終末糖化産物受容体
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終末糖化産物受容体[5](英: receptor for advanced glycation end product: RAGE, advanced glycation end product receptor: AGER)は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する分子量35kDaの膜貫通型受容体[6]であり、1992年にNeeperらによって初めて同定された[7]。その名称は、主に糖蛋白質などの終末糖化産物(AGEs)に結合する能力に由来する。AGEsの糖鎖は、メイラード反応を通じて非酵素的に修飾されたものである。自然免疫における炎症誘発機能や、共通の構造モチーフを通じて特定のリガンドを認識する能力から、RAGEはしばしばパターン認識受容体と呼ばれる。 RAGEには少なくとももう1つ、アゴニスト性リガンド 高移動度群蛋白質B1(high mobility group protein B1; HMGB1)が存在する。HMGB1は、クロマチンリモデリングにおいて重要な役割を果たす細胞内DNA結合蛋白質であり、壊死細胞から受動的に放出されるほか、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞からも能動的に分泌される。
RAGEとそのリガンドの相互作用により、炎症誘発性遺伝子が活性化されると考えられている[8][9]。
糖尿病や他の慢性疾患ではRAGEリガンドの濃度が上昇するため、この受容体は糖尿病合併症、アルツハイマー病、更には一部の腫瘍など、様々な炎症性疾患の発症に関与しているとの仮説が立てられている。
膜貫通ドメインおよびシグナル伝達ドメインを欠くRAGE蛋白質のアイソフォーム(可溶型RAGE、soluble RAGE: sRAGE)は、ドメインを欠かない受容体(全長型、full-length receptor)の有害作用を打ち消すと仮定されており、RAGE関連疾患の治療法開発に繋がることが期待されている。
RNAおよび選択的スプライシング
ヒトRAGE遺伝子の一次転写産物(pre-mRNA)は、選択的スプライシングを受けると考えられている。これまでに、肺、腎臓、脳などの多くの組織において、全長型の膜貫通受容体を含む凡そ6種類のアイソフォームが同定されている。これら6つのアイソフォームのうち5つは膜貫通ドメインを欠いており、細胞から分泌されると考えられている。これらのアイソフォームは一般的に可溶性RAGE(sRAGE)または内在性分泌型RAGE(endogenous secretory RAGE: esRAGE)[12]と呼ばれている。残りの1種類のアイソフォームは可変ドメインを欠いており、RAGEリガンドと結合できないと考えられている。
構造

RAGEは、体内で主に2つの形態をとる。即ち膜結合型[13](membrane-bound RAGE: mRAGE)と可溶型[13](soluble RAGE: sRAGE)である。
mRAGEは3つの主要な構成要素から成る。3つの免疫グロブリン様ドメイン(可変ドメイン(V型)×1 + 定常ドメイン(C型)×2)が連結した細胞外領域、受容体を細胞膜に固定する膜貫通ドメイン、およびシグナル伝達に不可欠な細胞内ドメインである[14][15]。対照的にsRAGEは細胞外ドメインのみで構成されており、膜貫通ドメインと細胞内ドメインを欠いている。sRAGEは、2つの異なる機序によって生成される。1つはRAGE 遺伝子の選択的スプライシングによるもので、これにより膜貫通領域および細胞質領域を欠く切断型が生成される。もう1つは、ADAM10やマトリックスメタロプロテアーゼ(Matrix metalloproteinase: MMPs)などの特定の酵素によるmRAGEの蛋白質分解によるものである[16]。
リガンドが結合すると、mRAGEは細胞内シグナル伝達の開始に不可欠な細胞内蛋白質DIAPH1(ダイアファナス関連フォルミン-1[17]、Diaphanous-related formin-1)を動員する。このシグナル伝達カスケードは、酸化ストレス、炎症、細胞機能障害、アポトーシスなどの病理学的結果を齎す可能性がある。これらの影響は、糖尿病、心血管疾患、神経変性疾患、悪性腫瘍などの幾つかの慢性疾患の進行において特に重要である[18][19]。
全長型の受容体は細胞間コミュニケーションにおいて重要な役割を果たしており、終末糖化産物(AGEs)、アミロイドβペプチド、S100蛋白質など、多様なリガンドと相互作用する。これらの相互作用は細胞のストレス応答に寄与する複数の下流シグナル伝達経路を活性化し、様々な炎症性および代謝性疾患の発症に関与している[20]。
膜結合型RAGE
膜結合型RAGE(mRAGE)は、3つの重要な構造ドメインから構成される全長型の受容体である:
- 細胞外ドメイン:細胞外ドメインは、可変ドメイン(V)および2つの定常ドメイン(C1およびC2)から成る複数の免疫グロブリン様サブドメインから構成されている。可変ドメインは、終末糖化産物(AGEs)、S100蛋白質、高移動度群ボックス1(high mobility group box 1: HMGB1)など、幅広いリガンドに対する主要な結合部位として機能する。このリガンド結合特性は、炎症反応を引き起こす下流のシグナル伝達カスケードを誘発するために不可欠である[21]。
- 膜貫通ドメイン:膜貫通ドメインはRAGEを細胞膜に固定する役割を果たし、受容体が細胞外のリガンドと相互作用し、細胞内にシグナルを伝達できる状態を維持する[21]。
- 細胞質ドメイン:細胞質ドメイン(cytoplasmic domain, cytosolic domain)は細胞内シグナル伝達に不可欠である。リガンドが細胞外ドメインに結合するとこの領域は細胞内のシグナル伝達蛋白質と相互作用して、主要な炎症経路であるNF-κBの活性化などのプロセスを開始する。細胞質ドメインが欠如すると受容体がシグナルを効果的に伝達する能力が損なわれることが観察されており、これはRAGEを介したシグナル伝達におけるその重要性を裏付けている[21]。
可溶型RAGE
可溶型RAGE(sRAGE)には細胞外ドメインのみが存在し、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインの両者を欠いている。sRAGEの形成は、主に以下の2つの機序による:
- 選択的スプライシング:RAGE遺伝子の選択的スプライシングにより膜結合領域および細胞質領域を欠く変異体が生成され、の可溶型の受容体が生成される[22]
- 蛋白質分解による切断:sRAGEは膜結合型RAGEの蛋白質分解による切断によって生成されることもある。この過程ではマトリックスメタロプロテアーゼやADAM10などの酵素がmRAGEの細胞外領域を切断し、sRAGEとなって血流中に放出される[22]。
機能
mRAGEとsRAGEの濃度のバランスは、疾患の転帰に影響を与えると考えられている。過剰mRAGEはしばしば炎症や疾患の進行と関連しており、その一方、高sRAGE値は、炎症反応を緩和する上で有益である可能性がある。
mRAGE
mRAGEはリガンドとの結合に応答して、炎症経路や酸化ストレス経路を活性化させる細胞受容体として機能する。リガンド結合ドメイン、膜貫通領域、細胞質領域からなるこの受容体の構造は、これらの機能にとって極めて重要である。mRAGEと相互作用するリガンドは多岐に亘り、これが糖尿病、神経変性疾患、心血管疾患など、様々な病態への関与につながっている[22]。
sRAGE
sRAGEはデコイ受容体として機能する。sRAGEは血流中を循環してRAGEリガンドと結合することで、それらが細胞表面のmRAGEと結合して活性化することを防ぐ。これらのリガンドを中和することにより、sRAGEはRAGEを介した細胞活性化や炎症を抑制する。sRAGEの濃度上昇は、有害なリガンドの活性化作用を抑制することで炎症性疾患からの保護効果を齎すと考えられている[22]。
リガンド
RAGEは複数のリガンドと結合可能であるため、パターン認識受容体と呼ばれている。これまでにRAGEと結合することが確認されているリガンドは以下の通りである:
- AGEs
- HMGB1(アンフォテリン)[23]
- S100A12(EN-RAGE)
- S100B
- S100A7(ソリアシン、Psoriasin)― 但しS100A7A(ケブネリシン、Koebnerisin)とは高い相同性を持たない
- S100P[24][25]
- S100A8/A9複合体(カルプロテクチン)[26]
- アミロイドβ
- Mac-1
- ホスファチジルセリン
- S100A4[27]
受容体との結合
終末糖化産物受容体は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属するマルチリガンド受容体であり、終末糖化産物(AGE)と結合する能力があることから同定された。AGEは、糖尿病や腎不全などの様々な慢性疾患において蓄積する。しかし、RAGEはEN-RAGE[28]やS100BといったS100/カルグラニュリンファミリー蛋白質などの他のリガンドにも結合し、これらは炎症プロセスにおいて重要な役割を果たしている[29]。
RAGEリガンドは、その細胞外ドメインを介して受容体と相互作用し、一連の細胞内シグナル伝達経路を誘発する。これらの経路は、炎症誘発性サイトカイン、接着分子(VCAM-1やICAM-1など)、その他の炎症メディエーターの発現において中心的な役割を果たす核因子カッパB(NF-κB)等の主要な転写因子の活性化に繋がる[29]。EN-RAGEやS100Bのようなリガンドと結合すると、RAGEは内皮細胞の活性化、単核球の遊走、TNF-αやIL-1βなどのサイトカイン産生など、様々な炎症反応を惹起する[29]。
この様なRAGEとリガンドとの相互作用は、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、糖尿病合併症などの慢性炎症性疾患に関与している。可溶型RAGEや特異的抗体を用いてRAGEとリガンドの相互作用を阻害することで炎症反応を抑制できるので、新たな治療戦略となるポテンシャルを有する[29]。
RAGE以外の受容体
RAGE以外にも、終末糖化産物(AGEs)と結合すると考えられている受容体が存在する。しかしこれらの受容体は、RAGEの様にシグナル伝達に関与するのではなく、AGEの除去に寄与している可能性がある。
各種AGEs受容体を介したAGEsの除去およびシグナル伝達の機序
SR-A
SR-A(マクロファージ スカベンジャー受容体[30]I型およびII型)は、主にマクロファージに発現している。これらの受容体は、循環系にあるAGEsなどの修飾蛋白質を認識し、除去する上で重要な役割を果たしている。AGEsがSR-Aに結合すると組織内への取り込みと分解が誘導され、組織内の酸化ストレスが効果的に軽減される。リガンドが結合すると、SR-Aは下流のシグナル伝達経路を活性化し、貪食作用とリソソーム分解を促進する。また、この受容体は炎症性シグナル伝達経路の調節にも関与しており、組織の恒常性の維持とAGEsの蓄積による慢性炎症の予防にも貢献している。
OST-48(AGE-R1)
オリゴ糖転移酵素[31]構成因子OST-48(AGE-R1)は、特に糖尿病などの条件下でAGEsの解毒および蓄積の防止に関与している。OST-48の発現は、細胞ストレス応答、とりわけAGEsレベルの上昇としばしば連動する酸化ストレスによって調節されている。OST-48は、AGEsをより害の少ない副産物へと分解するのを促進することでAGEsによる細胞毒性の軽減に寄与する。この受容体は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(Peroxisome Proliferator-Activated Receptor γ: PPARγ)など様々なシグナル伝達分子と相互作用し、細胞ストレス応答の緩和や代謝バランスの回復を助ける。この解毒プロセスは、血管および代謝の健康に対するAGEsの悪影響を抑制する上で極めて重要な役割を果たしている[32]。
80K-Hリン蛋白質(AGE-R2)
80K-H[33](蛋白質キナーゼC基質、AGE-R2)は、AGEs曝露に対する細胞内シグナル伝達応答に関与している。AGE-R2は、蛋白質キナーゼC(Protein kinase C: PKC)の活性を調節することで細胞が酸化ストレスに適応するのを助ける経路の制御に関与している。この調節は、細胞の恒常性の維持や、AGEsが細胞構造に及ぼす有害な影響の緩和に寄与し、最終的には細胞の酸化ストレスに対する回復力に貢献する[34]。
ガレクチン3(AGE-R3)
レクチンファミリーに属するガレクチン3は、AGEsに結合して細胞外空間から除去する多機能受容体である。この受容体は、アポトーシス、細胞増殖、免疫応答の調節に関与していることで知られている。AGEsと結合すると、ガレクチン-は炎症調節に不可欠な分裂促進因子活性化蛋白質キナーゼ(Mitogen-activated protein kinase: MAPK)や核因子カッパB(Nuclear factor kappa B: NF-κB)を含む下流のシグナル伝達経路を活性化する。これらの経路を介してガレクチン3はAGE蓄積による炎症促進作用を抑制し、組織の完全性を維持するのに寄与している。アポトーシスおよび免疫細胞の動員を調節する役割は、AGEsによる組織損傷の抑制に更に寄与し、結果として慢性炎症性および線維化性疾患において保護的な役割を果たしている[35]。
LOX-1
レクチン様酸化LDL受容体[36](Lectin-like Oxidized Low-Density Lipoprotein Receptor-1: LOX-1)は、主に酸化低密度リポ蛋白質(oxLDL)と結合することで知られているが、AGEとも結合する。LOX-1は内皮細胞、平滑筋細胞、およびマクロファージに発現しており、内皮機能障害の媒介やアテローム性動脈硬化プラークの形成促進において重要な役割を果たしている。AGEsがLOX-1に結合すると、活性酸素種(Reactive oxygen species: ROS)の産生やNF-κBの活性化を含むシグナル伝達経路が活性化され、これらが血管の炎症や機能障害に繋がる。このため、LOX-1は血管合併症の進行、特に糖尿病などの代謝性疾患において重要なメディエーターとなる[37]。
CD36
CD36はRAGEと並ぶAGEsの重要なスカベンジャー受容体である。マクロファージ、内皮細胞、脂肪細胞に発現しており、AGEs修飾蛋白質の認識と取り込みにおいて主要な役割を果たしている。CD36はAGEsの除去を促進し、酸化ストレスや炎症を軽減する。また脂質代謝や免疫調節にも寄与している。この受容体はMAPKやToll様受容体4(Toll-like receptor 4: TLR4)などのシグナル伝達経路の活性化に関与しており、AGEsに対する炎症反応を調節することで慢性炎症や組織損傷を防いでいる[38]。
SR-BI
スカベンジャー受容体クラスB I型(Scavenger Receptor Class B Type I: SR-BI)は主にコレステロール輸送の役割で知られているが、AGEsにも結合する。SR-BIは肝細胞や内皮細胞を含む様々な細胞種に発現しており、そこでAGEs修飾蛋白質の取り込みを促進する。AGEsの除去を媒介することで、SR-BIは酸化ストレスを軽減し脂質恒常性の維持に寄与する。また脂質代謝におけるその役割は、AGEsによる細胞損傷の軽減にも繋がり、血管の健康全般に貢献している[39]。
LRP1
低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1(Low-Density Lipoprotein Receptor-Related Protein 1: LRP1)は、AGEsを含む様々なリガンドのエンドサイトーシスと分解に関与している。LRP1は、肝臓、血管平滑筋細胞、神経細胞などの組織に発現している。LRP1はAGEs修飾蛋白質の細胞内取り込みを促進することでそれらの蓄積を防ぎ、酸化損傷を軽減する。またこの受容体は炎症を調節するシグナル伝達経路とも相互作用しており、AGEsに起因する血管障害や代謝異常を防ぐ上で重要な因子となっている[40]。
MSR-1
マクロファージ スカベンジャー受容体1(Macrophage Scavenger Receptor 1: MSR1, SR-A1)(スカベンジャー受容体クラスA)は、主にマクロファージに発現しており、AGEsの貪食作用において極めて重要な役割を果たしている。AGEs修飾蛋白質を認識して細胞内に取り込むことで、AGEsに曝露された組織における炎症や細胞ストレスを軽減する[41]。この受容体は炎症誘発性シグナル伝達経路の活性化に関与する一方で、組織の修復や炎症の解消にも寄与し、組織の恒常性維持に貢献している。
CLEC14A
C型レクチンドメインファミリー14メンバーA(C-type lectin domain family 14 member A: CLEC14A)は内皮細胞に発現するC型レクチン受容体である。これはAGEsと結合してその除去を促進することで、血管の健康維持の助力となる[42]。CLEC14AとAGEsとの相互作用は内皮細胞の活性化や炎症を抑制すると考えられており、AGEsによる損傷から血管を保護し、血管の健全性を維持するのに寄与している。
SR-BII
スカベンジャー受容体クラスB II型(Scavenger Receptor Class B Type II: SR-BII)はSR-BIと類似しているが、異なる機能を有する。SR-BIと同様に脂質輸送に関与し、AGEsにも結合する。AGEs修飾蛋白質の取り込みを仲介する役割を果たし、AGEsによって引き起こされる細胞ストレスを軽減するのに寄与する[43]。脂質代謝およびAGEsの除去に関与することで、SR-BIIは酸化損傷の軽減と細胞の恒常性維持を支援する。
DC-SIGN
樹状細胞特異的ICAM-3結合ノンインテグリン[44](Dendritic Cell-Specific Intercellular adhesion molecule-3-Grabbing Nonintegrin: DC-SIGN)は樹状細胞に発現する受容体であり、主に病原体の認識や免疫応答に関与している。最近の研究によると、DC-SIGNはAGEsにも結合してその除去を仲介することで、AGEsによる免疫活性化の抑制に寄与することが示唆されている[45]。AGEsに対する免疫応答を調節することにより、DC-SIGNは免疫の恒常性を維持し、AGEsの蓄積に伴う慢性炎症を防止している。
臨床的意義
RAGEは血管障害に起因すると考えられるいくつかの慢性疾患と関連している。その病態機序については、リガンドが結合するとRAGEが核因子カッパB(NF-κB)の活性化をシグナル伝達するという仮説が提唱されている。NF-κBは、炎症に関与する幾つかの遺伝子を制御している。RAGE自体もNF-κBによって発現が上昇する。RAGEリガンドが大量に存在する状態(例えば、糖尿病におけるAGEsやアルツハイマー病におけるアミロイドβ蛋白質など)では、正のフィードバックループが形成され、慢性炎症を引き起こす。 この慢性状態は、微小血管系および大血管系に変化をもたらし、臓器障害やさらには臓器不全を引き起こすと考えられている[46]。しかし、RAGEは炎症性疾患では発現が上昇する一方で、肺癌や肺線維症では発現が低下する[47]。
RAGEに関連すると思われる疾患には以下のものがある[要出典]:
肺疾患
RAGEの発現は他の組織と比較して肺で最も高く、特にI型肺胞細胞において顕著である。特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis: IPF)の場合はRAGEの発現が失われており、これは肺系におけるRAGEの調節と発現が血管系とは異なることを示している。研究によると、RAGEを阻害またはノックダウンすると、細胞接着が損なわれ、細胞の増殖と遊走が増加する[53]。
糖尿病
RAGEは糖尿病の病態形成において極めて重要な役割を果たしている。免疫グロブリンスーパーファミリーに属する多リガンド受容体であるRAGEは、主に蛋白質や脂質の非酵素的糖化によって生成される終末糖化産物(AGEs)と結合する。糖尿病では高血糖がAGEsの生成を促進し、炎症誘発性および酸化促進性の環境を助長して血管損傷や免疫細胞機能障害を悪化させる[54][55]。
1型および2型糖尿病のいずれにおいても、RAGEは微小血管合併症と大血管合併症に大きく関与している。血管、心筋細胞、足細胞、免疫細胞において高発現しており、そこではAGEs、S100蛋白質、高移動度群ボックス1(HMGB1)などのリガンドと共局在する。この共局在は、急性感染症に伴う一過性の炎症反応とは異なる慢性的な細胞ストレスおよび炎症を惹起する[54]。
RAGEの活性化は、糖尿病性腎症や網膜症などの合併症の一因となる。糖尿病マウスモデルを用いた研究によると、可溶型受容体(sRAGE)を用いてmRAGEを阻害することで、メサンギウム硬化、基底膜の肥厚、内皮細胞の損傷を軽減してこれらの症状を緩和できることが示唆されている[54]。更に、RAGEとAGEsおよびS100蛋白質との相互作用は、病変の複雑化、マクロファージの蓄積、および血管炎症の増大を特徴とする、糖尿病におけるアテローム性動脈硬化を促進する。
心血管障害
糖尿病以外にも、RAGEは心血管疾患、特にアテローム性動脈硬化症の発症機序において極めて重要な役割を果たしている。RAGEは糖尿病患者と非糖尿病患者の双方のアテローム性プラークに存在するが、糖尿病患者ではその発現が亢進している。平滑筋細胞、内皮細胞、マクロファージにおけるRAGEの活性化は、酸化ストレス、炎症シグナル伝達、および免疫細胞の動員といった機序を通じて、アテローム性病変の進行を促進する[54]。
RAGEを介したシグナル伝達は、血管の炎症、内皮機能障害、およびプラークの不安定性を悪化させる。動物実験では、糖尿病モデルにおいてRAGEを阻害することで、血糖値に影響を与えることなく病変の形成を抑制し、血管機能を改善できることが示されている[54][55]。
薬剤の標的としての可能性
RAGEの独特な構造は、特に慢性炎症を伴う疾患において治療的介入の有望な標的となる。可変ドメインへのリガンド結合を阻害する阻害剤が、下流の炎症シグナル伝達を抑制する目的で研究されてきた。細胞質ドメインを標的として細胞内シグナル伝達を阻害することも、現在検討されている別のアプローチである。更にsRAGE量を上昇させることは、炎症誘発性リガンドを中和しmRAGEとの相互作用を制限する有効な戦略となり得るため、炎症性疾患の治療において有益な効果を齎す可能性がある[22]。
糖尿病および心血管疾患の疾患の治療に向けたRAGE拮抗作用について、前臨床および臨床研究が進められている。薬理学的阻害剤やsRAGEなどの可溶性デコイ受容体を用いてRAGEシグナル伝達を阻害することで、糖尿病患者の血管合併症を軽減できる可能性が示されている。これらの戦略は、糖尿病合併症と心血管疾患の進行の両方を促進する慢性炎症と酸化ストレスを管理する新たな手段となる可能性がある[55]。
RAGEが糖尿病や心血管疾患において果たす役割は、慢性炎症や血管損傷を媒介するそのシグナル伝達経路の重要性を浮き彫りにしている。RAGEを標的とすることは、これらの疾患の負担を軽減するための有望なアプローチとなり得る。特に糖尿病患者においては、現在の治療法では心血管合併症の予防が不充分である可能性がある場合に、その効果が期待される。
阻害薬
これまでに、幾つかの低分子RAGE阻害剤や拮抗薬が報告されている[56][57][58][59]。
- アゼリラゴン
- vTv Therapeutics(旧TransTech Pharma)は、軽度のアルツハイマー病を対象としたRAGE阻害剤アゼリラゴン[60](TTP488)の第III相臨床試験を実施した[61][62]。この試験は2018年に中止された[63]。
- 受容体阻害ペプチド
- 受容体阻害ペプチド(Receptor Antagonist Peptide: RAP)は、RAGEリガンドと直接競合してRAGEと結合することでシグナル伝達を阻害するペプチド系阻害剤である。実験モデルにおいて、血管の炎症を軽減し、アテローム性動脈硬化を予防する可能性が示されている。RAGEとリガンドの相互作用を阻害するRAPの特性から、特に慢性炎症を伴う心血管疾患の治療薬候補として注目されている。
- FPS-ZM1
- FPS-ZM1は、血液脳関門を通過して中枢神経系におけるRAGEシグナル伝達を効果的に阻害するように設計された、よく知られた低分子RAGE阻害薬である。研究により、FPS-ZM1はアルツハイマー病のマウスモデルにおいて、神経炎症およびβアミロイドの蓄積を著しく減少させることが実証されている。FPS-ZM1は、RAGEを阻害して神経変性プロセスに関連する酸化ストレスと炎症を軽減することを目的としており、アルツハイマー病やその他の神経炎症性疾患の治療において、前臨床試験で有望視されている[64]。
調査研究
細胞外小胞のクロストーク
最近の研究により、特に炎症反応において、RAGEが細胞外小胞[65](Extracellular vesicle: EV)を介した細胞間コミュニケーションの仲介に関与していることが明らかになってきた。終末糖化産物(AGEs)を含む様々なリガンドとの相互作用で知られるRAGEは、ストレスや損傷を受けた細胞からのEVの生成および分泌において重要な役割を果たしている。エクソソームなどの細胞外小胞は、蛋白質、脂質、RNAなどの分子を細胞間で輸送することで、細胞間コミュニケーションを促進する小さな脂質結合小胞である。最近の知見によると、RAGE関連小胞経路は、細胞間の炎症誘発性シグナル伝達を可能にすることで炎症の増悪に寄与していることが示唆されている[6][9]。
具体的には、2023年の研究により、サイトカイン誘導ストレスに曝されたβ細胞がRAGEリガンドを豊富に含むEVを放出し、それが近隣細胞のRAGEシグナル伝達経路をさらに活性化し、炎症反応を促進するとともにインスリン分泌を阻害することが判明した。これらのEVを介した効果は複数の細胞種に渡って炎症を伝播することが示されており、RAGE関連小胞が糖尿病などの代謝性疾患における免疫応答の増幅に重要な役割を果たす可能性があることを示唆している[23]。また、2024年の別の研究では、RAGEリガンドを含むEVが早期糖尿病患者の血流中で検出できることが報告されており、これらの小胞が炎症性疾患の早期診断のバイオマーカーとして有用である可能性が示されている[24]。
更にこれらの知見は、RAGEがEVの生合成に関与するだけでなく、小胞間クロストークを介した炎症のメディエーターとしても機能するという二重の役割を浮き彫りにしており、これは炎症性疾患の緩和を目的とした治療戦略において、RAGEとEVの相互作用を標的とすることの重要性を指摘している。
老化における役割
RAGEシグナル伝達と加齢の関係は、特に細胞老化や炎症老化[66](老化に伴う慢性的な軽度炎症)の文脈において、研究の焦点としてますます注目されている。RAGEは細胞周期が恒久的に停止した状態となる細胞老化を促進する役割を果たしていると考えられており、これが、炎症誘発性因子を分泌する機能不全細胞の蓄積に寄与している。この様な現象は総称して細胞老化随伴分泌現象[67](Senescence-associated secretory phenotype: SASP)と呼ばれる。
2022年に実施された研究では、老化組織におけるAGEsによるRAGEの活性化が老化細胞の蓄積に繋がり、それにより組織の炎症が悪化し、加齢関連疾患の一因となることが実証された。この研究ではまた、老化細胞におけるRAGEの発現亢進が、炎症性老化の主要なメディエーターであるインターロイキン-6(Interleukin-6: IL-6)や腫瘍壊死因子-α(Tumor necrosis factor-alpha: TNF-α)といったSASP因子の分泌を増加させることが指摘されている[25]。
2023年に実施された別の研究では、RAGE欠損マウスは同年齢の対照群と比較して老化および全身性炎症のマーカーが減少していることが示され、RAGEシグナル伝達を標的とすることが、加齢による悪影響を軽減し健康寿命を延ばすための有望なアプローチとなり得ることを示唆している。これらの知見はRAGEが加齢に伴う炎症環境の重要な調節因子としての役割を果たしていることを浮き彫りにしており、加齢関連炎症性疾患の軽減を目的とした治療介入の潜在的な道筋を提供している[26]。
