キンマ
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嗜好品としてのキンマ

日本に於いては、キンマとはビンロウジと石灰とキンマの葉を噛む習慣を考慮して、そのすべてをまとめてキンマと呼ぶことが多い(ビンロウジ噛み)。日本語におけるキンマの語は、タイ語における「キン(食べる)+マーク(ビンロウジ)」(ビンロウジ(檳榔子)を食べる、の意)という語の訛[1]である。ビンロウジとはビンロウ(檳榔、ヤシ科 Areca catechu、ビンロウジとの区別でビンロウジュ(檳榔樹)とも言う)の実のことを言う。マークという言葉の本来の意味は「実」であったが、タイに於いてはアユタヤ王朝時代から、貴賤問わず広く服用され日常性が高かったために、「実を食べる」という略語的用法がそのまま「キンマを用いる」という意味になっていった。
植物および漆器としてのキンマ
一方で日本においては室町時代に伝来し、本草学の研究や漆器などで知られるようになり、本草学では「蒟醤」、漆器では金馬や蒟醤と表記された。のちに日本では「キンマ」の言葉自体が、元々の「実(あるいはビンロウジ)を食べる」という本来の意味からはずれ、ビンロウジと一緒に口に入れる葉の名前として借用されることになった(#植物としてのキンマ)。
また後に記述するように、キンマはタイで広く愛好されたが、痰壺やキンマの道具入れなどの用具が発達し、上流階級では漆を塗ったりして、凝ったものを作るようになっていった。これは江戸時代の日本にも輸出され、蒟醤手という名で茶人の香入れとして愛用された(#漆器としてのキンマ)。
植物としてのキンマ
| キンマ | |||||||||||||||||||||
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キンマ | |||||||||||||||||||||
| 分類 | |||||||||||||||||||||
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| 学名 | |||||||||||||||||||||
| Piper betle L., 1753[2] | |||||||||||||||||||||
| 和名 | |||||||||||||||||||||
| キンマ | |||||||||||||||||||||
| 英名 | |||||||||||||||||||||
| betel[3], betel pepper[3], betelvine[3] |
キンマ(蒟醤、学名: Piper betle)はコショウ科コショウ属のつる性の常緑多年草の1種である。ハート型の光沢のある葉をつけ、高さ1メートル (m) ほどになる。白い花をつけるが目立たない。薬効のあるのは葉である。本来の分布地はマレーシアであるが、インド、インドネシア、スリランカでも自生している。
キンマの葉は精油を含み、有効成分の多くはアリルベンゼン化合物である。主な成分はチャヴィベトール(ベテルフェノール;3-ヒドロキシ-4-メトキシアリルベンゼン)とされるが、チャヴィコール(Chavicol:p-アリルフェノール;4-アリルフェノール)、エストラゴール(Estragole:p-アリルアニソール;4-メトキシアリルベンゼン)、オイゲノール(アリルグアイアコール;4-ヒドロキシ-3-メトキシアリルベンゼン;2-メトキシ-4-アリルフェノール)、メチルオイゲノール(オイゲノールメチルエーテル;3,4-ジメトキシアリルベンゼン)、ヒドロキシカテコール(2,4-ジヒドロキシアリルベンゼン)も含まれる。
また、キンマの精油にはテルペン類が含まれている。内訳はモノテルペン2種(p-シメンとテルピネン Terpinene)、モノテルペノイド2種(シネオールとカルヴァクロール Carvacrol)、セスキテルペン2種(カディネン Cadinene とカリオフィレン Caryophyllene)。
健胃薬、去痰薬など、様々な方法で薬用される。アーユルヴェーダでは媚薬とされた。マレーシアでは頭痛、関節炎、関節の痛みを和らげるのに用いる。タイと中国では歯痛に用いる。インドネシアではキンマを煎じて殺菌剤とする。その他、キンマを煎じたものは消化不良、便秘、鼻づまりを治したり、母乳の分泌を助けるのに用いられる。インドでは虫下しにも用いる。味は非常に渋い。
嗜好品としてのキンマ
ビンロウジを薄く切って乾燥させたものとキンマの葉に、水で溶いた石灰を塗り、これを口に含み噛む。この時、好みにより他の香りのある木を細かく砕いたものや、非常に希であるがタバコの葉を混ぜることもある。噛んでいる間は渋みが広がり、大量に口中に溜まる唾はビンロウジの赤い色に変わる。飲み込まず頻繁に唾を吐き出すことでそれを処理する。ビンロウジには依存性があり、何回も用いると次第に手放し難くなる。また、使用することでアルコールに酔った様な興奮を催す。石灰を含んでいるため赤くなった唾液と共に歯にこびりつき、歯が褐色に変色する。また、常習によってあごに変形をきたす。最近ではキンマ噛みを行なうことにより、口腔ガンが発生しやすくなることも報告されているが、これらの副作用は主にキンマよりもビンロウジによるものである。
漆器としてのキンマ
異様ともいえるビンロウジ噛みの普及は専用の器や痰壺の発展を生み出した。特にタイでは沈金の影響を受けて、竹で編んだかごに漆を何回も塗り、彫刻で模様を施した後に、彩漆を塗ったものの表面を削ってなめらかにしたキンマ入れ(蒟醤手)が作られた。16世紀からは産地が移行しミャンマーで盛んに作られるようになる。
日本へは室町時代中期(15世紀頃)の南蛮貿易で漆器のキンマ入れが伝来し、茶人を中心に香入れとして愛用された[1](日本には嗜好品として風習は伝わらなかった)。江戸時代に入ると高松藩の玉楮象谷が精緻な漆工芸品を制作して名を残した。象谷が完成させた技法は、香川漆器として現代に継承されている。
このように高度に工芸品として発達したビンロウジの容器は特に東南アジアでは社会的地位を示す重要なもので、結納品としても重要な品の一つとなった。また各地には、キンマにまつわる言い回しも大きく残っている。
ギャラリー
- 象嵌細工が施されたキンマ入れ(インド)
- べっ甲と銀で作られたジャワ島のキンマ入れ
- 藤を編んだ器胎に漆塗りを施し、彫刻した蒟醤の皿。日本の茶席で干菓子皿に転用されたと思われる(野村美術館蔵)