抑うつの分布モデル
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背景
抑うつ症状の分布モデルは2000年に行われた抑うつ関する大規模調査(保健福祉動向調査、対象32000人)のデータ解析をきっかけに報告された[3]。調査には抑うつ評価尺度のCES-Dが使われたが抑うつ症状の分布は下記の表のとおりとなった[4]。
| 抑うつ症状の種類 | ほとんどない | 1-2日 | 3-4日 | 5日-7日 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 1. | 普段は何でもないことがわずらわしい | 52.8% | 34.2% | 10.1% | 3.0% |
| 2. | 食べたくない、食欲不振 | 71.9% | 19.7% | 6.7% | 1.7% |
| 3. | 家族や友達からはげましもらっても気分が晴れない | 72.3% | 18.9% | 5.8% | 3.0% |
| 4. | 物事に集中できない | 53.7% | 30.8% | 11.5% | 3.0% |
| 5. | ゆううつだ | 52.8% | 34.2% | 10.1% | 4.0% |
| 6. | 何をするにも面倒だ | 47.1% | 35.8% | 11.2% | 5.9% |
| 7. | 過去のことについてくよくよ考える | 55.6% | 28.3% | 11.6% | 4.6% |
| 8. | 何か恐ろしい気持ちがする | 80.7% | 13.1% | 4.2% | 2.0% |
| 9. | なかなか眠れない | 62.8% | 23.1% | 9.5% | 4.6% |
| 10. | ふだんより口数が少ない、口が重い | 66.7% | 22.0% | 7.7% | 3.5% |
| 11. | 一人ぼっちでさびしい | 78.1% | 14.0% | 5.0% | 2.9% |
| 12. | 皆がよそよそしいと思う | 81.5% | 13.1% | 3.7% | 1.7% |
| 13. | 急に泣き出すことがある | 91.5% | 6.0% | 1.7% | 0.8% |
| 14. | 悲しいと感じる | 74.0% | 19.2% | 4.8% | 2.0% |
| 15. | 皆が自分をきらっていると感じる | 82.6% | 13.5% | 2.7% | 1.3% |
| 16. | 仕事(学業)が手につかない | 72.5% | 19.6% | 5.1% | 2.9% |
抑うつ症状の分布を分析したところ共通する数理パターンが明らかになった[3]。下記のグラフは抑うつ症状の分布を線グラフにプロットしたものであるが、矢印が示すようにすべてのグラフが「ほとんどない」と「少しある」の間の一点で交差し「少しある」から「いつもある」にかけて全ての症状がほぼ同じ比率で収斂している。。なおCES-Dのポジティブ感情の4項目はこの分布モデルに従わない[3]。

抑うつ症状の分布の数理モデル
下記は抑うつ症状の分布から提案された数理モデルである。このモデルの特徴は、「ほとんどない」を除いた「少しある」から「かなりある」の区間の減少率と「少しある」から「いつもある」の区間の減少率が、すべての抑うつ症状において等しいということである。

図Aに示すように「少しある」の頻度確率をPとし、「少しある」から「かなりある」の区間の減少率をr1,「かなりある」から「いつもある」の区間の減少率をr2とした場合、「かなりある」「いつもある」「ほとんどない」の確率はそれぞれPr1、Pr1r2、1-(P+Pr1+Pr1r2)となる。
図Bは二つの抑うつ症状の分布のモデルである。「少しある」の確率をそれぞれP1とP2と仮定したものである。図Bのモデルにしたがって「ほとんどない」と「少しある」の間の交点の座標を計算すると(x, y) = {(r1r2+r1+1)/(r1r2+r1+2),1/(r1r2+r1+2)}となる。この交点の座標はr1とr2だけで構成されているのでこのモデルにでは抑うつ症状のすべての線グラフが「ほとんどない」と「少しある」の間の一点で交わることになる。
日米欧の様々な公的大規模データでこの数理モデルの再現性は確認された[2]。またPHQ-9、K6/K10、GAD-7、GHQといった異なる評価尺度でも再現性が認められた[2]。抑うつ症状には抑うつ気分、不眠、希死念慮、といった様々のものがあるが皆同じ分布モデルに従うということである
総スコアと指数分布
抑うつスコアの分布の安定性
長期的な安定性
一般社会における抑うつスコアの分布は長期的に安定している。こういった特徴は抑うつスコアが指数分布に従う仕組みと関連していると考えられている[1]。
下図Aは1997年と2017年における米国での抑うつ評価尺度K6/K10を用いた大規模調査(NHIS)の結果を比較したものであるが、どちらの時代のK6の分布も右肩下がりでほぼ重なっている(点線で示した13点がK6のうつ病のスクリーニングのカットオフ値)。
下図Bは方対数グラフであるがほぼ直線を示しておりやはり重なっている。つまり21年の時間差にも関わらず、抑うつスコアの分布は安定している[6]。この21年間に同時多発テロ(2001年)ハリケーン・カトリーナ(2005年)リーマンショック(2008年)と米国を揺るがすような災危が続いたが、抑うつスコアの分布は安定しており、K6スコアが13点以上のうつ病が疑われる部分もあまり変化していない。英国の公的調査でも抑うつスコアの分布が長期的に安定していることは確認された[7]。

抑うつスコアの分布の興味深い点は、個人の変動と分布の安定が共存する点にある。一般的に個人が変動すればそれにともない個人の集合体である分布も変化する。しかし抑うつスコアの分布では、個人は変動するが分布全体は安定している。こういった性状は絶え間ない交換によって出現する指数分布の仕組みと一致すると考えられている[1]。
