血清蛋白分画
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血清蛋白は血清のおよそ7-8 %程度を占め、100種類以上の蛋白から構成されている。これらの蛋白は両性の電解質であるのでアルカリ性の溶液中では陰性に荷電しており、電圧をかけると、その荷電と反対の電極、すなわち陽極に向けて移動する(電気泳動)。蛋白種により分子量(大きいほうが移動しにくい)や荷電(大きいほうが移動しやすい)などが異なるため、易動度に差が生じ、その結果、5つないし6つの群に分画される。分画は、陽極側から、アルブミン、α1-グロブリン、α2-グロブリン、β-グロブリン(β1-、β2-に分けられることもある)、γ-グロブリン、とよばれる。 各分画の構成比は、各種の炎症、蛋白の体外への漏出、蛋白の欠損、などの病態により特異的な変動を示す。また、泳動パターン(波形)から多発性骨髄腫などで出現する異常なM蛋白 (単クローン性蛋白)[※ 1]の存在を知ることもできる[1][2]。
血清蛋白分画の検査法としては、セルロースアセテート膜を利用した電気泳動法がよく用いられていた。これは試料をセルロースアセテート膜に塗布し、電気泳動の後、蛋白の固定と染色を行い、光学的に濃度を読み取る(デンシトメトリー)ものである[1]。近年は、分解能が高く高速なキャピラリー電気泳動法が主流となってきている[3]。キャピラリー電気泳動法は、ゲルなどの担体を用いず、液体を充填したキャピラリー(通常、シリカ(石英)で作られた毛細管)に電圧をかけて蛋白を分画し、紫外線吸光度により蛋白量を計測するものである[4][5]。
検査の目的・適応
血清蛋白分画は、単一の検査項目で、さまざまな病態を反映した血清蛋白の各分画の比率を得られる他、泳動パターンから多発性骨髄腫などでみられるM蛋白の存在を検出することができる[6][7]。また、比較的安価な検査でもある。 血清蛋白の各分画の変動は、急性炎症、慢性炎症、蛋白漏出、各種の血清蛋白の欠損症、液性免疫不全など、病態により特異的なパターンを示すことから、蛋白分画は病態像を把握するためのスクリーニング検査として広く用いられてきた。
なお、血清蛋白分画は、M蛋白や一部の蛋白欠損症を除き疾患特異的ではなく、病態全般を把握する検査である。近年は、アルブミン、免疫グロブリン、補体成分、炎症マーカー、など各種の血清蛋白の個別の検査が発達してきていること、および、血清蛋白の泳動パターンの解釈に熟練を要すること[※ 2] 、などから、蛋白分画の検査頻度は減少の傾向にあり、主に、M蛋白のスクリーニングの手段として用いられることが多い[※ 3]とされる[8]。 [6][3]
基準値
基準値は検査法や施設により異なる。 また、セルロースアセテート膜電気泳動による血清蛋白分画では5分画結果(アルブミン、α1-グロブリン、α2-グロブリン、β-グロブリン、γ-グロブリン)が報告されるのが通常であるが、 近年普及してきたキャピラリー電気泳動では、さらにβ-グロブリンをβ1-グロブリンとβ2-グロブリンにわけた6分画結果が報告されることが多い。
| アルブミン(ALB) | 60.5 ー 73.2 % |
|---|---|
| α1-グロブリン | 1.7 ー 2.9 % |
| α2-グロブリン | 5.3 ー 8.8 % |
| β-グロブリン | 6.4 ー 10.4 % |
| γ-グロブリン | 11 ー 21.1 % |
| アルブミン(ALB) | 55.8 ー 66.1 % |
|---|---|
| α1-グロブリン | 2.9 ー 4.9 % |
| α2-グロブリン | 7.1 ー 11.8 % |
| β1-グロブリン | 4.7 ー 7.2 % |
| β2-グロブリン | 3.2 ー 6.5 % |
| γ-グロブリン | 11.1 ー 18.8 % |
結果の解釈

各分画の個々の増減のみならず、分画同士の変動のパターンや泳動像をあわせて解釈する必要がある。 [11]
各分画の増減
以下、血清蛋白分画の各分画の成分および増減する病態の概要を述べる。[1][12][7][2]
アルブミン
アルブミンは健常人の血清蛋白のおよそ半分を占める。
アルブミンが単独で増加する病態はしられていない。免疫不全においては免疫グロブリンの減少によりアルブミンの相対的な比率が増えることがある。
アルブミンの減少する病態としては、以下があげられる。
- 体外への喪失(ネフローゼ症候群、蛋白漏出性胃腸症、熱傷、出血、など)
- 合成低下(栄養失調、吸収不良、肝硬変など肝不全)
- 異化(分解)の亢進と合成の抑制(悪性腫瘍、炎症性疾患)
- 無アルブミン血症(まれ)
α1-グロブリン
α1-グロブリンの主要な成分としては、α1-アンチトリプシン、α1-酸性糖蛋白(いずれも急性相蛋白)があげられる。α1リポタンパク(HDLに相当)もこの分画に含まれる。
α1-グロブリンの増加する病態としては、炎症性疾患(膠原病、悪性腫瘍を含む)があげられる。
α1-グロブリンの減少する病態としては、慢性肝障害・肝硬変による合成低下、ネフローゼ症候群による体外喪失、先天的なα1-アンチトリプシン欠乏症などがある。
α2-グロブリン
α2-グロブリンの主要な成分としては、α2-マクログロブリン、ハプトグロビン、セルロプラスミン(いずれも急性相蛋白)などがあげられる。
α2-グロブリンの増加する病態としては、急性期蛋白の合成が亢進する各種の炎症性疾患(膠原病、悪性腫瘍を含む)がある。 ネフローゼ症候群においては、アルブミンなど分子量の小さい蛋白が失われ、蛋白合成が全般に亢進するため、分子量の大きいα2-マクログロブリンの増加が目立つ。
α2-グロブリンの減少する病態としては、慢性肝障害による蛋白合成低下、溶血性貧血 (ハプトグロビンがヘモグロビンと結合して失われるため)、などが知られている。
β-グロブリン
β-グロブリンの主要成分はβリポタンパク(LDL、VLDLに相当)とトランスフェリンである[11]。 セルロースアセテート膜電気泳動ではβ-グロブリンは一つのピークとなるが、 キャピラリー電気泳動ではβ1、β2の分画に分かれる。 β1分画の主要成分はトランスフェリン、ヘモペキシン、β2分画は主に補体第3成分(C3)である。
β-グロブリンの増加する病態としては、鉄欠乏性貧血(トランスフェリン増加のため)、脂質異常症(高脂血症、β-リポ蛋白増加のため)、ネフローゼ症候群、などがある。
β-グロブリンの減少する病態としては、全身性エリテマトーデスなど免疫複合体で補体が消費される病態(C3の低下)、肝疾患による合成低下、炎症性疾患・悪性腫瘍、まれに無トランスフェリン血症がある。
γ-グロブリン
γ-グロブリンは、主に免疫グロブリンからなり、その大部分はIgGである。 (IgAは主にβ-分画とγ-分画の間に分布する。)
多クローン性のγ-グロブリン増加がみられる疾患としては、肝硬変、膠原病、悪性腫瘍、など慢性炎症性疾患があげられる。多発性骨髄腫などBリンパ球系統の細胞の単クローン性増殖がみられる疾患ではM蛋白増加によりγ-グロブリン増加がみられる。 なお、IgAの増加する病態(肝硬変など)やIgG4の増加する病態(IgG4関連疾患)では、γ-グロブリン増加に加え、β-分画とγ-分画の間の谷が不明瞭になることがあり、β-γ ブリッジングという。
γ-グロブリンの減少する病態としては、免疫不全症でみられることがある無〜低ガンマグロブリン血症、ネフローゼや蛋白漏出性胃腸症などによる体外喪失、などがあげられる。 [6][13]
分画・泳動像のパターン
血清蛋白分画は、個々の分画の量の増減のみならず、増減のパターンにより病態を解釈することができる。 血清蛋白分画の検査結果報告書には、ソフトウェアにより自動分類したパターンが表記されることが多いが、微量のM蛋白などは見落とされることがあるため、 結果を解釈する場合にはパターンの視認も重要とされる。 以下、代表的なパターンをあげる[6][1][12][7][2]。
- 急性炎症型(高α型)
- 炎症に反応して、α1-アンチトリプシン(α1-分画)、ハプトグロビン(α2-分画)などの急性相蛋白が増加することによる。
- 慢性炎症型(多クローン性高γ・高α型)
- 炎症による急性相蛋白(α-分画)の増加に加え、免疫グロブリン(γ-分画)の増加がみられる。また、アルブミンやβ-分画は減少する。
- 慢性肝障害型/肝硬変型(多クローン性高γ・低α型)
- 慢性炎症により免疫グロブリン(γ-分画)が増加しているが、肝臓の蛋白合成能が低下してきているため、アルブミンやα-分画などは減少している。肝硬変では、IgAの増加のためにβ-分画とγ-分画の間がつながっているようにみえることがある(β-γ ブリッジング)。
- M蛋白型(単一クローン性高γ型)
- 通常、γ-分画にM蛋白[※ 1]による幅の狭い鋭いピークが認められる(β-分画やα2-分画にみられることもある)。M蛋白以外の免疫グロブリン(γ-分画)の減少を伴う場合がある。M蛋白の存在は、多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症、などのBリンパ球系の腫瘍性疾患の可能性を示唆する[※ 4]
- ネフローゼ型(低γ・高α2・低アルブミン(・高β)型)
- 腎糸球体から低分子量の蛋白が選択的に尿に漏出するため、分子量の低いアルブミンや免疫グロブリンは尿に失われて減少する一方、体内の蛋白合成が全般に亢進するため、尿に失われにくい高分子量の蛋白(α2-分画)の増加がみられる。
- 栄養欠乏型(低アルブミン・低β型)
- アルブミンの著しい減少とβ-分画の低下であり、著しい蛋白摂取不足、吸収不良症候群など、蛋白の欠乏状態でみられる。
- 蛋白漏出型(非選択性蛋白漏出型)
- 蛋白漏出型胃腸症、大出血など、非選択性に蛋白が体外に漏出する病態でみられる。電気泳動パターンは栄養欠乏型と区別困難である。
- 蛋白欠乏型
- 特定の蛋白の欠損症や著しい低下により、特定の分画が低下がみられることがある。例をあげると、無アルブミン血症(アルブミン分画↓↓)、α1-アンチトリプシン欠乏症(α1-グロブリン分画↓)、無トランスフェリン血症(β-グロブリン分画↓)、無〜低ガンマグロブリン血症(γ-グロブリン分画↓)、などがある。
関連する検査
歴史
スウェーデンの生化学者、ウィルヘルム・ティセリウス(Arne Wilhelm Kaurin Tiselius、1902-1971)は1930年代に電気泳動法 の改良を進め、1937年には血清蛋白の分画装置を発表した。 また、血清蛋白がアルブミンと3つのグロブリンに分画されることを見出し、後者をα-グロブリン、β-グロブリン、γ-グロブリンと命名した。 ティセリウスはこの業績などにより1948年のノーベル化学賞を受賞した[18][19]。
ティセリウスの電気泳動装置は水溶液のみで担体をもちいないものであり、扱いが煩雑であった。[20] 第二次大戦後、膜やゲルなどの担体(支持体)をもちいる電気泳動法が発達し広く用いられるようになった。[18] 臨床検査で広く使われるセルロースアセテート膜電気泳動法は、1957年に、英国のコーン(Joachim Kohn、1912-1987)が発表した。 1978年には、セルロースアセテート膜電気泳動法を全自動化する血清蛋白分画装置が日本で開発され、広く普及した[21][20]。
キャピラリー電気泳動法は、1981年にジョルゲンソン(James W. Jorgenson)らによって発表された。高速で分解能が高いことにより、近年は、セルロースアセテート膜電気泳動法にかわる血清蛋白分画法として普及してきている[22][5][18]。
