イタリア歌曲集
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日本では「イタリア歌曲」と呼ばれることが多いが、上述の通りここに掲載されている作品のオリジナルはほとんどが17、18世紀のオペラや宗教曲のアリアであり、歌曲ではない。また、編集したパリゾッティが19世紀の人物であったため、作曲当時のバロック音楽や古典派音楽の様式とは異なった19世紀ロマン派音楽の様式でピアノ伴奏版に編曲され、様々な演奏記号が加えられている。また、他人の曲(時にはパリゾッティの自作も)を別人の作と称していることが現在では判明している。全音楽譜出版社版は原題が「アリア集」であるのに「歌曲集」としている点なども含め、今日の観点から見ると問題点も多い(教育芸術社版では「古典声楽作品集」となっている)。
イタリア声楽作品の代表的なものからマイナーなものまで、幅広く掲載されており、日本においては声楽家を志す大抵の者が学習の過程で使用している。日本の音楽大学や音楽学部のある大学、音楽科が設置されている高等学校で声楽を専攻している者であれば、ほとんどの者が使用しており、初心者が勉強するために使われることが多い。
初心者の大半は「Nina」、「Nel cor piu non mi sento」、「Sebben, crudele」、「Caro mio ben」(いずれも「イタリア歌曲集1」に収録)のような歌いやすい曲から習うことが多く、ある程度上達すれば第2集以降の曲へ進むこともある。
原著と日本における編纂史
リコルディ社が出版した「古典アリア集」は99曲を収録した全3巻。出版年は順に1885、1890、1900年。各巻は当時のイタリア王妃マルゲリータ・ディ・サヴォイア=ジェノヴァ(1851-1926)に宛てた献辞を伴う。出版から9年後アメリカG.Schirmer社がセオドア・ベイカー(1851–1934)による英訳版を刊行し、英語圏でも広く知られる事になった。
日本では全音版成立以前に「新撰イタリー歌曲集」が東京音楽書院により刊行されている。1948年の第1巻では緒園凉子、夏目利江と畑中良輔による訳詞を収録。第2巻ではパリゾッティが採り上げなかったベートーヴェンがイタリア語詩に作曲した“In questa tomba oscura(この暗きはかに)”WoO.133を収録。1967年に出版された第3巻は現在の「イタリア歌曲集」にもみられるように「古典アリア集」収録曲とトスティ作品の混成になっている。
デンマークの研究家クヌート・イェッペセン(1892-1974)が「古典アリア集」の原曲資料の調査を行い、通奏低音などの様式を残した伴奏を付けた“La Flora”(Wilhelm Hansen社)が翌1949年に刊行された。こちらも全3巻だが収録曲は135曲に増えている。同年中に全音が戸口幸策の翻訳を付け日本版「フローラ : イタリア古典歌曲集」として出版した。
全音が「古典アリア集」に基づく歌曲集を出版するのは1967年。「新撰イタリー歌曲集」に掲載された訳詞を一部転載しつつ、原詩の意味と発音に関する解説と歌唱法には今日の版より多くの字数が費やされている。1971年には訳詞の入れ替え、イェッペセンによる「フローラ」の内容に触れた新しい序文とともに増補版が編纂され、全4巻となった。
20世紀末からの展開
20世紀末にジョン・グレン・ペートンの原曲調査に基づき、Alfred社が1991年に"26 Italian Songs and Arias"、1994年に"Italian Arias of the Baroque and Classical Eras"を刊行した(前者は音楽之友社が2001年に邦訳を出したが、絶版になって久しい)。新旧の全集版が比較的容易に参照出来るヘンデル作品は除外されており、「Caro mio ben」は前奏と後奏が幾らか長くなり、「Nel cor piu non mi sento」は重唱、「O del mio dolce ardor」は一種類のみ、「Piacer d'amor(Plaisir d'amour)」はフランス語歌詞のヴァージョンであるなど、楽曲成立史とともにパリゾッティが介入する前の形が示された。イェッペセンの業績に近いものだが、「Caro mio ben」をはじめとする作曲者表記の疑義や成立史がより詳細にされた。
この成果をうけて全音楽譜出版社も歌曲集第1巻をリニューアル。楽譜自体はパリゾッティ版によって原版を作り直し、中巻寛子(愛知県立芸術大学)があらためて調査を行い、解説を執筆した。
イタリア歌曲集に関するCD
イタリア歌曲集1
| 題名 | 原題 | 作曲者 |
|---|---|---|
| アマリッリ | Amarilli | ジュリオ・カッチーニ |
| 私を死なせて | Lamento d'Arianna | クラウディオ・モンテヴェルディ |
| 愛の神よ、私に告げてください | Dimmi, amor | アルカンジェロ・デル・レウト (Arcangelo del Leuto) |
| 側にいることは | Star vicino | サルヴァトル・ローザ |
| 勝利だ、私の心よ | Vittoria, mio core | ジャコモ・カリッシミ |
| お前は私を苦しめていなかったのに | Tu mancavi a tormentarmi | アントニオ・チェスティ |
| さようなら、コリンド | Addio, Corindo | アントニオ・チェスティ |
| 姿を隠さないでほしい | Deh, piu a me non v'ascondete | ジョヴァンニ・マリア・ボノンチーニ |
| 教会のアリア | Aria di chiesa | アレッサンドロ・ストラデッラ |
| あなたは知っている | Tu lo sai | ジュゼッペ・トレッリ |
| 私は心に感じる | Sento nel core | アレッサンドロ・スカルラッティ |
| 陽はすでにガンジス川から | Gia il sole dal Gange | アレッサンドロ・スカルラッティ |
| 私を傷つけるのをやめるか | O cessate di piagarmi | アレッサンドロ・スカルラッティ |
| フロリンドが誠実なら | Se Florindo e fedele | アレッサンドロ・スカルラッティ |
| 私は悩みに満ちて | Son tutta duolo | アレッサンドロ・スカルラッティ |
| 貴女が私の死の栄光を | Se tu della mia morte | アレッサンドロ・スカルラッティ |
| 菫 | Le violette | アレッサンドロ・スカルラッティ |
| 恋をしたい人は | Chi vuole innamorarsi | アレッサンドロ・スカルラッティ |
| いとしい絆よ | Caro laccio | フランチェスコ・ガスパリーニ |
| あなたへの愛を捨てることは | Lasciar d'amarti | フランチェスコ・ガスパリーニ |
| 美しい唇よ、お前は言ったのだ | Pur dicesti, o bocca bella | アントニオ・ロッティ |
| たとえつれなくとも | Sebben, crudele | アントニオ・カルダーラ |
| お前を讃える栄光のために | Per la gloria d'adorarvi | ジョヴァンニ・バッティスタ・ボノンチーニ |
| 樹木の蔭で(ラルゴ) | Ombra mai fu | ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル |
| 私を泣かせてください | Lascia ch'io pianga | ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル |
| ああ、私の心である人よ | Ah, mio cor | ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル |
| 愛に満ちた処女よ | Vergin, tutto amor | フランチェスコ・ドゥランテ |
| 踊れ、優しい娘よ | Danza, fanciulla gentile | フランチェスコ・ドゥランテ |
| ニーナ | Nina | ヴィンチェンツォ・レグレンツィオ・チアンピ (ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージ作として発表) |
| もし貴方が私を愛してくれて | Se tu m'ami | アレッサンドロ・パリゾッティ (ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージ作として発表) |
| ああ私のやさしい熱情が A | O del mio dolce ardor A | クリストフ・ヴィリバルト・グルック |
| ああ私のやさしい熱情が B | O del mio dolce ardor B | クリストフ・ヴィリバルト・グルック |
| いとしい人が来る時 | Il mio ben quando verra | ジョヴァンニ・パイジエッロ |
| もはや私の心には感じない(うつろの心) | Nel cor piu non mi sento | ジョヴァンニ・パイジエッロ |
| ジプシー女をお望みの方はどなた | Chi vuol la zingarella | ジョヴァンニ・パイジエッロ |
| 愛の喜びは A | Piacer d'amor A | ジャン・ポール・マルティーニ |
| 愛の喜びは B | Piacer d'amor B | ジャン・ポール・マルティーニ |
| いとしい女よ | Caro mio ben | トンマーゾ・ジョルダーニ |
イタリア歌曲集2
| 題名 | 原題 | 作曲者 |
|---|---|---|
| ああ愛らしく美しい瞳 | O leggiadri occhi belli | 不明 |
| 愛の神よ、何を待っているのですか | Amor, ch'attendi? | ジュリオ・カッチーニ |
| 翼を持つ愛の神よ | Tu ch'hai le penne, Amore | ジュリオ・カッチーニ |
| 紅の美しい扉よ | Bella porta di rubini | アンドレア・ファルコニエーリ |
| 悩む心よ、追うがいい | Segui, segui, dolente core | アンドレア・ファルコニエーリ |
| もし美しい小川が | Se bel rio | ラファエロ・ロンターニ |
| 美しい瞳よ、慈悲を、慈悲を | Begli occhi, marce' | アントニオ・フランチェスコ・テナーリア |
| その日はいつのことか | Quando sara quel di | アントニオ・フランチェスコ・テナーリア |
| 私はよく場所を変える | Vado ben spesso cangiando loco | サルヴァトル・ローザ |
| いとしい人の回りに | Intorno all'idol mio | アントニオ・チェスティ |
| もし幸せの中に | Se nel ben | アレッサンドロ・ストラデッラ |
| なんと尊大な習性だろう | Che fiero costume | ジョヴァンニ・レグレンツィ |
| 羊飼いの娘よ、希望をお持ちなさい | Pastrella, spera, spera | ジョヴァンニ・マリア・ボノンチーニ |
| 眠っているのか、美しい女(ひと)よ | Dormi, bella | ジョヴァンニ・バッティスタ・バッサーニ |
| お休み、お眠り | Posate, dormite | ジョヴァンニ・バッティスタ・バッサーニ |
| 気を取り直して希望を抱け | Consolati e spera! | アレッサンドロ・スカルラッティ |
| 恋する蝶のように | Qual farfalletta amante | アレッサンドロ・スカルラッティ |
| 苦しい想いよ | Affani del pensier | ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル |
| 私を燃え立たせるあの炎 | Quella fiamma che m'accende | フランチェスコ・バルトロメオ・コンティ (ベネデット・マルチェッロ作として発表、レチタティーヴォは19世紀に追加) |
| 買いたい人はどなた | Chi vuol comprar | ニコロ・ヨンメッリ |
| 私が口説かれて | Vedermi corteggiare | リナルド・ダ・カプア |
| ああ夜よ、神秘の女神よ | O notte, o Dea del mistero | ニコロ・ピッチンニ |
| どんなに多くの人が言ったことでしょう | Sai quanti m'han detto | ジョヴァンニ・パイジエッロ |
| 私のお小姓も好きですが | Se mi piace il mio contino | ドメニコ・チマローザ |
| 私の賛える美しい神よ | Bel nume che adoro | ドメニコ・チマローザ |
| 楽しい安らぎが | Ridente la calma | ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト |