太田ステージ

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太田ステージ(おおたステージ)とは、自閉症児の認知発達段階を6段階で評価し、個々に適した療育を行うための評価ツールである。1980年代から1990年代にかけて、東京大学医学部附属病院精神神経科小児部において、精神科医の太田昌孝と保健学者・永井洋子によって開発された[1]

自閉スペクトラム症の子どもは、言葉の発達の遅れ以外にも、比較・空間概念などに困難がみられることが多い。また、表面的には同じ行動であっても、背景の発達段階が同じだとは限らない。太田ステージは、こうした行動の背景にある認知の違いを段階的に捉えることを目的に開発された[2]

太田ステージは、ジャン・ピアジェの発達理論に基づき、シンボル機能の発達段階に焦点を当てて、子どもの発達段階を定義・分類する枠組みである[3]

認知発達のプロセスは、大きく分けて三つの世界として整理されている。Stage Iは「触ってわかる世界」と定義され、感覚運動的な関わりが中心となる。続くStage IIからStage III-1は「見てわかる世界」であり、視覚的な理解が深まる時期にあたる。そしてStage III-2からStage Vに達すると、本格的な「言葉とイメージの世界」へと移行し、比較概念や空間概念を用いたイメージ操作が可能となる[2]

本評価では、事物を言葉や身振り、絵などのシンボルに置き換え、それらをイメージとして使いこなす能力を測定する。評価には、言語による教示のもと、シートへの指さしなどの簡便な操作で実施可能な「言語解読能力テスト 改訂版(LDT-R)」が用いられる[2]

LDT-Rは、純粋な言語理解力を測定するため、身振りは一切用いずに実施される。ハサミ、積み木、箱、ボタンといった具体物が用いられ、実施時間は5~10分程度である。発達ステージに対応した取り組みや教材・教具が体系化されており、検査結果は自立課題の作成や問題行動の改善に役立てられる[2]

太田ステージ評価に基づいて行われる療育は、認知発達治療(CDT:Cognitive Developmental Therapy)と呼ばれる[2]

太田ステージは、視覚-運動系の表象機能(見て操作する力)を測る鳥の絵課題(TOB:Task of Birds)と組み合わせて評価されることが多い。TOBは、腹部の一部が欠損した鳥の絵を完成させるシンプルな課題であるが、この結果と太田ステージを対照させることで、言語面と動作面の発達の不均衡を捉えることができる[2]

特にASD児においては、言語的なステージが低い段階であってもTOBを通過するなど、視覚的な認知に強みを持つ特性が数値として現れる傾向がある。一方で、言語理解の段階に比して視覚-運動系の発達が未熟な場合、分かってるのに上手くできないという葛藤が生じやすく、これがパニックや攻撃行動、イライラといった行動上の問題に繋がることがある。こうした不均衡は、行動上の問題の背景を理解するうえで重要な指標となる[2]

太田ステージ評価は、シンボル機能に特化したものであるため、田中ビネー知能検査、WISC、K式発達検査などの他の検査と併用して多角的に評価することが推奨されている[2]

介入では、少しの助けがあれば達成可能な「発達の最近接領域」に基づいた課題選択が推奨される。状況によっては一つ前の段階の課題に戻ることも有効な場合がある。発達段階に応じた適切な課題を選択すれば、どの子どもも自ずと主体的に取り組むようになる[2]

分類

太田ステージの定義と分類[2]
ステージ 定義(発達の段階) おおよその認知発達年齢 ピアジェの発達段階 特徴 主な教具
Stage Ⅰ シンボル機能がまだ認められない段階 〜1歳半 感覚運動期 世界を「概念」ではなく、「感覚や動き」を通じて直接的に把握する時期。「触る・叩く・口に入れる・匂いを嗅ぐ」行動が頻繁に見られる。物に名前があることにまだ気づいていない。

StageⅠは、StageⅠ-1(要求手段がない)、StageⅠ-2(要求手段はクレーンまたは発声のみ)、StageⅠ-3(言葉、発声、指さし、身振り、視線など複数の要求手段がある)の3段階に区分される。

さらに、重症心身障害児を対象として、StageⅠ-1は次の3段階に細分化される。

  • StageⅠ-1(1)ほとんど反応がみられない。
  • StageⅠ-1(2)見る、身をよじるなど何らかの反応がみられる。
  • StageⅠ-1(3)物に関わろうとする、物に触れると握ろうとする。身をよじる、手を払うなどの拒否の表現がある。

とくに成人期においてStageⅠ-3に該当する場合、言葉を意味理解としてではなく、日常場面と結びついた合図として受け取り、それに反応して行動することがある。そのため、表面的には言葉を理解しているような振る舞いが見られるケースがある。

この段階の主な行動特徴として、言葉かけをしても知らんふりをする、絵本を見せても目をそらす、機能的なおもちゃ遊びをしない、物真似による表示をしない、要求手段が大人の顔を見ないで引くクレーン現象のみである、といった5つが挙げられる。これらの行動は、言葉や働きかけの意味が分からずに起こるものである[4]

この段階の子どもに対しては、言葉や絵による指示よりも、触覚を中心とした触って分かるアプローチが有効とされる。介入では、体感的なフィードバックのある活動(例:ボールを穴に落とす、押したら音や振動が出る、サーキットの最後に飛び降りる、マジックテープを剥がすなど)が中心に行われる。こうした活動は、はっきりと「終わった」と感じられる感覚的なフィードバックを伴い、子どもが達成感を得やすいという特徴がある。

生活・行動面の特徴としては、食事や睡眠、排泄のトラブルや、多動、自傷といった行動が多く見られる。特定の動作を繰り返す常同行動、物をなめる、物をタッチし続ける、あるいは物を激しく回すことへの強いこだわりが見られることもある。

視覚などの遠位感覚よりも、触覚や嗅覚、固有覚といった身体に近い感覚(近位感覚)を優先して環境を理解しようとする。視覚認知や記憶容量が限定的であるため、好きなものに突進したり、視界の外にあるものをすぐ忘れてしまったりする姿がみられる。

コミュニケーションにおいて、絵カードを提示しても、その意味を捉える前に、噛む・振リ回す・丸める・払いのけるといった感覚的な操作の対象にしてしまう傾向がある。そのため、絵や写真などの抽象化された情報よりも、実物の方が理解しやすい段階となる。

物を投げてしまう行動がある子どもに対しては、バケツや穴の開いた箱をゴールとして用意し、物を落とし入れる経験をさせることで、「行為の終点」への気づきを促すことができる。物を入れた際に音が鳴るなどのフィードバックが加わることで、行為の終点の理解がしやすくなる。このような活動は、水遊びから水やりや窓掃除へ、物を投げる行動からゴミ捨てへと結びつけることで、日常生活における実用的な行動へと発展させることができる[2]

身体感覚に訴えるフィードバックや、物との因果関係に気づくための教具が中心となる。

例:ピヨピヨスイッチ、フットスイッチ、回転ガラガラ、水平パイプ抜き、垂直パイプ抜き、リベット教材、玉抜き、リング抜き、リングさし、玉入れ、太い棒さし、リングとビー玉の弁別、メロディボックス、プットイン、ミシン目を入れた紙を裂くなど[2]

Stage Ⅱ シンボル機能の芽生えの段階 1歳半〜2歳程度 感覚運動期から表象的思考期への移行期 物に名前があることが分かり始め、片言や身振りによって要求を伝えるようになる。日常的に親しみのある言葉(例:「行こう!」等)は理解できても、動作語や比較語(大きさや位置など)の区別は難しい。言語理解は一義的であり、現物の「靴」は靴と認識できても、絵の靴とは結びついていなかったりする。好きな対象については絵として認識できることもあるが、形状や方向を正確に把握するためには、型はめなどの触覚的フィードバックを必要とする。発話にはオウム返しが多く認められる。

StageⅠでは、触る・舐める・振るなどの触覚的確認が主で、対象を「じっと見る」ことは少ない。StageⅡになると、まず対象を「見てから」操作が始まり、2つのものをくっつけるといった動作を通じて「見て同じであること」を確認するようになる。

感覚的な関心は触覚から視覚へと移行し、物をそろえる、並べるといった操作的活動が活発になる。数字を並べるなどの課題に応じる子どももいるが、量の概念の理解は困難であり、対応する数だけ物を動かすことができない。そのため、数唱や数字によって手の動きを止められず、あるものをすべて移してしまう行為がしばしば観察される。

変化を予測する力が弱いため、物や人の配置が一定でない場合に不安を示しやすい。人への関心が高まる反面、特定のキーパーソンへの依存が強まり、人目を意識したイタズラや他者に対する攻撃的行動が増加することがある。

視力に問題がなくても、目の前の対象の大きさや形を正確に把握できない子どもがいる。そのような子どもの内面は、周囲の大人には想像しづらい。視力に問題がなければ大人と同じように見えているはずだという思い込みが、支援の妨げになることがある。プットインで、入りそうにもない大きさの玉を入れようとする行動がみられることがあるが、これは大きさや形の判断に視覚ではなく触覚を用いているためと考えられる[2]

目に見える手がかりをもとに、基本的な動作や数概念の基礎を学ぶ教具が選ばれる。

例:玉さしによる数の教材、ペグ差し、つみき、パズル、半円形の棒さし(方向を意識して抜くもの)[2]

Stage Ⅲ-1 シンボル機能がはっきりと認められる段階 2歳半前後 前概念的思考期 物の名前を理解し、見本提示や模倣による学習が成立する。ただし、比較概念はまだ未熟であり、一度に2つの事柄を頭の中に保持することが難しい。前期(非関係づけ群)では、マッチング課題において見た目が完全に一致しないと同一のものとして判断できないが、後期になると外見の異なる同一物についても理解し始めるようになる。過去・未来・他者の気持ち・暗黙の了解など、目に見えない事柄の理解は依然として難しい。

Stage IIよりも言語理解は進むが、言葉の理解はまだ十分ではない。発話はオウム返しや二語文程度が多く、「昨日」「明日」といった時制を示す語はほとんど見られない。決まった言い回しや特定の反応と結びついたパターン化した言語表現が用いられやすい。なお、言語表出の有無と発達ステージは必ずしも一対一で対応するわけではなく、Stage III-1以上であっても言語表出がみられない子どもがいる一方、Stage Iの段階で一語文が現れる子どもも存在する。

こだわりやパターン化した行動が目立ちやすく、思考は目の前の事象に集中しやすいため、「待つ」ことが難しい。この段階では、目の前に物を置くこと自体が「やってください」という指示と同義になる。そのため、材料や道具を提示しながら「やってはいけない」と伝える対応は、goとstopの指示が同時に発せられた状態となり、混乱を招きやすい。

じゃんけんでは常に相手と同じ手を出そうとする様子がみられる。同年齢の子どもへの対人的関心は広がりつつあるものの、関わりは一方的になりやすい。

Stage IIからStage III-1にかけては、人を意識した行動が増加し、怒りが他者に向きやすくなる。予告なく頻繁に予定を変更されると怒りが蓄積し、些細なきっかけで攻撃的行動が生じることもある。一方で、日常的にイラストや写真などの視覚的手段を用いて双方向の関わりを行っていれば、内容の理解に至らなくても「何かが伝えられている」という意図を察することが可能になる。

Stage III-1に該当する定型発達児では読み書きが可能なケースは稀であるが、学齢期のASDの中には文字の読み書きができる事例が多くある。

このように、Stage III-1は言語よりも視覚情報が優先される段階であり、ASDの特性が最も顕著に現れやすい時期である[2]

視覚的理解を活かし、マッチングや分類、数の合成・分解などを学ぶ教具が導入される。

例:ワークシートとコマによる数の教材、円柱と筒による数の合成・分解、見本通りに街並みを構成するロジックシティ、切片パズル、2点の板さし[2]

Stage Ⅲ-2 概念形成の芽生えの段階 3〜4歳 前概念的思考期 ごく基本的な比較の概念ができはじめる時期。物と物との関係づけは経験に左右され、大人の概念とは異なる。個々のイメージを中心とした表象であり、現実の生活と密着している。前期では、目の前にない物について大小を比べることは難しいが、後期になると、目の前にない物についても大小を比較できるようになる。

「雨だからできません」など、理由を伴った説明を用いることで状況を理解し、気持ちを切り替える様子が見られるようになり、環境の変化に応じようとする行動も増えてくる。

「昨日」という語を使用することはできるものの、時間概念はまだ未分化であり、過去のどこかの出来事を指して用いている場合がある。

対人的なやり取りの中で勝ち負けの概念が芽生え、じゃんけんなどのルールに基づいたやり取りが成立し始める。発達に伴い他者ヘの意識も高まるが、比較によって自信を失うことも増える。思考の枠組みはまだ限定的であるため、特定の順番や勝利への強いこだわり(一番へのこだわり)が見られるようになる。そのため、「誰が一番かな?」など比較を強調する言葉かけは避け、多様な評価軸を経験できるようにし、勝ち負けではなく行動や過程(応援を頑張ったこと、静かに歩けたこと、順番を守れたことなど)を評価するなどの対応がとられる。また、あらかじめ一人ひとりの並ぶ順を決め、並べたこと自体を褒めることで、子ども同士の教え合いが生まれ、友人の存在への気づきを促すことができる。「少しずつ」「もう少し」といった白黒思考を和らげる声かけや、ホワイトボード等を活用した多面的な評価の可視化により、多様な視点から自己評価に気づくことができる環境設定が行われる[2]

比較概念や音節の理解、複数の指示を保持するための工夫がなされた教具が用いられる。

例:円形マグネットを使用した音節分解ボード、ホワイトボードと模型による複数指示、透明なパイプやアクリル筒を用いた数の教材[2]

Stage Ⅳ 基本的な関係の概念が形成された段階 4〜7.8歳程度 直観的思考期 過去や未来、上下などの基本的概念や、因果関係(「なぜ」に対する理解)を獲得し、物事の理由を説明できるようになる。一方で、思考は見た目や表面的な特徴に左右されやすく、背後にある考えや普遍性に基づいた理解には至りにくい。他者の視点に立って考えることは、なお難しさが残る。

憧れのキャラクターになりきる遊びを行ったり、自分なりの目標をもって活動するようになり、仲間意識が芽生え始める。絵を描いたりブロックを組み立てたりする活動を通して、内面の表象を言葉で表現するようになる。また、文字や数字への関心が高まり、Stage Ⅳの後期に入ると数の保存が可能となる。

Stage Ⅳの後期に入ると、自分とは異なる他者の視点や信念を推測する能力、いわゆる「心の理論」が成熟し始める。その代表的な指標である「サリーとアン課題(誤信念課題)」においては、前期と後期で通過率が有意に異なる[5]

知的障害を伴う自閉スペクトラム症(ASD)の場合、動作系のスキルと比べて言語発達の遅れが指摘されることが多い。一方、高機能ASDでは、言語発達に比べて動作系のスキルの遅れがみられ、物の扱いや身体動作がうまくいかない場面が増える。その結果、失敗体験や否定的評価がなされ、キレやすいなどの情緒的な問題が指摘されることがある[2]

空間認知や論理的思考、社会的なルールを理解するための教材が活用される。

例:リベットによる交叉の課題、iPadやPCを用いた学習ソフト(ひらがなのなぞり書きや空間探索など)、ソーシャルストーリー[2]

Stage Ⅴ以上 具体的操作期以降の段階 7.8歳以上 具体的操作期・形式的操作期 見かけに左右されず、一貫性のある論理的思考ができるようになる。上限は定められていない。

外部リンク

関連項目

脚注

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