かに座55番星
かに座の連星系
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かに座55番星(55 Cancri、55 Cnc、かに座ρ(ロー)1星とも)とは、太陽系から約40光年の距離にあるかに座の連星系である。太陽よりやや小型のK型主系列星もしくは準巨星である主星(かに座55番星A)と赤色矮星の伴星(かに座55番星B)から構成されており、両者の恒星は 1,000 au 以上離れている。主星であるかに座55番星Aの周りには5個、伴星であるかに座55番星Bの周りには2個の太陽系外惑星が周囲を公転していることが知られている。
| かに座55番星A 55 Cancri A | ||
|---|---|---|
太陽系とかに座55番星系の比較。 | ||
| 仮符号・別名 | 55 Cnc A | |
| 星座 | かに座 | |
| 見かけの等級 (mv) | 5.95 | |
| 分類 | G型主系列星 | |
| 位置 元期:J2000.0[1] | ||
| 赤経 (RA, α) | 08h 52m 35.8111044043s[1] | |
| 赤緯 (Dec, δ) | +28h 19m 50.954994470s[1] | |
| 赤方偏移 | 0.000091[1] | |
| 視線速度 (Rv) | 27.394 km/s[1] | |
| 固有運動 (μ) | 赤経:-485.681 ミリ秒/年[1] 赤緯: -233.517 ミリ秒/年[1] | |
| 年周視差 (π) | 79.4482 ± 0.0429ミリ秒[1] (誤差0.1%) | |
| 距離 | 41.05 ± 0.02 光年[注 1] (12.587 ± 0.007 パーセク[注 1]) | |
| 絶対等級 (MV) | 5.49 ± 0.12 | |
| 軌道要素と性質 | ||
| 惑星の数 | 5 (+1?) | |
| 物理的性質 | ||
| 半径 | 0.980 ± 0.015 R☉[2] | |
| 質量 | 0.905 ± 0.015 M☉[3] | |
| 表面重力 (log g) | 4.41 ± 0.02[2] | |
| 自転周期 | 38.8 ± 0.05 日[4] | |
| スペクトル分類 | K0IV-V[1] | |
| 光度 | 0.617 ± 0.009 L☉[2] | |
| 有効温度 (Teff) | 5,172 ± 18 K[4] | |
| 色指数 (B-V) | 0.87 ± 0.05 | |
| 色指数 (R-I) | 0.4 | |
| 金属量[Fe/H] | 0.32 ± 0.02[2] | |
| 年齢 | 86 ± 10 億年[4] | |
| 他のカタログでの名称 | ||
| Copernicus かに座ρ(ロー)1星 55 Cnc A BD+28°1660A グリーゼ324A HD 75732 A HIP 43587 HR 3522 TYC 1949-2012-1 |
||
| ■Template (■ノート ■解説) ■Project | ||
| かに座55番星B 55 Cancri B | ||
|---|---|---|
| 仮符号・別名 | 55 Cnc B | |
| 星座 | かに座 | |
| 見かけの等級 (mv) | 13.15 | |
| 分類 | 赤色矮星 | |
| 位置 元期:J2000.0[5] | ||
| 赤経 (RA, α) | 08h 52m 40.8627422125s[5] | |
| 赤緯 (Dec, δ) | +28h 18m 58.821345244s[5] | |
| 赤方偏移 | 0.000091[5] | |
| 視線速度 (Rv) | 27.394 km/s[5] | |
| 固有運動 (μ) | 赤経: -481.176 ミリ秒/年[5] 赤緯: -244.544 ミリ秒/年[5] | |
| 年周視差 (π) | 79.6560 ± 0.0475ミリ秒[5] (誤差0.1%) | |
| 距離 | 40.95 ± 0.02 光年[注 1] (12.554 ± 0.007 パーセク[注 1]) | |
| 絶対等級 (MV) | 12.69 ± 0.07 | |
| 軌道要素と性質 | ||
| 軌道長半径 (a) | 1,260+830 −460 au[6] | |
| 離心率 (e) | 0.55+0.32 −0.37[6] | |
| 軌道傾斜角 (i) | 67.7+7.0 −24.0°[6] | |
| 近点引数 (ω) | 183+138 −134°[6] | |
| 昇交点黄経 (Ω) | 177+153 −42°[6] | |
| 惑星の数 | 2 | |
| 物理的性質 | ||
| 半径 | 0.268 ± 0.009 R☉[7] | |
| 質量 | 0.264 ± 0.017 M☉[7] | |
| 自転周期 | 92 ± 5 日[8] | |
| スペクトル分類 | M4.5V[9] | |
| 光度 | 0.00788 ± 0.0013 L☉[7] | |
| 有効温度 (Teff) | 3,320 ± 51 K[7] | |
| 色指数 (B-V) | 1.65 | |
| 色指数 (R-I) | 1.6 | |
| 金属量[Fe/H] | 0.15 ± 0.16[7] | |
| 他のカタログでの名称 | ||
| 55 Cnc B BD+28°1660B グリーゼ324B HD 75732 B |
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| ■Template (■ノート ■解説) ■Project | ||
かに座55番星はNASAのTerrestrial Planet Finderの100の優先観測目標のうち63番目に選ばれていたが[10]、この計画は中止された。
距離と明るさ
恒星
かに座55番星AはK型主系列星、もしくは主系列星の段階を終えて巨星へ進化する過程である準巨星分類されており、スペクトル分類において K0IV-V 型となる[1]。半径・質量・表面温度はいずれも太陽よりやや小さく、光度は6-7割である。変光は全く無いか、あってもごく小さいと考えられ、彩層の活動も落ち着いている[12]。
かに座55番星Aには太陽より多くの重元素(ヘリウムより原子番号の大きい元素)が含まれており、例えば鉄の比率は太陽の1.86倍に達している。そのため、SMR (Super Metal Rich) という金属元素の豊富な恒星に分類されている[12]。金属量が多い星の進化には不確かな部分が多く、質量や年齢の推定は難しいが、彩層の活動に着目した研究ではかに座55番星の年齢を55億歳と見積もっている[13]。
SMRの金属量を説明する仮説として原始惑星系円盤から重元素が恒星の大気に降り積もったというものがある。このメカニズムが働くと恒星表面が重元素で汚染され、「見かけ上は」多くの重元素を含む星になる。恒星表面の対流層が深部にまで及んでいなければ、表面の金属量のみが高いまま維持される可能性がある[14]。
サブミリ波による観測では、かに座55番星Aの周りにダスト円盤は見つかっていない。100天文単位以内の領域からの放射は、波長 850 μm で 850mJy 未満と測定されており、恒星の周りに存在するダストの総量は地球質量の1万分の1以下と考えられている。ただし、小惑星帯やエッジワース・カイパーベルトのような小天体群が存在する可能性は皆無ではない[15]。
かに座55番星Bは太陽より小さく暗い赤色矮星で、かに座55番星Aから 1,000 au 以上離れた場所にある[6][16]。主星からの距離は大きいが、固有運動を共有しているため、重力によって束縛された伴星と推測されている[12]。かに座55番星B自体が2つの星から構成される連星系であることも示唆されているが、確実なことは分かっていない[17]。1918年にアドリアン・ヴァン・マーネンによって初めてかに座55番星Aと重力で結合されている伴星であると判明した[18]。
惑星系
かに座55番星Aの惑星

1997年、かに座55番星Aの近くを公転するホットジュピター(高温の木星型惑星)であるかに座55番星bが発見された。かに座55番星Bとの混同を避けるためにかに座55番星Abとも呼ばれている(以下、本項ではかに座55番星Aの惑星名には「A」を付した名称を用いる)。この時点では視線速度の変動には単一の惑星では説明不能なずれがあり、外部の軌道に別の惑星が存在する可能性があった。かに座55番星bは惑星の重力が主星へ作用させる視線速度の周期的変化を計測する方法(ドップラー分光法)によって発見され、公転周期は14.7日、下限質量は木星の 78% と計算された[19]。
1998年、かに座55番星Aの周囲にダスト円盤が存在することが報告された。円盤は太陽系からかに座55番星Aを見た視線から65度傾いて存在し、半径が約 40 au という太陽系のエッジワース・カイパーベルトに相当するサイズを持っていた[20]。しかしその後行われた観測では円盤が再確認されることはなく、背景の放射を誤認したものと考えられるようになった[21]。
惑星Abの発見以降もかに座55番星Aの観測は続けられていた。2002年には軌道長半径が約 5 au の新たな惑星の発見が報告され、かに座55番星Adの名前が与えられた。この惑星の影響を取り除いたところ、かに座55番星Aの視線速度には依然として約43日周期の変動が残っており、第三の惑星の存在が示唆された。ただし43日という周期はかに座55番星A自体の自転周期に近く、2002年の時点では恒星の活動に由来している可能性も除外できなかった。43日周期で公転する存在の不確かな惑星は、かに座55番星Acと命名された[12]。
2004年、かに座55番星Abの内側に約2.8日の周期で公転するとされた惑星かに座55番星Aeが発見された。この惑星は海王星と同程度の質量を持ち、巨大な岩石惑星か小さなガス惑星かのいずれかだと考えられた。同時にこの発見に繋がった観測結果を使用して、かねてから存在が疑われていたかに座55番星cの実在が確認された[22]。また、ハッブル宇宙望遠鏡によるアストロメトリ観測で、最も外側の惑星Adの軌道平面は地球からかに座55番星Aを見た視線から37度ずれたものであることが明らかになった。その後、2011年になってかに座55番星Aeが主星であるかに座55番星Aの手前を通過(トランジット)することが判明し、これにより惑星Aeは地球の約1.8倍の大きさを持つスーパーアースであると考えられ、また、実際の公転周期が約0.74日(約17.7時間)しかないということも判明した[23]。

2005年、観測データを再分析したアメリカのジャック・ウィズダムは、かに座55番星Aの惑星系について疑問を示した[24]。彼の解析によると、2.8日周期の惑星Aeの代わりに261日周期で公転している別の海王星サイズの惑星が存在している可能性があった。その後の2007年、公転周期が260日、質量が土星の半分のかに座55番星Afが存在していることが確かめられ、彼の予測は部分的に的中した。しかし、かに座55番星Aeの存在は否定されなかった。かに座55番星Afはハビタブルゾーン内に公転軌道を持ち[25][26]、巨大な岩石質の衛星を持っていればそこに生命が存在できる可能性がある。軌道の安定性の問題から、これら5つの惑星はほぼ同一平面に沿った軌道を運動していると考えられている[26]。ドップラー分光法単独では惑星の下限質量しか求めることが出来ないが、ハッブル望遠鏡によるアストロメトリ観測が正しいとすると、惑星の真の質量は下限質量の1.25倍と計算される。
かに座55番星に第6あるいはそれ以上の惑星が存在するならば、惑星AfとAdの間、あるいはAdの外側の軌道が安定である。AfとAdの間に位置するケースでは、軌道長半径が 0.9 au から 3.8 au の範囲で、軌道離心率は 0.4 以下と考えられている。仮に未知の惑星(ここでは便宜的にAxと呼ぶ)の質量が地球の50倍以上とすると、軌道共鳴の観点から公転周期が Af:Ax=2:3、Ax:Ad=1:2、Ax:Ad=2:3 の整数比になる場合に惑星軌道の安定化が起きる。これらの周期は、具体的には公転周期が390日、2,600日、3,500日となる軌道に相当する。また、Adの外側に存在するケースでは軌道長半径が 10 au を超えると安定になる[27]。
2008年、かに座55番星の惑星系に、太陽系に適用されるティティウス・ボーデの法則のような数学的法則を見出そうという研究が行われた。既に発見されている惑星の配置に基づいて予測が行われ、惑星AfとAdの中間にあたる軌道長半径が約 2.0 au の軌道(公転周期1,130日)と、Adの外側の軌道長半径が約 15 au の軌道(公転周期62年)、それぞれを周回する惑星の存在が予言された[28]。しかし、2009年の時点でこれを裏付ける観測結果は存在しない。また、法則は外側にいくつでも惑星の存在を予測できてしまうため、既知の惑星より外側の惑星の予測には適さないという意見もある。さらに、ティティウス・ボーデの法則の科学的根拠は未発見で、単なる偶然の産物という可能性もあるため、これに類似した法則を実際の惑星系に適用することの是非には議論がある[29]。
2025年の研究では、かに座55番星Aの活動周期を考慮した結果、従来考えられていた惑星Adの存在を考慮せずに、Ab、Ac、Ae、Afの4個の惑星だけであっても観測された視線速度の変化を説明できると公表された[30]。そのため、かに座55番星Adの存在には疑義が呈され、明確に存在を確認するにはアストロメトリなどによる他の観測手法での追観測が必要とされたが、2026年にヒッパルコス衛星とガイア衛星によるアストロメトリ観測と視線速度変化観測の結果を組み合わせて解析した結果、惑星Adが確かに存在していることが改めて確認されたと報告され、すでに軌道傾斜角が知られている内側の惑星と軌道面はほぼ揃っていることも判明した[6]。
また、2025年に公表された別の研究では、かに座55番星Aに依然として約3,827日周期の視線速度の変化がみられたことに基づき、惑星AfとAdの間に6番目の惑星かに座55番星Agが存在している可能性が指摘されている。しかし、この視線速度の周期的変化はかに座55番星Aの恒星活動の周期と相関している場合もそうでない場合もあると考えられている。仮にAgが存在している場合、外側を公転している惑星Adとの重力による摂動の影響を大きく受ける可能性がある[8]。
かに座55番星にはアクティブSETIの一環としてメッセージが送られている。送信にはユーラシア大陸最大のエウパトリア惑星レーダーが使用された。コズミック・コール2と名づけられた電波信号は2003年6月6日に地球を出発し、ヒッパルコス衛星による距離の測定が正しければ、2044年5月に目的地に到達する見込みである[31]。
| 名称 (恒星に近い順) |
質量 | 軌道長半径 (天文単位) |
公転周期 (日) |
軌道離心率 | 軌道傾斜角 | 半径 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| e (Janssen) | 7.74+0.37 −0.30[32] M⊕ |
0.01544 ± 0.00005[30] | 0.73654625 ± 1.5×10−7[33] | 0.01+0.02 −0.01[8] |
83.59+0.47 −0.44[34]° |
1.856+0.024 −0.025[34] R⊕ |
| b (Galileo)[30] | ≥ 0.8022 ± 0.0091 MJ | 0.117182280 ± 6.3×10−8 | 14.651535 ± 0.000006 | 0.0013 ± 0.0054 | 85.4 ± 2.5[35]° | — |
| c (Brahe)[30] | ≥0.1588 ± 0.0077 MJ | 0.245403 ± 0.000033 | 44.3989+0.0042 −0.0043 |
0.03 ± 0.10 | — | — |
| f (Harriot)[8] | ≥48.5 ± 2.8 M⊕ | 0.802 ± 0.014 | 260.58 ± 0.15 | 0.063+0.048 −0.053 |
— | — |
| g[8] (未確認) | ≥0.9 MJ | — | 3827.1+9.3 −6.4 |
0.35 ± 0.02 | — | — |
| d (Lipperhey)[6] | 3.23+0.29 −0.30 MJ |
5.58+0.24 −0.26 |
5084 ± 40 | 0.0153+0.0044 −0.0029 |
93.9+6.9 −6.7° |
— |
かに座55番星Bの惑星
2025年には、ドップラー分光法による視線速度変化の観測から、伴星であるかに座55番星Bの周囲にも2個の太陽系外惑星が公転していることが発見された。内側を公転しているかに座55番星Bbは、地球の少なくとも3.5倍の下限質量を持ち、公転周期は約6.8日で、主星からの軌道長半径は 0.044 au(約660万 km)となっている。かに座55番星Bからの日射量は地球の2.6倍で、大気による温室効果の影響を考慮しない際の表面温度である平衡温度は 330 ~ 370 K(57 ~ 97 ℃)と推定されている。そして外側を公転しているかに座55番星Bcは、地球の少なくとも5.3倍の下限質量を持ち、公転周期は約33.75日で、主星からの軌道長半径は 0.13 au(約1900万 km)で、この軌道はかに座55番星Bにおけるハビタブルゾーンの外縁付近に位置する。かに座55番星Bからの日射量は地球のわずか約 30% に過ぎず、表面の平衡温度は 190 ~ 210 K(-83 ~ -63 ℃)の範囲にあると推定されている。また、これらの2つの惑星は軌道が離れていることから、両者の間にさらに未知の惑星が存在する余地はあると考えられている[8]。
名称
2015年に国際天文学連合によって太陽系外惑星系の名前の公募と投票が行われた際にこの星系も対象となった。2015年12月15日、国際天文学連合より、オランダのアマチュア天文家団体連盟が提案した以下の名称が選定されたことが発表された[36]。
- 主星:Copernicus - ポーランドの天文学者ニコラウス・コペルニクスに由来。
- b:Galileo - イタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイに由来。
- c:Brahe - デンマークの天文学者ティコ・ブラーエに由来。
- d:Lipperhey - オランダのレンズ製作者で、実用的な望遠鏡の発明者の一人とされるハンス・リッペルハイに由来。
- e:Janssen - オランダの眼鏡職人で、顕微鏡や望遠鏡の発明者の一人とされるサハリアス・ヤンセンに由来。
- f:Harriot - イギリスの数学者で、初めて望遠鏡で観測した月面図を残したとされるトーマス・ハリオットに由来。