芸術家の息

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芸術家の息(げいじゅつかのいき、: Fiato d'artista: Artist's Breath)は、イタリアの美術家ピエロ・マンゾーニが1960年に制作した作品である。風船にマンゾーニ自身の息を吹き込み、木製の台座に取り付けた作品群で、マンゾーニが同時期に展開した《》や《芸術家の糞》と同様に、作者の身体、痕跡、署名、作品価値の関係を問う作例とされる[1][2]

《芸術家の息》は、マンゾーニの身体的行為を作品化したシリーズである。マンゾーニ財団の年譜では、1960年5月3日に《空気の身体》(: Corpi d'aria)が発表され、その変種として、マンゾーニ自身が風船を膨らませた《芸術家の息》が導入されたとされる[1]

《空気の身体》では、購入者が風船を膨らませることで作品が成立したのに対し、《芸術家の息》では、マンゾーニ自身の呼気が作品の内容とされた。この違いによって、作品は単なる風船や空気ではなく、芸術家の身体的痕跡を封じ込めたものとして提示された[3]

形式

《芸術家の息》は、風船、木製台座、紐、封印などから構成される。ウィーン・ルートヴィヒ財団近代美術館(MUMOK)所蔵の作品データでは、1960年制作、素材はゴム、木、紐、封印、金属プレートとされる[2]

この作品では、内容物である息そのものは見ることができない。膨らんだ風船は、不可視の呼気に一時的な形を与える媒体であり、時間の経過とともにしぼむことで、作品の物質的な不安定さも示している。MUMOK は、現在残るものは留め具や封印の痕跡であり、作者の息はすでに失われていると説明している[2]

《空気の身体》との関係

《芸術家の息》は、《空気の身体》から派生した作品である。《空気の身体》は、白い風船、吹き口、三脚、説明書などを含むキット状の作品で、所有者が風船を膨らませて台に置くことで成立した[3]

これに対して《芸術家の息》では、マンゾーニ自身が風船を膨らませる点に重点が置かれた。そこでは、作品の成立に必要なものが、物質的な部材だけでなく、作者の呼吸という身体的行為へ移されている。このため、本作は、作品と作者の身体的痕跡との関係を明確に示す作例とされる[3][2]

位置づけ

マンゾーニは1950年代末から1960年代初頭にかけて、作品を物質、署名、証明、身体的行為の問題として捉え直す実践を展開した。《》では線を筒に封入し、《生きた彫刻》では人物に署名することで作品化し、《芸術家の糞》では芸術家自身の排泄物を缶詰にしたものと称する作品を制作した[3]

《芸術家の息》は、こうした一連の作品の中で、呼吸という身体活動を作品の構成要素としたものである。美術評論家の中原佑介は、マンゾーニが《》のシリーズの後に「指紋」や「芸術家の息」のような、自分の肉体に直接関係するものを作品と結びつける仕事へ進んだと述べている[4]

評価

《芸術家の息》は、作者の身体的痕跡を作品価値へ転化する試みとして理解されてきた。作者の息は、目に見えず、保存も困難でありながら、作品の中心的な要素として扱われる。この点で本作は、作品の物質性、作者性、不可視性、時間性をめぐる問題を含んでいる[2][3]

また本作は、《芸術家の糞》と対をなすように、身体から出るものを作品化した作例として論じられることがある。中原は、自分の息を風船に詰めた《芸術家の息》を「上からの排出物」による作品、《芸術家の糞》を「下からの排出物」による作品と捉え、いずれもマンゾーニという芸術家の存在証明であったと述べている[4]

脚注

参考文献

関連項目

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