メジナ虫
From Wikipedia, the free encyclopedia
メジナ虫(メジナむし、ラテン語: Dracunculus medinensis、ギニア虫)[注 1][1]) は線虫の仲間で、メジナ虫症と呼ばれる疾患を引き起こす[2]。一般名の「ギニア虫症」は、西アフリカのギニア地域に由来する。
症状を引き起こすのは雌[3]で体長およそ80cm[4]に育ち、人間に寄生する線虫では最も長い1種である[5]。標本の観察によると、体の長さは性により極端に差があり(性的二形)、雄は記録上、最長でもわずか4cm[4]。
人間の感染症のうちメジナ虫症は天然痘についで撲滅の努力が重ねられ、メジナ虫(D. medinensis)の仲間の根絶がその条件とされる。
従来はアフリカとユーラシアにみられた疫病であったが、2023年時点の感染地域は罹患数の順にチャド 、マリ、南スーダン、アンゴラ、エチオピアの5ヵ国とされた[6]。アンゴラで感染者が見つかったのは2018年前後とされ、今では風土病として定着したとみなされる。チャドでは飼い犬への感染が深刻である。
一生

メジナ虫のL1幼生は淡水にすみ、カイアシ(小型甲殻類)の仲間の Cyclops 属の体内で発生後14日以内にL3段階に発育して、他の生物に寄生する機能を備える[9]。哺乳類は未濾過の水を飲んで線虫をやどしたカイアシ類(最初の宿主)を体内に取り込むと、カイアシは胃酸で溶けて死に、腸内に放り出されたメジナ虫の幼生は腸壁を食い破り、腹腔および後腹膜腔に移動して成虫になる。第2の宿主の体内で交尾した雄は死に、雌(体長60–100cm超[10])[11]は皮下組織内を皮膚表面に向かって移動する。
感染後およそ1年で、通常は下肢の皮膚表面に水疱を形成する。上肢や陰嚢に現れることもあり、雌は破れた水疱から数日から数週間かけてゆっくりと体外に出てくる[9]。
宿主に与える症状
線虫が皮膚から出るまで、宿主は長くて数日から短ければ数時間、激しい痛みと炎症を患う場合がある。その部位に発熱や痛み、腫れが生じた宿主は耐えがたい灼熱痛を和らげようと患部を水中に沈めることがある。すると雌は幼生数千匹を水中に放ち、やがてカイアシ類に感染して幼生のイフサイクルがつづく[9]。
線虫が出た後の傷口は、しばしば二次的な細菌感染を引き起こし、関節に近い部位の感染症を治療しないままにすると、終生、障がいが残る場合がある。これら症例はしばしば医療施設から遠く離れた地域で発生する[12]。
宿主になる動物
飼い犬の感染を調査したところ、2020年にはチャド1507件、エチオピア15件、マリ8件を数え、飼い猫は61件のチャドが筆頭で3件のエチオピアが次いだ。野生のネコ科動物やヒヒの感染例も報告されている[13]。これらの事例により、原因生物の根絶の成否が憂慮される。
疫学

亜熱帯から熱帯にわたり、幼生の発生にもっとも適した温度帯の摂氏25-30℃の地域でメジナ虫がもっともよく観察され、インド、南西アジア地域(イラク、イラン、パキスタンほか)、アフリカ大陸の都市部以外がそれに当たる[14]。
人が寄生虫を体内に取り込むきっかけは、広くて屋根がなく階段で水面へ降りる井戸、沼の水や雨水を集める貯水槽(英: cistern)などの静水面にすむカイアシ亜綱のキクロプス目(Cyclops (copepods))である[14]。湿潤気候帯では日照りもしくは雨が少ない季節、半乾燥地帯や乾燥期と降雨期が循環する気候帯では雨が降り始めた直後に、繁殖して数を増やす[14]。溜まり水の水位が下がると飲み水を求めて多くの動物が比較的、狭い範囲に集中しやすく、そこで寄生虫を宿したカイアシの仲間と接触する[14]。
治療

雌が皮膚を食い破ってゆっくり体外に出ようとするタイミングで、その部位を水につけて線虫を出しやすくしてから、傷口の消毒を徹底し、線虫にやや圧をかけて傷口から数日がかりで徐々に引き出す。途中で虫がちぎれないように用心しながら力を加減したり作業を止めりする。
こうして作業の途中で体外に露出した雌の体は、棒状に巻いたガーゼの芯もしくは短い棒に巻きとり、戻ろうとする動きを封じる[15]。この時の形状を医学の象徴「アスクレピオスの杖」の形状の由来とする説がある[16][信頼性要検証]。
手順に従ってその日の作業が終わるたび、傷口に抗生剤を塗布してバクテリアの二次感染を防ぎ、ガーゼを巻いて養生する。この手順を繰り返し、線虫の体が全て病変から除去されるまで続ける[15]。