対称変換群

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群論において、幾何学的オブジェクトの対称変換群(たいしょうへんかんぐん、symmetry group)または対称性の群とは、そのオブジェクトを変えないような変換すべての集まりで、その合成が群演算としての性質を備えているもののことである。 それらの変換は包含空間英語版 (ambient space) 全域で定義された、オブジェクトをそれ自身に移すような写像であり、オブジェクトに関する全ての構造を保存する。オブジェクト X の対称性を表す対称変換群の表記としては、G = Sym(X) がよく使われる。

正四面体は 12 種類の異なる回転(ただし、恒等変換を自明な回転として含み、反転を除く)のもとで不変である。四面体の位置を保ちつつ置換を行う辺の180°回転(青い矢印)と頂点周りの180°回転(ピンクとオレンジの矢印)を辺とする巡回グラフのフォーマットで図示している。12種類の回転は図形の回転(対称)群を構成する。

距離空間内のオブジェクトの場合、その対称性は包含空間の等長変換群英語版部分群を構成する。本記事では主にユークリッド幾何学における対称性の群を考察するが、この概念はより一般的なタイプの幾何学的構造においても考察することができる。

概要

本記事でいう「オブジェクト」は、幾何学的な形状、画像およびパターンの対称性を有するもので、例えば壁紙のパターンのようなものがある。物理的オブジェクトの対称性については、その物理的構成をパターンの一部として取り込むことができる(パターンはスカラー場や、色や成分を返す値の集まりを返すベクトル場、またはより一般的な関数の形式で指定するものでもよい)。空間の等長変換群はオブジェクトに対する群作用を誘導し、対称変換群 Sym(X) は X をそれ自身に写像する(と同時に任意のパターンをそれ自身に写像する)等長変換からなる。これを X はそのような写像のもとで不変 であるといい、この写像は X対称性 と呼ばれる。

上記の群は向きを反転する等長変換(鏡映映進および回映操作)を含むことを強調するために X全対称変換群 (full symmetry group)と呼ばれることがある。向きを保存する対称性 (並進、回転および両者の組合せ) からなる部分群は X純粋対称変換群 (proper symmetry group) と呼ばれる。あるオブジェクトに向きを反転する対称性が存在しないとき、そのオブジェクトはキラルであると呼ばれ、純粋対称変換群と全対称変換群は一致する。

全ての元が特定の不動点を共有するような任意の対称変換群(群の位数が有限であるか、図形が有界である場合はこれに該当する)は、その不動点を原点に選ぶことにより、直交群 O(n) の部分群として表現できる。そのとき、純粋な対称変換群は特殊直交群 SO(n) の部分群となり、それらは図形の回転群と呼ばれる。

離散的な対称変換群においては、ある点に対して対称な点の集まりが一つの極限点に向かって集積することはない。これは、群のあらゆる軌道(ある特定の点の、群の全ての元の作用による像)が離散集合をなすことを意味する。全ての有限な対称変換群は離散的である。

離散群は 3 つのタイプに分かれる: (1) 回転鏡映、反転および回映の対称性しかもたない有限点群。すなわち、O(n) の有限位数の部分群; (2) 平行移動のみを含む無限格子; (3) 無限空間群はこれら両方のタイプの要素を含み、場合によりそれに加えて螺旋変位英語版や映進のような追加の変換を含む。また、連続対称性英語版の群(リー群)も存在し、それらは任意の微小角や任意の微小距離の平行移動を含む。一例として、球面の対称性を表す群である O(3) が挙げられる。ユークリッド空間内のオブジェクトの対称変換群はユークリッド群 E(n)(Rnの等長変換群)の部分群として完全に分類可能である。

二つの幾何学的オブジェクトのもつ対称性の型 が同じであるとは、それらの対称変換群がユークリッド群の共役な 部分群であること、すなわち、ある E(n) の元 g について、部分群 H1H2 の間に H1 = g−1H2g の関係が成り立つことである。具体的には、以下のような例が挙げられる。

  • それぞれ異なる鏡映面をもつ二つの鏡映対称な立体図形。
  • それぞれ異なる対称軸をもつ二つの 3 回回転対称な立体図形。
  • それぞれ 1 方向のみの並進対称性をもち、それら二つの並進ベクトルの長さは等しいが方向が異なるような二つの平面パターン。

以下のセクションでは、その軌道閉集合であるような等長部分群のみを考察の対象とする。これには全ての離散群と連続的な等長群が含まれるが、例えば有理数の長さだけの 1 次元平行移動からなる群のような物は除外される; このような閉じていない図形は、限りなく微細な細部をもつため、満足の行く精度で描画することができない。

一次元

一次元の等長変換群は以下のいずれかである:

  • 自明な巡回群 C1
  • 鏡映によって生成された 2 個の元からなる群: これらは C2 と同型である。
  • 平行移動により生成された無限離散群: これらは整数の加法群 Z と同型である。
  • 平行移動と鏡映によって生成された無限離散群; これらは Dih(Z) または D と表記する Z二面体群Z と C2半直積)と同型である。
  • 全ての平行移動によって生成された群(実数の加法群 R と同型); この群はユークリッド空間の図形の対称群ではあり得ない(無限の繰り返しパターンを含めても): そのようなパターンは一様なものとなり、それゆえ反転も可能だからである。しかしながら、一次元の定数ベクトル場はこの対称変換群をもつ。
  • 全ての平行移動および反転によって生成された群; これは一般化二面体群 Dih(R) と同型である。

二次元

互いに共役となる違いを除いて、二次元空間の離散点群は以下のように分類される:

  • 巡回群 C1, C2, C3, C4, ...。ここで Cn は、ある固定点を中心に角度 360°/n の倍数だけ回す全ての回転からなる。
  • 二面体群 D1, D2, D₃英語版, D₄英語版, ...。ここで(位数 2n の)Dn は、Cn の回転と、その固定点を通る n 本の軸を中心とする鏡映操作からなる。

C1 は恒等変換のみからなる自明群であり、これは "F" 字のような対称性をもたない形状の場合にあたる。C2 は "Z" 字のもつ対称性であり、C3三脚巴の、C4卍字の、C5, C6 等は、同様の卍に似た図形の 4 本の脚が 5 本、6 本等に増えた図形の対称変換群となる。

D1 は恒等変換とただ 1 個の鏡映変換の 2 つの要素からなる群であり、図形がただ1個の左右対称軸をもつ、例えば "A" 字の場合に相当する。

D2クラインの四元群と同型であり、縦横の長さが異なる長方形のもつ対称変換群である。この図形は 4 個の対称操作をもつ: 恒等変換、1 個の 2 回回転中心周りの回転および 2 個の不均等な鏡映面周りの鏡映変換である。

D3, D4 等は正多角形の対称変換群である。

いずれの対称性のタイプにおいても、回転中心について 2 個の自由度が存在し、二面体群の場合は、鏡映軸の位置に関してさらにもう 1 個の自由度が存在する。

1 個の固定点をもつ二次元の等長変換群の残りは:

  • ある固定点周りの全ての回転からなる特殊直交群 SO(2); これは円周群 S1 とも呼ばれる絶対値 1 の複素数からなる乗法群である。これは円の純粋 対称変換群であり、Cn の連続版の等価物である。この完全な対称性をもつ幾何学的図形は存在しないが、ベクトル場についてはこれが当てはまる場合がある(下記の、三次元の場合を参照のこと)。
  • ある固定点周りのすべての回転と、その固定点を通る任意の対称軸周りの鏡映変換の全てからなる直交群 O(2)。これは円の対称変換群である。これは S1 の一般化二面体群なので Dih(S1) とも呼ばれる。

非有界な図形は、平行移動を伴う等長変換群をもつことができる、それらは以下のいずれかである:

  • 7 種類のフリーズ群
  • 17 種類の壁紙群
  • 一次元の対称変換群それぞれに対し、ある一方向についてその群のもつ全ての対称性と、それに直交する方向についての全ての平行移動の組合せ
  • それと同様だが、最初の方向を軸とした鏡映変換も含むもの

三次元

互いに共役となる違いを除いて、三次元点群は 7 個の無限系列と、それとは異なる 7 個の個別の群からなる。結晶学においては、何らかの結晶格子を保存する点群のみが考察の対象となる(そのため、回転の位数は 1, 2, 3, 4 および 6 に限られる)。一般点群の無限系列から、この結晶学的制限英語版により、32 種類の結晶点群(7 個の系列から 27 個の個別の群が、そしてその他の 7 個の個別の群からは 5 個)が得られる。

1 個の固定点を含む連続的な対称変換群は以下のものを含む:

  • 円筒対称性をもち、対称軸に直交する平面上に対称性をもたない群。例えば、円錐のもつ対称性が該当する。
  • 円筒対称性と、その対称軸に直交する対称面からなる対称性
  • 球面対称性

スカラー場のパターンをもつオブジェクトでは、円筒対称性があれば垂直方向の鏡映対称性も伴う。しかしながら、ベクトル場のパターンについてはこれは当てはまらない: 例えば、対称軸に沿った円筒座標系において、ベクトル場 および が軸に沿った対称性をもつ( に依存しない)ならば常に軸に沿った円筒対称性をもつが、反転対称性をもつのは の場合に限られる。

球面対称性の場合、このような区別は存在しない: 任意の繰り返しパターンを含むオブジェクトは反転対称性をもつ。

固定点が存在しない連続対称変換群には、無限に長い弦巻線などの、螺旋軸をもつものが含まれる。ユークリッド群の部分群を参照のこと。

対称変換群の一般論

より広い意味においては、あらゆる種類の変換群または自己同型群が対称変換群となり得る。これらのタイプの数学的構造は構造を保存する反転可能な写像を含む。逆に言えば、対称変換群を指定することにより構造を定義することが、あるいは少なくとも幾何学的な一致または普遍性の意味を明確化することができる; これはエルランゲン・プログラムにおける視点の一つである。

例えば、双曲的非ユークリッド幾何空間のオブジェクトはフックス型の対称変換群英語版をもっており、これは双曲平面上の等長変換群の離散的部分群である(そのうちの幾つかは、エッシャーの絵画に描き出されている)。同様に、有限幾何の自己同型群は、ユークリッド空間の部分空間や距離、内積といった性質ではなく点集合の族(離散部分空間)を保存する。ユークリッド空間の図形と同様に、どのような幾何学的空間のオブジェクトも、包含空間の対称変換群の部分群である。

別の例としては、組合せグラフの対称変換群が挙げられる: グラフの対称性は、辺を辺に写像するような置換である。任意の有限表示される群は、その乗積表に対する対称変換群である。自由群は、無限ツリーグラフの対称変換群である。

対称性の観点から見た群構造

ケイリーの定理が示すところによると、任意の抽象群はある集合 X の全置換からなる群の部分群であり、これは X に何らかの追加構造を加えたものの対称変換群と見なすことができる。それに加え、その群のもつ多くの(純粋に群演算の観点から定義される)抽象的特徴は対称性の観点から解釈することができる。

例えば、G = Sym(X) を、ユークリッド空間内の図形 X の有限位数の対称変換群であり、H G がその部分群だとしよう。このとき、H は、X+ という、X のある "装飾付き" バージョンの図形の対称変換群と解釈することができる。そのような装飾は、以下のようにして構成することができる。X に矢印や色のようなパターンを追加して、その全ての対称性が失われると、図形X# が得られ、そのとき Sym(X#) = {1}、すなわち自明群である部分群となる。すなわち、全ての非自明な g G に対して、gX# X# である。これにより、

とすれば

を満たす。

正規部分群も、この枠組みの中で特徴づけることができる。平行移動 gX + の対称変換群は、g による共役部分群 gHg1 である。この H は、全ての に対して

であれば正規部分群である。これは、X+ の装飾が、Xのある辺や何らかの特徴点から見てどちら向きに描かれていたとしても、対称変換群 gHg1 = H は同じものになるということを意味する。

例えば、Xを正三角形として、その対称変換群である二面体群 G = D3 = Sym(X) を考えよう。ある辺の上に矢印を描いて装飾し、非対称な図形 X# を得ることができる。τ Gを矢印の描かれた返上の鏡映操作とすると、合成図形 X+ = X# τX# は、その辺上に双方向の矢印が描かれた図形となり、その対称変換群は H = {1, τ} となる。この部分群は正規部分群ではない。なぜならば、 gX+ は別の辺の上に双方向矢印が描かれた図形でもあり得、その時には異なる反転の対称変換群が得られるからである。

その一方、回転によって生成される巡回部分群を H = {1, ρ, ρ2} D3 とすると、装飾付き図形 X+ は一貫した向きを持つ 3 回対称の環状矢印からなる図形となる。この場合 H は正規部分群である。なぜなら、逆向きの矢印に対して同じようにして環を描いても、得られる対称変換群 H は同じものだからである。

関連項目

参考文献

  • Burns, G.; Glazer, A. M. (1990). Space Groups for Scientists and Engineers (2nd ed.). Boston: Academic Press, Inc. ISBN 0-12-145761-3. https://archive.org/details/spacegroupsforso0000burn
  • Clegg, W (1998). Crystal Structure Determination (Oxford Chemistry Primer). Oxford: Oxford University Press. ISBN 0-19-855901-1
  • O'Keeffe, M.; Hyde, B. G. (1996). Crystal Structures; I. Patterns and Symmetry. Washington, DC: Mineralogical Society of America, Monograph Series. ISBN 0-939950-40-5
  • Miller, Willard Jr. (1972). Symmetry Groups and Their Applications. New York: Academic Press. OCLC 589081. オリジナルの2010-02-17時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100217091244/http://www.ima.umn.edu/~miller/symmetrygroups.html 2009年9月28日閲覧。

外部リンク

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