大室山 (丹沢)
丹沢山地の山
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大室山(おおむろやま、地形図では「おおむろざん」[2])は、丹沢山地北部の山梨県と神奈川県の境にある標高1,587 mの山[1][3]。かつては「大群山(おおむれやま)」と呼ばれていた[4]。堂々とした山容から「富士隠し」の異名を持ち、「大室権現」を祀る信仰の山である[5]。山梨百名山に数えられており、神奈川県側は丹沢大山国定公園に指定されている[6]。
大室山の山頂は、山梨県道志村と神奈川県相模原市緑区の県境をなす甲相国境尾根にある。山頂付近は落葉広葉樹林に覆われ、山頂自体の展望は乏しい[7][8]。一方、道志村・相模原市と神奈川県足柄上郡山北町の3自治体が接する地点が山頂から少し離れた西ノ肩にあり、山北町の境界線に沿って丹沢主稜の縦走路が通る。
大室山・大群山の名前の由来は不明であるが、ムレ(牟礼)が古代朝鮮語で山を意味すること[9]に由来するという説もある。
自然
地質
丹沢山地は過去の海底火山(伊豆・小笠原弧)に起源を持ち、長期の造山運動と隆起・侵食を経て形成されたため、地形が低山の割に急峻で複雑である[6]。大室山周辺の地質は、丹沢層群上部(大山亜層群・唐沢川層、中新世)のグリーンタフ(緑色凝灰岩)などからなる[4][10]。
植生
大室山はブナを主体とした自然林に覆われている[11][12]。4月下旬に山頂付近でマメザクラやキクザキイチゲが見られる[13][14]。5月にツツジ類が開花し、整備された木道沿いにトウゴクミツバツツジやヤマツツジが見られる[15][8]。夏には、ニホンジカに採食されにくい植物としてオオバイケイソウ、マルバダケブキ、トリカブトなどが見られる[13]。
安藤・持田(2008)の調査[16]によれば、大室山山頂とその周辺では高木層の優占種としてブナ、オオイタヤメイゲツ、サワシバ、サワグルミ、コハウチワカエデなどが記録され、亜高木層ではトウゴクヒメシャラが優占する例が示された。低木層ではエゴノキが複数の調査区で優占し、ニシキウツギ、カマツカ、ミヤマイボタ、オオカメノキ、ミヤマザクラなども出現し、サルナシ、ヤマブドウなどの蔓植物が多い地点もある。草本層ではヤマトリカブト、シロヨメナ、ヤマミズ、ミヤマタニタデのほか、テンニンソウ、ムカゴイラクサ、タチツボスミレ、コアカソなどが確認された。
神奈川県では、「丹沢ブナ林再生指針」に基づき大室山が再生優先地とされている[17]。丹沢大山国定公園の公園計画書では、大室山において「登山者の集中利用やニホンジカの採食圧により、山頂部の裸地化や土壌の侵食が進んでいる」ことを挙げ、自然再生のための施設整備を位置づけている[18]。ブナ林再生のため、大室山周辺等で植生保護柵の設置や土壌保全工が実施されている[19]。
道志水源林
大室山の北側(山梨県道志村側)には、横浜市水道局が所有・管理する道志水源林が広がっており、水源の森百選に指定されている[20][21]。道志水源林は道志川上流域を中心として分水界まで広がり、稜線部で神奈川県側の丹沢山地と接している[22]。
横浜市は明治30年(1897年)に道志川から取水を開始し、その水質保全のため大正5年(1916年)に山梨県から道志村内の山林を取得して水源涵養林としての経営を始めた[23][22]。現在、横浜市が保有する道志水源林の面積は2,873 haで、道志村総面積の約36%にあたり、天然林(ブナなどの広葉樹・モミ・ツガ等)とヒノキを中心とした人工林などから構成される[20]。
歴史
信仰
大室山は「大室権現を祀る古くからの信仰の山」として紹介されている[8][24]。道志村では各地で大室山を御神体として祀られている[25]。
- 大室八幡神社(道志村馬場地区)
- 大室神社(道志村久保地区)
- 古来の大室山の山体信仰に由来し、山麓に里宮を造営して始まったとされる[27]。
大室山には「沖権現」(オキゴンゲン、または奥権現)の別称があり、箒沢権現山・世附権現山を相州側から見た「前権現」と称し、その奥(沖は奥の意)にある権現山という意味で付けられたとされる[28]。(現在は世附権現山が「本権現」と呼ばれる[29])神奈川県側の集落では、雨乞いを前権現で行っていたと伝わる[30]。
富士隠し

多摩地域などでは、大室山の山体が富士山の眺望を遮ることから「富士隠し」とも呼ばれる[31][32]。日野市観光協会の解説では、日野周辺から眺める富士山が裾野まで明瞭になりにくい理由として「昔から『富士隠し』と呼ばれる大室山」が手前にあることが挙げられている[33]。
以下は「富士隠し」の呼称が出現する文献の例である[34]。
〔
大 群 山 〕
高山ナリ 麓ヨリ登ルコト五拾町餘 頂ニ大群権現ノ社アリ
此ノ峯ハ富士ノ東面ヲ遮蔽フ故ニ武蔵ニテハ之ヲ富士隠ト云
甲斐名抄志曰 大
牟礼 坐須 高山ナリ
此山を武蔵の方にて富士隠といふ
相甲駿国境紛争
天保12年(1841年)、甲州都留郡平野村名主の長田勝之進が訴訟人となり、相州・駿州側の村々を相手に「国境押領出入」として幕府へ提訴し、いわゆる相甲駿国境紛争が生じた[38][39]。 弘化4年(1847年)に裁許状が出されるまで約6年を要して国境が画定され、大群山(大室山)を通る稜線が国境と定められた。
- 近世地誌における国境の記載
文化11年(1814年)に成立した『甲斐国志』大群山の記述では、道志川・神ノ川間の尾根の西面を甲州都留郡道志(現道志村)、東面は相州津久井郡青根村(現相模原市緑区)とされている[32]。さらに、峰を境に南は相州箒沢村、中川村、世附村と記載している[32]。 一方、天保12年(1841年)に成立した『新編相模国風土記稿』では、神ノ川を青根村の西辺(津久井郡の西辺)としている[40]。このように、近世地誌の記載には差異がみられ、甲相の国境は明確ではなかった。
- 訴訟の経緯
平野村側は、国境線は三国峠・水ノ木大棚・山神峠(山神社)・鞍骨峠(現二本杉峠)・箒沢の二タ俣杉・犬越路を結ぶ線であると主張、勝之進の先代が東丸(世附川上流の山)の山守を命じられ年貢も納めていることなどを証拠として挙げた[39]。これに対し相州側は、三国峠・切通峠・菰釣山・城ヶ尾峠・大室山の尾根筋が境であり、その内側は領主御林と主張した[39]。
訴訟は幕府の公裁で審理され、勝之進の要請により論地の実地見分が行われた。見分は115日にも及び、出役延べ4,300人、人足延べ2万人が動員されたとされる[39]。当時は準拠すべき基準法が明確でない中、最終的に三奉行と老中の合議により裁定が下され、原告側(平野村・道志村側)が主張する証拠は認められず、相州側が勝訴した[38][39][41]。
登山道

登山道は神奈川県側の西丹沢ビジターセンター(旧西丹沢自然教室、2017年4月に改称[42])を起点とし、犬越路または白石峠を経て登るコースが一般的である[5]。破風口から大室山へ至る途中で、富士山や南アルプスを望む眺望が得られる場所がある[8]。山頂は縦走路からやや離れたところにあり、樹木が多いため展望はほとんどない[7]。大室山に山小屋はなく、最寄りは犬越路避難小屋、加入道避難小屋である[43]。
主要コース[5]
- 西丹沢ビジターセンター - 用木沢出合 - 犬越路 - 大室山
- 西丹沢ビジターセンター - 用木沢出合 - 白石峠 - 加入道山 - 大室山
山梨県側からは、次のサブコースが案内されている[5]。
- 神ノ川 - 犬越路 - 大室山
- 長者舎 - 鐘撞山 - 大室山
- 久保吊橋 - 茅ノ尾根 - 大室山
- 道志の湯 - 加入道山 - 大室山
他に神ノ川ヒュッテから登る日陰沢新道もあるが、利用者は少なく、部分的に不明瞭な箇所もあるため注意を要する。
- 西丹沢自然教室付近から望む大室山(左奥)
- 用木沢出合から犬越路までの登山道は沢沿いの道が多い
- 大室山山頂
- 大室山山頂直下の木道
登山口へのアクセス
西丹沢ビジターセンターへは小田急線新松田駅(御殿場線松田駅)および御殿場線谷峨駅より、富士急モビリティ(旧富士急湘南バス)の路線バス(〈松62〉 西丹沢ビジターセンター行き)が運行している[5]。
車の場合、西丹沢方面の最寄インターチェンジは東名高速道路大井松田IC、もしくは御殿場ICとなる。インターチェンジを降りた後、国道246号・神奈川県道76号山北藤野線を経由する。西丹沢ビジターセンター付近にも駐車場があるが限りがあり、路上駐車によるトラブルが頻発しているため、自家用車での来訪は自粛するよう求められている[44]。
周辺の山・峠
| 山容 | 名称 | 標高(m) | 大杉丸からの 方角と距離(km) |
備考 |
|---|---|---|---|---|
| 畦ヶ丸 | 1,293 | あぜがまる | ||
| シャガクチ丸 | 1,191 | |||
| 水晶沢ノ頭 | 1,278 | すいしょうざわのあたま | ||
| 白石峠 | 1,307 | しらいしとおげ | ||
| 加入道山 | 1,418 | かにゅうどうやま | ||
| 馬場峠 | 1,389 | ばばとうげ | ||
| 前大室 | 1,425 | まえおおむろ | ||
| 破風口 | 1,350 | はふぐち | ||
| 大室山 | 1,587 | 山梨百名山 | ||
| 鐘撞山 | 900 | かねつきやま | ||
| 大杉丸 | 1,169 | おおすぎまる | ||
| 犬越路 | 1,060 | いぬこえじ | ||
| 大笄 | 1,510 | おおこうげ | ||
| 檜洞丸 | 1,601 | ひのきぼらまる | ||
