保坂本源氏物語
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概要
「浮舟」を欠く53帖が現存している。「松風」以降の36帖が鎌倉時代の書写と見られ、伝藤原為家等各筆本とされる。「桐壺」から「絵合」までの17帖は三条西実隆等室町時代中期の青表紙本による補写とされている。本文系統は別本、河内本、青表紙本が含まれる取り合わせ本であり、各系統がそれぞれ何帖になるかについては多少見解が分かれることもあるものの、「陽明文庫本」に次いで別本を多く含むことで貴重な存在であるとされている。
昭和十二年(1937年)二月七日(日)東京帝大山上会議所において開催された展観の解説書[3]には、以下のようにあり、別本の最上位にこの写本を挙げている。
三 別本系統の諸本一五 源氏物語 五十四帖 國寶 傳藤原為家等各筆 保坂潤治氏藏
本書中、十八帖は室町時代中葉の補寫に係る。他の三十六帖は鎌倉時代中期以前の書寫にして、その中別本系統と目すべきもの松風巻以下三十二帖に及ぶ。尤も松風、螢、篝火、野分、御幸、藤袴、夕霧の七帖は河内本に近き本文を有するも、なほ別本と定むべきなり。又、薄雲、藤裏葉、橋姫、椎本の諸帖は、大概に於て靑表紙本と認むべく、補寫十八帖も亦然り。本書中に河内本を含有せざる事は、最も注意を要する事實にして、松風巻の本文判定上傍證とすべき一資料たり。別本系統の古寫本は、他に東山御文庫御藏の一本、紀州徳川家舊藏の本、近衛公爵家藏の一本等ありと雖も、本書の如く完備せるものは他に類例なし。近年國寶に指定せられたり。
伝来
本写本の伝来について判明している限りでは、寛政の改革を主導した江戸時代後期の大名・白河藩主(晩年に桑名藩に移る)の松平定信のもとにあったとされるのが最も古い情報である。松平定信は『源氏物語』に深い関心を抱いていたと見られ、生涯に7度にわたって『源氏物語』全巻を書写したほか、何度か巻名歌を詠んだり、本居宣長の「もののあはれ」論を批判した記録等が残っている[4][5]。
本写本は、松平定信の死後も桑名松平家のもとにあったと見られるが、昭和に入って売りに出され、竹内文平の仲介により、1935年(昭和10年)2月に新潟県の大地主で、豊富な資金を元に当時様々な古文書・古書籍を収集していた保阪潤治が入手したため、「保坂本」の名前で世に出ることになった。保阪は、当時池田亀鑑が進めていた『源氏物語』の校本作成事業のための資料収集に協力していた人物の一人であり、彼が入手したことによって、断片的ながら本写本は池田が作成していた(後に『校異源氏物語』として結実することになる)校本の対校本の一つとして採用されることになった[注釈 2]。本写本は1936年(昭和11年)、当時の国宝保存法により旧国宝(文化財保護法下の重要文化財に相当)に指定されている。
戦後、農地改革や財産税法施行などに伴い、大地主であった保阪はほとんどの財産を失い、本写本も売却されて東京・神田神保町の古書店「一誠堂書店」が購入した[6][7]。その後1983年(昭和58年)に文化庁が購入し[8]、現在は東京国立博物館に所蔵されている。『源氏物語別本集成』では一部(「若菜 上」、「若菜 下」、「柏木」、「横笛」、「匂宮」、「紅梅」、「竹河」、「夢浮橋」)が底本に採用された。また1995年(平成7年)から1997年(平成9年)にかけて伊井春樹・伊藤鉃也・中村一夫らの手による詳細な調査が行われ、影印本が出版された。
写本の状況
本文
校本への採用
本写本の本文は、鎌倉時代の書写と見られる松風以降の別本の本文を持つとされた巻を中心に、『校異源氏物語』及び『源氏物語大成』(校異編)に写本記号「保」として校合本文の一つとして採用されている。
また、『源氏物語別本集成』では大部分で底本に採用されている陽明文庫本の本文が別本でないとされた「若菜 上」、「若菜 下」、「柏木」、「横笛」、「匂宮」、「紅梅」、「竹河」、「夢浮橋」について本写本が底本に採用されており、そのほかの巻でも鎌倉時代の書写と見られる松風以降の巻については、校合本文の一つとして採用されている。
さらに1999年(平成11年)に出版された『CD-ROM 角川古典大観 源氏物語』においては、本写本の本文が電子データの形で収録されており、代表的な青表紙本の本文を持つとされる写本である大島本・代表的な河内本の本文を持つとされる写本である尾州家河内本・代表的な別本の本文を持つとされる写本である陽明文庫本とこの「保坂本」の4写本の本文を、同時に並べて比較できるようになっている[11]。
影印本
伊井春樹・伊藤鉃也・中村一夫らの手による詳細な調査が行われ、その成果が1995年(平成7年)から1997年(平成9年)にかけて影印本という形で刊行されたものである。「浮舟」を除く53帖が1帖ごとに1冊で編冊されているが、2ないし6帖ごとに1巻として箱に入れられて、箱単位で販売されている。最終巻の第12巻には「蜻蛉」から「夢浮橋」までの他に、別冊1として本写本に欠けている「浮舟」帖を、江戸時代初期という保坂本よりはかなり新しい時期の書写と見られるのの保坂本に近い本文を持つとされる東京大学本の「浮舟」帖で補っており、別冊2として本写本の伝来や現状について説明した「解題」が含まれている。
- 保坂本源氏物語 第1巻 (5冊セット) おうふう 1995年(平成7年)11月。ISBN 978-4-273-02861-9
- 保坂本源氏物語 第2巻 (5冊セット) おうふう 1995年(平成7年)12月。ISBN 978-4-273-02862-6
- 保坂本源氏物語 第3巻 (6冊セット) おうふう 1996年(平成8年)1月。ISBN 978-4-273-02863-3
- 保坂本源氏物語 第4巻 (5冊セット) おうふう 1996年(平成8年)2月。ISBN 978-4-273-02864-0
- 保坂本源氏物語 第5巻 (6冊セット) おうふう 1996年(平成8年)3月。ISBN 978-4-273-02865-7
- 保坂本源氏物語 第6巻 (6冊セット) おうふう 1996年(平成8年)4月。ISBN 978-4-273-02866-4
- 保坂本源氏物語 第7巻 (2冊セット) おうふう 1996年(平成8年)5月。ISBN 978-4-273-02867-1
- 保坂本源氏物語 第7巻[1] 若菜 上
- 保坂本源氏物語 第7巻[2] 若菜 下
- 保坂本源氏物語 第8巻 (4冊セット) おうふう 1996年(平成8年)6月。ISBN 978-4-273-02868-8
- 保坂本源氏物語 第9巻 (5冊セット) おうふう 1996年(平成8年)7月。ISBN 978-4-273-02869-5
- 保坂本源氏物語 第10巻 (3冊セット) おうふう 1996年(平成8年)8月。ISBN 978-4-273-02870-1
- 保坂本源氏物語 第11巻 (3冊セット) おうふう 1996年(平成8年)9月。ISBN 978-4-273-02871-8
- 保坂本源氏物語 第12巻 (5冊セット) おうふう 1997年(平成9年)3月。ISBN 978-4-273-02872-5