フォックス家の殺人
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第二次世界大戦で活躍したデイヴィー・フォックス大尉は、英雄として故郷のライツヴィルに帰ってきて、出征の直前に結婚した従妹のリンダと結婚生活を送るが、戦争で精神をすり減らしたデイヴィーは危うくリンダを絞め殺そうとしてしまう。それは戦争だけではなく、12年前に父のベイヤードが妻のジェシカをジギタリスで毒殺した咎で現在も服役していることが原因となっており、リンダはデイヴィーを説得して「災厄の町」事件でライト家を助けたエラリー・クイーンにベイヤードの事件を調べ直すことを依頼する。 ベイヤードの有罪は法廷で立証されており、無実の拠り所は出征の前に面会した際にベイヤードがデイヴィーにそう主張した言葉しかなかった。しかし、エラリーは望みは薄いといいつつも再調査を引き受け、数年振りにライツヴィルへ向かう。
エラリーの父、リチャード・クイーン警視の口利きでハウイー刑事の監視の元、久しぶりに外へ出たベイヤードはかなり無気力な状態だったが、これがデイヴィーのためになると聞き、協力を決める。 エラリーはまず事件当時の再現を試みる。現場はベイヤードたちの家で、場所はリンダの両親、タルボットとエミリー・フォックス夫妻の家の隣だが、12年間誰も立ち入らない状態だった。ジギタリスはジェシカに処方された薬だったが、事件より前に服用をやめており、事件以後は残っていた薬がなくなっていた。事件の日、デイヴィーは学校に行っており、病身のジェシカは調子が良く、2階の寝室から降りてきた。タルボットはジェシカのために届けてもらった直後のぶどうジュースの瓶を開け、自ら台所の水差しとグラスを用いてジェシカに提供したが、2時間ほど後にジェシカの具合が悪くなり、一度復調したものの、翌日死亡した。 ジュースの瓶には細工の余地はなく、ジェシカはその日ジュース1杯以外の何も口にしなかったと本人が述べている。家にはタルボットやエミリー、薬局の店員であり、何故かなくなっていたアスピリンを届けに来たアルヴィン・ケインらも訪れていたが、ベイヤード以外にジギタリスを盛る機会のあったものはいなかった。毒が混入されたのが他の何かやグラスではなく水差しらしいことが確かめられ、タルボットが訪れた理由が、当時言われていた仕事の話ではなく、道ならぬ恋に落ちていたタルボットとジェシカの今後の話をベイヤードとするためであったという新事実も語られたが、ベイヤード以外に機会のあったものはいないということに変わりはない。 再現を終えたエラリーは、当時ジェシカを診察したウィロビー医師を訪れ話を聞くが収穫はなかった。その夜、ベイヤードの家に何者かが侵入し、タルボットの家からそれを目撃したエラリーはベイヤードの家へ行くが、相手の顔も見ぬまま殴られ気絶してしまう。しかしエラリーはむしろ喜ぶ。これまで放置されてきたベイヤードの家に今日になって賊が入るということは、事件が再調査されると都合が悪い者がいるということを示しているからだ。
ベイヤードの書き物机の鍵のかかった抽斗から何かが持ち出されていたが、ベイヤードもそこに何が入っていたのか覚えていなかった。エラリーは手がかりを得るべく町へ出るが、そこで地元の有名人のサインを蒐集しているエミリーン・デュプレから、薬局の調剤記録台帳に混じっていた、ケインに要求していたサインをついに提供されたところ、ベイヤードがジギタリスを注文していた記録があったのを提示される。しかし、その後ベイヤードが机に仕舞っていたものが遺言書だとわかり、結局のところそれは、リンダに横恋慕していたケインが、遺言書からサインを偽造してベイヤードがジギタリスを入手したという偽の証拠をつくり、デイヴィーを追い詰めて町から追い出そうという策の一部にすぎなかったことがわかる。この件が不本意に終わってもエラリーは諦めず、ジェシカが使った水差しとグラスの現物を調べようとする。 それは裁判が終わった直後に返却されていたが、箱に仕舞われたまま放置されており、デイヴィーのおもちゃや化学実験セットと一緒に見つかった。なくなったアスピリンもそこにあった。エラリーが水差しを注意深く調べると、ジュースをもう1杯分入れた痕跡が見つかった。ベイヤードではなく、ジェシカ本人の証言からも、彼女が飲んだのでもない。ジェシカがぶどうジュースを飲んでから体調を崩すまでのベイヤードがいない間に、町の外からジェシカの友人が来たらしいことが分かってきて、エラリーはその友人に連絡を取る。
その友人のボネールはわずかな時間しか町におらず、唯一の目撃者であるタクシー運転手は事件と前後して事故死していたため誰も存在を証言する者がおらず、ボネールも急遽外国へ出かけることになり、事件のことは裁判が終わった後で、断片的にのみしか知らなかったため、本人も事件に関わりがあるとは思っていなかったのだった。ボネールは同じ水差しから入れたぶどうジュースを飲んだことと、その後体調不良に陥っていないことを証言する。これはベイヤードが用意したぶどうジュースに毒が入っていなかった証拠になるため、彼の無実が証明されたといえた。 ベイヤードは裁判のやり直しを求めず、恩赦と名誉回復で穏便に済ませるが、その後フォックス家の面々はエラリーに、ジェシカを殺したのは誰なのか聞きに来て、エラリーはジェシカの自殺であるという結論を述べる。 しかし、ベイヤードは納得せず、今度は1人で本当のことを教えてほしいと言ってくる。エラリーは言い抜けようとするが、ベイヤードはジェシカの自殺をまったく信じず、ついにエラリーはデイヴィーが化学実験ごっこでジギタリスをグラスに入れ、忘れていたために起こったことだと告げる。 無論これはただの事故だったが、デイヴィーの正気と幸せのためには彼自身にも、他の誰にも知られる訳にはいかないことだった。ベイヤードはデイヴィーを守るという仕事ができたと言い、生気を取り戻すのだった。
主な登場人物
- デイヴィッド(デイヴィー)・フォックス - 退役空軍大尉。「空飛ぶきつね」の渾名でライツヴィルの英雄として迎え入れられる。
- リンダ・フォックス - デイヴィーの妻。夜中に、無意識のデイヴィーから首を絞められ、夫婦でエラリーに相談する。
- タルボット・フォックス - リンダの父親。デイヴィーの義父。
- エミリー・フォックス - リンダの母親。デイヴィーの義母。
- ベイアード・フォックス - デイヴィーの父親。妻ジェシカを毒殺した罪で服役中の懲役囚。
- アルヴィン・ケイン - 薬剤師。リンダとの不倫を疑われている。
- エラリー・クイーン - 名探偵の推理小説家。フォックス夫妻の依頼で、ライツヴィルを再訪する。
提示される謎
- スリーピング・マーダー(眠る殺人)
特記事項
『災厄の町』に次ぐ長編だが、前作の登場人物[注 2]が特に事件に絡むわけでもなく、読む順番は問わない作りになっている。