パラディン (ダンジョンズ&ドラゴンズ)
From Wikipedia, the free encyclopedia
パラディンは、ファンタジー・ロールプレイングゲーム『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)に登場するキャラクタークラスの一つ[1]。
パラディンは、ほとんどの版で選択可能なクラスである。聖なる騎士であり、善と秩序の名のもとに戦い、神聖な呪文の使い手でもある。第3版までは“秩序にして善”の属性を維持することが求められた。さらに、他のクラスと比較して最も制限の厳しい行動規範を持ち、善を示し体現することが期待される。“秩序にして善”を維持できなかったり、行動規範に背いたりすると、贖罪を果たすまでパラディンの地位と多くの特殊能力を失う。第4版の導入により、パラディンは単なる正義の戦士ではなく、選ばれた神の擁護者となった。どの属性でも選択できるようになり、不名誉により地位を失うことも無くなった。
D&Dにおけるパラディンは、オリジナル版のサプリメントで初めて登場したが、その開発はポール・アンダースンの小説『魔界の紋章(Three Hearts and Three Lions)』に登場する架空の人物「ホルガー・カールソン」に大きく影響を受けている。この小説は、叙事詩的な英雄譚「シャンソン・ド・ジェスト」を基にしている[2][3]。ゲイリー・ガイギャックス[注 1]自身は、このクラスは実際にはシャルルマーニュのパラディン、アーサー王伝説、そして歴史的な騎士道から着想を得たものであると述べている[4]。
出版物での歴史
Original Dungeons & Dragons
「パラディン」は、『OD&D[注 2]』のサプリメント『Supplement I – Greyhawk』(1975)において、ファイティング・マン[注 3]のサブクラスとして初登場した[3][5]。
Advanced Dungeons & Dragons第1版
「パラディン」は、『AD&D[注 4]第1版』の『プレイヤーズ・ハンドブック(『PHB』)』で利用可能なクラスの一つであり[6]、オリジナルの『PHB』で紹介された5つのサブクラスの1つであった[7]。AD&D第1版において、パラディンは非常に高い能力値の前提条件を必要とし、ヒューマンのみがパラディンになれると規定されていた。
パラディンは『PHB』においてサブクラスであり、より強力になった一方で、より厳格な条件を満たす必要があった[8]。 1985年に『Unearthed Arcana』初版が発売されると、パラディンは新たに導入されたクラス「キャバリアー」のサブクラスとなった[9]。
Advanced Dungeons & Dragons第2版
パラディンは「ウォーリアー[注 5]」グループの一員として、第2版『PHB』で利用可能なクラスの一つであった[6]。 第2版『PHB』では、伝説や歴史に登場する"パラディンと呼べる英雄"の例として、ローランとシャルルマーニュの十二勇士、ランスロット卿、ガウェイン卿、ガラハッド卿などを挙げている[10]。
パラディンは他のクラス同様、専用ハンドブック『The Complete Paladin's Handbook』が1994年に発売された[11]。
第1版と同様、パラディンは極めて高い能力値要件を課し、ヒューマンのみがパラディンになれると規定されていた。
Dungeons & Dragons第3版
「パラディン」は、『D&D第3版[注 6]』の『PHB』で利用可能なクラスの一つである[12]。
特定の能力値要件は存在しないものの、第3版のパラディンは効果的に行動するために、いくつかの能力値を高く保つことが推奨される。
- 【筋力】と【耐久力】:クラス構成と一般的な行動規範が前線での戦闘に有利なため、近接戦闘でダメージを与え、かつ耐えるには、【筋力】と【耐久力】の両方が重要である。
- 【魅力】:パラディンの最重要能力である「Lay on Hands」(回復)と「Smite Evil」(悪意あるクリーチャーへの攻撃)は【魅力】ボーナスに依存する。同様に、セーヴィング・スローを強化する「Divine Grace」(有害魔法への抵抗に常用)も【魅力】に連動する。「Turn Undead」も【魅力】によって強化される。
- 【判断力】:一般的に【魅力】ほど重要ではないが、パラディンが高レベルのパラディン呪文を使用するには十分な【判断力】が必要である。
その他のパラディン固有能力には、自由自在に悪を感知する能力、恐怖と病気への免疫、病気治療能力、神聖な呪文を宿した「holy avenger」の剣(悪のクリーチャーに追加ダメージを与える)の使用機会、そして「special mount」(通常は並外れた【筋力】と【知力】を持つheavy warhorse)の召喚が含まれる。彼らの呪文発動能力とアンデッド退散能力は、同等のクレリック能力と類似しているが、より弱いか、より特化している。
第3版において
- 第3版におけるパラディンには、次のような行動規範が規定されている[12]。
- パラディンは、“秩序にして善”の属性でなければならない。
- パラディンは、自ら進んで悪行を犯した場合、全ての特殊クラス能力を失う。
- パラディンは、名誉をもって行動しなければならない(嘘をつかない、騙さない、毒を使用しないなど)。
- パラディンは、助けを必要とする者を助けなければならない。ただし、それが悪または混沌の目的のために利用されない場合に限る。
- パラディンは、無実の人々を傷つけたり脅かしたりする者を罰する義務がある。
- パラディンは、故意に悪の者たちと関わることはない。
第3版におけるパラディンには、以下のような「関係」に関する規定も設けられている[12]。
- パラディンは、自らの道徳規範に常に反する行為を行う者との関係を継続してはならない。
- パラディンが雇う部下や従者は、“秩序にして善”に属する者でなければならない。
第3.5版において
- 第3.5版において、明示的な行動規範と関係に関するセクションは削除された。第3.5版のパラディンには、定義された行動規範セクションは存在しない。ただし、クラス・アライメント・セクションに、大まかに定義された行動規範への言及が修飾語として追加された[13]。
- さらに、パラディンは秩序と善に合致する行動規範に従うことを誓う。
以前の版とは異なり、第3版ではキャラクター作成時、パラディンの行動規範はより柔軟性を持って行えるようになった。もはや「全てのパラディンを統べる単一の行動規範」は存在しない。これは、特定の神格への帰依要件が切り離され、『PHB』「宗教」セクションに記載される、「内なる大義」の概念の導入に伴ってのものと考えられる[13]。
- パラディンは単一の神に身を捧げる必要はなく、正義への献身があれば十分である。
“秩序にして善”を失ったパラディン、故意に悪行を犯した者、あるいは行動規範を著しく違反した者は、全ての特殊能力と呪文を失う。またパラディンとしてのレベルアップもできなくなる。贖罪を行えば能力は回復する[12][13]。
パラディンは全種族が選択可能だが、大半は依然としてヒューマンである。オークやゴブリンといった野蛮なヒューマノイド種族では、善属性の存在自体が稀なため、このクラスは特に珍しい。
モンクと同様に、パラディンは一貫してマルチクラスすることはできない。他のクラスにレベルを追加すると、パラディンとしての成長は永久に停止する。これは、このクラスに求められる献身と目的へのひたむきさを反映している。ただし、そのような場合でも、全てのクラス能力は保持される。
マルチクラス制限の例外
- 出典資料にある特定の特技は、パラディンとの無制限なマルチクラスを許可している。
- 一部の「上級クラス(Prestige Class)」もこの制限を免除する(主にパラディン向けに設計されたクラス)。堕落したパラディンは自身のレベルを同等のブラックガード能力と交換することを選択できる。
特定のアクセサリ製品、特に『Unearthed Arcana』では、“秩序にして悪”の「Paladin of Tyranny」、“混沌にして悪”の「Paladin of Slaughter」、“混沌にして善”の「Paladin of Freedom」(基本パラディンは「Paladin of Honor」と呼ばれる)といった変種パラディンが紹介されている。この枠組みでは、パラディンはドルイドと補完関係となり、ドルイドが中立寄りの「交差」属性の擁護者であるのに対し、パラディンは極端な「角」属性の擁護者となる。ただし『ドラゴン』誌310号では、各属性に対応する「パラディン」(“中立にして善”の「Sentinel」など)が紹介されている。
アアシマールは、パラディンを得意クラスとする。
Dungeons & Dragons第4版
『D&D第4版』では、「パラディン」の役割は「防衛役」であり[注 8]、「信仰」のパワー源を持つ[注 9]。パラディンは単なる正義の戦士ではなく、選ばれた神々の守護者となった。そのため、パラディンは従来の“秩序にして善”とは異なる属性を持つこともできるが、その属性は選択した神と一致していなければならない。もう一つの新要素は、パラディンとしての地位が永続的であることである。一度パラディンに任ぜられたキャラクターは、堕落したり能力を剥奪されたりすることはない。これによりプレイヤーは仲間を「監視」する手間を省けるが、神によっては過度に邪悪な行為を抑制することが推奨される場合もある。「神々の教義に背く者は、そのパラディンの仲間たちによって追跡され裁きを受ける」とされている。
「Smite Evil」も、パラディンの「パワー」の一部として様々な「smites(一撃)」や「strikes(打撃)」に置き換えられており、これらは「Prayers(「信仰」クラスが使用するパワーの呼称)」と呼ばれる。『PHB』では、【筋力】と攻撃を基盤とする「Avenging Paladin」と、【魅力】と防御を基盤とする「Protecting Paladin」の二つのビルドが提示されている。【筋力】ベースの攻撃Prayersは、概ね武器を基盤とし近接攻撃範囲に限定される一方、【魅力】ベースの攻撃Prayersは近接武器攻撃と遠隔武器攻撃の両方を含む。また、パラディンはクラス特徴「divine challenge」を持ち、対象の敵がパラディンを含まない攻撃を行った際にダメージを与え、さらにその敵を「マーキング」する。これによりマーキング対象以外のキャラクターに対する敵の攻撃ロールにペナルティが課される。bonded mountの代わりに、高レベルでは戦場をテレポートして窮地の味方を支援する能力を獲得できる。パラディンは当初、第4版で唯一1レベルからプレートアーマーの習熟を持つクラスであった。その後、『ヒーローズ・オヴ・ザ・フォールン・ランズ 墜ちた地の勇者(Heroes of the Fallen Lands)』で初登場したファイターの再編集版「ナイト」と、さらに『ヒーローズ・オヴ・ザ・フォーゴトン・キングダム 忘れられた国の勇者(Heroes of the Forgotten Kingdoms)』の「キャヴァリアー」、「プレイヤーズ・オプション:影の勇者(Heroes of Shadow)」の「ブラックガード」という2つのパラディン再編集版もこの能力を獲得した。パラディンはまた、クラス特徴「Channel Divinity」を通じて、自身の神に関連する特殊な特技を選択することもできる。
多くのパラディンのPrayersは高い【判断力】から恩恵を受け、クレリックと同様に「聖印」を道具として使用できる。パラディンはもはや病気除去の先天能力や、病気・恐怖への免疫を持たないが、他のキャラクターが状態異常に対するセーヴィング・スローを行えるようにする能力や、負の状態効果への抵抗力を強化する能力を獲得できる。パラディンは全クラス中最多のヒーリング・サージを保有し、これに「癒しの手」能力を組み合わせることで、緊急治療役として機能する。第4版では、パラディンは前版のような特殊なマルチクラス制限ではなく、標準的なマルチクラスルールを採用している。
Dungeons & Dragons第5版
「パラディン」は、『D&D第5版』の『PHB』において基本クラスとして収録されている[15]。第5版では、パラディンは特定の信条に従う道を歩むことを誓い、自らの探求の本質を体現する、「聖なる誓い(サブクラス)」の中から一つを選択できる。
- 古き者の誓い: 世界の美しく生命を与えるものを愛するゆえに、必ずしも名誉・勇気・正義の理念を信じるからではなく、闇との宇宙的闘争において、光の側に身を投じるパラディン。この誓いを立てる者は通常“中立にして善”であり、秩序や混沌よりも善の原理を優先し、「光をともせ」「光を守れ」「内なる光を保て」「光となれ」という教義に従う。妖精騎士、緑の騎士、角の騎士とも呼ばれる。
- 献身の誓い: 正義、美徳、名誉という崇高な理想に訴えるパラディン。この誓いを立てる者は概ね“秩序にして善”であり、「正直」「勇気」「同情」「名誉」「義務」の教義に従う。通称は騎士、白騎士、聖戦士。
- 復讐の誓い: 重大な罪を犯した者を罰するという厳粛な誓い。この誓いを立てる者は、自らの正義を捨てて悪を行う者に裁きを下す意思があるため、概して“秩序にして中立”または“真なる中立”である。その信条は「大悪討つべし」「大悪死すべし」「手段は選ばぬ」「償いなすべし」。復讐者や闇騎士とも呼ばれる。
第5版の発売以降、複数のソースブックで誓いの選択肢が拡張されている。
- 鎮護の誓い: この道を歩むパラディンは文明の理想に誓いを立て、社会を結びつける正義の法に仕える。その信条は通常、仕える君主によって定められるが、一般的に「秩序」「誠実」「勇気」「責任」が含まれる。『ソード・コースト 冒険者ガイド(Sword Coast Adventurer's Guide)』(2015)に収録[16]。
- 覇道の誓い: これらのパラディンは戦いの栄光と敵の服従を求める者達である。彼ら(「鋼にものを言わすもの」や「圧制の騎士」として知られる)にとって秩序を確立するだけでは不十分であり、混沌と悪の勢力を徹底的に打ち砕かねばならない。ベルのようなアーチデヴィルでさえ、熱烈な支持者としてパラディンを抱えている事実が示すように、彼らは悪を殲滅する終わりのない探求の中で、英雄と悪党の境界線を歩む。彼らの信条は「希望の灯火を消せ」「鉄の拳で支配せよ」「力こそすべてに勝る」である。『ザナサーの百科全書(Xanathar's Guide to Everything)』(2017)に収録[17]。
- 救済の誓い: この誓いに身を捧げるパラディンは、あらゆる者が救済され得ることを信じ、慈愛と正義の道は誰にでも歩める道であると考えている。彼らは敵を光へと導くことを願い悪しき存在に立ち向かい、他の命を明らかに救う場合のみ敵を討つ。その信条は「平和」「無垢」「忍耐」「分別」である。『ザナサーの百科全書』(2017)に収録[17]。
- 栄光の誓い: 『Mythic Odysseys of Theros』(2020)で初登場し、その後『ターシャの万物釜(Tasha's Cauldron of Everything)』(2020)に再収録された[17][18]。
- 監視者の誓い: 『ターシャの万物釜』(2020)で導入[18]。
パラディンはあらゆる属性になることが可能だが、邪悪なパラディンは極めて稀である。ただし、彼らの誓いと属性は調和している場合もあれば、誓いがまだ達成されていない規範を表している場合もある。第5版『ダンジョン・マスターズ・ガイド』には、「誓い破りし者(Oathbreaker)」のパラディンに関する項目も含まれており、クラス特徴と贖罪の簡易ガイドラインが記載されている。
アンチパラディン
1980年7月の『ドラゴン』第39号に掲載された記事で、D&Dに新たなノンプレイヤーキャラクターが導入された。それはパラディンの邪悪な対極「アンチパラディン」である[19]。記事は「アンチパラディンは、人類の卑劣で下劣で卑しいあらゆる要素を体現している」と述べている[19]。
『Fiend Folio』初版で初登場した「デス・ナイト」は、贖罪をする前に死んだアンデッドのパラディンである。
特定の世界設定において
ダーク・サン
エベロン
エベロンのキャンペーン設定において、最も有名なパラディンはシルヴァー・フレイムの宗教に属し、一神教的崇拝とライカンスロープやデーモンに対する聖戦によって知られている。この宗教は、強大なデーモンを倒すために自らを犠牲にしたパラディン、ティラ・ミロンを崇拝している。
フォーゴトン・レルム
フォーゴトン・レルムにおける全てのパラディンは、秩序または善の守護神に身を捧げており、しばしば守護神の司る領域に基づく特別な訓練を受けることを許されている。ウォーターディープ(レルムで最も著名な都市)執政機構のリーダーであるLord Piergieronはパラディンである。
コンピュータゲーム
ほとんどの『D&D』コンピュータゲームにおいて、パラディンの特長は高い防御力、呪文発動能力、そして特にアンデッドモンスターに対する高い有効性である。『Neverwinter Nights』などのD&Dゲームでは、パラディンのプレイ条件が“秩序にして善”の属性を持つことのみになっている事が多く、パラディンの独特な立場や属性制限が明確に反映されることは稀である(『ザ・テンプル・オブ・エレメンタル・エヴィル』を除く)。これらのゲームでは、パラディンは死体や保護されていない宝箱・ロッカーを道徳的ペナルティなしで探索できる。例えば『アイスウィンド・デイルII』では、クエスト提供者に対してパーティを代表する場合、パラディンは報酬を拒否することが多い。なぜなら「『アイスウィンド・デイル』のパラディンは、正当な行いに対する金銭的報酬を受け取らない」からである[21]。
評価
マイケル・トレスカは著書『The Evolution of Fantasy Role-Playing Games』(2014)において、ゲーム開始時から「秩序属性のファイターは最初からパラディンになれ、【魅力】が最低17必要だったため、パラディンは模範的なリーダーとして位置づけられていた。彼らの秩序への忠誠は他のクラスよりはるかに厳格だった。[中略]クレリックが戦闘者というよりヒーラーであるのに対し、パラディンはヒーラーというより戦闘者であった。」と強調している[3]。
Screen Rantは、第5版の12基本クラスの中で、パラディンを4番目に強力なクラスと評価した[22]。
The Gamerは、『ザナサーの百科全書』に登場する32の新キャラクター・オプションの中で、第5版のパラディンのサブクラス「覇道の誓い」を、「13の素晴らしいサブクラス」の1つとして紹介している[23]。
FiveThirtyEightのGus Wezerekによる第5版のレポートでは、 2017年8月15日から9月15日までにD&D Beyondでプレイヤーが作成したキャラクター10万人あたりのクラスと種族の組み合わせの内、パラディンは8,840件で7位だったと報告した。種族別ではヒューマン(2,326)が最多で、ドラゴンボーン(1,688)、ドワーフ(971)が続いた[24]。