シェルビー・オークス
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| シェルビー・オークス | |
|---|---|
| Shelby Oaks | |
| 監督 | クリス・スタックマン |
| 脚本 | クリス・スタックマン |
| 原案 |
サマンサ・エリザベス クリス・スタックマン |
| 製作 |
アシュリー・スニード キャメロン・バーンズ アーロン・B・クーンツ クリス・スタックマン |
| 製作総指揮 | マイク・フラナガン |
| 出演者 |
カミール・サリバン サラ・ダーン ブレンダン・セクストン3世 ロビン・バートレット |
| 音楽 |
ザ・ニュートン・ブラザーズ ジェームズ・バークホルダー |
| 主題歌 |
アニー・エリコット 『Big Sister』[1] |
| 撮影 | アンドリュー・スコット・ベアード |
| 編集 |
ブレット・W・バックマン パトリック・ローレンス |
| 製作会社 |
ペーパー・ストリート・ピクチャーズ イントレピッド・ピクチャーズ タイトル・メディア |
| 配給 |
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| 公開 |
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| 上映時間 |
99分 (映画祭上映版)[2] 91分 |
| 製作国 |
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| 言語 | 英語 |
| 製作費 | $1,000,000 - $1,400,000 (推定) [3][4] |
| 興行収入 |
|
『シェルビー・オークス』(原題:Shelby Oaks)は、2024年のアメリカ合衆国のホラー映画。監督・脚本は、本作が長編デビューとなるYouTuber出身の映画評論家・映画製作者クリス・スタックマン。
日本公開時のキャッチコピーは「廃墟と化した町に消えた妹。未解決失踪事件から12年。一本のビデオテープがすべてを紐解いていく――。」[6]
この映画は、動画配信チャンネル「パラノーマル・パラノイド」のメンバーが撮影中に失踪したというファウンド・フッテージ(※行方不明者が遺した映像)の体裁を取っている。そのメンバーの一員の姉が、消えた妹の行方を捜索する中で、悪魔崇拝に関わる恐怖の体験をする。
『シェルビー・オークス』は低予算のインディペンデント映画として企画が立ち上げられ、クラウドファンディングを通じて製作資金を調達した[7]。2024年の完成直前に、『ドクター・スリープ』(2019年)の監督マイク・フラナガンがエグゼクティブ・プロデューサーとして深く関わることになり、のちにフラナガンの映画製作会社イントレピッド・ピクチャーズの協力を得て作品の規模が大きくなった。その後、再撮影と再編集を経て2025年にネオンの配給で劇場公開され、推定100万ドルから140万ドルほどの製作費に対し、600万ドルもの興行成績をあげた[5]。
アメリカ映画配給協会MPAは、「暴力的な内容、残虐な表現、自殺場面と複数の暴言」を理由に、この映画をR指定とした[8]。日本の劇場公開時は映倫の審査によりPG12(※12歳未満は保護者の助言か指導が必要)に区分されている[9]。
ストーリー
20代の女性ライリー・ブレナンとその友人、ローラ・タッカー、デヴィッド・レイノルズ、そしてピーター・ベイリーの4人組は、廃墟でゴースト・ハンティングをするYouTubeチャンネル「パラノーマル・パラノイド」を配信していた。ゴーストタウンの町シェルビー・オークスにある廃墟の刑務所で撮影中、ライリーは独房の中にある何かに怯えて逃げ出し、その後まもなく4人は行方不明になる。「パラノーマル・パラノイド」の視聴者たちは、どうせ話題作りの仕込みだろうと馬鹿にしていたが、警察の調査でメンバーのうち3人が惨殺死体で発見され、唯一ライリーだけは消息が掴めなかった。死体が発見された空き家の壁には呪術のシンボルのような奇妙な図と、“タリオン”という文字が残されていた。
12年の歳月が流れ、ライリーの姉ミア・ブレナン・ウォーカーは行方不明の妹の生存を信じながら、パラノイドメンバーの失踪事件を追うドキュメンタリーの撮影に協力していた。ライリーは幼い頃から夜驚症に悩まされ、2階の窓の外から悪魔のようなものに監視されていると話す子だった。ミア自身は夫ロバートとの間に子どもが授からず、ミアがいまだに妹探しに執着していることもあって、夫婦間には強いストレスがあった。ドキュメンタリーの撮影隊が帰った後、見知らぬ中年男性が玄関に来て「やっと彼女から解放された」と言うと、拳銃で自分の頭を撃ち抜き自殺した。倒れた男は左手に“シェルビー・オークス”というラベルを貼ったミニDVテープを握っていた。ミアはそっとテープを回収して居間で再生する。
テープにはパラノイドたちが廃墟の刑務所と、荒れ果てた遊園地で撮影をしている姿が映っていた。シーンが飛ぶと、パラノイドの3人が次々と何者かに殺され、最後にカメラに映った犯人の顔は、ミアの家の前で自殺をした男であった。テープを見終わると、窓の外から光る眼を持つ何かが室内を覗いてる気がして、ミアは表に出てみるが誰もおらず、幼少期にライリーが魔物に怯えた時と同じようにガラスにひびが入っていた。ミアは自殺した男の身元をアレン・バーク刑事から聞き、刑務所の所長を務めていたモートン・ジェイコブソンに会って、その犯罪者ウィルソン・マイルズの収監中の出来事を聞き出す。コンピューターのエラーで監獄の扉が開いていたにも関わらず、ウィルソンは窓の外を見つめており、何が起きてるのかも分からなかったようだった。悪魔の本を目にしたミアは、女性を孕ませるインキュバスや悪魔崇拝、地獄の犬ヘルハウンドについて学び、妹はオカルトの儀式の犠牲になったと確信を抱く。
ミアはシェルビー・オークスの廃墟の刑務所に向かい、ウィルソンが収監されていた独房を調べる。ヘルハウンドに追われて無人の遊園地に逃げたミアの先には、古びた小さな一軒家があり、住人の老婆ノーマから声をかけられた。家の中に招かれたミアは、ノーマがウィルソンの母親であり、ライリーはウィルソンに誘拐された証拠を見つける。インキュバスの悪魔タリオンを信奉するノーマは、ライリーが子どもを産むまで悪魔とのセックスを強制し、逃げ場がないライリーも子作りを受け入れるしかなく、10年にわたって妊娠と流産を繰り返していた。正体を見破られたノーマは地下室にミアを呼び込み、ミアは牢屋に監禁されていたライリーを開放するも、火かき棒を掴んだライリーは2階に上がってノーマを殺そうとする。後を追ったミアは気絶した妹と、彼女が産んだ新生児に自分の血を与えているノーマの儀式を見た。ノーマが失血死する直前に自分の血をなすりつけた壁には、何故かライリーだけでなくミアの写真も貼られていた。
病院に搬送されたライリーと赤子はすぐ退院してミアの家に連れて来られた。人間の子ではない赤子は殺さなければと話すライリーを見つけたミアは、子どもを窒息死させようとする彼女を止めるために揉みあい、ライリーは2階の窓から転落する。動けなくなったライリーは3匹のヘルハウンドに喰い殺され、ミアはただ見ているだけしか出来ない。ミアは少女時代に妹と添い寝した夜、窓から覗いていた悪魔を見たことを思い出す。悪魔は最初からミアを欲していたのだ。巨体の悪魔タリオンがミアの背後に立ち、彼女の肩に手を触れると、ミアの瞳は魔女ノーマと同じように光った。
キャスト
- ミア・ブレナン・ウォーカー - カミール・サリバン[9]
- ライリー・ブレナン - サラ・ダーン[9]
- ロバート・ウォーカー - ブレンダン・セクストン3世[9]
- ジャネット - エミリー・ベネット[9]
- ウィルソン・マイルズ - チャーリー・タルバート[9]
- ノーマ・マイルズ - ロビン・バートレット[9]
- アレン・バーク刑事 - マイケル・ビーチ[9]
- ローラ・タッカー - ケイシー・コール[10]
- ピーター・ベイリー - アンソニー・バルダサーレ[10]
- デヴィッド・レイノルズ - エリック・フランシス・メララーニ[10]
- モートン・ジェイコブソン - キース・デイヴィッド[10]
- 少女時代のライリー - スローン・バーケット[10]
- 少女時代のミア - ブレンナ・シャーマン[10]
- 悪魔タリオン - デレク・ミアーズ[11]
- ライリーの赤ちゃん - アティカス・ニューウェル[10]
スタッフ
- 監督 - クリス・スタックマン[9]
- 製作 - アシュリー・スニード[6]、キャメロン・バーンズ[6]、アーロン・B・クーンツ[6]、クリス・スタックマン[6]
- 共同製作 - ショーン・タリー[11]、ファレル・ローズ[11]、アレックス・ユーティング[11]
- 製作総指揮 - マイク・フラナガン[9]
- 原案 - サマンサ・エリザベス[9]、クリス・スタックマン[9]
- 脚本 - クリス・スタックマン[9]
- 撮影 - アンドリュー・スコット・ベアード[6]
- 編集 - ブレット・W・バックマン[6]、パトリック・ローレンス[6]
- 音楽 - ザ・ニュートン・ブラザーズ[6]、ジェームズ・バークホルダー[6]
- 美術 - クリストファー・ヘア[10]
- 衣裳デザイン - ショーナ・ノヴァ・フォーリー[10]
- キャスティング・ディレクター - デヴィッド・グリエルモ[10]
- 特殊効果 - タイラー・J・カレン[10]、アントニオ・グラッサー[10]
- 視覚効果 - エイドリアン・アラニス[10]
- 視覚効果プロデューサー - ダーシー・アーサーズ[10]
- クリーチャー・デザイン - ブライアン・スコット・マーフィー[10]
- 字幕 - 杉山緑[11]
企画
長年YouTubeで活動していたクリス・スタックマンは、たった1本の企画と脚本を持ち込んでプロデューサーたちから断られるような目に遭いたくなかったので、6、7本の脚本を書いて映画祭に足を運び、色々な映画監督と会って人脈を作ることに時間を割いた。2019年のファンタスティック・フェストでプロデューサーのアーロン・B・クーンツに出会った時も、クーンツに見せられる脚本を2、3本持っていたが、彼の目に留まったのが『シェルビー・オークス』だった[12]。スタックマンとクーンツはその後も『シェルビー・オークス』の映画化に向けて話し合いを続け、2020年の新型コロナウイルスの世界的パンデミックによって計画が狂わされた後も、諦めることなく2人の関係は続いていた[13]。
2021年5月にスタックマンがバイラル・マーケティングの一環で立ち上げたのは、廃墟を訪ねたアマチュアが恐怖に怯えるリアクションを撮るYouTubeチャンネル「The Paranormal Paranoids(パラノーマル・パラノイド)」の撮影だった。『シェルビー・オークス』本編で、行方不明になって殺されるYouTuber役のアンソニー・バルダサーレたちは、この時にオーディションを受けた。最終的にThe Paranormal Paranoidsの撮影隊が失踪する最後の動画をアップロードしたが、これらゲリラ的なキャンペーンで撮影した廃墟動画の中には90万回以上も再生されたものがあり、本物だと信じた視聴者もいた。実際に本物らしく見えるよう、動画の撮影機材は2008年以上の古い機種を使った。スタックマンによると、ビデオカメラは2006年製、マイクは2007年製の中古品を使用しているとのこと。この時の動画は、後に制作した映画の中にも流用している[12][13][14]。
物語の舞台はダーク郡という架空の町だが、オハイオ州のどこかの事件にしようとスタックマンは考えていた。スタックマンが書いた脚本の多くにダーク郡が登場するが、これはホラー作家スティーヴン・キングの小説に出てくる架空の町キャッスルロックと同じアプローチなのだという[12]。
製作
2021年7月、アーロン・B・クーンツの会社ペーパー・ストリート・ピクチャーズが『シェルビー・オークス』を製作することが正式発表された。ここ数ヵ月、オンライン上に投稿されたファウンド・フッテージが視聴者の間で様々な真偽と憶測を呼んでおり、この製作発表の一週間前には撮影隊の女性ライリーが何者かに誘拐される様子が映っていた[15]。
製作資金の調達は2022年に、アメリカ合衆国のクラウドファンディング「Kickstarter(キックスターター)」で始まった。キャンペーン開始から24時間以内に、当初の資金調達目標である25万ドルを達成し、3週間で6,700人の支援者から65万ドルの資金を集めている。1ヵ月間にわたったキャンペーン終了時には、14,720人の支援者から総額139万845ドルの支援が集まり、Kickstarterで最も多くの資金調達が多かったホラー映画プロジェクトになった[7][16]。
クラウドファンディングに併せて2022年5月にキャストも発表された。カミール・サリバンが行方不明の妹を捜す主人公を演じ、『ドント・ブリーズ2』(2021年)のブレンダン・セクストン3世、『ビール・ストリートの恋人たち』(2018年)のマイケル・ビーチ、『シャッター アイランド』(2010年)のロビン・バートレット、『遊星からの物体X』(1982年)のキース・デイヴィッドなどが名前を連ねた。超常現象を撮影するYouTube「パラノーマル・パラノイド」のメンバーは同じ役で登場する[17]。
この映画の脚本は、エホバの証人の信者だったスタックマンの姉が、その教会から会衆規律による疎外を受けたことに起因する、スタックマンと姉の関係からもインスピレーションを得ている[18]。
映画の後半で姿を現す悪魔インキュバスは、スタックマンが映画の開発プロセスのかなり早い段階でコンセプトデザインに着手した。「悪魔は時代を超越したデザインを与え、決して治らない傷に感じられるものにしたかったんです」とスタックマンは語る。クレイジーなアイデアと不気味なイメージで一杯の悪魔のスケッチを作成したスタックマンは、これを『プロメテウス』(2012年)や『ブレードランナー 2049』(2017年)のコンセプト・アートに参加していたカルロス・ファンテに見せた。次にスタックマンは、エミー賞受賞歴があり、『オッペンハイマー』(2023年)の特殊メイクアップで数々の映画賞にノミネートされたジェイソン・ハマーの協力を得て、モンスタースーツをデザインした[19]。
完成した悪魔のスーツは、身長190cmもあるスタントマンのデレク・ミアーズが着用することになった。ミアーズはこれまでも『13日の金曜日』(2009年)のジェイソン、『プレデターズ』(2010年)のプレデターといったキャラクターも演じている。スタックマンはミアーズの人となりについて「デレクは沢山の映画の中で酷い役を演じてきましたが、素顔の彼はあなたが人生の中で出会う最も優しい、天使のような男なんです」と話している[19]。
撮影

2022年5月、スタックマンは自分の故郷オハイオ州で映画の撮影を開始した。撮影監督のアンドリュー・スコット・ベアードとは1年前から話し合いを進めており、ストーリーボードを作成し、どんなショットが必要かリストを作って細部の設定を詰めていた。長編映画を撮ったことがなかったスタックマンは、撮影に必要なテクノクレーンを含めた機材のレンタル費用についてなど、色々なことをベアードから学んでいた[13]。

廃墟の刑務所のシーンは、オハイオ州マンスフィールドにあるオハイオ州立矯正施設でロケを行なった。ここは1990年に閉鎖されてから、『ショーシャンクの空に』(1994年)や『エアフォース・ワン』(1997年)を始め、多くの映画やテレビドラマのロケ場所に使われた歴史的な建物である[16]。
撮影はオハイオ州の様々な場所で行なわれ、チッペワ・レイクパークやクリーブランド公立図書館でも撮影をした[20][21]。撮影は6月上旬に終了し、スタックマンはすぐポストプロダクションに入った[17]。
この時点でスタックマンは、ホラー映画の監督業で実績のあったマイク・フラナガンに協力を求めた。フラナガンは自身のキャリアを大きく変えた映画『オキュラス/怨霊鏡』(2013年)での恩返しをしたいとスタックマンに申し出た。YouTuberだったスタックマンは、自分の動画チャンネルで『オキュラス』を公開時に猛プッシュしていた。スタックマンは当時のことをインタビューでこう語っている。「500万ドルの製作費で作った『オキュラス』は4,400万ドルもの興行収入をあげて、フラナガンは商業映画の第2作目で大ヒットを出しました。でも、当時は誰も彼のことを知らなかったんです。私は“皆も絶対この映画を観に行くべきだよ! 凄くクールだし、この監督は将来有望だ”とレビューを書きました。フラナガンはすぐメールを送ってくれて、そこには感謝の言葉が述べられていました。それから何年にもわたり、ただのオタク話を中心とした交流が始まりました」[13]。スタックマンは自分の映画にフラナガンが参加してくれた経緯を以下のように話している。「フラナガンは『シェルビー・オークス』の一番最初のラフな編集を観た5人のうちの1人でした。ラフカットを見終えた彼は“クリス、何か私に手伝えることはあるかい? この作品に私が関わることは出来るかな”と訊いてきたんです。私は“はい! 是非お願いします”と答えました」。こうして2024年5月、フラナガンが『シェルビー・オークス』の製作総指揮を担当するというニュースが公になった[13]。
追加撮影
2024年7月に第28回 ファンタジア国際映画祭で本作が出品された後、この映画の全世界配給に興味を示していた映画配給会社ネオンのスタッフたちがオリジナルの脚本に目を通し、「ねぇ、この脚本の中に凄く気に入ったシーンがあるんだけど、どうして撮らなかったんだい? ちょっと気になってね」と脚本も兼ねたスタックマンに訊いてきた。スタックマンは正直に、資金が底をついたので幾つかの要素を犠牲にしましたと答えた。キックスターターで最高額の資金調達は叶ったものの、その予算だけで当初の脚本の実現は難しかった。100万ドルは個人にとっては大金だが、映画製作の現場では必ずしもそうではなかったのだ。ネオンは3日間の撮影用の予算を出すと言い、カットした部分は非常に面白いから、予算不足を理由に省いた要素を改めて回収するよう要求してきた[4]。
追加撮影によって、ファンタジア映画祭上映版(通称ファンタジア版)に加わった場面は、少女時代の幼いライリーのベッドに姉ミアが入り、窓の向こうにいる悪魔タリオンとミアの目が合うシーンだ。この追加シーンでミアに焦点を絞る狙いが活き、将来子宝に恵まれないミアに、悪魔の子を育てさせるタリオンの壮大な計画が浮き彫りにされた[4]。
ラストシーンも、事件の展開は同じでありながらも終わり方が変更された。不妊体質で夫ロバートの子を作れなかったミアは、ライリーが産んだ赤子に目がくらんで、「それは人間の子じゃない」という妹の忠告が耳に入らない。2人の乱闘でライリーは窓から投げ出され、ファンタジア版では2階から落ちたライリーはそのまま死亡し、タリオンが望んだ通りにミアが悪魔の子どもの代理母になる。かつて魔女ノーマの家がそうであったように、これからはミアの家が悪魔の新たな拠点となって、地獄の犬たちが集まって来る家のワイドショットで終わっていた。追加撮影によって、2階から落ちた後も息があったライリーが、生きたままヘルハウンドに喰い殺される残酷な最期の描写が加えられている。同時にこのトラウマを抱えたミアが、これからタリオンによって堕落させられ、生涯にわたって悪魔とその子どもに縛り付けられることを示唆するという幕切れだ[4]。
最初の撮影でヘルハウンドに使った犬は、なかなか言うことを聞いてくれなかったため、とにかく時間がかかった。犬のクローズアップを撮るために、人間のアップを撮る時の4倍の労力を要した。「こうしたインディーズ映画では残業のための予算がないため、このような労力は制作現場にマイナスになります」とスタックマンは苦労を話した。そこで追加撮影時にはシベリア、ロシア、スウェーデンから連れて来られた犬を使った。それぞれ噛み方が異なる3匹の犬たちは、何を噛むと興奮するかなど特色が違っており、3か国語を話すドッグトレーナーの指示でライリーに似せたダミーボディを噛ませるカットを撮った[4]。
追加撮影と再編集によるカットで、ファンタジア版より上映時間は短くなったが、ミアがビデオでパラノイドたちの殺害を観る場面で彼らの顔面が血みどろになる描写、ミアが悪魔崇拝の本を見つけるシーン、廃屋の刑務所でミアがヘルハウンドに追われる場面、ライリーがヘルハウンドに喰い殺されるラストなど、キックスターターの資金撮影では難しかったバイオレンス描写が大幅に増加した[4]。
音楽
2024年7月のニュースで、テレビアニメ『X-MEN '97』や、映画『オキュラス/怨霊鏡』、『ドクター・スリープ』などの音楽で活躍していたザ・ニュートン・ブラザースが『シェルビー・オークス』のサウンド・トラックを担当すると報じられた[22]。
スタックマンと3年近く『シェルビー・オークス』に関わっていた作曲家のジェームズ・バークホルダーも、ザ・ニュートン・ブラザースの共同作曲者として正式に参加した。バークホルダーが最初の編集版を見せられたのは2023年1月のラフカット版で、一緒に観ていたホラー映画ファンの妻から「この仕事は絶対にやるべきよ!」と言われた。妻の影響でホラー映画好きになったバークホルダーもまた、「うん、全くその通りだな」と返事をした。映画音楽の仕事は本作が初めてとなったバークホルダーは、ニュートン・ブラザースから色々なアドバイスを受け、彼らの指導でやり方を学んだ後、一緒に作曲活動にあたった。バークホルダーは様々な商業映画とヒット作の音楽を手がけたニュートン・ブラザースとの仕事を「とても光栄なこと」とコメントしている[23]。
映像に音楽を乗せて行く工程はスタックマン、ニュートン・ブラザースとバークホルダーの共同作業で、スタックマンが「ここは音楽を入れた方がいいかな?」と話すと、バークホルダーたちは「いや、そこはもう映像が総てを語っているから音は要らないと思う」と応じ、一方で「ここは音楽なしでいいよね」というスタックマンに、一同は「良かった、そこは無くてもいいと思っていたんだ」と話すなど、オープンな雰囲気で進められた[23]。
本編中でライリーがギターを弾いて唄う『Big Sister』は、スタックマンと短編映画で組んでいたアーロン・J・モートンが作曲を担当した。ジョーダン・ヘルが作詞したこの曲は、アニー・エリコット歌唱のフルサイズで聴くと“お姉ちゃん、私を迎えに来てくれないかな”という歌詞だが、これがスタックマンにとって最初のひらめきに繋がっている。「私には姉が2人います。ひとりは身近にいますが、もうひとりは家を出て行ってしまいました。だからこの映画の物語は、私の脳の感情的な部分にアクセスしたような気がします。でもあの歌から要素を手繰って行くうちに、“ああ、そうか。これは本当に暗くて深い場所から来た感情なんだ”と気づいたんです」とスタックマンは話している[4]。
『シェルビー・オークス』のサウンド・トラック・アルバムは、ハロウィンシーズンの2025年10月31日にデジタル・リリースされ、Amazon.comを含む各種音楽配信サイトでダウンロード販売が始まった[24]。
悪魔タリオンの計画

ミアが目にした悪魔の書に記されているインキュバスとは、眠っている女性と性交する夢魔、淫魔と呼ばれる男性型の悪魔。ボリス・ヴァレホが描いた“悪魔とセックスをする女”の絵や、ドイツの画家ヨハン・ハインリヒ・フュースリーの絵画『夢魔』を含め、インキュバスは世界中の神話に残されているが、夜に人間の女性と姦淫する点は共通している。悪魔は自分たちの種族を繁殖させることが出来ないため、人間の女性に種つけをする必要がある[25]。悪魔の巨大な陰茎は交尾時に二股に分かれ、女性の膣と肛門を同時に深く貫き、膨大な量の精液を射精する[26]。1600年代に悪魔と交わりを持った魔女たちは「この世にこれに勝る快感はない」と断言し、悪魔との性交は気が狂いそうなほど気持ち良いと文献に記されている[27]。この映画のクリーチャー・デザインを担当したブライアン・スコット・マーフィーは、「ハッキリ姿が見えるカットが少なかったのは残念だけど、とても楽しかったよ!」というコメントと共に、自身のInstagramにインキュバスの悪魔タリオンの頭部写真をUPした。悪魔の粘土原型の写真にはヤギがモチーフであると書き添えている[28][29]。実際に海外の民間伝承で夢魔は、牡馬など獣の姿”ナイトメア“として顕現し、獣特有の禍々しい巨根で女性を獣姦するとも伝えられている[30][注 1]。
ノーマは悪魔インキュバスに仕えており、ウィルソンはその悪魔に憑依され操られていた。ノーマはライリーが悪魔の子を産むまで監禁してセックスを繰り返させ、妊娠するための精液を受け入れるよう彼女に強要してきた。ノーマの家にあった悪魔のシンボルや呪術の道具は、ライリーの子宮で悪魔の子を作るための計画に不可欠な物だったことを示唆している[31]。
魔女ノーマは血の儀式を行なっている最中に「全能のタリオンよ! 北のインキュバスよ! このカンビオンを護りたまえ」と呪文を唱えているが、カンビオンとは半獣半人の悪魔の子孫を指し、それはインキュバスの膣内射精を受けて妊娠した女性の性器から産まれ出る。ヒトと悪魔の混血児カンビオンは狡猾で邪悪であり、他人を支配する力を持っている[16][32][注 2]。監督・脚本のスタックマンの解釈では、玄関前で自殺したウィルソンはノーマがタリオンに捧げた前の“悪魔の子”であり、ノーマの実子ではないかも知れない。ライリーが悪魔との交尾(子作り)を続けて遂に男児を産んだことで、新たな悪魔の子を手に入れたノーマはウィルソンを手放したのだと考えている。スタックマンは、「目的は達成された。もうあなた(ウィルソン)は必要ない、とそう母親が言ったんです」と語り、ライリーに悪魔の子を受精させる計画に10年以上も加担した彼は、死に際に「やっと解放された」と話した。悪魔タリオンもまた、自分の子を産ませたライリーは不要になったのだという[4]。なお、長年にわたる夢魔の研究を著書『Demon Lovers』にまとめた作家ウォルター・スティーブンスは、インキュバスとの性交を幾度も続けた女性は、その代償として本作のライリーにも似た極度の体調不良と精神状態の悪化が進み、場合によっては死に至ると自著に記している[34]。
既婚者のミアは不妊症で、夫ロバートとの間に子どもが出来ない設定になっているが、これはスタックマン夫妻が実際に不妊治療を受けた体験を反映させたものである。スタックはこう語っている。「妻と私は不妊治療でかなり苦労しましたが、今は4歳の可愛い子どもが2人いて幸せです。この映画には、私の妻サマンサも共同原案としてクレジットされているんです。しかし本作のミアは子どもが出来ない女性で、そのことを話したがりません。妹のライリーはある意味で代理母のような女性です。ライリーは悪魔の子を産むためにタリオンとの交尾に利用され続け、最終的にはタリオンが本当に望んでいる人物…つまりミアを養母として後を継がせるためだけの存在なんです」[4]。
映画終盤は全ての始まりに回帰し、幼い姉妹が怯えていた窓の外に潜む恐怖に迫る。夜驚症のライリーは黒い影が窓から見ていると怖がっていたが、回想シーンでインキュバスはずっとミアを見張っていたことが判る。不妊体質のミアは子どもを産まないため、悪魔は妹のライリーを孕ませ、ミアに育てさせる計画であった。悪魔が欲しかったのはライリーではなくミアだったのだ[35]。スタックマンは映画公開後の2025年10月のインタビューの中で、妹を死なせてしまったミアが、妹の産んだ悪魔の子を育てるだろうか? という質問に対し、彼女はその悪魔の取引を受け入れるだろうと答えている。「欲しいものを手にれるためには、時に大切な何かを犠牲にしなくちゃいけない時があります。パラノーマル・パラノイドのメンバーは名声を欲しがっていましたが、有名になることと引き換えに命を落としました。結果的に彼らは欲しいものが手に入ったんです。ミアはずっと子どもが欲しかった。最終的に彼女は子どもを手に入れますが、その過程で妹を失いました」とスタックは残酷な結末について話した[19]。
公開
評価
レビューアグリゲーターのRotten Tomatoesでは125人の批評家レビューで55%の支持を集め、同サイトの総評は「終盤につまずくかも知れないが、その不気味な緊張感と感情的な核心が、スタックマン監督の身も凍るようなデビュー作としての地位を確固たるものにしている」というものだった[40]。加重平均を用いるMetacriticでは20件の批評家レビューに基づき、40/100点の得点で「賛否両論、または平均的」な評価となっている[41]。
イギリスの映画雑誌『エンパイア』は、「ミアは映画の大半で反動的なキャラクターに描かれているが、サリバンの演技は印象的だ」と、カミール・サリバンを評価した。その上で「監督のスタックマンは不気味な廃墟の刑務所と暗い森への旅で最大限の自信を見せつけるが、映画の終盤では独自のアイデアに押しつぶされそうになっている。最後の30分は良く言えば複数の派生的ジャンルの寄せ集めであり、悪く言えば『ヘレディタリー/継承』の模倣といったところだ」と指摘した。それでも同誌は「この不気味なインディーズ・ホラーには不思議な魅力がある。例えば深夜のテレビで見かけたら、ついつい最後まで見入ってしまう映画だろう」と好意的に締め括って、5点満点中3点を与えた[42]。
日刊紙『アリゾナ・リパブリック』のビル・グッディクーンツは、「ファウンド・フッテージやビデオ、不気味な映画の製作手法を組み合わせたまぁまぁの作品」と評し、クラウドファンディングで製作費を集めたスタックマンの映画作りへの信念を賞賛した。さらにグッディクーンツは「重要な手がかりを持つ刑務所の所長役で素晴らしい俳優キース・デイヴィッドが出演しているのも嬉しいポイントだ」と書き、ライリーの姿が最後に記録されたビデオを拡大すると見えるサスペンスの盛り上がりや、YouTuberグループ失踪の展開の土台を作る上手さにも言及し、この映画に3/5点を付けている[43]。
女性の映画プロデューサーにして評論家でもあるケイティー・ライフは、『IGN』のレビューで、元YouTuberだったスタックマンの「パラノーマル・パラノイド」に於ける動画作成のテクニックを誉め、画面の隅に映る、判別不可能なほど荒い幽霊画像で観客にパニックを起こさせる演出の巧さを評価した。「デジタル時代の緻密さをまとめたミステリーの前半から、後半は現代ホラーの寄せ集めへと堕ちて行くので、この種明かしは問題だ。勿論この種のオカルト映画は全てを説明する必要はなく、むしろハッキリ説明しない方が良いケースも多い。それでも本作には未解決の謎が残っている」とし、ライフは「これがデビュー作であるスタックマン監督にはまだ成長の余地がある。どうなるかは誰にも分からないが、次回作に期待したい」エールを送った[44]。
批評家のクリント・ワーシントンは「インディーズの低予算映画でありながら『シェルビー・オークス』には大予算ホラー映画らしい演出が見事に施されている。撮影監督アンドリュー・スコット・ベアードは、YouTube動画やVHSテープの粗い画質の映像と、現代的な映画スタイルの両方を巧みに使いこなしている。雰囲気作りもまずまずだ」と好評価を寄せた。さらに「前半は素人探偵が失踪事件を追う独特の面白さがあり、観客を犯罪捜査のサスペンスに駆り立てる。しかし手がかりが徐々に形になり始めると、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』から『ローズマリーの赤ちゃん』まで目ざといホラー映画ファンならすぐに思い当たる既存のジャンルの寄せ集めになってしまう。女性の価値と生殖能力を結び付けた不快なサブプロットもあるが、スタックマンは敢えてそこは掘り下げていない」と残念さを滲ませながらも、「スタックマン監督がこの経験からどんな教訓を学び、それを活かして、第2作でより独創的なビジョンを描き出せるか、興味深く見守って行きたい」と、今後の活躍に期待を寄せている[45]。
ホラー映画サイト『Dead Northern』のレビューでは「最初の45分は良質なホラーと言えるでしょう。ライリーの仲間たちの最期が映し出される不気味な動画や、手に汗握る展開。『シェルビー・オークス』は高いポテンシャルを秘め、特別な作品になる可能性がありました。しかし最終幕は慌ただしく、登場人物はことごとく間違った滑稽な判断をする。ホラー映画の主人公たちが間違った道を選択するのはよくあることですが、この映画は次元が違う」と指摘し、「スタックマン監督は緊張感と雰囲気づくりに長けているが、恐怖を煽る前半に対して後半は自らのコントロールを見失っているように見える。彼がこの作品から何かを学んでくれることを願う」と書いている[46]。
イギリスのファンタジー作家にして映画批評家のキム・ニューマンも、英国映画評議会に本作のレビューを寄稿した。「動画配信スタッフの4人は幽霊が出る町で姿を消し、ここまでは『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のような主観映像の世界が続くが、失踪者の姉ミアの玄関先で事件が起きる頃、三人称視点の劇映画のスタイルに変わり、画面サイズも変わる。解決策のヒントは提示されるものの、最終幕はホラー映画の定番手法である強制的な妊娠という真相に陥る。これは『IMMACULATE 聖なる胎動』や『オーメン:ザ・ファースト』といった近年の衝撃作にも浸透している手法だ」と、ニューマンは2024年公開の悪魔映画との類似性を指摘して、以下のように綴った。「道に迷ったような展開も、おいおいと言いたくなる瞬間があるにも関わらず、『シェルビー・オークス』には大きな長所がある。主演のサリバンは素晴らしい。妹役のサラ・ダーンも、何かに憑かれた演技で存在感を発揮している。廃墟の町のただ1人の住人らしき老婆を演じるバートレットは、終盤に恐ろしく不気味な演技を見せる。女性に対する扱いで人を激怒させる要素を内包し、欠点は多いものの、雑草が茂った遊園地と朽ちた廃墟の牢獄は恐怖感を喚起し、衝撃やサプライズシーンは真に恐ろしい」として、ニューマンは「大賛成だ」と結んでいる[47]。
『ロサンゼルス・タイムズ』のロバート・アベールは「製作総指揮を務めているホラー映画のベテラン、マイク・フラナガンの技法をスタックマンが漠然と掴もうとしているのが、最後の1/3ほどの部分に感じられる。だがスタックマンには師のようなストーリーテリングの才覚も、ホラーの根底にある日常の基盤を支える才能も持ち合わせていないのだ」と厳しい評を寄せた。「綿密に考えられていない腹立たしいラストは、“それで終わり?”という雰囲気を醸している。クローネンバーグやカーペンターなどホラー映画の巨匠たちは、安っぽいものと心を揺さぶる作品を巧みに組み合わせる術を心得ていた。勿論スタックマンがホラー映画をこよなく愛していることは否定できない。が、彼はまだ訓練段階にあるとだけ言っておこう」とアベールは結論付けている[48]。