アイルランド神話

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リルの子供たち英語版
バンシー

アイルランド神話(アイルランドしんわ、アイルランド語:Miotaseolaíocht na nGael)とは、キリスト教伝来以前信仰されていたアイルランド土着の神話伝承の大系である。

その基盤は、アイルランド先史英語版時代(紀元400年ころまで[注 1])に語り継がれてきた口承文学である[1][4]。中世になると、僧職などキリスト教化された書士たちが神話を書き留めたが[5]、その内容は少なからず改ざんされ、キリスト教圏の歴史学(年表)や宗教観の枠に無理やりはめ込まれた形で残された[注 2][6]

キリスト教への改宗が進む中で宗教的な意義は奪われてしまったが、完全な形ではないにせよ中世のアイルランド文学にその多くの逸話が保存されている。中世アイルランド文学は、おおよそ四つのサイクル(物語群)として分類でき、神話物語群アルスター物語群フィン物語群歴史物語群英語版(別称「王の物語群」[7])に枝分かれするが[8][7]、神話物語群はもちろん[7]、それ以外のいずれのサイクルも神話的テクストをつづる内容であると認識されている[9]

神話物語群は、読んで名の通り神話であり、トゥアハ・デ・ダナーン神族(長腕のルーをはじめとする)やフォウォレ族(フォモール族、ルーの祖父バロールなど)を扱った内容である[10]。その主要作品には『アイルランド来寇の書[11]、『マグ・トゥレドの戦い[7]、 『リールの子たちの悲しみ英語版』等がある[12]

アルスター物語群は、赤枝騎士団英語版にちなみ「赤枝のサイクル」などとも称し[13]、それを代表する一大作品『クーリーの牛争い[注 3][13][15][16][7]を含め、多くはクー・フーリンが活躍する[13][注 4]

フィン物語群は、フィン・マックール率いるフィアナ騎士団の英雄譚で、長編の『古老たちの語らい英語版』が含まれる[19][20][注 5]。王の物語群では、『スヴネの狂乱英語版[注 6]が挙げられる[21]

またサイクル分類に当てはめにくい、エフトラ英語版(異界行)というジャンルの物語があり[23] [24]、名前のごとくケルトの異界英語版に来訪する内容である[25][26](例:『ブランの航海[26]コルマクの異界行英語版[27][注 7])。その他にもディンヘンハス英語版[注 8](「地誌」)に様々な神話・伝説が語られる個所がある[30][32]

さらに、厳密には神話ではないが、これらの物語群に登場する人物を描くなどした民話も多い(特に魔法の牛グラス・ガヴナンとルーの父キアンにまつわる民話、フィンの民話、光の剣クレイヴ・ソリッシュなど参照)。近代アイルランド民話においては、妖精のことをエース・シー英語版[33]áes sídhe、「妖精塚の人々」)と呼び、暗にトゥアハ・デ・ダナーン神族を指す[34][35]。また同義のディーナ・シー英語版とも呼ばれ[36]、これらがもとはトゥアハ・デ・ダナーン神族だったとされており、妖精塚(フェアリー・マウンド)の下に常若の国(ティル・ナ・ノーグ)をつくってそこに住んでいる、としている[38]

トゥアハ・デ・ダナーン

マイルズ・ディロン英語版ノーラ・K・チャドウィック英語版共著の仕分けでは、アイルランドの神々は4つの主要なグループに分けられる。第1グループには、ガリアブリテンの古い神々。 第2グループは、残された神話の多くが取り上げる、アイルランド土着の神々(塚の中に住むという)。第3グループは海に住む神々で、第4グループは異世界探訪譚の神だとする[39]

第2グループは、いうなればトゥアハ・デ・ダナーンのことである。トゥアハ・デ・ダナーンこそがアイルランド土着のペイガニズムにおける神々だったことについては、多くの傍証材料が存在する[35][40]

アイルランド神話の主要な神々はトゥアハ・デ・ダナーンである[41]

トゥアハ・デ・ダナーン[注 9]の名の意味は、異説もあるが[注 10]、そのまま解釈すると「女神ダナ/ダヌの一族」[35][注 11]、あるいは「アナ/アヌの部族」の意味だとされる[注 12][34][35]。アナ/ダナは「神々の母」とされる[47]

主要な男神は、 ダグザ、長腕のルー[注 13]、 銀の腕のヌアザ[注 14]、若さの神オェングス、海神マナナン・マクリル、治癒の神ディアン・ケヒト[注 15]、鍛冶の神ゴブニュ/ゴヴニュがまず挙げられる[注 16][34][35]。知恵の神で戦士でもあるオグマ[48][49][50][51]ニェート英語版がいる[35]

主たる三女神モリガン[注 17]マッハバズヴ[39]、いずれも戦神である[34][52][注 18]

戦の女神バズヴ・カタの名は「戦のワタリガラス[注 19][54](「戦のズキンガラス[56])を意味するが、戦の女神モリガンは、そのような鳥(バズヴ)の形に成りすまして『クーリーの牛争い』での人間部族間の戦争に介入し関わってくる[57][58]。のちにまた英雄に遭遇した際は、ウナギ、オオカミ、牝牛に変化して見せる[59][60]

トゥアハ・デ・ダナーンの祖国はギリシアにあるとされるが[62]、ドルイドの秘術や魔術を北方で修得したという[34][64]。トゥアハ・デ・ダナーンはフェート・フィアダという魔法の霧を立ち込めさせ姿隠しをできたという[65][66][40]。諸芸(詩、鍛冶、工芸、治癒)の達人であるとされている[67]。有名な逸話では、トゥアハ・デ・ダナーンが砦に入場する条件として一芸の達人であることを求めたのに対し、ルーが自分が諸芸の達人である(samildanach)と答えて合格した[68][35]

異界に住むが、人間や人間界との交流もおこなう。特定の地域や地形と関連付けられる神も多い。すなわち、ブルー・ナ・ボーニャのように考古学的には墳墓であるが、民間伝承では神族の住処(シー、sídhe)かとなっている場所があり、異界への入り口が開けているとされる[35][40]エース・シー英語版[33]áes sídhe、「妖精塚の人々」)といえば、婉曲的にトゥアハ・デ・ダナーン神族を指す表現である[34][35]。 のちにゲール人[注 20]ミレー族)の世になりかわったとき、 トゥアハ・デ・ダナーンはシー(妖精塚)のなかの地下に住むのを余儀なくされたという[69][70][71][73]。敗戦後の一族は、各地の妖精丘に散らばり、マナナーンがフェート・フィアダ(魔法の霧)を立ち込めらせて隠し守った[76]

トゥアハ・デ・ダナーンは、敵方であるフォウォレ(フォモール族)とも婚姻関係を結んだため、ヌアザが隻腕となって王座の資格を喪失したのち、フォウォレを父にもつブレスが後継王となった。その圧政による確執から第二次マグ・トゥレドの戦いが引き起こり、ルーが率いて勝利を獲得する。ルーの祖父もじつはフォウォレ族の敵将バロールで、これを討ち取ったのである[34]

(諸説による考察については、トゥアハ・デ・ダナーン § 考察を参照)。

ドルイド

ドルイドは宗教指導者として地域社会から高く評価された。 彼らの役目や起源は議論となるが、それは伝承に書かれていないという事実のためでもある。この証拠文書の欠如は、実践がやがて共通財産になるためと言われている[77]。彼らはよくアイルランド神話に出てきて、天文学を研究している。

英雄

アイルランド神話の英雄たちは異なる2つのグループに分けられる。それは部族内の英雄と部族外にいる英雄である。最初のグループは、人の支配下にある全てを網羅しており、彼の仕事は部族に属さなければならず、その法律の下で生活しなければならない。部族の中で、英雄とは人間種族のことであり神々ではない。英雄たちは、彼らの激怒、情熱、卓越さ、速さで知られている[78]。部族内英雄の一例は、彼を巡ってアイルランドの英雄神話が出来上がったと論じられるクー・フーリン(幼名セタンタ)である。彼は部族の防衛軍であり、一騎打ちの代表者として特徴付けられている。ケルト人は、運命に逆らう事が英雄の偉大な美徳であると考えていた。

2番目は、手つかずの自然が敵対者に属すると想定するものである。これは部族外の英雄を強調しており、最も顕著なのものがフィアナ騎士団の伝説である。彼らは部族制度の外にあり、準遊牧民である狩猟の戦士である。彼らは彼ら自身の指導者の権威の下で生活しており、しばしば英雄たちは半獣性を見せる。この属性によって、英雄たちは神話世界の一部になり、さまざまな神格とつながる[78]

クー・フーリンの戦技を鍛えたのは、いずれも女傑のスカアハの指導やイーフェとの対決であった[79]。似たように、青少年期のフィン・マックールを育て鍛えたのは、女戦士のリアス・ルアフラ英語版であった[80]

神話の原資料

アイルランド神話にとって主要な古写本は3つある[81]。『赤牛の書』(: Lebor na hUidre、11世紀後半~12世紀初頭)[注 21][77]、『レンスターの書英語版』(12世紀初頭)[注 22]、『グレンダルフの書英語版』(MS Rawlinson B 502、Rawl,[注 23]、一部は12世紀初頭の、後年の写本との合本)。これら内容のテキストの成立年代は、写本作成時期よりかなり古い[81]

レカンの黄書英語版[注 24]も最重要な写本で、書写の年代が 1391–1582年と若いものの、内容はごく古いテキストを所収する[81][82][85]。『クーリーの牛争い』[注 3]の最古版の稿本は『赤牛の書』に未完全に保存されるが、同じバージョンのテキストが部分的に『レカンの黄書』に含まれており、所収しており、最古稿本の補完に役立っている[86]。『レカンの黄書』にはフィン・マックールの伝説も含まれる

他にもで14世紀後半または15世紀初頭で重要な資料に、『バリーモートの書英語版』や『 Leabhar Ua Maine (Book of Hy Many)』である[注 25][81]

トゥアハ・デ・ダナーンの四種の神器に関してのより充実したテキストは、黄書・バリモートに記載されるが[87]、略述ならば『来寇の書』にも収められている[88][63]

他の15世紀の『フェルモイの書英語版』(『ファーモイの書』とも)には、例えば『二つの牛乳差しの館の滋養アイルランド語版』が所収される[75][74][注 26][89][90]

近世では、ジェフリー・キーティング英語版の『アイルランド史』(: Foras Feasa ar Éirinn、1640年頃)がある。

これらの資料を使う場合、これは常にだが、それらが製作された環境の影響を問うことが重要である。原稿の大半はキリスト教徒の修道士によって作成されたもので、彼らは土着文化を記録したい欲望と エウヘメリズムされた神々の一部をもたらしている異教信仰に対する自分たちの宗教的敵意の間に、葛藤があった可能性がある。後年の資料の多くは、アイルランド国民の歴史を創造するためのプロパガンダを一部形成しているかもしれず、それはジェフリー・オブ・モンマスや他の人によって広められたローマ創設者たち(の神話)からイギリス侵略者の神話的降臨との比較ができよう。また、知られているギリシャの図式や聖書の系譜に合わせて、アイルランドの系譜を再加工する傾向もあった。

中世アイルランド文学は古代ケルト人からの幾世紀にもわたる口頭伝承で、本当の古代の伝統を事実上変わらない形で保持してきたことに、かつては疑いの余地がなかった。ケネス・ジャクソン英語版はアルスター物語群を「鉄の時代の窓」と記述し、ギャレット・オルムステッドは、アルスター物語群の叙事詩である『クーリーの牛争い』と、グンデストルップの大釜の図像とを平行(同列)に描こうと試みた。しかしながら、この「ネイティビスト(極端な保護主義)」の立場は、ラテン語学習に伴う古典文学の叙事詩の意図的な模倣においてその多くがキリスト教時代に創作されたと確信する「リビジョニスト(修正主義)」の学者によって異議が唱えられている。

修正主義者は、クーリーの牛争いの中にイーリアスによる影響が明白な小節を示したほか、ダレス・フリギウス英語版著『トロイア滅亡史(De excidio Troiae historia)』のアイルランド適応版である『トロイの崩壊』(: TogailTroí[91]の存在がレンスターの書で見つかった。物語の文化素材は、一般的に遠い過去よりも物語構成時期のより近いものを記述している。素材の(内容を鵜呑みにせず、模倣や改作があった前提での)批判的読解を促すコンセンサスが主流となっている。

神話物語群

古き神の物語とアイルランドの起源からなる神話物語群は、4つのサイクルの中で最も保存が良くない。基本的には島に侵入する者と島に住まう者に関する話である。その人々とはケセアー英語版族とその追従者、フォモール族ニーム族英語版フィル・ヴォルグ族、トゥアハ・デ・ダナーン族、ミレー族などが含まれる[81]。最も重要な資料は『ディンヘンハス』(: Dindṡenchas/Dindshenchas[注 27]と『アイルランド来寇の書』(: Lebor Gabála Érenn)である。他の書物は、『オェングスの夢』『エーダインの嘆き英語版』『マグ・トゥレドの戦い』、といった神話的な話を保存している。全てのアイルランド物語で最も有名な話の1つ、『リルの子供たち英語版の悲劇』(またはOidheadh Clainne Lir)もこの物語群の一部である。

ルグの魔法槍(ルーン号)、H.R.ミラー

『アイルランド来寇の書』は、アイルランド人の祖先をノア以前にさかのぼる、アイルランドの偽歴史である[92]。アイルランドの島にはつごう6つ(7つ)の「来寇」(侵略)の波が押し寄せる:1)ノアの孫娘ケシル英語版ら洪水を逃れた一行、2)パルトロン英語版 3)ネヴェズ英語版 3a)フォウォレ(フォモール族)は海賊的で開拓民ではないので数えない向きがある。4) フィル・ヴォルグ 5) トゥアハ・デ・ダナーン 6) ミレー族(ゲール人)[92][93]

神話物語群の主要なテキストの一つである『マグ・トゥレドの戦い』は[93]、トゥアハ・デ・ダナーンがフィル・ヴォルグと対峙した第1次の戦いと、フォモール族と衝突した第2次のマグ・トゥレドの戦いを書き記す[93]。第2次では、敵将の魔眼のバロールを長腕のルグ: Lug Lámfhota[68])が討ち取ったことは[68]すでに述べた。この戦いの略述も『来寇の書』にみつかる[94]

ゲール人の到着に伴ってトゥアハ・デ・ダナーンは地下へと隠居し、後の神話と伝説の妖精民族になった。

『ディンヘンハス』はアイルランド初期の偉大な固有名詞学作品であり、一連の詩の重要な場所の命名伝説を与えている。それは 神話物語群の人物と物語に関する多くの重要な情報を含んでおり、トゥアハ・デ・ダナーンがミレー族に打ち負かされたタルトゥの戦いも含まれる。

中世までトゥアハ・デ・ダナーンは、初期アイルランド黄金時代の姿形を変える魔術師集団と同じくらいで、あまり神として見られていなかったことに注意することが重要である。『アイルランド来寇の書』や『マグ・トゥレドの戦い』などの書物は、遠い過去の王や英雄として伝えられ、死の話で完結する。

アルスター物語群

クー・フーリンが川の向こうに フェル・ディアド を運ぶ

アルスター物語群は伝統的に第1世紀(西暦元年-100年)前後に設定されており、大半の行動がアルスターおよびコナハト地方で起こったことである。それは、アルスターの王コンホヴァル・マク・ネサの生涯や、ルグの息子である偉大な英雄クー・フーリンの生涯、そして彼らの友人や恋人、および敵たちを扱う英雄譚の集まりで構成されている。これらはウラッド英語版、またはアイルランド北東端の人々であり、物語の動きはアーマーの近代的な街付近にあるエヴァン・マハ英語版: Emain Macha)の王宮法廷を中心にしている。ウラッドはスコットランドにおけるアイルランドの植民地と密接な関連があり、クー・フーリン訓練の一部はその植民地で行われた。

この物語群は、英雄の出生、幼少期の訓練、求婚、戦い、宴会、死亡の物語で構成され、戦闘は主に単一の戦闘からなり、富が牛で測定される戦士社会を反映している。これらの物語は、主に散文で書かれている。 アルスター・物語群の主題は『クーリーの牛争い』(: Táin Bó Cúailnge)である。他の重要な物語としては、『コンラ』の悲劇(『アイフェの一人息子の最期英語版』)、『ブリクリウの饗応英語版』、『ダ・デルガの館の崩壊英語版』がある[95]。『ディアドラ』の悲劇(『ウシュリウの息子たちの流浪アイルランド語版』、近世版『ウシュリウの子らの最期アイルランド語版』)は、よく知られ、ウィリアム・バトラー・イェイツの一幕劇(1907年)、ジョン・ミリントン・シングの三幕劇(『悲しみのディアドラ英語版』、1910年)などの原典になっている[96][17][18]

この物語群は、少なからず神話物語群に近いものがある。 一部のキャラクターが後年にも再登場しており、姿形を変える同じ種類の魔法など、厳格でほとんど非情な写実主義と並んで(神話群に近い)多くの証拠がある。メイヴクーロイ英語版のような、かつて神格とされたいくつかの人物は怪しいが、特に超人的な豪勇を誇ったクー・フーリンは、命がある(死んでしまう)キャラクターながら特定の時間と場所に関連付けられている。仮に神話物語群が黄金時代を表すなら、アルスター物語群はアイルランドの英雄時代と言える。

フィン物語群

アルスター物語群と似て、フィン物語群はアイルランドの英雄の行為に関するものである。フィン物語群は3世紀頃、主にレンスターマンスターの地域に設定されている[81]。それらはスコットランドにおけるゲール語話者コミュニティとの繋がりの強さが他の物語群とは違っていて、同国からフィンの書物が数多く現存する。また、アルスター物語群と違って物語が主に詩で語られており、内容のトーンとしては叙事詩の伝承よりもロマンスの伝承に近い。物語はフィン・マックールと彼の兵士隊、フィアナ騎士団の行動に関するものである。

フィン・マックールがフィアナ騎士団を助けに駆け付ける。

フィン物語群の最も重要な資料は『古老たちの語らい英語版』(: Acallam na Senórach)で、これは15世紀の2つの手写本『リズモアの書英語版』と『Laud 610写本』、同じくダブリン県キライニー英語版からの17世紀の手稿がある。言語学的証拠から文章は12世紀のものである。 この書物は、最後まで生き残ったフィアナ騎士団のカールティ・マク・ローナーン英語版[97]オシーン英語版そして聖パトリックの間の会話を記録したもので、約8000行からなる。 書物の後年の日付は、フィンの物語のための長い口頭伝承を反映した可能性がある。 フィアナ騎士団の物語はフィン・マックールが率いるバスクナ勢力と敵であるゴール・マック・モーン英語版が率いるモーン勢力に分かれている。ゴールはフィンの父親クーアル英語版を戦闘中に殺しており、少年フィンは秘密裏に成長していった。 若いころ、詩の練習をしながら、知恵の鮭英語版を料理している時にフィンは誤って親指を火傷してしまい、自分の親指を吸ったり噛んだりしたら、親指から膨大な知恵の噴出を受け取ったとされる[注 28]。彼は騎士団のリーダーという地位を獲得し、そして彼らの冒険に関する様々な話がここでは語られている。

ディアルムドグラーニアの追跡』(: Tóraigheacht Dhiarmada agus Ghráinne )は[99]、フィン物語群でもっとも偉大な散文物語とされるが、古くともせいぜい17世紀の、現代アイルランド語の稿本しか伝わらない;しかし一部の要素は10世紀に遡るとされる[注 29]。また、フィンの息子オシーン英語版が異郷ティル・ナ・ノーグの恋人ニーヴ英語版にめぐりあう物語も[101]、アイルランドに広く伝搬されてきたが、口承文学としてであって、1750年ころ、ミホール・コミーン[注 30]の『常若の国のオシーンの物語詩』[103][注 31]によって初めてそのテキストが成立した[104]

フィン物語群の世界では、職業戦士が精霊世界の中で狩り、戦い、冒険に時を費やしている。騎士団への新入隊者は、詩に造詣があって、数々の体力テストや試練を経験することも期待されている。詩の大半はオイシンによって作られたものとなっている。この物語群はキリスト教以前とキリスト教時代の間のつなぐ橋渡しだとされている[81]

歴史物語群

彼らが奉仕した王の系譜や王家の歴史を記録することは、中世のアイルランド詩人または法廷書記官の義務の一部であった。ここは、神話と歴史を大なり小なり融合させた詩で成り立っている。その結果生まれた物語には、様々な独立したグループがあるため、歴史物語群や王家物語群、またはもっと正確にサイクルズ(複数の物語群)として知られるようになった。

ここに含まれる王の範囲は、紀元前431年頃にアイルランド上王になったと伝えられる、ほぼ完全に神話的なラブレド・ローンスク英語版から、紀元後978年即位の完全に歴史上の人物ブライアン・ボルにまで及ぶ。しかしながら、歴史物語群の最も輝かしいものは、詩と散文で語られた12世紀の『スヴネの狂乱(スウィーニー)』(: Buile Shuibhne)である[注 6]ダルアレディ英語版の王、スウィーニーは聖ロナン英語版による呪いをかけられて、半人半鳥の姿になってしまい、人間の仲間から逃げ出して森の中で生涯を生き延びる罪を受けることとなった[106][27]。その物語は現代アイルランド詩人の想像力を掻き立て、トレヴァー・ジョイス英語版シェイマス・ヒーニーによって翻訳された[注 32][107]

その他の物語

冒険譚

冒険譚(: echtrae)とは、アイルランドの異世界(海を西に渡った向こう側、地下、普通の人間では見えない場所)を訪れる物語のグループである。最も有名な『ティル・ナ・ノーグのオイシン』 はフィン物語群に属するが、『コンレの冒険英語版』『フェバルの息子ブランの冒険英語版』『ロイガレ英語版の冒険』など、いくつかの独立した冒険譚がある。

航海譚

航海譚(: immrama)は、海旅の話であり、漁師の経験と異世界(への冒険)要素を組み合わせた結果生まれたとみられる、不思議な物語である。原稿には7つと書かれている航海譚のうち、現存するのは3つだけ。『メール・ドゥーインの航海英語版』『クーレイ・ウァ・コーラの航海英語版』『スニーガスとマク・リアグラの航海英語版』である。メール・ドゥーインの航海は後年の『聖ブレンダンの航海』の先駆作品である。古代ではなく8世紀後半の作品だが、 ヨーロッパ文学に影響を与えた『アダムナンの幻想英語版』が含まれる。

民間伝承

詳細はアイルランド民話英語版を参照。

20世紀初頭、ヘルミニー・テンプルトン・カバナフ英語版が多くのアイルランド民話を書きとめ、雑誌や2冊の本を出版して残した。彼女の死から26年後、『ダービー・オジルと善良な人々』『古き望みの灰』は『ダービーおじさんと不思議な小人たち[109] 』という映画に仕上げられた。注目のアイルランド劇作家、グレゴリー夫人も、アイルランドの歴史を保存するため民俗物語を集めた。

脚注

文献

関連項目

外部リンク

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