血液型性格分類
血液型によって人の性格を分類すること
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血液型性格分類(けつえきがたせいかくぶんるい)とは、ある人の性格が、その人の血液型によって特徴づけられるとする考えである。ABO式血液型によって、A型は~な性格、B型は~な性格、などといったように分類されるとする。
日本において血液型と性格の研究の歴史は100年あり、関連を否定する論文、肯定する論文がともに存在する[1]。日本の出版業界においては、1971年頃、能見正比古(1925年 - 1981年)と能見俊賢(1948年 - 2006年)の親子が発表した著作によって広く認知された。1970年代から2000年代前半にかけて、多くのテレビや書籍が血液型による分類を広め[2]、ブームとなったが、血液型性格分類を信じる人々による差別などが社会問題化した。そのため批判的検証が学術界で複数実施され、現在ではその「科学的」根拠の虚妄性が確認されており、ステレオタイプや疑似科学の一種と扱われる[3]。2024年現在に至るまで、血液型と性格の間には明確な統計的関連は認められない。一方で自己成就現象を研究する点においては2000年代以降の日本の心理学会において恰好の研究対象である。例えば特定の血液型の性格表現が自己評価において好適である場合、その血液型の保有者は血液型性格分類を肯定的に評価する可能性があり、逆に否定的な記述が一般的である場合は否定的に評価する可能性がある[4]。また妊娠可能期の既婚者女性のパートナー間との血液差を考慮した満足感や幸福感の評価について44組について調査したところ有意な差は見られず、一方で未婚の女性72名のうち拒絶感情や嫌悪感情に敏感な人々の間において血液型性格分類に対する信念の存在について統計的有意性を報告する研究が存在する[5]。
血液型性格分類の歴史
西洋における類型学
西洋では歴史的に見て、性格を類型に分類し、それとは別の類型との関係を論じる説が提唱されてきた歴史がある(類型学)[6]。例えば、医学の基礎を作ったヒポクラテスは「体内には血液、黄胆汁、黒胆汁、粘液という4種類の体液があり、これらのバランスが崩れると病気にかかる」と述べ、また「体液のバランスが性格にも関わる」と述べた(四体液説)。ヨーロッパでは近世(19世紀頃)までこうした説が信じられており、たとえばスタンダールは「恋愛論」において各国の民族的性格を四体液説と関連づけ、各国の恋愛事情の解釈に利用している。現代の医学では医聖ヒポクラテスに敬意を払ってはいても、これらの説に関してはすでにナンセンスなものと判断している[6]。
ABO式血液型の発見
ABO式の血液型が発見されるのは1901年のドイツでのことである[7]。ドイツでは当時ハイデルベルク大学のガン研究所の教授だったE・フォン・デュンゲルン(Emil von Dungern)博士が、動物の血液型を調べたところ「チンパンジーは全て同一の血液型であることがわかり、他の動物はチンパンジーと異なる血液型であることが多い」ことを発見した[8]。ドイツに留学しデュンゲルン博士のもとで学んだ医師の原来復(はら・きまた)は[9][信頼性要検証]、1916年に「血液ノ類属的構造ニツイテ」という論文を発表し、血液型と気質の関連を研究対象にしようとする試みについて語った[10]。しかし、原のこの論文では、まだ関係性を断定するような言い回しは使っていなかった[7]。
この年代には白人A型人種優秀論として、白人にA型が多く東洋人にB型が多いと提唱されて人種差別につながっていた[7]。原は1916年の『医事新聞』で血液型で知的レベルを決定してしまうのは厳しすぎると、人種差別を批判した[7]。
ナチス・ドイツも人種差別を正当化するために、血液型性格診断を利用していた[6]。血液型の遺伝の仕組みは当時から知られていたため、「血液型=性格」であれば性格は遺伝で決まることになり、「ゲルマン系ドイツ人の血統が優れている」としたい彼らにとって好都合だった[6]。1932年にドイツで出版された『血液型便覧』には「ドイツ人に多い」A型を優れた血液型とし、「高い知能」「勤勉」などと肯定的なことが書かれ、一方で「ユダヤ人やアジア人に多い」B型を劣った血液型として、「暴力犯罪者」「精神薄弱」「感染に弱い」などと非常に否定的なことが書かれた[6]。
古川竹二の『血液型と気質』
昭和初期には、東京女子高等師範学校(現お茶の水女子大学)教授であった教育学者古川竹二が、血液型と気質の関連を科学的な研究対象にしようとする一連の試みが広く注目を浴びた。古川の最初の論文は、1927年に『心理学研究』誌上に発表された「血液型による気質の研究」である[注釈 1]。その後に一連の試論の集大成として1932年に『血液型と気質』が出版された。同書の内容が古川学説とされることが多い[注釈 2]。
古川学説は、当時金沢医科大学教授であった古畑種基らに支持され、心理学だけではなく、医学、教育など多くの分野で注目を集め、その影響下で多くの調査がなされた[注釈 3]。このため数多くの追試が行われたが、血液型と気質の関連を論じる際に例外が多過ぎることから、最終的に古畑は懐疑的になり、結果的には学会で古川学説は否定された。
大日本帝国陸軍においても古川学説の影響を受け、血液型から将兵の気質・能力を分類することで、部隊編成の際に最も適した兵科・任務にあてることができるとの考えから、各部隊から将兵の調書を集め研究が行われた。1926年、大日本帝国陸軍軍医の平野林と矢島登美太が、「人血球凝集反応ニ就テ」を『軍医団雑誌』に発表した。これは、血液型から兵隊としての資質を判定したものであった。統計的に意味のある結果は出なかったものの、科学的考察を加えるに足るものとして唱えられていた[13]。しかしその後の同様の研究では、期待した結果は得られず、1931年に中止された。
また東京朝日新聞に、「児童の気質調べに奇怪な血液検査-小石川窪町小学校の保護者から厳重な抗議申し込み」という記事が掲載された(1928年)。このように当時から一般庶民からの批判もあった。最終的には、1933年日本法医学会総会において古川学説は正式に否定された[14][注釈 4]。
能見正比古による再度の注目
第二次世界大戦後は長らく取り上げられることがなかったが、古川学説に影響を受けた能見正比古が、1971年に『血液型でわかる相性』(青春出版社)、続いて1973年に『血液型人間学』(サンケイ新聞社出版局)など一般人向けの著作を発表・出版。これによって血液型性格分類が広く知られることとなった。また戦前の「血液型と気質」という言い方が「血液型と性格」という言い方に替えられたのも、この能見正比古の著書からである。
これらの本で能見正比古・能見俊賢親子は、様々な調査を行ったと主張し、独自の理論を展開したが、現在では多くの専門家や学会からは正当性のないものだとされている。大村政男によれば、調査したとするデータはどの学会にも公開されていないと言う。能見正比古・俊賢親子は、10万人分以上のデータを集めたと称しているが学術的な実態は不明なのである。仮にその集積データが真正なものであると仮定すれば、母集団の広範性を前提に、標本抽出にムラがない可能性がある。
のち、能見親子のデータの収集は、能見の著書『血液型でわかる相性』などの読書カードを送り返してきた人だけを対象に行ったものだと、息子の俊賢が語っている(その他に「講演会の参加者や協力者などもある」と主張する)。そのため仮に聴取されたデータが真正のものと仮定したとして、最初から母集団に大きな偏り(バイアス)が生じており、偏りのないことを前提とした通常の統計手法を用いたこと自体が間違いだったと指摘されている[注釈 5]。
その後、台湾、韓国、中国でも若干数、血液型と性格に関する書籍や論文が書かれている。
「査読」なき統計の問題
古川竹二や能見正比古の血液型による仮説の提示はいずれも査読論文ではない。古川については自身の血族11名から仮説を立て、自殺者にはA型が多いとの12名をサンプルにした主張、売血志願者にはO型が多いとの18名の調査からの主張、およびO型は勇気があるからだろうとする推論など、統計学的には無意味な物であった[15]。大村政男は1984年から精力的に血液型性格分類の検証を行っており、古川の説は追試により再現しないこと、能見の説は古川学説にルーツを持つことを丹念に調べ上げ、古川や能見のデータ解釈は目分量統計の時代の産物にすぎないこと、いずれの論理構成とも事後的な解釈に過ぎず牽強付会であること、能見親子は実際には正確なデータを公開していないことを厳しく指摘している[16]。このようなデータの捏造が疑われるさいに通常行われるラボノートの検証も行われていない経緯があり[17]、他の大規模追試の結果が否定的であることから、現在では棄却された仮説として扱われるのが心理学会の一般的な評価である。
定着
しかしながら能見正比古の『血液型でわかる相性』(1971年)という青春出版社から発刊された啓発本は累計800万部[18]を超えるヒット作となり、『天中殺入門』や『真実のココロ』シリーズを超える大ヒットとなった。竹内久美子や藤田紘一郎のような影響力ある著名研究者がしばしば好意的に取り上げたことも、この仮説の定着に影響を与えたと長島雅裕は提示する[19]。
- 1985年、シンガー・ソングライターのさだまさしによるヒット曲「恋愛症候群」(および同年の「もーひとつの恋愛症候群」)では恋愛感情を血液型で分析した歌詞が歌われた。
- 同じく1985年、コミックバンドのバラクーダーが「演歌・血液ガッタガタ」を発売。ABO式の各血液型の特徴とされる性格を歌詞にして男性が女性を揶揄する内容。1989年、女性お笑いコンビのピンクの電話が、同じ曲で男女の立場を入れ替えた歌詞の「血液ガッタガタPARTII」を発売。2曲とも、4つの血液型すべて「嫌いな性格」と歌っている。
- スタジオジブリができた頃、宮崎駿は席配置でA型とB型を分けていた[20]。
- 1987年、三菱ミラージュで血液型別のCMを放送していたことがある。
- 1988年、アイドル歌手相川恵里が本人の血液型にちなんだ「ABコンプレックス」を発売。しかしながら、後に調べたところ本人の血液型はB型だったことが判明。
- 1990年前後、森永ハイチュウで血液型別のCMを放送していたことがある。
- 1990年に丹羽兵助が刺され失血死した事件の際に、異なる型の血液が輸血されるという医療事故が生じた。 議員が公表していた血液型が実際とは異なっていたからであるが、これは選挙における有権者への印象を考慮したためで、背景には当時流行していた血液型占いがあるのではないか、という指摘がある[21]。
- 1990年にヤクルトスワローズの監督に就任した野村克也は血液型性格分類を深く信じており、自著でも「私は血液型による性格診断にこだわる。性格は野球のプレーに何らかの形で現れてくると考えるからだ」と公言していた[22]。また、同年に福岡ダイエーホークスの監督に就任した田淵幸一も血液型性格分類に凝っており、血液型を考慮に入れてメンバーを決めたことがある。田淵は後に親友の星野仙一監督の下、阪神タイガースと東北楽天ゴールデンイーグルスでコーチを務めた際にも、血液型性格分類に基づく捕手の配球を選手に指導し、星野から注意を受けている。
- 1991年、嘉門達夫のアルバムに収録された「血液型別ハンバーガーショップ」では、前奏で「人間の性格がたった4種類に分類されるわけがない」と前置きした上で、各血液型の性格の「欠点」とされる行動・言動をコミカルに風刺した。
- 1993年、特撮番組『有言実行三姉妹シュシュトリアン』にて「怪奇!C型仮面」放送。血液型性格分類を風刺した回。
- 1980~90年代に活動したオウム真理教は、信者の分類に血液型を取り入れていた[23]。教祖麻原彰晃が「B型女性はためらわない」と信じていたことから、滝本太郎弁護士サリン襲撃事件ではB型女性が実行犯に選出された[24]。
- 2004年頃、ブーム到来。テレビ番組などで頻繁に血液型による性格分類やそれによる相性などが紹介され、地上波テレビ放送では2004年2月21日からの1年間だけでも、約70本もの血液型性格関連説に関するテレビ番組が放映された。この論文の末尾には(論文中で言及されている)TV番組名が20ほど一覧として記載されており、後に捏造が多いことで話題になった『発掘!あるある大事典』も含まれている[25]。中には特定の血液型を肯定的に扱い、特定の血液型を差別的に扱ったものもあった。
- 2005年、はなわのアルバムに収録された「B型ロックンロール」は特定の血液型に対する偏見や差別意識を助長させる可能性のある内容であった。
- 2005年、韓国で映画『B型の彼氏』が公開された。翌年には日本でも公開された。
- 2008年には、『○○型の説明書』シリーズがすべて年間売上10位以内に入った[26]。
- 2009年、フジテレビで2月の23日から26日の四夜連続ドラマ『血液型別 オンナの結婚する方法』が放送された。
日本人を対象にした調査では、過半数が血液型性格分類に肯定的な態度を示すとともに血液型性格分類の話を好んでいるという報告もあった[注釈 6]。
能見の親子が死去した後もこれを引き継ぐアボ・ファン(ABO FAN)が根強い力を持っていると、2012年に大村政男が記している[27]。
社会問題化
一般社会への浸透には、テレビ放送が大きな役割を果たし、これらの番組が血液型への偏見、固定観念を広めた[8]。テレビ番組によっていじめや差別が助長されたと感じた一部の視聴者らは、放送局に対して抗議した。
2004年(平成16年)にBPO(放送倫理・番組向上機構)は、「血液型によって人間の性格が規定されるという見方を助長することのないよう要望する」との声明を発表[28]。日本民間放送連盟の放送基準「第8章 表現上の配慮」54条に抵触するとして、「血液型判断に対し、大人は“遊び”と一笑に付すこともできるが、判断能力に長けていない子供たちの間では、必ずしもそういうわけにはいかない。こうした番組に接した子供たちが、血液型は性格を規定するという固定観念を持ってしまうおそれがある」とした。そうした指摘を受け、一部のバラエティ番組では「血液型ですべてが決まるというわけではありません。偏見や差別は絶対にやめましょう」などといった注意喚起がなされることがあった。
偏見やステレオタイプや認知の歪みといった問題を、重要な研究テーマとしている社会心理学(科学社会学)でも研究が進んでいる。血液型性格分類が社会に流布する仕組みや、このような説が流布することによって、人の認知にどのような歪みが生じるのか、あるいは「信じているように振舞う人の動機は何か」といった角度から研究されている。
- 2002年、大学入試センター試験の「現代社会」の設問において、大村政男による血液型性格分類についての否定的な調査結果(バーナム効果を示したもの)が資料問題として使われたことがある[29]。
- 2006年、血液型性格分類のブームが過熱しすぎた日本を描いた松岡圭祐の小説『ブラッドタイプ』が出版された。白血病の女性が骨髄移植により血液型がB型に変わるのを嫌い(骨髄移植は白血球抗原 (HLA) 型の一致が必要とされるため、赤血球の型であるABO式の血液型より優先される)、輸血を拒否し生命の危機に陥るなど、迷信に基づく騒動が頻出、臨床心理士らがその非科学性をどう証明し混乱を鎮めるか、というストーリーである。なお、松岡はこの小説を執筆する前に、「 究極の血液型心理検査」という血液型性格診断を行うウェブサイトを立ち上げた。それをのべ450万人が利用し、診断後にこのサイトの血液型診断が当たっているのかという問いに対して、9割以上の利用者が「この血液型性格診断は当たっている」と答えた。だが、後に松岡がこのウェブサイトについての仕掛けを公表、心理診断は行っているものの血液型の問いに関する分析はプログラム上で全く行っていないことを明らかにした。
- 2011年7月4日には、岩手・宮城両県知事への発言を問題視された松本龍復興担当大臣が記者会見で、自身の血液型と出身地を発言の原因だとする弁明を行なった。欧米メディアからは「失敗を血液型のせいにできるのか」と批評があった[30]。BBC東京特派員のローランド・バークは、松本復興担当大臣の弁明の解説として「血液型のせいにするなど荒唐無稽に聞こえるかもしれないが、日本では血液型は性格に影響すると信じられている」とレポートしている[31]。
血液型性格分類の統計関係の研究
2024年現在、血液型と性格の間には明確な統計的関連は認められていない(但し、血液型性格分類と予言の自己成就については21世紀の心理学会においても恰好の研究対象である)。1991年に心理学者の松井豊は血液型性格の論争には決着がついていないことを背景に、過去の調査のデータの収集法に問題あるとして、JNN(TBS生活者データ)を使った統計解析を行った[32]。松井豊は、1980年、1982年、1986年、1988年の合計約1万2千人を対象とした、性格に関する質問24項目と血液型の質問を検証したが、統計学的に有意な主張は検証されないと評価した[32]。また同時に、A型とその他型に分けて分析すると、予言の自己成就現象がみられることを注釈に記した[32]。この研究は九州大学社会心理学の講師の縄田健悟が「最も重要な国内研究」とする[26]。
予言の自己成就については、JNNデータを使った長崎大学教育学部の武藤らの研究(2011年)は、1988年まで10年間で約32000人のデータとされる研究をさらに2000年まで拡張して、予言の自己成就については有意な差が見られたとし[33]、2014年には縄田によるランダムに選ばれた有効人数約9700人での日米の2004-2005年のデータでは有意な差は見られなかった[26]。
2020年以後には、AIを使って血液型の推測を行った研究が開始された。2020年に250人のインドネシア人を対象とした研究が報告され[34]、翌2021年には日本人1859人、次いで5,609人[35]、2023年には日本人2,887人を対象にして実験したところ[36]、いずれも性格の自己報告を元にAIが回答者の血液型を予測したところ、正解率はいずれも偶然より有意に高くなったと主張する報告がなされている。ただしこれらはいずれも「情報処理研究者」を称する者による投稿であり、2026年時点で心理学会からの反応はない。金澤正由樹(masayuki kanazawa)なる人物については学術的な履歴や所属が不明であり、投稿誌はいわゆるオープンアクセスジャーナルである。
疑似科学評定サイト「Gijika.com」は、血液型と人間の機能との関連を研究する意義は否定できないとする一方、一般に認知されている血液型性格診断については、科学的根拠に乏しい疑似科学であると評価している[37]。
能見の血液型人間学について心理学側からの検証が行われた理由には、大衆向けのほかの著者とは違い、能見らが著名人の血液型の統計分布を比率として示しデータを中心としていたことが挙げられる[38]。(一方、単に占いであれば学術的な検討の土壌に上げることは躊躇される[25]。)1984年から1985年には、テレビなどでも心理学者による批判がはじまったが、この時点では能見も当初から統計データとして提示してきたものなので、反論を行った[39]。
医学の分野においては、(血液型ではないが)1990年代にはセロトニンやアドレナリンに影響することで性格行動に影響する遺伝子の存在は指摘されている[40]。1978年まででは脳細胞との関りについて際立った研究結果はなかった[注釈 7]。免疫学の専門家である高橋利忠は、2009年までの状況で、専門分野である血液型によるピロリ菌の感染しやすさの違いなどを説明した後、知る限り血液型と脳細胞の活動の関係を証明した報告はないとした[44]。2010年代に研究が進み、神経伝達物質であるドーパミンと血液型遺伝子が関係しているという仮説などは提唱されている[45]。
2022年には、中国人100万件の妊娠データの分析を行い、血液型と結婚が関係していることを示した論文も発表されている[46]。
なお、病気では、2000年に科学雑誌『Nature』の「遺伝」についての総説では「胃腸管に関するいくつかの形質に弱い相関が確認できるが、血液型と疾患の相関については再現性よく示されたものはない」とされた[47]。2016年の「血液型」に関する総説では多様に30種類ほどの病気との関係性を示す研究が網羅されている[48]。その後、2018年にO型は出血死しやすい[49]、2020年にA型は新型コロナウイルスに感染しやすい[50]などの研究結果が発表されている。2022年には、科学雑誌『Nature』に、ABO型血液型と腸内細菌叢に関する論文が3報発表された[51][52][53]。この3つの論文の中で、Qin Y et al. (2022)は、ABO型血液型との直接の相関関係は発見されていないが、メンデル無作為化法を使って、腸内細菌のMorganellaとRaoultellaがうつ病に因果関係として影響がある可能性を示唆した。また、著者らが論文の中で述べているように、この検定方法はいくつかの欠落変数がある可能性を排除できないため、厳密な因果推論ではなく、あくまで腸内細菌が病気の発病に影響を与えうる可能性を今後の研究の方向性を提案するために行なったとしている(p. 139)[52]。
統計の解釈
サンプリングの問題としては母集団からデータの対象を偏って抽出していて、それは自らの性格分類の信奉者であったり、所属大学の大学生を対象にすれば[32]、既に授業により否定的な知識を得ているかもしれないため、ランダムサンプリングが必要である[54]。妥当性の問題として、測定指標が個々の研究で異なるため[32]、信頼性の高い方法を使う必要がある[54]。2006年時点において「関連性がある」とする学術的根拠は具体的に提示されていない[25]。
日本パーソナリティ心理学会ホームページのQ&Aでは、2009年に理事の渡邊芳之が、こうして厳格な科学のルールに則って出された結果によって「血液型と性格は関係ない」と断言することはできないものの、「いまのところ血液型と性格に関係があるとは言えない」という考えがおおむね支持されているとしている[55]。研究者の多くは血液型性格分類による血液型と性格の間に関係があるとは考えておらず、多くの研究において、血液型と性格の間に関係があるとは結論づけられていないため、血液型性格分類は『疑似科学』に分類されている[3]。
パーソナリティの類型論の誤りの事例(体型など、本来パーソナリティとは関係ない要素をパーソナリティと結びつけようとするもの)のひとつとして、心理学教育の場で血液型性格判断が紹介されることもある。
心理学者のサトウタツヤと上村は2006年に、能見らの血液型性格学については、第三者による検証可能な論文が提示されていないので科学的だとはできないが、血液型と性格の関係について将来に何かが発見される可能性まで否定するものではないとし、また一方で実証されていないので可能性を受け入れる必要もないとしている[25]。
支持する意見
今日の心理学会では血液型性格分類の統計的有意性を支持する意見は無く、学会誌の査読を通過したものは知られていない。工学博士の石川幹人は清水武なる人物との共同研究において「社会流行を追った形での学術的研究」という視点において、血液型と性格の関連性についての新たな研究を実施した[38]。
2009年に、清水武なる学術的履歴の確認できない著者が、血液型と性格の5因子モデルとの関連において、効果量が小さいため予測力は小さいが統計的には関連が有意であったとする主張を、2つの心理学の学会誌に投稿したが「いずれも掲載を断られた」という経緯を西條剛央編纂「よい教育とは何か」に寄稿している[56]。
性格の5因子モデルの研究
台湾の研究では、176名の学生を対象として血液検査を実施し、血液型と性格の5因子モデルの「外向性」との関連性を否定する結果を報告している[57]。
血液型を直接の対象とした研究ではないが、2017年に発表された、260,861人の被験者を対象としたGWASと5因子性格検査を用いたメタ分析では、6つの遺伝子が人間の性格に影響を与えると報告している[58]が、その決定係数は0.04%未満と極めて低かった。双子研究で使用された5因子性格検査によれば、遺伝が性格に与える影響の割合は、30%~60%と推定されている[59][60]。
血液型の決定には当然に遺伝子の情報が関与しているため、今後の研究の進展によっては何らかの有意性を報告する研究が得られる可能性はあるものの、現在知られているところ、GWASや5因子性格検査を使って現実に得られた傾向値は、おなじ遺伝子を持つ一卵性双子を対象とした研究とは比べものにならないほど小さい。しかし統計的な有意性がわずかに見られるこの現象は、missing(hidden) heritabilityと呼ばれ、GWASの活用が進むにつれ、大きな注目を集めている。
各種分野の血液型の研究
予言の自己成就の影響を避けるため、大村らのグループが一連の研究を発表しているが、首相以外は有意な差は認められていない[61][62][63][64]。金澤正由樹なるAI技術者を称する著作家は、首相だけではなく、外相、文相、プロ野球、サッカー選手などに有意な差が見られたと主張している[65]。
海外での血液型性格分類
血液型性格分類の受容
日本の心理学では、血液型性格分類が人々の間どのように受容されているのかということも心理学的探究のテーマのひとつとなっており、コミュニケーションのためにこの考え方を取り入れることで役に立っている部分を多くもっているので多くの人に受容され保持されている、との視点も提示される[69]。
誰しもに血液型はあるため、話題にしやすく、会話も弾みやすいという利点がある[69]。
血液型性格分類を信じる心理状態
心理学者の大村政男が、1984年(昭和59年)にNHK総合テレビジョンでも実施した実験では、気質と血液型の説明を別の血液型とで入れ替えても、90%前後の人々が自分に該当すると答えたという。血液型性格分類以外の様々な性格テストや占いにおいて生じる現象だという[70]。
大村政男の実験例では、学生(対象:四年制大学生・短期大学生279人)を対象にアンケートの形で「質問紙のA・B・AB・O型それぞれの欄に性格特性と呼ばれるもの(能見正比古のあげたもの)が列挙したものを学生に渡し、『あなたの実際の性格はどの血液型のものに当てはまるか?』と質問した」ところ、どの型の学生も「自分の実際の血液型の欄にある性格特性が一致している」と回答した者が多かったが、このとき意図的にOとA・BとABの血液型のラベルを入れ替えた(つまり「A型の性格特性があてはまる」と答えた人は実際にはO型が一致していると回答していた)にもかかわらず、このような結果が出ていた[71]。
大村はこういった分類法が当たっているように感じる理由として、以下のFBI効果を上げている[72][10]。こうした効果によって血液型性格分類が人々に受容されると、大村は考えている[69]。
- フリーサイズ効果(Freesize):「誰もが着られるフリーサイズのTシャツ」のように、各血液型の特徴として挙げられているものが誰にでも当てはまるものである汎用性がある[72]。「堅実な暮らしを望む」「マイペースな暮らしを望む」という特徴では、どの血液型でも70%、80%と多くの人が該当すると答えたということで「フリーサイズ効果」だとしている[10]。バーナム効果とも言う[69]。
- ラベリング効果(labeling):ラベリング効果(Labeling)、「張られたラベルを信じ込む」ように、「これがA型の特徴」といわれると実際に合ってなくてもそう思ってしまうという効果[72]。大村政男の2012年の書籍では「ブラックボックス効果」と表現されている[10]。
- インプリンティング効果(Imprinting):暗示性が強い人が当てはまってしまいやすい、「刷り込み」のようにいったん信じ込むとその印象がずっと残る。
サトウタツヤによれば、複雑に考えることを避けるために「権威に従う」という心理(※ハロー効果)が、背景にあるという[69]。
血液型による差別
血液型性格分類が普及すると、血液型が人事の採用や配置の決め手に使われるようになり、差別だと問題提起されるようになった。
2004年(平成16年)には、放送倫理・番組向上機構が『非科学的であり差別につながりかねない』とし、放送の自粛を求めた[28]。採用試験の応募用紙に血液型の記入欄があったため、改善するよう労働局から指導された企業もある[26]。厚生労働省熊本労働局は「血液型は、職務能力や適性とは全く関係ない」と呼びかけている[26][73]。
血液型のように本人によって選択できない遺伝情報に基づいて、人を否定的に捉えた場合には差別行為となるという意見がある[74]。このような「血液型差別」は人種差別と同様の構図を持っており、実際に欧米における血液型性格分類は人種差別を肯定するために研究されてきた歴史があるという意見がある(#西洋における類型学)[74]。
大学生を中心とした6660人での調査では、血液型によって馬鹿にされた差別されたといった不快な経験をしたという自己評価の平均値については、AB型よりもB型で最多である[75]。
2010年に約100名の大学生を対象とし、採用担当者の役、あるいは恋人選択の役を振る舞ってもらい、与えられたプロフィールを見たとき、主に重要となったのは容姿や大学名、趣味となっていて血液型の重要度は10%以下であり、重要性は低いが就職ではA型・O型はA型を好み、B型・AB型はこれを嫌い大きく異なった[76]。
ブラッドタイプ・ハラスメント
心理学者のサトウタツヤは、血液型を理由にして行われる嫌がらせのことを、ブラッドタイプ・ハラスメントと呼んだ。
注釈
- 主な手法は、ABO式血液型別の質問項目(自省表)をそれぞれ10項目程度ずつ作成し、質問紙法により血液型との一致率を測定するものである。古川の発表によると、自省表は80%以上の一致率があるとされた。これとは別に、職業別にABO式血液型を調査して、職業特性と比較したりしたが、被験者の数は30人未満であり、現在の統計学からすると有効なデータではない。なお、当時の心理学会には古川を否定する論文は以下の2件であり、実質的に否定したのは日本法医学会である。
- 岩井勝二郎(京都帝国大学心理学教室)「血液型と気質-京都に於ける心理学関係者に於て試みられたる一調査の報告」『応用心理研究』第1巻第2号、1932年、16-21頁。
- 守安直孝(岡山県庄内小学校訓導)「血液型と個性標徴との関係」『応用心理研究』第1巻第3号、1932年、63-78頁。
- 肯定的な書籍も出されている。著名なものが下記能見正比古「新血液型人間学」(1983)「血液型おしゃべり倶楽部」(1990)あるいは鈴木芳正「血液型性格学」(1974)であるが、両著者とも専門性の学位の公開はない。大村政男「血液型と性格」(1990)は、能見の調査で挙げられた数値については、どこからも公表されておらず、あいまいな点が多いと批判する。研究者の中では山崎・飯山・江田・佐藤・清水「血液型と性格の関係」(足利短期大学研究紀要、2004)が比較的好意的に取り上げ「現代は情報が氾濫している一方、人間関係がますます希薄になっていることから、性、年齢を問わず、血液型というたった4種類で1個の人間の性格や行動パターンを表現できる指標はまたとないものだと考えられる」として、血液型と性格の関連に肯定的な立場から検証している。(参考)久保・三宅「血液型と性格の関連についての調査的研究」(吉備国際大学研究紀要、2011)P.98
- Yahoo!リサーチ(2008年12月25日発表)「「血液型本」に関する調査」 - 「自分の性格が適切に表現されており、共感・納得する」(66%)、「自分の性格を客観的に把握できたり、新たな発見がある」(59%)、「個性などを表現する手段や方法のひとつだと思う」(50%)、「友人付き合いで役立つ」(48%)、「恋愛関係で役立つ」(47%)
上瀬由美子、松井豊「血液型ステレオタイプ変容の形―ステレオタイプ変容モデルの検証」『社会心理学研究』第11巻第3号、1996年、170-179頁。 - 「血液型性格判断は楽しい」(83.6%)、「血液型性格判断が好き」(61.5%)
山下玲子 (2008)「血液型性格判断はなぜすたれないのか」日本社会心理学会第48回大会発表論文集 - 自身が参加した血液型性格分類の話題を「面白い、続けたい」と思ったことがある人は51.3%(全体の261人中134人)。また、調査対象である大学生は「相応の知識を持ってよく話題にし」「血液型と性格の間には多少の関係があり」「自身の血液型についてもある程度当てはまる」という結果が示されている。