なりすまし

本来の自己を、実在または架空の他者や属性に偽り、金銭獲得・加害などを目的に行われる不正行為や犯罪行為 From Wikipedia, the free encyclopedia

なりすまし(成り済まし)とは、特定の他人または不特定の他者、他の性別のふりをする行為である[1][2][3][4][5][6]詐欺行為などと併用される[7]。極一部の例外を除き、犯罪行為である。なりすましの種類は多岐にわたり、問われるも幅が広い[1]

代表的なカテゴリとしては、次のようなものがある。

スパイ活動による「なりすまし(背乗り)」

諜報機関工作員が諜報活動や工作活動の一環として、身分を偽り他人になりすますことがある。実在する他人の身分・戸籍を乗っ取って、その人物に成りすます行為、工作員(スパイ)によって行われるものを「背乗り」と呼ぶ。

ソ連の情報機関が編み出した対外工作手法であり、対立国へ使われてきた。ソ連から取り入れた北朝鮮の情報機関の工作員は、日本人に似た東アジア人の容貌を持っているため、日本人拉致や日本国内での工作において、日本語を操って日本に背乗りを仕掛けてきた[8]

ソーシャル・エンジニアリングを用いたなりすまし

顧客や取引先、あるいは社員になりすまして、企業に接触・侵入し、機密を聞き出したり、盗んだりする行為。また、この際にあらかじめ、なりすます対象の情報(顧客や取引先情報の取得、社員証の盗みや偽造など)を元にその活動を、ソーシャル・エンジニアリングとも呼ばれている。

特殊詐欺におけるなりすまし

他者へのなりすましは、詐欺にしばしば用いられる。 例えば、「オレオレ詐欺」や「振り込め詐欺」などのような特殊詐欺は電話などの手段によって、親族や警察官、金融機関職員、自治体職員などになりすますことにより、現金を騙し取る詐欺行為である。

近年はプラットフォームでのなりすまし広告やアカウントといった、非対面型・オンライン経由でSNS型投資詐欺やロマンス詐欺の被害者が急増している[9][10]

なりすまし広告詐欺・SNS型投資詐欺・SNS型ロマンス詐欺

SNSロマンス詐欺の場となっている問題だけでなく、投資詐欺目当てのなりすまし広告(SNS型投資詐欺)と、甘い掲載前の審査・掲載後も通報後も削除せずに放置するプラットフォーム会社(プラットフォーマー)のあり方が問題になっている[9][7][11][12][10][13]。日本の警察庁によるとオンライン経由投資詐欺において、Instagram、Facebook、LINE[14]マッチングアプリの4ルートだけで、被害全体の4分の3を占めている[11][9]

主にSNS型投資詐欺はFacebookやInstagramに掲載された、基本的に著名人側が掲載したとなりすました広告を載せ、「儲かる話を教える」としてLINEグループに誘導し、詐欺を働き、金銭を奪う流れとなっている。特にプラットフォーマー側が通報しても削除等の対応しない、そもそも掲載前の審査不足なことから被害が拡大している[12]。プラットフォーマーの非短期的な詐欺広告放置行為は、民法上の不法行為にあたり、偽広告掲載側の目的が刑事罰に該当する犯罪行為であれば共犯となるだけでなく、共同正犯と厳罰となる可能性も指摘されている[10]。特定著名人の名前(例:森永卓郎氏ら)を無断で騙り、それを利用した投資詐欺による逮捕例[15]もある。

警察庁の調査によると2024年3月時点で投資詐欺接触に使われたオンラインルートを被害男女別にみると、男性の1292件のうち、フェイスブックが285件(22.1%)、ラインが273件(21.1%)、インスタグラムが231件(17.9%)であった。女性は979件のうち、インスタグラムが308件(31.5%)、ライン188件(19.2%)、マッチングアプリ138件(14.1%)の順であることが判明した[11][9]

Meta(Instagram・Facebook)

2023年8月末にZOZO創業者の前澤友作インスタグラムフェイスブックにおける何百個もなりすまし広告を放置し、抗議しても対応しないMeta社日本法人に痺れを切らし、本社にも内容証明を送ったことを明かしている[13][16][7][17]

2023年9月1日、三崎優太もSNSで「私は投資を教えるような広告やサービスを一切やってません。全部詐欺!」と、「三崎優太の秘密の投資教室」など自分の名前と写真を使った詐欺投資広告画像を貼付しながら「なりすまし広告もここまできた。悪質すぎる」と批判した。さらにこれらを放置しているMeta社の名前をあげ「Meta社にはいい加減対応して欲しい。多くの著名人が何度も呼びかけているが、まだ対応されない。」とプラットフォームにも責任があると訴えた[7]

この他にも投資家実業家著名人を中心に前澤や三崎と同様の被害に遭っていることが報じられており、SBIホールディングス会長の北尾吉孝経済アナリスト森永卓郎、経済ジャーナリストの荻原博子、実業家の堀江貴文お笑いタレント田村淳、元棋士桐谷広人などになりすました広告も確認されている[18][19][20]。2024年に入ると、投資とは無縁の人物にも被害が広がっており、テニス選手の大坂なおみジャーナリスト池上彰などになりすました広告も存在していると報じられている[21]

森永は生前[22]テレビ朝日のインタビュー取材に対して「実は私、SNS一切やっていない。ラジオ番組でも1年以上、私はSNSを一切やっていないので“投資勧誘は全部、詐欺です”と流し続けたんです」[23]と説明していた。

中には、「森永のアシスタント」と名乗る人物を騙る者からの返答があり[24]、そのアシスタントから森永に無断で偽造された免許証(代官山在住とされる)を用意してアップロードしていたり、その無断でなりすました著名人そのものの肉声をコンピューター合成した、いわゆる「フェイクボイス」[25]なる手口を利用した詐欺行為も散見され、特に本人は一切SNSをやっていないとしている池上や森永(先述)もこのフェイクボイスの無断悪用被害を受けている[26]

企業も例外では無く、みずほ証券によると、同社名義による投資に関するなりすまし広告が最大で300サイトに表示され、実際に被害にあったと訴える事例も数件報告されている[18]

2024年4月、自由民主党はMeta社に現行の対応を続けるならば、日本国内での広告停止処分すると警告した[27]

2025年に入ると、実在の都道府県警察や著名な神社放送局アナウンサーのアカウントになりすまして投資詐欺などを行う事例も発生しており、関係者がこれらのアカウントとは無関係である旨を呼び掛ける事態となった[28][29]

LINE

LINEはなりすまし広告だけでなく[30]、主になりすまし広告で「集客した被害者ら」を詐欺師らが「投資グループ」へ送る誘導先になっている。詐欺師らで構成されたグループ内で興味を示した被害者に個別ラインで搾取してく仕組みが組まれている[31][32]。警察庁によるもSNS型広告詐欺・SNS型ロマンス詐欺で「集客」した被害者ら基本的にLINEに誘導されており、約9割の被害者の被害時の連絡ツール(欺罔が行われた主たる通信手段)となっている。そして、86%の被害者が銀行振込、約1割が暗号通貨で金銭を振込させられている[9]。他にも「送金詐欺」「情報商材詐欺」の場に悪用されている[33]

三重県津市の70代の男性が2023年10月頃にLINE経由で「著名な経済学者」のなりすましと知り合い、「投資アプリ」をダウンロードするよう勧められ、現金計約4550万円の詐欺にあっている[34]

北九州市八幡西区の40代の男性がLINE上に掲載された「実在する外資系会社の社員を名乗る人物」へのなりすまし広告をきっかけに、嘘の投資話による3800万円の詐欺被害にあっている[30]

ディープフェイクおよびAIを用いたなりすまし

ディープフェイクとは、人工知能(AI)によって生成または操作された映像・音声・静止画であり、実在する人物や組織が発言・行動していないにもかかわらず、そう見えるように作られたコンテンツを指す。欧州連合AI法(Regulation (EU) 2024/1689)第50条は、ディープフェイクを「実在する人物・物体・場所・組織・出来事に酷似しており、真正なものであると人が誤信するおそれのある、AIが生成または操作した画像・音声・映像コンテンツ」と定義している。[35]

金融詐欺への悪用

ディープフェイク技術はなりすまし詐欺の手口として広まっている。2024年2月、香港の多国籍企業で財務担当の従業員が、上司の最高財務責任者(CFO)を装ったディープフェイクのビデオ通話に騙され、2,500万米ドルを詐欺グループに送金した。[36]音声クローン技術については、わずか3秒の音声データから本人と区別が難しいクローン音声を生成できるとされる。マカフィーが2023年に7,054人を対象に実施した調査では、回答者の70%が本物の声とクローン音声を聞き分ける自信がないと回答した。[37]

デロイトの試算では、生成AIを利用した詐欺による損失額は米国だけで2023年の約123億ドルから2027年には400億ドルに達すると予測されている。[38]アジア太平洋地域では、2024年のディープフェイク関連詐欺の試みが2023年比で194%増加したと報告されている。[39]

著名人・選挙へのなりすまし

著名人を標的にしたディープフェイクも確認されている。2024年の米国ニューハンプシャー州予備選挙では、ジョー・バイデン元大統領の音声を模倣したロボコールが有権者に投票を控えるよう促した。作成コストは約1米ドルで、20分以内に生成されたとされる。[40]日本国内でも、本記事の「SNS型投資詐欺・SNS型ロマンス詐欺」節で述べた著名人をかたる偽広告に加え、著名人の音声や顔をAIで合成した手口が確認されており、従来の手作業による偽装と異なる規模と速度で被害が生じている。

法規制の動向

ディープフェイクによるなりすましへの対応として、各国はそれぞれ異なる法的枠組みを整備しつつある。

欧州連合は2024年8月に施行したAI法(EU AI Act)第50条において、ディープフェイクを含むAI生成コンテンツの開示を義務付けた。コンテンツの提供者はAI生成であることを機械可読形式でマーキングしなければならず、配信者は「明確かつ識別可能な方法」でその旨を表示する義務を負う。ただし全面施行は2026年8月とされており、それまでは移行期間中である。[41][42]

米国では包括的な連邦法はなく、州レベルの対応が中心となっている。テネシー州では2024年7月施行の「ELVIS法」(Ensuring Likeness, Voice and Image Security Act)が、本人の同意なくAIで音声や肖像を複製することを禁じた。連邦取引委員会(FTC)は同年4月、政府機関や企業へのなりすましを禁止する規則を施行した。[43]2025年時点で、米国の45を超える州が何らかのディープフェイク規制法を制定している。[44]

日本では、2025年5月に成立した「人工知能関連技術の研究開発及び利用の促進に関する法律」(AI推進法)がAIを明示的に対象とする初の立法となったが、ディープフェイクを直接禁止する条文は含まれていない。現状では既存の刑法(名誉毀損罪・業務妨害罪)や不正競争防止法を通じた対応が基本とされている。[45]AIを専門とする弁護士の出田葉月によれば、日本にはディープフェイクの作成を直接禁止する法律は現時点で存在しないが、肖像権・著作権・名誉毀損に関する既存法が状況に応じて適用される可能性があるとされる。[46]2024年5月には「プロバイダ責任制限法」を改正した「情報流通プラットフォーム対処法」が可決され、違法コンテンツの削除申請の迅速化が図られた。[47]

検知技術の現状と限界

ディープフェイクの検知は、生成技術の進化に全体として追いついていない。ユネスコの報告によれば、高品質なディープフェイク映像を人間が正しく識別できる割合は約24.5%にとどまり、AIによる検知ツールも実環境では精度が最大50%低下する場合があるとされる。[48]

一方で、検知技術自体も進歩しており、C2PA(コンテンツの来歴と真正性のための連合)規格に基づくコンテンツ認証の仕組みが主要プラットフォームへの導入に向けて検討されている。バッファロー大学メディアフォレンジックラボのSiwei Lyu教授は、視覚的な識別への依存はもはや有効な防御策とはならず、コンテンツの真正性を暗号的に署名するインフラレベルの対策が必要だと指摘している。[49]日本では、NTT東日本と東京大学発スタートアップNABLASが電話通話中の音声をリアルタイムで解析し、ディープフェイク音声を検知するシステムの開発を進めている。[50]


女性性別へのなりすまし

性別・性自認のなりすまし

女性になりすまして女子トイレや女を使用しようとする男がしばしば発生している[3]。2021年5月、大阪市内の女性用トイレに女装状態の男が侵入する事件が発生した。男は「性自認は女性のトランスジェンダー」と虚偽の発言を行っていたが、「戸籍上は男性なのでダメだと分かっていたが、女性と認められている気がして女性用トイレに入った」と語り、大阪府警は男を建造物侵入の疑いで書類送検した。2021年9月、堺市西区で48歳の男がスーパー銭湯の女湯に女装して侵入する事件が発生した。男は「心は女(トランスジェンダー女性)」だと主張していたが、後に「LGBTではない。女装が趣味。女湯に入り完成度を確認したかった」「女装をしている自分に興奮する」と述べ、オートガイネフィリアだと告白した[3]

ネカマ

海外の覚醒剤密輸グループのナイジェリア男は、架空イギリス人の女性「ルイス」になりすまし、岡山県に住む60代の男性に覚醒剤を送りつけたが、税関職員に発見されて逮捕された[4]

26歳の男がチャットアプリで知り合った神戸市長田区の男子大学生から、電子マネー6万分を脅し取ったことで恐喝罪で逮捕された。男は「チャットアプリで知り合った人からお金をだまし取ったことに間違いない」「同じ手口で何回もしているので、これがいつのことか覚えていません」と他にも多数の余罪が発覚している[51]

女性になりすまし、SNSで知り合った大学生男性から下半身の画像を送らせ、「動画送らないとみんなに送るからね」などと脅しすことで動画も送らせた兵庫県明石市の大学生男が強制わいせつ容疑で摘発された[5]

打ち子・ぼったくりバー

2022年7月下旬頃、静岡県の50代男性から現金約130万円をだまし取ったとして詐欺グループが逮捕された。被害者の男性らとのメッセージでは、自称会社役員の男から指示を受けた「打ち子」(男)が「キャスト」(女)になりすましてマッチングアプリでのメッセージを担当し、「親族が交通事故にあった」などとの虚偽メッセージを送っていた[6]

2023年4月6日、警視庁は東京都新宿区西新宿の男らバー従業員の男女計16人を、新宿歌舞伎町のバーで飲食代のぼったくりを行ったとして都ぼったくり防止条例違反容疑で逮捕した。従業員の男がマッチングアプリで集客した男性らに対して女性が返信しているようになりすまし、バーへ連れて来るメッセージを担当していた[52]

対立する属性・思想の持ち主へのなりすまし

Twitterでは、表現の自由を重視してアンチフェミニズムの立場で活動するネット論客の青識亜論[53][54]が、表現規制派やフェミニストになりすまして情報収集していた事例があり[55][56][57]炎上につながりかねない発言について反省・謝罪している[58][59]詳細は青識亜論#なりすましアカウントの運用を参照)。2024年には「浦和レッズのサポーター」へなりすましながら迷惑行為をする者があらわれ、浦和レッズが公式に注意喚起した[2][60][61]

なお、小林直樹は2011年の著書でネット炎上をその事象に基づき分類し、6分類中の2つに「なりすまし」と「やらせ捏造自作自演」を挙げている[62][63]。また、「対立する属性・思想」の持ち主になりすまして意図的に問題行動を行い、炎上を発生させるなどして「対立する属性・思想」の持ち主への攻撃とする行動は、一種の偽旗作戦ともいえる[要出典]

自作自演

「差別されている」ことで得られる利益目的で○○という属性を持つ人が「○○差別者」という不特定な匿名者へなりすまし、自分自身や自己の属性を誹謗中傷する自作自演を行うケースがある。同和関連差別自作自演ケースとして、立花町連続差別ハガキ事件滋賀県公立中学校差別落書き自作自演事件解同高知市協「差別手紙」事件などがその例の一部である。 他の自演のケースとして、セルフ・ネットいじめ(デジタル自傷行為)がある。これに対するアメリカ合衆国における調査で、アメリカ人の10代の5〜9%が“デジタル自傷行為”を行っていることが明らかになっている。理由としては注目を集めたかったり、中傷が来ることで「そんなことないよ」といった自身への同情コメント誘発を狙っていると判明した[64]

その他インターネットにおけるなりすまし

前述の投資広告関連なりすまし詐欺やロマンス詐欺[9]を除いたインターネットにおけるなりすましとして、以下のようなものがある。

他者のID・パスワードの盗用(不正アクセス)

他人のユーザIDとパスワードを盗み、システムにアクセスし活動する。他人のIDやパスワードを無断で使用してログインを試みる行為は、不正アクセス行為と呼ばれ、日本では不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)により処罰対象となる。

IPスプーフィング

特定のIPアドレスのマシンからのアクセスしか許可しないように設定されたサーバーに対して、送信元のIPアドレスを偽装・操作して、アクセスを許可されたマシンのふりをする。

インターネットを悪用した他者へのなりすまし(顔写真、名前、ニックネーム・ハンドル等の盗用した犯罪行為)

ブログや電子掲示板、SNSなど、自由にハンドルネームを設定して書き込みができる場において、他人のハンドルネームや名前を使用し、その人のふりをして活動する事例がある。なりすまし内容によっては、名誉毀損罪になる。そして、場合によっては慰謝料請求対象となる[65]

登録制のソーシャル・ネットワーキング・サービスの場合、実在する別の人物の名(有名人の場合が多いが一般人の場合もある)のアカウントを作成しその人物のふりをして活動したり、企業・団体名のアカウントを作成しその企業・団体の公式アカウントのふりをして活動したりする例がある。このなりすましの対策としてTwitterでは、Twitterの運営者が本人確認をしたアカウントに対してそれを表す認証済みバッジを表示している[66]

なりすましへの対策

なりすましへの対策は、プラットフォームの自主規制、法的枠組みの整備、技術的手段の三領域で進められているが、いずれも手口の進化に遅れをとっている。

プラットフォームによる対応

X(旧Twitter)は2009年、著名人を装った偽アカウントをめぐりスポーツ監督のトニー・ラルーサが提起した訴訟を契機に、本人確認済みアカウントへの青いチェックマーク付与を開始した。[67]ただし2022年11月のイーロン・マスクによる買収後、同制度は有料サブスクリプション加入者への開放へと変更され、なりすましがむしろ容易になったと批判する声がある[要出典]

MetaInstagramFacebook)は2024年5月より、C2PA規格に基づくメタデータを検出した場合または投稿者が自主申告した場合に「AI Info」ラベルを自動表示する仕組みを導入した。[68]しかしMetaの監督委員会は2025年6月、同社のラベル付与を「一貫性を欠き、正当化できない」と指摘しており、実効性には課題が残る。[69]

法的・規制的枠組み

日本では2024年5月、特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(情報流通プラットフォーム対処法、プロバイダ責任制限法の改正・改題)が成立し、違法ななりすましコンテンツの削除申請の迅速化が図られた。[70]警察庁は、警察官がSNSで個人に連絡・ビデオ通話を求めることはないといった注意喚起を全国展開するとともに、2024年4月に「電話De詐欺合同捜査チーム」(TAIT)を設置した。[71]また、なりすましにより権利を侵害された被害者は仮処分命令を申し立てることができ、日本の裁判例では継続的ななりすましアカウント全体の削除が認められた事例もある。[72]

技術的対策と個人の防衛手段

コンテンツ認証の分野では、AdobeBBCMicrosoftGoogleなどが参加するC2PA(コンテンツの来歴と真正性のための連合)規格が業界標準として普及しつつある。同規格はコンテンツの作成ツール・日時・編集履歴を暗号的に記録し、AI生成コンテンツの識別を可能にする。MetaYouTubeはすでにC2PAに基づくラベリングを導入しており、欧州連合AI法第50条も同様の機械可読マーキングを義務付けている。[73]

日本では、NTT東日本東京大学発スタートアップNABLASが電話通話中の音声をリアルタイム解析してディープフェイク音声を検知するシステムを開発中である。[74]個人レベルでは、音声クローン詐欺に備え家族間で「合言葉」をあらかじめ取り決めておくことが、欧米の研究機関や日本の警察当局によって推奨されている。[75]


プルーフ・オブ・パーソンフッド(人格証明)

プルーフ・オブ・パーソンフッド(proof of personhood)とは、あるオンラインアカウントがボットや重複アカウントではなく、固有の人間によって管理されていることを、実社会における身元を明かすことなく検証する技術の総称である。もともとは分散型ネットワークにおけるシビル攻撃(一人の攻撃者が多数の偽アカウントを作成して不正な影響力を得る行為)への対策として提唱された概念だが、ソーシャルメディア上のなりすましやボットによる詐欺への対抗手段としても注目されるようになった[76]

実装のアプローチは複数ある。World(旧Worldcoin、サム・アルトマンが共同設立したTools for Humanityが開発)は、「Orb」と呼ばれる専用ハードウェアで利用者の虹彩をスキャンし、暗号化された一意の識別子を生成する方式を採用している[77]Humanode顔認識と生体検知を組み合わせ、生の生体データが利用者のデバイスから外部に送信されないよう秘密計算環境内で処理する方式を取っている[78]。生体認証を用いない方式も存在し、Idenaネットワークは参加者に対して同期的な視覚パズルの解答を求めることで、AIによる自動突破を困難にしている[79]

2026年3月、Redditはボットの疑いがあるアカウントに対して人間であることの証明を求める方針を発表した。同社は1日あたり約10万件のボットアカウントを削除しているが、Cloudflareの予測によれば2027年までにボットのトラフィックが人間のトラフィックを上回るとされている。共同創業者兼CEOのスティーブ・ハフマンは、パスキー、生体認証による人格証明サービス、および法令で義務付けられている国では政府発行の身分証明書を検証手段として用いるとし、理想的な長期的解決策は「分散型で、個別化され、プライバシーを守り、IDを一切必要としないもの」であると述べた[80]。2025年6月には、RedditがTools for HumanityとWorld IDの統合について協議中であるとSemaforが報じていた[81]

脚注・出典

参考文献

関連項目

外部リンク

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