洗濯
衣類やリンネル類など布地を洗うこと
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概説
洗濯は歴史上、女性の家事労働のなかでもかなり大きな部分を占める作業だった。英語圏では、洗濯に従事する女性をWasherwomanと呼んでいた。洗濯機の普及、化学繊維や新しいタイプの洗剤の出現などにより、洗濯に費やす時間と労力は相当に削減できるようになった[1]が、開発途上国の多くでは今でも手作業で洗濯を行っており、重労働でありつづけている。
洗濯することを職業としている人々もいる。洗濯を専門とする業種は「クリーニング業」と呼ばれる。界面活性剤による洗濯のほか、ドライクリーニングなどの手法を用いて洗浄する。業者による洗濯の過程には、一般家庭同様の「浸水、洗い、すすぎ、脱水、乾燥、アイロンがけ」の他にも「ネーム付け」「プレス」「検査」「包装」などがある。
古代ギリシアや2000年前の中国にすでに、洗濯を職業とする業者がいた(後述)。
- 現代のさまざまな洗濯
目的
歴史
古代
古代オリエントには多くの洗濯や洗浄剤に関する記録記録が発見されている[2]。
古代、人々は水辺に住んでその水を利用して洗濯していた[2]。一方、水の乏しい地域では砂でもんで洗濯をしていた[2]。古代エジプトや古代ギリシャでは洗濯方法は踏み洗いが一般的だった[2]。古代エジプトでは洗濯は水中の2本の足の象形文字(ヒエログリフ)で表現された[2]。また、古代ギリシャの叙事詩オデッセイには王女ナウシカアーが川で踏み洗いをする記述がある[2]。日本の平安時代末期の扇面古写経にも洗濯の様子が描かれており、日本でも踏み洗いが一般的だったことが判る[2]。なお日本の『万葉集』(7世紀後半-8世紀後半)には「ときあらい」という言葉があり、日本では着物をほどいて洗う方法も行われていた[2]。
紀元前5000年頃には洗浄剤が使用されるようになった[2]。紀元前3000年頃のエジプトでは湖水から得られる天然炭酸ソーダが利用された[2]。
紀元前3000年頃からは、洗浄剤として灰を溶かした灰汁が利用されるようになり、19世紀後半まで最も一般的な洗浄剤だった[2]。日本でも『古事記』の「さねかずら」、『万葉集』の「さなかづら」や「さいかち」など植物の浸出液を洗濯に使っており、平安時代には灰汁も使われるようになった[2]。
また重曹やアンモニアが溶けて弱アルカリ性となった水は、汚れの皮脂成分の脂肪酸と反応して水溶性の鹸化物質となり汚れが落ちる。古代ローマでは回収して発酵させた尿を使って洗濯する業者がいたことが知られている[注 1]。またフラー土やモンモリロナイトなど油を吸着する性質の泥や土も用いられた。
なお、冷水よりも温水のほうが汚れ落ちの効果が高いことは「古く??[いつ?]」から知られていた[2]。『枕草子』にも湯による洗濯の記述がある[2]。
中世から近世
中世になるとヨーロッパでは湯沸かし、洗濯槽、たたき洗いに使用する石、洗濯板などを備えた共同の洗濯場が設置されるようになった[2]。一週間のうち主に月曜日が「洗濯日」とされ、洗濯は社会的行事であった[2]。(イギリス、ドイツなど伝染病が広がった歴史のある地域では)都市部の家庭の女性が自宅内で洗濯する場合は、かまどで煮沸しつつ棒でかきまわしつつ洗濯したり、あるいは床においた金属製のタライに水と洗濯物を入れ、手で洗ったり足で踏んで、きれいな水ですすぐ、などといった方法が一般的だった。パリのセーヌ川は何世紀もの間、公共の洗濯場として使われ、18世紀から19世紀にかけては女性の職場としての機能を果たしていた[7]。パリの洗濯店「ラヴォワール」(洗濯場の意)はそれまで家事として行われていた洗濯をプロによる職業として特化させたものだった[注 2]。
近現代
日本では明治に入って西洋から洗濯板が入ってきた[9]。大正末期から昭和初期にかけて、洗濯板と石鹸が広く普及した[9]。これ以前は灰汁などを使って洗っていたが、洗濯板と石鹸によって汚れを落とす技術が各段に進歩した[9]。同時に、日本人はシーツやワイシャツ、ブラウスなど白い衣服を着るようになった[9]。ただし、白いものをしっかり洗うには洗濯板に体をのしかけるようにして汚れを揉み出す必要があったため、大量の洗濯物を洗うのは重労働であった[10]。盥には洗濯機のように大量の洗濯物を入れることは出来ないため、はじめに汚れや洗濯物の種類によって細かく仕分ける必要があった[11]。第二次世界大戦後は洗濯機などの家電の発達やクリーニングをはじめとしたサービス業の普及で省力化がもたらされた[12]。
方法
分類
洗濯方法を洗濯剤による分類:
- 普通洗濯 - 石鹸など汚れを落とす薬品の水溶液を用いるもの[13]。「水洗濯」「ウェットクリーニング」とも[13][14]。
- ドライクリーニング - 油脂を溶かす薬品を用いるもの[13]。「揮発油洗濯」とも[13]。絹・毛・毛皮類によく用いられる[13]。洗濯時の吸水により繊維が膨張し、型崩れや収縮を起きることを防ぐために行われる[15]。ただし、普通洗濯と比べ汚れ除去には効果的ではない[6]。
一般家庭で用いられているのは普通洗濯が多いが、水不溶性の油などは落ちにくいため洗剤などを使うことで洗浄効果を高めている[14]。
洗濯する部位による分類:
適用の形式による分類
洗濯用品
- 洗浄のための機械・道具類
- 洗浄剤、柔軟剤、ノリなど
- 乾燥のための道具類
- しわのばし
- 砧(きぬた) ‐ 生乾きの状態の洗濯物を棒や槌で伸ばす道具。
- 衣類スチーマー
- アイロン、火熨斗(ひのし)、炭火アイロン ‐ 鍋やこて形で、中に炭火や燠を入れて、衣類を熱しながら、しわを伸ばす方法が取られた[20][17]。
- 洗剤(近年は液状が一般的)、漂白剤、柔軟剤など
- 砥石の上に置かれる皺伸ばし用の砧
- 煮沸洗い用の鍋Wash copper、および煮沸洗いの際にかき混ぜるために使用されたPosser
洗濯条件
水温
洗濯水の適温は30 - 40 ℃である[21]。この条件で洗濯すると、洗剤の溶解や浸透が進む[21]。それに加え、乳化作用が増し、汚れが落ちやすくなる利点がある[21]。
洗剤濃度
洗剤の適切な濃度は一律に定めることは難しいが、洗剤メーカーが提示する標準使用量より濃度が低い場合は急激に洗浄能力が低下する[21]。その一方で、適正な濃度を超えると洗浄力は飽和してしまう[21]。この飽和の挙動は洗剤成分の界面活性剤が由来となる[22]。
洗濯時間
洗濯時間と洗浄効果の関係は洗剤濃度や洗濯物の材質などによって異なる[21]。しかし、洗濯時間をいたずらに長くしてもそれに比例して洗浄効果があるものではなく、かえって洗濯物の損傷を増やしてしまう[21]。
洗濯水
洗濯に用いる水は軟水が向いている[21]。カルシウムイオンなど硬度成分が多く含まれると、陰イオン性界面活性剤と結合することで不溶性の塩を発生させ洗浄力を低下させる[23]。粉末の合成洗剤には金属イオン補足能が高いゼオライトなどを配合したり、耐硬水性のよい界面活性剤を使用したりする対策が行われている[23]。一方で石鹸は硬度成分の影響を受けやすく、洗浄力低下や金属塩由来の衣類の黄変が起こりやすい[23]。井戸水のように硬度が比較的大きな水を用いる場合は、洗剤メーカーが指定する量より少し多めに洗剤を用いることで効果的に洗濯できる[21]。
洗濯水に鉄分が含有していると、綿などの繊維に付着すると黄変しやすくなる[23]。また、塩素が含有している場合は色柄物を脱色させる場合がある[23]。
洗濯過程
日本産業規格では「取扱絵表示」が定められ、これにより選択の方法や乾燥の方法が示されている[24]。
選別
まず、洗濯機で洗えないものは手洗いする必要がある[25]。次に、柄物や色落ちの色が白物に移るのを防ぐため、白物や柄物は一緒に洗濯してはならない[25]。また、汚れの激しいものも予め洗剤を入れたぬるま湯に漬け置きするなどして、個別で洗う必要がある[25]。素材によっては専用の洗剤で洗わなければならないものもある[25]。
洗浄
洗剤を用いた洗濯では、洗剤の浸透・吸着・分散の3つの作用によって汚れが洗浄される[6]。
浸透作用によって、汚れた布の繊維の間に水分が入りやすくなる[6]。吸着作用によって、布と汚れの接する界面に洗剤が入り込み(吸着)、布と汚れの間で生じる結合力(付着力)を弱め汚れを取れやすくする[6]。分散作用によって、布から離れた汚れの団塊を細かい粒子にして、洗剤液中に分散させる[6]。ここで分散された汚れの粒子は、細かければ細かいほど洗剤液中で安定して浮遊し、再び繊維に付着する(再汚染)することはない[6]。
なお、水中では繊維も汚れも電気的に負に電荷を有しているため、おたがいに反発することで再汚染が起きないとされる[6]。CMC・アルカリ剤・リン酸塩(石鹸など)を用いることで、負の電荷を強めるため、さらに再汚染を防ぐこととなる[6]。
すすぎ
洗濯物の繊維に吸着された石鹸、洗剤や汚れを取り除くためにすすぎを行う[26]。
電気洗濯機によるオーバーフローすすぎの場合、洗剤の初濃度、すすぎ分後の洗剤の濃度とし、洗濯機の容量を、すすぎ水の流量をとした場合に次の関係式が導かれる[27]。
変形して積分すると
この式より、水の流量が多いほどすすぎの速度は大きくなるが、一定のすすぎの効果を得るために要する水量は流量に関わらず一定であることを示す[26]。
すすぎに用いる水はすすぎの質を左右する[28]。カルシウムイオンやマグネシウムイオンが与える影響は大きく、石鹸がカルシウム塩やナトリウム塩で不溶化するとすすぎ回数を増してもよごれが殆ど除去できなくなる[28]。温度は高い方がわずかに効果的であるが、顕著に変化するとは言えない[28]。
脱水
洗剤ですすいだ後の洗濯物は大量の水分を含んでいるため、これらの水を取り除く[28]。このとき、洗濯物を機械的に押し付けたり、遠心力で振り払って脱水を行う[28]。
機械的に押し付ける方法はローラー絞りや手絞りがある[28]。特に手絞りは原始的で、費用も生じない[29]。
遠心力を用いた脱水は脱水力に優れ、布の損傷も比較的少ない利点がある[28]。そのため、遠心脱水機の普及が著しく進んだ[28]。遠心力は脱水槽の半径と回転速度の2乗に比例するため、脱水槽の半径を大きくし、回転速度を早くすると洗濯物をよく絞れる[30]。適切な脱水時間は繊維の親水性や布の組織、厚さによって異なり、脱水しすぎるとしわが残りやすくなる[28]。
乾燥
脱水によって水分を取り除いても、洗濯物の中には吸着・収着された水分が残る[28]。この水分を取り除くために乾燥する[28]。洗濯物の周囲を取り囲む空気の水蒸気量が少ないほど乾燥しやすくなる[28]。洗濯後に洗濯物を槽内に放置すれば雑菌が衣類に移り、更にしわも伸びづらくなる[31]。
乾燥は「恒率乾燥」「減率乾燥第1段」「減率乾燥第2段」の3段階を経る[28]。恒率乾燥では自由水が一定の乾燥速度で乾燥し、蒸発量が減少し、洗濯物の表面が部分的に乾燥し始めてから全表面が平衡水分率に達する減率乾燥第1段、水が拡散・毛管作用で洗濯物表面に移動して蒸発する乾燥減率第2段を経る[28]。
乾燥方法は自然乾燥法と人工乾燥法がある[28]。
自然乾燥法は屋外で太陽光にさらす天日干しが従来から行われてきたが、気温が高く空気が乾燥しているときは早く乾き殺菌効果に優れる利点がある[28]。欠点としては天候に左右され、耐光性が低い洗濯物は陰干しや裏返しで干す必要があることが挙げられる[28]。部屋干しで生乾きになると、菌が繁殖する[32]。そのため、扇風機やエアコンを活用して十分に風通しする必要がある[33]。
住宅事情や生活様式の変化で、天候に左右されず短時間で乾燥可能な家庭用乾燥機やコインランドリーでの人工乾燥法が普及するも、乾燥しすぎによる洗濯物の収縮やしわの発生が起きやすくなる[28]。これを防ぐため、家庭用乾燥機は循環空気と水槽内の除湿水の温度をセンサで検知し、その温度差の変化をセンシングして乾燥を終える[34]。
仕上げ
柔軟仕上げ
麻類などは洗濯後、粗硬な風合いを和らげるため砧打ちが行われていたことがある[35]。板や石の上に布を置き、木槌で叩いて柔らかくし、つやを出す[35]。
現在では柔軟剤を用いて、綿製品の粗硬化や毛製品の収縮などの風合い劣化を補ったり、帯電防止を目的とした柔軟仕上げが行われる[35]。柔軟剤は衣服素材の多様化や電気乾燥機の普及により1970年代後半から需要が大きくなった[35]。市販されている柔軟剤は陽イオン界面活性剤が1 μm弱の粒子となった水性乳化剤である[35]。柔軟剤を含む水に洗濯物を浸すと、陽イオン界面活性剤が繊維1 gあたり1 - 2 mg吸着し、繊維の固着を防いで柔軟効果を与え、同時に親水基の吸湿性によって帯電防止効果を与える[36]。
糊付け
古くからデンプンやフノリなど天然の糊で糊付けが行われてきた[37]。糊付けを行うことで、布に張りとこわさを与え、重量が増すことで衣服の整正を助ける[37]。糊料の種類や仕上げ方によっては光沢・通気性・防汚性の改善効果も期待できる[37]。
デンプンは水とともに加熱して粘性を出したαデンプン液を糊付けに用いる[37]。布地内部の空隙を充填することで量感のある仕上げになる[37]。温湯に溶けることでそのまま糊付けに利用できる[37]。デンプンを酸処理あるいは高圧加熱によって低分子にした可溶性デンプンもあり、これは冷水にも溶ける[37]。市販の糊料は大部分がこの可溶性デンプンである[37]。
カルボキシメチルセルロース(CMO)は布地を比較的硬い仕上がりにさせ、CMOの負電荷が付着することで防汚性を増す効果がある[37]。水に均一に溶解するには数時間かかるため、濃厚液として市販されることが多い[37]。
ポリビニルアルコール(PVA)は流動性に富み、硬すぎず張りのある仕上げが期待できる[37]。繊維間の細かい空隙にも充填する効果があるが、糸間の空隙は塞がないので通気性は確保される[37]。
ポリ酢酸ビニルはしなやかな風合いが得られるものの、汚れやすく洗浄性が低くなる[37]。水に不溶であるため微細な粉末を水性乳化液にしたものが市販されている[37]。糊付け後にアイロンで溶融させて繊維に付着させることで洗濯でも落ちづらくする[37]。
アイロン仕上げ
しわや変形を整えるためにアイロンで仕上げる[37]。火熨斗や鏝も同様の目的で用いられてきた[37]。
アイロン仕上げでは熱によって可塑化した繊維を形づける[37]。しわを伸ばし、折り目をつけるほか、部分的な拡張や圧縮による立体的成形もある程度可能である[37]。
一般には高温ほど効果が大きいものの、材質ごとの耐熱性に応じた最適な温度で行う[37]。温度が高すぎると焦げが生じ、融着・収縮・効果・強度低下・着色などの損傷を起こしやす[37]。合成繊維のアイロン温度は繊維のガラス遷移温度以上に該当するため、短時間で形態をセットできる[37]。水分を含有することでガラス遷移温度を下げ、可塑化しやすくする[37]。スチームアイロンは親水性繊維には効果的であるが、合成繊維は布地硬化を起こすおそれがある[37]。
業者による洗濯
古いほうから順に、また西から東への順で書く。
古代ギリシア
古代ギリシアでは、フーラーという洗濯業者が、発酵させた尿(アンモニア)やフーラーズ・アースというケイ酸アルミナからなる粘土を使い洗濯をしていた[38]。
インド
インドではドービーという下層カーストが行っていた。ドービーが使う洗濯場はドービー・ガートと呼ばれ、ムンバイのドービー・ガートなど各地に見ることができる。
中国
2000年前に中国で書かれた史記では、水中でわたを打つ漂(洗濯)を仕事とする人を漂母と呼んだ[39]。(なお、水でふやけた皺を漂母皮と呼んだ[40])
日本
日本で安土桃山時代に洗濯士という職人が現れ、江戸時代に入ると染物を行う紺屋から独立して洗い物を行う江戸では洗濁屋、京都では洗い物屋という専業の洗濯業者が現れた[41]。
昭和25年から、クリーニング業法という洗濯を生業とする業種に関する法律がある。この法律では、クリーニング業の営業所の床素材などの構造設備や、伝染性の疾病の病原体による汚染のおそれのあるものとして厚生労働省令で指定する洗濯物(指定洗濯物)の取り扱いなどが決められている[42]。
クリーニング所の業務に従事するクリーニング師は、衛生管理上の手続きが必要であるため、定期的に研修を受ける必要があり、また営業所は開設・工事着手前に保健所へ相談することが推奨される。また廃業する場合も保健所に手続きを行うこととなっている[43]。
アメリカ
- Chinese Hand Laundry Alliance - 北米で、立場の弱かった華僑の多くがランドリーを開業していたことから1933年にChinese Hand Laundry Allianceという協会が発足した。
- Yick Wo最高裁判所判決 ‐ 19世紀において木造でのランドリーの多く(320軒のうち、200軒以上)が華僑による経営であった。サンフランシスコでこれらを狙い撃ちにした「木造ランドリー屋を違法とする」条例が施行されたことに対して、最高裁判所でアメリカ国籍でなくとも憲法修正第14条平等保護条項で保護されるとして条例の是正が言い渡された。