山峡の章
松本清張の小説
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あらすじ
朝川昌子は阿蘇から耶馬渓をめぐる九州旅行の途中、霧の山中で、官公庁に勤める堀沢英夫とその友人の吉木に出会う。堀沢は昌子に交際を申し出、昌子はやがて堀沢と結婚する。
しかし新婚旅行の時から、エリート意識を感じさせる堀沢の性格の中に、昌子は違和感をおぼえ始める。昌子の妹・朝川伶子は、堀沢さんはお役人向きの人ね、と言う。耶馬渓以来、堀沢は妙に吉木の話を避けるようになった。そんなある日、昌子のアパートで女性の自殺事件が発生、堀沢はアパートを引っ越すと急に言い出す。
活発な伶子は、会社社長の大友了介や雑誌記者の小野喜久子を昌子に紹介するが、堀沢は小野の名刺を昌子から取り上げる。絶えず夫との間に冷たい風を感じる中、今度は不思議な盗難事件に遭うものの、なぜか堀沢は警察に届け出るのを嫌がる。
そんな中、結婚生活は不意に終焉を迎える。堀沢と伶子が失踪、二人の遺体が宮城県の作並温泉付近で発見された。情死行を報じるマスコミ。二人の不倫関係を信じられない昌子は、真実を掴もうと究明に乗り出す。
主な登場人物
- 原作における設定を記述。
- 朝川昌子
- 女子大を卒業して一年ほどの若い主人公。
- 堀沢英夫
- 九州旅行中の昌子が出会った青年。官庁に勤務。
- 吉木
- 堀沢英夫と同行していた青年。新聞記者。
- 朝川怜子
- 昌子の妹で大学生。昌子とは対照的に、明るく行動的な性格。
- 大友了介
- 怜子が最近知り合った会社社長。
- 小野喜久子
- 婦人雑誌の家庭欄を担当する嘱託の記者。
- 竹村
- 堀沢の勤める経済企画庁の上司で課長。
- 野地
- 竹村課長に付き従っている課長補佐。
- 森本
- 昌子のアパートに闖入してきたB新聞の記者。
- お浜
- 都内の料亭「滝田」の女中。四十近いシングルマザー。
エピソード

- 小説冒頭、阿蘇の麓の中腹の温泉近くで、昌子が後ろから牛に尾けてこられる場面があるが、清張は1956年に発表したエッセイで、阿蘇中腹の湯の谷温泉近くでの経験について「阿蘇の温泉群は諸所にあるが、私の好みからいえば赤水駅から山に登る中腹の湯ノ谷が、一番阿蘇らしい感じがする」「春の雨の晩、私が宿から出て草原の山径を歩いていると、暗がりから放牧の牛が五、六頭出てきてあとをつけられ、気味の悪かったことを覚えている。が、こういう情趣は他の温泉にはない」と記している[1]。なお昌子は宿泊していないが「近代的な大きなホテル」は、当時の湯の谷の著名ホテルであった阿蘇観光ホテルを指す。
- 深耶馬渓の宿は短編「青春の彷徨」にも登場するが、本作では「老人夫婦だけでやっていた」設定。深耶馬渓から、昌子が堀沢・吉木と断崖の間を登って頂上の広い高原の集落まで歩く場面があるが、清張は1958年に発表したエッセイで、「私は深耶馬渓から巌を匍い上って、この(森町の)街道を見に行ったが、まことにうらぶれた村落であった。しかし、六百メートルばかりの高原だから、久住山塊が手にとるように見えて眺望は大へんよい。世に知れ渡った渓谷の美もよいが、その上にある忘れられたような古い村を見にゆくことも、別な興趣がある。耶馬渓に遊ぶ人にすすめたいくらいだ」と記している[2]。
- 文芸評論家の権田萬治は、「推理小説的なストーリーが展開するまでの昌子の心理の陰影を、松本清張は、とくに力をこめて描いているように私には思われる」と評している。また、本作15節以降で描かれる諜報部員ボロゾフのアメリカ逃亡事件に類似する、現実の事件としてラストヴォロフ事件を挙げている[3]。
関連項目
テレビドラマ
1970年版
ドラマタイトル「霧氷の影」。1970年12月4日から1970年12月25日まで、フジテレビ系列の「おんなの劇場」枠(21:30-22:26)にて全4回の連続ドラマとして放映。同じ松本清張による『中央流沙』の設定を加えたもの。
- キャスト
- スタッフ
- 脚本:清水邦夫
- 監督:宇留田俊夫
1972年版
1972年11月14日から1972年12月26日まで、日本テレビ系列の「火曜日の女シリーズ」枠(22:00-22:55)にて全7回の連続ドラマとして放映。
- キャスト
- 堀沢昌子:大空眞弓
- 堀沢英夫:久富惟晴
- 吉木和夫:藤竜也
- 竹村課長:加藤和夫
- 大友良介:観世栄夫
- 朝川伶子:田島令子
- 昌子の母:幾野道子
- 小野喜久子:田村奈巳
- 中山道子:池田昌子
- 森本:石山雄大
- 中山道子の弟:剛達人
- ナレーター:矢島正明
- スタッフ
1981年版
「松本清張の山峡の章」。1981年10月10日21:02-22:51、テレビ朝日系列の「土曜ワイド劇場」枠で放映。サブタイトル「みちのく偽装心中」。視聴率は28.0%を記録し(ビデオリサーチ調べ、関東地区)[4]、松本清張原作テレビドラマ最高視聴率作品の一つとなっている。建設省の汚職を事件の背景としている。
- キャスト
- 朝川昌子:音無美紀子
- 堀沢英夫:目黒祐樹
- 朝川怜子:風吹ジュン
- 小野喜久子:金沢碧
- 大友了介:戸浦六宏
- 吉木恒平:小野寺昭
- 白石奈緒美、三條美紀、高城淳一、草薙幸二郎、近藤準、石井富子、信実一徳、池永寿見子、岡部健、喜田晋平、加茂正、小森英明、羽生昭彦、高田ひとみ、城戸卓、高木信夫、沖秀一、志馬琢哉
- スタッフ
| テレビ朝日系列 土曜ワイド劇場 | ||
|---|---|---|
| 前番組 | 番組名 | 次番組 |
白い乳房の美女
江戸川乱歩の地獄の道化師 (1981.10.3) |
松本清張の山峡の章
みちのく偽装心中 (1981.10.10) |
|
2010年版
「松本清張ドラマスペシャル『山峡の章』」。2010年1月29日21:00-22:52、フジテレビ系列の「金曜プレステージ」枠で放映。長野県を舞台に設定、軽井沢でロケが行われた。事件の背景に麻薬密輸をおく点は原作同様[5]。
- キャスト
- 朝川昌子(31):菊川怜
- 信用金庫で働く普通のOL。
- 吉木信弘(34):岡田義徳
- ジャーナリスト。堀沢の大学の同級生。
- 堀沢英夫(34):平岳大
- 外務省アジア開発協力課勤務のキャリア官僚。
- 川崎一也(35):松田賢二
- 警視庁の刑事。
- 小野喜久子(32):中込佐知子
- 怜子の知人で英会話教室の経営者。
- 野地慶介(34):菊池均也
- 堀沢英夫の同僚。
- 朝川清(60):藤田宗久
- 昌子の父で教員。
- 徳永絵美子(31):堀まゆみ
- レポーター。
- 渚(31):永池南津子
- クラブ「TAKITA」のホステス。
- 朝川伶子(26):星野真里
- 昌子の5つ年下の妹。
- 朝川亮子(56):宮崎美子
- 昌子の母で専業主婦。
- 竹村忠則(48):勝村政信
- 堀沢英夫の上司。
- 大友了介:森永健司
- 安田刑事:佐伯新
- 浦本刑事:島津健太郎
- 蓬萊照子
- 朱源実
- 西山宗佑
- 久松龍一
- 高橋真子
- 池浪玄八
- 吉田祐健
- 高仁和絵
- 夏秋佳代子
- 建部和美
- 中脇樹人
- 吉川勝雄
- 菊間秋彦
- 原田好美:時任亜弓
- 山口美友紀
- マックス・フォン・シュラー
他
- スタッフ