塩化ネオジム(III)

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塩化ネオジム(III)
太陽光下(上)と蛍光灯下(下)におけるNdCl3
物質名
識別情報
3D model (JSmol)
ChemSpider
ECHA InfoCard 100.030.016 ウィキデータを編集
UNII
性質
NdCl3,
NdCl3・6H2O(六水和物)
モル質量 250.598 g/mol
外観 薄紫色の粉末[1]
潮解性
密度 4.13 g/cm3(六水和物は2.3)[1]
融点 759 °C (1,398 °F; 1,032 K)[1]
沸点 1,600 °C (2,910 °F; 1,870 K)[1]
25 ℃で1 kg/L[1]
エタノールへの溶解度 0.445 kg/L
構造[2]
六方晶UCl3), hP8
P63/m, No. 176
a = 0.73988 nm, c = 0.42423 nm
2
三冠三角柱
(9配位)
危険性
GHS表示:
急性毒性(低毒性)
Warning
H315, H319, H335
P261, P264, P271, P280, P302+P352, P304+P340, P305+P351+P338, P312, P321, P332+P313, P337+P313, P362, P403+P233, P405, P501
NFPA 704(ファイア・ダイアモンド)
NFPA 704 four-colored diamondHealth 2: Intense or continued but not chronic exposure could cause temporary incapacitation or possible residual injury. E.g. chloroformFlammability 0: Will not burn. E.g. waterInstability 0: Normally stable, even under fire exposure conditions, and is not reactive with water. E.g. liquid nitrogenSpecial hazards (white): no code
2
0
0
安全データシート (SDS) External SDS
関連する物質
その他の
陰イオン
臭化ネオジム(III)
酸化ネオジム(III)
その他の
陽イオン
LaCl3, SmCl3, PrCl3, EuCl3, CeCl3, GdCl3, TbCl3, 塩化プロメチウム(III)
特記無き場合、データは標準状態 (25 °C [77 °F], 100 kPa) におけるものである。
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塩化ネオジム(III)(ねんかネオジム(III)), または三塩化ネオジムは、ネオジム塩素からなる無機化合物で、化学式はNdCl3である。無水物は薄紫色の固体で、空気中で速やかに吸湿して紫色の六水和物NdCl3・6H2Oを生じる。塩化ネオジム(III)は、鉱物のモナズ石バストネサイトから多段階の抽出工程を経て得られる。ネオジム金属やネオジムを含むレーザー材料、光ファイバー材料などの製造における中間体として利用されるほか、有機合成の触媒、排水中汚染物質の分解、アルミニウムおよびその合金腐食抑制、DNAなど有機分子の蛍光標識に用いられることがある。

NdCl3は薄紫色の潮解性固体であり、大気中の水分を吸収すると紫色へ変化する。生成する水和物は、他のネオジムと同様に、蛍光灯下で見え方が変化する性質を示し、本化合物では淡黄色に見える(図)。[3]

構造

固体

無水NdCl3では、Ndは9配位の三冠三角柱型配位構造をとり、UCl3型構造で結晶化する。この六方晶構造は、LaCl3LaBr3SmCl3PrCl3EuCl3CeCl3CeBr3GdCl3AmCl3TbCl3など、多くのハロゲン化ランタノイドおよびアクチノイドに共通である。一方で、YbCl3LuCl3では一般的ではない。[4]

溶液

溶液中の塩化ネオジム(III)の形態は溶媒に強く依存する。水中では主な化学種はNd(H2O)83+であり、この状況は多くの希土類塩化物および臭化物に共通する。メタノール中ではNdCl2(CH3OH)6+が主となり、塩酸中ではNdCl(H2O)72+が主となる。いずれの場合もネオジムの配位数は8であるが、配位子の組み合わせが異なる。[5]

性質

NdCl3は柔らかい常磁性固体であり、非常に低温(0.5 K)では反強磁性的な秩序を示すと報告されている。[6] 電気伝導度は約240 S/m、熱容量は約100 J/(mol・K)とされる。[7] NdCl3は水およびエタノールに可溶であるが、クロロホルムエーテルには溶けにくい。650 ℃を超える温度でNdCl3をネオジム金属で還元すると、NdCl2が得られる。[8]

2 NdCl3 + Nd → 3 NdCl2

NdCl3を水蒸気またはシリカとともに加熱すると、オキシ塩化ネオジム(III)が生成する。

NdCl3 + H2O → NdOCl + 2 HCl
2 NdCl3 + SiO2 → 2 NdOCl + SiCl4

約1100 ℃でNdCl3硫化水素と反応させると、硫化ネオジムが生成する。

2 NdCl3 + 3 H2S → Nd2S3 + 6 HCl

高温でアンモニアおよびホスフィンと反応させると、それぞれ窒化ネオジム(III) およびリン化物が得られる。

NdCl3 + NH3 → NdN + 3 HCl
NdCl3 + PH3 → NdP + 3 HCl

また、フッ化水素酸を加えるとフッ化ネオジム(III)が生成する。[9]

NdCl3 + 3 HF → NdF3 + 3 HCl

製法

モナズ石

NdCl3は、鉱物のモナズ石やバストネサイトから得られる。ネオジムは地殻中存在量が低い(38 mg/kg)うえ、他のランタノイドとの分離が難しいため工程が複雑になる。ただし鉱石中の含有率は比較的高く、最大で質量比16%に達することがあり、これはセリウムランタンに次いで高いとされる。[10] 代表的な流れは次のように要約できる。

粉砕した鉱石を熱濃硫酸で処理して希土類の可溶性硫酸塩を得る。酸性ろ液を水酸化ナトリウムでpH 3-4へ部分中和するとトリウムが水酸化物として沈殿し、これを除去できる。次にシュウ酸アンモニウムで希土類を不溶性のシュウ酸塩として沈殿させ、焼成により酸化物へ変換する。得られた酸化物を硝酸に溶解すると、主成分の一つであるセリウム酸化物は不溶のため除かれる。ネオジム酸化物は、イオン交換により他の希土類酸化物から分離される。この操作では、希土類イオンを樹脂中の水素、アンモニウム、銅(II)イオンなどと交換して吸着させ、クエン酸アンモニウムやニトリロ三酢酸塩などの錯形成剤で選択的に溶出する。[9]

この工程で得られる主生成物はNd2O3であるが、酸化物からネオジム金属への直接変換は容易でないことが多い。そのため、酸化物を塩酸および塩化アンモニウムで処理してNdCl3へ変換する手法が用いられる。[9]

Nd2O3 + 6 NH4Cl → 2 NdCl3 + 3 H2O + 6 NH3

生成したNdCl3は速やかに吸湿して安定な六水和物NdCl3・6H2Oとなり、貯蔵には都合がよいが、単純な急速加熱では加水分解が進みNd2O3を生じやすい。[11] 無水NdCl3は、六水和物を高真空下で塩化アンモニウムを4-6当量加えて徐々に400 ℃まで加熱する方法、または塩化チオニル過剰量とともに数時間加熱する方法などで脱水して得られる。[4][12][13][14] 研究用途では、ネオジム金属を塩化水素または塩素と反応させてNdCl3を得ることもあるが、金属価格の点で一般的に経済性は低い。調製後は高真空下で高温昇華により精製されることが多い。[4][15][16]

用途

ネオジム金属の製造

Nd:YAGレーザー(ふたを開け、二倍波の532 nm緑色光が見える)

塩化ネオジム(III)はネオジム金属製造における代表的な出発物質である。NdCl3は、真空またはアルゴン雰囲気下で300-400 ℃において、塩化アンモニウムまたはフッ化アンモニウムとともに、あるいはアルカリ土類金属などで還元される。

2 NdCl3 + 3 Ca → 2 Nd + 3 CaCl2

別法として、無水NdCl3とNaCl、KCl、LiClなどの混合溶融塩を約700 ℃で溶融し、電気分解する方法がある。この温度はNdCl3やKClの融点(約770 ℃)より低いが、混合により融点が低下する。[17]

レーザーおよびファイバー増幅器

NdCl3自体の発光は強くないとされるが、[18] 各種発光材料へNd3+イオンを導入する原料として用いられる。代表例としてNd:YAGレーザーや、Nd添加光ファイバー増幅器が挙げられる。Nd:YAGレーザーは波長1.064 µmの赤外線を発し、固体媒質を用いる固体レーザーとして広く用いられている。光ファイバー製造では、金属ネオジムや酸化物よりもNdCl3が選ばれる場合があり、これは化学気相成長過程で分解しやすいことが理由とされる。[19]

NdCl3は、シリカ系光ファイバーだけでなく、プラスチックファイバー(フォトライムゲル状ゼラチン、ポリイミドポリエチレンなど)へのドーパントとしても用いられる。[20] さらに、赤外域の有機発光ダイオードへの添加剤として用いられることもある。[21][22] ネオジムを含む有機薄膜は、LEDとして働くだけでなく、色フィルターとして発光スペクトルを改善する可能性がある。[23]

希土類塩化物の溶解挙動を利用して、固体ではなく液体を活性媒質とする希土類レーザーが提案されたこともある。Nd3+を含む液体系は、例えば次の反応により調製される。

SnCl4 + 2 SeOCl2 → SnCl62- + 2 SeOCl+
SbCl5 + SeOCl2 → SbCl6- + SeOCl+
3 SeOCl+ + NdCl3 → Nd3+(solv) + 3 SeOCl2

ここでNd3+は、第一配位圏に複数のセレンオキシ塩化物分子を含む溶媒和イオン、すなわち[Nd(SeOCl2)m]3+として存在するとされる。この手法で得たレーザー液体は1.064 µmで発振し、高利得や発光線幅の鋭さなど、Ndガラスよりも結晶に近い特性を示すと報告されている。量子効率は従来のNd:YAGレーザーに対して約0.75とされた。[21]

触媒

NdCl3は触媒としても用いられ、トリエチルアルミニウム2-プロパノールなどと組み合わせると、各種ジエン重合を促進する。生成物にはポリブチレンポリブタジエンポリイソプレンなどの合成ゴムが含まれる。[11][24][25]

NdCl3二酸化チタンの改質にも用いられる。二酸化チタンはフェノールや各種染料など排水中汚染物質の分解に用いられる代表的な無機光触媒であるが、通常は紫外光で活性化される。二酸化チタンをNdCl3で改質すると、太陽光のような可視光下での触媒活性が得られると報告されている。改質触媒は、TiCl4とNdCl3の水溶液混合物から水酸化アンモニウムで共沈-ペプチゼーション法により調製される。この工程は、光触媒型のセルフクリーニング塗料などで、1000 L級反応槽を用いた大規模製造に利用されているとされる。[26][27]

腐食抑制

NdCl3はアルミニウムやアルミニウム合金の腐食抑制にも応用が検討されている。NdCl3水溶液に1週間浸漬する方法、または同溶液を用いた電解析出によってコーティングを形成すると、濃NaCl水溶液に2か月浸漬しても孔食が見られなかったという報告がある。従来のクロム系腐食抑制剤と比べ、NdCl3など希土類塩は環境負荷が低く、ヒトや動物への毒性が小さいとされる。[28][29]

NdCl3による腐食抑制は、不溶性の水酸化ネオジムの生成によると説明される。一方で、塩化物であるNdCl3自体は腐食性を示すため、セラミックスの耐食試験に用いられることもある。[30]

有機分子の標識

ランタノイドは明るい発光で知られ、蛍光標識として広く利用される。NdCl3もDNAなどの有機分子へ導入され、反応過程を蛍光顕微鏡で追跡する目的に用いられることがある。[21]

健康への影響

関連項目

参照

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