本田由紀
日本の教育学者 (1964-)
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来歴
徳島県に生まれ、香川県で育つ。香川県立高松高等学校入学直後に県統一模試で1位となり、周囲からの過剰な期待に圧迫される。成績維持のために丸暗記に頼り、大学受験期には精神的に困窮し、日常の振る舞いにすら影響を及ぼした。1983年、香川県立高松高等学校を卒業し、東京大学文科三類に入学[1]。自身の苦悩の原因を「日本の教育制度や社会構造」と捉え、恨みにも似た感情から、自身を追い詰めた社会を変革すべく教育社会学を専攻するに至った[1]。
1991年、東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。1994年、同博士課程単位取得退学[2]。同年10月から独立行政法人日本労働研究機構の研究員となった[1]。
2001年、同大社会科学研究所助教授。2003年から2006年まで、同大大学院情報学環助教授併任。2004年、学位論文「教育システムと職業システムとの関係における日本的特徴に関する研究:トランジションとレリバンスの比較歴史社会学」で東京大学博士(教育学)。2007年、同大学院教育学研究科准教授、2008年から、同教授[1]。その後、東京大学教育学部附属中等教育学校校長を兼任した。
政治活動
SNSでの投稿に関する物議
最初の投稿とそれに対する批判の殺到
2026年9月1日、Xの自身のアカウントにおいて、三笠宮家の彬子女王と瑶子女王の顔面の部分を拡大し切り取りとった画像が添付された他利用者の投稿を引用しながら「この人たちを目にするたびに、遺伝的要因のおそろしさを感じる。露出の増加が逆効果になるかもしれない」と投稿した[4]。これまでは皇室への批判に対しては言論の自由という観点からある程度は看過されてきた経緯があるが、今回の本田の投稿に対しては一線を踏み越えてしまったと判断され世論やX利用者から多くの批判が殺到した。その理由として以下の点が指摘されている[5][6][7][8][9]。
- 表現方法:「遺伝的要因のおそろしさを感じる」という表現が「血統・遺伝、出自」を根拠とした優生学的な立場に立脚した発言であったのではないかとする解釈をされたこと(「内なる優生思想」[注釈 1])[10]。
- 言葉と表現の加害性:実質的に反論権を持たない皇族に対し、相手の生得的属性や血統を根拠に一方的に過激な言辞で誹謗中傷を行ったこと[11][12]。
- 過去の言動との対比:本田はこれまでキャンセルカルチャーの立場に立ち他者の差別的発言に対し厳格な態度を示してきた。このことを勘案すると今回の発言はダブルスタンダードではないかとの指摘[13][14]。
- 社会的属性:本田が東京大学教授で日本教育学会会長という社会的責任を問われる公的な立場からの発言であること[10]。
本田による見解の表明
一連の批判を受けて、本田は同年9月5日自身のXで「Xへの投稿に関する解説」とする書面を公表した[15][16]。この中で「遺伝的要因のおそろしさ」という表現について、皇室と縁戚関係がある政治家を念頭に「自らと遺伝子を共有する血縁者を優遇しようとする行為の問題点を指している」と説明したものだとし、日常的に「遺伝」という言葉は使われており「遺伝的要因」については差別に当たらないと主張している[17][18]。しかしながら本田の対応は事態を鎮静化させるどころか逆に火に油を注ぐ形となった[19]。
発表した見解が市井の共感を得られなかった理由として
- 自己省察の皆無:故なく尊厳を傷つけた女王や混乱を招いた大学や学会への謝罪の文言はなく、自己の主張の正当性の表明に終始した内容となっている[20]。
- 後付けの論理構成:「遺伝的要因のおそろしさ」という短い投稿から、「世襲や縁故主義への批判」という高度に文脈化された意図を読み手に求めるのは論理の構成や整合性から無理がある。したがって批判を受けてからそれらを躱すために後付けで理屈を構築・補強したのではないかという疑念[21]。
- メタレベルの差別とレッテル張り:Xには二女王について、ある底意をもって選ばれたたと判断されるアングルからの写真が添えられているが[12]、本田はこの画像の選択が発するメッセージについては沈黙し、「投稿では容姿に関して一切言及しておらず、そこに容姿云々と言った意味を読み取ることは、読み取る者自身が有するルッキズムを露呈させていることに他なりません」として画像や文章からメッセージを受け取ろうとする読み手を逆に差別主義者としてラベリングしようと試みている[22][23]。
- 意図的な定義の混用:本田は社会に潜む「差別」や「排除」の構造を長年研究してきた研究者であり、社会科学の文脈において「遺伝」という言葉が用いられた場合の歴史的・イデオロギー的な重み(優生思想や遺伝決定論につながる危険性)は十分に自覚しているはずである。しかしながら『解説』においては自ら用いた「遺伝」という言葉と自然科学の領域で価値中立的に技術用語として使用されている「遺伝」とを意図して混在・並立させることで読者に、社会学者が「出自」や「血統」を語る文脈で「遺伝」という語を使った事の重大性を覆い隠そうとしているのでないかという指摘[24][25]。
- 読者・批判者側への責任転嫁:向けられた批判を「言葉の定義」や「一般的な使われ方」へ論点をすり替えることにより、発言の受け手の読解力の不十分さに責任を転嫁しているのではという疑問[26]。
- 対立的・一方的なコミュニケーション:メディアの取材や記者会見に応じるなどの開かれた議論の場に立つことを避け [注釈 2]、SNSという「自陣」で一方的に弁護の文章を投稿して事態の沈静化を待っているかのような姿勢が、これまでの言論活動に照らしていかがなものかという疑問。
- 反論への予防的威嚇:末尾には「投稿に書かれていない内容を恣意的に読み込み、そうした曲解に基づいて投稿者や所属機関に非難を行う行為は、それを行った者自身の責任が問われる結果になりうることを警告しておきます」とし、予想される反論を本田の基準で「曲解」と規定し、それに基づき発言者の責任を問うことが可能としている。
団体と著名人の反応
東京大学は、本田の投稿が人権を尊重し差別に反対する学校の基本的な方針に反するという批判が寄せられたことを理由に、勝野正章(教育学研究科長)[30]が本田に対してSNSの投稿については十分考慮して行うように注意をした。本田が会長を務める日本教育学会においては、9月7日時点で倫理委員会において対応を検討中である[31]。
産経新聞は社説において、遺伝を基に不快や不信を表すことは重大な人権侵害につながる上に、反論や訴訟を事実上できない皇族をその対象にしたとして本田を批判した。また、ある政治家が血縁者の皇族を優遇しているという本田の見解の真実性を否定し、最大の問題は本田の優生思想を想起させる投稿であると厳しく非難した。さらに東大が過去に「中国人を採用しない」と表明した准教授を懲戒解雇した一方で、本田には注意だけなのは不十分だとして、東大が二重基準に陥らず、人権意識を備えた、国税を投入するに値する大学に戻れるかが問われていると説いた[32]。
かつて本田のゼミで活動していた古市憲寿は、本田の投稿に対して「社会学の根幹を崩す主張」「教育社会学の敗北宣言」[注釈 3]と厳しく批判した。また三浦瑠麗は本田の見解を受けて、本田の周囲には「その主張は陰謀論や流言飛語の類に基づくものであり、人の外見に言及することはいけない事だ」と諫言してくれる人がいないと指摘して本田に苦言を呈した[7]。
上記の、明らかに強いメッセージを含む映像を掲示していながら、自らはルッキズムについては主張していないと強弁する本田の姿勢に対し北原みのり(フェミニズムの立場から、人権や差別に関する言論活動を展開してきた)は『AERA』において「ルッキズムであるという批判に対しては「ルッキズムと思うほうがルッキズム」というような反論もされていたが、そんな幼い反論はアカデミアの人にはしてほしくなかった」としている[22]。このほか東浩紀(哲学者)は「写真が並ぶ投稿を引用して『遺伝的な……』としているのだから外見に関する言及としか解釈できません。外見と血筋をもって『おそろしさを感じる』と書いているわけですから大問題ですし、世間の批判を『曲解』と説明するのは屁理屈そのものでしょう」としている[23]。
文部科学省の見解
同年9月11日、松本洋平文部科学相は記者会見で「他者の尊厳を毀するような言動はあってはならない。大学は公共性や普遍性を踏まえ知的な価値を創造することにより社会をリードするのが使命だ」と述べた。東京大については現在「国際卓越研究大学」(世界最高水準の研究力に向けて政府が重点的に支援)の認定に向け、有識者会議による審査が続いているが、同相は今後の本件への大学の対応如何をも視野に入れ「引き続き法人としてのガバナンス体制(管理体制)が実効性ある形で十分徹底しているか、有識者会議で議論される」とした[36]。
東京大学の動向
東京大学は『東京大学大学院情報学環・学際情報学府倫理綱領』において「あらゆる事由による差別・ハラスメント」を禁じ、もし問題が惹起した時「真摯な姿勢で説明責任を果た」すことを謳っている[37]。 本田が発表した『X』および『Xへの投稿に関する解説』をうけ、今後大学のコンプライアンス部門等による追加の調査が実行され議論され、結果が外部に説明されるか、最高学府としての自浄作業が試されている[38][23]。
日本教育学会の動向
日本教育学会は『倫理綱領』の「基本原則」において、「つねに基本的人権に配慮しなければならない」(研究の実施と公表にともなう責任)とし、「出身、財産、門地その他の地位、婚姻上の地位、家族状況、ライフスタイル、障害、疾患、経歴などに関して差別的な取り扱いをしてはならない」(差別の禁止)。「ハラスメントにあたる行為をしてはならない」(ハラスメントの禁止)を規定しており[39]、この方針に基づいて学術団体としてどのような対応がなされるか注視されている。
研究業績・著書
東京大学で助教授職に就く前には、日本教育社会学会の学会誌に2本の査読付き論文(沖津由紀名義)を発表した[40]。
社会学や教育学の研究成果として多数の書籍と紀要、東京大学就職後には3本の査読付き論文を発表している[41]。
査読付き論文
- 「システム間関係の比較歴史社会学」の可能性(『教育社会学研究』1991年。沖津由紀名義)
- 教育内容の制度化過程(『教育社会学研究』1994年。沖津由紀名義)
- 工業高等専門学校における学業成績の類型と進路(『日本労働研究雑誌』第39巻第5号、1997年。沖津由紀名義。当時の勤務先である日本労働研究機構(現在の労働政策研究・研修機構)が刊行する雑誌)
- 強固に残るボーダー : 自閉化する日本の学校教育に対する社会システム論からの示唆(『教育学研究』第78巻第2号、2011年)
- 教育と労働の関係をめぐる社会間の差異―「資本主義の多様性」論に基づく考察と検証―(『教育学研究』83巻2号、2016年)[42]
- 高校の探究学習のテーマ設定場面における指導はいかに行われているか ―会話データの分析―(『教育社会学研究』111巻、2022年)[43]
単著
- 『若者と仕事――「学校経由の就職」を超えて』(東京大学出版会、2005年)
- 『多元化する「能力」と日本社会――ハイパー・メリトクラシー化のなかで』(NTT出版、2005年) - 第6回大佛次郎論壇賞奨励賞
- 『「家庭教育」の隘路――子育てに強迫される母親たち』(勁草書房、2008年)
- 『軋む社会――教育・仕事・若者の現在』(双風舎、2008年/河出文庫、2011年)
- 『教育の職業的意義――若者、学校、社会をつなぐ 』(ちくま新書、2009年)
- 『学校の「空気」』(若者の気分)(岩波書店、2011年)
- 『社会を結びなおす――教育・仕事・家族の連携へ』(岩波ブックレット、2014年)
- 『もじれる社会――戦後日本型循環モデルを超えて』(ちくま新書、2014年)
- 『教育は何を評価してきたのか』(岩波新書 2020年)
- 『「日本」ってどんな国? ――国際比較データで社会が見えてくる 』(ちくまプリマー新書、2021年)
共著
- (長尾彰夫・野口克海・宮田彰・志水宏吉・堀家由妃代)『「学力低下」批判――私は言いたい6人の主張』(アドバンテージサーバー[AS選書]、2002年)
- (内藤朝雄・後藤和智)『「ニート」って言うな!』(光文社新書、2006年)
- (湯浅誠・河添誠編、後藤道夫・中西新太郎共著)『「生きづらさ」の臨界――“溜め”のある社会へ』(旬報社、2008年)
- (太田光・田中裕二)『爆笑問題のニッポンの教養 30 我働くゆえに幸あり?』(講談社、2008年)
- (益川敏英・小森陽一・木附千晶・藤田英典)『教育を子どもたちのために』(岩波ブックレット、2009年)
- (遠藤公嗣・木下武男・布川日佐史・後藤道夫・今野晴貴・小谷野毅・河添誠・田端博邦)『労働、社会保障政策の転換を――反貧困への提言』(岩波ブックレット、2009年)
- (芹沢一也・荻上チキ編、飯田泰之・鈴木謙介・橋本努・吉田徹共著)『日本を変える「知」――「21世紀の教養」を身に付ける』(光文社、2009年)
- (神保哲生・宮台真司・山田昌弘ほか)『格差社会という不幸――神保・宮台(激)トーク・オン・デマンド7』(春秋社、2009年)
- (雨宮処凛・新井紀子・石原千秋ほか)『ほかの誰も薦めなかったとしても今のうちに読んでおくべきだと思う本を紹介します。』 (河出書房新社、2012年)
- (古市憲寿・須藤康介)『文系でもわかる統計分析――社会学』 (朝日新聞出版、2012年)
- (小森陽一・成田龍一)『岩波新書で「戦後」をよむ』(岩波新書、2015年)
- (金子勝,大沢真理, 山口二郎,遠藤誠治,猿田佐世)『日本のオルタナティブ:壊れた社会を再生させる18の提言』(岩波書店、2020年)
編著
- 『社会人大学院修了者の職業キャリアと大学院教育のレリバンス――社会科学系修士課程 (MBAを含む) に注目して』資料編(東京大学社会科学研究所、2003年)
- 『社会人大学院修了者の職業キャリアと大学院教育のレリバンス――社会科学系修士課程 (MBAを含む) に注目して』分析編(東京大学社会科学研究所、2003年)
- 『女性の就業と親子関係――母親たちの階層戦略』(勁草書房、2004年)
- (平沢和司)『リーディングス 日本の教育と社会第2巻 学歴社会・受験競争』(日本図書センター、2007年)
- 『若者の労働と生活世界――彼らはどんな現実を生きているか』(大月書店、2007年)
- 『転換期の労働と「能力」』(労働再審1)(大月書店、2007年)
- (苅谷剛彦)『大卒就職の社会学――データからみる変化』(東京大学出版会、2010年)
- (筒井美紀・櫻井純理)『就労支援を問い直す――自治体と地域の取り組み』(勁草書房、2014年)
- 『現代社会論――社会学で探る私たちの生き方』(有斐閣ストゥディア、2015年)
- (乾彰夫・中村高康共編)『危機のなかの若者たち 教育とキャリアに関する5年間の追跡調査』(東京大学出版会、2017年)
- (伊藤公雄共編)『国家がなぜ家族に干渉するのか 法案・政策の背後にあるもの』(青弓社ライブラリー、2017年)
- 『文系大学教育は仕事の役に立つのか 職業的レリバンスの検討』(ナカニシヤ出版、2018年)
- (中村高康共編)『新訂 教育の社会学』(放送大学教育振興会、2025年)
その他
出演
テレビ番組
- 爆笑問題のニッポンの教養 File031 我働くゆえに幸あり?(NHK総合テレビ、2008年3月18日)
- 視点・論点「家庭の教育力とは?」(NHK教育テレビ、2008年4月22日)
- NHKスペシャル 追跡・秋葉原通り魔事件(NHK総合テレビ、2008年6月20日)
- 地域発!どうする日本「変わる義務教育 学ぶ力をどう伸ばす」(NHK総合テレビ、2008年12月19日)
ウェブ番組
- デモクラシータイムス(YouTube、不定期)
- ポリタスTV(YouTube、2020年7月28日)
- ビデオニュース・ドットコム(2023年1月14日)