シャンパン
フランスのシャンパーニュ地方で作られるスパークリングワイン
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シャンパンあるいはシャンパーニュ(仏: Champagne[1])は、フランスのシャンパーニュ地方特産のスパークリングワインである。



産地・ブドウ品種・製法・熟成期間などが、フランスの原産地呼称保護制度であるAOCにより厳格に規定されている。産地はフランス北東部のシャンパーニュ地方に限定され[2]、ブドウ品種は主にピノ・ノワール、ピノ・ムニエ、シャルドネの3品種が用いられる[3]。
製法は瓶内二次発酵を行うシャンパーニュ方式と呼ばれる伝統的なものに限定される。一次発酵で造ったベースワインを複数の品種・畑・収穫年にわたってブレンドした上で瓶詰めし、瓶内で再度発酵させることで炭酸ガスを溶け込ませる。その後、
世界には類似の瓶内二次発酵によるスパークリングワインが多数存在し、スペインのカバ、イタリアのフランチャコルタ、ドイツのゼクト、フランス国内のクレマン各種、南アフリカ共和国のキャップ・クラシックなどが代表的である。シャンパンは、これら類似のスパークリングワインの中でも、高級酒の代表格として祝祭や記念日の席で供され、長い歴史と国際的な名声を有している[5][6]。
呼称
日本語では「シャンパン」の呼称が広く用いられるが、シャンパーニュ委員会の日本語公式サイトではフランス語発音に近いシャンパーニュの表記が用いられている。なおシャンペイン(シャンペン)[7]は英語読みである。
かつて日本では、シャンパンを漢字で三鞭酒と書くことがあった[8]。
歴史
「シャンパン」名称の保護
「シャンパン」の名称は、TRIPS協定における地理的表示として国際的に保護されており[9]、AOCで定められた条件を満たすシャンパーニュ地方産のスパークリングワインに限って使用できる[10]。これに該当しないものに「シャンパン」の名称を用いることは、日本でも違法となる[11]。シャンパンを含む発泡性ワインの一般名称(包含する上位概念)はスパークリングワインである[12]。
かつてはシャンパーニュ地方以外の地域でもシャンパンという名称でスパークリングワインが生産されており、スパークリングワインの一般名称として広く用いられていた。その名残として、アメリカ合衆国のカリフォルニア州では現在でも「カリフォルニア・シャンパン」の呼称でスパークリングワインが造られている。これは2006年に米国とEUが締結したワイン貿易協定の祖父条項により、2006年3月10日以前から「Champagne」の名称を使用していた米国生産者に継続使用が認められているためである[13]。
他方、外交交渉や国際協定を通じて名称使用が停止された事例もある。日本では戦後、これに似せて作られた清涼飲料水が「ソフトシャンパン」の名称で販売されていたが、フランス側からの「シャンパン」表示中止の要請を受けて、商品名を「シャンメリー」に変更した。「シャンメリー」は1976年に全国シャンメリー協同組合の登録商標となっている[14]。また、スイス、ヴォー州のシャンパーニュ村でも伝統的にワインが造られていたが、2002年に発効した欧州共同体とスイスの農産物貿易協定により、2004年以降は当地のワインに「シャンパーニュ」というラベルを使用することができなくなった[15][16]。
名称保護の対象はワインに限定されない。アメリカ合衆国のビール会社ミラーは、長らく自社製品に「ビールのシャンパン」と銘打って販売しており、業界団体のシャンパーニュ委員会が抗議を行ってきた。2023年には、ベルギーの税関が同委員会の苦情を受け入れ、アントワープ港で差し押さえた2,352缶を廃棄処分とした[17]。
主要地区
製法
シャンパンの原料には、手摘みされたピノ・ノワール、ピノ・ムニエ、シャルドネ、ピノ・グリ、プティ・メリエ、ピノ・ブラン、アルバンヌ、シャルドネ・ロゼの計8品種のみが認められている[18]。多くの場合、白ブドウのシャルドネと黒ブドウのピノ・ノワール、ピノ・ムニエの3品種を配合して造られる[3]。その他の品種の作付面積は限定的である[19]。シャルドネ・ロゼは2025年に新たに認可された品種である[19][20]。
シャンパーニュ地方は寒冷でブドウ栽培地の北限にあたるため、収穫されるブドウは糖度が低く酸の強いものが多い。この強い酸がシャンパンにフレッシュさをもたらし、熟成適性を支えるため、高品質なスパークリングワインの原料として重要である[21][22][23]。
収穫されたブドウは速やかに圧搾所に送られる。搾汁の際には、ワインの赤い色合いの元となる果皮の色素が浸出しないよう、圧搾機で手早くゆるやかに圧搾し、白い果汁を取り出す[24][25][22]。
最初の発酵は秋にスティルワインと同じ方法で行われ、果汁に含まれる糖分がアルコールへと転換されてベースワインとなる[26]。
次に、複数のベースワインを混ぜ合わせるアッサンブラージュ(仏: assemblage)と呼ばれる工程が行われる。これは、さまざまな畑や品種のベースワインを各造り手のブランドイメージに沿って配合する作業であり、ノン・ミレジメの場合はさらに複数年のワインも組み合わされる。シャンパンの個性を決定づける重要な工程であり、造り手の腕の見せ所とされる。なお、ベースワインの一部はリザーブワイン(ヴァン・ド・レゼルヴ、仏: vin de réserve)として翌年以降のアッサンブラージュ用に貯蔵される。リザーブワインの配合が最終的な品質に強く影響するため、その確保は造り手にとって重要な課題とされる[27][28][29]。
アッサンブラージュを終えたワインに、二次発酵のための蔗糖と酵母を含むシロップ(リキュール・ド・ティラージュ、仏: liqueur de tirage)を加えて瓶詰めする。この工程をティラージュ(仏: tirage、フランス語で「瓶詰め」の意)と呼ぶ[30][31]。瓶は貯蔵室で長期間熟成されるが、ランスやエペルネの伝統あるメゾンでは、ローマ時代に白亜を採掘した地下採石場跡(クレイエール、仏: crayères)が利用されることが多い[5]。瓶内では二次発酵が進行し、アルコールと二酸化炭素が発生する。二酸化炭素は瓶内に閉じ込められてワインに溶け込み、シャンパン特有の発泡となる[30]。発酵を終えた酵母は澱となり、長期間の熟成の間に自己融解しワインに独特のうまみを与える[32]。
熟成の後半には、瓶をピュピトルと呼ばれる台に差し込み、数週間かけて定期的に少しずつ左右に回転させながら徐々に首を下に向けた状態に近づけていく。この工程をルミュアージュ(仏: remuage)と呼び、これによって澱が瓶の首部分に集まり、除去可能な状態となる。昔は職人が手作業で行っていたが、現在はジャイロパレットと呼ばれる機械で行われることが多い[33]。
出荷が近づくと、澱を除去するデゴルジュマン(仏: dégorgement)と呼ばれる工程が行われる。瓶の口を氷点下25度ほどに冷却して澱を凍結させたうえで栓を抜くと、瓶内の気圧によって凍結した澱が押し出される[34]。冷却せずに手作業で澱を除去する昔ながらの方法もある[34][35]。最後に、目減りした分を糖分入りのリキュールで補充するドザージュ(仏: dosage)が行われる。シャンパーニュ造りの最終工程であることから、添加するリキュールは「門出のリキュール」とも呼ばれる。このときの糖分量によってシャンパンの甘辛度が決まる(詳細は「甘辛度」を参照)[36]。ドザージュ後、瓶にコルクで打栓(仏: bouchage)し、針金つきの金具(ミュズレ)で固定して仕上げる[37]。
製品はティラージュ後、最低15か月(うち澱との接触期間は最低12か月)の熟成を経るまでは、AOCにより出荷が禁止されている。ミレジメの場合は最低3年(36か月)と定められている[38]。
ロゼの製法
ロゼのシャンパンは、瓶内二次発酵前のベースワインにシャンパーニュ産の赤ワインを添加するアッサンブラージュ方式が主流である[39]。その他には、直接圧搾方式、および黒ブドウの果皮を一定時間漬け込んで色を出すセニエ/マセラシオン方式が認められている[40][41]。
ラベルの読み方
シャンパンには使用品種、収穫年、畑の格付け、生産者の形態などに応じてさまざまな分類があり、ラベル上の表記によって区別される。
色とタイプ
ヴィンテージ表示
- Non millésimé(ノン・ミレジメ) - ヴィンテージ(収穫年)がラベルに記載されていないシャンパン。様々な年のワインがブレンドされて造られていることを示す[44]。英語ではnon-vintage(ノン・ヴィンテージ、NV)とも呼ばれる。複数の収穫年のワインをブレンドすることで毎年一定のスタイルを保っている。ノン・ミレジメのブリュットは最も一般的なシャンパンである[45]。
- Millésimé(ミレジメ) - ヴィンテージがラベルに記載されているシャンパン。その年に収穫されたブドウのみから造られていることを示す[46]。出来栄えのよい年(当たり年)に造られる特別なシャンパンであり、ノン・ミレジメに比べて一般に高価[47][48]。
村の格付け
かつて存在した村ごとの格付け制度エシェル・デ・クリュ(仏: échelle des crus)では、シャンパーニュ地方の各村に80〜100%の評価点が付けられ、ブドウの取引価格の基準として用いられていた。この制度自体は既に廃止されたが、最上位(100%)と評価された17の村、および上位(90〜99%)と評価された42の村に対する呼称は、歴史的慣行として現在も用いられている[49][50]。
甘辛度
シャンパンの甘辛度は、ドザージュ後の最終的な残糖量によって以下のように分類される[53]。
| 分類 | フランス語 | 残糖量 (g/L) |
|---|---|---|
| ドゥー | doux | 50超 |
| ドゥミ・セック | demi-sec | 32〜50 |
| セック | sec | 17〜32 |
| エクストラ・ドライ | extra dry | 12〜17 |
| ブリュット | brut | 12未満 |
| エクストラ・ブリュット | extra brut | 6未満 |
| ブリュット・ナチュール | brut nature | 3未満、かつ二次発酵後に糖分を添加していない |
生産者の表記
シャンパンのラベルには、シャンパーニュ委員会が発行する登録番号が記載される。先頭2文字の略号は業態を表す[54]。
- NM:Négociant manipulant(ネゴシアン・マニピュラン)
- ブドウ、果汁または原酒を購入してシャンパンを製造する生産者[54]。メゾンの多くはこの業態に該当する[55]。
- RM:Récoltant manipulant(レコルタン・マニピュラン)
- 自らのブドウだけでシャンパンを製造する生産者[56]。
- CM:Coopérative de manipulation(コーペラティヴ・ド・マニピュラシオン)
- シャンパーニュ生産者の協同組合。加盟する農家からブドウを仕入れた協同組合が醸造から瓶詰め、販売までを一貫して行う[56]。
- RC:Récoltant coopérateur(レコルタン・コーペラトゥール)
- ブドウ農家が自らの収穫したブドウを協同組合に納入して製造の一部または全部を委託し、完成した製品を農家自身の名義で販売する形態。製品の販売主体が協同組合ではなく栽培農家自身である点がCMと異なる[56]。
- SR:Société de récoltants(ソシエテ・ド・レコルタン)
- 複数のブドウ農家(同族関係であることが多い)が出資して設立した会社が主体となり、栽培者のブドウを用いて製造・販売する形態。協同組合ではなく会社・団体である点がCMと異なる[57]。
- ND:Négociant-Distributeur(ネゴシアン・ディストリビュトゥール)
- 既に瓶詰めされた完成品のシャンパンを購入し、自社のラベルを貼って販売する業態。自身では醸造を行わない[56]。
- MA:Marque d'Acheteur(マルク・ダシュトゥール)
- レストラン、ワイン商、小売チェーンなどのプライベートブランドで販売されるシャンパン[56][57]。実際の醸造は別の生産者が行う。
ボトルサイズ
シャンパンのボトルには、標準の750ml以外にも複数のサイズがあり、それぞれ固有の名称が付けられている。大型ボトルの名称の多くは聖書に由来し、この慣習は19世紀に始まったとされる[58]。
| 名称 | 容量 | 標準瓶換算 |
|---|---|---|
| キャール(Quart) | 200ml | 約1/4本 |
| ドゥミ(Demie) | 375ml | 1/2本 |
| ブテイユ(Bouteille) | 750ml | 1本(標準) |
| マグナム(Magnum) | 1.5L | 2本 |
| ジェロボアム(Jéroboam) | 3L | 4本 |
| レオボアム(Réhoboam) | 4.5L | 6本 |
| マチュザレム(Mathusalem) | 6L | 8本 |
| サルマナザール(Salmanazar) | 9L | 12本 |
| バルタザール(Balthazar) | 12L | 16本 |
| ナビュコドノゾール(Nabuchodonosor) | 15L | 20本 |
| サロモン(Salomon) | 18L | 24本 |
| スーヴェラン(Souverain) | 26.25L | 35本 |
| プリマ(Primat) | 27L | 36本 |
| メルキゼデク/ミダス(Melchizédec / Midas) | 30L | 40本 |
主な生産者
シャンパンを用いた料理
シャンパン・グラス
シャンパン用のグラスには、ボウル部分が浅いクープと、細長いフルートが代表的である。クープ、フルートと主流が移り変わっており、近年は香りを楽しむためにチューリップ型のワイングラスも推奨されている。
シャンパンとイベント

下記のイベントなどでは基本はシャンパンを使うが、地域によってはウィスキーや日本酒など国柄や地元の特産酒を用いる場合や、一般的なスパークリングワインで代用する場合もある。
- シャンパンファイト(シャンパンシャワー)
- 表彰式や祝勝会で、優勝した選手や優勝したチームが行う。
- シャンパンタワー(シャンパンピラミッド)
- シャンパングラス(クープ)を、タワー状あるいはピラミッド状に積み上げて、頂点からシャンパンを注ぐもの[62][63]。
- 進水式
- 新造船や新造潜水艦の進水式では、シャンパンをロープで上から吊り、女性がそれを振り子の勢いで船体に叩きつけて瓶を割る。
- フリーフロー
- いわゆる飲み放題のことを、シャンパンについて行う料飲店では「フリーフロー(制限なし流し)」と呼ぶ。時間制が一般である。
- 宮中晩餐会
- 日本の宮中晩餐・午餐では、外国賓客を招く場合、乾杯に慣例としてシャンパンが用いられてきた[64]。
シャンパンが登場、引用される作品
- ヨハン・シュトラウス2世のポルカに「シャンペン・ポルカ」という作品がある。
- ヨハン・シュトラウス2世のオペレッタ『こうもり』第2幕に「シャンパンの歌(合唱)」がある。
- クイーンのアルバム『シアー・ハート・アタック』収録「キラー・クイーン」にてモエ・エ・シャンドンが歌われている。
- ビリー・ジョエルのアルバム『ニューヨーク52番街』に収録されている「ビッグ・ショット」にドン・ペリニヨンが登場する。
- オアシスのアルバム『モーニング・グローリー』には「シャンペン・スーパーノヴァ」という曲が収録されている。
- 映画『カサブランカ』ではイルザとパリで初めて会ったリックが「君の瞳に乾杯!」
- 映画『七年目の浮気』ではマリリン・モンローがおとといの誕生日には一人だったのでといって高級シャンパンを持ってきて主人公とポテトチップスで食べる。
- 映画『死刑台のエレベーター』では主人公の車を盗んだカップルがベンツに乗ったドイツ人夫婦のパーティに招待されるが、シャンパンを出され、男はドイツの占領時代を思うと素直に乾杯できないと言い、女は3本空にする。
- 映画『あなただけ今晩は』ではイルマに客がつかないように英国貴族に変装して500フランで貸切にしたつもりが、娼婦のヒモのトップということで皆にシャンパンを奢らされ、借金が増える。
- 映画『炎のランナー』では貴族の御曹司がハードルの上にシャンパンを並べ、こぼれたら教えてくれ、と言って優雅に練習をする場面がある。
- 映画『月の輝く夜に』ではロレッタが結婚を決めた夜、父親が自分に買ってきたシャンパンに角砂糖を入れて乾杯する。
- 映画『オールウェイズ』では誕生日プレゼントを贈られたドリンダ(ホリー・ハンター)が山火事消火隊のバーで「シャンパングラスにビール」を注文すると、「1998年物のバドワイザーでございます」とバーテンダーが出してくれる。
- 映画『プリティ・ウーマン』では企業買収のやり手エドワードが高級ホテルのルームサービスでシャンパンとイチゴを注文する(イチゴをつまみながら飲むと香りが引き立つという)。
- 映画『タイタニック (1997年の映画)』では、一等客室には高級シャンパン・モエ・エ・シャンドンが、三等客室には黒ビールが提供され、二人の階級差を暗示している。
- 映画『ロスト・イン・トランスレーション』ではスカーレット・ヨハンソン演じるシャーロットがルイ・ロデレールのクリスタルをベッドの上に置くシーンがある。
- ジャック・ヒギンズのショーン・ディロンシリーズでは主人公がルイ・ロデレールとクリュッグを愛飲している。また、必要に応じてボランジェやヴーヴ・クリコといった銘柄も登場する。
- 浜田省吾の11thアルバム「DOWN BY THE MAINSTREET」収録「MONEY」にテレビの向こう側の違う世界の飲み物という設定でドン・ペリニヨンが登場する。
- 宝塚歌劇団の月組公演で、脚本・演出/植田紳爾の『パリの空よりも高く』のプロローグに『シャンパーニュ』という曲が登場する。
- 映画『イングロリアス・バスターズ』ではビストロでの会食の場にペリエ・ジュエのベル・エポックがソーサー型のシャンパングラスに注がれる。