砂丘生態学

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研究対象 砂丘生態系、植生遷移、種多様性、保全
主な研究地 インディアナ・デューンズ(米国)、鳥取砂丘(日本)、ニューバロー・ウォーレン(英国)ほか
確立の契機 ヘンリー・チャンドラー・カウルズによる1899年の先駆的研究
砂丘生態学
Dune ecology / Sand dune ecology
砂丘における生物と物理化学的プロセスの相互作用を研究する生態学の分野
基本情報
上位分野 生態学海岸地形学植物生態学
研究対象 砂丘生態系、植生遷移、種多様性、保全
主な研究地 インディアナ・デューンズ(米国)、鳥取砂丘(日本)、ニューバロー・ウォーレン(英国)ほか
確立の契機 ヘンリー・チャンドラー・カウルズによる1899年の先駆的研究
関連分野 海岸生態学保全生態学復元生態学地形生態学

砂丘生態学(さきゅうせいたいがく、英語: dune ecology、sand dune ecology)とは、砂丘において生物と物理化学的環境との間に生じる相互作用を研究する生態学の一分野である。

砂丘生態系は農業生産性が低いことから広範な土地改変を免れた場所も多く、攪乱・ストレス・安定という多様な生育環境が近接して存在する。また、多くの砂丘が自然保護区や沿岸保護区域として指定され、塩性湿地干潟・草地・低木地・森林など隣接する沿岸生息地とともに保護されている。

本分野は一次遷移の古典的事例研究の場として生態学の発展に大きく貢献してきた。1899年、シカゴ大学の植物学者ヘンリー・チャンドラー・カウルズがミシガン湖岸のインディアナ・デューンズで行った研究は、植生遷移概念の礎を築くものであり、今日でも生態学の教科書に必ず登場する事例として参照される[1]

砂丘とは風によって吹き積もったが形成した丘状の地形であり、砂は通常、侵食された岩石から生じた鉱物粒子が水や風によって運搬・再堆積したものである。砂丘は海洋・大型湖沼・河川の縁辺のほか、内陸部にも形成される[2]。砂の鉱物組成は場所によって大きく異なるが、最も一般的な成分は石英質の珪砂であり、これに他の鉱物が混入することもある。

海岸砂丘は動的で変化に富んだ地形であり、粘土・シルト・砂などの堆積粒子から構成され、風・波・潮汐によって形成・変形される[3]。海岸砂丘は植物・動物・微生物の生育地を提供するだけでなく、高波・嵐・海面上昇など様々な攪乱から海岸・内陸部を保護する自然の防壁としても機能する。

沿岸砂丘の動物相は砂漠砂丘のそれと比較して種多様性が高く、間隙性動物(間隙に生息する小型生物群)の構成が充実している点が特徴的である[4]。沿岸砂丘の住者は物理的極限環境への適応の程度が低く、砂漠砂丘の固有種のように特殊化されることも少ない。

砂丘の形成と物理環境

砂丘の形成には、

  1. 砂の十分な供給源
  2. 砂を移動させる風力
  3. 砂の移動・堆積を可能にする空間

という三条件が必要である[5]。植生や流木などの障害物の背後では風速が低下し、風が運搬していた砂粒子が重力に抗えなくなって堆積する。このようにして小さな植生マウンドが形成され、風上側からの砂がさらに堆積することで丘が成長していく。

砂丘内部の微気候環境は、植生の有無・地形の向き・砂の粒度・砂の色などによって大きく左右される。砂の多孔質な性質と有機物の乏しさ(とくに発達初期段階)が、相対湿度・温度・光・水分含量・風乱流などの微環境因子に大きな変動をもたらす[6]。砂丘系全体として見ると、砂浜に近い裸地的基質から、成熟した土壌と豊かな植物群落をもつ内陸側の発達した生態系へと連続的な環境勾配が形成される。

日本の海岸砂丘は完新世および後期更新世に形成された大型砂丘が特徴的であり、風成灰岩・非石灰質砂・火山性砂の3種で構成される。完新世の砂丘は海水準変動に伴う海退期に、海浜から吹き上げた砂が海浜堤上に堆積することで形成されたと考えられており、この堆積プロセスは完新世を通じて少なくとも4回繰り返された[7]

砂丘植生の帯状分布と遷移

帯状分布(ゾーネーション)

海岸砂丘における植物群落の帯状分布は世界的に認められる現象であり、汀線から内陸に向かうにつれて植生が段階的に変化する。この帯状分布のパターンは複数の環境因子の共変動によって生じるため、その主因については長らく議論が続いてきた。主な候補因子として挙げられているのは、砂による埋没・塩性噴霧・微気候の変化などである[8]

典型的な海岸砂丘の帯状分布は以下の段階で構成される:

前浜・汀線付近
塩性噴霧・高塩分・砂の移動という過酷な条件に耐える先駆種が生育する。ヨーロッパでは砂浜ムギElytrigia juncea)、アメリカでは砂ロケットCakile edentula)などがこれにあたる。
前砂丘(フォアデューン)
ハマニンニクやアメリカハマニンニク(Ammophila breviligulata)などのイネ科草本が卓越し、根茎による砂の固定と砂丘の成長を促進する。日本ではコウボウムギCarex kobomugi)・ケカモノハシIschaemum anthephoroides)・ハマヒルガオCalystegia soldanella)などが代表的な植物種として記録されている[9]
半固定砂丘(セミフィクスト帯)
砂の移動が部分的に制御されており、多様な草本・低木が混在する。
固定砂丘(グレイデューン・ブラウンデューン)
植生が発達し、土壌の有機物が蓄積する。最も高い種多様性が記録されることが多い。
砂丘後背地(スラック・湿地)
地下水位に近い低地で湿生植物が生育する。水文環境の変動に対して極めて敏感であり、平均水位のわずか20 cmの差が湿性・乾性のスラック植物群落を分ける[10]

一次遷移

砂丘における植生遷移は一次遷移の古典的事例である。これは、新たに形成された砂質基質には既存の生物的素地(土壌・種子・有機物)がほぼ存在せず、生物が外部の生態系から侵入することで初めて遷移が始まるためである[11]

典型的な砂丘一次遷移の経過は次のように描写される:

  1. 先駆種 (Pioneer species)(1年生・2年生草本など)が裸地を占有し、砂の固定を開始する。
  2. 続いてイネ科草本が侵入し、広範な根茎系によって砂質基質をより強固に結合する。
  3. やがて低木・木本植物が侵入し、有機物の蓄積にともなって土壌が発達する。
  4. 最終的には、その地域の気候帯に応じた極相群落(温帯では森林、温暖・乾燥地域では草地や低木地など)へと移行する。

カウルズはこの遷移過程が有機体の発生と類似していると描写した一方で、環境の恒常的な変化(砂丘の斜面・風速・風向・水分量など)を踏まえ、遷移を「定数に近づく変数」ではなく「変数に近づく変数」であると表現し、均衡状態には決して到達しないことを強調した[12]

年代別砂丘列を一連の異なる年代の群落として解析する「クロノシーケンス法(空間置換法)」は、砂丘生態学が遷移研究に導入した重要な方法論である[13]。インディアナ・デューンズや五大湖岸の砂丘列は、この手法による遷移研究の原型となった。

種多様性パターン

砂丘遷移に伴う種多様性のパターンは、中間撹乱仮説と一致するハンプ型(山形型)の曲線を描くことが多い。すなわち、環境勾配の中間域(グレイデューンなど)で種多様性が最大となり、攪乱が最大となる最前線や最小となる成熟林縁では多様性が低下する[14]。ドイツ・スピーケロッグ島(ワッデン海)の15年間の長期モニタリング研究は、多様性の高い群落ほど生態系の安定性が高いという生物多様性-安定性理論も支持する結果を示している。

砂丘の主要植物と適応

砂丘植物は厳しい物理的ストレス(砂による埋没・塩性噴霧・高温・乾燥・栄養塩欠乏)に対応するため、多様な適応戦略を発達させている。

砂埋没への適応
ハマニンニクAmmophila arenaria)は、シュートが砂に埋没されても急速な縦方向成長で対応し、むしろ新鮮な砂の堆積が生育の刺激となる(「アンモフィラ問題」)[15]
ストレス耐性戦略
先駆植物は土壌・大気中の高塩分に耐える生理的適応を持ち、ストレス耐性型(S-戦略)の典型として位置づけられる。
根系・根茎系
砂丘草本は広範な根・根茎系を発達させ、砂質基質を結合・固定する。これが砂丘の形成・安定化に直接貢献する。
菌根菌との共生
砂丘土壌は窒素・リンに乏しいため、多くの砂丘植物が菌根菌(とくにアーバスキュラー菌根菌)との共生によって栄養塩を獲得する。先駆段階から菌根共生が確認されており、定着の初期段階から機能していると考えられる[16]

砂丘の動物と生態系機能

砂丘植物群落の発達にともない、動物相も段階的に変化する。汀線側ではr戦略種が多く、内陸側に向かうにつれてK戦略種の割合が増す傾向がある。植生高の増加とともに、小型哺乳類より鳥類が優占するようになる[17]

沿岸砂丘はアジサシチドリ類の営巣地として機能するほか、カエルなどの両生類キツネなどの哺乳類の生息地ともなっている。砂丘の無脊椎動物相では、砂中への穴掘りを営む昆虫類が露出した裸地砂丘に依存しており、爬虫類(例:カナヘビ科)もまた開放的な砂丘環境に特化した種を含む[18]

砂丘・浜辺境界部では以下の4種類の物質が双方向に交換される:(1) 砂、(2) 地下水、(3) 塩性噴霧、(4) 生死の有機物。地下水は窒素を多く含み、沿岸水域への無機栄養塩供給源として機能しうる[19]

研究史

砂丘生態学の学術的基盤は、19世紀末から20世紀初頭にかけて確立された。デンマークの植物学者オイゲン・ヴァルミングは、デンマーク海岸砂丘の植物群落を研究し、植物と環境との関係を分析する「生態学(Oecology)」という概念の先駆けを作った。その影響を受けたシカゴ大学のヘンリー・チャンドラー・カウルズは、1896年にインディアナ・デューンズを初めて訪れ、ミシガン湖から遠い砂丘ほど異なる植物が生育するという事実に着目した[20]

カウルズは1899年に博士論文に基づく4部作の論文「ミシガン湖砂丘植生の生態学的関係」を発表した。この論文は生態学的遷移研究の出発点となり、1,500回以上引用されており、現在ほぼすべての生態学教科書にインディアナ・デューンズの遷移事例が収録されている[21]。カウルズはその後、フレデリック・クレメンツら次世代の生態学者に大きな影響を与え、1915年にはアメリカ生態学会の創立にも参画した。

その後の砂丘生態学の発展に重要な貢献を行ったのが、M・アンワル・マウン(M. Anwar Maun、1935-2007)である。ウェスタンオンタリオ大学教授として100本以上の論文を発表し、死後の2009年に刊行された著書『The Biology of Coastal Sand Dunes』(オックスフォード大学出版局)は、砂丘生態学の包括的な参照書として世界的に認められている[22]

日本の海岸砂丘と生態学的研究

日本の海岸砂丘はかつて全国各地に広く分布していたが、土地開発による面積の縮小・消失が著しい。鳥取県を対象とした研究では、1818年時点で大中規模砂丘が1,893 haあったのに対し、2000年時点ではわずか141 haにまで減少しており、残存砂丘の多くは海浜部と前砂丘の一部に限られることが明らかにされた[23]

神奈川県湘南海岸辻堂砂丘を対象とした研究では、開発前には汀線から内陸に向けて「未固定帯」「半固定帯」「固定帯」の3帯が確認されていたが、砂丘の縮小とともに半固定帯が消失し、外来種・内陸種が侵入・定着したことが報告された[24]

鳥取砂丘(厳重に保護された大型海岸砂丘)を対象とした植物相調査では、維管束植物132種(絶滅危惧種4種、海岸性植物20種を含む)が確認されたが、鳥取県の海岸植物全体の36%にとどまった。これは、たとえ広大な単一保護区であっても地域スケールの海岸植物相すべてを維持することはできないことを示している[25]

保全上の課題と脅威

人為的影響

砂丘生態系に対する主要な人為的脅威には以下が挙げられる:

気候変動と海面上昇

海面上昇は沿岸砂丘にとって深刻な脅威である。海面が上昇すると低地の永続的浸水や高波・高潮・津波時の浸水頻度が高まり、砂丘植物群落の後退を引き起こす[28]。プリマス大学の研究によれば、イギリス南西部の海岸砂丘の大半が慢性的な侵食を受けており、過去15年間で年平均0.5〜1 mの後退が記録されている。IPCCの予測によれば2100年までに海面が0.75 m上昇した場合、砂丘は20〜75 m後退しうると試算されている[29]

また「沿岸スクイーズ(coastal squeeze)」と呼ばれる問題も深刻である。内陸側に人工海岸防護施設が存在する場合、砂丘は海側からの侵食に押されても内陸側へ移動できず、生息地面積が消滅する[30]

一方、気候変動の影響として、一部の沿岸砂丘では植生の「グリーニング(緑化)」が進行していることも報告されている。植生の増加は砂の固定を促進し、波浪侵食に対する抵抗性を30%以上高める効果をもつが、同時に砂丘の動態的性格を損ない、活動的砂丘環境に依存する特殊種の生息地を縮小させるという相反する効果も生じる[31]

過剰安定化

北西ヨーロッパを中心に、過去50年で多くの砂丘が過剰に安定化(固定化)する現象が報告されている。これは気候変動・窒素堆積の増加・放牧などの伝統的管理の減少が複合的に作用した結果とみられており、活動的砂丘に依存する植物(競争力の低い植物)や穴掘り昆虫・爬虫類・両生類などの特殊種の生息地が縮小している[32]

保全と管理

砂丘の持続可能な管理には、自然プロセスの維持と堆積物輸送の継続が不可欠である。主な保全・管理の手法として、在来植生の再植栽・フェンス設置による砂丘区画化・富栄養化対策・侵略種の除去・放牧による植生管理などが実践されている[33]

砂丘の生態系完全性(ecological integrity)の評価・監視・ランク付けのための国際標準フレームワーク(SEEA-EA)の適用事例が、ニュージーランドで初めて実施され、活動的砂丘の面積縮小とデータ不足が生態系モニタリングの障壁になっていることが明らかにされた[34]

日本では、東日本大震災(2011年)後の仙台湾・名取地区において、堤防建設を回避することで海岸砂丘植物を保全する取り組みが行われ、その効果が検証されている[35]

主要文献

  1. Cowles, H.C. (1899). The ecological relations of the vegetation on the sand dunes of Lake Michigan. Botanical Gazette, 27, 95–117, 167–202, 281–308, 361–391.
  2. Maun, M.A. (2009). The Biology of Coastal Sand Dunes. Oxford University Press, Oxford. ISBN 978-0-19-857036-3.
  3. Isermann, M. (2011). Patterns in Species Diversity during Succession of Coastal Dunes. Journal of Coastal Research, 27(4), 661–671.
  4. Feagin, R.A., Sherman, D.J. and Grant, W.E. (2005). Coastal erosion, global sea-level rise, and the loss of sand dune plant habitats. Frontiers in Ecology and the Environment, 3(7), 359–364.
  5. McLachlan, A. (1991). Ecology of coastal dune fauna. Journal of Arid Environments, 21(2), 229–243.
  6. Dech, J.P. and Maun, M.A. (2005). Zonation of vegetation along a burial gradient on the leeward slopes of Lake Huron sand dunes. Canadian Journal of Botany, 83(3), 227–236.
  7. Martinez, M.L. et al. (2013). Richness, diversity, and rate of primary succession over 20 years in tropical coastal dunes. Plant Ecology, 214(1), 1–14.
  8. Miller, T.E., Gornish, E.S. and Buckley, H.L. (2010). Climate and coastal dune vegetation: disturbance, recovery, and succession. Plant Ecology, 206(1), 97–104.
  9. Nagamatsu, D. (2017). Plant species diversity and habitat conditions in a protected large coastal dune area of western Japan. Landscape and Ecological Engineering, 14(1), 137–147.
  10. Nakata, Y. et al. (2021). Elucidation of the historical changing of coastal sand dunes. Landscape Ecology and Management, 26(1), 23–32.

関連項目

脚注

外部リンク

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