)は多かった[4]。
大麻は全ての受診者のうち24%で報告され、受診者の中央値年齢は28歳、74%が男性だった。大麻とアルコールの併用摂取は、アルコール使用に関する情報があるケースの40%で報告された。大麻関連受診者の救急外来滞在の中央値は6時間、3%が集中治療室へ入院した[4]。
合法大麻企業による大麻系食品や高濃度大麻抽出物製品が流通しておらず、乾燥大麻の平均THC含有量も旧種の約3%であった過去においては大麻中毒の治療は主に精神的苦痛がある場合には安心させるような会話を行い、薬を使った治療は不要なことが多いとされていた[63]。大麻の過剰摂取や、恐怖感や罪悪感、不安感、ストレスなどにより、バッドトリップと呼ばれる嫌悪反応が起こることがあり、一過性の抑うつ、離人感、被害妄想などのパニック状態があるが[74]、バッドトリップは、主に適量や扱いが分からない未経験者が陥りやすく、対処法としてはリラックスできる環境に移り、安静にすることが良いとされており、またオランダのコーヒーショップでは、砂糖水を飲ませ落ち着かせるのが一般的であると過去はされていた[74]。なお、COVIDパンデミック前の2019年、オランダのアムステルダム病院の薬物問題による救急外来訪問は1222件、そのうち大麻が半数である49.8%を占め最大の原因であった[75]。
1994年のDSM-IVでの大麻中毒の診断基準Bは、「臨床的に著しい不適応性の行動的または心理学的変化」であり、誇大性、嗜眠、短期記憶の障害、複雑な思考が困難、知覚の変化、運動能力低下などが起こり、時に重度の不安や不快な気分、社会的ひきこもりが起こるとされている。
2013年のDSM-Ⅴでは、本人が大麻によって妄想や幻覚が生じていると認識している場合(現実検討できている)、精神病性障害ではなく中毒だと診断される[76]。
2022年のDSM-Ⅴ-TRでは、大麻中毒は大麻を使用する人はある時点で大麻中毒の基準を満たす症状を経験しているとされている。11-ノル-9-カルボキシ-デルタ9-テトラヒドロカンナビノール(THC-COOH)の検出はしばしば大麻使用の生物学的マーカーとして使用されている。大麻常用者の場合、THC-COOHの尿検査は最後の使用から数週間は陽性であることが多く、結果を確実に解釈するには尿検査法の専門知識が必要である。用途は限定的であるがしかし、陽性の結果は家族や友人の心配をよそに大麻使用を一切否定する人への対応に役立つことがある、としている[18]。
動物における毒性
『メルクマニュアル』によれば、吸引した場合のTHCのLD50(テストしたラットの内、50%に対して致死量)は、体重比にして42 mg/kgである[77]。別の文献で、経口摂取では雄ラットのLD50は1270 mg/kgであり、雌ラットは730 mg/kgである[78]。経口で致死的な過剰摂取状態に陥るには、カンナビノイド受容体を飽和させる量の40,000倍の量の大麻が必要である[79]。2022年、マリフアナが合法化されているカナダやアメリカで、マリフアナを接種して具合が悪くなるペットが増えている実態が、獣医師の調査で明らかにされており、イヌが死に至った症例も報告されている[80]。
LD50の比較
大麻依存症
乾燥大麻の平均THC含有量は、1980年代中頃や1990年代初頭の約3%から2022年には約16%に増加。2020年には食用大麻製品や大麻抽出物製品も登場。オンラインディスペンサリー(大麻販売店)で入手可能な大麻製品の研究では、平均THC濃度は22%、範囲は0%から45%と高THC濃度の大麻製品の供給を確認。その他では、吸引用の大麻抽出物でTHC濃度が最大90%に達する製品もあり、人々は1990年代に比べ、はるかに強力な大麻を使用している[9][1][7]。
大麻草・大麻製品のTHC高濃度化(強力化)、食用大麻製品・大麻抽出物製品など大麻製品の多様化によって、大麻依存症は精神的依存だけでなく身体的依存もある大麻使用者の約3人に1人が抱えるものとなっている[3][1][17][18][6]。
1994年に改定された精神医学の診断指針である 『精神障害の診断と統計マニュアル』第4版 (DSM-IV) により、薬物依存症の概念は変革を迎えた[85]。DSM-IVにおける薬物依存の診断には、身体依存を必要とせず、既存の依存の考え方を改定する物であり、それ以前までは、薬物依存の定義は確立していなかった[85][86]。これにもとづく新たな依存(精神依存)の考え方のもとで大麻の依存は研究されることとなり、大麻が薬物依存を起こすことの研究は、主に2000年代に入って行われるようになった。
過去1994年のDSM-IV の「大麻依存」の項には、大麻依存のある人では強迫的に使用するが、一般に身体依存はなく、離脱症状について臨床的に意義のある信頼性のある報告はないと記されていた。
しかし2013年のDSM-5において、「大麻離脱」の診断名が追加された。大量で長期の大麻の使用後に、使用の中止や相当な減量によって生じるとし、症状の程度は通常、臨床的な関与(看護・治療など)が必要となるほどではないと記されていた。依存と乱用が使用障害に一本化されたため、診断名は大麻使用障害となった。
そして2025年現在、国際的な臨床診断ガイドラインの最新版である、ICD-11(『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』第11版)、DSM-Ⅴ-TR(『精神疾患の診断と統計マニュアル』第5版改訂版)にも「大麻依存症」は明記されるものとなった[17][18]。
大麻依存症とは、大麻の反復使用または継続使用から生じる大麻使用の調節障害。大麻使用への強い内的欲求・渇望または衝動、意図していた量を超える使用または減量努力の不成功などの大麻使用制御能力の低下、他の活動よりも大麻使用を優先する傾向の増加、社会的・対人的問題や身体的または精神的問題が持続的または反復的に起こり悪化しているにもかかわらず使用を続けること、が特徴。大麻の効果に対する耐性、大麻の使用をやめたり減らしたりした後の離脱症状、または離脱症状を防ぐ・軽減するために大麻や類似した他の薬物を繰り返し使用する生理的特徴(身体的依存)が現れることもある[17][18]。
大麻初回使用時の「何だ、こんなものか」といった反応、大麻へのポジティブな反応は、後の大麻依存症を発症するリスク因子の一つである。大麻常用者の中には、ほとんどの日、ほとんどの時間、大麻に酩酊しているか、大麻の影響下で低下しているにもかかわらず、大麻の影響下やその影響からの回復に過剰な時間を費やしていると認識しない人がいる。大麻の使用は無害であるという誤った認識が一般的になりつつあるため、大麻依存症の症状が大麻に関連していることを大麻依存症者が認識しない場合があり、特に複数の薬物依存症を有する場合、大麻に関連する社会的、行動的、心理的問題を大麻と結びつけようとしない。家族や刑事司法制度から治療目的で医療機関を紹介されて来た大麻使用患者は、大麻の大量使用や関連問題における大麻の役割を否認するのが一般的である[18][48][87]。
こういった大麻依存症者の心の中として「とりあえず、自分がハイになることばかり考えていますので、忠告や心配は耳に入りません。一瞬はその忠告を真に受けることもありますが、すぐに忘れてしまいます。自分には大麻が必要だと信じている間はやめようという気はありません。また周りに大麻を吸う人が多い分、大麻をやめようという気は滅多に起きません。それでも、稀なことですが、ふとした時にやめようと思うことがあります。しかし再び大麻を吸えば、やめようと思ったことすらも馬鹿馬鹿しいことのように思えてくるのです。また自分が人を裏切っているという自覚もあります。だけどやめない、やめたくない、やめれない、吸いたい。だからむしろ大麻使用を理解してほしいと思っています。いずれ大きな問題になりそうな予感があるが、どうすることもできない。」という経験者談がある。そして、恋人に勧められて大麻を使用してしまう女性も多いと述べている[88]。
また参考として、警察や厚生労働省の手が入っていない自然な客観的な非大麻常用者から見た大麻常用者の様子が個人のカナダ留学記にある。目がとろんとしている、焦点が定まっていない、ハイテンション、力が抜けた感じ、深夜に冷蔵庫を漁り動物のように食べ物を貪る(マンチ、マンチー)、攻撃的になる、空咳が多い、大麻喫煙後長時間寝続ける、大麻使用中は機嫌が良いが効果が切れたら攻撃的になる、物凄く当たりが強くなることも、とあるがこれはアメリカ精神医学会によるDSM-Ⅴ-TR(『精神疾患の診断と統計マニュアル』第5版改訂版)にも記載されている大麻使用者の特徴「慢性咳嗽、意欲喪失症候群、特定の食物(甘い食物、脂肪の多い食物)に対する過度な渇望や衝動が時には昼夜を問わず異常な時間帯に認められる」、大麻中毒の症状「不適切な笑いと誇大性を伴った多幸症、嗜眠、食欲亢進、判断低下」、大麻離脱症候群の症状「易怒性、怒りまたは攻撃性、神経質または不安、興奮」である[18][89][12]。
留学やワーキングホリデーなどで海外に長期滞在中は、短期以上に薬物の誘惑が多く、ルームメイトが大麻常用者であったり、麻薬を当然のこととする雰囲気や友人の誘いで「いつでもやめられる」と思いつつ、大麻にはまってしまう人が多い。留学記にも、お酒と一緒のような感じ、依存性はない、一回だけなら大丈夫と大麻使用に誘われ、日本人も流され、特に男性が大麻を使用するようになる、とあるが「男性であること」さらに「男性でありタバコを吸うこと」は大麻依存症のリスク因子である。男性は女性よりも危険な大麻使用を報告する可能性が常に高い一方で、大麻離脱症に関しては、女性の方がより重度の報告をすることが多く、潜在的な大麻依存症への移行の速さ(テレスコーピング)に寄与している可能性がある。また、以前の大麻使用は、後の処方オピオイドの乱用を男女共に発症させるが、アルコール、タバコの使用は女性には、後の処方オピオイド乱用との関連性はない。また、タバコ依存症、アルコール依存症のいずれも、単独では大麻依存症のリスク因子ではないが、男女両方において大麻依存症はタバコ依存症、アルコール依存症のリスクを増加させる。そして、他の薬物依存症からの回復においても、大麻使用はアルコール依存症の再発だけでなく、複数の薬物乱用および特にコカイン依存症再発のリスクを増加させる[90][91][92][12][18][17][89][93][94]。
また、大麻依存症は関連して、心理社会的、認知的、および健康的機能の多くの領域が低下する可能性がある。大麻使用者は、大麻が体から抜けている状態であっても認知機能、特に高次実行機能が累積容量依存的に低下、複雑な思考、論理的思考を行うことができなくなり、社会での困難を助長する可能性がある。大麻の使用は生活満足度の滴下、精神保健の問題による治療や入院の増加と関連する[18]。
ICD-11、DSM-Ⅴ-TRにおいても「社会的、対人的問題が起こり悪化しているにもかかわらず使用を続けること」は大麻依存症の診断基準の一つだが、留学記において大麻常用者のルームメイトは、食べ物を漁った後共同キッチンを散乱させたままにする、攻撃的になり他人に強く当たる、ルームメイトに引っ越しを決意させるなどを行っており診断要件の一つを満たしているようにみえる、しかし、大麻の医療または娯楽としての使用は、文化的、社会的に許容されたり許容されなかったりする。芸能界における薬物使用や、反対に、一部の社会においては文化的に女性の薬物使用が受け入れられない場合があり、臨床現場においても薬物使用を認めることに消極的になることがある。1990年代以降、大麻関連の問題で治療を求める人の数は増加しているが、大麻依存症をもつ成人のうち、過去1年間に何らかの治療を受けたのはわずか7~8%とされており、大麻依存症は深刻な治療不足の状態にある疾患であることが示唆されている[18][17][89]。
カナダにおいて、医療用大麻は「医療目的で使用する大麻」のことであり娯楽用大麻と同じ物である。処方薬では無いため治療効果を謳うことは禁止であり、保険の適用や消費税の控除を受けることもできない。科学的・医学的根拠に基づいた慣行や従来の医療の範囲外であり、薬物を使用する自由の権利によって認められている「信念に基づいた特別な医療アクセスプログラム」である[72][95]。
カナダ政府は公式サイト上に「一般的な『信念』とは反対に、人々は大麻に依存する可能性があります」と、大麻が安全だとの人々の誤った認識を否定し大麻のさまざまな健康への悪影響を掲示、「カナダの大麻:事実を知ろう」でも、「健康を守る最良の方法は、大麻や大麻製品を使用しないことです」と繰り返し注意喚起している[96]。
また、日本と同じように、大麻は合法化されたのだから安全だと人々が考えているアメリカでは、「よくある質問」にて、アメリカ疾病予防管理センターが「大麻が一部の州で医療または非医療の成人使用のために合法であるという事実は、それが安全であることを意味していない」と大麻の危険性を明言しており、アメリカの他の保健機関と同様、大麻のさまざまな有害性とメンタルヘルスを含む健康への悪影響を掲示し注意喚起を行なっている[62][8]。
薬物依存症に完治はなく寛解である。薬物依存症とは一生やめ続ける病である。大麻の場合、以前に大麻依存症を経験したことがある一部の人は、最後に大麻を使用してから何か月も経った後でも、大麻使用をやめた際の症状に似た症状を一時的に経験することがある。いわゆるフラッシュバックである。特に、薬物関連器具を見る、頻繁に薬物を使用していた場所を訪れるなど、その人が過去の大麻使用に関連していた刺激や状況に遭遇した場合に顕著である[17][97][98][99]。
アメリカへの留学で大麻を覚え、麻薬取締法違反の疑いで逮捕された俳優は、現地で初めて大麻を吸い、帰国後も高揚感が忘れられず時々吸うようになり、俳優の仕事が軌道に乗り始めた2年ほど前から使用量が増え、逮捕前には月に数回ペースで吸うようになっていたという。大麻は直接脳に作用し、依存行動に関与する認知機能の神経基盤などに影響を与える。特に脳の報酬反応において、アルコールやタバコ(ニコチン)の使用とは独立した、顕著な鈍化が観察されている。こういった脳の変化は持続的である可能性があり、後の人生においても依存行動に関与するリスクを高め、再びの大麻使用または大麻以外の薬物使用(ゲートウェイドラッグ)を引き起こす可能性がある。そのため、薬物依存症は「再発生の疾患」とみなされている。また、薬物依存症者はたとえ覚醒剤使用者であっても「自分はうまくコントロールして使っている」といった具合に事実を自分に都合よく歪めてとらえ、いわば「自分で自分を騙す」のが薬物依存症者の特徴であり、日本では「否認の病」とも言われている[100][101][18][97][98][99]。
大麻依存症の危険リスク、予後リスクには、遺伝要因と生理学的要因、気質要因、環境要因など個人差がある。また人の人生には就職、転職、退職、自身や家族の手術や入院、家族やペットの死などの重大ライフイベントがあり、これらに対処するために大麻などの薬物を使用、再開をし始めることもある。大麻を1度でも試したことのある5人に1人は、一生涯に渡って大麻依存症の高いリスクがある[102][103][98][18]。
大麻常用者は、気分、不眠、怒り、疼痛などの症状に対処するために大麻を使用するとしばしば述べる。そして、大麻依存症と診断される人は、うつ病、双極性障害(躁うつ病)、不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)および反社会性パーソナリティ障害(人格障害)などの精神病疾患の合併も一般的である。慎重に検討すると大麻の使用そのものがこうした症状を悪化させている。大麻の急性作用として、不適切な笑いと誇大性を伴った多幸感があるが、これを治療効果として混同している可能性がある。他の急性作用として鎮静、抗不安、嗜眠もあるが、大麻の離脱症状はこれらとは反対のものであり特に睡眠障害は長期化しうる。また、大麻使用は急性精神病エピソードの発症に寄与し、既存の精神疾患の症状を悪化させたり発作を引き起こす場合もあり、主要な精神病性疾患の治療に悪影響を及ぼす可能性がある。さらに、大麻使用は自殺、自殺未遂、自殺念慮と関連しており、複数の社会人口統計学的要因、精神疾患や他の薬物依存症の併存、過去のトラウマなどの交絡因子を調整しても、大麻依存症は自殺性および非自殺性両方の自傷のリスク上昇と関連している[17][18][12][19][36][104][12]。
大麻依存症はどの年齢においても発症し、リスクの分散全体に占める遺伝要因の割合も30~80%ある。最も発症が多いのは青年期と成人初期であるが、医療用・娯楽用大麻の認可、使用が拡大している地域では高齢者(55歳以上)の大麻中毒者、大麻依存症者が増加しており、酩酊やめまい(起立性低血圧)などによる外傷、心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中など)、不安障害などのより高いリスクが懸念されている[1][18][11][17][12][8]。
また、大麻は人間の目にも影響を与え、とろんとした目、焦点が定まっていない目は大麻使用者の特徴であり、大麻中毒の徴候または症状にも「結膜充血(血走った目)」があるが、過去1970年代と1980年代の研究では眼圧を下げる可能性が示され緑内障への治療効果が期待されていた。しかし、大麻が眼圧に影響を与える時間は数時間と短く、既存の治療法ほどの効果はないことが示された。大麻・医療用大麻の限界の一つとして、病気に及ぼす効果は一般的に控えめであり、より効果的な医薬品が存在するため第一選択治療薬ではない、がある。医療用大麻は、既存の治療薬が効かない薬物抵抗性のある患者のために本来は使用されるものである。また、カンナビノイドの一つであるCBDには眼内圧を上昇させる可能性があることが示唆されており、繰り返し使用することで時間の経過と共に目に損傷を与える可能性があることから、緑内障をもっている人へCBDを含む製品を使用する際の注意喚起がされている[1][11][19][89][18]。
アメリカ精神医学会は『精神疾患の診断と統計マニュアル』第5版改訂版(DSM-Ⅴ-TR)にて「大麻依存症患者は、大麻への身体的依存によって起きている大麻離脱の症状や耐性により行っている自身の行動、大麻への精神的依存によって起きている社会的、対人的問題や身体的または精神的問題を否認または認識していない場合が一般的であり、大麻依存症の症状の過少申告や大麻の使用量や使用頻度の過小申告が行われる場合がある。そのため、こういった大麻使用者の特徴的な目、慢性咳嗽、香を炊くことなどの、大麻使用、大麻中毒その他の特徴を知っておくことは大麻依存症の評価を容易にする」と記載している[18]。
有病率
公的機関も認めている、人が大麻依存症になるリスクは、「大麻を1度でも試したことのある人」では10人中1人、「青年期に大麻を使い始めた人」では6人中1人に上昇し、「毎日・ほぼ毎日大麻を使用する人」では4人中1人~2人中1人にまで上昇する[19][48][105]。
しかし、世界的に大麻使用が拡大した結果、2013年の時点で、「大麻を1度でも試したことのある人」の大麻依存症発症リスクは最大4人中1人(27%)にまで増加している[102][103]。
薬物依存症の最も大きな要因は、入手可能性の向上、入手しやすさである。大麻の娯楽使用が合法化された地域に居住していると大麻依存症のリスクが高まる[18][12]。
欧州連合薬物機関は研究プロジェクトの報告書において「大麻を1度でも試したことのある人」のうち8~22%が大麻依存症を発症、「若年者で定期的に(週1回または毎日)大麻を使用する人」では33%(22~44%)に上昇するとしている[103]。
アメリカ疾病予防管理センターは、大麻使用者の約3人に1人が大麻依存症を抱えているとしている[3]。
2025年の欧州連合薬物機関の報告では、欧州連合の15歳~64歳の約1.5%(430万人)が毎日またはほぼ毎日大麻を使用していると推定されており、これらの人々は薬物使用に関連する問題を経験する可能性が高いとしている。大麻はヨーロッパにおける全ての薬物治療入院の3分の1以上の原因であると報告されており、初めて治療を受ける人(再入院ではない人)を考慮すると、その割合は2分の1以上に増加する。刑事司法制度からの紹介による患者が約4分の1いるが、自分の意思で治療を受け始める人が最大であり2023年では45%だった[106][107]。
大麻の治療を初めて受ける人の大多数は男性であるが、女性の割合が増加しており、2018年の16%から2023年は19%に上昇している。平均して、男性は大麻使用開始から約12年後、年齢は約28歳で初めて治療を受けるのに対し、女性は大麻使用開始から約10年後、年齢は約26歳で最初の治療を受け始める。2018年から2023年にかけて、大麻の使用開始から初回治療までの時間は長くなっており、男性では約4年、女性では約2年となっているが、初回使用年齢は男女変わらず約16歳であった[106][107]。
世界的に大麻依存症の治療の需要は著しく増加しており、国際麻薬統制員会の2022年の年次報告書においては、2000年から2018年の間に、大麻依存症および禁断症状(離脱症状)に関連する入院は8倍以上増加、大麻関連の精神病での入院は4倍以上増加。特にアフリカでは、大麻が薬物治療の需要の大部分を占めており、他の地域よりもはるかに高い割合となっている、と報告されている[2]。
過去1994年のECA Studyで米国北部で調査された2万人のうち、4.4%がDSM-III-R基準での大麻の乱用あるいは依存症とし、その約5分の3は大麻依存症であるとする報告があった[108]。
2013年、依存症の診断がなく、週に3日以上の頻繁な大麻利用者600名を追跡し、3年の間にDSM-IVにおける大麻依存症と診断された累積の発生率は、約37%であった[109]。
2018年の世界保健機関の報告書は、使用障害の推定値は幅があり大麻では典型的には10-11人に1人(9-10%)とされるが、大麻使用障害となる人は少ないため、有病率など信頼できる傾向を見出すのは難しいとしていた[58][注釈 1]。
2022年、診断基準が異なるため、大麻使用者のうち大麻使用障害が22%(依存と乱用の概念を含む)、大麻乱用が13%、大麻依存症が13%だと導き出された21研究からのメタアナリシスがある[110]。
依存性の比較
栽培技術の向上により乾燥大麻の平均THC含有量は年々強化されており、1980年代中頃や1990年代初頭の約3%から2022年には約16%に増加している。2020年には食用大麻製品や大麻抽出物製品も登場。オンラインディスペンサリー(大麻販売店)で入手可能な大麻製品の研究では、平均THC濃度は22%、範囲は0%から45%と高THC濃度の大麻製品の供給を確認。その他では、吸引用の大麻抽出物でTHC濃度が最大90%に達する製品もあり、人々は1990年代に比べ、はるかに強力な大麻を使用している[9][1][7]。
参考として、アメリカで行われる「アルコールおよび関連疾患における全国疫学調査」(NESARC)の調査年、「WaveⅠ」2001~2002年の乾燥大麻THC平均含有量は『6.11~7.2%』、「WaveⅡ」2004~2005年の乾燥大麻THC平均含有量は『8.02~8.14%』、「NESARCⅢ」2012~2013年の乾燥大麻THC平均含有量は『11.13~12.27%』である[9]。
2004~2005年の「WaveⅡ」を対象とした、DSM-Ⅳに基づく大麻依存症の生涯罹患リスク(大麻を1度でも試したことのある人が生涯大麻依存症を発症するリスク)は『8.9%』であった[111]。しかし、2012~2013年に行われた「NESARCⅢ」を対象としたDSM-Ⅴに基づく大麻依存症の生涯罹患リスクは『27%』に増加していた[102]。
2025年、欧州連合薬物機関は大麻依存症の生涯リスク(大麻を1度でも試したことのある人)を『8~22%』、若年者で定期的に(週1回または毎日)大麻を使用する人では『33%(22~44%)』に上昇、としている[103]。
乾燥大麻の平均THC含有量が『6.11~7.2%』、大麻の生涯罹患リスクが『8.9%』であった2004~2005年のNESARC「WaveⅡ」を用い、「依存症への生涯累積確率(生涯罹患リスク)」「その薬物の初回使用から薬物依存症への移行までの期間」「その薬物依存症だけでなく追加の薬物依存症を持っている人の率」を比較した表は以下である[111]。
| 生涯罹患リスク | 使用から移行 | 追加の薬物依存症率 | |
|---|---|---|---|
| ニコチン | 67.5% | 約27年 | 約50% |
| アルコール | 22.7% | 約13年 | 約30% |
| 大麻 | 8.9%
(現在8〜22%) |
約5年 | 約80% |
| コカイン | 20.9% | 約4年 | 約90% |
過去2004~2005年においても、依存症への生涯累積確率(生涯罹患リスク)は「ニコチン」が最も高く、使用から依存症への移行は「コカイン」と「大麻」が早かった。この研究では、大麻やコカインの使用から依存への迅速な移行、つまり医療介入期間の短さは、大麻やコカイン使用者への積極的な予防介入の必要性を強調していると指摘している。また、他の物質の使用および依存は依存症への移行リスクを高めることが示されており、この参加者においては、大麻使用者の80%以上、コカイン使用者の90%が追加の薬物依存症を有していた[111]。
2022年の「精神疾患の診断と統計マニュアル」第5版改訂版(DSM-Ⅴ-TR)では、こうした大麻のゲートウェイドラッグ性を「併存症」としている。大麻依存症は、タバコ、アルコール、コカイン、オピオイドなど他の薬物依存症と高頻度で併存する。大麻依存症があると、他のいずれかの薬物依存症をもつ危険が約9倍になる。大麻は「依存への入り口薬物、ゲートウェイドラッグ」として広く認知されてきており、大麻を使用する人は非使用者に比べて、大麻以外のより危険な物質、オピオイドやコカインを、後々、一生の間に使用する確率が大幅に高くなる[18]。
大麻依存症の治療を希望する成人のうち、その多く(63%)がアルコール、コカイン、メタンフェタミン・アンフェタミン(覚せい剤)、ヘロイン、オピオイドなどの第2、第3の物質の問題のある使用を報告し、主診断が他の薬物依存症である人にとっても、大麻はしばしば第2、第3の問題である。治療を受けている青年のうち、大麻は主要な物質であることが多い(76%)。アメリカでは2010年頃から、人々の大麻使用の有害性への認識が低下した影響により、アルコールやタバコよりも、大麻が青年期に使用される最初の精神作用物質となる傾向が強まっている、としている[18]。
2024年の欧州連合薬物機関による、欧州薬物緊急事態ネットワークプロジェクトに参加している、成人を対象とした救急医療のデータでも、大麻はコカインと共に最も多く一般的に報告された薬物であり、大麻のゲートウェイドラッグ性はヨーロッパでも変わらず報告されている[4]。
薬物使用者の間では多剤併用は一般的であり、全体の65%で報告され、最も頻繁に報告された組み合わせは「大麻とコカインとアルコール」(66%)、次いで「大麻とコカイン」(64%)、「アンフェタミンとヘロイン」(50%)だった。単一薬物使用は残り全体の35%で報告され、最も頻繁に報告された薬物は「大麻」(22%)、次いで「コカイン」(15%)、GHB/GBL(10%)だった。その他、精神科病棟への入院割合にて、最も多い「アンフェタミン」(15%)に次いで「大麻」(8%)は多かった[4]。
大麻は全ての受診者のうち24%で報告され、受診者の中央値年齢は28歳、74%が男性だった。大麻とアルコールの併用摂取は、アルコール使用に関する情報があるケースの40%で報告された。大麻関連受診者の救急外来滞在の中央値は6時間、3%が集中治療室へ入院した[4]。
世界保健機関(WHO)は過去1997年の報告書において、「大麻使用者の人口的比率がアルコールまたはタバコ使用者の比率と比較してはるかに少ない場合、大麻による公衆衛生に対する危険性の程度は表面的な状況に基づいて判断されるため、アルコールまたはタバコの害よりも低く評価される傾向がある。」と指摘、「ほとんどの大麻使用者は、他の薬物の使用者でもある点は強調されなければならない。複数の薬物使用のリスクは加算的であるはずであり、公衆衛生の観点からは、大麻を含む全ての薬物使用から生じる総合的なリスクを評価する方が効果的である。」と大麻のゲートウェイドラッグ性も指摘しており、さらに「大麻使用者が少ない社会において、大麻が公衆衛生に及ぼす深刻性は、調査が不足してしまうために実際にはアルコールやタバコの危険性ほどには理解されていない。そのような社会の住人について、精神活性物質使用の影響を調査・比較しても、そのデータの有効性は限られている。」と指摘していた[112]。
そして、「私たちは、タバコやアルコールと同様の量と頻度で大麻を使用した場合の健康影響、社会的影響について知る権利がある。アルコールおよびタバコの乱用防止に対する政策が注目を集めているときに、アルコールおよびタバコと同一の範疇に特定の薬物を加えることは、歴史的に重大な誤りである」と警告している[112]。
経過
2025年現在、「大麻を1度でも試したことのある人」のうち『8~22%』が大麻依存症を発症、「若年者で定期的に(週1回または毎日)大麻を使用する人」では『33%(22~44%)』に上昇、大麻依存症への進行は『約5年』とニコチン(27年)、アルコール(13年)よりも迅速であり、『約3人に1人』が大麻依存症を抱えている[103][102][3][111]。
大麻はヨーロッパにおける全ての薬物治療入院の3分の1以上の原因であると報告されており、初めて治療を受ける人を考慮するとその割合は2分の1以上に増加する。刑事司法制度からの紹介による患者も約4分の1いるが、自分の意思で治療を受け始める人が最大であり2023年では約半数である[106][107]。
欧州連合薬物機関は、2025年のヨーロッパにおける治療方法に関する報告書において、大麻依存症治療は世界の他の地域でも高い割合を見せており、過去10年間で大麻依存症およびそれに関連する精神的、身体的、社会的問題に対する治療の必要性が増加していると報告している。認知行動療法(CBT)、動機付け強化療法(MET)、コンティンジェンシーマネンジメント(CM)は大麻使用および大麻関連の問題を大幅に減少させる可能性はあるが、「長期の禁薬は一般的な結果ではありません。大麻使用や大麻依存症に対して承認された薬物療法はありません。」と報告している[103]。
過去2001~2002年、アメリカ全国疫学調査(NESARC)「WaveⅠ」(大麻平均THC含有量6.11~7.2%)において、DSM-Ⅳに基づく大麻依存症と診断された444人を対象とした、大麻使用をやめることなく大麻依存症を寛解した患者の割合に焦点を当てた研究では、約3分の2である67%が3年後の追跡調査時に寛解(診断を満たさない)しており、その内の37%は完全断薬ではなく大麻使用を継続したままの寛解だった。67%の寛解は、大麻依存症の性質が以前報告されていたよりも不安定である可能性を示唆している、と報告している[113]。
2015年、DSM-IVの大麻依存症の基準を満たす207人を追跡した研究では、持続的依存型28%、安定した非持続型40.6%、遅発性持続型19.9%および再発依存型13.5%の4グループに区別された。1年半時点と3年後にも依存症であったのは28%で、どちらの時点でも依存していないのは約40%であった。3年後の時点で持続的依存型は他の非持続型3グループよりも有意に重度の大麻使用および大麻関連の問題を報告した。しかし、大麻関連の問題に対する治療を求めることは稀であり、持続的依存型でも15.5%にとどまった。大麻依存の持続性は低く予測は難しいが、依存が持続しやすいと思われる依存・乱用の症状数の多い人への治療介入が効果的である可能性があるとしている[114]。
2020年、インドにおいて依存症治療施設に登録されている、オピオイド依存症患者100名からの横断的インタビューベースの研究では、大多数が大麻依存症の追加診断を満たしたと報告している[115]。
100名のうちICD-10の基準で58名が、DSM-5の基準では74名が大麻使用に関する障害(ICD-10では依存症・DSM-5では使用障害)も追加でもっており、DSM-5における重症は32名で、一番合致した診断基準は「薬物の効果への耐性」であり、ほかに薬物への渇望、離脱が一般的であり、職業など重要な活動が薬物使用によって減るといった基準は最も満たされなかった。29人では苦痛度が高いため離脱症状の診断に合致する。大量かつ長期に用いた72人中29人、約40%に離脱症状が起きた[115]。
また、1ヶ月以上大麻をやめた理由として最も一般的な理由が「オピオイドの使用を開始する」だったことから、この「大麻のゲートウェイドラッグ性」は治療上の意味を示唆しており、大麻使用停止を試みる場合、他の薬物使用の出現の可能性を考える必要があると指摘している[115]。
臨床医にとっての示唆として、このようにオピオイド依存症など他の理由で来院した患者において、同時に存在する「大麻依存症」に対処することや、再発のリスクである「大麻への渇望」「仲間の影響」などの障壁に注意を払うよう報告している[115]。
また、参加者の大多数は週に4回以上大麻を使用していたが、過半数が大麻を始めるたびに「いつでも大麻をやめることができる」と答え、約4分の3は「大麻のせいで普段行っていることができなくなることはない」と感じており、約半数は「大麻を手に入れること、使用すること、またはその影響から回復することに多くの時間を費やしていない」と感じていましたが、半数未満が「大麻に起因する記憶力や集中力の問題を抱えている」と感じていました。そして、圧倒的多数が物理的に危険な状況で大麻を使用したことを認めました。しかし、大麻依存症だけの治療を求めたのはわずか7人だけでした。著者はこういった「患者がこの問題の治療を求める必要性を認識していない」ことを大麻依存症のユニークな側面であると述べている[115]。
依存の治療
2025年の欧州連合薬物機関(EUDA)の研究プロジェクトによる報告書は、イギリスおよびEUDAに加盟している29カ国全ては、一般的な薬物使用プログラムを通じて大麻依存症の治療にかなりの資源を投入していると報告しており、イギリス、ベルギー、ルーマニアにおいては大麻治療専門のクリニックも登場したと報告された[103][116]。
これらのセンターは、大麻依存症と統合失調症、その他の併存する精神病疾患に特化しており、精神病疾患と大麻依存症を併発している患者の治療に限定されている。臨床評価、解毒、入院治療、日帰りケア、長期リハビリテーションを提供する。介入は患者の個別のニーズに合わせて行われ、学際的な治療チームが医療的、社会的、心理的ニーズの全範囲に対応することで、大麻の断薬、大麻使用の減少、精神病疾患の良好な予後、生活への参加と満足度といった治療効果を促進するとしている[103][116]。
欧州連合薬物機関は、大麻の依存症治療は世界的に高い割合を見せており、過去10年間で大麻依存症およびそれに関連する精神的、身体的、社会的問題に対する治療の必要性が増加している。認知行動療法(CBT)、動機付け強化療法(MET)、コンティンジェンシーマネンジメント(CM)は大麻使用および大麻関連の問題を大幅に減少させる可能性はあるが、「長期の禁薬は一般的な結果ではない。大麻使用や大麻依存症に対して承認された薬物療法もない。」と報告している[103]。
大麻依存症からの回復過程に関する実証研究は少ないとされているが、大麻使用をやめた人々を対象とした4つの研究では、以下が参加者から一般的に回答されたことである[117]。
- 大麻使用をやめることができた理由:感情の成熟、新たな役割・責任を引き受けた。
- 最も役立つ戦略:環境を変える。
- 最も役立たない戦略:専門家からの助け。
- 大麻問題を解決できた主な理由:大麻をより否定的に見るようになった。より多くの悪影響を経験した。起こした変化がより広いライフスタイルの変化に関連していた。
- 禁薬に役立つ戦略:大麻使用に関連しない活動への参加。使用トリガーの回避。ライフスタイルの変更。
唯一の前向き研究では、200人の長期大麻使用者のグループを1年間追跡。その期間のうち約3分の2が使用を減らすか停止しようと試み、その変化の試みの主な理由は「身体的または心理的な健康への影響。使用への飽き。使用量の多さへの懸念。金銭的な問題。ライフスタイルの状況」だった[117]。
これらの先行研究を踏まえ2018年、大麻の使用率そして大麻依存症の発生率が上昇しているアメリカで、エビデンスに基づく臨床実践の参考とする目的に、複数の回復経路における大麻依存症からの回復プロセスの調査をする一つの研究が行われた[117]。
生涯では大麻依存症の基準を満たすが、過去1年では基準を満たさない119名を対象に、薬物依存治療の助けを借りて回復した人(治療支援グループ)、助けを借りず自力回復を選んで回復した人(自力回復グループ)に分類し、その回復経路として、大麻使用を完全に断って回復した人(断薬志向)、大麻使用を減少させるが使用は続けたままで回復した人(節制志向)の違いをもたせた[117]。
なお、治療支援グループと断薬志向グループは自力回復グループと節制志向グループに比べ、一生涯に渡る大麻問題の重症度が高い(アルコールやヘロイン、ギャンブルなどの他の依存行動でも同様)[117]。
・参加者が認識していた大麻依存症の原因[117]
- 対処のための大麻使用(43.7%):逃避、自己治療、感情的な問題の回避。
- 環境・社会的影響(41.2%):仲間からの圧力、大麻使用者と一緒にいること。
- 大麻の楽しさ・生活の退屈さ・大麻への肯定的な認識(23.3%):ハイになることの楽しさ、生活の退屈さ、大麻がなんらかの形で役立つまたは楽しいと感じる肯定的な認識(心を高める・広げる、哲学的または馬鹿げた環境を作る)。
以下「中毒性のある性格」「遺伝学・素因」「習慣・依存・中毒」「コントロールの喪失」「大麻自体の中毒作用」「実際には問題は存在しなかった」「自己否定・自己欺瞞・無知・自己選択」と続き参加者は、これらが大麻問題の発展に寄与したと考えていた[117]。
治療支援グループは「対処のための大麻使用」および「遺伝・素因」を支持する可能性が高く、一方で自力回復グループは「楽しみ・生活の退屈・大麻に対する肯定的な認識」を支持する可能性が高かった[117]。
参加者が特に挙げた「対処のための大麻使用」「環境・社会的影響」「大麻の楽しさ・生活の退屈さ・大麻への肯定的な認識」は、大麻依存症の病因に関する研究と一致しており、「対処のための大麻使用」が大麻依存症の発症と関連していることは明らかになっている。また、低い親の監督、高い仲間集団の逸脱行動、大麻の入手可能性といった「環境・社会的影響」が大麻の使用開始を予測することが分かっており、「大麻の楽しさ・生活の退屈さ・大麻への肯定的な認識」といった大麻の危険性の認識は大麻使用の頻度と逆相関することが報告されている[117]。
また興味深いことに、以前この参加者の大麻使用動機測定に対する反応を報告しており、その結果、参加者は生涯を通じて最も頻繁に大麻をしようした動機として「自己向上の動機」を挙げ、次いで「社会的動機」、「対処動機」、「意識拡張動機」、「適合(規範順守)動機」の順で使用していることが示されていた。これは、参加者は「対処動機」が自身の大麻問題の発展に最も大きく寄与していたと考えていた一方で、実際には「自己向上の動機」、「社会的理由」など他の目的で大麻をより頻繁に使用していたことを示しており、参加者達の生涯に渡る大麻使用の広がりを浮き彫りにしている[117]。
治療支援グループは、自力回復グループに比べて「遺伝学・素因」を支持する傾向が強かったのに対し、後者の自力回復グループは「楽しみ・生活の退屈・大麻に対する肯定的な認識」を理由に挙げる傾向が強かった。治療支援グループが「遺伝学・素因」を大麻依存症の原因として、より容易に認識したことは、治療中にこの依存モデルを学んだ可能性もあるが、家族の依存問題の報告頻度が高いことを踏まえると、彼らの大麻依存症が比較的かつ実際に遺伝的要因によって、より影響を受けている可能性もある。大麻使用および大麻依存症には遺伝的な要素があるという確固たる証拠は確かに存在する[117]。
・参加者が認識していた回復成功の要因[117]
- 変化の理由に焦点を当てた(36.1%):変化の理由と目標達成について考えたこと。
- 変化への目標コミットメント(31.9%):強い動機と変わるという約束したこと。
- 自己否認・自己欺瞞の克服(25.2%):自己認識の獲得や大麻が問題であるとの自覚ができたこと。
以下「治療・セルフヘルプ(自助グループなど当事者解決)」「宗教的・精神的な指導」「意志力」「大麻使用の楽しみを失った・ライフスタイルの変化」「社会的支援」「刺激制御・回避・社会環境の変化」「根本的な問題の克服」「運・渇望の欠如または離脱」「他の人の助け」と続き参加者は、これらが大麻依存症からの回復の要因と考えていた[117]。
治療支援グループは「治療・セルフヘルプ(自助)」や「根本的な問題の克服」を支持する傾向が高かったのに対し、自力回復グループは「変化の理由に焦点を当てた」「意志力」「大麻使用の楽しみを失った・ライフスタイルの変化」を支持する傾向が高かった[117]。
回復の使用状況では違いは見られなかったものの、治療支援グループは「治療・セルフヘルプ(自助)」の理由で大麻の問題を克服し、「根本的な問題の克服」を乗り越えたと認識している傾向が強かったのに対し、自力回復グループは「変化の理由に焦点を当てた」「意志力」「大麻使用の楽しみを失った・ライフスタイルの変化」といったカテゴリを挙げる傾向が強かった。これらの結果は、参加者が回復の成功を認知的および動機付けの要因に帰属させたことを示しており、認知的戦略が最も役立つ行動であり、回復に関与する維持要因であることを示した以前の研究分析と一致している。これらの結果は大麻依存症の治療におけるCBT-METアプローチを支持するものであり、認知的および動機付けの焦点を高めることが、心理社会的治療を改善する一つの可能性があることを示唆している[117]。
・参加者から他の誰かへ、回復への戦略的なアドバイス[117]
- 支援や社会的サポートを求めるよう勧める(37.8%):友人や家族あるいは正式な専門家の助けを含むさまざまな支援を求める。
- 変化の理由を振り返るよう勧める(26.1%):大麻使用の否定的な結果について考える、変わる理由、大麻無しでどのように生活がより良くなるかについて考えてみる。
- 趣味や気を紛らわせる活動に取り組むよう勧める(25.2%):目標や趣味、その他の活動に取り組むことで自分を忙しくさせる。
以下「刺激制御・回避・社会環境の変更を勧める」「前向きに考えるよう勧める」「自己否定・自己欺瞞に向き合うよう勧める」「変化は個人的な決断だと勧める」「根本的な問題・大麻使用の動機を見つけるよう勧める」「やめるよう勧める」「大麻や大麻依存症について調べるよう勧める」「精神的・宗教的な指導を求めるよう勧める」「適度な使用をするよう勧める」「わからない・答えがない」と続き参加者は、これらを他者の大麻問題を助けるためにアドバイスすると考えていた[117]。
治療支援グループ、断薬志向グループは「支援や社会的サポートを求めるよう勧める」を支持する可能性が高かった。自力回復グループは「変化の理由を振り返るよう勧める」「趣味や気を紛らわす活動に取り組むよう勧める」「刺激制御・回避・社会環境の変更を勧める」を支持する可能性が高かった[117]。
興味深いことに断薬志向グループと節度志向グループの間で違いは見られなかった。治療支援グループは「支援や社会的サポートを求めるよう勧める」というカテゴリを支持する傾向が強いのに対し、自力回復グループは「変化の理由を振り返るよう勧める」「趣味や気を紛らわす活動に取り組むよう勧める」「刺激制御・回避・社会環境の変更を勧める」というカテゴリを支持する傾向が強かった。これらの結果は、治療成果研究に参加した回復済みギャンブラーのサンプルが提供したアドバイスとは異なっており、そこで示された内容は「ギャンブルをやめるまたは減らす決断を助けるためにできることはほとんどない」というものであり、より少ない割合で「問題ギャンブルの負の結果を指摘して認知的不協和を引き起こす」などの気づきを促す戦略が示唆されていた[117]。
・参加者から他の誰かへ、回復方法の推奨[117]
- 専門的な治療(79.1%):大麻の問題に対する専門的な治療。
- 自己啓発の教材(76.9%):大麻の問題のための自己啓発の教材。
- 自力回復(53.2%):専門的な支援を受けずに自力で問題を克服。
「専門的な治療」や「自己啓発の教材」は大多数が支持した一方で、「自力回復」も半数強が支持した[117]。
興味深いことに、節制志向グループは、断薬志向グループよりも自力回復を支持する可能性が有意に高かったが、しかし回復経路を制御した場合、この関係が有意に残ったのは自力回復・節制志向グループではなく治療支援・節制志向グループのみだった。回復経路グループ別では、治療支援グループは「自己啓発の教材」の支持が有意に高い傾向があった。一方で自力回復グループは「自力回復」の支持が有意に高い傾向にあったが、しかし回復の使用状況を制御した場合、この関係は自力回復・断薬志向グループのみ有意だった[117]。
・参加者が大麻の使用を減らすべきか、完全にやめるべきか誰かに相談されたときの回答[117]
- 完全にやめるよう勧める(48.7%)
- 人による(24.4%)
- 減らすよう勧める(19.3%)
- どちらでもない、または両方(7.6%)
断薬グループは「完全にやめるよう勧める」を回答する可能性が有意に高かったが、しかし回復経路を制御すると、この関係は有意ではなくなった。さらに、節制志向グループは人にも「減らすよう勧める(節制)」を回答する可能性が有意に高かった。回復経路別では、治療支援を受けたグループは自力回復グループに比べて、人に「完全にやめるよう勧める」を回答する可能性が有意に高かったが、しかし回復状況を制御した場合、関係は有意ではなくなった[117]。
参加者の大多数は、大麻の問題を抱える仮想の人物に対して「専門的な治療」および「自己啓発の教材」を勧めると報告した。しかし、治療支援グループは自力回復グループと比べ、「自己啓発の教材」を勧める可能性が高く、一方で後者の自力回復グループは自力回復・節制志向グループに限り、自力回復を勧める可能性が高いことが分かった。興味深いことに治療支援・節制志向グループは他の参加者よりも「自力回復」を勧める傾向があり、これは彼らの目標と参加した治療プログラムの目標との間に適合性の欠如があると参加者が認識していることを反映している可能性がある[117]。
これら参加者のアドバイスが、将来的にどの程度影響を受けるかは、大麻依存症に対する使用の節制志向を重視した治療が利用可能になった場合においては不明である。さらに、参加者の大多数は大麻の問題を抱える仮想の人物には「断薬」を勧めると報告しており、予想通り、節制志向のグループは、断薬志向グループと比べて「節制」を勧める可能性が高かった[117]。
結論として、こうした実体験者からの洞察は治療支援による回復と自力回復が、回復プロセスに関してほぼ類似しているという先行研究をさらに支持するものである[117]。
参加者達の「ネガティブな感情への対処としての大麻使用」への頻繁な言及は、治療プロトコルや予防活動における感情調整トレーニングの導入強化を支持している。大麻に関する結果は他の物質に関するものとも一致しており、共通の要素に焦点を当てた横断的な病因および治療モデルへの関心の高まりを支持している[117]。
しかし、参加者達は治療支援を受けたかどうかに関わらず、「変わる理由」に集中し、「変化へのコミットメント」を強化するために、「治療」や「自己啓発の教材」の利用を勧めた。同時に助け無しで自力で回復しようとする個人の努力にも価値を見出していた。これらの結果は、患者の希望やニーズに応じて異なるレベルのサポートを提供する、段階的ケアモデルの開発を支持するものである。このようなモデルには、一次医療提供者による質の高いセルフヘルプ(自助)資料の提供や、治療プロセスに類似した自己主導型の努力を促進する公衆衛生の取り組みが含まれる場合がある、としている[117]。
2025年の欧州連合薬物機関の報告では、科学的根拠に基づく大麻依存症専門治療は少ないが、現在いくつかのアプローチが科学的研究で評価されているとして、オランダのオンラインプログラム「ICan」を一例として挙げている[103][118]。
「ICan」は、動機付け面接と認知行動療法に基づいたモバイル(ウェブ)アプリケーションで、スクリーニング、短期介入(6つのモジュール)および治療への紹介の3つの主要なコンポーネントで構成されている。ユーザーは自己診断テストから始め、自分で目標を設定し、その目標を達成するための計画を自分で立てることができる。その他、大麻使用記録カレンダーをつけることで、自分の大麻使用状況や断薬・減薬目標への進捗状況の把握、大麻使用をやめる・減らすためのサポート情報の提供、「ICan」ユーザー同士での大麻依存回復のためのヒントや経験の情報交換、SNSアプリを通じての週に1度の励ましメッセージなどがあり、3ヶ月大麻使用量を減少させることにおいて、非対話型の大麻情報教育を受けるよりは効果的だった[103][119][120]。
欧州連合薬物機関が報告している、大麻使用を減少させることに効果があることが証明されている予防プログラムの目的には以下が含まれている[121]。
- 社会的スキルと拒否スキルの育成
- 意思決定と対処能力の改善
- 薬物使用に対する社会的影響の認識を高める
- 仲間の間で薬物使用が一般的であるという標準の誤認の修正
- 薬物使用に伴うリスクに関する情報の提供
子供や若者が社会的および認知的発達の各段階において行動目標を達成できるよう支援することに重点を置いた、発達的アプローチが採用されている[121]。
過去10年間で、大麻依存症および関連する精神的、身体的、社会的問題に対する治療の必要性が増加している。ヨーロッパの半数の国では大麻使用者向けに特定の治療サービスが提供されており、対面プログラムを通じて行われている。オンライン治療はCOVIDパンデミック以来、より体系的に使用されるようになった。自動化された短時間のウェブベースの治療介入は、地方に住む人々を含む多くの患者のニーズをカバーする大きな可能性がある[103]。
しかし、欧州連合薬物機関の研究プロジェクト報告書は「改善の余地は依然として大きく、例えば大麻使用に関連する精神病疾患やその他の重度の精神病疾患を持つ患者など重篤な患者や、例えば子供や若年思春期、女性、妊婦、高齢者など特定の治療ニーズを持つ患者に対する治療のギャップは依然として大きい。大麻依存症治療プログラムは、家族やパートナー、社会環境との関わりもさらに強化する必要があり、大麻依存症が一般的に見られる刑事司法制度の現場、刑務所、学校、職業安定所、病院、救急部門など特定の環境で提供されるべきである。」と指摘しており、望ましい将来の方向性として、断薬、大麻使用の減少、生活の質やその他の臨床的転帰に利益をもたらすことが示されている、より多くのエビデンスに基づく治療介入の実施を挙げている[103]。
過去2006年の報告では、認知行動療法と動機付け報酬強化の併用を調査している。調査は、大麻依存と診断された参加者に対して、大麻をやめる代わりに商品券を受け取れるグループ(A)、認知療法を受けるグループ(B)、両方を受けるグループ(C)にわけた。3ヶ月後、Aグループ40%、Bグループ30%、Cグループの43%が大麻の使用を止めた。さらに12ヶ月の追跡調査の結果、Aグループ17%、Bグループ23%、Cグループの37%が使用中止を継続していた[122]。
2018年、治療についての広範な調査がある。心理社会的方法では、認知行動療法と動機づけ面接が筆頭であり、多くの研究でこの2つ療法の効果は同等でほかの心理療法よりも効果が高いとされ、それらの併用が最善である可能性があるが、マインドフルネスも研究中である。薬物療法では、CB1(カンナビノイド受容体タイプ1)作動薬、ガバペンチン(使用と離脱症状を軽減)、N-アセチルシステインなど一部の薬剤では、ひとつの研究でのみ(再現性がない)大麻使用障害の症状を改善することが示されていおり、抗うつ薬や抗精神病薬を含む他の種類の薬では効果が確認できず、タバコ禁煙におけるニコチンパッチと同じ原理となる置換療法(徐々に中止しやすくする)に注目があり、THC製剤やCBDが使われている[123]。400mgのCBDは、偽薬よりも効果的だというランダム化比較試験がある[124]。
2025年現在、アルコール依存症やニコチン依存症には存在する、承認された薬物療法は大麻依存症に対しては存在しない[103][125]。
大麻離脱症候群
大麻離脱症候群(大麻離脱)とは、大麻の常用を中止または減少させた際に生じる特徴的な離脱症状(禁断症状)。苛立ち、怒りなどの攻撃的な行動、不眠、悪夢、睡眠困難、興奮、落ち着きのなさ、神経質、不安、抑うつや気分の沈み、食欲低下や体重減少が含まれ、大麻の急性薬理作用(多幸感、陶酔感、嗜眠、鎮静、甘い食物や脂肪の多い食物への食欲亢進)とは反対のものである。アルコールやオピオイドの禁断症状とは異なり、睡眠困難、興奮、神経質などの行動・感情症状が身体症状よりも多くみられるが、頭痛、震え、発汗、発熱、悪寒、腹痛などの身体症状もある。その他の特徴として、疲労、あくび、集中困難、初期の食欲不振と不眠に続いて食欲増進と過眠への跳ね返り、なども見られることがある[18][17]。
大麻離脱症候群の発生、重症度、持続期間は、大麻製品の種類と効力、さらに使用量、使用頻度、および使用の中止や減少前の使用期間によって異なり、また中等度の遺伝的影響も示唆されている。症状の多くは通常、使用中止または減少後24~48時間以内に起こり、2~7日でピークに達し、1~2週間以内に消失するが、睡眠障害は長期化しうる[18][17]。
また、以前に大麻依存症を経験したことがある一部の人は、最後に大麻を使用してから何か月も経った後でも、大麻使用をやめた際の症状に似た症状を経験することがある。特に、薬物関連器具を見る、頻繁に薬物を使用していた場所を訪れるなど、その人が過去の大麻使用に関連していた刺激や状況に遭遇した場合に顕著である。これらの症状は関連する刺激や状況に接触している場合にのみ発生し、大麻離脱中に観察される症状よりも一時的であるため、大麻離脱の診断は下されない[17]。
大麻の離脱症状は離脱を繰り返すたびに(「キンドリング現象」と呼ばれる)、年齢を重ねるにつれ、他の疾患がある場合に、より重症化する。大麻離脱は成人にも青年にも起こり、女性は男性に比べて、より重度の離脱症状、特に興奮、落ち着きのなさ、怒りなどの気分症状、腹痛や嘔気などの胃腸症状の報告をする。症状を自己報告する意欲の違いである可能性もあるが、そうであった場合でも、最初の大麻使用から大麻依存症への移行の速さ(テレスコーピング)に寄与する可能性がある[18][17][12]。
大麻使用者は、不眠、ストレス、不安、抑うつ感、怒りの感情などに対処するために自己治療として大麻を使用するとよく述べるが、嗜眠、多幸感などの大麻の急性薬理作用とは反対の大麻離脱症候群の症状からも分かるように、大麻の使用は時間の経過と共にメンタルヘルスを改善することはないことが分かっている。大麻常用は実際には、メンタルヘルスの悪化に寄与し、毎日のように大麻を使用し続けると大麻依存症の発症や、感情コントロールの困難、不安やうつ症状の頻繁な経験をすることになる[36][18][17]。
また、特に成人の大麻を頻繁に使用する人々の間では、大麻離脱はうつ病、不安障害、反社会性パーソナリティ障害の併存と関連がある[18]。
大麻離脱の発生率や重症度は大量の大麻使用者でより高く、特に大麻依存症の治療を求める人々において高い。そして、大麻依存症者は精神疾患の合併が一般的であり、大麻使用はその併存する精神疾患の症状を悪化させるが、大麻離脱に対しても精神疾患は相互に悪化をさせる。大麻離脱の重症度と併存する精神疾患の症状の存在は関連している可能性がある[18][17]。
大麻は、統合失調症や双極性障害(躁うつ病)、そして心的外傷後ストレス障害(PTSD)を持つ患者達が、その症状が和らぐからと、自己治療として大麻使用を求める場合も多い。しかし実際には、大麻使用は統合失調症の妄想、幻覚、無秩序または異常な運動行動などの陽性症状が増加し悪化させ、躁うつ病の場合は躁病および軽躁病の症状が増加し悪化させ、再発のリスクも上げ、PTSDの場合はその症状を全体的に著しく悪化させ、さらに他の薬物乱用やアルコール摂取の増加、暴力的な行動、自殺念慮まで増加させる[12]。
大麻使用が統合失調症や他の精神疾患の発症のリスクを高めること、悪化のリスクを高めること、自殺、自殺未遂、自殺念慮のリスクを高めることは現在、世界保健機関、国際麻薬統制委員会などの国連機関および各国の保健機関、主要研究機関も認めており、国際的な診断マニュアルにもしっかりと記載されているが、戦時下で心身に傷を受けPTSDを患う一般市民や軍人のためにと大麻を医療用大麻として合法化した国もある[126][18][17][104][8][36][12][19]。
2013年、94人とサンプルサイズは小さいが大麻依存症の退役軍人を対象に、PTSDと大麻使用の特徴との関連を、動機、使用上の問題、離脱症状および渇望を含めて調査した研究が行われた[127]。
PTSDを持つ参加者は、持たない参加者と比較して以下が有意に増加していた[127]。
- 対処のための大麻使用
- 大麻離脱症状の重症度
- 強迫性、感情性、期待に関連した渇望の体験
これらのうち、対処と渇望に関する結果は共変量を調整した後も有意だった[127]。
また、全体のサンプルにおいて、PTSDの重症度は以下と正の関連性があった[127]。
- 対処のための大麻使用
- 大麻使用の問題
- 大麻離脱症状の重症度
- 強迫性、感情性に関連した渇望の経験
特に、離脱症状および感情関連の渇望に関する結果は共変量を調整した後も有意だった[127]。
従って、PTSDと対処としての大麻使用、大麻離脱症状の重症度、特に大麻への渇望との関連は、PTSDの測定方法や解析手法に関わらず強固であることが示唆される、としている[127]。
大麻使用とPTSDの症状の間には有害なフィードバックループが存在する[127]。
大麻はさまざまな苦痛を持つ人々が、その症状が和らぐからと大麻使用を求める。しかし、大麻離脱は顕著な苦痛をもたらすため、さらなる症状を和らげるための使用が続き、中断が困難になり大麻の再使用に至る、あるいは他の薬物使用を開始する。また、大麻使用は無害であるという誤った考えが広まっているため、離脱を経験している大麻常用者は、離脱症状が大麻が切れたことによるものであることに気づかず、自己治療として、大麻の使用を継続する場合がある[18][36][17]。
有病率
35~95%と各国の研究において評価方法や対象資料の差により大きなばらつきがある。DSM-Ⅴの大麻離脱の診断基準を完全に満たす兆候や症状を示すのは、アメリカでは一般成人人口の大麻常用者のうち12%であり、アジア系アメリカ人、ハワイ先住民および太平洋諸島民で31%、アフリカ系アメリカ人で15.3%、非ラテン系白人で10%と人種により有病率に大きな違いがあった。大麻依存症治療を受けている成人および青年や大麻の大量使用者においては、50~90%が大麻の離脱症状を報告しており、これは、大麻をやめようとする常用者のかなりの部分に大麻離脱症候群が起こることを示している[18]。
過去2001年、大麻を過去6ヶ月間、最低1ヶ月に25日・1日平均3.3回使用している重度の常用者12人[128]に大麻摂取を断たせた研究では[129]、劇的な身体症状は診られず、アルコールやアヘンでの症状よりも軽いとしながら、総合的に食欲が落ち、睡眠障害、そわそわ・いらいら、攻撃性亢進といったニコチンの禁断症状と同様の気分障害が見られ、大麻摂取によりそれらは消失し、症状の発症率は78%以上であった(被験者12名では少ないが)。
2008年1月に、大麻(最低1ヶ月25日以上常用)とタバコ(最低1日10本以上常用)を常用している12人を対象にし、5日間かけて行った研究では、大麻とタバコの併用者で大麻使用を断った場合は睡眠障害が多く、タバコの中断では不安や攻撃性亢などの気分障害が多く見られた[130]。
2018年、週3日以上大麻を使用した1527名に対し、DSM-5の診断基準を使い過去1年以内に離脱症状があったかを調査(現在の診断ではない)、約12%の人に3つ以上の症状があり大麻離脱症状の診断に合致するとした。研究の制限として、離脱症状の苦痛が重症なのかを判断する重症度の情報がなかった[131]
2020年、前述のインドでの、オピオイド依存症患者で大麻使用障害もみられた参加者では、前述のインドでの大麻使用者100名での調査では、大麻使用障害の者の約40%に離脱が発生し、睡眠の問題、食欲不振や体重減少、イライラ、攻撃性が一般的であった[115]。
基礎研究
ラットの実験で精神依存性について、一般に自己投与しないため、大麻には依存のための報酬効果がないとみなされるが、中等度の量を与えた場所を好むという試験は機能していた。(Chap2 Reward and Dependence)
ラットの実験では、長期的大量投与を中止するだけでは離脱症状は起こらず、カンナビノイド拮抗薬でTHCをブロックすることで起こる。[35](Chap3 Withdrawal) 同様の記述が2018年の世界保健機関の報告書にもあり、リモナバン(拮抗薬)などを使わずに自然な離脱症状が起こる証拠はない[132]。
大麻使用障害の知識の進展が少ない理由に、2017年時点でも動物モデルの確立が困難だということもある。ヘロイン、ニコチン、コカイン、アルコール、オピオイドなどほかの薬物では、げっ歯類が自己投与するという動物モデルが確立されている。しかし大麻は弱い行動強化因子であり、薬物探索行動を含む大麻使用の動物モデルを確立できていない。THCは脂肪組織に蓄積し、半減期は数日単位と長い薬物のためモデル動物の行動に影響を与える可能性がある(欠乏感を感じにくい)[133]。
大麻誘発性精神疾患と統合失調症
大麻は直接脳に作用する。高THC濃度の大麻は、人間の脳に与える影響もより強く、大麻依存症に進行するリスクだけでなく、大麻中毒により一時的な精神病エピソードを引き起こすリスクも高くなり、そういった精神病エピソードを経験することで、後の人生で精神病障害を発症する可能性が高くなる[8][7][17][18][6][36]。
近年の大麻は強力化しており、現在大麻市場で入手可能な大麻製品は、歴史的に大麻研究で使用されていた大麻や、一部の消費者が過去に使用していたことを覚えている大麻とは異なる。人々は1990年代に比べ、はるかに強力な大麻を使用している[95][9][1][7]。
大麻の過剰摂取、中毒、重症化は簡単に起こりうるものになっている。2000年から2018年の間に、大麻関連の精神病での世界的な入院は4倍以上増加、大麻依存症および離脱症状に関連する入院も8倍以上増加、大麻依存症も大麻使用者の約3人に1人が抱えるものとなっている[2][3][6][1]。
2023年のアメリカ薬物乱用警告ネットワーク(DAWN)による報告でもアルコールを除き、大麻は最も多く救急部門で報告された薬物だった。大麻、次いでオピオイド(処方薬、フェンタニル、ヘロインなど)、メタンフェタミン(覚醒剤)、コカイン、ベンゾジアゼピン(睡眠薬・抗不安薬)の順で多く、大麻による救急外来受診は年々増加を続けている[73]。
2024年の欧州連合薬物機関による、欧州薬物緊急事態ネットワークプロジェクトに参加している、成人を対象とした救急医療のデータでも、大麻はコカインと共に最も多く一般的に報告された薬物だった。大麻は全ての受診者のうち24%で報告され、多剤併用、単一薬物使用においても最多。その他、精神科病棟への入院においても、最も多いアンフェタミンに次いで大麻は多かった[4]。
娯楽用大麻を合法化している、世界でも数少ない国の内の一つであるカナダでも、大麻による救急外来受診、入院は増加しており、薬物関連入院の主な原因となっている。以下はカナダの人口が最も多い4州、オンタリオ州、ケベック州、アルバータ州、ブリティッシュコロンビア州の入院データを用いて大麻合法化による入院患者数の変化を調査した表である。カナダでは大麻合法化前に、議論の盛り上がりと共に大麻使用者が大幅に増加、2018年、合法化直後は混乱により大麻が全国的に不足し使用者が減少したが、2020年より再び、店舗の増加や食用大麻製品、電子タバコ用濃縮物製品発売などの大麻商業化によりさらなる大幅な増加を再開した。大麻使用による入院は大麻使用者が増加するにつれ、同様に増加している[95][134]。
| 2015.1-2021.3
全体調査 |
2015.1-2018.9
合法化前 |
2018.10-2020.2
合法化 |
2020.3-2021.3
商業化 | |
|---|---|---|---|---|
| 大麻関連入院
(カナダ4州) |
105,203 | 59,117 | 24,884 | 21,212 |
| 男性 | 69,192 | 38,964 | 16,412 | 13,384 |
| 女性 | 36,011 | 20,161 | 8,472 | 7,383 |
| 15-24歳 | 34,678 | 20,502 | 7,934 | 6,242 |
| 25歳以上 | 70,525 | 38,605 | 16,905 | 14,970 |
| 入院理由 | ||||
| 急性中毒 | 3,438 | 1,936 | 832 | 670 |
| 大麻乱用 | 51,631 | 28,752 | 12,302 | 10,577 |
| 大麻依存 | 22,266 | 12,994 | 5,169 | 4,103 |
| 誘発精神病 | 10,845 | 5,828 | 2,520 | 2,497 |
| 中毒 | 3,387 | 1,917 | 828 | 642 |
| 離脱症状 | 1,444 | 763 | 363 | 318 |
| その他 | 18,756 | 10,513 | 4,399 | 3,844 |
大麻誘発による精神病疾患、大麻誘発性精神疾患群の入院患者数増加は、電子タバコ用リキッドなどの高濃度大麻製品が発売された大麻商業化の時期と特に関連しており、先行研究では患者の3分の1が、後に統合失調症を発症するとされているため、カナダの専門家委員会は政府に対し、精神病疾患や統合失調症などの深刻な大麻関連リスクを、大麻製品に掲載する健康警告メッセージに再導入するよう提言している[95][134][8][135]。
「薬物による誘発性精神疾患から、後の統合失調症への移行」は大麻が最も高く、アメリカ国立薬物乱用研究所が引用している研究では大麻(34%)、幻覚剤(26%)、覚醒剤(22%)、アルコール(9%)であり、大麻のリスクはアルコールよりもはるかに高い[135][8]。
なお、高齢者の統合失調症発症リスクは低いとする研究に対しても、アルコールの「薬物の中で最も低い統合失調症移行率」が関連しており、平均年齢が高い研究ではアルコール誘発性精神疾患者の割合が高いためであると指摘されている[135]。
薬物誘発性精神疾患(物質誘発性精神病)は、メンタルヘルスケアや医療サービスを求める一般的な理由の一つであり、オーストラリアの若年層でも、精神疾患による初回入院のうち5分の1以上が薬物誘発性精神疾患によるものである[135]。
大麻誘発性精神疾患のある人々は、他の短期的または非定期的な精神疾患を持つ人々と、ほぼ同じ割合で統合失調症に移行する。しかしそれにも関わらず、臨床現場においてはこれらが無害または自然に収まる状態であると見なされることから、初期精神疾患サービスや積極的なメンタルヘルスケアから除外されることがよくある。そしてこの認識は、薬物誘発性精神疾患が主要な研究や精神疾患の結果に関するレビューから頻繁に除外されることによって強化される可能性がある[135]。
薬物使用によって引き起こされる精神疾患のケアに関する決定を行う際には、全ての薬物誘発性精神疾患を同等と見なすのではなく、特に大麻によって引き起こされる大麻誘発性精神疾患の治療は、他の短期精神病性障害と同様に、積極的な早期精神疾患介入が検討されるべきであると指摘されている[135]。
大麻の有害反応の内訳の参考としては、2018年~2024年までのカナダ保健省の、698件の自発的な報告のみによる有害反応データがある。報告は深刻なケースが443件とほとんどであり「入院」が最も一般的な理由だった。そして、「医療用大麻」の使用によるケースが471件とほとんどであった。有害報告は男性よりも女性においてより多く報告され、年齢が報告されたケースでは18歳から44歳のケースが多いが、2024年は45歳から64歳の症例報告が最も多かった。電子タバコ用リキッド、オイル、カプセル、スプレーなどの大麻抽出物製品による報告が最も多く、次いで乾燥大麻だが、食用大麻製品によるケースの割合が年々増加している[5]。
報告された有害事象の大半は「精神障害」に関連しており多い順に、幻覚、不安、不眠症、陶酔感、混乱状態、パニック発作、パラノイア(偏執病)、興奮、精神病性障害、自殺願望、見当の混乱、うつ病、悪夢などがあった。次に「神経系障害」で多い順に、頭痛、めまい、意識喪失、発作、眠気、震え、記憶障害、感覚異常、失神、脳血管障害、感覚低下、運動低下症などがあった。3番目は「一般的な障害および投与部位の状態」で多い順に、倦怠感、異常な感じ、胸の痛み、薬が効かない、痛み、疲労、悪化した状態、薬物相互作用、胸の不快感などがあった。4番目は「胃腸障害」で多い順に、吐き気、嘔吐、下痢、腹部の痛み、腹部の不快感、口渇、腹痛、カンナビノイド過敏症候群などがあった。5番目は「呼吸器、胸部および縦隔疾患」で多い順に、呼吸困難、喉の炎症、中喉頭の痛み、咳などがあった[5]。
2018年から2019年、2020年、2021年に最も一般的に報告された有害反応は「幻覚」だったが、2022年と2023年では「頭痛」、2024年は「呼吸困難」が最も一般的に報告された有害反応だった[5]。
健康・公衆衛生への影響
「大麻には、コカインやヘロインには見られない、合法化を主張し大麻に関する法改正を推進する国際的なグループが存在する」と国連薬物犯罪事務所(UNODC)は報告している[136][2]
1920年代、1930年代、大麻は「マリファナ」と呼ばれ始め、アメリカ南西部の州でメキシコからの移民が着実に増加するにつれて「大麻への恐れ」が高まり、移民への恐れとともに過剰な薬物禁止キャンペーンが行われた[136][12]。
国連薬物犯罪事務所は、過去2006年の世界薬物報告書において、『アメリカでいち早く行われた「薬物禁止キャンペーン」の中の「リーファー・マッドネス 麻薬中毒者の狂気」(1936年)の論調が、大麻が精神障害を引き起こすリスクについての公式な声明への信頼性を失わせる結果を招いた。これは不幸なことである。なぜなら、大麻使用が精神に深刻な障害を引き起こす可能性があることが次第に明らかになりつつあるからである』と述べていた[136]。
なお、21世紀となった今日では、合法大麻企業のオーナーの圧倒的大多数は白人が占めており、白人が有色人種の消費した大麻の利益を得るという搾取構造そしてフェンタニル危機と、現代のあへん戦争が行われている[137][138][139]。
2020年、国連麻薬委員会(CND)が大麻をあへん、コカイン、ヘロインと同じ「乱用のおそれがあり、悪影響を及ぼす麻薬」へと「特に危険で医療用途もない麻薬」から変更した。この変更があたかも大麻に関する国際的な規制を国連が解除したかのような印象を与え、大麻の嗜好的使用を容認するような報道が出るに至った[140]。
イギリスでは研究団体ベックリー財団が「大麻は精神および身体を含む健康問題で良くない場合があるが、相対的な害では、それはアルコールやタバコより極めて害が少ない[141]」と主張[142][143]。
日本においても、大麻に有害性は無い、健康に良いなどといった誤った情報が氾濫。大麻推進派がCBD製品を大麻へのゲートウェイドラッグにする戦略をとっていることもあり、医師免許を持つ者が大麻やその薬理成分であるカンナビノイド(CBDなど)について、まるで副作用もなくさまざまな疾患を治す夢の薬のように主張。大麻依存症患者の治療拒否や、依存症医療業界であっても医学的エビデンスに疑義を挟み、冷静かつ理性的な議論を進めることが難しい現状がある[144][145][146][147]。
国際麻薬統制委員会(INCB)は、2022年の年次報告書において、大麻合法化によって違法犯罪組織から置き換わった合法大麻企業は急成長、大規模化。売上増加を通じて利益を上げることを目指し、大麻市場を拡大しようと合法化地域を拠点に世界中で活動している、と指摘している[2]。
大麻が商業化し、合法大麻企業による若者にアピールする形での大麻製品のマーケティングと販売、そして「医療用」の定義が幅広く、事実上医療以外の目的で使用されている「医療用大麻」は、人々から科学的エビデンスを排除させ、市場に出回る高濃度の大麻製品や関連する健康問題にもかかわらず、人々の大麻に対する危険性の認識を低下させることに貢献、大麻の消費を加速させた[2]。
アメリカの公的学術機関である全米アカデミーズ(The National Academies of SCIENCES, ENGINEERING, and MEDICINE)、健康と医学部門(旧医学研究所:IOM)も2017年、大麻使用の健康に関する情報は、大麻使用の危険性への認識が低下した公衆の感情、対立し妨げられた科学研究、大麻合法化是非の立法闘争によって議論が煽られ欠如しているとして、約20年ぶりに大麻とその成分(カンナビノイド)の健康影響を大々的に見直し、現在の科学的エビデンスの研究結論をアメリカ政府に提出している[12]。
乾燥大麻の平均THC含有量は、1980年代中頃や1990年代初頭の約3%から2022年には約16%に増加。2020年には合法大麻企業が生んだ食用大麻製品や大麻抽出物製品も登場。オンラインディスペンサリー(大麻販売店)で入手可能な大麻製品の研究では、平均THC濃度は22%、範囲は0%から45%と高THC濃度の大麻製品の供給を確認。その他では、吸引用の大麻抽出物でTHC濃度が最大90%に達する製品もあり、大麻は1990年代に比べ、はるかに強力な薬物となっている[9][1][7]。
2023年、欧州連合薬物機関(EUDA)加盟国で大麻依存症の治療を開始した人は、ドイツ約2.4万人、イタリア約9千人、オランダ約5千人、スウェーデン約3千人など、全体で10万6千人にも上るとされており、また2024年の救急医療のデータでも、大麻はコカインと共に最も多く一般的に報告された薬物であった。世界的にも大麻依存症および離脱症状に関連する入院、大麻関連の精神病での入院も増加。大麻依存症は、大麻を1度でも試したことのある5人中1人に高いリスクがあり、大麻使用者の約3人中1人が抱えているものとなっている[4][102][3][2][106]。
翻って、大麻の生涯経験率が1.4%と欧米20~40%に比べて極めて低い日本では[146]、2004年に行われた日本の全国調査において[148]、日本で大麻を主な乱用薬物として精神医学的治療を受けている患者はわずか17人(15人に他の薬物の使用歴があった[149])、6割(10人)が精神病(F-12.5, F12.7など)、3割(5人)が依存症 (F-12.2) と診断され、1割(3人)が入院治療を受けているのみであった。
世界保健機関(WHO)は過去1997年の報告書において、「大麻使用者の人口的比率がアルコールまたはタバコ使用者の比率と比較してはるかに少ない場合、大麻による公衆衛生に対する危険性の程度は表面的な状況に基づいて判断されるため、アルコールまたはタバコの害よりも低く評価される傾向がある」と指摘[112]。
「ほとんどの大麻使用者は、他の薬物の使用者でもある点は強調されなければならない。複数の薬物使用のリスクは加算的であるはずであり、公衆衛生の観点からは、大麻を含む全ての薬物使用から生じる総合的なリスクを評価する方が効果的である」と大麻が、そもそもアルコール、タバコと併用されるものであることを指摘[112]。
「大麻使用者が少ない社会において、大麻が公衆衛生に及ぼす深刻性は、調査が不足してしまうために実際にはアルコールやタバコの危険性ほどには理解されていない。そのような社会の住人について、精神活性物質使用の影響を調査・比較しても、そのデータの有効性は限られている」と指摘している[112]。
そして、「私たちは、タバコやアルコールと同様の量と頻度で大麻を使用した場合の健康影響、社会的影響について知る権利がある。アルコールおよびタバコの乱用防止に対する政策が注目を集めているときに、アルコールおよびタバコと同一の範疇に特定の薬物を加えることは、歴史的に重大な誤りである」と警告していた[112]。
自殺
大麻使用は自殺、自殺未遂、自殺念慮(自殺願望)のリスクを増加させる[18][8][104][19][136][12]。
各公的機関で認められているが、研究には以下がある。
2017年、全米アカデミーズは、2007年と2016年の質の高い2つのシステマティックレビューと、2016年の質の高い1つの一次文献のレビューから「大麻使用は自殺念慮の増加、自殺未遂の増加、自殺による死亡リスクの増加との間に中程度の統計的関連性の証拠があり、特に多量使用者の間でその発生率が高い」と結論付けた。公衆衛生に重要な影響を与える結果であるとしている[12]。
2022年のDSM-Ⅴ-TRには、大麻使用症(依存症)のカテゴリに「自殺念慮または自殺行動との関連」が明記されている[18]。
イラク、アフガニスタン戦争時代の退役軍人を対象とした研究では、複数の社会人口統計学的要因、精神疾患や他の物質使用症(薬物依存症)の併存、戦闘を含む過去のトラウマなどの交絡因子を調整した後でも、大麻依存症は自殺性および非自殺性両方の自傷のリスク上昇と関連していた[18]。
2005年に行われたアメリカ退役軍人保健局の全患者を対象とした研究では、現在何らかの薬物依存症を持っていると男女共に自殺のリスクは上昇するが、特に大麻依存症のある男性の自殺率は10万人あたり年間79人、大麻依存症のある女性の自殺率は10万人あたり年間47人であった[18]。
1990年から2015年までの国際的文献の見直しとメタ解析により、急性大麻使用ではなく、慢性大麻使用が自殺念慮や自殺行動と関連するという証拠が見出された、と記載されている[18]。
転落事故・転落死
大麻中毒、いわゆるバッドドリップでは、吐き気、嘔吐、胸の痛み、心拍数増加、血圧上昇、呼吸抑制、不快気分、対人的閉じこもり、パラノイア(偏執病)だけでなく、重度の不安やマイナス思考、絶望感、妄想(被害妄想、誇大妄想)、混乱、パニック発作、幻覚などの急性精神病エピソードなどを引き起こすことがあり、世界各地で転落事故・転落死が起こっている[17][18][6][20][62][8]。
2014年、コロラド州で19歳の男性が、適法である食用大麻製品、大麻クッキーを摂取した後に4階のバルコニーから飛び降り外傷により死亡した。コロラド州公衆衛生環境局(CDPHE)により検死報告書および警察報告書が精査され、大麻中毒が主要な要因であるとされた。亡くなった男性は当初、大麻クッキーを1切れだけ摂取、約30~60分後、効果を感じなかったため追加で5切れを摂取、その後約2時間の間、言動が乱れ、敵対的な行動を示した。そして、最初の摂取から約3.5時間後、残りのクッキーを摂取してから約2.5時間後、4階のバルコニーから飛び降り外傷により死亡した。解剖、死後分析でも多剤使用の証拠は見つからず、男性からはdelta-9テトラヒドロカンナビノール7.2ng/ml、非活性の大麻代謝物であるdelta-9カルボキシ-THC49ng/mlが検出された。また、男性はアルコール乱用、違法薬物の使用、精神疾患の既往歴もなかった[64]。
大麻による転落事故、転落死は日本でも報道がされている。
2021年、知人らと一緒に大麻を吸いながら酒を飲んでいた22歳の男性が、雑居ビルの4階から転落死した。亡くなった男性は、様子がおかしくソファに寝かされていたが、突然起き上がって走り出し、自ら窓を開けて飛び降りた。他人と争ったような形跡はなく、自殺する動機も見当たらなかったことから、大麻の幻覚作用の影響で転落した可能性があるとみられている[13]。
2024年、サークルの飲み会に参加していた男子大学生が、その後ビル屋上から転落死した。亡くなった男子大学生の尿から大麻成分が検出され、自宅からは少量の乾燥大麻が見つかった[14]。
2025年、男子大学生が「大麻クッキー」によって転落し重傷を負った。違法ではない大麻成分の一種が含まれていたとみられているが、男子大学生は大麻クッキーを摂取した3時間後、寮2階の部屋から転落、その後また再び、2階に戻ってきて飛び降りようとし、周囲に止められた。男子大学生は頭の骨を折るなどの大怪我をしている状態だった[15]。
また、2018年に医療用大麻が合法化され、2022年に大麻の栽培や一般使用が合法化されたタイでも、相次ぐ転落死、水難事故、交通事故、子供の誤飲事故、大麻関連治療費の増加に加え、心不全による死亡事例まで発生している[16][65][66][67][68][69][70][71][49]。
しかし、国立精神・神経医療センターの薬物依存研究部の医師松本俊彦は、大麻によって依存症外来を訪れる人は少なく、もともと精神障害があり大麻を自己治療的に使用した者や、薬物事犯の裁判中に減刑のための方便として受診した者が多く、後者では問題は生じていない[150]、と事実に反する主張をしている。
松本は「大麻への特別な思い」を指摘されており、そのバイアスのかかった数々の研究に対しては各方面から批判、訂正忠告がされている。例えば自身の研究において日本の大麻依存症者の割合が約8%となったことに対し、同基準であればアルコール依存症者約4%、ギャンブル依存症者は約2%であるにも関わらず「おおむね健康」と主張したり、大麻のゲートウェイドラッグ性に対しても、45%と約半数が他の違法薬物に移行しているにも関わらず「ゲートウェイ仮説を否定する調査結果だ」と主張するなど、他にも医学的エビデンスに疑義を挟ませる恣意的な主張を各所で繰り返しており、厚生労働省による検討会では他出席者から面と向かって「研究者サイドから見れば、何を言っているのだとはっきり言いたくなります。矛盾だらけです。怒りさえおぼえます。」とまで厳しく非難されている。そして検討会の最終日においても他出席者より「どの立ち位置からでも、事実にもとる(反する、歪ませる)ことを言い募って対立している場合ではない」と苦言を呈されている[151][152][146][147][153][154][155]。
日本麻協議会事務局代表・難治性疼痛患者支援協会代表理事からもまた「大麻やその薬理成分であるカンナビノイド(CBDなど)について、まるで副作用もなくさまざまな疾患を治す夢の薬のように主張する人が医師免許を持つ人の中にもいる」「大麻は患者が自己治療に使っているのだから大目に見ないといけない、非犯罪化すべきだと、慢性痛の患者を支える立場からすると大変心配な主張をしている」「医薬品には必ず副作用があり、全く安全な薬などはあり得ないことを伝えるのがお医者様の役目、また、医薬品を自由・勝手に使えば患者をさらに窮地に追いやるのは当然で、勝手な使用はしないように指導することがお医者様の務めなのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。」と同検討会にて訴えられている[145]。
なお、国際疼痛学会(IASP)は2021年に声明を出し「現時点では痛みのための大麻や大麻成分(カンナビノイド)の一般的な使用を支持することはできない。潜在的な利益と害をよりよく理解し、患者と公衆の安全を確保するために規制基準と保護措置を通じて、より厳密で堅実な研究を求める」と呼びかけている[156]。
松本は厚生労働省の同検討会においても、「大麻で困っている人はいない。大麻使用は、何も手をつけなくても害が大したことないからいいではないか」というような同様の主張を繰り返したが、他出席者より、日本の薬物依存回復支援施設ダルク入所者への調査にて「最も問題となっていた薬物を大麻だと答えた方は695人のうち24人。全体の3.5%と決して多くはないが、確実に大麻が最も問題となってダルクを利用されている方がいることは事実」と意見を出され、「また、DAST-20という薬物関連問題の重症度を評価する尺度で測定すると、平均点が13.3。ちなみに覚醒剤群の平均が13.4ですので、薬物問題は決してそんなに軽くはない。」と薬物問題とは、依存のことだけではなく社会的な問題を含む関連したさまざまな問題であると諭されている[151]。
大麻の生涯経験率が1.4%と極端に低く、欧米のように救急部門で大麻が一般的でもない日本では、大麻の健康被害を実際に見聞きすることは滅多にない。
松本と同じ依存症医療業界で働いているが、依存症の臨床に長年従事してきた医師は厚生労働委員会の国会答弁にて「大麻は若いうちはそんなに害がない。これが、大麻はそんなに害がないと言っている方々の確かに主張のポイントになっている。すぐに害が出るわけじゃないんです。」と話し、さまざまな権威ある医学論文に書かれている3人に1人の大麻依存症の発症率、3倍の統合失調症リスク、1.3倍のうつ病リスク、3倍の自殺リスク、中年期平均で5.5点の知能指数(IQ)の低下を指し、「だけれども、それを習慣的に使っているうちに、その後に害が出て、その頃には手遅れなんですね。ああ、やっぱりやめておけばよかったと言っても、10年後、20年後に、戻ることはできません。」と大麻の非可逆的な害を話し、「何とか、若い人が親御さんに連れてこられて病院に来るわけですけれども、本人は何も困っていない。むしろ大麻によって、自分はこんなに苦しんでいるのに、大麻のおかげで眠れるようになった、自分はいろいろな職場のプレッシャーがあるのに、大麻のリラックス効果によって職場でリラックスして仕事ができるようになった、大麻の害なんて別にない、別に今幻聴も何も聞こえないし、別にうつも全然ないし、むしろ今、自分から大麻を奪われる方がはるかにうつになってつらいんだ、そういう若者はいっぱいいるわけです。そういう方に対して、私たち医者が正攻法で、いや、二十年、三十年後にあなたに害があるからやめるべきだと言ったところで、そんなの治療は必要ないよと言われてお断りされてしまう」と日本の大麻依存治療の難しさを訴え、「大麻の生涯経験率が1%台である今の内なら手が打てる」「十年後、二十年後、日本の将来を担う若者たちがそのときになって、いろいろな精神障害を発症したときに我々は手の打ちようがないわけですから、早い段階でこれはやめた方がいいかもしれないと思ってもらいたい」と繰り返し訴えた[146]。
救急外来受診・入院
2011年、アメリカの救急科の受診では、コカインを原因とした例が最も多く、またほかの薬物を併用している違法薬物単独よりも多く、違法な薬物では大麻だけが増加しており、2004年に比較して2011年では大麻単体で2倍に大麻併用では1.6倍に増加している[157]。
2023年のアメリカ薬物乱用警告ネットワーク(DAWN)による報告でも大麻による救急外来受診は増加を続けており、アルコールを除き、大麻は最も多く救急部門で報告された薬物だった。大麻、次いでオピオイド(処方薬、フェンタニル、ヘロインなど)、メタンフェタミン(覚醒剤)、コカイン、ベンゾジアゼピン(睡眠薬・抗不安薬)の順で多く、また、薬物の多剤使用による救急外来受診においても、大麻はアルコールの次に最も多く報告された薬物だった[73]。
2024年の欧州連合薬物機関による、欧州薬物緊急事態ネットワークプロジェクトに参加している、成人を対象とした救急医療のデータでは、大麻はコカインと共に最も多く一般的に報告された薬物だった[4]。
薬物使用者の間では多剤併用は一般的であり、全体の65%で報告され、最も頻繁に報告された組み合わせは「大麻とコカインとアルコール」(66%)、次いで「大麻とコカイン」(64%)、「アンフェタミンとヘロイン」(50%)だった。単一薬物使用は残り全体の35%で報告され、最も頻繁に報告された薬物は「大麻」(22%)、次いで「コカイン」(15%)、GHB/GBL(10%)だった。その他、精神科病棟への入院割合にて、最も多い「アンフェタミン」(15%)に次いで「大麻」(8%)は多かった[4]。
大麻は全ての受診者のうち24%で報告され、受診者の中央値年齢は28歳、74%が男性だった。大麻とアルコールの併用摂取は、アルコール使用に関する情報があるケースの40%で報告された。大麻関連受診者の救急外来滞在の中央値は6時間、3%が集中治療室へ入院した[4]。
大麻を合法化したカナダでも、大麻に関連する救急部門(ED)受診および大麻に関連する入院は増加しており、2020年の救急部門受診は21,658件、入院件数は14,363件であり、救急外来受診は男性よりも女性で、より増加した[95][72]。
大麻精神病
大麻精神病とは、現在は大麻中毒、大麻離脱症候群、大麻誘発性精神疾患群とされる疾患である。大麻誘発性精神疾患群は、大麻誘発性精神障害、大麻誘発性せん妄、大麻誘発性不安障害、大麻誘発性気分障害、大麻誘発性睡眠障害があり、独立して臨床的関与を必要とするほど重症である場合に、大麻中毒または大麻離脱の代わりに診断される[17][18]。
日本では2016年、神奈川県相模原市緑区で発生した戦後最大の大量殺人事件「相模原障害者施設殺傷事件」にて、加害者が大麻を使用してから犯行に及んでいたことから、公判において大麻精神病による責任能力の有無が争われた。弁護側証人の精神科医は、犯行当時の被告は「大麻精神病の状態だった」と証言。犯行の約1年前から大麻の使用頻度が増え、SNSで過激な主張を発信するなど異常な行動が際立つようになったと指摘。幻聴や被害妄想といった症状が認められ、大麻による高揚感が「障害者を殺す」という発想などに影響を与えたとした。また、公判中も障害者に対する差別的な発言を続けていることから、大麻精神病の状態が持続している可能性もあるとした[158]。
また、被告は犯行の約半年前に緊急措置入院をしており、その入院中の尿検査においても大麻の陽性反応を確認。精神保健指定医2人から「大麻精神病」「反社会性パーソナリティ障害」「妄想性障害」「薬物性精神病性障害」の診断を受けていた[159]。
被告はまた、大麻について強いこだわりを見せ、被告人質問においても「大麻は本当に素晴らしい草です。本当に感謝しています。嗜好品として使用、栽培を認めるべきだと思う」など、大麻を禁止されている日本は例外的だ、みんな使うべきだと大麻合法化を主張した。また、逮捕され3年が経ち大麻を使用していない状態であっても「自転車のようなもので、1度乗ったら感覚を覚えています」と大麻をまた使いたいとの思いを持っていた[160][161]。
弁護側は最後まで「実際の殺傷行為に至るまでは病的な飛躍がある。大麻乱用による精神障害の影響で異常な思考に陥り、突き動かされるままに行動した」として心神喪失による無罪を求めていたが認められず、この裁判では完全責任能力が認められた[162]。
過去1997年のWHOの報告書では、大麻精神病という疾患は明確に定義されていないのが実情であり、さらに推定される症状も統合失調症など他のすでにある精神疾患と判別がつかないため、大麻精神病を確認するには研究による証拠の提出が必要となるとしていた[112]。
精神的影響でも同様だが、医療大麻では研究品質の良いランダム化比較試験がよく行われるが、大麻の長期的影響では、娯楽目的などの使用者の自己報告に頼っていることが多く(実際には検査で大麻が検出されないかもしれない)、またそうした研究ではアルコールなど他の薬物の影響、もとからあった精神の問題など因果関係が確立しにくい要因が含まれている[163]。
統合失調症および他精神疾患
大麻使用は、統合失調症や他の精神疾患を発症するリスク、悪化させるリスクを高める[17][18][8][36][104][19][12]。
特に高用量、高THC濃度の大麻製品は、大麻中毒による一時的な精神病エピソードを引き起こす可能性が高く、そういった精神病エピソードを経験することで、後の人生で精神病障害を発症するリスクも高くなる[8][7][17][18][36][104][19][12]。
一部の人々は統合失調症および他精神疾患、うつ病、双極性障害(躁うつ病)、不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)および反社会性パーソナリティ障害など精神疾患を合併し、その症状を和らげるために大麻を使用するが、大麻使用は既存の精神疾患の症状を悪化させたり、発作を引き起こす場合もあり、主要な精神病性疾患の治療に悪影響を及ぼす[17][18][8][36][104][19][12]。
また、特に成人の大麻を頻繁に使用する人々の間では、大麻離脱はうつ病、不安障害、反社会性パーソナリティ障害の併存と関連がある[18]。
各公的機関で認められているが、研究には以下がある。
2017年、全米アカデミーズは複数の質の高いシステマティックレビューで統合されたデータにより「大麻の使用は、統合失調症や他の精神病を発症するリスクを高める可能性があり、使用量が多いほどリスクも大きくなる」と結論付けた。引用された系統的レビューから導かれた証拠の強さの要因には、大規模なサンプルサイズ、結果の相対的均質性、用量・曝露とリスクの関係の存在、交絡因子に対する研究の制御、および出版バイアスに対する評価が含まれている。また、委員会がレビューした質の高い一次文献によっても、大麻使用と精神病の結果との関連や、影響の用量依存性を含む系統的レビューの結論を確認しており、「大麻の使用は、統合失調症や他の精神病を発症するリスクを高める」との結論に対する全体的な証拠の強さをより強化している[12]。
2018年のWHOの報告書では、急性の大麻中毒は短期的な精神病の状態を生じさせることがあるが、統合失調症の発症につながるかという議論については、議論されたままであり異論があるとしていた[58]が、近年は因果の逆転に対処した研究デザインでも統合失調症の発症リスクを上昇させることが示されている[164]。
カナダの救急外来受診者のうち、さまざまな物質のうち大麻を使用した人が最も統合失調症に移行するリスクが高かった。これは元々精神病があった人にも無かった人にも認められた(精神病症状が既にある場合:241.6倍;ない場合:14.3倍)[164]。とりわけ若年男性がハイリスクだった[164]。
うつ病
大麻使用は、不安やうつを引き起こし悪化させ、うつ病、不安障害、社交不安障害のリスクを高める[36][104][8][18][17]。
また、大麻の離脱症状には、抑うつや気分の沈み、不安、落ち着きのなさ、神経質、不快な気分などがある[18][17]。
医療大麻の使用理由として、うつ症状は3番目であり一般的であり[165]、大麻使用者は、不眠、ストレス、不安、抑うつ感、怒りの感情などに対処するために自己治療として大麻を使用するとよく述べる。しかし、嗜眠、多幸感などの大麻の急性薬理作用とは反対の大麻離脱症候群の症状からも分かるように、大麻の使用は時間の経過と共にメンタルヘルスを改善することはないことが分かっている。大麻常用は実際には、メンタルヘルスの悪化に寄与し、毎日のように大麻を使用し続けると大麻依存症の発症や、感情コントロールの困難、不安やうつ症状の頻繁な経験をすることになる[18][17][36]。
各公的機関で認められているが、研究には以下がある。
2003年のスウェーデン政府の報告書では、大麻は違法薬物の中では精神障害との関連が強く、様々な精神障害を発症するリスクは、ヘロインよりもはるかに高いとしている[166]。
2014年にカナダのグループが行った14件の縦断研究の76058人を対象としたメタアナリシスで、日常的な大麻使用とうつ病のリスクが関連している可能性があるとされた。その議論部以降では研究の制限事項が説明され、本文の結論部では、控えめな結果であり多くの手法的な制限があることから、結果は注意深く扱う必要があるとしている[167]。リスク増大の傾向は特にヘビーユーザーに強くみられた。
2016年の世界保健機関の大麻についての事前審査報告書では、大麻の常用とうつ、不安などの関係が報告されているが、大麻の使用、精神の状態、また認知機能はそれぞれが影響を及ぼす可能性があるので因果関係を決定することは困難だとしていた(それらは関係はしているがどちらが原因でどちらが結果なのか明確にできない)[168]。
しかし、2019年には、縦断研究・観察研究11研究から若年者23317人にを対象としたメタアナリシスで大麻使用により、うつ症状ののリスクが1.37倍と有意に増加し、自殺企図のリスクが3.46倍と有意に増加することが示された。制限事項の解説 (Limitationsの節) では、縦断研究のメタアナリシスとはいえ強い因果関係を示すことはできず、含まれた全ての研究で他の物質使用や学業の放棄などを調整した訳ではないと記載している。若年者における大麻の使用率は高く、それに伴ううつと自殺が大いに増加する可能性があると結論づけている。[169]
「大麻の成分カンナビノイドの作用を阻害するリモナバンは、うつの発症の増加から発売中止になったことから、カンナビノイドには抗うつ作用がある可能性がある」との出典のない主張がある。しかし、リモナバンはうつの発症増加だけでなく、自殺増加、自殺企図増加、抑うつの発症、不安感の増加の副作用があり、自殺リスクから全面発売中止になった。CB1アンタゴニストは発見から40年をかけて創薬標的として研究されてきたが、いかなる化学誘導体も依存性や幻覚の問題を回避できないことが明らかになっている[45][170]。
無動機症候群・意欲喪失症候群
DSM-Ⅴ-TR(『精神疾患の診断と統計マニュアル』第5版改訂版)には「大麻使用は目標指向的な社会活動の減少や自己効力感の低下にも関連があることが示されており、その結果として学業不振や職場での問題を生じさせ、『意欲喪失症候群』と呼ばれることもある。」と記載されている[18]。
また、大麻依存症(大麻使用症)に関連する特徴として「大麻の慢性的な摂取は、持続性抑うつ症に似た意欲の欠如をもたらすことがある。」とされている[18]。
2017年の全米アカデミーズによる報告書でも「最近の大麻使用は学習、記憶、注意力の認知分野におけるパフォーマンスを損なう」「大麻使用をやめた個人においても、学習、記憶、注意力、認知領域に障害がある可能性がある」「青年期の大麻使用は、その後の学業成績、教育、雇用、収入、社会的関係および社会的役割の障害に関連している」と結論付けている[12]。
思春期と若年成人期は、認知の発達の根底にある脳の神経基盤が最も活発であるため関連性があり、この時期の大麻使用は神経的、社会的および学業的機能に大きな干渉をもたらす可能性があるとしている[12]。
その他、同報告書でもレビューされている、アメリカの国家毒物データシステムでは、2003年から2013年の間に、中毒センターが6歳未満の子供の大麻曝露に関する1969件の電話を受けている。報告された子供の臨床症状のうちのほぼ半分で最も多かったのが「眠気および無気力」(45.5%)であった[12]。
大麻が合法化された地域では、子供の意図しない過剰摂取による大麻中毒が多数発生している。症状は大人よりも深刻であり、昏睡や人工呼吸器の装着など生命を脅かすほど重篤な状態は多数報告されており、死に至るケースもある[10][11][12][49]。
国際的な診断ガイドラインに記載されているが、研究には以下がある。
過去の古い1970年代の研究では、高校生を対象とした症例対照研究では大麻使用者と非使用者との平均点の違いはほとんど見られず[171]、大学生を対象にした調査でも大麻使用者のほうが非使用者よりも成績がよいことが判明し[163]、ほとんど同じように学業を達成している[172]。南カリフォルニア大学[173]やスイス[174]、フランスの研究でも[175]、同様に大麻使用者と非使用者と比べても無気力になったり成績悪化を起こすといったことは見られなかった。大麻を与えた被験者のほうが対照群よりも長時間働き、研究の終了時にも同等の得点を獲得していた[176]。言い換えれば「対照群である健常者は、より短い時間で大麻使用者と同等の得点を得られた」という事である。
過去1997年の世界保健機関の報告書は、自己報告はあるが、無動機症候群は明確に定義されておらず、長期的に大量に大麻を使用する者の慢性的な中毒との区別が明確でないとされていた[112]。
約20年前の過去1999年の全米アカデミーズの報告書では、無動機症候群の定義は、倦怠感による生産性の低下、注意力欠乏といった症状だが、重度の大麻使用が原因で無動機症候群が見られたとするケースでも、IOM(旧 医学研究所)の調査では大麻の使用と無動機症候群との因果関係を示す説得力のあるデータはないとされていた[61]。
2006年、物事に無関心になり学業、仕事、その他の目標思考活動に興味を示さなくなる無動機症候群が出現することが報告されている[177]。
暴力行為
大麻は、通常の急性薬理作用であれば、不適切な笑いと誇大性を伴った多幸感、鎮静、嗜眠と続くが、大麻離脱症候群はそれらとは反対のものであり、暴力性のあるものでは、苛立ち、怒りなどの攻撃的な行動、興奮、落ち着きのなさ、神経質などがある[17][18][6][20]。
上述の2014年、コロラド州で19歳の男性が、適法である食用大麻製品、大麻クッキーを摂取した後に4階のバルコニーから飛び降り外傷により死亡したケースでは、大麻中毒であるが、「追加の大麻クッキーを摂取後、約2時間の間、言動が乱れ、敵対的な行動を示した」と報告されている[64]。
大麻中毒で暴力性のあるものは、いわゆるバッドトリップに、混乱、パニック発作、妄想(被害妄想、誇大妄想)、パラノイア(偏執病)などの急性精神病エピソードがある[17][18][6][20]。
また、大麻の影響下で運転する人は「DUIC」とされているが、リスキーな運転(不注意な運転スタイル、他のドライバーに害を及ぼすことを意図していない意図的な道路上のリスクテイク)やネガティブな感情運転(運転中のイライラと怒り、および他のドライバーにイライラする傾向)と、全体的に無謀な運転スタイルをするため、死亡事故や衝突事故への着目だけでなく、公共の安全政策はより包括的であるべきであり、複数の道路上の危険行動に同時に介入することを目指すべきであるとの提案がされている[57][59]。
各公的機関で認められているが、研究には以下がある。
過去に専門機関による大麻に関する網羅的な調査では、イギリス内務省の薬物乱用委員会(2002年)[178]やカナダ上院薬物特別委員会(2002年)[179]、全米医学アカデミーの医学研究所 (IOM、1999年)[61][180][181]などの調査や研究では大麻が暴力や攻撃性、非行などの主因となるという事は以前は否定されていた。また、臨床研究でも大麻による陶酔が敵対心を増加させる兆候はかつては見出されていなかった[182]。
しかし大麻と精神障害者による暴力の関係について、ジュール・R・デューレ(モントリオール大学)らが2017年9月21日に発表した、急性精神医学施設から最近退院した患者における大麻の継続使用と暴力との関係を調べた研究は、「長期にわたる持続的な大麻使用は、アルコールおよびコカインの使用よりも、暴力に対するより恒常的な関係を示した。」と述べる[183]。
またカナダのグループが行った2020年のメタアナリシスは、30研究から29万6,815人の若年者を対象とし、大麻の使用は暴力行為とおよそ2倍のリスクで関連していることが示された[184]。後半の制限事項解説(Limitationsの節)で注意事項が述べられている。ほかの交絡因子である、暴力歴、酒など他の薬物使用、行動問題を考慮した研究はほとんどなく、また限られた縦断研究から得られた結果であるため、大麻の使用が暴力につながるのか、暴力が大麻の使用につながるのか慎重に検討すべきであるとされている。
妊婦・胎児への影響
大麻の成分は、妊娠中に母親の血液を通じて胎児に、出産後には母乳を通じて乳児に移行する。THC、CBD共にカンナビノイドは体脂肪に蓄積され、時間をかけて徐々に放出されるため、女性が大麻の使用をやめた後でも子が曝露する可能性がある[185][20][21][8]。
CBDは動物実験で、高用量のCBDが発育中の胎児に悪影響を及ぼすことが報告されていることから、CBD製品、大麻、大麻製品共に妊娠中、授乳中の使用は推奨されていない[185][20][21][8]。
妊娠中の大麻使用は妊娠合併症や、子の低出生体重、異常な神経発達などの健康問題を引き起こす可能性がある。さらに、子が成長した後の、記憶力・注意力・論理的思考能力・問題解決能力の低下、多動性行動、将来的な薬物使用リスクの増加などの長期的な発達への悪影響を及ぼす可能性もある[185][20][21][8]。
2015年、出生後の長期的な環境影響が及ぶ前に、妊娠中の大麻摂取が初期の脳の機能回路の発達に与える影響を調査した生後2~6週の乳児に対する研究では、妊娠中の大麻曝露が神経行動および認知機能の障害と関連していることが報告された。胎児期にカンナビノイド受容体タイプ1の発現が高い皮質下シード領域の結合性を調べた結果、島皮質および3つの線状体の結合に大麻曝露特有の違いが見られた。大麻曝露を受けた新生児のグループでは、前部島皮質-小脳、右尾状核-小脳、右尾状核-右紡錐状回/下後頭葉、左尾状核-小脳、全てのクラスターにおいて低結合性を示した。視覚空間や運動学習、注意、そして運動および言語生成に関わる出力の微調整に関与する領域への線状体結合性の変化は、このリスク群で報告されている神経行動的欠陥に寄与している可能性がある。前部島皮質の結合障害は、顕著性ネットワークにおける内受容感覚信号の評価、動機付け、意思決定、さらには後の薬物使用の変化に寄与する可能性がある。カンナビノイド受容体タイプ1は、胎児の神経発達を調節し、後の学業や社会的成功に重要な行動を支える機能的回路の成長に対する大麻曝露を媒介する、としている[52]。
各公的機関が認めているが、研究には以下がある。
過去1984年に大麻の有害成分は胎児にも影響を及ぼし、胎児の大麻中毒や流産、死産の原因にもなり、妊娠時の大麻喫煙による胎児への害の調査報告がなされているが[186]、母体の加齢、タバコ、アルコールなどの交絡因子を考慮した場合、大麻との関連性の統計的有意性を失うことが指摘されていた[187][188][189]。またこの時点では多くの研究では大麻による悪影響を見出していなかった[190][191][192][193][194][195]。
過去2016年の世界保健機関の事前審査報告書では、妊娠中の大麻の使用が重大な影響を及ぼすという証拠はほとんどなく、もしそのような影響があるなら大幅に大麻の使用率が上昇した50年間で統計などで明らかになるとしていた[196]。ジャマイカで行われたフィールド調査では妊娠時に大麻をお茶にして飲んでいることが多かった母親とそうでない母親の乳児を比較した結果、差異は見出されなかった[61]。
しかし2000年以降の研究では、妊娠中に大麻を使用した母から生まれた子どもでは、出生時体重、身長、頭囲が小さく、時に顔貌異常や知能障害がみられた[197][198]。さらに、子どもの出生後の白血病や筋肉の悪性腫瘍の発症率が高くなることが、複数の調査結果で報告されている[198]。
2021年にアメリカのグループが行った、2010年から2018年に入院した妊婦2091万4591人を対象としたビッグデータ研究では、入院時に大麻使用障害があった妊婦でうつ、不安、嘔気のリスク上昇が見られ、これらの結果はJAMA Psychiatryで報告された[199]。
脳への影響
2010年にアメリカのグループが行った若年者を対象した研究では、大麻使用で前頭前野が有意に萎縮することが示された[200]。2016年に別のアメリカのグループが行った成人を対象とした研究では、大麻使用で前帯状皮質が有意に萎縮することが示された[201]。この萎縮は大麻の用量依存性だった。
過去2016年の世界保健機関の事前審査報告書では、研究条件が不均一であり脳の変化と長期的な大麻の使用との因果関係を推測することはできないというシステマティックレビューを引用している[202]。
2016年、マウスを使った動物実験にて大阪大学大学院医学系研究科解剖学講座(分子神経科学)の准教授の木村文隆を中心とする研究では、外から大麻を摂取することにより、大麻に含まれるカンナビノイドが、必要なシナプスまで刈込を行い大脳皮質神経回路の破綻をきたすことを発見し、米国科学誌「Journal of Neuroscience」に公開し、大麻や危険ドラッグが脳に悪影響を与えることの科学的根拠を明らかにしたとしている[203]。
2021年、イギリスアルツハイマー協会は、大麻(やその成分THCやCBD)がアルツハイマー病の治療薬として研究されていることを紹介している[204](THCも参照)。なお、CBDはアメリカ国立補完統合衛生センターが「THCを常用している人に精神病的作用や認知障害をもたらす可能性がある」としている[11]。
2021年、アメリカ、ドイツ、イギリス、アイルランド、カナダ、フランス、中国のグループが行った共同研究[205]では、思春期の大麻使用が5年後の両側前頭前野の萎縮に関連すると示された。逆に5年後時点の大麻使用がベースラインの脳萎縮には関連していなかったため脳の萎縮は大麻使用後に起こったものだと示唆された。
認知機能への影響
大麻使用は、記憶、学習、注意、意思決定、協調、感情、反応時間を担当する脳の部分に直接影響を与える[3]。
カンナビノイドは、内因性カンナビノイド受容体に作用し脳内の神経伝達物質の放出を調節、細胞同士の伝達方法を変更することができる。人間の脳においてはこれが、自分の置かれた環境への認識、考え、行動および感情に影響を及ぼす[17][37]。
大麻は脳の認知機能の神経基盤へ直接作用し、抑制制御力や作業記憶の低下、そして特に大麻は脳の報酬反応において、アルコールやタバコ(ニコチン)の使用とは独立した、顕著な鈍化が観察されており、薬物を求める行動がうまく制御されない依存行動、大麻依存症を引き起こす。これは持続的である可能性があり、後の人生においての再びの大麻使用または大麻以外の薬物使用を引き起こす、ゲートウェイドラッグの素因となるとされている[101]。
その他の悪影響として、記憶力の低下、集中力の低下、知能指数(IQ)の低下、思考の低下、判断能力の低下があるが、大麻の長期使用では大麻が体から抜けている状態であっても認知機能、特に高次実行機能が累積容量依存的に低下、影響は数日から数ヶ月、あるいはそれ以上続くことがあり、完全に元に戻らない可能性がある[18][20][206]。
2012年、ニュージーランドの大規模出生コホート研究、ダニーデン研究(DMHDS)により、持続的な大麻使用は教育指数を制御した後でも、機能の各領域に渡る神経心理学低下と関連していたと報告された。常習的な大麻使用者においてはさらに認知障害がより多く見られ、青年期に大麻使用を始めた使用者に集中しており、使用が長引くほど認知機能の低下が大きくなることが示された。さらに、大麻使用をやめても、青年期に使用を始めた使用者の神経心理学的機能は完全には回復しなかった。これらは、大麻が青年期の脳に対して神経毒性の影響を及ぼす可能性を示唆している、としている[54]。
各公的機関が認めているが、研究には以下がある。
過去1999年に全米疫学学会誌に掲載された1,300人を対象とした研究で「15年以上にわたって大麻のヘビーユーザーとライトユーザー、全く使わなかった人の間で有意な認知機能の低下はなかった」と報告された[207]。永続的な影響にはエビデンスが乏しいという意見もあった[208]。
2018年の世界保健機関の報告書は次のメタアナリシスに言及し、認知機能の低下はほんのわずかとしていた。また大麻使用から72時間後には低下はなかったという研究にも言及し、低下が元に戻ることを示す可能性に言及していた[58][209]。
しかし、2018年に行われた若年者を対象としたメタアナリシスでは、69個の試験を用いて2152人の大麻使用群と6575人のコントロール群を比較し、結果大麻使用群で有意な認知機能の低下が認められた。具体的な認知ドメインとしては学習機能、遂行機能、処理速度、注意、ワーキングメモリーなどが有意に低下した。一方で視空間認知への影響は有意ではなかった。これらの認知機能低下は被験者の年齢や大麻使用開始年齢によらず認められた。[210]
2022年にカナダのグループが大麻が認知機能に対して与える慢性的な影響についてメタアナリシスのシステマティックレビューを行った[211]。結果、遂行機能などのドメインに、急性期だけでなく長期的にも悪影響があることが示された。これらの効果量は軽度から中等度だった。
呼吸器への影響・発ガン性
大麻使用の呼吸器への影響としては、胸部の粘液蓄積の増加、慢性的な咳、気管支炎、肺感染症とされている[6][20]。
大麻使用者の特徴として、空咳、慢性咳嗽がある。喘息、慢性閉塞性肺疾患、肺炎などの呼吸器系疾患は、タバコの使用状況にかかわらず大麻喫煙の常用と関連している。その他、大麻常用は心血管系の有害事象との関連、救急部門でみられることが多くなってきた、嘔気と周期的な嘔吐を示すカンナビイド悪阻症候群(CHS)と関連している[18]。
カナダ保健省への、自発的な報告のみによる有害反応データでは、2024年最も報告された有害反応は「呼吸困難」だった[5]。
大麻とガンの関連性は大麻の慢性喫煙と精巣ガン(非セミノーマ型)に関する限られた証拠が示されているが、さらなる研究が必要、とされている[212]。
2025年現在、アメリカ疾病予防管理センターは、大麻に含まれる特定のカンナビノイドが癌や癌の化学療法によって起きる吐き気や嘔吐の副作用を和らげることに役立つ可能性があると示唆されているが、大麻や大麻の成分が癌を治すことはできない、と明言している。そして、他の多くの薬と同様に、大麻も副作用や合併症を引き起こす可能性があること、大麻に頼り癌のための従来の医療を避けたり遅らせたりすることは、深刻な健康上の結果をもたらす可能性があると注意喚起している[212][62]。
研究には以下がある。
2018年の世界保健機関の報告書によれば、かなり強い疫学的な根拠によって大麻の使用によって肺、頭、首のガンのリスクは増加していない[58]。
フランスの消費者情報誌 60millions-magazine が行った研究によると、大麻の最も一般的な消費方法である「ジョイント(紙巻大麻)」として消費する場合、吸引される煙に含まれる有害化学物質は、通常のフィルター付き煙草(実験ではマールボロ赤箱と比較)の約7倍であるという調査結果がある[213](ただし、大麻からタバコにしか含まれないはずのニコチンも検出されている)。つまり、ジョイント3本で煙草20本分という計算になる。この原因として、ジョイントでは一般にフィルターを使わないことで有害物質を直接通過しているということが。また、カナダの研究では煙草と同じような吸い方で大麻を吸った場合にはタール量は変わらず、強く吸った場合にタール量が2-2.5倍増える事が示されている[214]。
また、たばこと大麻の併用は慢性閉塞性肺疾患の症状が悪化することが示されている[215]。大麻の長期使用者では、慢性気管支炎などの呼吸器障害の罹患率が高くなる[216]。
大麻は依存性が低く、少量で効果を得ることが可能であるため、煙草のように長期間にわたって毎日のように終日何本も吸うことは非常に稀であり、大麻の月間消費量はジョイント平均18.7本であるとの主張がある[217][218]。これに対してタバコ喫煙者はタバコを1日に平均15~20本[219]をほぼ1年中繰り返して吸うため、タバコ喫煙者の方が消費量が多い[61]。大麻喫煙者が被るタールによる害は、1日の一般的な消費量(煙草20本、ジョイント1~2本[220])で比較して、煙草の1/3ほどということになる。
カリフォルニア大学の主導で行われた研究では「長期的に大麻を常用していても肺ガンになるような関係を全く見出すことはできなかった」としている。また年間のジョイント消費量が10-30本の大麻使用者に限ると逆相関関係にあることが示された。これに対してタバコ使用者の場合は肺ガンの発病リスクが20倍になるとしている[221]。別の研究でも口腔ガンと上気道ガンも大麻との関連性は無いとしている[222][223]。
大麻成分のカンナビノイドには抗ガン作用と生物の活性や反応を刺激し煙の発ガン作用を抑制してガンの発生を誘発する不安定なフリー・ラジカルの生成に関連する免疫システムの暴走が起こらないようにする働きがあるとの主張がある[224][225]。これに対して、タバコの煙に含まれるニコチンはガン細胞の成長を促進し、細胞に血液を供給する働きが知られている[226][227]。
生殖能力への影響
1974年に発表された男性の長期大麻常用者を対象とした研究では男性ホルモンの一種であるテストステロンが44%も減少し、性機能が低下して精液に異常が見られたと報告されている[228]。しかし、他の研究ではテストステロンの減少を再現できていない[229]。1日にジョイント20本の喫煙を30日間強制させた実験では僅かに精液の濃度が低下したが[230]、結果は正常範囲内であり、生殖力に影響することはないとされている。
動物実験では大量にTHCを投与した場合にホルモンが変化し排卵が抑制され、投与を中止した場合に正常化されたとする研究報告がある[231]。別の実験ではメス猿に対して1年間のTHC投与で耐性が形成され正常な排卵周期に回復している[232]。
2025年、アメリカ食品医薬品局(FDA)、アメリカ国立補完統合衛生センターは、CBD製品使用の副作用の一つとして、男性生殖機能への害も挙げている[233][11]。
実験動物を用いた研究では、雄の生殖毒性が示されており、それはCBDを投与された妊娠中の雌の子供にも影響がみられた。観察された変化には、精巣のサイズの減少、精子の成長および発達の抑制、血中テストステロンの減少などがあった。これらの発見が人間の患者にとって何を意味するのか、CBDを摂取する男性、妊娠中の女性の子供に、どのような影響を及ぼす可能性があるのかは、まだ明らかではない。しかし、懸念を示しているとしている[233][11]。
免疫機能への影響
大麻の免疫系に対する影響は不明瞭であり、大麻の使用が免疫系のT細胞やB細胞の機能を僅かに断続的に混乱させるとする研究はあるが、他の多くの研究では正常値を示している[61]。
1974年に行われた研究で大麻使用者の免疫機能低下がみられたが[234]、多数の追試実験では再現することはできなかった[235]。動物実験ではリスザルに人間が通常摂取する、およそ1000倍の量に相当する100mg/kgのTHCを1日に投与した結果、ヘルペスが増加したと報告されている[236]。
55歳以上への悪影響
大麻の医療用・娯楽用の認可、使用が拡大している地域では高齢者(55歳以上)の大麻中毒者、大麻依存症者が増加しており、酩酊やめまい(起立性低血圧)などによる外傷、心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中など)、不安障害などのより高いリスクが懸念されている[1][18][11][17][12][8]。
タイでは51歳の男性が大麻使用後に心不全で亡くなったとの報道もある[16]。
カナダにおいて、医療用大麻は「医療目的で使用する大麻」のことであり娯楽用大麻と同じ物である。処方薬では無いため治療効果を謳うことは禁止であり、保険の適用や消費税の控除を受けることもできない。科学的・医学的根拠に基づいた慣行や従来の医療の範囲外であり、薬物を使用する自由の権利によって認められている「信念に基づいた特別な医療アクセスプログラム」である[72][95]。
カナダ政府は公式サイト上に「一般的な『信念』とは反対に、人々は大麻に依存する可能性があります」と、大麻が安全だとの人々の誤った認識を否定し大麻のさまざまな健康への悪影響を掲示、「カナダの大麻:事実を知ろう」でも、「健康を守る最良の方法は、大麻や大麻製品を使用しないことです」と繰り返し注意喚起している[96]。
大麻使用による悪影響はどの年齢にも起こりうるが、特に注意喚起の対象となっているのは、脳が発達中の25歳までの成人、未成年のみならず、加齢により大麻に対して、より高いリスクがある55歳以上の成人も特に対象である[1]。
55歳以上に対しては、何よりもまず、乾燥大麻の平均THC含有量がたったの約3%だった1980年代中頃や1990年代初頭に比べ、2019年時点でも約14%にまで増加しており、現在は最大で30%にまで達することがよくあること、電子タバコ用リキッドなどの大麻抽出物製品は最大90%に達することがあり大麻は昔とは違い非常に強力な薬物となっていること、さらに、食用大麻製品などの様々な消費方法もあるため、数十年前の認識や経験に頼って使用しないよう注意喚起している[9][1]。
そして、身体が薬物を処理する能力は年齢と共に変化すること、55歳以上の成人は処方薬の服用や市販の健康食品を使用している場合が多く、それらと相互作用する可能性もあり、大麻使用の副作用が出るリスクが高くなっている可能性があること、特に「肝臓病、腎臓病、心臓または血管疾患」を持っている場合は大麻を使用するべきではない、と注意喚起している[1]。
大麻使用後に、以下の深刻な副作用のいずれかを経験した場合は医療専門家に連絡するよう呼び掛けている[1]。
- 発作
- パラノイア(偏執病)
- 胸の痛み
- 幻覚
- ひどい頭痛
- 息切れ
- 意識喪失
- 速いまたは不規則な心拍
- 片目または両目の視力障害
- 体のどこかの部分のしびれまたは脱力感
- 混乱、話すことの困難、話を理解することの困難
また、大麻が人間の脳と体に与える影響の一部で、55歳以上の成人が、より強く感じる可能性のあることとして以下を挙げている[1]。
脳への影響[1]
- 不安
- 眠気
- 幻覚
- パラノイア(偏執病)
- 混乱
- 誤認識、誤解
- まとまらない考え
- 転倒、事故または怪我を引き起こす可能性のある運動失調
- 記憶力、注意力および複雑な作業におけるパフォーマンスの障害
心臓への影響[1]
THCは使用後すぐに心拍数を増加させる可能性があり、THCの含有量が多いほどその可能性も高くなる。心拍数の増加により以下の健康影響がある[1]。
- 心臓に余分な負担をかける
- 心拍数の増加は不快であり、不安を引き起こす可能性がある
- 心臓病のある人にとってはよりリスクとなる
心血管疾患や脳血管疾患を抱える人において、大麻は心臓発作や脳卒中のリスクを高める可能性がある[1]。
血圧への影響[1]
大麻は血圧を下げる可能性があり、特に起立性めまい、横になっている状態や座っている状態から立ち上がる際に症状が現れることがある。低血圧の症状には以下がある[1]。
- 失神
- めまい
- 視界のぼやけ
- ふらつき
これらの症状は、めまいや身体の協調性およびバランスの問題を引き起こすことによって、転倒や怪我のリスクを高める可能性がある。大麻をアルコールや他の健康食品と併用すると、より転倒や怪我のリスクが増加する可能性がある[1]。
肝臓への影響[1]
肝臓は薬物や物質を人間の体から除去するために役立っている。しかし、肝機能は年齢と共ににいくつかの変化が起きている可能性があり、また55歳以上の成人は複数の処方薬を服用している可能性も高い。これは、大麻と処方薬が体内に長く留まることを意味し、相互作用のリスクを高め副作用を引き起こす可能性がある。高用量のCBD(1日240mg)を含む大麻を長期間経口摂取することは、肝臓の問題を引き起こす可能性もある。また、毎日の大麻使用は慢性C型肝炎を持つ人において、脂肪肝疾患や肝線維症の重症度と進行度を増加させる可能性がある[1]。
以下の副作用が大麻使用後に発生した場合、深刻なことがあるため医療専門家に連絡するよう呼び掛けている[1]。
- 熱
- 吐き気
- 嘔吐
- 食欲不振
- 尿の異常な黒ずみ
- 右上腹部の痛みや不快感、黄疸、皮膚や目の白い部分の黄変
目への影響[1]
限られた証拠はCBDが眼内圧を上昇させる可能性があることを示唆している。この影響は、時間の経過と共に繰り返し使用することで目に損傷を与える可能性がある。緑内障がある場合は、特にCBDを含む大麻製品を使用する際に注意が必要である[1]。
なお、大麻は人間の目にも影響を与え、とろんとした目、焦点が定まっていない目は大麻使用者の特徴であり、DSM-Ⅴ-TRの大麻中毒の、徴候または症状にも「結膜充血(血走った目)」があるが、過去1970年代と1980年代の研究では眼圧を下げる可能性が示され緑内障への治療効果が期待されていた。しかし、大麻が眼圧に影響を与える時間は数時間と短く、既存の治療法ほどの効果はないことが示されている。大麻・医療用大麻の限界の一つとして、病気に及ぼす効果は一般的に控えめであり、より効果的な医薬品が存在するため第一選択治療薬ではない、がある。医療用大麻は、既存の治療薬が効かない薬物抵抗性のある患者のために本来は使用されるものである[1][18][11][19]。
血糖と糖尿病[1]
1型糖尿病を持っている場合、大麻使用は副作用、特に糖尿病性ケトアシドーシスを含む副作用が発生するリスクが高まる可能性がある。これは未治療の場合、致命的となることがある。以下の症状が発生した場合、すぐに専門家に連絡するよう呼び掛けている[1]。
- 嘔吐していて、食べ物や液体を受け入れることができない
- 血糖値が普段のレベルよりも高かったり低かったりしており、インスリンを使用するなどの自宅での通常の治療に反応しない場合
以上、55歳以上の成人に対し、大麻は昔と違い非常に強力な薬物となっているため数十年前の認識や経験に頼らないこと、体の薬物代謝能力は年齢と共に変化していること、大麻は処方薬や市販の健康食品とも相互作用することもあり、大麻使用の副作用が出るリスクが高くなっている可能性があることが注意喚起されている[1]。
過去1990年代までの大麻への認識
栽培技術の向上によって大麻草の平均THC含有量は約16%にまで増加。合法大麻企業が生んだ大麻グミや大麻クッキーなどの大麻系食品やオイル、電子タバコ用リキッドなどTHC濃度が最大90%に達することもある高THC濃度大麻製品が普及し、大麻は過剰摂取、中毒、重症化も簡単に起こりうる、約3人に1人が依存症を抱える危険な薬物となっている[9][1][6][7]。
1990年代、大麻といえばマリファナ煙草で、平均THC含有量も旧種のたった約3%であった。大麻の毒性、依存性は低く、看護や治療などの臨床的な関与は不要とされていた[9]。
1997年、天文学者でSF作家のカール・セーガンは、大麻に関する統計資料のほとんどが有害が前提とされる統計手法か、意図的に数字を改竄した資料も存在し、科学的検証に耐えられないデータばかりが媒体で取り上げられ「有害である」と喧伝されていると主張している[237]。
1998年、国境なき医師団の創設者として知られるフランスの医者で政治家のベルナール・クシュネルは、ピエール・ベルナール・ロック博士の監修の下、に政府報告をまとめ、依存性と神経毒性によって薬物の分類を行った。最も依存性が高く、かつ致命的なクラスとして、ヘロイン、コカイン、アルコール。中間クラスとして、ベンゾジアゼピン、幻覚剤、たばこ。大麻を最も危険性の低いクラスとした。報告で、「大麻は、第3章に定義された、神経解剖学的、脳化学的、そして行動学的見地から、神経毒性を持たない。そして以前から指摘されている長期大麻使用者の脳の形態変化は、近代的なMRIによる検査で確認することはできない。さらに、大量のTHCを投与したマウスにおいても、海馬の不可逆的形態損傷は発見されなかった」とし、クシュネル自身による総括では、「科学的見地に立つと、アルコールやコカインとは対照的に、大麻の神経毒性は立証できない」と締めくくった。[238]
1997年の世界保健機関の報告書では、「標準化された診断基準を用いる臨床的及び疫学的研究によれば、大麻依存症候群の特徴は、薬物使用に対する自己制御の喪失、業務遂行能力の妨げとなり、大麻の使用を原因とする認知と自発性の障害、そして、特に長期的な大量使用者における自尊心の低下や抑うつ状態など、その他の関連問題を特徴とする」と述べる一方、使用をやめるために治療を求める者がいる可能性はあるが、依存症の推定有病率と治療を求める者が少ないことから治療がなくても依存が寛解する(治る)比率が高いことが推定されるとされていた。離人症性障害とフラッシュバックは少数の症例のみ報告されているだけで、大麻が関連しているかどうかの医学的根拠はないとされていた[112]。
1998年の研究では、大麻の離脱症状は、長期常用した場合の異常な夢などが起こることもある。抑うつ、疲労、頻繁なあくびなどが見られたとの報告もある[239]。
1999年の全米科学アカデミー医学研究所(IOM) の報告書では、煙による害を別にすれば、大麻使用による副作用は他の医薬品で許容されている副作用の範囲内にあるとされていた。大麻の禁断症状は外見で分かるような症状は極めて稀であり、長期常用者に限られている。大麻の効果に対する耐性は急速に発生する可能性がある一方急速になくなり、個別に耐性が報じる速度が異なるため、ある研究では陶酔効果には4日の間に耐性が生じたが、食欲刺激効果では生じなかった。また、アルコールやヘロインなどの身体的に顕著な禁断症状を伴う薬物に比べて「穏やかで期間も短く、一旦止めたユーザーが再び始めようとする誘惑もあまり起こらない」とされていた。これは、ヘロインやアルコールなどの禁断症状の起こりやすいドラッグでは数時間から数日で代謝物が体外に排出されるのに対して、大麻の代謝物の場合は排出されるのに数週間かかることも関係していると言われている[61]。
| 薬物 | 依存性 | 離脱症状 | 耐性 | 報酬作用 | 陶酔性 |
|---|---|---|---|---|---|
| ニコチン | 6 | 4 | 5 | 3 | 2 |
| ヘロイン | 5 | 5 | 6 | 5 | 5 |
| コカイン | 4 | 3 | 3 | 6 | 4 |
| アルコール | 3 | 6 | 4 | 4 | 6 |
| カフェイン | 2 | 2 | 2 | 1 | 1 |
| 大麻 | 1 | 1 | 1 | 2 | 3 |
| 薬物 | 指標(最大15) |
|---|---|
| ヘロイン | 12.9 |
| アンフェタミン | 6.1 |
| コカイン | 5.5 |
| LSD | 3.1 |
| 大麻 | 2.6 |
| エクスタシー | 1.3 |
注釈
- 使用障害のリスクについてはPage.9では、使用障害のリスクの推定値には幅があるが、典型的に10-11人に1人とされる。続いて、この推定値は患者数自体が少ないため信頼できないと指摘している。その原文の引用:しかしながら(略)「全世界の疫学データは大麻使用の患者数を基盤としており、事実として信頼できる傾向を報告するにはあまりにも少なすぎる」。そして「データは矛盾があるようだ」として警鐘を鳴らす。