ボトリオコッカス
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ボトリオコッカスは、トレボウクシア藻綱に分類される1属であるボトリオコッカス属(学名: Botryococcus)のこと、またはこれに属する緑藻のことである。特にタイプ種であり最もよく知られた種であるボトリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)を意味することも多い。ボトリオコックス、ボツリオコッカス、ボツリオコックスと表記されることもある[21]。多数の細胞が樹状の細胞外基質でつながってブドウの房状の群体を形成し、さらに寒天質で包まれる。基本的に緑色であるが、カロテノイドを多量に蓄積して赤色になることもある。細胞はくさび形から楕円形、葉緑体を1個含む。世界中の淡水止水域に広く分布するプランクトンであり、ときに大繁殖する。多量の脂質を生成するが、この脂質が炭化水素であり、細胞外に分泌される点で他の多くの藻類と異なる。そのため、バイオ燃料生産の有望候補として広く研究され、一部は実用化されているが、増殖が遅いことなどが障害となっている。また、現在の石油の少なくとも一部は、ボトリオコッカスに由来すると考えられている。
| ボトリオコッカス属 | ||||||||||||||||||||||||
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1. 押しつぶされた Botryococcus braunii の群体 | ||||||||||||||||||||||||
| 分類 | ||||||||||||||||||||||||
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| 学名 | ||||||||||||||||||||||||
| Botryococcus Kützing, 1849[6] | ||||||||||||||||||||||||
| タイプ種 | ||||||||||||||||||||||||
| Botryococcus braunii Kützing, 1849[6] | ||||||||||||||||||||||||
| シノニム | ||||||||||||||||||||||||
| 和名 | ||||||||||||||||||||||||
| ボトリオコッカス[10][11][12][13][14]、ボトリオコックス[15][16][17]、ボツリオコッカス[18][19]、ボツリオコックス[20] |
特徴
樹状に分岐した細胞外基質に、多数の細胞が埋没してブドウの房状の群体を形成しており、さらに群体全体が多糖質の外被で覆われている[6][22](図1, 2)。群体は球形から楕円形、ふつう直径30–200マイクロメートル (µm) ほどであるが、1ミリメートル (mm) に達することもある[6][10]。基本的に緑色であるが、カロテノイドの蓄積程度などによってオレンジ色や赤色のこともある[6][10]。

細胞はくさび形から楕円形、長さ8–20 µm、直径5–14 µm、細胞壁に囲まれており、基部側が寒天質基質に埋没している[6][22][10][23]。単核性(核は1個)であり、側膜性の葉緑体を1個有する[6][22][10][23](図1, 2)。葉緑体は光学顕微鏡下では不明瞭なピレノイドを含み、ピレノイド基質にはチラコイド膜が多数貫通している[6][23]。光合成色素としてはクロロフィルa、b、ルテイン、ネオキサンチン、ビオラキサンチン、ロロキサンチン、α-カロテン、β-カロテンを含み、また細胞外カロテノイドとしてはエキネノンを有する[24]。
細胞は脂質顆粒(油滴)を多く含み、また脂質を細胞外へ分泌し、細胞外基質に蓄積される[6][10][23](図1, 2)。脂質含有量は、乾燥重量の70%に達することもある[10][11]。顕微鏡観察すると、カバーグラスに押しつぶされて脂質が群体外に滲み出るのが観察できる[10]。多くの藻類において蓄積される脂質はトリアシルグリセロールであるが、ボトリオコッカス属が蓄積する脂質はおもに炭化水素である[10]。ボトリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)の中には、脂質の生成過程や脂質の種類が異なる複数の系統(race)が知られており、A系統(race A)、B系統(race B)、L系統(race L)、S系統(race S)とよばれる[10][25][12]。
- A系統(race A)– 脂肪酸から合成し、炭素数23–33(奇数個)のアルカジエンやアルカトリエンを生成する[10][25][12]。
- B系統(race B)– テルペノイドから合成し、CnH2n-10 (n = 30–37) のトリテルペン(ボトリオコッセンなど; 図3)を生成する[10][25][12]。
- L系統(race L)– フィトール、リコペン、カロテンから合成し、リコパジエン (C40H78) を基本構造とする炭化水素を生成する[10][25][12]。
- S系統(race S)– 脂肪酸から合成し、炭素数18または20のエポキシ-n-アルカン、飽和-n-アルカンを生成する[12]。
細胞は、群体の放射方向を軸とした二分裂をして自生胞子を形成し、細胞数が増加し、群体の分断によって無性生殖を行う[6][23]。鞭毛細胞や有性生殖は知られていない[6]。
分布・生態
世界中に分布しており、特に Botryococcus braunii は北極、北米、中米、西インド諸島、南米、アフリカ、ヨーロッパ、中東、南アジア、東南アジア、東アジア、オセアニアから報告されている[26][10]。
淡水域に生育し、さまざまなタイプの湖沼で見られ、プランクトン性(浮遊性)[26]。大量繁殖することもあり、水表面を被覆して緑色や黄色、赤色を呈する[10]。
ボトリオコッカスの群体の細胞外被には、さまざまな細菌が生育している[27][28](図2)。このような共生細菌として‘Candidatus Phycosocius’(アルファプロテオバクテリア綱)に属する2系統が知られており、‘Ca. P. bacilliformis’ は細胞外被表面に付着している桿菌であり、‘Ca. P. spiralis’ は外被内に侵入するらせん状の細菌である[27][28]。このような共生細菌は、ボトリオコッカスの増加・減少に関わっている可能性がある[27][28]。
人間との関わり
石油燃料の枯渇と価格高騰、二酸化炭素削減の観点からバイオ燃料の開発が望まれ、また食料・飼料作物との競合が避けられることから特に藻類に関心が集まっている[29]。ボトリオコッカスは、培養条件によって乾燥重量の70%以上の脂質を蓄積する[11]。バイオディーゼルの1ヘクタールあたりの年間収穫量としては、トウモロコシで0.2トン、アブラナ(菜種)で1.2トン、アブラヤシで6トンであるのに対し、ボトリオコッカスでは最大118トンと推計されている[29][30]。また、ほとんどの植物・藻類がトリアシルグリセロール(燃料とするためには処理が必要)の形で脂質を細胞内に蓄積するのに対し、ボトリオコッカスの産生する脂質の多くは炭化水素(直接燃料にできる)であり、細胞外被に蓄積する[11]。ボトリオコッカスの産生する炭化水素は、構造的に化石燃料に類似している[11]。そのため、ボトリオコッカスはバイオ燃料生産の有望候補として盛んに研究されている[11]。また、ボトリオコッカスの化石は、一部のオイルシェールの中から見つかっており、過去には実際に化石燃料の形成に関わっていたと考えられている[10]。
しかし、培養下ではボトリオコッカスの増殖は一般に遅く、実用化に向けての大きな問題となっている[10]。一般的に、培養下での倍加時間は7日程度であるが、株の選択、有機物添加、二酸化炭素通気、共生細菌の存在などによってある程度改善することが報告されている[10]。培養技術については、肥料費削減と排水処理のための排水利用も試みられている[31][18]。また、発電や製造業で発生する産業排気ガスを二酸化炭素源として利用することも検討されている[18]。培養する地域としては、日射強度と気温が高く安定している低緯度地域が好ましい[18]。
神戸大学や株式会社IHI、ちとせ研究所、NEDOなどが、1,500平方メートル、さらに10,000平方メートル規模のボトリオコッカス野外培養施設を設置し、屋外開放系培養に成功している[18][32][33][33][34][35]。また、このような培養で得られた油から航空用代替ジェット燃料(持続可能な航空燃料、航空バイオ燃料)が製造され[36][37][38]、試験的に利用されている[39]。
また、現時点では燃料用としてはコストが高いため、より付加価値が高い用途として、ボトリオコッカス脂質(ボトリオコッセン)の保湿性が高いことを利用したハンドクリームが開発・市販されている[31]。
分類
ボトリオコッカス属(Botryococcus)は、1849年にKützingによって Botryococcus braunii を基に記載された[26]。Botryococcus braunii のタイプ産地はスイスのヌーシャテル湖[26]。
ボトリオコッカス属の分類学的位置は長らく安定していなかった。1950年代までは、黄緑色藻綱(不等毛藻)に分類されることが多かった[40][41][42]。しかしその後、(広義の)緑藻綱、クロロコックム目に分類することが多くなった[42]。1980年ころから緑藻の分類体系は大きく変更されたが、その中でのボトリオコッカス属の位置付けはしばらく明らかではなかった。20世紀末ごろから分子系統学的研究が行われるようになり、当初は、ボトリオコッカス・ブラウニー(Berkeley株)が(狭義の)緑藻綱オオヒゲマワリ目に属することが示唆された[26][43]。しかし、その後行われた研究では、ボトリオコッカス・ブラウニーは一貫してトレボウクシア藻綱に属することが示されており、最初の結果はコンタミネーションによるものと考えられている[26][43]。
トレボウクシア藻綱の中では、ボトリオコッカス属はコリキスティス属(Choricystis)に近縁であり、またコッコミクサ属(Coccomyxa)やエリプトクロリス属(Elliptochloris)などと共に系統群を構成しており、この系統群はCBCE系統群(CBCE clade)やボトリオコッカス系統群(Botryococcus clade)、コリキスティス系統群(Choricystis clade)、コリキスティス・ボトリオコッカス系統群(Choricystis/Botryococcus clade)などとよばれる[1][3][4][5]。
ボトリオコッカス属内の分類は、群体や細胞の形態に基づいていくつかの種が記載されている[6][10](下表1)。ただし、同一の株であっても培養条件によってこのような形態的特徴は大きく変化することが明らかとなっており、タイプ種であるボトリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)以外の実在については疑問視されることもある[10]。一方で Botryococcus braunii の中には、脂質組成や合成経路が異なるいくつかの型(A, B, L, S)が存在することが知られているが(上記参照)、これらは系統的にもおおよそ分けられる(A系統が他と離れており、B, L, S系統が単系統群を形成)ことが示されており[44][45]、それに応じて複数種に分ける意見もある[46]。
表1. ボトリオコッカス属の分類の一例[6]
- ボトリオコッカス属 Botryococcus Kützing, 1849
- Botryococcus australis J.Komárek & P.Marvan, 1992
- Botryococcus balkachicus Zalessky(化石種)
- Botryococcus braunii Kützing, 1849(タイプ種)
- シノニム: Botryococcus giganteus Reinsch, 1877[26]; Botryomonas natans Schmidle, 1899[26]; Botryodictyon elegans Lemmermann, 1903[26]; Pila bibractensis C.E.Bertrand & Renault, 1892[26]; Pila australis C.E.Bertrand, 1897[26]; Pila liasica Renault, 1899[26]; Pila scotica Renault, 1899[26]; Pila kentuckyana C.E.Bertrand, 1899[26]; Pila karpinskyi C.E.Bertrand, 1899[26]; Pila lusitanica Renault, 1899[26]; Pila popovii Zalessky, 1928[26]; Reinschia australis C.E.Bertrand, 1893[26]; Reinschia capensis Renault, 1899[26]; Thallodesmium wallichianum W.B.Turner, 1893[26]
- 脂質組成が異なる4つの型(A系統、B系統、L系統、S系統)が知られており、このうちA系統を Botryococcus alkenealis、L系統を Botryococcus lycopadienor として分けることが提唱されているが、これらの名は正式に記載された学名ではない[46](2025年時点)。
- Botryococcus calcareus West, 1892
- Botryococcus canadensis F.Hindák, 1991
- Botryococcus comperei J.Komárek & P.Marvan, 1992
- Botryococcus fernandoi J.Komárek & P.Marvan, 1992
- Botryococcus luteus Traverse, 1955
- Botryococcus micromorus West & G.S.West, 1897
- Botryococcus neglectus (West & G.S.West) J.Komárek & P.Marvan, 1992
- Botryococcus palanaensis Sah & Kar, 1974
- Botryococcus pila J.Komárek & P.Marvan, 1992
- Botryococcus protuberans West & G.S.West, 1905
- Botryococcus pusillus Goor, 1924
- Botryococcus terribilis J.Komárek & P.Marvan, 1992
- Botryococcus terricola Klebs, 1883