オニオオハシ

キツツキ目オオハシ科の鳥 From Wikipedia, the free encyclopedia

オニオオハシ(学名:Ramphastos toco)は、オオハシ科に分類される鳥類。別名はオオオオハシトゥッカーノ。オオハシ科の最大種であり、体は黒く、胸と上尾筒は白く、下尾筒は赤い。橙色の巨大なを持ち、基部は黒く、先端に大きな黒斑が入る。ギアナ地方南部からアルゼンチン北部、ウルグアイにかけて、南アメリカに広く分布し、分布域は南に拡大している。標高1,750mまでの様々な生息地で見られるが、特にブラジルセラード拠水林パンタナール湿地帯に多い。

概要 オニオオハシ, 保全状況評価 ...
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主に液果を食べるが、昆虫、他の鳥のも餌となる。生息地によって食性は異なるが、糖分の多い果実を多く食べる傾向にある。繁殖期は地域によって異なる。巣は木の洞に作られ、産卵数は2-4個である。卵は両親が抱卵し、17-18日間で孵化する。国際自然保護連合レッドリストでは、低危険種に指定されている。

分類

ミナスジェライス州更新世の地層から、約2万年前の化石が見つかっている[3]フランス博物学者であるピエール・ブロンが、1555年の『鳥類誌』("L'Histoire de la nature des oyseaux")の中で本種に関する記述を残し、これにより本種がヨーロッパに紹介された。ブロンは嘴の標本のみを所有しており、長く鋸歯状の嘴から、本種が水かきのある魚食性の鳥であると考えた。また。本種の嘴はペリカンアイサ、一部のカモの嘴と共通した特徴を持つとした。この考えは18世紀まで信じられていた[4]

1776年にドイツ動物学者であるフィリップ・ルートヴィヒ・スタティウス・ミュラーによって記載され、タイプ産地はフランス領ギアナカイエンヌであった[5]。1862年にドイツの鳥類学者であるジャン・ルイ・カバニスは、R. albogularis を記載し、タイプ産地はブラジルであった[6]。種小名は「白い喉」を意味する[7]。この種は1870年までに、本種の亜種とされた[8][9]。属名は古代ギリシア語の「ῥαμφηστης (rhamphēstēs、長い鼻の)」に由来し、オオハシの大きな嘴を示している。この言葉は「ῥαμφη (rhampē、嘴)」に由来する。種小名はグアラニー語で本種を意味する「Tucá」または「Tucán」に由来し、「骨の鼻」を意味する[7]国際鳥類学者連合のリストによれば、英名はToco toucanである[10]ポルトガル語では「tucanuçu」、スペイン語では「tucán grande」または「tucán toco」[11]ブラジルリオグランデ・ド・スル州では「tucano-boi」と呼ばれる[3]ボリビアの先住民族の言語であるチマネ語では「yubibi」と呼ばれる[12]

オオハシ属には8種が、オオハシ科には42種が分類される[10]。鳥類学者のJürgen Hafferによれば、オオハシ属は2つのクレードに分けられる。1つは「smooth-billed yelpers」と呼ばれ、クリハシオオハシニショクキムネオオハシが含まれる。もう1つは「channel-keel-billed croakers」と呼ばれ、オニオオハシ、アオハシヒムネオオハシサンショクキムネオオハシチョコキムネオオハシヒムネオオハシが含まれる。Hafferによれば、オニオオハシは「channel-keel-billed croakers」の中でも基底的な種であるという[13]ミトコンドリアDNAの研究の結果、2つのクレードの存在が証明された。またオニオオハシはクレード内ではなく、オオハシ科の中で基底的な位置にあることが明らかになった[14][15]。以下のクラドグラムは2009年の研究に基づくが、この研究ではキノドオオハシがヒムネオオハシの亜種とされている[15]

オオハシ属

オニオオハシ

シロムネオオハシ

ニショクキムネオオハシ

サンショクキムネオオハシ

アオハシヒムネオオハシ

チョコキムネオオハシ

ヒムネオオハシ

亜種

以下の亜種が分類されている[10]

形態

白変種

平均体長は56cmで、オオハシ科の最大種である。大きな橙色の嘴が特徴である。体は光沢のある黒色で、喉は白色である。体色には個体差があり、喉が黄色味を帯びる個体、白い部分と黒い部分の境界が赤色になる個体がいる。腰は白色で、下尾筒は赤色である。虹彩は茶色で、周囲は青色で縁取られる。眼窩は黄色から橙色である。眼の付近には小さな白い部分があり、眼の下の皮膚は緑がかることもある。嘴は非常に長く、嘴峰が最も赤みが強い。不規則な明るい茶色の帯が、嘴縁を横切るように入る。嘴長は雄で173-215mm、平均200.5mmである。雌では158-202mm、平均178.6mmである。嘴の基部は黒く、下嘴では下部に向かって太い帯状になっている。上顎の先端には楕円形の大きな黒斑が入り、光が当たると非常に強く輝く[3][11][16]。体重は592-760gである[17]

嘴の内部は大部分が空洞になっており、大きさの割に軽量である。舌の長さは嘴とほぼ同じで、非常に平たい。雄の方が大きいこと以外、雌雄の外見に差異は無い。幼鳥の嘴は短く、色も薄い。翼弦長は22-26cm、尾長は14.1-17.9cm、跗蹠長は4.8-6.5cmである[16]。体の一部が白色になる白変種が知られている[18]

頭部

嘴は鋸歯状で、大きさは体の30-50%を占める。この割合は鳥類で最大だが、体長における嘴長の割合ではヤリハシハチドリが上回る[19]。果物の皮むき、他の鳥への威嚇、縄張りの防衛、視覚的な警告といった役割があると考えられている[19][20]。嘴の交叉や欠損、穿孔など、奇形が生じることがある[21]

嘴は表面積が大きく、体内の熱を血管を通じて放熱するラジエーターの役割がある。放熱して体温を下げる能力は、ゾウの耳に匹敵する。放熱能力は風に依存しており、風速が低い場合、安静時の熱産生量の25%を放射するが、風速が高い場合、放射量は4倍になる。他の動物と比較すると、カモの嘴やゾウの耳は安静時の熱産生量の約9%を放射する程度である。嘴は放熱の30-60%を担っており、睡眠中には熱を維持するため、嘴を体の下に置く。嘴への血流を調整する血管系は、成鳥になるまで複雑に発達しない可能性がある[19]

分布と生息地

飛翔

ギアナ地方南部からアルゼンチン北部、ウルグアイまで、南アメリカの中部から南東部に広く分布する。ギアナ地方、ブラジル北部のリオブランコ付近、アマゾン川河口からマナウスにかけての地域などに、分断された個体群が存在する。マラニョン州南西部の沿岸部から、ブラジル南西部、ボリビアペルー南東部、ピアウイ州バイーア州を通って、アルゼンチン北部、ウルグアイまで分布する[11][22]。アルゼンチン北西部のトゥクマン州では、1990年代後半までに局所絶滅したと考えられていたが、2010年代に再発見された[23]。本種は開けた生息地を好むため、森林伐採によってアマゾン熱帯雨林における分布が拡大している可能性がある[11]。以前はブラジル南部のパトス湖が分布の南限であったが、北緯30度以南のウルグアイでも見られるようになった。飼育個体の野生化や、環境の変化が原因であると考えられる[24]。一般的に渡りは行わないが、餌を求め集団で移動することがある[11]

他のオオハシ類とは異なり、閉鎖的な森林では見られない。拠水林サバンナ河畔林疎林二次林グランチャコプランテーション果樹園など、多少開けた生息地を好む[11]。特にブラジルのセラードや拠水林、パンタナール湿地帯に多い[25]。標高1,750mまで見られる[1]

生態と行動

飛翔や採餌の様子がよく観察され、枝から枝へと飛び移って採餌する。羽ばたきと滑空を交互に行い、波打つように飛ぶ[11]。他のオオハシ類と同様に行動圏は広く、平均86haである。他のオオハシ類は大きな水域を渡らないが、本種は幅5kmを超える水域を飛んで渡ることができる[26]。日中はあまり活動的でなく、時折木の上で休息している。他のオオハシ類とは異なり、大きな群れは作らず、単独または小さな群れで生活する。採餌の際、群れは一列になって木の枝を飛び回る。群れの仲間とは互いに羽繕いを行うが、産卵期にはつがいで羽繕いを行うため、群れでは行わない[11]。繁殖期の後には大きな群れを作り、集団で採餌を行うことがある。シロムネオオハシなど、他の種と混ざった群れを作ることもある[3]

食性

パパイアを食べる

主に液果を食べるが、昆虫、他の鳥の雛も餌となる。通常は樹冠で採餌するが、低木や林床に落ちた果実を食べることもある。液果の中でも特にイチジク属オレンジグアバコショウを食べる[11]Cecropia pachystachyaInga laurina は一年中実を付けるため、オニオオハシの食事において重要なものとなっている[25][27]。特に糖分の多い果実を好むが、生息地によって食性は大きく異なる[28]。イチジク属の生える落葉樹林では、一年中果実が手に入るため、季節による食性の変化が少ない[29]。果実の量の季節変動が大きな地域では、果実の量が少なくなると他の生息地へと移動する[28][29]

餌となる植物として、拠水林ではチブサノキFicus luschnathianaVirola sebifera などが[25][28]、セラードでは Didymopanax macrocarpusCopaifera langsdorffiiDidymopanax morototoniNectandra cissiflora などが[28][30]、半落葉樹林では Guibourtia hymenaefoliaD. morototoni などが知られている[29]乾季には果物が減少するが、この時期にはコガネノウゼンナガハデイゴなどのも食べる[31]

ケムシイモムシシロアリなどの昆虫も餌となる[11]トカゲ[32]、雛や小鳥などの小動物も捕食する[11]ムクドリモドキ科タイランチョウ科[11]オオガシラ科[33]オウム目[28]の巣を襲い、特にキゴシツリスドリが狙われる[11]スミレコンゴウインコクロハラトキなど、大型種の巣も襲う。本種の体重は約540gであるのに対し、クロハラトキの雛の体重は200-300gである。オニオオハシは嘴を使い、トキの雛の首を折って殺す[34]。飼育下ではツグミモドキ属イエスズメインカバトサボテンミソサザイズアカカンムリウズラなど、様々な小型鳥類を捕食する[11]

繁殖と成長

繁殖期には行動が変化し、単独で行動するようになる[35]。産卵後はつがいで羽繕いを行うため、つがい以外の個体と羽繕いをすることは無くなる。つがいは頻繁に羽繕いを行い、互いの嘴を叩くこともある。雄は下尾筒を扇のように広げ、赤い羽根を目立たせる。嘴をディスプレイに使うこともある[11]

繁殖期は季節によって異なり、アマゾナス州マラニョン州では9-1月、サンパウロ州リオデジャネイロ州パラナ州パラグアイでは9-2月、アルゼンチン東部とリオグランデ・ド・スル州では10-2月、ゴイアス州ミナスジェライス州バイーア州では11-2月、ボリビアとアルゼンチン西部では12-6月、ピアウイ州では5-6月に繁殖する[11]。通常はアメリカデイゴスラッシュマツなどの木の洞で営巣するが、川岸やシロアリの塚で営巣することもある。アリツカゲラセジロエボシゲラなど、他の鳥が作った洞で営巣することもある[11][35]。都市部で繁殖することもあるが、巣の近くで建設など激しい人間活動が起こった場合、巣を放棄することもある[35]。飼育下では巣を掃除するが、最終的には糞や植物の種で覆われる[11]

野生では1年に1回繁殖するが、飼育下では年に複数回繁殖した例もある。産卵数は2-4個で、両親が抱卵し、17-18日間で孵化する[11]。雛は親鳥が去ると、餌を求めて大声で鳴く[3]。雛はおもに昆虫を食べるが、成長に伴い果物の食事量が増える。孵化後43-52日で巣立つ[11]

他種との関係

他のオオハシ類と同様に行動圏が広く、様々な生息地に適応するため、重要な種子散布者となっている。大型の果実食鳥類では珍しく、都市環境にも生息する。オニオオハシは大量の種子を損傷させずに排泄する[26]。発芽率はより小さな種子散布者が散布した種子よりは低いものの[36]、オニオオハシは体が大きく移動距離も長いため、より遠くに種子を散布する。中型の種子であれば、元の木から269-449m離れた場所に堆積する[26]。主に在来植物を食べるが、セダカダイオウヤシギニアアブラヤシなど、一部の外来種も重要な餌となっている。オニオオハシによって外来植物の種子が拡散され、分布域が広がる可能性がある[26][37]

Sterculia apetala にとって重要な種子散布者であり、種子散布の83%以上を担っている。スミレコンゴウインコはこの木の洞で営巣するため、オニオオハシはスミレコンゴウインコの生存にとって重要であるが、卵の主な捕食者でもある[38]。崖などの陸上生物が近づけない場所で営巣する種にとっては、重要な卵及び雛の捕食者となっている可能性がある[34]

オニオオハシの天敵は不明だが、オオハシ類はサル猛禽類が天敵である。オニオオハシの寄生虫としては、Austrophilopterus cancellosusMyrsidea witti など数種のハジラミ[11]プラスモジウム属Plasmodium nucleophilumP. huffiP. pinottii[39]トキソプラズマ[40]ランブル鞭毛虫[41]トリコモナス[42]吸虫が知られている[43]

発声

「グルル」、「クルル」といった、うなり声やヒキガエルのような声、いびきのような声を発する。連続して発声することもあり、1分間に最大50回鳴く。幼鳥は「テテテ」や「エーエー」と、呟くように鳴くことがある。嘴で枝を叩くなど、声以外で発音することもある[3][11][16]

オニオオハシの鳴き声は、ヒムネオオハシアオハシヒムネオオハシの鳴き声と似る。しかしこれら2種よりも低く、あまり共鳴しない。また、アオハシヒムネオオハシよりも速く鳴く[3][11]

人との関わり

脅威と保全

南アメリカでは森林伐採が進行しているが、本種は開けた環境を好むため恩恵を受ける可能性がある[1]空港や道路の周辺にも生息する[3]。分布域は広く、その大部分で一般的に見られるため、国際自然保護連合レッドリストでは低危険種に指定されている[1]。食用や飼育用に狩猟が行われている[11]。繁殖期の後には大規模な群れを形成するが、以前はこの群れを食用に狩り、その嘴はトロフィーとして残されていた[3]。狩猟による個体数への影響は不明である[11]。1975年から2018年にかけてオオハシ類では2番目に多く取引されていた[44]

文化

新熱帯区で最も有名な鳥類の1つであり[11]、国際的にも[45]、分布域内でも知名度が高い[46]。オオハシ類を代表する種類である[47]。ブラジルの伝説では、穴の中から見えたオオハシの大きな嘴を見て、鳥たちはオオハシを王と崇めた。しかしオオハシが穴から出てくると、「嘴が大きいだけ」と馬鹿にされた[3]。グランチャコのアヨレオ族の神話においては、蜂蜜採集者がオニオオハシを意味する「Carai」の名で呼ばれる[48]。1935年より、ギネスの広告に使用されている[49][50]ブラジル社会民主党のシンボルでもある[51]

出典

関連項目

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