プロテアーゼ活性化受容体1
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プロテアーゼ活性化受容体1(プロテアーゼかっせいかじゅようたい1、英: protease-activated receptor 1、略称: PAR1)は、ヒトではF2R遺伝子によってコードされるタンパク質である[5]。トロンビン(凝固第II因子)受容体という語がこのタンパク質を指して用いられることもある。PAR1はGタンパク質共役受容体であり、4種類のプロテアーゼ活性化受容体の1つである。血小板と内皮細胞で高度に発現しており、血液凝固と炎症の連携を媒介する重要な役割を果たし、炎症性肺疾患や線維性肺疾患の発症に重要である[6]。また、トロンビンまたは活性化プロテインCとの相互作用を介して、血管内皮のバリアの完全性の破壊と維持にそれぞれ関与している[7]。
構造
シグナル伝達経路

活性化
PAR1はN末端の41アミノ酸がトロンビンによって切断されることで活性化される[10]。トロンビンはN末端のLys-Asp-Pro-Arg-Ser配列を認識し、Arg41とSer42の間のペプチド結合を切断する。PAR1の特異的切断部位に対するトロンビンの親和性は、トロンビンのexositeと呼ばれる領域とPAR1のSer42のC末端側に位置するアミノ酸からなる酸性領域との二次的相互作用によってさらに強化される[11]。このタンパク質分解による切断は不可逆的で、切断されたペプチド(parstatinとも呼ばれる)はその後、細胞外へ放出される[10]。切断によって生じた新たなN末端は、PAR1の2つ目の細胞外ループの結合領域に結合するテザードリガンド(係留リガンド)として作用し、PAR1を活性化する。この結合はタンパク質のコンフォメーション変化を促進し、PAR1の細胞内領域へのGタンパク質の結合を可能にする[12][13]。
シグナル伝達
PAR1は切断を受けると、細胞内ループのいくつかの部位に結合したGタンパク質を活性化する。例えば、PAR1はPAR4とともに、G12/13型Gタンパク質と共役して活性化し、RhoとRhoキナーゼを活性化する[8]。この経路はアクチンの収縮による血小板の形状の迅速な変化を引き起こして血小板に可動性をもたらすとともに、顆粒の放出を引き起こす。どちらも血小板の凝集に必要な過程である[8]。
さらに、PAR1とPAR4の双方がGqと共役し、細胞内のカルシウムイオンの移動を刺激する。カルシウムは血小板活性化のセカンドメッセンジャーとして機能する[8]。また、この経路はプロテインキナーゼCも活性化し、血小板の凝集を促進し、血液凝固経路をさらに進行させる[11]。
終結
PAR1の細胞質テールのリン酸化とその後のアレスチンの結合は、PAR1をGタンパク質シグナル伝達から脱共役させる[10][11]。リン酸化されたPAR1はエンドソームを介して細胞内へ送り返され、ゴルジ体へ送られる。その後、切断されたPAR1は選別されてリソソームへ輸送され、分解される[11]。このインターナリゼーションと分解は、受容体シグナル伝達を終結させるために必要な過程である[10]。
細胞がトロンビンに対する応答性を再獲得するためには、PAR1が細胞膜へ再補充されなければならない。細胞膜の未切断のPAR1には、細胞内のC末端のチロシンモチーフにAP2アダプタータンパク質複合体が結合し、エンドサイトーシスが促進される[14]。これらはその後、細胞質のクラスリン被覆小胞に貯蔵され、タンパク質分解から保護される。未切断のPAR1は再合成に依存しない形でこうした小胞から細胞膜へ定常的に供給され、細胞は再びトロンビンに対して感作状態となってシグナル伝達経路が再設定される[15]。
リガンド

アゴニスト
PAR1に対する選択的アゴニストの探索は、研究者の関心事となっている。合成SFLLRNペプチドはPAR1のアゴニストとして作用することが知られている。SFLLRNペプチドは活性化PAR-1のN末端テザードリガンドの最初の6残基を模倣し、2つ目の細胞外ループ上の同じ結合部位に結合する[16]。そのため、トロンビンが存在しない場合でも、SFLLRNの結合によってPAR1の切断に伴う応答をもたらすことができる[17]。
アンタゴニスト
PAR1の選択的アンタゴニストは抗凝固薬として開発されている。
- SCH-79797
- ボラパキサルはZontivityの商品名で販売されており、心筋梗塞や末梢動脈疾患の病歴がある患者の心疾患の治療に利用される、ファースト・イン・クラス(画期的医薬品)抗血小板薬である[18]。ボラパキサルは近年、IL-1βなどの炎症性サイトカインやCXCL1、CCL2、CCL7などのケモカインのレベルを低下させることにより、肺炎球菌Streptococcus pneumoniaeに対する好中球の炎症応答を弱めることが明らかにされた[19]。ボラパキサルはPAR1の細胞外ループ2と3の間の結合ポケットに結合することで阻害を行う。ボラパキサルの結合はPAR1の不活性構造を安定化し、活性化型コンフォメーションへの切り替えを防ぐ[16]。