血漿浸透圧
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血漿浸透圧(けっしょうしんとうあつ、英語: plasma osmolality : Posm)とは、血漿中の浸透圧を形成する溶質粒子の総濃度(質量オスモル濃度)である。(実務上は血清で測定することも多く、検査項目名としては血清浸透圧と表記することもある。) 血漿浸透圧は、主に腎臓および視床下部口渇中枢により、非常に狭い範囲に保たれ、生体の恒常性を維持している。 臨床検査としての血漿浸透圧は、主に、高ナトリウム血症および低ナトリウム血症の病態の評価に使用されるほか、 浸透圧ギャップから異常な溶質の存在の有無を知る目的で利用される[1]。

概念
浸透圧
物理化学的な圧力としての浸透圧(osmotic pressure)は、溶質の濃度が異なる溶液が半透膜を介して接しているとき、 溶媒が低濃度側から高濃度側へ浸透(osmosis)するのを停止させるために高濃度側に加える必要がある圧力をさす。 臨床検査でいう血漿浸透圧(plasma osmolality)は、血漿の浸透圧を発生させる溶質の濃度を表す指標である質量オスモル濃度を意味する[2][3]。
単位
浸透圧を形成する溶質の濃度としての浸透圧の単位には、質量オスモル濃度(mOsm/kg)と容量オスモル濃度(mOsm/L)がある。 オスモル(osmole)とは、浸透圧をきたす溶質粒子数の単位である。溶質粒子の 1 モル(6.02×1023個)が1 オスモルに該当する[注 1]。 質量オスモル濃度(osmolality)とは溶媒の質量(重量)あたりの総粒子濃度(オスモル濃度)である(分母には溶質の質量は含まれない)。 容量オスモル濃度(osmolarity)は溶液の容量あたりの総粒子濃度を意味する(分母は、溶質をも含む溶液の容量である)[2]。
臨床検査における浸透圧は水を溶媒とした質量オスモル濃度であり、氷点降下法などによる浸透圧測定は原理的に質量オスモル濃度を測定している。
質量オスモル濃度は温度や圧力の影響を受けないという利点があるが、医薬品などの日常の取り扱いには、容量オスモル濃度が簡便であるためよく用いられる。 血漿などの低濃度の液体では、質量オスモル濃度は容量オスモル濃度とほぼ同じものとして扱われることが多い。 厳密には、血漿は脂質やタンパク質の濃度にもよるが 1 Lあたり約0.930 kgの水を含んでいるので(水分含有率0.93)、血漿の質量オスモル濃度 ≈ 容量オスモル濃度 / 0.93 となる[3]。
単位の表記においては、溶媒が水であることを明示するため、mOsm/kgH2OというようにH2Oを付加することが多いが省略されることもあり、 医療の文脈では、mOsm/kgとmOsm/kgH2Oは、通常、同義として扱われる[4]。
浸透圧物質
血漿浸透圧を形成する主な浸透圧物質は、ナトリウム(Na+)とそれに対応する陰イオン(Cl-、重炭酸HCO3-など)であり、 ついで、グルコース、尿素があげられる。膠質浸透圧に寄与する血漿タンパク質は、量は多いが分子量も大きく粒子数としては少ないため、血漿浸透圧全体からみれば寄与は僅かである。以下に血漿浸透圧の構成の概念を示す[1]。
血漿浸透圧の調節
血漿浸透圧は非常に狭い範囲に調節されて生体の恒常性を維持している。 視床下部の浸透圧受容体は、血漿浸透圧が 280 mOsm/kgH2O前後を超えると、 視床下部で合成されたバソプレッシンを下垂体後葉から分泌させるとともに、 視床下部の口渇中枢を刺激して水分摂取行動をとらせる。 バソプレッシンは腎臓の集合管からの水の再吸収を亢進させ、尿への水の排泄を減少させる[5][6]。
なお、視床下部の浸透圧受容体は、正確には有効浸透圧(張度)の変化を感知している(例えば、ナトリウムやマンニトールによる浸透圧の上昇は感知するが、尿素による浸透圧の上昇は感知しない)[7]。
検査の目的
検体
検査の方法
通常、氷点降下法が用いられる。浸透圧が高いほど氷点は低下し、1000 mOsm/kgH2Oの水溶液は純水と比べ、1.86 ℃氷点が低下する。この関係を利用して、氷点から浸透圧を逆算する[9][8][2]。
予測式
主要な血漿成分で浸透圧を予測することができる。血漿浸透圧が実測できない場合や、後述の浸透圧ギャップを求める時に用いられる[10]。 (なお、厳密には、血漿成分濃度から計算されるのは容量オスモル濃度(mOsm/L)のはずであるが、 実務上は、質量オスモル濃度とほぼ同じとみなして、質量オスモル濃度の予測に用いられている[2]。) 実測値と計算値の差を浸透圧ギャップと呼ぶ。 浸透圧の予測には様々な式が提唱されている[2]。
計算浸透圧(mOsm/kg) = 2 × Na(mEq/L) + ( グルコース(mg/dL) / 18 ) + ( 尿素窒素(mg/dL) / 2.8 )
広く用いられている、シンプルな式である。(なお、この式の18と2.8は、mg/dLからmmol/Lへの換算係数である。)[10]
- ドーウォート・チャーマース(Dorwart-Chalmers)式[2]
計算浸透圧(mOsm/kg) = 1.86 × Na(mEq/L) + ( グルコース(mg/dL) / 18 ) + ( 尿素窒素(mg/dL) / 2.8 ) + 9
この式も広く使われているが、実測値より 10 mOsm/kg 程度の過小評価となるとの批判もある[2]。
結果の解釈
基準値
基準範囲は、文献により若干の差があるが、275〜290 mOsm/kgH2O[1][8]、 ないし、 285〜295 mOsm/kgH2O[11] とされる。
血漿浸透圧が高値をとる病態
- 高ナトリウム血症
体の水分が相対的に欠乏していることによる場合が多い。ナトリウムの過剰摂取による高ナトリウム血症も、医源性(高濃度のナトリウムを含む薬剤投与)や自殺目的の食塩大量摂取などで起こりうるが、稀である。 水分欠乏の原因としては、水摂取不足(飲水不十分、口渇中枢障害)、腎からの水分喪失(尿崩症、浸透圧利尿剤投与、大量の尿糖など)、腎外の水分喪失[注 4](下痢、嘔吐、発汗など)などがあげられる[8]。
- 高ナトリウム血症がない場合(ナトリウム以外の溶質の増加)
高血糖、高尿素窒素血症(腎不全)があげられる。その他、 エタノール過剰摂取(急性アルコール中毒)、中毒(メタノール、エチレングリコールなど)の他、 医源性の高血漿浸透圧(マンニトール、グリセロール、造影剤、高張輸液などの投与)がある[8]。
- 偽高値
偽高値の原因として、不適切な抗凝固剤入容器での採血ないし採血量不足、高張輸液をしている腕からの採血、採血時の消毒用のアルコールの混入などがあげられる[1]。
血漿浸透圧が低値をとる病態
ナトリウムとそれに対応する陰イオンが血漿浸透圧の大部分を占めているため、 臨床的に問題になるレベルの低浸透圧血症は低ナトリウム血症を伴うと考えてよい[1]。
原因としては、水過剰状態(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)、心因性多飲、水中毒)、 浮腫性疾患(ネフローゼ症候群、心不全、肝硬変など)、 腎からのナトリウム喪失(利尿剤、塩類喪失性腎症(腎臓のナトリウム再吸収障害)、鉱質コルチコイド作用不足・副腎不全など)、 腎外性のナトリウム喪失[注 4](嘔吐、下痢、ドレーン、熱傷、重症膵炎など)があげられる[8]。
生理的変動
浸透圧ギャップ
実測浸透圧から計算浸透圧(浸透圧推定値)を引いた値を浸透圧ギャップ(osmolality gap、または、osmol gap:OG)と呼ぶ。
浸透圧ギャップ = 実測浸透圧 - 計算浸透圧
浸透圧ギャップの増大は、電解質・糖・尿素以外の、未測定の浸透圧物質の存在を意味する。 たとえば、エタノールの存在は、およそ、(エタノール(mg/dL) / 3.7)mOsm/kgH2O 程度、浸透圧を上昇させる[10][注 5]。
浸透圧ギャップの基準値は、予測に用いる式により異なる。一般的には、-10〜10 mOsm/kgH2O程度とされるが[10]、ワ―スリー式を使用すれば、 -2〜2 mOsm/kgH2O程度との意見もある[2]。
浸透圧ギャップ増大の原因としては、エタノールの他に、メタノール(中毒)、エチレングリコール(中毒)、ケトン体(糖尿病性ケトアシドーシス、アルコール性ケトアシドーシスなど)などがある他、乳酸アシドーシス[14]でも浸透圧ギャップが増大することがある[注 6]。 また、医源性のものとして、造影剤、マンニトール、グリセロールなどの投与があげられる[2]。
関連する概念としてアニオンギャップがある。アニオンギャップはナトリウム濃度から塩化物イオン(クロール、Cl-)濃度および重炭酸濃度を引いたものであり、 アニオンギャップ増大は、測定されない有機酸の存在を示唆する。 マンニトールのような解離しない溶質の存在は、浸透圧ギャップを増大させるがアニオンギャップは増大させない。 なお、メタノール中毒の場合、メタノール自体は解離しないので初期には浸透圧ギャップのみが増大するが、時間経過により代謝産物であるギ酸のためにアニオンギャップも増大する [2]。
関連する概念
有効浸透圧(張度)
有効浸透圧(effective osmolality)は、 血漿の溶質のうち細胞外液に留まりやすいもの(短時間では細胞膜を通過しにくいもの。たとえば、ナトリウムおよび対応する陰イオン、グルコース[注 7]など)により形成される浸透圧を指す。 張度(tonicity)とも呼ばれる。 尿素やエタノールは細胞膜を通過しやすいため、有効浸透圧には寄与しない。 有効浸透圧と浸透圧は必ずしも並行せず、たとえば高尿素窒素血症では、高浸透圧血症であるが有効浸透圧は正常ということもおこりうる。 逆に、有効浸透圧が高いときは浸透圧も必ず高くなる[3]。
有効浸透圧を直接測定するのは難しく[注 8]、 溶質量から計算で推定する(浸透圧の予測式から細胞膜を通過しやすい尿素の寄与分を除いた形になる)。
有効浸透圧 = 2 × Na(mmol/L) + グルコース(mg/dL)/18 [3]
有効浸透圧 = 実測浸透圧 - 尿素窒素(mg/dL)/2.8 [注 9]
有効浸透圧(張度)の基準値は、275〜290 mOsm/kgH2O とされる[3]。
細胞膜を通過しにくい溶質濃度に細胞の内外で差があると、すなわち、有効浸透圧の差があると、 細胞内の水分の出入り、すなわち、細胞の浮腫ないし脱水が発生する。 血漿の有効浸透圧(張度)の異常は細胞容積の変化、すなわち細胞機能の異常をきたすため、 臨床的に重要である。たとえば、低ナトリウム血症などにより血漿の有効浸透圧が低下した場合は、たとえ総浸透圧が維持され、または高値であっても、 脳細胞内に水が移動し脳浮腫をきたす危険がある。 また、脳浮腫の治療としてマンニトールやグリセロールの投与が行われるのは、 血漿の有効浸透圧を上昇させて脳細胞内の水を細胞外に移動させる目的である[8]。
なお、高血糖で細胞外の有効浸透圧が上昇した場合は、細胞内の水分が細胞外に移動して血漿ナトリウムが希釈されて低値となる。 グルコース 100 mg/dLの上昇につきナトリウムは 1.6 mmol/L程度低下する[注 10][2][15]。
膠質浸透圧
膠質浸透圧(colloid osmotic pressure, oncotic pressure)とは毛細血管壁を通過しにくい分子量の大きいタンパク質分子により発生する浸透圧である。 膠質浸透圧には、単にタンパク質分子の濃度のみならず、ドナン効果(不透過性のタンパク質の荷電の影響により、透過性のイオンの分布も膜の内外で不均等となる)の 影響も含まれている。 単位としては、通常、オスモールは用いず、圧力として、mmHg を用いる(すなわち、毛細血管壁を介した圧較差として扱う)[2]。
膠質浸透圧は半透膜を用いて実測することが可能であるが、日常臨床では一般的ではない。 膠質浸透圧の予測式は様々なものが提唱されているが、例として総タンパク質濃度(TP)から計算するランディス・パッペンハイマー(Landis-Pappenheimer)式を下に示す[2]。
膠質浸透圧mmHg = 2.1 × TP + 0.16 × TP2 + 0.009 × TP3 TP:g/dL単位の総タンパク質濃度
血漿タンパク質がもたらす浸透圧は血漿浸透圧の中では僅かであるが、血漿タンパク質のもたらす膠質浸透圧は組織液の水分を血管内に引き込む力として重要である。 血漿タンパク質全体による膠質浸透圧は 25〜28 mmHg 程度である。 1 g/dLのアルブミンのもたらす膠質浸透圧は、およそ5.54 mmHgであるが、一方、グロブリンによる膠質浸透圧は 1 g/dL あたり、1.4 mmHg であり、アルブミンと比べて少ない。 血管内の水分の保持にはアルブミンが重要な役割を果たしており、低アルブミン血症は浮腫の原因となりうる (古典的には、アルブミン1g で18 mLの水を血管内に保持できるとされる[1][注 11])[2]。
浸透圧クリアランス
浸透圧クリアランス(Cosm)とは尿中への単位時間に排泄される溶質と等量の溶質を含む血漿量に相当する[16][17]。
浸透圧クリアランス = ( 尿浸透圧 / 血漿浸透圧 ) × 分時尿量