巨神兵

日本の漫画『風の谷のナウシカ』等に登場する架空の人工生命体 From Wikipedia, the free encyclopedia

巨神兵(きょしんへい)は、宮崎駿漫画風の谷のナウシカ』および劇場版アニメ風の谷のナウシカ』、または、特撮映画巨神兵東京に現わる』に登場する架空の巨大人型人工生命体

英語名は複数あり、「Giant God Warrior(s)[注 1]」「Giant Warrior(s)[2]」「God Warrior(s)[注 2]」の3つが確認されている。

原作・映画いずれも、千年前に産業文明を崩壊させた「火の七日間」で世界を焼き払ったといわれる巨人。作中の時代ではその全てが化石となり、腐海にその死体をさらしていると考えられていたが、ペジテ市の地下で発掘された一個体が復活する。化石化した個体によっては頭部に二本角のあるものや、顎部のデザイン等に違いがある。化石の肩に突起はあるが、背中は不明。作品序盤では、化石化した個体の内部に入るためのハッチや計器類と思われる遺構の存在 、原作ではのような構造物を保持した状態で化石となった個体等[4]、機械で構成され人が操縦する「巨大人型ロボット」と推測できる描写が見られる。火の七日間における巨神兵は、光る杖あるいは槍のような棒状の得物を持ち歩いている。遺伝子工学と機械工学の結合により生まれた[5]。寝食を取らない。

原作におけるユパが、滅亡の書において、その名の由来は「光を帯びて空をおおい死を運ぶ、巨いなる兵の神(おおいなるつわもののかみ)」とされていると発言[6]。その正体は旧世界の人類が多数創造した人工の神。あらゆる紛争に対処すべく「調停と裁定の神」としての役目を担った。

ナウシカの時代では、世界を破壊した最終兵器という扱いで伝承されている。原作において、「火の7日間」以前の世界を知る墓所の主からは「世界を滅ぼした怪物」[7]、庭園の主からは「死神」[8]と呼ばれ、忌み嫌われている。

原作漫画版

オーマ: Ohma)は、ペジテ市の地下で発掘された個体の一つで、生体型の巨神兵として起動。主人公ナウシカを母親と認識し、彼女から「オーマ」と名付けられ、土鬼(ドルク)の聖都シュワの中心にある墓所を封印すべく共に行動した。人間を手の平に乗せられるほどの巨体を有し、肩部と背中には複数の突起物が生えており、飛行時には伸張して発光する。頭部は頭頂部のとがった戦闘用ヘルメットのような形状に丸い眼球が2つ存在する。口腔部に生えている牙の一本の根元にはナウシカが商標と推察した (「東亜工廠 (とうあこうしょう) 」と書いてあるように見える[9]) 千年前の古代文字が記されている。原作初登場となった、ぺジテ市の地下に安置されている時点での体は、殻のような骨格だけだった[10]。ペジテ市民及び土鬼人による復活途上の時点で、体表面は人体模型のように筋組織が露出した姿に変化している。骨格は超硬質セラミック製[10]

秘石と再生

ペジテ市の地下坑道で、内部構造やエンジンを持たない特殊な巨神兵の骨格が発掘され、骨格に繋がれた黒い箱の中には秘石が置かれていた[11]。工房技術者はこれを巨神兵を動かす制御装置と考え、中の石を右のくぼみから左のくぼみに移したが、何の変化もなかった[12]。数日後、骨格に心臓と筋肉が形成され、箱は巨神兵の胎盤だと判明する[13]。火の7日間の再現を恐れて秘石を外したため、巨神兵の成長は止まった[14]。その後は破壊を試みるも、火や爆薬では傷をつけられず、坑道の奥に放置された[14]

これを知ったトルメキアが奪取に乗り出し、クシャナ軍がペジテ市を壊滅させるが、王女ラステルが秘石を持って逃げたため蘇生を断念する。腐海で追手から隠れたときに蟲 (むし) を殺したため、蟲に襲われ腐海の縁に墜落したブリッグ (大型貨物飛行艇) に乗るラステルの救助に駆けつけたナウシカの手に秘石が渡り[15]、ラステルの遺言に従い双子の兄アスベルに返還された[16]。アスベルは腐海の底に捨てたといつわり[14]、秘石を隠し持つ。

復活

巨神兵はトルメキアと敵対する土鬼の手に渡り、墓所において旧世界の技術によって蘇生が進められる。神聖皇帝ナムリスの命令により、彼と共にトルメキアを侵攻する前に、サナギ人工子宮)の状態で土鬼のサパタに空輸される。巨神兵を破壊すべく風の谷のガンシップ (小型戦闘機) が吊り船 (飛行船) を砲撃、下に着陸していた戦艦の上に落下しサナギが炎上した[17]、これにより孵化が始まり意図せず目覚めてしまう[18]。アスベルから秘石を託されたはナウシカは[19]、巨神兵に石を見せる。石から放たれた光線を体内に取り込んだことでナウシカを母親と認識し「やっぱり、あなたはママだった」と念話 (テレパシー) で伝える[20]。その後、秘石は砕けてしまった[20]。以前から念話を使ってナウシカを「ママ」と呼んではいたが[21]、会話はできず、不服な際には癇癪を起こし[22]、ナウシカの笑顔を見て喜ぶなど赤子程度の知的レベルだった[23]。光線を取り込んだ以降は会話が可能となり、一定の知能を得たが、思考自体は幼いままである[24]

シュワへの旅と命名

ナムリスのトルメキア侵攻を阻止したナウシカは、意図せず目覚めた巨神兵の対処法探しと、戦争激化の根源である墓所を永久に封印すべく、巨神兵と共に飛行しシュワへ赴く。しかし、秘石と黒い箱による正規の手順を踏まず、墓所の技術で強引に蘇生させた巨神兵の不完全な肉体は[25]、本来の強大なエネルギーと力に耐えられなかった。ビームの発射や長距離飛行によって徐々に腐敗し[26]、発作的に体が動かなくなる[27]。また、生物に有害な「毒の光」が体内からもれ出し[28]、ナウシカとキツネリスのテトの肉体も衰弱してしまう[29]

シュワへの道中、休憩のため土鬼のゴス山脈に着地した直後に[注 3]、巨神兵が1度目の発作を起こす。シュワへ侵攻するトルメキア第1・第2皇子の先遣隊兵士と会ったナウシカ一行、巨神兵はそれをナウシカの敵と勘違いし自身の悦楽のため兵士を殺害する[31]。殺人をいさめ息子として接するべく、ナウシカは巨神兵にエフタル語で「無垢」を意味する「オーマ」と名付ける。すると一瞬目が光り、知能が飛躍的に向上した。真の力を覚醒させ、ナウシカを「母」「母さん」と呼ぶと、自分は調停者だと告げる[32]。ナウシカに対する一人称は「僕」、それ以外には「私」。ナウシカは、命名後のオーマに人格が芽生えはじめたと気づき、オーマが神として作られたと想像する[33]。ナウシカ一行は、山脈を出発直後に第1・第2皇子の艦隊 (重コルベット (超大型戦闘機) とバカガラス (大型輸送機) ) に遭遇[34][30]。オーマの力を欲した皇子たちにナウシカが捕らえられるも、既に裁定者として目覚めているオーマは艦隊と同行し、自分は裁定者だとナウシカに告げる[35]。その姿や行動、オーマの言葉を聞いたナウシカは彼の本性を知り、オーマが死ねば解決するのか再考を迫られた。相手の下心を見抜くとあざ笑い、生かす価値があるのか見極めるため、あえて知らぬ振りをする[36]。念話能力を持たないトルメキア人に対し言葉を発する場面もあった。その後、死亡したテトを埋めたいというナウシカと、同行を希望した2人の皇子を手の平に乗せトルメキア艦隊から離脱[37]。ナウシカは、到着した土鬼の庭園の端にある大木の根元にテト埋める[38]。その後、過度な負担によってオーマは2度目の発作を起こす[39]。ナウシカと皇子たちが庭園の主の元で保護されると[40]、「母さんには休養が必要」と言い残し、徒歩で単身シュワへ向かった。

墓所での最期

聖都シュワにたどり着いたオーマは、トルメキア軍と扉を閉ざした墓所との戦闘に介入[41]ヴ王に戦闘の中止と面会を求めるが、パニックに陥ったトルメキア軍がオーマに発砲、これに反撃したビームにより街の一部が焦土化した[42]。直後、面会に応じたヴ王を右手に乗せ、案内された墓所と対峙[43]。ヴ王の墓所に入りたいという要求を無視してナウシカの意志である墓所の封印を宣言するが、墓所からのビーム攻撃に受け即座に反撃する[44]。この応酬が、墓所以外の街全体および避難するために飛行中のバカガラスを破壊する[45][注 4]。また墓所の堅固な壁の正面から上面にかけて亀裂を生じさせたが、自身は胸を撃ち抜かれて右腕がもげ落ち、墓所を囲む深い空堀へと落下してしまう[46]

そのまま活動を停止したと思われたが、遅れてシュワに到着したナウシカの呼びかけに応じて蘇生し、彼女の元へと動き出す[47]。額と口のビームで墓所の地下の壁に穴を開け[48]、下半身を失いながらも内部に侵入[49]、新世界の住人となるべく保存されていたヒトの卵を蹂躙しつつ深部に到達し、墓所の主を握り潰す[50]。最期は「自慢の息子」とたたえるナウシカに看取られながら絶命した[51]。ナウシカが沈まぬよう、彼は最後まで血の海から指先を出していた[注 5][注 6]

能力

熱核ビーム[52]
口腔内から発射されるほか、額の小さな発射孔からも低出力のものを発射できる。当初は地平線の彼方にある山を吹き飛ばし、巨大なきのこ雲を作るほどの威力を誇った。身体の腐敗が進んだ後は、20リーグ (作中における1リーグはおよそ1.8キロメートル[53]) 離れた場所から、小さなきのこ雲が確認できる程度にまで威力が落ちた[54]。それでも街の一部を焦土と化す破壊力を持つ。
飛行能力
空間を歪めて宙に浮き、高速及び高高度で移動できる。飛行の際は、肩部と背中の複数の突起物が伸張して光を帯び、光輪状または翼状に変形する。当初はガンシップも追随できない速度で[55]、高いゴス山脈を越えるほどの高高度を飛行していた[56]。1度目の発作後は、ナウシカが速度・高度を抑制するよう伝え[25]、通常の船と同程度の速度・高度にまで低下、2度目の発作後は飛行能力そのものを失った。
超常の力
ナウシカや神聖皇帝と同じく超常の力を持っている。超常の力なしでも言葉を発せられるが、ナウシカとの意思疎通は念話で行う。20リーグ離れた場所からの念話や映像の念写も可能で[46]、ナウシカからの念話による問いかけを一方的に遮断する力も持つ。

劇場版

ペジテ市の地下にて、「卵」の状態で発見される。トルメキアが奪取後、捕虜にしたラステルと共に大型船 (超大型輸送機) で輸送を試みた。だが卵の重量に耐えられず腐海へ突っ込み、蟲を殺したため蟲に襲われ、舵を誤って風の谷へ墜落する。これを捜索に来たクシャナが、風の谷で蘇生しようともくろむ。セラミックの骨格と合成タンパク質の肉体である[5]。黒い箱や秘石は登場しない。

ペジテ市民がおとりにした王蟲 (オーム) の子を追って王蟲の大群が風の谷へ迫った際、これを食い止めるべくクシャナが覚醒させる。しかし、早すぎた蘇生により全身が不安定で腐敗し、下半身は溶け落ち自立歩行すらできなかった。蘇生中にクロトワの言葉に反応したりクシャナの言語命令を理解しているが、会話等の高い知能を有する描写はない。漫画版にある人工の神というより、生物兵器として表現されている。映画のオープニングタペストリーにおける巨神兵製造を描いた箇所の背中等の突起[57][58]、壊れた街の上空を飛ぶ鳥のような姿の巨神兵らしきものの絵を除き[59][57]、本編は化石の肩や[60][61][62]胎児の背中[63][64][65]以外に突起はなく空を飛ばない。超常の力はなく、ナウシカはじめ登場人物から名付けられることもない。ビームは口腔からのみ発射し、額に発射孔らしきものは確認できない。ユパが「旧世界の怪物[66][67]」「化け物[68][69]」と呼び、クシャナが「世界で最も邪悪な一族の末裔」と呼んだ[70]

肉体が溶け流れるままに上半身を起こし、王蟲の群れへ口腔ビームを2発(1発目は群れを長くなぎ払って大爆発を起こしたが、2発目の時点で肉体の腐敗が更に進み、かろうじて数体を爆発させる威力まで低下した)放った後[71][72]、肉体が完全に溶け落ちて絶命する[73][74]。戦闘の収束後、巨神兵が身を乗り出していた丘の上には巨大な骨格が遺された。

補足

劇場版作画

劇場版において巨神兵がビームを発射しながら崩壊するシーンは、庵野秀明原画を担当した。

宮崎駿が描いた初期の絵コンテには、完全復活した巨神兵と王蟲が激突するシーンが存在したが、尺を間に合わせるために絵コンテを描き直したという[75][76]

スタジオジブリ鈴木敏夫は、2010年5月27日、ブルーレイディスク版『風の谷のナウシカ』(同年7月14日発売)の完成披露発表会において、本作で原画を担当した『新世紀エヴァンゲリオン』の監督・庵野秀明と自身との対談「ナウシカとエヴァンゲリオン!巨神兵の行方は?」がディスクの音声特典として追加収録されたことにちなんで[77]、「あいつ(注:庵野)の作りたいことが分かった。エヴァンゲリオンは巨神兵だ!! と今気付きました。」「彼の最初にやった仕事が(※世界を滅ぼした巨大人型人工生命体である)巨神兵を描いたこと。そして今は((巨大)汎用ヒト型決戦兵器である)エヴァンゲリオンを描いている。何十年たった今でも人間って同じことやるんですね。恐ろしい(笑)。だからお墓には巨神兵って書いときましょう。」と発言した[77]

実写特撮映画

2012年7月から東京都現代美術館で開催され、その後全国を巡回した「館長 庵野秀明 特撮博物館 -ミニチュアで見る昭和平成の技-」にて、スタジオジブリ製作の短編映画『巨神兵東京に現わる』が特別上映された[78]。企画は庵野秀明、監督は樋口真嗣、プロデューサーは鈴木敏夫、造型デザインは竹谷隆之[78]。撮影はCGを使用せず、ミニチュア特撮で行われた。作者の宮崎駿からは、「ナウシカは出すな」という条件で製作の承諾を得たという[78]

本作に登場する巨神兵は肉体の崩壊を起こしておらず、光の槍や飛行能力も有した「完動品」といえる。竹谷隆之によって新たにデザインが起こされており、形状は漫画版のものに近く、エヴァンゲリオンへの逆オマージュとも捉えられる。また、口内のプロトンビームの展開シークエンスなども細かく設定された。そのほか、巨神兵の恐怖を再現するために大きさがエスカレートしていき、原作サイズよりはるかに巨大となっている。

撮影用に制作された巨神兵は全長180センチメートル程度のもので、着ぐるみなどではなく文楽人形のように後方から棒を介して操作する手法が取られた。操作には最大で5人を要する。実際の制作数は1体のみだが、劇中では合成によって複数の巨神兵が登場している。

脚注

参考文献

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