Wikiwand AI

尿中電解質濃度

From Wikipedia, the free encyclopedia

尿中電解質濃度(にょうちゅうでんかいしつのうど、尿電解質濃度)とは、尿に含まれる電解質のうち、 ナトリウム(Na+)、カリウム(K+)、クロール(塩化物イオン、Cl-)[注 1]、および、 病態によっては、 カルシウム(Ca2+)、マグネシウム(Mg2+)、無機リン(リン酸)などの濃度を測定する臨床検査であり、 また、尿中濃度を使用して算出する排泄量や排泄率などの指標も含めることが多い。 尿中電解質を測定する主たる目的は、血液の電解質異常や酸塩基平衡異常の原因の鑑別・経過観察、有効循環血液量の評価、 急性腎障害の病態の鑑別、 電解質の摂取量の推定などである。 血中の電解質濃度はごく狭い範囲に維持されているのに対し、尿中の電解質濃度は水分摂取状況や体内の電解質バランスにより大きく変動するため、 合併している疾患、全身状態、血中電解質濃度、投薬内容などを参照しながら、 必要に応じ排泄量、尿中クレアチニンとの比率、排泄率などを併用して、 解釈する必要がある[1][2][3]。

ネフロンの物質輸送と浸透圧

検査の目的

尿中電解質濃度は、血液の電解質異常や酸塩基平衡異常があるときに、その原因の診断や経過の観察を行うために測定されることが多い。 体内の水・電解質・酸塩基平衡の恒常性(ホメオスタシス)の維持は 腎臓が主に関与しており、体内成分の過剰時には尿への排泄を増加させ、逆に欠乏時には 尿への排泄量を減らす。この生理的機能を利用して、各種の電解質の摂取の過不足、体内での循環・代謝・腎排泄の異常の有無、腎外性喪失(発汗、下痢・嘔吐など)の程度などを検討することができる[2]。また、急性腎障害(acute kidney injury:AKI)においては、腎による電解質の調整作用が維持されているかどうかが、 腎前性(腎への有効血流の低下によるもの)と腎性(腎臓自体に障害がおきているもの)の鑑別に有用とされている[4]。

また、電解質の摂取量を把握する必要があるとき[注 2]、健常人ではナトリウム、クロールは摂取量のほとんど、カリウムも摂取量の大部分が尿中に排泄されるとみなされるので、尿中電解質濃度と一日尿量から尿中電解質の一日排泄量を計算するか[5]、または尿中クレアチニンとの比を算出することにより、摂取量を推定することができる。 (相対的な摂取量が必要な場合(尿ナトリウム・カリウム比)は尿中電解質濃度のみの測定が行われる。) ただし、カルシウム、マグネシウム、リンについては、消化管での吸収率がそれほど高くない上に、 消化管からの吸収と尿への排泄のいずれもがさまざまな因子に影響されるので、 尿を使用しての摂取量推定は難しい[3]。

尿中電解質でよく測定されるのは、ナトリウム(Na+)、カリウム(K+)、クロール(塩素イオン、Cl-)である[1]。 その他、カルシウム(Ca2+)、マグネシウム(Mg2+)、リン(無機リン、Inorganic Phosphate:IP、実態はリン酸)も、それぞれの代謝異常の評価などを目的として検査する場合がある[5]。

さらに見る 電解質, 主要な用途 ...
 尿中電解質の主要な検査目的[6][4]
 電解質 主要な用途
ナトリウム(Na+)  
カリウム(K+)
クロール(塩化物イオン、Cl-) 
カルシウム(Ca2+)  
リン(リン酸イオン:主にH2PO4-、HPO42-)
マグネシウム(Mg2+)
閉じる

検査の方法

検体:随時尿と一日尿

任意の時点で排泄された一回の尿を随時尿(スポット尿)という。 随時尿は、水分摂取や食物摂取、体位、運動、日内変動リズム、等に応じ、絶えず成分が変化しているため、 蓄尿により一日の尿をまとめて(一日尿または24時間尿という)電解質濃度と尿量を測定することにより、電解質の一日排泄量を得ることができる。 しかし、蓄尿は煩雑で時間がかかり被検者の負担も大きいという欠点がある[注 3]

医療の現場では、採取が簡便な随時尿の電解質濃度を用いて電解質代謝の評価を行うために、尿電解質濃度とクレアチニンの比(クレアチニン補正)や排泄率(Fractional Excretion:FE)がよく使用される[2]。

クレアチニン補正

随時尿を用いて電解質の尿排泄量を評価する場合、尿中電解質濃度が水分摂取量により大きく左右される。 クレアチニンは、筋肉で生産され、筋肉量や腎機能が安定していれば、ほぼ一定の速度(日内変動はそれほど大きくない)で産生・排泄される物質であり、 尿中電解質と同様に水分摂取により尿中濃度が変動する。 したがって、クレアチニン濃度と電解質濃度の比(クレアチニン補正)を計算することにより、 一日尿の簡便な代替手段として、その時点での電解質の排泄が亢進しているか低下しているかをおおまかに評価することができる。 標準的な体格の成人の1日のクレアチニン排泄量は1 g前後であることから、クレアチニン補正から1日の排泄量をある程度推定することができる。 ただし、クレアチニンの排泄量は筋肉量により差があり、成人男性で1.1〜1.9 g/日、成人女性で0.5〜1.6 g/日とされる[4]が、 個人差も大きく、高齢者や低栄養状態では注意が必要である。 絶対的な排泄量を正確に評価することが必要な場合は、一日尿が用いられる[2][3]。

排泄率(FE)

尿中溶質の排泄は、摂取量・産生量に応じ、腎尿細管の再吸収により調節される。 排泄率(fractional excretion:FE、排泄分画とも言う)とは、単位時間に糸球体で濾過される溶質と最終的に尿に排泄された溶質の比率を意味し、 腎でどれだけ再吸収が起きているかの指標となる[注 4]。

FEの計算には血液と尿における溶質濃度とクレアチニン(Cr)濃度を用いる。 (クレアチニンクリアランスで糸球体濾過率を近似しているためである。 なお、カルシウムやマグネシウムについては、タンパク質と結合しているものは糸球体からほとんど濾過されないため、 非結合分の濃度を溶質濃度とする場合がある。 詳細は後述の尿中カルシウム、尿中マグネシウムの項参照。)

溶質「x」のFEは次の式で表され[注 5]、 一定時間内に「x」が糸球体濾過された量の内、何%が尿中に排泄されたかを示す(尿濃度と血清濃度は、xとクレアチニンについて、それぞれ同じ単位である必要がある)。

FEx(%) = 100 × ( 尿x濃度 × 血清Cr濃度 ) /( 血清x濃度[注 6] × 尿Cr濃度 )
さらに見る 血漿x濃度, 時間あたりの尿中x排泄量 ...
 溶質 x の排泄率 FExの解釈
[3][2]
 血漿x濃度 時間あたりの尿中x排泄量 xの排泄率(FEx)解釈
(腎機能、合併疾患、利尿薬の使用などの影響を受けるので、絶対的なものではない)
  増加   増加   増加 摂取/消化管吸収増加、産生過剰[注 7]
  増加   不変〜減少  不変〜減少 腎からの排泄低下
  減少  不変〜増加  不変〜増加 腎からの排泄増加
  減少   減少    減少 摂取/消化管吸収減少、産生低下[注 7]
閉じる

排泄率を使用するにあたっては、摂取量に大きく左右されること(特に消化管からの吸収率が高いナトリウム、カリウム、クロール)、腎不全が進行すると糸球体で濾過される量が減少する一方、必要な排泄量を確保する必要があるため比率としての排泄率が大きくなること、に留意する必要がある。(本稿で排泄率のカットオフ値を記載する場合は、特記しない限り腎不全がないことを前提とする。) また、排泄率は利尿薬投与時に大きな影響を受けやすいことも留意点の一つである(たとえば、よく使用される利尿薬であるサイアザイドやループ利尿薬はナトリウムやクロールの再吸収を阻害して排泄率を増大させる)[2][7]。

なお、排泄率の概念は電解質に限定されたものではない。尿素窒素(UN)や尿酸(UA)は電解質ではないが、急性腎障害の評価にFENaとともにFEUNやFEUAが使用されることがある。また、SIADHではFEUAが亢進しているのが特徴とされる[2][3]。

下表で健常成人の排泄量や排泄率の参考値例(文献により差がある)を示すが、尿中電解質やその排泄率は、 いずれも、病歴・血中濃度・腎機能・投薬・合併病態等を併せて、 その状態で期待される範囲かどうかで解釈すべきものであり、 単独で正常・異常を判別する「基準範囲」・「正常値」として扱うべきではない[1]。 たとえば、低カリウム血症があるのにFEKが上記健常人参考値範囲内の15 %であったとしたら、むしろ、腎からのカリウム喪失を示唆する異常値と考えられる(低カリウム血症では、腎が正常ならFEKは10 %を超えない)[3][8]。

さらに見る 尿溶質, 一日排泄量 ...
主要な尿溶質の一日排泄量および排泄率の参考値の例[3]
尿溶質一日排泄量排泄率(FE)
ナトリウム(Na) 150〜200 mEq/日[3]、100〜200 mEq/日[4]、70〜250 mEq/日[9]

[注 8]

1〜2 %[3]、0.5〜2 %[4][注 9]
カリウム(K) 40〜80 mEq/日[3]、25〜100 mEq/日[4][10]、38〜64 mEq/日[9] 10〜20 %[3][4][注 9]
クロール(塩化物イオン、Cl)  70〜250 mEq/日[9] 1.0〜1.8 %[11][注 9]
カルシウム(Ca) 100〜200 mg/日[3]、100〜300 mg/日[4][9] 2〜4 %(タンパク結合率で補正しない場合)[12][3]
無機リン(P) 400〜600 mg/日[3]、500〜2000 mg/日[4]、500〜1000 mg/日[9] 10〜20 %[3]、5〜20 %[4]
マグネシウム(Mg) 100〜200 mg/日[3]、20〜170 mg/日[4]、20〜130 mg/日[9] 3〜5 %(タンパク結合率で補正した場合)[4]
尿素窒素(UN) 5〜10 g/日[3] 40〜60 %[3]
尿酸(UA) 200〜400 mg/日[3] 7〜14 %[3]
閉じる

なお、血液・尿中のナトリウム・カリウム・クロールの単位は mmol/Lが国際的には標準であるが(SI単位)、日本では伝統的にmEq/Lで表示されることが多い。どちらの単位でも数値は同じである。

尿中ナトリウム

人体のナトリウムは主に細胞外液に存在し、細胞外液の主要な陽イオンであり、細胞外液の量および浸透圧は主にナトリウム(と随伴する陰イオン)により規定されている。 血清ナトリウム濃度は、血清中のナトリウムの量と水の量の相対的な比率で規定されており、 その恒常性は、主に、生体内の水分保持に関わる浸透圧系(バソプレッシン)と、ナトリウムの保持と有効循環血液量の維持に関わる容量調節系(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系とナトリウム利尿ペプチド(英語版))で維持されている[13][14]。

摂取量と排泄量

ナトリウムは主に食塩の形で経口摂取される(食塩1 gはナトリウム約17 mEqに相当する)。 日本人成人の食塩摂取量は、食事記録からは中央値10.1 g/日(ナトリウムにして約170 mEq/日)と推定されている[15]。 これは食塩にして1.5 g/日と推定されているナトリウム必要量を遥かに上回る量である[注 10][15]。 (正常な腎臓は、ナトリウム欠乏時には尿中ナトリウム濃度を10 mEq/L未満にまで下げることができるので、生理的に必要なナトリウムの量は僅かである[3]。) 食塩の過剰な摂取は高血圧の発症や重症化のリスクがあるため、WHOは成人食塩摂取量 5 g/日未満を目標量として推奨しており、 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人男性 7.5 g/日未満、成人女性6.5 g/日未満を一般的な目標量とし、高血圧や慢性腎臓病の重症化予防目的では 6 g/日未満を目標量としている[15]。

摂取されたナトリウムは、ほぼ全てが吸収され[4]、その大部分(80〜95 %[16]、ないし、90 %以上[15])が尿に排泄される。 尿中ナトリウムの一日排泄量は食事により大きく左右されるが、文献的には 150〜200 mEq/日[4] 程度とされる。 24時間尿中のナトリウム測定から食塩摂取量を推定することができる(後述)。

検査目的

尿中ナトリウムは、主に、有効循環血液量の評価、低ナトリウム血症・高ナトリウム血症の原因の診断と治療経過の観察、急性腎障害の鑑別診断、および、ナトリウム摂取量(塩分制限の遵守状況)の推定を目的として測定される[4]。

測定法

尿中ナトリウム濃度は、血中ナトリウムと同様に、通常、イオン選択電極法で測定される[4]。

有効循環血液量の評価

有効循環血液量(英語版)(effective intravascular volume、有効動脈血(液/流)量、有効循環血漿量とも)は、血管内の血液のうち、実際に組織に酸素等を供給している血流(血液)の量を意味する概念である[注 11]。直接的に計測できるものではないが、腎機能が正常であれば、尿中ナトリウムやクロール等により有効循環血液量の低下の有無を推測することができる[1]。

有効循環血液量が正常であれば、他の病態や薬剤の影響がない限り、ナトリウムやクロールは摂取量の大部分が尿中に排泄される。 有効循環血液量が低下していれば、腎臓で体液量を維持するメカニズムが働いてナトリウムやクロールの再吸収が亢進し、 乏尿でないかぎり、ナトリウムやクロールの濃度は15 mmol/L未満になるのが通常である[1]。

急性腎障害(AKI)

急性腎障害(Acute Kidney Injury:AKI)[注 12]においては、腎前性、すなわち、腎への有効血流量の低下[注 13]によるものか、腎性、すなわち、急性尿細管壊死によるものか、の鑑別が重要である(腎前性であれば輸液で腎血流を改善すれば腎機能の改善が期待できる[17])。その鑑別の補助的指標の一つとして尿中ナトリウム濃度やナトリウム排泄率などが用いられることがある[1]。

急性腎障害で、もし尿のナトリウム濃度が低値(目安として 20 mEq/L未満)であれば腎前性が示唆される。特に、尿の浸透圧が維持されている(尿浸透圧が500 mOsm/kg超)にもかかわらず尿ナトリウム濃度が低下していれば、循環血液量が減少してナトリウム再吸収が亢進している可能性が示唆される。 逆に、尿ナトリウム濃度が40 mEq/L超であれば腎性が考えやすい(利尿薬投与中は判定できない)[3][18][19]。

尿のナトリウム濃度は水分摂取量にも左右されるため、ナトリウムの再吸収状態のより正確な指標として、ナトリウムの排泄率(FENa)が用いられる(基礎に慢性腎障害がないのが前提である)[20]。 FENaは、一般に、腎前性では1 %未満、腎性では1 %以上であることが多い。ただし、例外も多く、敗血症、造影剤腎症、ミオグロビン尿などでは、腎性にもかかわらず、当初は腎血管収縮のためにFENaが1 %未満となることがある[20]。 また、代謝性アルカローシスがある場合は、重炭酸とともにナトリウムが排泄されるため腎前性であっても高値となるので、クロールの排泄率の方が信頼できるとされる。

なお、利尿薬投与時は腎前性でもナトリウム排泄が増加するためFENaは適用できない(利尿薬使用中は尿素窒素排泄率の方が信頼できるとされる:35 %以下 なら腎前性)[21]。

肝腎症候群は肝硬変の血流動態異常による腎機能障害(腎実質性障害を伴わない)であり、急性腎障害および非急性腎障害の形をとるが、診断基準にFENaが取り入れられており、FENa 0.2 %未満では腎血管収縮が示唆される(すなわち腎実質性障害がない)としている[22]。

低ナトリウム血症

低ナトリウム血症には、グルコースなどの浸透圧物質が血中に増加することにより生じる等張性・高張性低ナトリウム血症(血漿浸透圧が基準範囲内または上昇)も含まれるが、ここでは血漿浸透圧の低下を伴う低張性低ナトリウム血症について述べる[23]。

低張性低ナトリウム血症においては、まず尿浸透圧が目安として100 mOsm/kg以下であれば、水分摂取過剰や溶質摂取不足が疑われる。 尿浸透圧が100 mOsm/kgをこえている場合、次に鑑別するのは腎からのナトリウム喪失の有無であり、 尿中ナトリウムはその判断に有用である[23][1]。

尿中ナトリウム濃度が低下している場合(文献により差があるが目安としては30 mEq/L未満[23])の場合は、腎からのナトリウム喪失は否定的であり、細胞外液量の減少(下痢、嘔吐、熱傷からの滲出液などの腎外性のナトリウム喪失)、または、有効動脈血流量の減少(肝硬変、心不全、ネフローゼ症候群などの浮腫性疾患)があると考えられる[23]。

逆に、尿中ナトリウム濃度が低下していない場合は、利尿薬、腎疾患(塩類喪失性腎症[注 14]、中枢性塩喪失症候群[注 15]など)、副腎不全、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)などの可能性を考慮する必要がある[4][2]。(なお、SIADHでは尿酸(UA)再吸収が減少するので、この状態でFEUAが10〜12 %を超えていたらSIADHが示唆される[23]。)

高ナトリウム血症

高ナトリウム血症は主に水の欠乏(水の喪失と飲水不足)により生じ、ナトリウムの過剰[注 16]によるものはまれである[24]。

浸透圧利尿(高血糖、マニトール、グリセオール投与など)や利尿薬投与で腎から水が失われる場合は、尿中ナトリウム濃度が 20 mEq/L以上になることが多い[4]。尿崩症で水が尿に失われる場合の尿中ナトリウム濃度や尿浸透圧には必ずしも一定の傾向はなく、診断には水制限試験などが必要となる場合がある[25]。

水の腎外性喪失(汗、嘔吐・下痢、滲出液など)では、腎臓での水とナトリウムの再吸収が亢進し、尿浸透圧は高値となる一方で尿中ナトリウムは低値(20 mEq/L未満)となるのが通常である[25]。

ナトリウム摂取量の評価

前述のように、ナトリウムは主に食塩の形で経口摂取され、その大部分が尿に排泄されることから、 24時間尿中ナトリウムを測定することにより食塩の摂取量が推定できる(ナトリウム 約17 mEqが食塩1 gに相当する)。 24時間尿中ナトリウム排泄量から推定した近年の日本人成人の食塩摂取量は、ばらつきはあるが、平均12.6 g/日とされている[15][5] [注 17]。

食事からの食塩摂取量過多は高血圧等の危険因子であるので、尿中ナトリウム排泄量測定は高血圧や心血管疾患の予防・管理に有用とされる。 ただし、24時間尿の収集は煩雑であるため、保健指導目的には後述の尿ナトリウム・カリウム比がよく用いられる[16]。

尿中クロール

ナトリウム(Na+)が細胞外液の主要な陽イオンであるのに対し、クロール(塩化物イオン、Cl-)は 細胞外液の主要な陰イオンであり、 基本的に、ナトリウム濃度と並行して変動する[20][注 18]。

クロール(塩化物イオン)は、主に食塩として摂取され、ほとんどが吸収される。 糸球体から濾過されたクロールは、ナトリウムとともに大部分が再吸収される。尿中クロールは尿中ナトリウムに並行して動くのが通常である(後述の代謝性アルカローシスなど酸塩基平衡異常の場合などを除く)[4]。

摂取量と排泄量

健常人の尿中クロールの排泄量や排泄率は食塩摂取量に依存するが、排泄量は70〜250 mEq/日[9]、排泄率FEClは、健常人で利用されることは少ないが、1.0〜1.8 %[11]との記載がある。

検査目的

尿中クロールは、代謝性アルカローシスの原因の鑑別に用いられる他、尿中ナトリウムと同様に有効循環血液量の評価にも用いられることがある。 その他、代謝性アシドーシスの原因の鑑別のために尿アニオンギャップの計算に使用される場合[4]や、 尿細管機能異常を検出するための利尿薬負荷試験で使用されることがある[26]。

測定法

尿中クロールは、血中クロールと同様、通常、イオン選択電極法で測定される[4][注 19]。

代謝性アルカローシスの原因の鑑別

代謝性アルカローシスで、FEClが1 %未満、ないし尿中クロールが低値(10 mEq/L以下)[4]であればクロール欠乏、すなわち、Cl反応性代謝性アルカローシス(嘔吐・胃管留置など)が示唆される(ただし、利尿薬使用後などの例外もある)。逆に、FEClが1 %以上であれば、Cl抵抗性代謝性アルカローシス(重篤なカリウム欠乏症や原発性アルドステロン症などが原因)と考えられる[4][27]。

代謝性アルカローシス存在時の有効循環血液量の評価

尿中クロールは、尿中ナトリウムと同様に、有効循環血液量の評価に用いることができる。 有効循環血液量減少があるときは、尿中クロールは、しばしば 15 mEq/L 未満となる(尿中ナトリウムと同様)[1]。 (#有効循環血液量の評価の項参照)。 特に代謝性アルカローシスの場合、重炭酸ナトリウム(NaHCO3)の排泄が増加するため、有効循環血液量減少があっても尿中ナトリウムが減少していないことがある。その場合であっても、クロールの再吸収は亢進するので、尿中クロールにより有効循環血液量の減少の有無を推定することができる[28]。

なお、代謝性アシドーシスでは、上記と逆に、尿中にアンモニウム(NH4+) を排泄するために、有効循環血液量減少があっても尿中クロールが 15 mEq/L を超える場合がある[20]。

急性腎障害の診断

急性腎障害では、腎前性、すなわち、腎への有効血流量の低下を示唆する所見として、尿中ナトリウムと同様に、尿中クロールの低値(15 mEq/L未満)があげられる[1]。尿中クロールが単独で急性腎障害の鑑別に用いられることはまれであるが、前項に記載したように、代謝性アルカローシスがあるときの有効循環血液量の評価には尿中クロールが有用とされる[28]。

代謝性アシドーシスにおける腎臓の尿酸性化能の評価

代謝性アシドーシスにおいては、尿アニオンギャップを用いて尿中のアンモニウム排泄量を推定するために尿中クロール濃度を測定する場合がある。 尿アニオンギャップ(UAG)は、尿へのアンモニウム排泄量を推定するための指標である。正常アニオンギャップ代謝性アシドーシス(高Cl性アシドーシス)の鑑別に用いられる[注 20]。

UAG = 尿Na濃度 + 尿K濃度 ー 尿Cl濃度

利尿薬負荷試験

尿細管の電解質輸送機能の異常を評価するため、利尿薬投与後のクロール排泄率FEClの変化を測定する利尿薬負荷試験が行われることがある。 例をあげると、 ギテルマン症候群の典型例では遠位曲尿細管のサイアザイド感受性のNa+-Cl-共輸送体(NCCT)に異常があるため、 サイアザイド(チアジド)利尿薬を投与してもクロールの尿中排泄(FECl)の増加が不良であるのが特徴的である。 また、1型バーター症候群ではヘンレループのフロセミド感受性Na+-K+-Cl-共輸送体(NKCC2)に異常があるため、フロセミド負荷によってもクロールの尿中排泄(FECl)の増加が不良である[26]。

尿中カリウム

人体のカリウムのほとんど(約98 %)は細胞内に存在しており、細胞内の主要陽イオンである。

摂取量と排泄量

通常の食事では、カリウムはおよそ100 mEq/日前後摂取され、ほぼ全てが吸収されて、大部分(90 %前後)が尿に、一部(10 %前後)は便に排泄される[4]。 腎からのカリウム排泄は、アルドステロンや遠位ネフロンへの水・ナトリウムの到達量により促進される[4]。 なお、正常な腎臓は、ナトリウムについては糸球体から濾過される量のほとんどを再吸収可能であるが、 カリウムについては一日排泄量を15 mEq未満にまで再吸収することは困難であるため、 長期間のカリウム摂取不足は低カリウム血症をきたす[29]。

検査目的

尿中カリウムは主に低カリウム血症および高カリウム血症の鑑別診断、カリウム摂取量の評価などにもちいられる[4]。

測定法

尿中カリウムの測定には、血中カリウムと同様、通常、イオン選択電極法が用いられる[4]。

低カリウム血症

低カリウム血症においては、腎からのカリウムの喪失なのか、腎以外からのカリウム喪失(嘔吐・下痢・ドレーン留置など)なのか、あるいは、カリウム摂取不足なのかが問題になる (低カリウム血症の原因としては、アルカリ血症による細胞内へのカリウム移行によるものもある)。 腎からの喪失の有無を知るために尿中カリウムが測定されることがある。 低カリウム血症における腎からの喪失の目安として、1日尿カリウム排泄量20 mEq/日[8]以上(文献によりカットオフ値は異なり、 25 mEq/日以上[4]ないし15 mEq/日以上[29]とするものもある)、尿カリウム・クレアチニン比が13 mEq/gCr以上、カリウム排泄率FEKが10 %以上、TTKG(尿細管カリウム濃度勾配)が 6超 などがあげられている[8]。

高カリウム血症

高カリウム血症の原因は、大別して、腎からのカリウム排泄障害、カリウムの過剰負荷(輸液、組織細胞崩壊)、酸血症などによる細胞内へのカリウム移行があげられる。 1日尿カリウム排泄量100 mEq/日以上[29]であればカリウムの過剰負荷が考えられ、35 mEq/日以下[29]であれば腎からの排泄障害が考えられる。 腎からのカリウム排泄障害がある場合、その原因は、糸球体濾過量減少(目安として血清クレアチニン3 mg/dL以上[29])、または 集合管でのカリウム排泄の低下(アルドステロン作用の低下など)である[29]。

TTKG(尿細管カリウム濃度勾配)

TTKG (Transtubular Potassium Gradient、尿細管カリウム濃度勾配)とは、腎におけるカリウム排泄を主に担う 皮質集合管内のカリウム濃度と血中カリウム濃度の比を 尿の濃縮度の影響を除外して表現したものである。 集合管におけるアルドステロンのカリウム排泄促進作用を反映する指標ともいえる。

TTKG = ( 尿カリウム濃度 × 血漿浸透圧) / ( 血漿カリウム濃度 × 尿浸透圧 )

アルドステロンが正常に作用していれば、低カリウム血症ではTTKGが2.0未満、高カリウム血症ではTTKGが7〜10以上となる。 低カリウム血症でTTKGが4以上ならカリウム排泄亢進によるカリウム喪失、高カリウム血症でTTKGが7以下ならアルドステロン作用の不足によるカリウム蓄積が示唆される。 ただし、低張尿(尿浸透圧が血漿浸透圧より低値)や尿ナトリウム濃度低値(20 mEq/L未満)ではTTKGは使用できない[2]。 近年は、TTKGの提唱者(M.L.ハルペリン)自身がTTKGの理論的前提(集合管流入液のカリウム濃度と浸透圧が血漿にほぼ等しく、集合管では浸透圧物質の排泄がない)が成立しないことが判明したとして使用を非推奨としており、 以前ほど使用されない傾向がある[30]。

カリウム摂取量の評価

食事からのカリウム摂取量不足は高血圧等の危険因子である。摂取したカリウムの大部分は尿中に排泄されるため、カリウム摂取量評価を目的として24時間尿のカリウム量の測定が行われることがある。 ただし、24時間尿の収集は煩雑であるため、保健指導目的には後述の尿ナトリウム・カリウム比がよく用いられる[16]。

尿ナトリウム・カリウム比

尿ナトリウム・カリウム比(尿ナトカリ比、尿Na/K比)は尿中のナトリウム(Na)とカリウム(K)のモル濃度比である。 随時尿でも測定可能であるので、高血圧等の危険因子であるナトリウム摂取過剰とカリウム摂取不足の簡便な指標として利用される[31]。

尿中カルシウム

人体内のカルシウムのほとんど(約99 %)は骨・歯牙に存在する。細胞外液中に含まれるのは0.1 %程度であり、副甲状腺ホルモン(PTH)とビタミンDの作用により細胞外液中のカルシウム濃度が維持されている。細胞外液中ではカルシウムの40 %程度がタンパク質と結合している(なお、細胞内のカルシウムイオン濃度は非常に低く、細胞外の2万分の1前後である)[4][32]。

摂取量と排泄量

成人のカルシウム摂取量はおよそ1000 mg/日程度であり、そのうち200 mg/日前後(100〜300 mg/日)が体内に吸収され、定常状態では尿にほぼ同量が排泄される[4]。

検査目的

尿中カルシウムは、主に、高カルシウム血症・低カルシウム血症の鑑別診断に用いられる他、 尿路結石の診断や治療にも用いられる。

測定法

血中および尿中カルシウムの測定には、通常、酵素法または比色法(アルセナゾⅢ法、OCPC法など)が用いられる[4][9]。

単位

日本では血清および尿のカルシウム濃度は、通常、mg/dL単位で表示されるが、海外ではmmol/Lで表示されることも多い。約4 mg /dLが 1 mmol/Lに相当し、1 mmol/Lは2 mEq/Lに相当する[33]。

カルシウムの排泄率(FECa)

血漿中のカルシウムの40%程度はタンパク質と結合している。 そのため、糸球体から濾過されうるのは60%程度と仮定して下記式1により計算するのが 排泄率の本来の定義に近いカルシウム排泄率である[4]。

式1(タンパク結合補正あり):  FECa = 100 × (尿Ca × 血清Cr) / (0.6 × 血清Ca × 尿Cr)
式2(タンパク結合補正なし):  FECa = 100 × (尿Ca × 血清Cr) / (血清Ca × 尿Cr)

ただし、日常臨床的には、式2を用いて補正なしで排泄率を計算することが多いので注意を要する[34][35][36][37]。補正しない場合のFECaは健常人では 2〜4 %程度である[12]。

カルシウム・クレアチニン・クリアランス比

家族性低カルシウム尿症性高カルシウム血症(FHH)については、カルシウム・クレアチニン・クリアランス比(calcium creatinine clearance ratio:CCCR、または、urinary calcium:creatinine clearance ratio:UCCR)がよく用いられる。CCCRは、計算式はタンパク結合補正なしの血清カルシウム濃度を用いるFECaと同じであるが、通常、24時間尿カルシウム濃度を用いて算出し、パーセント表示ではなく比として表現する[12]。

CCCR = (尿Ca × 血清Cr) / (血清Ca × 尿Cr)

高カルシウム血症

高カルシウム血症がある場合、目安としてCCCRが0.01以上[注 21]であれば(腎不全はないものとする)、腎は高カルシウム血症に正常に反応していると考えられ、腸管からのカルシウム吸収増大または骨吸収の増大が考えられる(PTH作用の過剰、ビタミンD作用の過剰、など)。 CCCRが0.01未満の場合は腎からのカルシウム再吸収の異常亢進と考えられ、家族性低カルシウム尿症性高カルシウム血症(英語版)(familial hypocalciuric hypercalcemia:FHH)や薬剤の副作用の可能性(サイアザイド利尿薬など)などが示唆される[2][38][37]。

家族性低カルシウム尿症性高カルシウム血症

家族性低カルシウム尿症性高カルシウム血症(FHH)は、カルシウム感知受容体(CaSR)などの遺伝子異常などにより 軽度の高カルシウム血症を来す良性の疾患である。 高カルシウム血症の治療にあたっては、手術等の治療を要することが多い原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)と 処置を要しない家族性低カルシウム尿症性高カルシウム血症(FHH)を 確実に鑑別する必要があり、そのためにCCCRの測定が用いられる[39] [12]。 (なお、FHHでは、Caの総排泄量も低下しているが特異性が低いため、CCCRの低下が診断に用いられる[39])。

腎機能が正常(eGFRが 60 mL/min超)でビタミンD欠乏がない、すなわち、25(OH)Dが50 nmol/L(20 ng/mL)を超えていることを前提に、 CCCRが0.01未満ならFHHの可能性が高く、CCCRが0.02超ならPHPTの可能性が高いとされる。なお、CCCRが0.01〜0.02の範囲では鑑別困難であるためFHHの遺伝子検査等が考慮される[40]。

低カルシウム血症

低カルシウム血症の原因としては、PTH作用の低下(低マグネシウム血症によるものも含む)、ビタミンD作用の低下、腎不全、骨吸収阻害薬などが主要なものであるが、利尿薬やシスプラチンなどによる尿細管障害やまれな遺伝子異常[41]によるカルシウム再吸収低下によるものも知られている[42]。

厚生労働省研究班の低カルシウム血症の診断指針[37]では、 血清リンが高値であれば(成人3.5 mg/dL以上、小児4.5 mg/dL以上、乳児5.5 mg/dL以上)、慢性腎不全やPTH作用の低下(副甲状腺機能低下症または偽性副甲状腺機能低下症)の鑑別に進み、逆に血清リンが低値であれば、尿カルシウム排泄量を確認する。 尿カルシウム排泄量が高値であれば(目安として200 mg/日以上、小児では4 mg/kg/日)、腎臓からのカルシウム喪失、すなわち、腎性高カルシウム尿症、尿カルシウム排泄量が低値であれば、ビタミンD欠乏・ビタミンD依存症、骨吸収阻害薬、飢餓骨症候群や骨形成性骨転移、急性膵炎などが考えられる。

尿路結石・高カルシウム尿症

尿中カルシウムの増加、すなわち高カルシウム尿症は尿路結石再発の促進因子であるので、尿路結石再発予防のための検査の一環として尿中カルシウムが測定されることがある[43]。尿路結石症の40〜70 %に高カルシウム尿症が認められるとされる[44]。 高カルシウム尿症のカットオフ値としては、尿路結石症のガイドラインでは、成人女性で200 mg/日、男性で250 mg/日[43]としている。(男女共通で200 mg/日とするもの[44]、体重あたり 4mg/kg・日[45]とするものもある。) また、高カルシウム尿症はビタミンD投与中によくみられるため、ビタミンD投与中は、尿カルシウム・クレアチニン比が0.3を超えないようにすることを勧める文献もある[46]。

尿中カルシウム排泄に影響を与える病態の代表例[44][42][37]
尿中カルシウムが増加する病態
  • 高カルシウム血症をしばしば伴うもの
    • PTH作用の過剰(副甲状腺機能亢進症)
    • ビタミンD作用の過剰(ビタミンD中毒、サルコイドーシスなど)
    • 悪性腫瘍による高カルシウム血症(PTHrP)
  • 通常、血中カルシウムの異常を伴わないもの
    • 骨吸収の増大(不動、甲状腺機能亢進、グルココルチコイド過剰など)
    • 尿細管異常(特発性、尿細管性アシドーシス、バーター症候群など)によるカルシウム喪失
尿中カルシウムが低値をとる病態
  • 高カルシウム血症をしばしば伴うもの
    • 家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)
    • サイアザイド利尿剤
  • 低カルシウム血症をしばしば伴うもの
    • PTH作用の低下(副甲状腺機能低下症、偽性副甲状腺機能低下症)
    • ビタミンD作用の低下(ビタミンD欠乏症、ビタミンD依存症)
  • 通常、血中カルシウムの異常を伴わないもの
    • カルシウム摂取不足
    • リン摂取過剰
    • アルカローシス

尿中無機リン(尿中リン)

人体内のリンの85 %は骨や歯牙に主にハイドロキシアパタイトとして含まれ、残りのほとんどは細胞内に存在し、細胞外液に存在するのはおよそ 0.1 %程度である。血清中の元素としてのリンは、約70 %程度が有機のリン酸(リン脂質や有機リン酸エステル)、約30 %程度が無機のリン酸として存在しており、後者を無機リン(または、単にリン[注 22])と呼ぶ[47][4]。血清や尿中の無機リンは主に、H2PO4-、および、HPO42-の形で存在している。臨床検査項目としての血清リン・尿中リンは、この無機リンを意味している。以下、血清無機リンは血清リン、尿中無機リンは尿中リンと記載する[4]。

摂取量と排泄量

成人では1日約1200 mgのリンを摂取し、便に失われる分を差し引くと約650mgが消化管から取り込まれる(消化管からのリン吸収はビタミンDにより促進される)。また、リンは、骨からの放出と骨への沈着が動的に平衡した状態にある。 リン代謝はビタミンD、副甲状腺ホルモン(PTH)、線維芽細胞増殖因子23(英語版)(FGF23)などの制御を受けている。リン過剰状態ではPTHとFGF23が尿中リン排泄を促進し、さらにFGF23はビタミンD合成を抑制する。リン欠乏状態では、ビタミンDは腸管からのリン吸収を促進し、PTHとFGF23を抑制して近位尿細管でのリン再吸収を促進する[48]。

リンの排泄量は摂取量(食事内容)により大きく変動し、文献記載にも幅があるが、成人では、400〜600 mg/日[3]、0.5〜1 g/日[10]、1000 mg/日前後[4]との記載がある。 リン欠乏状態では、尿中のリン排泄はほぼゼロとなる[4]。 尿中リンは、食事以外に骨など体内からも由来していることから、単独でリン摂取量の精度の高い推定は難しいとされる[47]。 なお、尿がアルカリ性になるとリンが沈殿することがあるので、蓄尿でリンを測定する場合は注意を要する[47][注 3]。

検査目的

尿中リンは、高リン血症および低リン血症の原因診断(副甲状腺機能異常の診断も含む)、腎のリン再吸収能力の異常の診断などを目的として測定される[49]。また、尿中リンは尿路結石の危険因子の一つであり、尿路結石の代謝的背景の精査の一環として検査が行われることがある[49][50][43]。

測定法

尿中および血中の無機リンは酵素法またはモリブデン酸法で測定されるのが通常である[4]。

単位

日本では血清および尿のリン濃度は、通常、mg/dL単位で表示されるが、海外ではmmol/Lで表示されることも多い。1 mg /dLが 0.3229 mmol/Lに相当する[51]。 また、血中・尿中の無機リンは、一価のPO4-と二価のHPO42-の2つが混在しており、その比率はpHにより変動する。このため、無機リン濃度の表示には、mEq/Lは使用しないのが通常である。

尿中リン排泄に影響を与える病態の代表例
尿中リンが増加する病態[52][4][53][54]
  • リン摂取量の増大(リンを含む下剤など)
  • PTH作用の亢進(副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症(PTHrP))
  • 尿細管異常(ファンコーニ症候群、低リン血症性くる病など)
  • 腫瘍性骨軟化症(FGF23過剰)
尿中リンが低値をとる病態[52][4][53]
  • リン摂取の不足
  • 腸管からの吸収不良
  • PTH作用の低下(副甲状腺機能低下症、偽性副甲状腺機能低下症)

高リン血症

高リン血症では、腎からのリン排泄の障害の有無が問題となる。 目安として、リン排泄率(FEP)が15 %未満であれば腎不全ないしPTH作用の低下、15 %超であればリン過剰摂取など供給の過剰の可能性が考えられる[55]。

低リン血症

低リン血症では、腎からのリン喪失の有無が問題になる。 1 日リン排泄量が 100 mg 以下であれば、腎からのリン喪失は考えにくい[47]。 また、目安としてリン排泄率(FEP) が 5%未満であれば(すなわち、腎臓で最大限のリン再吸収がおこっていれば)、腎でのリン喪失以外の病態(腸管での吸収低下など)が疑われる[47]。

リン再吸収率(%TRP)

リンについては、排泄率そのものよりも、(1 − リン排泄率)に相当する、リン再吸収率がよく用いられる。 基準値は、文献により異なるが、80〜95 %とされる[4]。 低リン血症でリン再吸収率の低下(すなわちリン排泄率の上昇)がみられたら、腎性のリン喪失が示唆される[4]。

リン再吸収率(%) = 100(%) × { 1 − ( 尿リン濃度× 血清Cr濃度 )/( 血清リン濃度 × 尿Cr濃度 ) }
                = 100(%) × ( 1 − リン排泄率(%) )

尿細管リン最大再吸収閾値(TmP/GFR)

リン再吸収率・リン排泄率はその時点でのリン負荷状況や糸球体濾過率の影響を受けるという問題がある。 尿細管リン最大再吸収閾値(renal tubular maximal reabsorption of phosphate to GFR ratio:TmP/GFR)は、 計算はやや煩雑であるが、 リン負荷の状況や糸球体濾過率の影響を受けにくく精度が高いとされる腎尿細管のリン再吸収能力の指標である(PTHやFGF23などのホルモンの影響は受ける[56])。 また、TmP/GFRは、その濃度以下では、糸球体で濾過されたリンのほぼ全量が再吸収されるような血清無機リンの濃度とも解釈できる [57][54]。

TmP/GFRの計算にはリン再吸収率(TRP、%ではなく小数表示)と血清リン濃度を用いる[57][54]。

TRP =  1 − ( 尿リン濃度× 血清Cr濃度 )/( 血清リン濃度 × 尿Cr濃度 )
TRP ≦ 0.86 の場合:TmP/GFR = TRP × 血清リン濃度
TRP > 0.86 の場合:TmP/GFR = {(0.3 × TRP) /(1 − 0.8×TRP)} × 血清リン濃度

成人のTmP/GFR基準値は 2.3 – 4.3 mg/dL(血清リン濃度の基準値と同様)とされる[57][54]。

TmP/GFRは低リン血症の鑑別診断に使用される。低リン血症にもかかわらずTmP/GFRが低ければ、尿細管でのリン再吸収抑制があり、 尿細管機能異常、PTH作用過剰、FGF23作用過剰などが考えられる。逆に高値であれば、リン摂取不足、リンを吸着する薬剤投与などを 考える[47]。

エルスワース・ハワード試験

エルスワース・ハワード試験(Ellsworth-Howard試験、副甲状腺ホルモン負荷試験)は、副甲状腺機能低下状態の患者に副甲状腺ホルモン(PTH)を投与し、 腎臓に対するPTHの生物学的作用により尿中リン・尿中サイクリックAMP(cAMP)の排泄量が増えるかどうかをみる歴史的な検査である。 典型的には、PTHの不足(すなわち副甲状腺機能低下症)であれば尿中リン・cAMPが共に増加し、 偽性副甲状腺機能低下症のⅠ型ではいずれも増加せず、Ⅱ型ではcAMPのみ増加する。 主に偽性副甲状腺機能低下症の診断や分類に用いられていたが、近年は血中PTHの測定技術の進歩や遺伝子検査の発展により、あまり行われなくなった[4][58]。

尿中マグネシウム

人体内のマグネシウムは約60 %が骨に存在し、残りの大部分は細胞内に分布し、細胞外液に存在するのは 1 %程度である[59][60]。

摂取量と排泄量

通常の食事をしている成人では、およそ300mg/日前後のマグネシウムを摂取する。消化液に分泌されるマグネシウムを差し引くと、そのうち約1/3が腸管から吸収されることになる。定常状態ではその大部分が腎から尿中に排泄される[4][60]。 通常の食事下でのマグネシウムの尿排泄量は文献により差が大きいが、20〜170 mg/日[4]、100〜200 mg/日[3]、ないし、クレアチニン補正で、40-120mg/gCr[61]との記載がある。血中のマグネシウム濃度は主に腎により狭い範囲に維持されているが、カルシウムやリンとは異なり、マグネシウム代謝を主に制御するホルモンは同定されていない[42][60]。

検査目的

尿中マグネシウムの測定は、主に低マグネシウム血症・マグネシウム欠乏症の診断や原因の鑑別などに用いられる[4]。 (なお、高マグネシウム血症の原因は、通常、腎機能低下(目安としてGFRが30 mL/min以下)とマグネシウムの過剰摂取であり、尿中マグネシウム検査は必要ない場合も多い[4][59]。)

測定法

尿中マグネシウムの測定には、通常、血清マグネシウムと同様に、酵素法、比色法(キシリジルブルー法)が用いられる[4]。

単位

日本ではマグネシウム濃度は、通常、mg/dL単位で表示されるが、海外ではmmol/Lで表示されることも多い。約2.4 mg /dLが 1 mmol/Lに相当し、1 mmol/Lは2 mEq/Lに相当する[33]。

マグネシウムの排泄率(FEMg)

血中マグネシウムの約30 %はタンパクと結合しており、残りの約70 %が糸球体から濾過されうる。 そのため、マグネシウムの排泄率FEMgは、タンパク非結合のマグネシウムの率を0.7と仮定して、下記により計算するのが通常である[4][59][62][注 23]。

FEMg = 100 × (尿Mg × 血清Cr) / (0.7 × 血清Mg × 尿Cr)

健常成人のFEMgは、3〜5 %[4]とされる。 FEMgは薬剤などによる尿細管機能異常の敏感な指標になりうると考えられている[7]。 低マグネシウム血症でFEMgが2 %を超えていたら、腎からのマグネシウム喪失があると考えられる[2][59][62]。

低マグネシウム血症

低マグネシウム血症は、摂取不足や吸収障害(アルコール多飲、プロトンポンプ阻害薬、炎症性腸疾患、マグネシウムをキレートする薬剤)、腎からの喪失(利尿薬投与、シスプラチンやアミノグリコシドなどの薬物の副作用、ギテルマン症候群などの遺伝性のマグネシウム喪失疾患)などによりおこる。 [59][4][42][33]。

低マグネシウム血症があるときの尿中マグネシウムの目安としては、 腎からの喪失であれば、24時間尿中マグネシウム排泄量は20〜30 mg/日以上[4]、随時尿のクレアチニン比で24 mg/gCr超[2]、マグネシウム排泄率 FEMgは2 %超[2][59][62] とされる。 一方、マグネシウムの摂取不足や吸収障害の場合は、24時間尿中尿中マグネシウム排泄量10 mg/日以下[4]、随時尿のクレアチニン比で24 mg/gCr未満[2]、FEMgは2% 未満[4][2][59]となる。

潜在性のマグネシウム欠乏症

血中のマグネシウム濃度は潜在的なマグネシウム欠乏があってもすぐには低下しないため、 マグネシウム欠乏状態の評価には尿中マグネシウム排泄量が参考になる。 マグネシウム血中濃度が基準範囲内であるが臨床的にマグネシウム欠乏症が疑われる場合には、マグネシウム負荷試験を行う場合がある(腎不全がないことが前提である)[注 24]。 マグネシウム負荷試験では、点滴静注でマグネシウムを投与した後、24時間尿中マグネシウム排泄量が投与量の80 %未満であれば、腎臓によるマグネシウム再吸収が亢進しておりマグネシウム欠乏状態であると判定される[59][60]。

尿路結石

尿中マグネシウムは尿路結石再発の抑制因子の一つとされており、 尿路結石再発の促進因子である尿中カルシウムや尿中尿酸とあわせて 尿路結石再発予防のための検査に含められることがある[43]。

尿中マグネシウム排泄に影響を与える病態の例[59][4][42][33]
尿中マグネシウムが増加する病態
尿中マグネシウムが低値をとる病態

脚注

関連項目

外部リンク

Related Articles

Timelines

Top Qs

Fact Checks