ミル属

多種の海藻類が分類されているアオサ藻綱ハネモ目ミル科の属の1つ From Wikipedia, the free encyclopedia

ミル属(ミルぞく、学名: Codium)は、アオサ藻綱ハネモ目ミル科に分類される属の1つである。大きなものは長さ数メートルになる海藻であるが、藻体内の原形質はひとつながりであり、巨大な多核単細胞とも表現される。藻体の形はさまざまであり、枕状、球状、葉状、樹状などの種がいる。体の中では糸状体が密に集まって髄を形成し、糸状体の一部が膨潤してできた構造(小嚢)が密接して表面を覆っている。特異なカロテノイドをもち、くすんだ濃緑色を呈する。大きさの異なる配偶子の合体(異形配偶)によって有性生殖を行う。 極地を除く世界中に分布し、140種ほどが知られる。日本ではミルクロミルナガミルヒラミルタマミルなど23種ほどが報告されている。学名の Codium は、ギリシア語kodion(小さな羊革片)に由来する[2]

特徴

藻体は海綿質、1 cm 程度のものから 10 m に達するものまでいる[1][2]。外形は極めて多様であり、扁平で基質に付着しているものや(図1下)、枕状、球状(図2a)、葉状(図2b)、二又分岐する樹枝状のもの(図1上)などがある[1][2][3]。基本的に体内に隔壁がなく、原形質はひとつながりであり、多数のを含む(多核嚢状体)[1][2]。藻体は分枝する細い糸状体(髄糸)からなり、藻体内部ではこれが密に絡まり合って髄を構成し(多軸性)、表面では糸状体が膨潤して棍棒状の構造(小嚢 utricle)を形成し、これが密接して皮層となり表面を覆っている[1][2][3](図2)。しばしば小嚢から無色の糸が生じており、のちに脱落する[1][3]。小嚢の大きさや形態は多様であり、種の重要な分類形質になっている[1][2]。また、基質に接している部分は仮根となって基質に付着している[1]

2a. タマミルの構造
2b. ヒラミル

細胞壁マンナンアラビノガラクタンを主成分とする[1]。小嚢の基部などでは、細胞壁物質の求心的な沈着により不完全な隔壁(栓状構造)が形成される[1]。"細胞"内の大部分は大きな液胞で占められ、葉緑体を含む原形質は表層に薄く存在する[1]。葉緑体は小嚢内に存在し、盤状でピレノイドを欠き、カロテノイドとしてシホナキサンチンシホネインを含む[1][2]。このため藻体の色はくすんだ濃緑色(海松色とよばれる)であり、これらのカロテノイドは青緑色光を吸収することから、水深が深い環境での光合成に適していると考えられている。ハネモ目の一部で見られる色素体の分化(葉緑体とアミロプラスト)は見られない[2]

配偶子嚢は小嚢に側生し、小嚢とは隔壁で仕切られ(よって分実性)、2本鞭毛性の配偶子を放出する[2]。配偶子は雌雄の差がある異形配偶子であり、雄性配偶子は小型で1–2個の葉緑体をもつが、雌性配偶子は大型で多数の葉緑体をもつ[1]雌雄異株または雌雄同株である[1]。一般的に、配偶子形成時に減数分裂を行い、接合子から藻体が発生する(複相単世代型生活環)とされるが、異論もあり、また藻体が単相であるとする報告もある[1][2]無性生殖は藻体の分断、切り離された配偶子嚢からの発生、雌性配偶子の単為生殖によって行われる[1][2]

分布・生態

北極海と南極海を除くすべての海域に分布するが、特に温帯から亜熱帯の境界付近で多様性が高く、南アフリカ、日本、オーストラリア、カリフォルニア・メキシコなどで種数が多い[1][2]。岩礁域の潮間帯から潮下帯に生育し、水深 40 m からの報告もある[1](図3a)。岩や貝殻に付着している[2]

3a. 潮間帯の Codium sp.(ノルウェー
3b. Codium sp. の体表に小さな紅藻が付着している。

ミル属の皮層は、さまざまな微小海藻(イギス属 Ceramium、シオミドロ属 Ectocarpus、ヤドリミドロ属 Streblonema など)の生育場所となっている[1](図3b)。嚢舌類ウミウシの中には、ミル属の細胞液を吸引し、その葉緑体を一時的な自身の葉緑体(盗葉緑体)とするものがいる[4]

人との関わり

4. マーケットで売られているミル属(Codium tomentosum

ミル属のいくつかの種(ミルモツレミルヤセガタモツレミルCodium papillatumCodium tomentosum など)は、日本、韓国フィリピンマレーシアインドネシアタイインドハワイスペインポルトガルなど世界各地で食用とされることがある[5][6][7][8][9](図4)。ミルや Codium tomentosum は、食用に養殖されている[10][11]。また、ミル属はさまざまな化合物を含み、その生理活性が調査され、免疫刺激作用、抗凝固作用、抗癌作用、抗炎症作用、抗酸化作用、抗ウイルス作用、抗菌作用、抗真菌作用、抗腫瘍作用などが報告されている例がある[12]

ミルは日本周辺から船舶や養殖用カキを介して世界各地に侵入し、侵略的外来種として在来生態系や養殖貝類に害を与えることがある[13][14][2]

分類

ミル属は独自のミル目に分類されることもあるが[3][15]、2025年現在では他の多核嚢状性緑藻の多くとともにハネモ目に分類されることが多い[1]

2025年現在、ミル属には140種ほどが知られている[1]。分類形質としては、藻体の形態の他に小嚢の特徴が用いられる[1][2]。日本からは23種ほどが報告されており[16]、下表1にこれを示す。

表1. 日本産のミル属[1][16]

  • ミル属 Codium Stackhouse, 1797
    • ナンバンハイミル Codium arabicum Kützing, 1856
    • オトヒメミル Codium arenicola M.E.Chacana & P.C.Silva, 2014
    • ヒゲミル Codium barbatum Okamura, 1930
    • クビレハイミル Codium capitatum P.C.Silva, 1959
    • ネザシミル Codium coactum Okamura, 1902
    • サキブトミル Codium contractum Kjellman, 1897
    • ナガミル Codium cylindricum Holmes, 1896
    • オオハイミル Codium dimorphum Svedelius, 1900
    • ミル Codium fragile (Suringar) Hariot, 1889
    • ハイミルモドキ Codium hubbsii E.Y.Dawson, 1950
    • モツレミル Codium intricatum Okamura, 1913
    • ヒラミル Codium latum Suringar, 1867
    • ハイミル Codium lucasii Setchell, 1935
    • チクビミル Codium mamillosum Harvey, 1855
    • タマミル Codium minus (O.C.Schmidt) P.C.Silva, 1962
    • ヒナミル Codium minutissimum Noda, 1968
    • エツキタマミル Codium ovale Zanardini, 1878
    • ヤセガタモツレミル Codium repens P.Crouan & H.Crouan, 1905
    • フクロミル Codium saccatum Okamura, 1914
    • コブシミル Codium spongiosum Harvey, 1855
    • クロミル Codium subtubulosum Okamura, 1902
    • ウスバミル Codium tenuifolium S.Shimada, T.Tadano & J.Tanaka, 2007
    • エゾミル Codium yezoense (Tokida) K.L.Vinogradova, 1979

ギャラリー

脚注

外部リンク

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