実解析

ユークリッド空間上の関数について研究する解析学の一分野 From Wikipedia, the free encyclopedia

数学において実解析(じつかいせき、: Real analysis)あるいは実関数論(じつかんすうろん、: theory of functions of a real variable)はユークリッド空間(の部分集合)上または(抽象的な)集合上の関数について研究する解析学の一分野である。現代の実解析では、関数として一般に複素数値関数や複素数値写像あるいは複素数値関数に値をとる写像も含む。

実解析は、元々は実1変数実数値関数あるいは実多変数実数値およびベクトルに対する初等的な微分積分を意味していた。しかし現代の実解析は、積分論の一部として測度論ルベーグ積分関数空間((超)関数の成す線型位相空間)の理論、関数不等式、特異積分作用素などを扱う。関数解析におけるバナッハ空間の理論や作用素論・調和解析フーリエ解析などの初歩的または部分的な理論も含むとされている。

関数空間の例には、Lp空間・数列空間・ソボレフ空間・緩増加超関数の空間・ベゾフ空間・トリーベル-リゾルキン空間・実解析版ハーディー空間・実補間空間がある。関数不等式の例には、作用素の実補間または複素補間による作用素または関数の有界性の調整・関数方程式について、初期値または非斉次項(非線型項)と未知関数の、有界性や可積分性または可微分性の関係を表すLp-Lq評価と時空分散評価および時空消散評価・時間の経過に対する、関数の可微分性または可積分性を保存する意味を持つエネルギー(不)等式などの(解の存在を前提とした)評価式(アプリオリ評価)・別々の作用素を施された関数のノルムの関係、などがある。特異積分作用素には、「積分と微分を同時にする」リース変換や、流体力学と発展方程式の理論で現れるヒルベルト変換がある。

超関数フーリエ変換は、実解析に入るのか関数解析に入るのか数学者の間でも扱いが分かれている。さらに今ではユークリッド空間だけではなく抽象的な集合(または位相空間あるいは関数空間など)で定義された複素数値の写像(複素数値測度、複素数値線型汎関数)も取り扱う。そして特異積分作用素を扱う理論は「関数解析」における作用素論ではなく「実解析」として扱われている。複素解析の実解析への応用は(留数定理による実関数の積分の計算が)有名だが、実解析の複素解析への応用(その計算にルベーグの収束定理を適用することによる簡易化、フーリエ変換による複素解析版ハーディー空間とLp関数の関係など)もある。現代数学では「実解析」の範囲は明確ではなく「複素解析」とは対をなす分野ではなくなっている。

また、実解析による偏微分微分方程式の解法は、主に関数空間と関数不等式およびフーリエ変換や特異積分作用素によるもので、解が具体的に表示できることも多いが計算が多くなる場面も多い。関数解析の作用素により論理を重ねる方法(例えば、リースの表現定理・変分法・半群理論・リース-シャウダーの理論・スペクトル分解などを使う解の存在証明)とは異なるが、高等的には両者を巧みに合わせて解かれている。

範囲

実数の性質

実解析の諸定理は、実数系の持つ代数的・順序的・位相的な性質、特に実数の完備性completeness)に深く依存している。

実数系は、唯一の「完備な順序体」として特徴づけられる。有理数体 とは異なり、実数系には「隙間」がない。この性質は上限性質(Least upper bound property)として知られる。

空でない実数の部分集合が上に有界であるならば、それは実数の中に必ず上限(最小上界)を持つ。

この性質は、単調収束定理中間値の定理平均値の定理、そして微分積分学の基本定理を証明する上で不可欠な基礎となっている[1]
  • 構成 (Construction)
    • 整数 (integers) や有理数 (rational numbers) では表せない無理数 (irrational numbers)を含み、デデキント切断 (Dedekind cuts)とコーシー列 (Cauchy sequences) が厳密な構成法として用いられる。例えば、コーシー列によって、有理数では説明できない極限を厳密に取り入れることで実数体系の構築が可能となる。
  • 順序性 (Order properties)
    • 任意のaとbについて、例えばa < bと大小関係を定められる順序体 (ordered field)である。これにより、常に数直線上で位置づけを明確にすることが可能となる。なお、複素数は実数のように大小関係を定義できないため、順序性の有無は複素解析と実解析における重要な違いの一つといえる。
  • 濃度 (Cardinality)

位相

実数直線の位相は、実解析において関数の振る舞いを理解するための枠組みを与える。

  • コンパクト性
実解析において、集合がコンパクトであることは、それが閉集合かつ有界であることと同値である(ハイネ・ボレルの定理)。コンパクト集合上で定義された連続関数は必ず最大値と最小値を持つ(最大値最小値定理)ほか、その集合上で一様連続となる。

極限と収束

解析学を他の数学分野から区別する特徴の一つは、有限の操作ではなく、極限操作によって概念を定義する点にある。

  • 数列の収束
数列 に収束するとは、任意の に対して、ある自然数 が存在し、 ならば が成り立つことを指す。
  • コーシー列
数列の項が互いにいくらでも近づくような数列をコーシー列と呼ぶ。実数系が完備であることは、すべてのコーシー列が収束することと同値である。これにより、収束先が未知であっても収束性自体を判定することが可能となる。

関数列の収束

実解析では、関数の数列 の収束を扱うが、これには主に2つの概念がある。

  • 各点収束Pointwise convergence): 各点 ごとに数列 が収束すること。
  • 一様収束Uniform convergence): 関数全体が「一様に」収束すること。一様収束は各点収束より強い条件であり、連続関数の列の一様収束先は再び連続関数となることが保証される。これは、積分と極限の順序交換など、解析学的な操作の妥当性を保証する重要な条件である。

関数論

実解析における関数論は、微積分学の諸概念を厳密な極限操作に基づいて再構築し、より広範な関数クラスへと拡張する。

  • 連続性 (Continuity)
微小な入力の変化に対して出力の変化も微小である性質であり、実解析では - 論法を用いて厳密に定義される。さらに、域内のどの点においても共通の を用いて連続性を保証できる強い性質を一様連続性 (Uniform continuity) と呼ぶ。コンパクト集合上の連続関数は必ず一様連続となる性質を持つ。
  • 微分法 (Differentiation)
微分は関数の局所的な変化率を記述する。実解析では、古典的な微分可能性のほかに、ほとんど至る所で微分可能であるといった概念や、超関数の意味での微分である弱微分へと拡張され、偏微分方程式の理論に応用される。
  • 積分法 (Integration)
関数の「面積」や「累積量」を定める積分は、実解析の中心的なテーマの一つである。
  • リーマン積分: 区間を細分して長方形の和の極限をとる古典的な積分。
  • ルベーグ積分: 域の分割ではなく、値域の分割(測度論)に基づく積分。リーマン積分よりも広範な関数(例:ディリクレ関数)を積分可能にし、関数空間( 空間)に完備性を与える。
積分論の根幹には、項別積分と極限の順序交換を保証する単調収束定理ルベーグの収束定理が存在する。

その他の関連領域

脚注

関連項目

参考文献

関連図書

外部リンク

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