日常生活の冒険
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メインキャラクターの斎木犀吉は伊丹十三をモデル人物としている。本作には多様な飲食物や車の名前が登場するが、伊丹仕込みであり、小谷野敦は本作と同時期に書かれた伊丹のエッセイ『ヨーロッパ退屈日記』を「元ネタ」としている[2]。『大江健三郎全小説14』の解題において尾崎真理子は「『日常生活の冒険』は『ヨーロッパ退屈日記』と対で成立した作品だと言いたくなる」[3]と述べている。
作家笠井潔は本作について「都市的スノビズムのあれこれを思想としてではなくディテールとして、ジャガーやシトロエンからサルトルやミラーにいたる固有名詞として、初めて日本の近代文学空間に方法的に導入した」と評している[4]。
語り手「ぼく」にも大江の実際の体験が反映されており、作中の「ぼくが書いた政治的な残酷物語が様々な他人たちの頭に、怒りのキノコを繁殖させ」、「ぼく」がヒポコンデリアに陥っている状況は「政治少年死す(「セヴンティーン」第二部)」発表後の大江の窮地を連想させる[3]。また「ぼく」が「バルカン半島の社会主義国」から招待され、そこを経由してパリ、ロンドンに斎木犀吉に会いにいくくだりは、1961年2月、大江がブルガリア政府とポーランド政府の招きで、両国とギリシャ、イタリア、ソ連、フランス、イギリスを訪問している伝記的事実[5]と符合する。
大江自身は本作を「『日常生活の冒険』など、愛好してくださる読者はいまもあるようなのですが、技法、人物のとらえ方など、小説の基本レヴェルを満たしていない。」[6]と評価しておらず、1990年代にまとめられた選集『大江健三郎小説』には本作は収録されていない。