自閉症

神経発達症 From Wikipedia, the free encyclopedia

本来(少なくとも1960年代後半ごろまで)の「自閉症」という言葉は、統合失調症患者の根本的特徴を示す状態だった[2]が、1940年代にアメリカ合衆国の精神科医レオ・カナーが幼児に似た症例を報告し、こちらも自閉症(じへいしょう、英語: Autism)と呼ばれるようになり、現在では単に「自閉症」と称するとこちらを指すため、本項では基本的にカナーの報告した症例について説明する。

概要 自閉症 Autism, 概要 ...
自閉症
Autism
幼い赤毛の少年がカメラに背を向けて、台所の床の上に缶を積み上げている。自閉症では、積み上げたり並べ替えたりなどの動作を繰り返す様子が見られる。
物を積み重ねたり並べかえたりすることを繰り返す行動は、自閉症と関連する場合がある。
概要
診療科 神経精神医学, 教育学, 発達心理学
分類および外部参照情報
ICD-10 F84.0
ICD-9-CM 299.00
OMIM 209850
DiseasesDB 1142
MedlinePlus 001526
eMedicine med/3202 ped/180
Patient UK 自閉症
Autism
MeSH D001321
GeneReviews
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自閉症スペクトラム障害[1]

この症候群は、社会性の障害や他者とのコミュニケーション能力に障害・困難が生じたり、こだわりが強いといった特徴を持ち、多くが精神遅滞を伴うもので、その後「自閉症」はこちらを指すことが多くなり、DSM-IVでは広汎性発達障害(PDD)の分類でも、これを従来型自閉症とか古典的自閉症と呼ばれる[3]。この分類の中で別の概念を紹介すると、幼少期に発症したものは小児期崩壊性障害とされ、もう少し症状が軽い状態ではアスペルガー症候群が含まれている。(特に区別する場合早期幼児自閉症小児自閉症カナー自閉症と呼ばれることも。)

世界的には自閉症を持つ人は2,170万人ほど(2013年)[4]。世界において、1000人あたり約1人から2人が自閉症を持っているとされ、また男子には女子の5倍以上多い。

定義

自閉症の基本的特徴は、3歳位までに表れる。以下の3つを主な特徴とする行動的症候群である[5]

  1. 対人相互反応の質的な障害
  2. 言語性および非言語性コミュニケーションの質的障害
  3. 活動と興味の範囲の著しい限局性

世界保健機関によるICD-10では、広汎性発達障害 (pervasive developmental disorders, PDD) に位置づけられている。アメリカ精神医学会によるDSM-IVでは同様にPDDに位置づけられていたが、その後のDSM-5では神経発達症群のひとつで自閉症スペクトラム障害のサブタイプとされる[6]

2008年3月までは、学校教育法上、情緒障害に包括されていた。同年4月以降は、「自閉症・情緒障害特別支援学級」と変更されている。

1980年のDSM-IVに、広汎性発達障害にアスペルガー障害が追加されたことによって、自閉症の概念の中に、より正常な場合と区別のつきにくい状態が含まれ変化が起きた。これらはDSM-5によって、自閉症スペクトラム障害の診断名の元に包括的となったため、広義に自閉症と言う時の範囲は広くなった。

本項では、狭義のDSM-IVにおける自閉性障害を扱い、広義については自閉スペクトラム症を参照。

症状

言語の発達の遅れ、対人面での感情的な交流の困難さ、あるいは全くの無関心、反復的な行動を繰り返す、行動様式や興味の対象が極端に狭い、手をひらひら動かす、物を列や幾何学的に整然と配置するなどの様々な特徴がある。

なお、自閉症の症状は人によってかなり異なり、以上の特徴が当てはまらない場合もある。

長期に渡り社会的相互作用に障害を抱えている[7]。社会的コミュニケーションの不可能状態が続いている[7]

DSMの診断基準

DSM[どれ?]の診断基準に挙げられている症状は次の通り。

  • コミュニケーションにおける質的な障害
    • 視線の相対・顔の表情・体の姿勢・身振り等、非言語行動がうまく使えない。
      • 例:会話をしていても目線が合わない。叱られているのに、笑っている。
    • 発達の水準にふさわしい仲間関係が作れない。
    • 興味のあるものを見せたり指さしたりする等、楽しみ・興味・成果を他人と自発的に共有しようとしない。
    • 対人的または情緒的な相互性に欠ける。
      • 例:初対面の人に対する無関心。
  • 意思伝達の質的な障害
    • 話し言葉の発達に遅れがある。または全く話し言葉がない。
    • 言語能力があっても、他人と会話をし続けることが難しい。
      • 例:一問一答の会話になってしまう。長文で会話ができない。
    • 同じ言葉をいつも繰り返し発したり、独特な言葉を発したりする。
      • 例:人と会話をする際に同じ返事や会話を何度もする。
    • 発達の水準にふさわしい、変化に富んだ『ごっこ遊び』や社会性を持った『物まね遊び』ができない。
  • 限定され、いつも同じような形で繰り返される行動・興味・活動(いわゆる「こだわり」)
    • 非常に強く、常に繰り返される決められた形の一つ(もしくはいくつか)の興味にだけ熱中する。
      • 例:特定の物、行動などに対する強い執着心。
    • 特定の機能的でない習慣・儀式にかたくなにこだわる。
      • 例:物を規則正しく並べる行動[注釈 2]
      • 例:水道の蛇口を何度も開け閉めする行動。
    • 常同的で反復的な衒奇(げんき)的運動物体の一部に持続的に熱中する。
      • 例:おもちゃや本物の自動車の車輪・理髪店の回転塔・換気扇など、回転するものへの強い興味。
      • 例:手をヒラヒラする。体を前後に揺らす。

繰り返し行動

玩具を一直線に並べた自閉症児

自閉症者は様々な繰り返し行動、限定的行動を持っており、反復的行動尺度修正版(Repetitive Behavior Scale-Revised ,RBS-R)によるカテゴリーには以下がある[8]

  • 常同症Stereotypy)。手を叩く、首振り、体振りなどの反復運動。
  • 強迫行為。モノの並び・積み上げがルールで一意であることにこだわるなど。
  • 同一性。変化に対する抵抗。たとえば家具を動かすことに抵抗・拒否する。
  • 儀式的行動。特定の機能的でない習慣や儀式。日常生活における不変パターン。たとえばメニューや服が決まっている。盛られたご飯を2つに分割して食べる。
  • 限定された行動。方向性・興味・活動について、たとえば単一のテレビ番組、玩具、ゲームなどに没頭する。
  • 自傷。目潰し、肌引っ掻き、手を噛む、ヘッドバンギングなどの傷つけるような行為[9]

その他の特徴

  • 数字や風景など、特定のものに対する高い記憶能力。
  • 音、光、におい、触覚に対する強い不快感(感覚過敏)。
  • カナーの10人に1人の割合で、カレンダーも見ずに過去・未来の特定の日の曜日を瞬時に答えるカレンダー計算の能力が現れる。驚異的な記憶力を有する場合もある(サヴァン症候群)。

視覚の優位性

自閉症児者は、耳で聞くよりも眼で見るほうが認識しやすいという視覚優位の特性がある。このため、自閉症児に情報を伝える時は紙などに書いて見せると効果があるとされる[10]

心の理論

心の理論とは、「自己と他者の識別、自分や他者の心の動きを推測する能力」のことであり、自閉症者はこの「心の理論」において障害があるため、相互の人間関係に疎い、会話やその場の雰囲気を理解できない、冗談を冗談と受け止めず真に受けてしまう、言外の意味を捉えられないなど、対人関係に問題を生じやすい。

これは知的障害がない高機能自閉症においてもあてはまり、やはり対人関係に問題を生じるケースがある。

また、他人のすることを自分の立場に置き換えられずにそのまま真似するため、手のひらを自分側に向けてバイバイする。言語においても同様に相手の言葉を自分に置き換えて返答することが苦手で自分のことを「あなた」などの二人称で、相手のことを「わたし」などの一人称で呼んだりすることや、自分に対して「〜してあげようか」と聞かれると「〜してあげたい」等と返答するなど、オウム返しなどの現象が見られる。

心の理論の能力を調べる検査として、「サリーとアン課題」などがある。

時間の概念形成の未発達

他の例として、時間の「概念」が希薄な場合もある。時計で時間が分かるような自閉症児者のなかには、時間に強迫的になり、全ての事柄がまさにその定められていた瞬間に起こることを要求する例が見られる。

  • 例:「5分待っていて」と約束したとき
    • 少し遅れただけでも、6分17秒も待たせたと被害感をもつ。
    • 4分20秒で戻れば、まだ5分たっていないと言って待ち続ける。

このような症状がある場合でも施設が利用できるよう、ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートでは、提示すると待ち時間をゼロにするホワイトカードと呼ばれるサービスがある。このように、比較的認知された症状である。

日常生活における困難

当事者が普段の生活で気になったり困ったりする事項として、次のようなことが挙げられる。

  • 同一性が保持されない。
    • 例:本棚の本が巻数ごとにきちんと並んでいない(一見乱雑でも、本人のこだわりとして寸分違わず配置していることもある)。
    • 例:同じ時間にくる電車・バスでも、形式、塗色、内装などが異なる(細部であっても許容できない場合もある)。
  • 未経験、予想外の状況、急な予定変更。
    • 例:学校などで行事のため、普段と日課が変わってしまった。
    • 例:楽しみにしていた行事が、突然中止になった。
    • 例:気に入っていたおもちゃなどが、紛失・破損してしまった。
  • 本人のこだわりが、内的要因、外的要因を問わず、できなくなってしまう。
    • 例:周囲の人が本人のこだわりによる行為と理解しておらず、その行為をやめさせてしまう。

特に、不確実性や先の見通しが立たない場合に、強い緊張や混乱を示すことが多いとされる。一方で、事前に予定や内容が通知されている場合や、具体的な手順や選択肢が示されている場合には、状況を理解・予測しやすくなり、比較的落ち着いて受け入れることが可能である[11]

支援方法としては、感情の高まりや混乱を軽減し、自己調整力を高めるための「カームダウン」スペースの設置や、事前に情報を提示して本人の選択を保障するなどの工夫が用いられることがある[12]

原因

自閉症有病率の増加要素[13]

現在では先天的な要因が大きいとされており、多くの遺伝的因子が関与すると考えられている。双子研究によると、遺伝率は自閉症で0.7、自閉症スペクトラム(ASD)で0.9であり、自閉症児の兄弟は一般の集団よりも約25倍自閉症になりやすい[14]。しかし、自閉症リスクを増加させる変異のほとんどは同定されていない。

父親の高齢との関連

なお近年の米国の研究で、父親が中高年のときに授かった子供である場合に新生児が自閉症になりやすいという知見がある。同研究によると、父親が40歳以上の新生児は、自閉症や関連の症例が30歳未満の父親の場合の約6倍で、30 - 39歳の父親と比較すると1.5倍以上であったとされている。一方、母親については、年齢が高い場合でも多少の影響を及ぼす可能性は排除できないものの、子供の自閉症に与える有意な影響は認められなかった[15]。これらの研究では、得られた知見が社会的に晩婚になる男性の遺伝子特性であるのか、遺伝的個人差を問わず加齢が精子に及ぼした影響であるのかは、明らかにされていない。

薬物との関連

バルプロ酸ナトリウム(VPA)を妊娠中に使用することは、母体のてんかんを考慮しても、子孫が自閉症や自閉症スペクトラムになるリスクを増加させる[16][17][18][19][20][21]抗うつ薬、特にSSRIを妊娠中に使用することは、母体のうつ病を考慮しても、子供が自閉症スペクトラムになるリスクを増大させる[22]

非吸収性抗生物質の投与が、幼児自閉症の発症と増悪に関連があるのではないかという仮説が立てられ、仮設が実証されている。腸内細菌または腸内細菌由来の物質が腸管バリアや血液脳関門を通過して自閉症の病態に影響を与えている可能性が考えられている[23]

基礎研究

胎児期にバルプロ酸ナトリウム(VPA)曝露した第一世代(F1)マウスは、自閉症様の障害を示す。「雄のF1マウス」と「雌の自然マウス」を交配させ、第二世代(F2)マウスを生産する。同様に、「雄のF2マウス」と「雌の自然マウス」を交配させ、第三世代(F3)マウスを生産する。マウスにおける自閉症様の障害は、F2とF3に認められる。身体的な催奇性は、F1マウスのみに認められ、F2以降の世代には認められない[24]

ミクログリア仮説

幼少期の一過性の脳体積増加
東京大学大学院の研究では、自閉症スペクトラム者に特徴的な幼少期の一過性の脳体積増加がニューロン以外のグリア細胞などの組織増加であることが間接的に示された。脳体積が正常化する成人期にかけては定型発達者と変わらないレベルになることも示された。幼少期にグリア細胞の一過性増加を引き起こす炎症の様な反応が自閉症の原因に関わることを支持している。出生直後の脳体積は健常群よりも小さかった[25]

内因性カンナビノイド仮説

出生前のバルプロ酸ナトリウム曝露が脳内の内因性カンナビノイド系の変化に関連していた。カンナビノイド1受容体の変化やアナンダミド活性の異常など、内因性カンナビノイドの機能不全がASD行動の原因とする仮説を支持している[26][27]

腸内細菌仮説

自閉症児と健康児の腸内細菌を比較するとクロストリジウム属の細菌が平均して10倍程度多い状況が報告されている。乳幼児時に多種多量の抗生物質を投与され腸内細菌の組成が破壊され、クロストリジウム属の増殖とともに自閉症に至った例が紹介されている。幼い脳にダメージを与えるクロストリジウム属の神経毒素が原因であると指摘している[28]

病原性クロストリジウム属菌は、(Shaw 2010)によって、自閉症をもつ小児の尿より本属が作り出す物質3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(略称:HPHPA) が高濃度で検出される報告がなされ、カビ毒の向神経作用が注目された[29]

フィンランドの調査で、腸内フローラが自閉症を予防する効果がある可能性が示唆されている[30][31]

遺伝子の影響

フランス・パスツール研究所の研究チームが、フランス国立科学研究センターおよびスウェーデン・ヨーテボリ大学と行った共同研究では、自閉症者の脳内で遺伝子「シャンク3英語版 (SHANK3)」に異常があることが指摘されている。ただし、研究チームからはシャンク3で自閉症の全ての症状を説明できるわけではないと警告が発せられており、主要な社会的障害についてある程度説明ができるかもしれないと述べるにとどまっている。また、ヒトの自閉症患者から見つかったシナプスタンパク質ニューロリギンの遺伝子変異を導入したマウスで自閉症症状が引き起こされることが確認されており[32]、この発見からシナプス異常と自閉症との関連が注目されている。日本でも理化学研究所の研究チームが、神経細胞の生存や分化に重要な神経栄養因子の分泌を調節する遺伝子(CAPS2遺伝子)の異常が、自閉症の発症メカニズムに関係しているとの研究成果を発表している[33]

ミラーニューロン仮説

他者の動作を観察している際に自分が動いている時と同じように反応するミラーニューロンの活動低下の影響を指摘する説も存在する。カリフォルニア大学のV・S・ラマチャンドランとL・M・オバーマン (Lindsay M. Oberman) らのグループ、スコットランドのセントアンドリューズ大学のホイッテン (Andrew Whitten) らのグループは、ほぼ同じ時期に、対人スキルや共感の欠如、言語障害、模倣が上手くできない等の自閉症の特徴は、すべてミラーニューロンの機能不全と同じ特徴を持つとの説を発表した[34]ヘパラン硫酸の関与を指摘する説もあるが、原因として確定的であるという段階にまでは至っていない。

俗説と謬説

母原病説

自閉症はかつて、虐待や過度な養育態度によって生じる「母原病」であるとする見解が存在したが、現在ではこれらの説は明確に否定されている。とりわけ、自閉症研究者として知られたブルーノ・ベッテルハイムが「冷蔵庫マザー」説を提唱し、『虚ろな砦』などの著作が広く読まれたことにより、こうした誤った因果論が一般社会に広まった。しかし、その後エリック・ショプラーらの研究によって、この説は科学的根拠を欠くものとして退けられている[6][35]

日本でも、七田眞岩佐京子[36]らによって「テレビの見せすぎが自閉症の原因」などの環境原因説が流行し、同様に自閉症児を持つ母親を孤立させる弊害を生んだ(岩佐はのちに自説を一部撤回)が、2004年 - 2005年前後にかけて日本大学教授森昭雄が自閉症を持つ子供たちを「おかしい子供」の一言で表現したことなどと発言[注釈 3]しており、この手の説は現在も日本で流布されていることがある。

現在では、自閉症の発症に育て方はほとんど関わっていないとする見解が多数である。幼少期に発症した場合は、小児期崩壊性障害として区別される。

重金属(水銀)

水銀などの重金属の蓄積が原因だとする説[37]も広く流布されている。水銀を原因とする考え方から、水銀を除去するキレーション療法が提唱されたことがあるが、有効性は疑問であり[38]英国国立医療技術評価機構は、キレーション療法の禁止勧告を出している[39]チメロサールは、ワクチンや食品などに含まれていることから、アメリカ合衆国で議論となっている[40]

MMRワクチン説

MMRワクチンが自閉症の原因である」とする、アンドリュー・ウェイクフィールドの論文[41]をベースにしているが、この論文にはデータ捏造があったことが発覚し[42]、掲載した『ランセット』は、2010年2月2日にこの論文を撤回した[43][44]

なお、イタリアでは、MMRワクチンへの噂から信頼性が低下し、予防接種を受ける子供の数が減った結果、麻疹患者が3倍になるという余波も生じた[45]

疫学

統計的には国際的に増加傾向にある。ただし自閉症が実際に増加しているのではなく、疾患が世の中に認知されるにつれ、従来診断されなかった軽度のものも含まれるようになってきているからと考えられている。

有病率は、カナダにて0.68%、デンマークにて0.45%、フランスで0.67%、ノルウェーで0.21-0.87%(ASD)とされている。日本では1000人に1 - 3人の割合で生じているが、どこまでを自閉症の範囲とするかによって発生率は大きく違う。男性と女性の比率は4 : 1程度と言われている[46]

しかし、この障害を持つ女子は、より重度の精神遅滞を示す傾向がある(典型的自閉症ではない)[47]。X染色体の異常に起因する脆弱X症候群による説明の可能性が考慮される。

また、自閉症の女性には男性とは違う特徴があり、多岐に渡る症状・主訴に惑わされる重ね着症候群の様相を呈するために心身症統合失調症誤診される場合も多い[48]

日本自閉症協会によると現在日本国内に推定36万人(重度自閉、義務教育に支障がある程度の障害、暗数が少ない)の自閉症者がいる。これはアメリカの1万人に5人程度とされるカナー型自閉症発生率と比べても極めて高い。知的障害言語障害を伴わない高機能自閉症など含めると120万人いるといわれている。

DSM-IV発表前の米国の自閉症発生率は2000人から5000人に1人だったが、DSM-IVで自閉症にアスペルガー障害が加えられて以降、20倍から40倍に増加している。DSM-IVのアレン・フランセス編纂委員長は「米国で88人に1人、韓国では38人に1人が自閉症と診断されるようになった」と述べている。米国では、自閉症と診断されると教育面で優遇されるなどの社会的背景があり、診断数の増加につながっているとの見方もある。フランセスは、「精神科の診断を、法医学的判断、障害判断、学校の判断、養子縁組の判断などから切り離すべきだと思います。精神科の診断は意思決定の一部であるべきであって、唯一の決定要因ではありません」と強調している[49][50][51]

発達心理学者サイモン・バロン=コーエンは、著書『共感する女脳、システム化する男脳』にて、自閉症は極端な「男性型の脳」であるとの見解を述べている。この考えを最初に提唱したのは、アスペルガー症候群の生みの親ハンス・アスペルガーであることも紹介している。実際に自閉症の患者の80%は男性であるとされる。ただし、サイモンは「性別による自閉症出現率の違いをそれほど重大な要件とはみなしていない」と明記している。

診断

医学的にはDSM-IVアメリカ精神医学会)かICD-10世界保健機構)の診断基準により診断される。なお、知的障害の有無は診断に関係ないが、ICDの基準ではその4分の3に知的障害があるとされる。

英国国立医療技術評価機構(NICE)は、自閉症が疑われ、重い学習障害のない成人のアセスメントには、自閉症スペクトラム指数テストを10質問(AQ-10)を検討し、もしスコアが6点以上の場合は包括的な自閉症アセスメントを行うとしている[52]。包括的な自閉症アセスメントは、訓練を受けた技能を有する専門科によってなされるべきである[53]。ツールだけを用いて診断を行ってはならない[54]

鑑別診断

以下の鑑別疾患を除外する[55]

自閉症は、注意欠陥・多動性障害 (ADHD) や学習障害 (LD) などと合併する場合がある。まれにダウン症と合併する例もある。

なお統合失調症と診断されている人達のうち、もともと高機能広汎性発達障害であって不適応のため状態が悪化しており単に統合失調症と誤診されている事例が多くある。(杉山登志郎の著書にこれらに関する記載がある。)

分類

自閉症は広汎性発達障害(PDD)グループの5疾患のうちの一つである[56]

自閉症は症状の現れ方が多様であり、知的能力が高い場合から重い知的発達の遅れを伴う場合まで、また自閉特性が比較的軽度のものから強く表れるものまで、明確な境界を設けることは難しいとされる。これらの特徴は連続的に分布し、あたかものように境界が曖昧であると表現されることがある。このような多様性と連続性を示す概念枠組みとして、「自閉スペクトラム症」という用語が用いられる[57]

自閉スペクトラム概念。この図は、自閉度と知能指数の2つの要素をもとに自閉スペクトラムを表した分類図である。DSM-5を受けて新たな分類図も公表されている。
自閉症とアスペルガーの比較[3]

自閉症スペクトラム障害のうち、IQ70以上の層[注釈 4]を高機能自閉症(略称は、HAまたはHFA)と呼ぶ[58][59]

知的発達に遅れはみられないが、幼児期に言語発達の遅れが認められる場合は高機能自閉症とされる。一方、知的発達に遅れがなく、言語発達も通常通りであるが、自閉症の特徴が見られる場合はアスペルガー症候群と位置づけられる。これらを総称して「高機能広汎性発達障害」と呼ぶこともある。ただし、高機能自閉症とアスペルガー障害の差異については、明確性に疑問を呈する指摘も存在する[57][60]

自閉症と診断されるうち、高機能自閉症は100万人前後、もしくは100人に1人いる程度で全体の半数以上を占める。大多数は男性を占める。知的障害を伴う方はカナータイプで、30万人程度とも言われている。

カナー型自閉症では、言語発達に著しい遅れがみられることが特徴とされる。食物の選好に偏りがみられることが多く、感覚刺激への過敏さを伴う例も少なくない。見通しの不確実さやコミュニケーション支援の不足などを背景に、パニックや自傷行為を呈することがある。また、大きな音に対する耐性が低い例が多く、イヤーマフや耳栓を日常的に使用する人も多い。てんかんを併存する割合も比較的高いとされる。新生児期には、身体接触や抱きかかえられることに対して拒否的な反応を示す場合があるとされる[57]

高機能自閉症は、知的発達の遅れを伴わない自閉スペクトラム症の一形態とされ、対人関係や社会的コミュニケーションに困難を示すことが多いとされる。文字や記号などの視覚情報処理を得意とする例がみられるほか、興味関心が限局化する傾向も報告されている。対面での対人応答が苦手な場合でも、電子メールなど文字によるコミュニケーションには比較的容易に対応できる人が多い。一般に、3歳以前から言語発達の遅れが認められることが多いとされる。また、ごっこ遊びなど他者と関わる遊びに困難を示す場合があり、言語使用については方言を用いることが少なく、標準語を使用する傾向がみられるとする研究もある[61][62]

一方、折れ線型自閉症は、成長の途中で言語の退行が起きるもので、成長曲線が折れ線状に右下がりになることから名付けられた。自閉症の1/3が該当すると言われている[63]。0 - 1歳の頃に徴候が表れ、2歳を迎える頃にはっきりと症状が表面に出るケースが多いが、一時的な赤ちゃん返りと間違えられたり、他の子より少し後れているだけだと考えられたりして、発見が遅れる場合もある。また、小児期崩壊性障害は退行という点で似ているが、人に対する関心が強いなど、一般的な自閉症とは異なる。

検査

  • 言語検査
    • イリノイ式言語学習能力診断検査 (ITPA)
    • 絵画語い発達検査 (PVT)
    • 国リハ式〈S-S法〉言語発達遅滞検査
  • 行動検査
  • 発達検査
    • 乳幼児発達スケール
    • 遠城寺式乳幼児分析的発達検査
    • 津守式乳幼児精神発達診断法
    • TK式幼児発達検査
    • 改訂新版幼児総合発達診断検査
    • 改訂日本版デンバー式発達スクリーニング検査
    • 早期発達診断検査
    • 新訂版自閉児・発達障害児教育診断検査
    • 新版K式発達検査
    • 日本版ミラー幼児スクリーニング検査
  • 絵画検査
    • DAP(人物画)
  • 成人を対象とした評価ツール

自閉症スペクトラム指数

自閉症スペクトラム指数(AQ)とは、自閉度(自閉症傾向)を測る指標の一種[65]正常知能の成人を対象にしており、自己回答方式で、自分の「自閉症傾向」を測ることができる[66][67]

AQは自閉症傾向のスクリーニング用ツール、つまり、自閉かどうか診断する前の、おおまかなふるい分け用のツールなので、AQだけで自閉症であるかどうかの診断はできない[52]

  • AQ測定による調査でわかったこと
    • 社会人や大学生の中にも、少数だがAQ上でAS/HFA群と同じ程度の高得点を示す人がいる。
    • 自閉症の診断を受けていない人にも、自閉症的な傾向を持つ人がいる。
    • AQで測定される自閉スペクトラム傾向にはかなりの個人差がある。
    • 今後自閉症症状のメカニズムを解明する上で、アナログ研究的アプローチが可能である。
    • コントロール群の平均スコアは16.4 (♂ - 17、♀ - 15)[68]
  • 自閉症スペクトラム指数のカット・オフ点
    • 自閉スペクトラム指数で高得点(33点以上)をとった学生12名を診断したところ、12名中7名が自閉性障害またはアスペルガー障害の診断基準にあてはまった(ただし、生育史が不明であることと、現在不適応を起こしていないため、自閉性障害とは診断されていない)。
    • 自閉症スペクトラム指数33点以上には成人のアスペルガー症候群・高機能自閉症者群の9割近く (87.8%) が含まれるのに対し、健常群で33点以上をとるのはわずかに3%弱であることから、自閉スペクトラム指数のカット・オフ点(健常者と自閉症の識別点)は33点と決定された[69]
    • アスペルガー症候群の診断スクリーニングとして使用する場合、スコア26以下で有効に除外可能であることが示唆される[70]

治療

自閉症には、現時点で根本的な治療法は存在しないとされる。一方で、社会的相互作用、模倣、共同注意、情動調整といった中核症状への介入に関しては、1980年代頃から研究が進展しており、多様な支援・介入法が開発されている[73]

NICE(英国国立医療技術評価機構)は、自閉症をもつ児童・青年に対し、いかなる状況においてもセクレチン療法、キレーション療法高気圧酸素治療といった手法を用いるべきではないとしている[39]

薬については確立したものは存在していないが、社会的動機づけや社会的認知の改善を目的とした向社会的化合物(prosocial compounds)として、オキシトシンおよびバソプレッシンが研究上注目を集めている[74]

心理社会的療法

現在広く用いられている行動的介入には主に以下のものがある。

  • TEACCHプログラム
    • 1972年にエリック・ショプラーらによって設立されたプログラム。重度自閉症から高機能自閉症までを対象とし、構造化された環境や視覚的支援を通じて自立と社会参加を促進することを目的とする[75]
  • PECS (絵カード交換式コミュニケーションシステム)
    • 1980年代後半にアンディ・ボンディロリ・フロストによって開発されたコミュニケーション手法である。主に音声言語を持たない自閉症児や自発的なコミュニケーションが苦手な自閉症児を対象とし、絵カードを用いて要求や意思を伝える方法を学習する。応用行動分析(ABA)やB.F.スキナー言語行動理論に基づいており、機能的コミュニケーションスキルの獲得を目的としている[76]
  • ESDM(アーリースタート・デンバーモデル)
    • 主に生後12か月から48か月頃(最大で60か月頃まで)の子どもを対象とした超早期介入プログラム。応用行動分析(ABA)と発達心理学の知見を組み合わせて開発された。食事や遊び、着替え、おむつ替え、入浴などの日常生活のルーティンを学習機会として活用し、子どもの興味に従いながら相互作用を行うことで、社会性、模倣、共同注意、コミュニケーションスキルや人との相互関係の結びつきを包括的に育てることを目的としている。支援者や保護者によって日常的な関わりの中で実施される。応用行動分析(ABA)、ピボタル・レスポンス・トリートメント(PRT)、およびデンバーモデルを基盤としている。2010年サリー・J・ロジャースジェラルディン・ドーソンによって体系化された[77][78]
  • JASPER
    • コニー・カサリによって開発された発達支援プログラムである。対象は主に1歳から8歳。子ども主導の遊びを中心に、共同注意、要求、遊びのスキルを育て、自発的な社会的コミュニケーションを引き出す自然主義的な早期介入法。親や教師も介入者として参加できる点が特徴である[79]
  • ピボタル・レスポンス・トリートメント(PRT)
    • 応用行動分析(ABA)を基盤に、モチベーションや自発性といった中核領域(ピボタル領域)に働きかけることで、広範な行動改善を促す自然主義的介入モデルである。家庭や学校で日常的に適用できる。ロバート・ケーゲルとリン・ケーゲル夫妻により開発された[80]
  • DIR/フロアタイム
    • 1980年代にスタンレー・グリーンスパンによって提唱されたDIRモデルの実践方法。1回20分程度、大人が床に座って子どもの興味や行動に入り込み、遊びを通じて感情や思考、社会的相互作用を広げていく支援法である[81]
  • SCERTSモデル
    • アメリカのバリー・M・プリザント、エイミー・ウェザビー、エミリー・ルビン、エイミー・ローレントによって開発された。社会的コミュニケーション(SC)、情動調整(ER)、交流型支援(TS)を軸にした包括的なモデル[82]
  • 対人関係発達指導法(RDI)
    • スティーブン・E・ガットステインによって1990年代に開発された。親がガイド役となって子どもに社会的なやりとりや柔軟性を育む発達支援プログラムである[83]
  • フリーオペラント法
    • くすぐりや逆模倣を通して、子どもの自発的な発声や動作、模倣行動を強化するアプローチ。指示や強制を避け、人を強化子として機能させる関係づくりを最優先する点が特徴である。日本の佐久間徹久野能弘によって開発された[84]
  • インリアル・アプローチ
    • 1974年、コロラド大学リタ・ワイズらによって開発された。7つの言語心理学的技法(ミラリング、モニタリング、パラレル・トーク、セルフ・トーク、リフレクティング、エキスパンション、モデリング)を用いて言語発達を促進する手法[85]
  • CO-OPアプローチ
    • 作業遂行改善のための認知的アプローチである。子ども自身が課題の解決方法を発見することを重視し、大人は「手順や答えを教える」のではなく、効果的な質問を通じて問題解決の枠組みを伝える。もともとは発達性協調運動障害(DCD)の子どもへの支援として開発されたが、現在は脳性まひやてんかん、ADHDまで対象が広がっている[86]

薬物療法

小児期の自閉症スペクトラム障害に伴う易刺激性」への適応承認を有する医薬品はあるものの、治療や症状の緩和として正式に承認された医薬品は存在しない。英国国立医療技術評価機構(NICE)は自閉症の中核症状の管理について、抗精神病薬抗うつ薬抗痙攣薬を用いてはならないとしている[87]

ピモジド(オーラップ、国内流通終了)、アリピプラゾール(エビリファイ)、リスペリドン(リスパダール)の適応には、小児期の自閉症スペクトラム障害に伴う易刺激性があり、日本の医薬品添文書には、漫然と長期に投与しないよう注意書きが書かれている。

研究レベルではオキシトシンが効果があったとの研究もあるが、臨床での使用はまだ認められていない[88]

研究事例

オキシトシンを放出するMDMAが注目されており、継続的な投与を必要としない可能性がある。LSDやシロシビンを用いた過去の臨床試験では、会話技能を快復させる可能性は低いとされたが、他人との接触性を高めることができたと結論付けており、1970年には薬物の規制によって研究は困難となった。後に登場したMDMAには、共感能力を高めるといった作用があり、インターネットが導入される時代となると、英語圏のオンライン・フォーラムにMDMAによって機能の改善が報告されるようになり、臨床試験の実施につながっていった。[89]

リスペリドンと抗生物質ミノサイクリン併用療法の有効性と安全性が示された。より多数で長期試験の結果が待たれる[90]薬剤耐性菌を生む問題があり感染症においても適正使用が言われ、感染症でもない状況での抗生物質の不適切使用は戒められる[91]。出生前のバルプロ酸曝露によって自閉症のモデル生物を作成した研究では、その自閉症様行動がミノサイクリン投与で減衰したとされる[92]

アフリカ睡眠病治療薬として開発された、スラミンなども自閉症向けに研究されている[93]

代替療法

飯田医院等の一部医師により漢方薬での治療が試みられており、証にあわせた漢方を処方し、一定の成果を出している。大柴胡湯の処方例が示されている[94]。中国の中医学では、中医儿科杂志等の研究組織が弁証論治別に分別し、中薬で出すべき生薬を示している[95]

鍼治療による治療もあり、特に中国、アメリカにおいて診療で試みられている。[96]言語能力の改善対する治療効果[97]や、社会適応能力が向上したという発表もある。[98]一方、中国四川大学の調査では自閉症への効果は不明とされている。[99][100]

歴史

病気の発見(認知)の歴史的変遷

元々は統合失調症(当時は精神分裂病と呼称)の患者に見られた「対人交渉が失われ、自分自身だけの世界に生きている。」という状態が自閉症と呼ばれていた[2]が、これは発達障害の自閉症と直接は関係がない。

発達障害の自閉症については1933年に、アメリカの精神科医ハリー・スタック・サリヴァンが知的能力の低下を伴わない、乳児期より持続する対人機能障害について「精神病質の幼児psychopathic child」を初めて記載する。[101]

次いで、アメリカジョンズ・ホプキンス大学児童精神科医であるレオ・カナー(Leo Kanner)が「自閉的な早期幼児」について1943年に報告した[102]。カナーは、「聡明な容貌・常同行動・高い記憶力・機械操作の愛好」などを特徴とする一群の幼児に対し、それまであった統合失調症の「自閉症」(オーティズム)という言葉を使用し、自閉症を統合失調が幼児期に発症したものと考えた。このため統合失調症の自閉症と区別する際は「小児(幼児)自閉症」と呼ばれることもあった。

カナーは、統合失調症を分類したクレペリンが統合失調を痴呆症が早期に発症したものという考えであったように、最後まで遺伝的なものと認識していた。カナーの報告した子供たちは、現在の低機能自閉症に当たるとされる。なお、カナーは自閉症の研究で自説に反する新事実が発見されると、自説の誤りを認識し訂正していった。

翌年の1944年、オーストリアウィーン大学小児科ハンス・アスペルガーが、カナーの報告よりも一見軽度ではあるが、共通点がある一群の子供たちのことを報告した(両者に交流はない)[103]。当時ヨーロッパは大戦中であり、オーストリアは敗戦国側であったため、この報告は戦勝国側では1980年代まで脚光を浴びることはなかった。アスペルガーの報告した子供たちは、現在の高機能自閉症に当たるとされる。

なお、アスペルガー本人は後にカナーの論文を知った際、症例が似ているところと違うところがある点について「同じ物の重症(カナーの患者たち)と軽症(自分の見た患者たち)の違いではないか」と考えた[104]

原因の発見の歴史的変遷

カナーの報告から1960年代ごろまで、精神分析家のブルーノ・ベッテルハイムらにより後天的原因説(「冷蔵庫マザー」理論)が唱えられていた。

1960年代後半、イギリスのモズレー病院のマイケル・ラターによって、自閉症は先天性の脳障害だという説が発表され、自閉症の学界はコペルニクス的転回を迎えることになった。現在でも自閉症の原因は諸説あるが、現在主流の説はラターの説が元となっている。日本では1980年代頃まで、(専門家を除き)心理的なストレスによって自閉症になる(本当は場面緘黙症)と信じられていた。

分類の歴史的変遷

アスペルガーの死去の翌年の1981年に、自身にも自閉症の娘がいるモズレー病院の医師ローナ・ウィングが、英語圏ではほとんど忘れられていたアスペルガーの論文を英訳して再発表し、高機能自閉症の存在を広く知らせた。それまでのイギリスでは知的障害のある自閉症児にしか福祉の手が差し伸べられていなかったのであるが、自閉症の本質は知的障害や言語障害ではなく対人関係の障害であるため、高機能自閉症も支援の対象にするべきだとの考えである。

診断の歴史的変遷

カナーは自閉症を統合失調症の幼児版であると考え、「小児分裂病」とも呼んだ。

ラターによる脳障害説以降、自閉症と統合失調症はまったく違う障害であることが分かってくる。

治療の歴史的変遷

カナー、ベッテルハイムにより唱えられた後天的原因説によって、各地の治療施設では、虐待によって発症したのならばその逆をやればよいとの考えのもと、「絶対受容」という治療方針が取られたが、あまり治療効果はなく、むしろ成年以降の社会適応が困難になったといわれる。ベッテルハイム自身も障害児の入所施設の所長であったが、入所児童への虐待やデータ捏造などがあったという疑惑がある。なお、ベッテルハイムはのちに自殺した。

アメリカの精神分析のメッカであるカール・メニンガー病院では、一時期自閉症も精神分析治療の対象としたが、精神分析が自閉症に効果がないと判明すると、潔く自閉症部門を閉鎖した。このように精神分析や受容療法などの試みが一時期脚光を浴びたが、あまり効果がないと次第に分かってきた。

社会と文化

自閉症の文化が生まれ、それに伴って自閉症の権利と神経多様性の運動が生じている[105][106][107]。また、イベントには、世界自閉症啓発デー、自閉症日曜、自閉プライドデー、オートラットなどがある[108][109][110][111][112]。自閉症の啓発を目的とした団体には、Autism Speaks、Autism National Committee、Autism Society of Americaなどがある[113]。社会科学の研究者たちは、「文化としての自閉症、異文化比較......そして、社会運動の研究」についてより多くのことを知りたいと思い、自閉症の人を研究している[114]。ほとんどの自閉症の人には十分な技能がありませんが、多くの人は自分の分野で成功している[115][116][117]

自閉症権利運動

自閉症の権利運動は障害者の権利という文脈の中での社会運動であり、神経多様性の概念を強調し、自閉症スペクトラムを治癒すべき障害ではなく、人間の脳の自然な変化の結果として見るものである[107]。自閉症の権利運動は自閉症の行動をもっと受け入れることを提唱している。自閉症でない人の行動を模倣することよりも、対処技術に重点を置いた治療法[118]や自閉症コミュニティのマイノリティ集団としての認識を持つことを勧めている[118][119]。自閉症や神経多様性の擁護者は、自閉症のスペクトラムは遺伝的なものであり、ヒトゲノムによる自然な表現として受け入れられるべきだと考えている。この見方は、自閉症は遺伝的欠陥によって引き起こされ、自閉症の遺伝子を標的にすることによって対処されるべきであるという医学的な見方と、自閉症はワクチンのような環境要因によって引き起こされるという一部の理論とは異なる[107]。自閉症の活動家に対する一般的な批判は、彼らの大多数が「高機能」かアスペルガー症候群であり、「低機能」自閉症の人々の見解を代表していないことである[119]

支援

聴覚過敏

自閉症者は聴覚過敏を持つものが優位に多いことが知られており、自閉症患者支援団体などからはモスキート音発生装置の使用禁止など、音声刺激を和らげる社会が求められている。それに応える形でクワイエット・アワーなどの取り組みが行われている[120][121][122][123]

雇用

自閉症の約半数は無職で、大学院卒の場合は1/3が無職であろうとされている[124]。仕事を見つけた自閉症者の多くは、国の最低賃金を下回る賃金で働いている保護施設で雇用されている[125]。雇用主は生産性と監督に関する雇用の懸念を述べているが、自閉症を多く雇ってきた経験豊富な雇用主は、平均以上の記憶力とかなり細かいことにまで注力することについて肯定的な報告をしており、自閉症の従業員の規則と手順を高く評価している[124]。自閉症の経済的負担の大部分は、労働市場における収入の減少に起因している[126]。また自閉症児を養育する親の所得が減少しているという研究もある[127][128]

犯罪

近藤日出夫と渕上康幸は、自閉症性スペクトル指数(AQ)を用いて、少年鑑別所入所者の多くが自閉症スペクトラムの診断基準を満たしていることを発見した[129]。2006年に発表された研究によると、自閉症スペクトラムと診断された人々は刑事事件を起こしやすいことが指摘されている[130]。また、性犯罪者の多くが自閉症スペクトラムの診断を受けているという指摘もある[131]。2016年に発表された研究報告書では、自閉症スペクトラム傾向の人は、失感情症の感情理解の困難が加わることで、他人の表出しない意図を読み取りづらくなり、その結果、問題が生じ時には、粗暴行為を触発する特性攻撃性を活性化することが指摘されている[132]

日本での社会的影響

病気概念への誤解と偏見

「自閉症」の語感から、内気な性格やひきこもりに至るような精神状態、またはうつ病を含んでいるように思われ、しばしば混同されることもあるが、これは自閉症に対する誤った認識である。

今でも一部の創作作品などで「自閉症」を誤用したり、また「後天的な自閉症」の存在をほのめかしたりする間違った描写がされる場合がある。

  • 上野千鶴子の著書
    • 著書『マザコン少年の末路』(1986年) で「自閉症や登校拒否症は母親が甘やかして育てたことが原因で、自立心を失ったマザコン」といった趣旨の記述をして、当事者団体から抗議を受けた。その後この著書は絶版処置が取られている[133][134]。一方で「昔の発言には責任をとらない」と言明している[135]
  • ロックバンド黒夢の曲、『autism-自閉症-』[注釈 5]
    • 「自閉症」という言葉の意味を歌詞内で取り違えていたことにより、自閉症協会から抗議を受け、曲自体が絶版となる。ただし、この曲は自閉症患者のことを歌ったものではなく、当時のレコード会社を批判した歌である。
  • 大阪市の「家庭教育支援条例案」
    • 2012年5月、大阪市では大阪維新の会の中の一部の市議が提案した「家庭教育支援条例案」の素案には、児童虐待や非行などを「発達障害」と関連させ、親の愛情不足に起因しているかのように記載されていた。この素案に対し、発達障害の子を持つ保護者らの13団体が議会を訪れ提案中止を要望した。また、大阪維新の会代表である橋下徹は、同条例案を「科学的ではない」とした上で[136]、「発達障害の子どもを抱えているお母さんに愛情欠如と宣言するに等しい」と苦言を呈し、発案市議グループに内容の見直しを求めた。これを受け、市議団は5月議会での同条例提案の見送りを決めた[137]
  • クイズ番組
    • 2012年5月14日に放送されたテレビ朝日クイズ番組・『クイズプレゼンバラエティー Qさま!!』において、ここ10年で患者数が増えている病気についての問題が出題された。その正答の一つとして自閉症が挙げられ、さらに、男性が頭を抱えながら落ち込んでいる様子を映した絵図が放送された。番組放送中に視聴者などからの指摘が多数寄せられたため、同局は番組公式サイト上に訂正・お詫び文を掲載した(現在は削除)[138]
  • 一条ゆかりのマンガ
    • 『ロマンチックください』(1990) には、内気な女子高生に対して校医が「これで登校拒否にでもなってだな そうなるとあのタイプだと自閉症になるよなあ きっと」(P.57) と評するセリフがあり、ひきこもりうつ病との混同が見られる。

福祉制度

日本では2005年に発達障害者支援法が施行されるなど、高機能自閉症患者に対する福祉の整備が進められている。“発達障害者福祉手帳”という障害者福祉手帳は存在しないので、低機能自閉症者に対しては知的障害者として療育手帳が、高機能自閉症者には精神障害者として精神障害者保健福祉手帳の取得が認められる。

低機能自閉症では「知的障害」、高機能自閉症では「精神障害」として障害年金の受給が認められる場合もある。高機能自閉症では、手帳(精神障害者福祉手帳)の等級は3級程度であり、就業が可能なら障害年金の受給は認められない。就業ができない、または難しい場合(理解ある良心的な職場に運よく就業することができたという場合)でも、3級の認定を受けていると、障害基礎年金の受給資格からは除外される。この除外の廃止は、今後の課題と言える。

高機能自閉症はほかの発達障害者と違って、療育手帳の普及率も高いという。障害者更生相談所ではB2程度の申請ができる。

低機能自閉症はB1程度が半数あまりを占めているが、状態がさらに酷ければA又はA2・A1程度の申請ができる。

関連人物

自閉症を題材とした作品

脚注

参考文献

関連項目

外部リンク

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