クビレズタ

イワズタ科イワズタ属に属する海藻 From Wikipedia, the free encyclopedia

クビレズタまたはクビレヅタ(括れ蔦、学名: Caulerpa lentillifera)とは、緑藻ハネモ目イワズタ科イワズタ属に分類される海藻の1種である。匍匐枝とそこから生じる長さ2.5–15センチメートルの直立枝からなり、直立枝には先端が球状に膨らんだ小枝が多数密生する(図1)。小枝の柄と球状部の間がくびれることが和名の由来である。アフリカからオセアニアの低緯度地域の潮下帯に生育しており、日本では九州南部から南西諸島に分布する。食用とされ、プチプチとした独特な食感があり、食材としては海ブドウとよばれる。日本では、古くは宮古島などで天然藻体が食されていたが、陸上養殖技術が開発されて生産量が急激に増加し、比較的よく知られた食材となった。

概要 クビレズタ, 分類 ...
クビレズタ
1. 藻体
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 植物界 Plantae (アーケプラスチダ Archaeplastida)
亜界 : 緑色植物亜界 Viridiplantae
: 緑藻植物門 Chlorophyta
: アオサ藻綱 Ulvophyceae
: ハネモ目 Bryopsidales
: イワズタ科 Caulerpaceae
: イワズタ属 Caulerpa
: クビレズタ C. lentillifera
学名
Caulerpa lentillifera J.Agardh, 1837[1]
シノニム
和名
クビレズタ[2][3]、クビレヅタ[4](括れ蔦[4][3][5])、海ぶどう[4]、グリーンキャビア[4]
英名
sea grape[6], green caviar[7]
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名称

直立枝に密生する小枝は柄と球形部からなるが、この柄と球形部の間にくびれがあるのが和名の由来である[4][3]。もともと「くびれのある蔦(つた)」の意味であるため「クビレヅタ」と表記されていたが、現代仮名遣いに従い「クビレズタ」とすべきという意見もあり、イワズタ科イワズタ属(イワヅタ科イワヅタ属)に属する海藻の和名については「ズタ」と「ヅタ」が統一されていない[8][9][10]。クビレズタ/クビレヅタについては、近年でも「クビレズタ」とする文献[3][11][12]と「クビレヅタ」とする文献[4][5]がある。

直立枝には先端が球状の小枝が多数密生してブドウの房のように見えるため、「海ぶどう」ともよばれ、食材としてはふつうこの名が使われる[4][3][13]。「グリーンキャビア」ともよばれる[4][14]。天然藻体が多い宮古島では、「ンキャフ」とよばれる[14]

特徴

岩や砂など基質上にある匍匐枝(匍匐茎、stolon)とそこから直立する直立枝(直立葉、葉状部、frond)からなる[2][4][3][15]。匍匐枝は長さ数十 cm になり、直径 2–3 mm、表面は平滑、ところどころから下方へ伸びるよく分枝す仮根(rhizoid)が生じている[2][3][15]。直立枝は 1–4 cm 間隔で匍匐枝から生じており、高さ 2.5–15 cm、ときに分枝し、小枝を密につける[2][4]。小枝は末端が球形に膨らんで直径 2–4 mm、短い柄があり、柄と球形部の間にはくびれがある[2][4][3]。ややくすんだ緑色で手触りは柔らかい[4]

2a. 全体像
2b. 直立枝拡大像

上記のように大型になる海藻であるが、藻体内には隔壁がなく、原形質がひとつながりであるため巨大な単細胞体や嚢状体(siphonous)と表現される[3][16]。藻体は基本的に1本の管であり、細胞壁が内側へ多数突出して繊維状の構造(trabeculae)を形成しており、おそらくこれが物理的な支持構造となっている[2][17]。藻体内には、多数のピレノイドを欠く葉緑体アミロプラストが存在する[2][17][15]

ふつう藻体の分断化などにより無性生殖(栄養繁殖)を行い、養殖でもこれが利用されている[18]有性生殖では、藻体全体が単一の配偶子嚢になり(全実性)、おそらく減数分裂によって配偶子を形成する[17][15]。小枝内で葉緑体が集まって網目状の模様を形成し、網目の上に多数の管状突起を形成する[18]。藻体の上部では雌性配偶子が、下部では雄性配偶子が形成され、管状突起の開孔部から放出される[18]。雌雄の配偶子はいずれも2本鞭毛性であり、雌性配偶子の方が大型である[18]。雌雄配偶子は水中で接合して接合子を形成し、これが着底して発芽管を伸ばして新たな藻体へと発生すると考えられている[18]

分布・生態

アフリカモーリシャス中東南アジア日本東南アジアオーストラリアミクロネシアメラネシアポリネシアなどから報告されている[1]タイプ産地エリトリア紅海沿岸[1]。日本では九州南部、奄美群島沖縄島宮古諸島八重山諸島で確認されており、特に宮古島与那覇湾や嘉手刈入江、伊良部島久米島に多い[18]

潮下帯(漸深帯; 低潮線より下部)の岩上や砂上に匍匐茎を伸ばして生育している[4]宮古島与那覇湾では砂または砂泥地に生育し、水深 1–2 m に多いが、水深 8 m でも確認されている[18]

保全状況評価

2000年代以降の沖縄食ブームもあり乱獲されていたが、資源量について組織的な調査が行なわれたことがなく、枯渇の危険があるのかも含めて不明であり、2025年の第5次レッドデータでも「情報不足 (DD)」とされている[11]

情報不足(DD)環境省レッドリスト

Status jenv DD.svg
Status jenv DD.svg

人間との関わり

食用

概要 100 gあたりの栄養価, エネルギー ...
藻類/うみぶどう/生
100 gあたりの栄養価
エネルギー 24 kJ (5.7 kcal)
1.2 g
食物繊維 0.8 g
0.1 g
0.5 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(1%)
10 µg
(1%)
74 µg
リボフラビン (B2)
(1%)
0.01 mg
パントテン酸 (B5)
(0%)
0 mg
ビタミンB6
(0%)
0 mg
葉酸 (B9)
(1%)
4 µg
ビタミンB12
(0%)
0 µg
ビタミンD
(0%)
0 µg
ビタミンE
(1%)
0.2 mg
ビタミンK
(33%)
35 µg
ミネラル
ナトリウム
(22%)
330 mg
カリウム
(1%)
39 mg
カルシウム
(3%)
34 mg
マグネシウム
(14%)
51 mg
リン
(1%)
10 mg
鉄分
(6%)
0.8 mg
(1%)
0.01 mg
マンガン
(4%)
0.08 mg
他の成分
水分 97 g
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。
出典: 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年”. 文部科学省 (2023年). 2025年12月30日閲覧。
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日本では、クビレズタの直立枝の部分はふつう「海ぶどう」の名で食用にされている[18]。プチプチとした独特な食感があり、観光客などに人気が高く、特に夏季の需要が高い[18]。流通形態は生鮮、塩蔵、高濃度海水漬けなどがある[18]。賞味期限は製品形態によって異なるが、生鮮で1週間程度、塩蔵品で半年から1年、高濃度海水漬けで4–6ヶ月程度である[18]。生鮮品は常温で保存することが重要であり、沖縄から空輸される際も常温で行われる[14]。食感は、生鮮が最も良いとされる[18]。いずれの製品形態であっても、食前に真水で洗ったり漬けることで、浸透圧によって張りがでて食感が良くなる[18]

生のものを調味液(ドレッシング三杯酢など)につけて食べるが、調味液に長時間浸しておくと浸透圧の関係でしぼんでしまうため、食べる直前に調味液をつけるか和えて食す[14]サラダや海ぶどう丼、麺にトッピングなどして食される[18](図3)。

3a. サラダ(沖縄)
3b. サラダ(フィリピン)
3c. 寿司(沖縄)

天然藻体を利用していた宮古島では、よく洗ったものをそのまま、または酢醤油酢味噌ゴマを加えたタレなどにつけて食し、また砂糖を入れて甘くして食べることもあった[14]

日本食品標準成分表(八訂)増補2023年』には「うみぶどう 生」(09012)が掲載されており(表参照)、ほとんどが水であるが[19]食物繊維やミネラル(マグネシウムなど)に比較的富むとされる[14]。近年ではその生理活性物質が注目され、さまざまな作用をもつ可能性が示されている[6][20]

クビレズタは、日本国外でも食用に利用されている[6]。また沖縄では、クビレズタの他に、同属のセンナリズタCaulerpa racemosa var. macrophysa)やエツキズタCaulerpa chemnitzia)も食用として流通している[18]

生産

4. 海ぶどう

宮古島地方では古くから天然藻体が採取され、年3–5トンほどが利用されていたと推定されている[18]。しかし、陸上養殖技術(下記)が開発された後は、天然藻体の利用はわずかになった[18]。1990年代に陸上養殖技術が開発されて生産量が急激に増加し、クビレズタは一般的な食材となった[18][21]

ロープ結束養殖、トロ箱での養殖、海底敷設置植え、浮きカゴでの養殖なども試験されたが、生育不良や夾雑物混入、台風被害などによってうまくいかず、1990年代以降には海水を供水したハウス内で行われる陸上養殖が急速に一般化していった[18]。まず、母藻を流水下で通気して数日間養生した後、2–3 kg/m2 をネット上に均一に広げ、これにネットをかぶせて挟み込む[18]栄養塩を施肥し、通気によって水流をつくり、夏の高水温期には2–3週間、冬の低水温期には1ヶ月半ほど培養すると(いずれも沖縄県の場合)、直立枝が長さ 10 cm ほどになるので、これを摘み取り収穫する[18]。収穫品の中で優良なものは紫外線殺菌海水などで養生し出荷され、それ以外は次の培養の母藻とされる[18]。一年中養殖生産されているが、生育に適した水温は24°C前後であるため、房が充実する時期は春・秋とされる[14]。一方で粒付きの良い高品質のものは冬期に生産され、沖縄県海ぶどう生産者協議会は12月23日を「海ぶどうの日」に制定している[14]

5. フィリピンのマーケットでのクビレズタ

日本における養殖のほとんどが沖縄県で行われており、「沖縄海ぶどう(クビレズタ)」は、プライドフィッシュに認定されている[14]。そのほかにも鹿児島県熊本県大分県長崎県福岡県徳島県山口県三重県石川県などでも小規模養殖または試験がされている[22][23][24]。2023年の陸上養殖によるクビレズタの生産量は約536トンであった[25]。また、フィリピンでは古くから屋外養殖されており、近年ではフィリピンやベトナムタイからも輸入されている(2010年時点)[18]。オーストラリアや東南アジアでは、ベトナムのカンホア地方で養殖されたものが沖縄産よりも安い価格で流通している[26]。また、沖縄県産品小売業者がフィリピン産を沖縄産と偽装して販売し、JAS法(日本農林規格)違反が起きたことがある[27]

その他の利用

同属のセンナリズタCaulerpa racemosa var. macrophysa)、タカノハズタCaulerpa sertularioides f. longipes)、ビャクシンズタCaulerpa cupressoides f. amicorum)などと同様に、海水水槽で観賞用にクビレズタを栽培することがある[28]。丈夫で成長も速いが、環境が適さないと小枝がまばらになる[28]

クビレズタの多糖類を添加したフェイスマスクやスキンケア製品が開発されており、保湿性や抗酸化作用に優れているとされる[6]

類似種

日本からは、イワズタ属として約30分類群(変種や品種を含む)が報告されている[29]。その中でフサイワズタCaulerpa okamurae)はクビレズタに似ているが、小枝の先端は球形ではなく倒卵形から棍棒形であり、柄はわずかにくびれるが短い[2][30]。フサイワズタは、イワズタ属の中では最も北にまで分布し、九州から太平洋側では千葉県房総半島、日本海側では北海道南部まで分布している[2][30][31]。フサイワズタもしばしば食用とされ、「海ぶどう」や「海ゴーヤー」ともよばれる[32][33]。また沖縄では、国外産の別の類似種が「海ゴーヤー」の名で養殖され、流通している[34]

脚注

外部リンク

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