熊害 (1980年度以降の日本)

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熊害(ゆうがい)は、クマ科哺乳類による獣害。一般的にはクマによる人間やその飼育動物、農産物などに対する被害および交通機関との衝突などを指す。

本項では、環境省自然環境局が公表する1980年度以降の日本における「クマ類による人身被害」等について記す。

なお、本項における「クマ類」とは環境省が定義する用語であり、日本国内に生息するヒグマツキノワグマをあわせた総称である[1][2]。日本国内に分布するクマ類は、エゾヒグマ北海道に分布するヒグマの亜種)とニホンツキノワグマ本州および四国に分布するツキノワグマの亜種)である[3]

クマは本来、山奥を中心とした自然環境で生息する動物であり、里山から離れた森林で暮らしている。しかし、2010年の政府答弁によると、戦後の針葉樹人工林造成や堅果類の凶作、さらに農村の過疎化耕作放棄地の増加等により、クマが人里に出没する事例が増えているとしている。また、狩猟者の減少もクマが人里を恐れなくなる一因と考えられている。このような背景から、政府は地域の実情に応じたクマの保護管理と、人里での被害防止及び生息地の管理を並行して進めることが重要であると認識しており、森林施業の適切な推進や針広混交林化など多面的機能を発揮する森林整備により、生物多様性を保全しつつクマとの共存を図ることを目指すとしている[4][5]。2000年代以降は地球温暖化などの影響で開発を逃れて残されていた豊かな森にも深刻な劣化がおこり、森の豊かさが急速に失われている。2023年の熊の大量出没は異常な熱波により冬ごもりのための重要な時期に奥山の実りがほとんどないという異例の事態によっておこったと言われる。中山間地域の過疎化と高齢化により、それまで明確だった野生動物と人との境界があいまいになっていることも人身事故の多発を後押ししている[6]

熊による外傷

熊による外傷では、顔面や頭部への咬傷や爪による挫滅・裂創が多く報告されている。これらの外傷では多くの場合、顔面骨(上顎骨下顎骨頬骨など)の骨折頭蓋底骨折を伴い、軟部組織では眼球破裂や脱落による失明外鼻の全欠損、口唇や頬の広範囲な裂創などの重篤な損傷が認められる。さらに、咬傷や挫創に伴う創部の汚染により、破傷風を含む細菌感染のリスクが高いため、創部の十分な洗浄が重要である。顔面や頭部の重篤な損傷の治療にあたっては、形成外科による軟部組織再建や骨折整復手術、場合によっては段階的な再建手術や植皮・軟骨移植が必要となる[7][8][9]

秋田大学医学部附属病院の中永士師明医師が2023年に行った調査によれば、熊による外傷の9割は顔面に集中しており、その原因として、熊が人間を威嚇する際、体を大きく見せるために立ち上がった状態から攻撃してくることを指摘している[10][11]。また、心的外傷として、熊に襲われた被害者の8割がPTSD、不眠、せん妄、動悸などを訴えているとしている[11][12]

2021年度以降の日本での熊害報道

◆:人間の生活圏内での発生事案

2021年度

  • 2021年度(死亡事例:5件)
    • 2021年4月10日 - 北海道厚岸町の山林で男性がヒグマに襲われ死亡[13]
    • 2021年6月18日 - ◆札幌市東区の住宅街でヒグマが4人を襲撃し重軽傷。同日中に駆除。
    • 2021年7月1日 - ◆北海道福島町の畑で女性がヒグマに襲われ死亡[14]。→2025年、同一個体を駆除。
    • 2021年7月11日 - 北海道滝上町の林道で女性がヒグマに襲われ、翌日遺体で発見[15]
    • 2021年10月2日 - ◆青森県平川市の農道で男性がクマに襲われ死亡[16]
    • 2021年11月24日 - 北海道夕張市の山林で男性がヒグマに襲われ、翌日遺体で発見[17]

2022年度

  • 2022年度(死亡事例:2件)
    • 2022年5月25日 - ◆北秋田市の水田で農作業中の男性がクマに襲われ、3日後に死亡[18]
    • 2022年7月27日 - 福島県会津若松市の竹やぶで女性がクマに襲われ死亡[19][20]

2023年度

  • 2023年度(死亡事例:6件)
    • 2023年5月14日 - 北海道の朱鞠内湖幌加内町)で釣り人男性がヒグマに襲われ死亡。翌日、同一個体を駆除[21]
    • 2023年7月 - OSO18駆除
    • 2023年8月9日 - 岩手県一戸町の山林で女性がクマに襲われ死亡[22]
    • 2023年10月13日 - 長野県飯山市の山林で男性がくくり罠にかかったクマに襲われ死亡[23]
    • 2023年10月17日 - ◆富山市の住宅敷地で女性がクマに襲われ死亡[24]。 
    • 2023年10月19日 - 岩手県八幡平市の山林で2人がクマに襲われ1人死亡[25]
    • 2023年10月29日 - 北海道の大千軒岳福島町)山中で男子大学生がヒグマに襲われ不明[26]
      • 2023年10月31日 - 同上の山中で大学生襲撃と同一の個体が消防士3人を襲撃、クマは傷を負いながら逃走[26]
      • 2023年11月2日 - 同上の山中で被害大学生の遺体と、襲撃クマの死がいを発見。消防士襲撃時の傷が致命傷と後に判明[26]

2024年度

  • 2024年度(死亡事例:3件)
    • 2024年6月21日 - 長野県信濃町の山林で男性がクマに襲われ死亡[27]
    • 2024年6月25日 - 青森市北八甲田の山林で女性がクマに襲われ死亡[28]
    • 2024年9月29日 - 福島県昭和村の山中で男性がクマに襲われ2日後に遺体発見[29]
    • 2024年11月30日から12月2日 - ◆秋田市スーパー店内にクマが侵入、従業員を負傷させ店内に居座り、55時間後に捕獲・殺処分[30]

2025年度

  • 2025年度(認定死亡事例:13件、認定行方不明事例:1件、※環境省認定以外の事案:2件[31]、◎人身事故以外の事象、◆:人間の生活圏内事案)
    • 2025年6月22日 - 長野県大町市の山林で男性2人がクマに襲われ1人死亡[32]
    • 2025年7月4日 - ◆岩手県北上市で女性が自宅住家内でクマに襲われ死亡[33]。後日、同一個体を駆除[34]
    • 2025年7月12日 - ◆北海道福島町の民家敷地で新聞配達員がヒグマに襲われ死亡[35][36]。後日駆除され、2021年の死亡事故と同一の個体と判明[37]
    • 2025年7月31日 - ◆北秋田市の障害者施設屋外で女性がクマに襲われ、後日死亡[38][39]
    • 2025年8月14日 - 知床半島羅臼岳(北海道斜里町)で男性がヒグマに襲われ死亡[40]。翌日、同一個体の母クマを含む3頭を駆除[41]
    • 2025年9月1日 - ◎鳥獣保護管理法を改正、「緊急銃猟」の制度を創設。
    • 2025年10月2日 - ※長野県大鹿村の山中で男性が不明となり、翌日に遺体発見。クマ被害の可能性あり[42]
    • 2025年10月3日 - 宮城県栗原市の山中で複数人がクマに襲われ女性1人が死亡[43]、女性1人が行方不明[44]
    • 2025年10月7日 - 岩手県北上市の山中で男性がクマに襲われ、翌日に遺体頭部と胴体を発見[45][46][47]
    • 2025年10月9日 - 岩手県雫石町の山林で男性がクマに襲われ、翌日に遺体発見[48]
    • 2025年10月15日 - ◆宮城県仙台市の住宅地で全国初となる緊急銃猟によるクマ類の駆除実施[49][50]
    • 2025年10月16日 - ◆岩手県北上市の温泉施設従業員[注釈 1]が業務中にクマに襲われる。翌日に遺体を発見、同一個体を駆除[51][53][54][52][55]
    • 2025年10月20日から25日 - ◆秋田県湯沢市の市街地で4人を負傷させた後、民家に居座ったクマ1頭を発生6日目に捕獲・駆除[56][57][58]
    • 2025年10月24日 - ◆秋田県東成瀬村の村役場近くで4人がクマに襲われ1人死亡、現場付近のクマ1頭を駆除[59]
    • 2025年10月27日 - ◆岩手県一関市の民家敷地で住民と飼い犬がクマに襲われ死亡、付近のクマ1頭を駆除[60][61]
    • 2025年10月27日 - ◆秋田市雄和萱ケ沢の田んぼ側溝でクマに襲われた女性の遺体を発見[62][63]
    • 2025年10月28日 - ◎秋田県知事が防衛省にクマ捕獲支援のための自衛隊派遣を要請[64]
    • 2025年11月2日 - 秋田県湯沢市の山林で女性がクマに襲われ、翌日に遺体発見[65]
    • 2025年11月13日 - ◎緊急銃猟を目的とした警察官によるライフル使用を可能とする法令改正を公布、施行[66][67]
      ◎同日、岩手県秋田県機動隊銃器対策部隊による駆除を目的とした活動開始[68][69]
    • 2025年11月30日 - ◎自衛隊による秋田県内でのクマの捕獲や駆除の支援活動が終了[70]
    • 2025年12月19日 - ※宮城県大和町の山林で男性が不明となり、翌日に遺体発見。クマ被害の可能性あり。付近の罠にかかったクマ1頭を駆除[71]
    • 2026年1月 - ◎環境省が「政府によるクマ被害対策支援メニュー」を公表[72]

2026年度

  • 2026年度(4月まで:死亡事例:1件、※うち環境省認定以外の事案:1件[73]、 -->◆:人間の生活圏内事案、◎人身事故以外の事象)
    • 2026年4月3日 - ◎「特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(クマ編)」を改定[74]
    • 2026年4月6日 - ◎「緊急銃猟ガイドライン」を改定[75]
    • 2026年4月21日 - ※岩手県紫波町の山林で、前日からの不明女性捜索中の警察官が成獣クマに襲われ負傷、同個体を駆除。付近に身元不明の女性遺体を発見[76]

日本でのクマ類による人身被害件数

環境省自然環境局作成の「クマ類の出没対応マニュアル」において、国内に生息するヒグマツキノワグマをあわせてクマ類としている。

以下は、1980年度以降における「クマ類による人身被害」の年度別一覧である。

クマ類による人身被害(日本、1980年度以降:環境省 自然環境局発表)[77]
年度 - 負傷者数
( うち
死亡者
)
北海道以外 発生事例 北海道 発生事例 出典
-負傷者数
( うち
死亡者
)
-負傷者数
( うち
死亡者
)
1980 (昭和55)
-
10 人( 0 人)
-
9 人( 0 人)
-
1 人( 0 人) [78]
1981 (昭和56)
-
8 人( 0 人)
-
6 人( 0 人)
-
2 人( 0 人) [78]
1982 (昭和57)
-
6 人( 0 人)
-
6 人( 0 人)
-
0 人( 0 人) [78]
1983 (昭和58)
-
14 人( 1 人)
-
11 人( 1 人)
-
3 人( 0 人) [78]
1984 (昭和59)
-
26 人( 1 人)
-
25 人( 1 人)
-
1 人( 0 人) [78]
1985 (昭和60)
-
20 人( 3 人)
-
19 人( 2 人)
-
1 人( 1 人) [78]
1986 (昭和61)
-
27 人( 1 人)
-
26 人( 1 人)
-
1 人( 0 人) [78]
1987 (昭和62)
-
14 人( 0 人)
-
14 人( 0 人)
-
0 人( 0 人) [78]
1988 (昭和63)
-
19 人( 3 人)
-
18 人( 3 人)
-
1 人( 0 人) [78]
1989 (平成元)
-
21 人( 1 人)
-
18 人( 1 人)
-
3 人( 0 人) [78]
1990 (平成2)
-
14 人( 2 人)
-
13 人( 0 人)
-
1 人( 2 人) [78]
1991 (平成3)
-
32 人( 0 人)
-
31 人( 0 人)
-
1 人( 0 人) [78]
1992 (平成4)
-
34 人( 1 人)
-
33 人( 1 人)
-
1 人( 0 人) [78]
1993 (平成5)
-
25 人( 1 人)
-
24 人( 1 人)
-
1 人( 0 人) [78]
1994 (平成6)
-
44 人( 1 人)
-
43 人( 1 人)
-
1 人( 0 人) [78]
1995 (平成7)
-
36 人( 0 人)
-
36 人( 0 人)
-
0 人( 0 人) [78]
1996 (平成8)
-
39 人( 0 人)
-
38 人( 0 人)
-
1 人( 0 人) [78]
1997 (平成9)
-
33 人( 0 人)
-
32 人( 1 人)
-
1 人( 1 人) [78]
1998 (平成10)
-
35 人( 0 人)
-
33 人( 0 人)
-
2 人( 0 人) [78]
1999 (平成11)
-
65 人( 1 人)
-
60 人( 0 人)
-
5 人( 1 人) [78]
2000 (平成12)
-
38 人( 3 人)
-
37 人( 2 人)
-
1 人( 1 人) [78]
2001 (平成13)
-
86 人( 5 人)
-
85 人( 3 人)
-
1 人( 2 人) [78]
2002 (平成14)
-
55 人( 0 人)
-
54 人( 0 人)
-
1 人( 0 人) [78]
2003 (平成15)
-
55 人( 1 人)
-
54 人( 1 人)
-
1 人( 0 人) [78]
2004 (平成16)
-
110 人( 2 人)
-
108 人( 2 人)
-
2 人( 0 人) [78]
2005 (平成17)
-
57 人( 1 人)
-
55 人( 0 人)
-
2 人( 1 人) [78]
2006 (平成18)
-
145 人( 5 人)
-
142 人( 3 人)
-
3 人( 2 人) [78]
2007 (平成19)
-
50 人( 1 人)
-
47 人( 1 人)
-
3 人( 0 人) [78]
年度 被害件数 被害人数
( うち
死亡者
)
種類別 / ツキノワグマ 種類別 / ヒグマ 出典
被害件数被害人数
( うち
死亡者
)
被害件数被害人数
( うち
死亡者
)
2008 (平成20) 52 件59 人( 3 人) 49 件56 人( 0 人) 3 件3 人( 3 人) [79]
2009 (平成21) 52 件63 人( 2 人) 50 件61 人( 2 人) 2 件2 人( 0 人) [79]
2010 (平成22) 145 件150 人( 4 人) 142 件147 人( 2 人) 3 件3 人( 2 人) [79]
2011 (平成23) 70 件81 人( 2 人) 68 件78 人( 1 人) 2 件3 人( 1 人) [79]
2012 (平成24) 75 件77 人( 1 人) 73 件75 人( 1 人) 2 件2 人( 0 人) [79]
2013 (平成25) 46 件56 人( 2 人) 42 件52 人( 1 人) 4 件4 人( 1 人) [79]
2014 (平成26) 116 件122 人( 2 人) 111 件117 人( 1 人) 5 件5 人( 1 人) [79]
2015 (平成27) 52 件56 人( 0 人) 52 件56 人( 0 人) 0 件0 人( 0 人) [79]
2016 (平成28) 101 件105 人( 4 人) 100 件104 人( 4 人) 1 件1 人( 0 人) [79]
2017 (平成29) 100 件108 人( 2 人) 96 件104 人( 1 人) 4 件4 人( 1 人) [79]
2018 (平成30) 51 件53 人( 0 人) 48 件50 人( 0 人) 3 件3 人( 0 人) [79]
2019 (令和元) 140 件157 人( 1 人) 137 件154 人( 1 人) 3 件3 人( 0 人) [79]
2020 (令和2) 143 件158 人( 2 人) 141 件156 人( 2 人) 2 件2 人( 0 人) [79]
2021 (令和3) 80 件88 人( 5 人) 71 件74 人( 1 人) 9 件14 人( 4 人) [79]
2022 (令和4) 71 件75 人( 2 人) 68 件71 人( 2 人) 3 件4 人( 0 人) [79]
2023 (令和5) 198 件219 人( 6 人) 192 件210 人( 4 人) 6 件9 人( 2 人) [79]
2024 (令和6) 82 件85 人( 3 人) 79 件82 人( 3 人) 3 件3 人( 0 人) [79]
2025 (令和7) 216 件238 人( 13 人) 211 件232 人( 11 人) 5 件6 人( 2 人) [79][80]
表中「 - 」の表記については出典に当該データの表記なし。

参考文献

関連項目

脚注

外部リンク

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