ピノ・ムニエはスパークリングワインに用いられることが多い。シャンパーニュで使用可能な3品種のうちのひとつである。
ピノ・ムニエはフランスでは広く栽培されている品種ではあるが、消費者からは明確な認識を持たれているわけではなく、ラベルに品種名が記されていることは稀である。フランス北部の生産者に好まれているが、これは発芽や成熟がピノ・ノワールよりも安定していることによる。芽吹きは遅く成熟が早いという成長期の特性により、最終的な生産量に大きな影響をあたえる花ぶるい[注釈 1]の被害を受ける可能性が低い。過去数世紀の間、ピノ・ムニエはシャンパーニュで最も栽培されている品種であり、栽培面積の40%超を占めていた。とりわけ、ヴァレ・ド・ラ・マルヌやエーヌ県の冷涼な北向きのブドウ畑では極めて一般的である。オーブ県のような、ピノ・ノワールやシャルドネは十分に熟さない地域でも広く栽培される[5]。シャンパーニュの生産者のなかでは、かつてはピノ・ムニエはさほど重要性が認識されておらず、これはピノ・ノワールやシャルドネを用いる利点が強調されていたことと対照的である。しかし、今ではピノ・ムニエはシャンパーニュにボディとリッチさをもたらすと認識されている。シャンパーニュ地方の生産面積のおよそ3分の1を占めている[6]。
ピノ・ノワールと比べ、ピノ・ムニエからは色が薄めで若干酸味の強いワインができるが、糖度・アルコール度数は同程度になりうる。一般的なシャンパンのブレンドでは、ピノ・ムニエはアロマティックでフルーティーな香りの要素を与える。ピノ・ムニエを主体としたシャンパーニュは、シャルドネやピノ・ノワール主体のシャンパーニュよりも長期熟成には適さない傾向にある。そのため、若いうちに飲むことを意図したシャンパーニュに用いられ、ピノ・ムニエの柔らかく華やかな果実味がピークに来るようにしちえる。著名な例外としては、シャンパーニュメゾンのクリュッグでは長期熟成向けの上級キュベにもピノ・ムニエが多用される[5]。
19世紀には、ピノ・ムニエはフランス北部全体、特にパリ盆地でで広く栽培されていた。ロワール渓谷からロレーヌに至るフランスの北半分を横切る地域でもよく見られていた。今日では、ピノ・ムニエはシャンパーニュ以外ではわずかな量しか作られておらず、ロワール渓谷のトゥーレーヌやオルレアン、コート・ド・トゥール、モーゼルといった地域で見られる程度である。これらの地域ではピノ・ムニエは軽い赤ワインやロゼワインを造るのに使われる。そのようなロゼワインはヴァン・グリと呼ばれるスタイルで造られることも多く、淡いピンク色とスモーキーな香りが特徴となる。
ドイツでは、ピノ・ムニエはシュヴァルツリースリング、ミュラーレーベ、ミュラー・トラウベといった名前で赤ワインに仕立てられることが一般的である。ワインのスタイルとしては、シンプルで軽い半辛口(ハルプトロッケン)のものから、リッチで豊かな香りを持つ辛口ワインまで存在する。近年ではシュヴァルツリースリングは辛口の白ワインにも使われ、爽やかでフルーティーなワインとなる。ドイツにおける主要な生産地はヴュルテンベルクであり、ドイツの全生産面積2424ヘクタールのうち74%にあたる1795ヘクタールが存在する[7]。当地ではシラーヴァインと呼ばれる特有のワインにも使われており、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)で造られるものと比べて、色は淡いピンク色でスモーキーな香りがあり、酸味はわずかに強い。ヴュルテンベルクの生産者のなかにはザムトロートと呼ばれるピノ・ムニエのクローンのひとつを売り出している。ピノ・ムニエはバーデン、フランケン、ファルツといったドイツのワイン生産地域でも多く造られている[5]。シャンパーニュと関わりの深い品種であるにもかかわらず、シュヴァルツリースリングをドイツのスパークリングワインであるゼクトに使われることは近年まで一般的ではなかった。ゼクトでは、通常シャンパーニュのようにピノ・ノワールやシャルドネとブレンドをすることは少なく、辛口の単一品種のゼクトに仕立てられることが多い。ピノ・ムニエはスイスのドイツ語圏や、少量ではあるがオーストリアでも栽培されている[2]。
カリフォルニアでは、1980年代からシャンパーニュを模したスパークリングワインを造るためにピノ・ムニエが栽培されている。現在ではカリフォルニア州における栽培例は主にカーネロスAVAに存在する。オーストラリアにおいては、ピノ・ノワールよりも長いワイン栽培の歴史がある。ヴィクトリア州のグランピアンズでは、かつてはミラーズ・バーガンディとして知られており、赤のステイルワインを造るために使われていた。20世紀後半には栽培が減少しており、2000年代にシャンパーニュスタイルのワインがリバイバルしピノ・ムニエに対する関心が向上するまでそれが続いていた[2]。ニュージーランドにおいては、近年になってピノ・ムニエがスパークリングワイン・ステイルワインの両方に使われるようになった。単一品種ワインとしては、ピノ・ムニエはわずかにジャミーでフルーティーなワインとなり、タンニンは弱く適度な酸を持つ[2]。