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人材開発

企業が人的資源のスキル、知識を引き出し、組織全体の成長と生産性向上につなげるための戦略的な育成・開発活動 From Wikipedia, the free encyclopedia

人材開発(じんざいかいはつ、英: Human Resource Development、略称:HRD)とは、個人のキャリア形成支援、組織のパフォーマンス向上、および国家や社会の経済成長を目的として、人的資源の能力を維持・向上させ・人的資本を形成するための体系的なプロセスである[1][2]。人的資源は単なる生産要素から競争優位の源泉たる人的資本へと変容しており、技術革新やデジタルトランスフォーメーション(DX)に対応するための重要課題として位置づけられている[1]。

概要

人材開発という用語は文脈によって多義的に使用される[2]。実践的には教育研修と同義で扱われる場合がある一方で、学術的には組織変革や国家政策を含む広範なシステムとして捉えられる[3]。

その定義は主体や目的によって異なる。例えば、リチャード・スワンソン(Richard Swanson)は経済的成果を重視し「パフォーマンス向上のための組織的なプロセス」と定義する一方で、国際労働機関(ILO)は社会正義やディーセント・ワークの実現手段として位置づけている[4]。

学術的定義

欧米、特に米国を中心とした学術界において、人材開発は独立した学問領域として確立されており、その定義は活動中心から目的・プロセス中心へと進化してきた。

定義の変遷

1960年代後半、レナード・ナドラー(Leonard Nadler)は、人材開発を「特定の期間内に行われる、行動変容をもたらすことを目的とした一連の組織的な活動」と定義した。その後、1989年の改定では「パフォーマンスの向上および個人の成長をもたらすために、雇用主によって提供される組織的な学習経験」と再定義された[5]。

リチャード・スワンソン(Richard Swanson)とホルトン(Elwood Holton)は、システム論的かつ経済的な視点から、「人材開発とは、パフォーマンス向上のために、組織開発(OD)および個人のトレーニングと開発(T&D)を通じて、人間の専門性を開発し解放するプロセスである」と定義した[3]。この定義は、単なるスキルの習得だけでなく、そのスキルを発揮できる環境整備を含意している点に特徴がある。

カレン・ワトキンス(Karen Watkins)らは、「個人、グループ、組織レベルでの長期的かつ仕事に関連した学習能力を育成する分野」と定義し、ピーター・センゲの「学習する組織」の概念と同様に、組織全体の学習能力(Learning Capacity)の向上を重視した[6]。

理論的支柱

人材開発は単一の理論ではなく、複数の学問分野を統合した「三脚の椅子(Three-Legged Stool)」モデルによって支えられているとされる[6]。

  • 経済学理論 - 人的資本理論、希少資源配分理論という視点で、人材開発をコストではなく「投資」として捉え、効率性と成果を軸としている。
  • 心理学理論 - 学習理論や組織心理学の分野では、人間がどのように学習し、動機づけられ、行動を変容させるかを解明する。
  • システム理論 - システム理論の分野では、組織を入力・プロセス・出力を持つ開放系として捉え、人材開発介入と組織全体の相互作用を理解する。

これに加え、経済効率性の追求による人間性の軽視を防ぐため、倫理が基盤として必要であるとの議論も存在する[5]。

国際機関における定義

国際労働機関(ILO)

国際労働機関(ILO)は、人材開発を「人権」の一部であり、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現手段と位置づけている。2004年の「人的資源開発に関する勧告(第195号)」では、雇用可能性の重視や、インフォーマル経済(法的な保護を受けていない労働市場)への支援が強調されている[4]。

経済協力開発機構(OECD)

OECDは「人的資本」と「スキル」の観点から分析を行っている。人的資本の定義には、知識やスキルだけでなく、非認知能力や健康状態も含まれる。現在は「スキル戦略」として、以下の3本の柱を提唱している。

  • 関連性のあるスキルの開発
  • スキルの供給活性化
  • スキルの効果的な活用

種類

人材開発における活動は一般的に、以下の3つに細分化される[1]。

トレーニングと開発(T&D)

トレーニングと開発(Training and Development、略称:T&DまたはL&D)は、最も歴史が古く中核的な要素である。「トレーニング」は現在の職務に必要なスキル習得(短期的・不足の解消)を指し、「開発」は将来の役割に向けた準備(長期的・潜在能力の開花)を指す[7]。現代では、マイクロラーニングやワークプレイス・ラーニングなど、業務の流れの中で学ぶ手法への移行が進んでいる。

組織開発(OD)

組織開発(Organization Development、略称:OD)とは、個人のスキルアップだけでは解決できない組織レベルの課題に対し、行動科学の知識を用いて組織のプロセスに介入する活動である[7]。組織構造のフラット化や企業文化の変革などが含まれる。個人のパフォーマンスは組織システムに制約されるため、人材開発においてODは不可欠な要素とされる。

キャリア開発(CD)

キャリア開発(Career Development、略称::CD)とは、個人と組織のニーズをマッチングさせる領域である。個人による「キャリア・プランニング」と、組織による「キャリア・マネジメント」の双方を含み、近年では個人の自律的なキャリア形成を組織が支援するパートナーシップ型へと変化している[1]。

日本に取り組み

日本においては、長らく企業内のOJTを中心とした慣行が続いてきたが、少子高齢化や経済環境の変化に伴い、国主導の枠組みと企業の戦略が変化している。

職業能力開発促進法

日本の人材開発政策の根幹をなす法律である。基本理念として、労働者が職業生活の全期間を通じて「自発的な職業能力の開発及び向上」を図ることを促進すると定めている[8]。また、事業主にはキャリアコンサルティングの機会確保などの援助を行う努力義務が課されている[8]。

厚生労働省

厚生労働省が発行する令和6年版の「労働経済の分析」では、構造的な人手不足を背景に、女性や高齢者を含む多様な人材の労働参加を促進するための能力開発が重要視されている[9]。今後の方向性として、個人のニーズに応じた「個別化」、業界や地域で連携する「共同・共有化」、スキルを客観的に証明する「見える化」が提言されている[9]。

経済産業省

経済産業省の「人材版伊藤レポート」は、人材を管理すべき資源ではなく、投資により価値を生み出す「資本」と捉える人的資本経営を提唱した[10]。経営戦略と連動した人材戦略の構築、リスキリング、従業員エンゲージメントの向上などが求められており、人材開発は企業価値向上に直結する投資活動として再定義されている[10]。

人材開発を事業を手掛ける企業や組織の例

関連項目

組織の例

大学等

関連人物

  • 李寧煕(イヨンヒ) ... 韓国の製鉄メーカー・POSCOの人材開発院の教授で、児童文学者でもある
  • 平林久和 ... 執筆、テレビゲーム関連企業向けのアドバイザー業務、人材開発プログラムの開発、各種講演活動などを行っている
  • ツェリン・トブゲ ... 国後は教育省や労働省で官僚としての経歴を積み、主に人材開発分野での活動が目立つ
  • 清野智 ... 人材開発部長(1997年まで)
  • ジョー・ナックスホール ... 伝記の売り上げの一部は、2003年に設立された人材開発プログラムに贈られている
  • 塚本隆史 ... 務執行役員・リスク管理グループ長兼人事グループ長兼人材開発室長
  • 宮島敏 ... 学園主任指導員、川崎市高齢社会福祉総合センター人材開発研修センター学務主任
  • 中野民夫 ... 人材開発を経てコーポレート・コミュニケーション分野で
  • 宮原諄二 ... 戦略人材開発研究所アドバイザリー
  • 長田裕之 (実業家)
  • 遠藤誉 ... 中国国務院西部開発弁公室人材開発法規組人材開発顧問。内閣府総合科学技術会議専門委員など
  • 高倉成男 ... 独立行政法人工業所有権情報・研修館人材開発統括監も
  • 鵜養幸雄 ... JICA招聘研修員研修講師、研修講師、宮城県人事院会研修講師など
  • 福谷正信 ... 「アジア企業の人材開発」 学文社, 2008年
  • 中上晶子 ... 津田塾大学英文科卒業後、サントリー・人材開発部研修課社内教育に従事
  • 菊谷知樹 ... 人材開発 ラジオCM
  • 松本育夫 ... マツダの人材開発担当も

参考文献

  • 佐藤厚 調査研究報告書№95「国際比較:大卒ホワイトカラーの人材開発・雇用システム」(日本労働研究機構)
  • 日下公人 『人材開発の技術 : 人を発掘し、登用する会社が21世紀の優秀会社
  • 大森彌 『21世紀の地方自治戦略(9)行政管理と人材開発』(ぎょうせい, 1993年)
  • 亀川雅人 ビジネスクリエーターと人材開発 創成社 2005 208 (単編著書
  • 小池和男 大卒ホワイトカラーの人材開発(編)東洋経済新報社 1991
  • 小池和男 プロフェッショナルの人材開発(編・監修)ナカニシヤ出版 2006

脚注

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