世界ミステリ全集
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『世界ミステリ全集』は、早川書房が1972年から1973年にかけて刊行した翻訳ミステリ小説の叢書で、全18巻から成る。編集委員は小鷹信光、稲葉由紀、石川喬司。各巻は著名な推理作家の長編や短編を収録しており、アガサ・クリスティー、エラリィ・クイーン、レイモンド・チャンドラー、ロス・マクドナルド、エド・マクベインなど国際的に知られる作家が含まれている。第18巻は「37の短篇 傑作短編集」として石川喬司編によるアンソロジーが収録された。刊行期間は1972年2月から1973年6月まで。
特徴
- 日本で初めて「世界の推理小説」を体系的に翻訳・収録した大型叢書として刊行された。
- 編集委員は 小鷹信光・稲葉由紀・石川喬司。
- 長編と短編をバランスよく収録し、最終巻は「37の短篇 傑作短編集」としてアンソロジー化された。
- 翻訳者は 清水俊二、永井淳、宇野利泰 など、当時の第一線の翻訳家が担当した。
スパイ小説の収録
『世界ミステリ全集』では、冷戦期に国際的な人気を博したスパイ小説を複数巻に収録している。これは当時の映画やテレビドラマによるスパイブームを反映した構成とされる。
- 第7巻にはエリック・アンブラーが収録され、『ディミトリオスの棺』『反乱』など、スパイ小説にリアリズムを導入した革新者としての代表作が紹介された。
- 第13巻にはイアン・フレミングとアリステア・マクリーンが収録され、『サンダーボール作戦』(007シリーズ)、『ナヴァロンの要塞』など映画化で世界的に知られる冒険スパイ小説が含まれている。なお、一緒に収録されているイ*ン・フ*ミ*グ(I*n Fl*m*ng)の『アリゲーター』は、ハーバード大学の学生が発行するユーモア雑誌『ハーバード・ランプーン』に掲載された007シリーズのパロディである。
- 第16巻には『ベルリンの葬送』(レン・デイトン)、『寒い国から帰ってきたスパイ』(ジョン・ル・カレ)など文学的評価の高い作品とともに、テレビドラマ『0011ナポレオン・ソロ』のデイヴィッド・マクダニエルによるノベライズ作品が紹介された。
第12巻 デュレンマット/セミョーノフ/シェルバネンコ
第12巻(1972年12月刊行)は、スイス・ソ連・イタリアの作家を収録した異色の構成となっている。収録作は以下の通り。
- フリードリヒ・デュレンマット 『嫌疑』(訳:前川道介)
- ユリアン・セミョーノフ 『ペトロフカ、38』(訳:飯田規和)
- ジョルジュ・シェルバネンコ 『裏切者』(訳:千種堅)
特徴
- 英米中心の全集の中で、ヨーロッパ大陸(スイス・イタリア)やソ連の作家をまとめて収録した点が特徴的である。
- デュレンマットは哲学的寓話性を持つスイスの劇作家・小説家であり、社会派的要素を含む推理小説を紹介する役割を担った。
- セミョーノフはソ連のスパイ・諜報小説の代表格であり、冷戦期の国際的関心を反映している。
- シェルバネンコはイタリアの犯罪小説作家で、後の「イタリア・ノワール」の先駆的存在とされる。
意義
- 日本の読者にとって、英米以外のミステリ作家を体系的に紹介する数少ない機会となった。
- 特にシェルバネンコの収録は、イタリア・ノワールの紹介として資料的価値が高い。
- デュレンマットやセミョーノフの収録は、冷戦期の国際的な文学状況を反映したものとして重要である。
評価
肯定的評価
- デュレンマットやル・カレなど社会派推理小説・警察小説・スパイ小説といった当時の新潮流を幅広く収録し、当時の「国際的なミステリの見取り図」として貴重である。
- 翻訳の質が高く、全集としての完成度が評価される。
- 第18巻短篇集は後年再編集され、再刊行されるほど需要があった。
批判的評価
- 幅広い分野から収録されているため、本格推理小説はアガサ・クリスティ、エラリイ・クイーンが収録されているものの、ジョン・ディクスン・カーの長編が収録されていないなど、全18巻という規模にもかかわらず「抜け落ちた作家」も多く、網羅性には限界がある。
- 国際性の面でも偏りがあり、英米作家が中心で、ドイツ文学や東欧圏の作家はほとんど収録されていない。第12巻でデュレンマット、ユリアン・セミョーノフ、ジョルジュ・シェルバネンコが紹介されたが、国際的な新潮流を体系的に示すものではなかった。
後世への影響
- 日本のミステリ読者に「海外ミステリの古典」を定着させた。
- 翻訳史の観点からも重要で、後の文庫化や再編集の基盤となった。
- 現在では「資料的価値が高い全集」として研究者や愛好家に参照されている。
収録作家一覧
| 巻数 | 各巻題名 | 収録作家 | 発行年月 |
|---|---|---|---|
| 1 | アガサ・クリスティー | アガサ・クリスティー | 1972年2月 |
| 2 | E・S・ガードナー | E・S・ガードナー | 1972年4月 |
| 3 | エラリィ・クイーン | エラリィ・クイーン | 1972年8月 |
| 4 | ウィリアム・アイリッシュ/コーネル・ウールリッチ | ウィリアム・アイリッシュ コーネル・ウールリッチ | 1973年9月 |
| 5 | レイモンド・チャンドラー | レイモンド・チャンドラー | 1972年6月 |
| 6 | ロス・マクドナルド | ロス・マクドナルド | 1972年7月 |
| 7 | エリック・アンブラー | エリック・アンブラー | 1972年3月 |
| 8 | ガーヴ/ブレイク/レヴィン | アンドリュウ・ガーヴ ニコラス・ブレイク アイラ・レヴィン | 1973年3月 |
| 9 | シムノン/ボアロー・ナルスジャック/シモナン | ジョルジュ・シムノン(ベルギー) ボワロー=ナルスジャック(フランス) アルベール・シモナン(フランス) | 1973年4月 |
| 10 | スピレイン/マッギヴァーン/スターク | ミッキー・スピレイン ウィリアム・P・マッギヴァーン リチャード・スターク | 1973年1月 |
| 11 | エド・マクベイン | エド・マクベイン | 1972年5月 |
| 12 | デュレンマット/セミョーノフ/シェルバネンコ | フリードリヒ・デュレンマット(スイス) ユリアン・セミョーノフ(ソ連) ジョルジュ・シェルバネンコ(イタリア) | 1972年12月 |
| 13 | フレミング/フ*ミ*グ/マクリーン | イアン・フレミング イ*ン・フ*ミ*グ アリステア・マクリーン | 1972年10月 |
| 14 | ブランド/ポーター/モイーズ | クリスチアナ・ブランド ジョイス・ポーター パトリシア・モイーズ | 1973年2月 |
| 15 | ジャプリゾ/モンテイエ/エクスブライヤ | セバスチアン・ジャプリゾ(フランス) ユベール・モンテイエ(フランス) シャルル・エクスブライヤ(フランス) | 1973年5月 |
| 16 | デイトン/ル・カレ/マクダニエル | レン・デイトン ジョン・ル・カレ デイヴィッド・マクダニエル | 1972年11月 |
| 17 | ライアル/フランシス/ポール | ギャビン・ライアル ディック・フランシス ジョン・ボール | 1972年9月 |
| 18 | 37の短篇 傑作短編集 石川喬司編 | 複数作家(アンソロジー) → 詳細リスト | 1973年6月 |