トゥルッフ・トゥルウィス
From Wikipedia, the free encyclopedia
- 銀毛のグリギン(Grugyn Gwrych Ereint)
- 殺し屋スルウィドウグ (Llwydawg Govynnyad)
- トゥルッフ・スラウィンTwrch Llawin
- グウィス Gwys
- バヌー Banw
- ベンウィグ Bennwig
- 無記名の一頭
トゥルッフ・トゥルウィス | |
|---|---|
|
Tony Woodman 作トゥルッフ・トゥルウィスたちの塑像 | |
| 子供 |
7頭
|
| 親 | タレッズ・ウレディク(Taredd Wledig) |
トゥルッフ・トゥルウィス(ウェールズ語発音: [tuːɾχ tɾʊɨθ])は、アーサー王物語における怪物級の猪で、ウェールズ語で書かれた『マビノギオン』(1100年頃)の枝篇のひとつ『キルッフとオルウェン』では、アーサー王やその一族郎党や、他に加えられた特殊能力者、猟犬、道具などを得てのち、初めてその狩猟に挑み必須アイテムの取得を果たし、王の縁者キルッフの婚姻探求を助太刀する。
アーサー王の猟犬はウェールズ語の物語ではカヴァス(ウェールズ語: Cafall)だが、その伝承はより古く、ラテン語の史書『ブリトン人の歴史』(9世紀)にも王が猟犬カバル(ラテン語: Cabal[注 1]を伴わせてトロイント(ラテン語: Troynt[注 2])[1]を狩ったという故事が記載される。
また7世紀の古哀歌「Gwarchan Cynfelyn[2] キンヴェリンの詩歌)」(仮訳題名)[注 3]にもこの猪名(単語)が言及されており、これが文献上の初出である[3][7]。他にも、中期ウェールズ語時代の数編に言及されている[8]
ウェールズ語で「猪トゥルウィス」の意と解すことが出来、かつてはアイルランド神話における猪トリアス(Triath)よりの派生語か同根語との論説も提唱されたが、近年では関連性に否定的見解がみられる( § 語源参照)。
キルッフとオルウェン
中世ウェールズの物語集『マビノギオン』の枝篇「キルッフとオルウェン」[14][15]によれば、トゥルッフ・トゥルウィスは、タレッズ公(タレッズ・ウレディク[16])の息子で[17]、元は王族だったがその罪ゆえに神によって豚類(hwch)に変身させられた[18][19]。毒のしたたる剛毛をもち[20][21]、耳の間に櫛と鋏[注 4]と剃刀を隠し持つ[23]。
このキルフッフ求婚譚[24](花嫁探しの旅[25])では、主人公キルフッフは、継母の呪いによって、イスバザデン・ペンカウル[注 5]の娘オルウェンのみしか妻に娶ることはできない運命となる[26]。
課題
その探求(花嫁と婚姻)を成就するには、イスバザデンが課する39の課題(anoeth、複数形anoetheu)[注 6]を達成せねばならない。
トゥルッフ・トゥルウィスの耳のあいだの櫛・鋏・剃刀はそのうちの最大難関である[28]。当初言及されない剃刀は、後のくだりで追加されている[29][30]。 この猪より得た理髪用アイテムも含め、課題のほとんど多くは、新婦の父たるイスバザデンの髪や髭を整えるためのものである[31][注 7]。
付帯する課題
イスバザデンは、トゥルッフ・トゥルウィスを狩れるのはエリの息子グライト[注 8] 飼っている犬ドゥルトウィン[注 9] のみで、さらにその犬用の繋ぎ紐(リーシュ)[注 10]、首輪、鎖が要り、その犬を使い慣らせる唯一の猟犬使いモドロンの息子マボン[注 11]を勧誘しなければならない[注 12][40]。
しかしこれ以外にも、この猪狩りには犬が必要である(詳細はカヴァス § 犬のリスト)。リムヒの二匹の仔狼が要るとされるが[41]、これらが得られたという記述に欠ける[42]。しかし、本来はその二匹のためのリーシュは、髯男ディシスの髭を引っこ抜いて作られる[43][44][注 13][注 14]。この二匹も扱い手が指名されていた[48]。更には、アネト[注 15]とアイスレム[注 16]という犬たちは[49]、ついにトゥルッフ・トゥルウィスがコーンウォールから海へと追われた結末後も、泳ぎ追い続けたという[50]。
他にも、特定の人員や、馬・装備など、結局はアーサー王(アルスル)と、お抱えの狩人たちどもも[51]が要求されている:
- ゲール人ガルセリトというアイルランドの首席狩人(pen-cynydd Iwerddon)[52][53][注 17]
- ニッズの息子グウィンを狩人に[54][注 18]
- その乗馬としてディ(Du)[56]
- フランス王グウィレンヒン[57][注 19]。
- アリン・ダヴェドの息子(mab Alun Dyfed)[60][注 20]を犬の放ち役[61]
- ブルッフ、キヴルッフ、セヴルッフら三名他、うからやから[63][注 21]
巨人ウルナッハ(Wrnach Gawr)の剣(cledyf)[35])は、この猪を殺しうる唯一の武器という触れ込みだったが[64][65][注 22]、アーサーの手の者が巨人を斃すのに使ったものの、猪には果たして試されなかった[66]。
狩猟の経緯
トゥルウィス猪の狩猟は、作品後半の大部分を占める゙[31]、その追跡の様子は、地理的な行程、動員される人海を含め詳細に描写される。キルッフ自身も参加するが、アーサーと郎党が活躍する。
トゥルッフ・トゥルウィスとその七匹の子猪は、アイルランドまで遠征してアーサー軍が見つけ出した。そこからウェールズまで追いたて、けっきょくコーンウォールで追い詰めた[67]。メヌーは、鳥の姿を借り空飛ぶ斥候となってアイルランドを探索、目的の櫛・鋏を持った猪と七匹の子猪を発見。急下降して宝を掠め取ろうとするが、銀色の剛毛[68]一本のみをついばみ、毒がつたわって不随となる[69]。
アーサー勢の戦いの末、猪はアーサーの本国に移動し、ユーヤスとタウィーの間(y rwng Tawy ac Euyas; "Tawy and Ewyas"、不詳だがウェールズ南東部あたり[70])を侵した。アーサーは、セヴァーン河口(ウェールズ語: Aber Hafren)に諸々の軍勢を終結させ、特にコーンウォルとデヴォンの者たちに、なんとしても猪をその河口付近に足止めさせろ、と命じた[注 23]。結局は封じこめにに失敗して突破されるが、セヴァーン川に押さえつけているうちに剃刀・鋏そして櫛を奪取するに成功した。猪は川底に足がかりをつけた拍子に飛び出してしまったが、コーンウォルの端まで追い詰め、海に転落させた。どこに行ったか行方知れずだが、いまだにアネトとアイスレムの2匹が追いつづける、と伝わる[50][71]
語源
ウェールズ語twrchは「猪、豚」の意であり[注 25][73]、トゥルッフ・トゥルウィスは「猪・トゥルウィス」を意味する。アイルランド伝承の猪王トリアス(Triath ri torcraide)[注 26]と同源の可能性は提示されたが、疑問視もされる[75]。ジョン・リースは、古アイルランド語の言葉が中世ウェールズに移入された可能性を是としたが[76]、 レイチェル・ブロムウィッチは、そのような文化交流が必ずしもあったと結論付けるには至らない、とした[77]。
ブロムウィッチによれば、"Trwyth" の綴りは書写生の誤記に由来するもので、元来の語形はtrwydだとしている。一方、このtrwyd の語尾子音 -d と -t の混同により、ラテン語文書ではTroyntやTroitの名称が生じたとする[78]。古い形がTrwydであることは、既述の古歌「キンヴェリンの詩歌」(仮訳名)の出例でも確認できる[注 27][79]
フランス文学への派生
トゥルッフ・トゥルウィスは、フランス文学のアーサー物語で、人間や他の猪に姿を変えて再登場させられている、という考察がある。
クレティアン・ド・トロワ作の『エレックとエニード』に登場する円卓騎士 アレスの息子トール(Tor le fils Arés, アリエスの子トー卿)が、そのような再登場だという説は、イドリス・レウェリン・フォスターが提唱した[80]。さらには、この「アレス」こそが、じつは正しく伝承された、本来の父親の名前に近いのだ、という意見すらある[81]。
また、トゥルッフ・トゥルウィスのキャラクターは、円卓騎士カラドックの物語のなかで、その数奇な兄弟として再登場させられた、という説がある。これは『ペルスヴァル第一続編』の一部、いわゆる「カラドックの書」で展開される。カラドックは、自分が由緒正しい貴族の父親ではなかったと知って激怒し、母を寝取った相手の間男(すなわち実父)である魔術師エリアヴル(Eliavres)に強制的に、牝馬、牝犬[注 28]、雌豚と交尾させ、その獣からそれぞれカラドックの兄弟たちが生まれた。雌豚の子は猪でトルタン(Tortain)と名付けられており、これがウェールズの猪トゥルウィス伝承に由来する、とガストン・パリスが提唱した[82]。