薬物性健忘
From Wikipedia, the free encyclopedia
主に手術中などには、患者は健忘状態であることが望ましい。よって、全身麻酔が必要な手術では意図的に記憶喪失を誘発するようにしている。不安障害の治療薬として利用されているベンゾジアゼピンなどの鎮静薬は、手術前に高用量処方することによって、手術を思い出さないようにするために使用されることがある[2]。このような記憶に作用する薬剤は、人工呼吸器を使わなければ呼吸が困難な子供の意識を低下させるため意図的な昏睡状態を引き起こすために使用されたり、頭部外傷によって起こる頭蓋内圧の上昇を抑制するために使用される[3]。
人間の記憶について研究し、精神疾患や記憶に関連する障害を治療するためにより効果が高い薬を開発するため、記憶喪失を誘発する薬剤の実験が行われている。この研究によって、アルツハイマー症や認知症の治療が容易になる可能性がある。さらに記憶喪失を引き起こす薬物が、脳においてどのような相互作用を起こすかを研究することによって、神経伝達物質が記憶の形成にどう作用しているかという問題が解明されることが期待されている。
Holmes et al. (2010) [4]によれば、メディアは最近の2つの記憶に関する研究によってトラウマ的な記憶を「消去」することができると報じたが、それは誤りであると指摘している。これらの研究によれば、トラウマに関する記憶自体はそのまま残るものの、トラウマ的な記憶に関する恐怖の感情が有意に減少したことを報告した。同様の研究として、 Brunet et al. (2008)は、慢性的な心的外傷後ストレス障害者にプロプラノロールを1日投与したところ、トラウマ的な記憶を保持したままではあるものの、トラウマ的な記憶に対する恐怖反応が減少したことを報告している[5]。人間は記憶する過程において、脳内で記憶を復元する必要がある。しかし、この過程において記憶喪失を誘発する薬剤を投与することで、記憶の過程を混乱させることができる。その結果として記憶自体は残るものの、その記憶に対する感情的な反応を抑えることができる。このような研究は、こうした薬物によって心的外傷後ストレス障害の患者がトラウマを感情的に追体験することなく、トラウマをより良く処理できる可能性を示唆している[6]。このため、犯罪に巻き込まれた被害者(例えば殺人未遂による生き残りなど)に発生するトラウマ的な出来事を、研究で示されたような薬物によって変化させた場合、法的かつ倫理的な問題が発生する可能性が指摘されている [4][7]。