買春の犯罪化

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買春の犯罪化が施行されている国(青)。多数派は買春の犯罪化を採用していない[1]

買春の犯罪化(かいしゅんのはんざいか)は、売買春について売り手のみではなく買い手にも刑罰を科す法的構想である。北欧での議論は北欧モデル(Nordic Model)とも呼ばれる[2][3]

買春の犯罪化は、1998年にスウェーデン議会で可決された「女性の平和法案」(スウェーデン語:Kvinnofridslagen)が発祥とされる。この法案は、「売春を、これまで一般的であった道徳・品位・公共秩序に対する犯罪としてではなく、性における不平等の文脈に位置づけた」[4]。スウェーデンの女性権利団体の招待を受けたラディカル・フェミニストキャサリン・マッキノンアンドレア・ドウォーキンは、買い手と売り手の両方を処罰する、男女平等を前提とする法律は、女性の不平等と搾取の解決には効果的ではないと主張した。北欧モデルの裏には、「売春が選択した職業ではなく、強制された職業だという考えがある」。この考えが、セックスワーカーへの偏見を煽り、権利を妨げている原因であるという見解もある[5]

買春の犯罪化の主な目的は、性的サービスの買い手を罰することによって性風俗産業を廃止することである[6][7]。買春の犯罪化は、セックスワーカーをより危険に晒すとして批判されている[8]

買春の犯罪化は1999年にスウェーデンで初めて導入され、その後2009年にノルウェーで売春買法の一部として施行された[9]。2025年時点で、スウェーデン[10]ノルウェー[11]アイスランド[12]カナダ[13]フランス[14]アイルランド[15]イスラエル[16]、州レベルで北アイルランド[17]メイン州[18]が買春の犯罪化の全部または一部を採用している。対照的に、ドイツイタリアスペインポルトガルフィンランドオランダスイスルクセンブルクギリシャデンマークチェコオーストラリアニュージーランド、州レベルでイングランドスコットランドウェールズネバダ州は買春の犯罪化を採用しておらず、買うことの違法性については問われない国が多数派である[1]ベルギーは2022年に性労働を非犯罪化し、2024年に性労働者が正式に雇用主と契約を結べる法律を成立させた[19]

グローバルネットワーク・オブ・セックスワーク・プロジェクトなどのセックスワーカーの権利擁護団体や、ヒューマン・ライツ・ウォッチアムネスティ・インターナショナルなどの国際人権団体は、買春の犯罪化を支持せず、セックスワークの非犯罪化を求めている[20][21]

買春の犯罪化は「需要の終焉」[22]、「平等モデル」[23]、「新廃止主義」[24]、「スウェーデンモデル」[25]とも呼ばれることがある。

日本における動向

日本キリスト教婦人矯風会は買春の犯罪化を歴史的な目標としており、イクオリティ・ナウと協同で活動している[26]。2014年に、日本キリスト教婦人矯風会傘下の「売買春問題ととりくむ会」は、衆議院議員にアンケート調査を行った[27]

2025年5月16日、立憲民主党吉田晴美衆議院内閣委員会で、「売る方の女性は捕まるが買う方の男性は捕まらない」と誤って主張し、売春防止法では売春する行為も相手方となる行為も両方が処罰対象となっていないと指摘を受けた[28]山井和則は、「男性を逮捕し、女性を保護するのが世界の流れ」と主張した。一方、『アゴラ』は2025年11月14日の記事で、国際的には売春規制を緩和し労働安全を確保する国が増えていると指摘している[29]法務省大臣官房審議官の吉田雅之は、「男女間の性に関わることで機微に当たる部分もあり、国民の自由を不当に制限しないかの観点からの検討も十分に必要になる」と述べた[30]

2025年6月11日、三原じゅん子は、売春の相手方の処罰について、「法務省としっかり協議する」と述べた[31]。8月、日本政府は男女共同参画基本計画の「基本的考え方」で買春行為について「売春防止法のさらなる見直しを含め、検討を行う」と記載した[32]。11月6日、塩村あやかは、参議院本会議内閣総理大臣高市早苗に対し、買春を罰する規制の導入を求めた。8日、フランスで買春処罰法の制定に関わったモード・オリビエは東京都内で、買春処罰法に関するシンポジウムに出席した[33]。11日、緒方林太郎は高市に対し、売春の相手方を罰する可能性について検討するよう、法務大臣に指示を出すように高市に要請した。高市は平口洋に指示を出した[34]。平口は14日の記者会見で、記者から買春に罰則のある国も存在する点を問われたが、「各国の実情に応じて様々な制度があり、各制度に対する見方も種々あると思う」と述べ、踏み込んだ発言は避けた。議論の進め方も検討中だという[35]

2025年11月11日、AV女優sienteのプロジェクトリーダーである月島さくらは、Xでのポストで買春の犯罪化に反対を表明した。月島は、「ソープランド料亭系の業態が存続できる可能性を極めて小さくし、業界全体に深刻な影響が出る」、「地下化を促進して女性にとって危険な層の男性が近付きやすくなる」と指摘した。月島のポストに反応したユーザーは、買春を禁止しようとする試みを「禁酒法の失敗」に例えた[34]坂爪真吾は、「買春の犯罪化に効果があるか否かは実施される国や文化によって左右される部分が大きい」と述べ、日本は北欧モデルは効果がなく、問題解決に繋がらないと述べている[36]

2025年11月26日、日本共産党本村伸子は、衆議院法務委員会で「性を買う側を処罰」することを求めた。平口洋は、買春の犯罪化について「国民の自由を不当に制限することがないかなど十分に検討が必要」と答弁した[37]。同日、立憲民主党の原田和広は衆議院内閣委員会の一般質疑で、「勉強すればするほど、本当に買春を処罰するモデルでいいのか疑問に思った。今まで国会は当事者の意見を聞いてこなかったと思われるが、今後はどのモデルにするかということを決め打ちするのではなく、当事者を呼んで、当事者がどのモデルを望んでいるのかを聞きながら進めてもらいたい」と語った[38][39]中山美里平裕介は、当事者から十分な聞き取りがなされず、法整備の経緯も問題があると批判されているAV新法の二の舞になることを危惧していると述べている。弁護士の若林翔は、「国会やメディアは不同意性交罪などの現行法で摘発できる12歳のタイ人少女の件を持ち出して、ショッキングなニュースを利用して一網打尽で売買春を規制しようとしているように感じる」と述べた[39]

議論

買春の犯罪化は多くの議論を呼んでおり、支持と反対の両方を受けている。買春の犯罪化の支持者には、全米女性機構[40]などのフェミニスト団体、女性人身売買反対連合[41]などの性的人身売買反対NGO、スペイン社会労働党[42]などの政党が含まれる。

一方、買春の犯罪化に反対している者には、アメリカ自由人権協会[43]アムネスティ・インターナショナル[44]ヒューマン・ライツ・ウォッチ[45]国際連合エイズ合同計画[46]世界保健機関[47]などの団体が含まれる。反対意見には、「買春側のみを処罰する案は合意の上での売春と強制売春を同列に扱っており、家父長主義的で人権軽視」、「片側だけを罪とするのは収賄・贈賄の関係と比べても不自然」[29]、「美人局が容易になる」とする見解がある[48]ヘルスで働いていた経歴のあるセックスワーカーの滝波リサは、「サービスを受けた側が罰せられるようなサービスなんて誰が買うのか」、「買ったら犯罪になるものを売る商売なんて成立しない」、「売春は許容するといいつつ、買春を禁じる法律を作ったりするのは営業妨害」と批判している[49]荻上チキは、「買春規制により需要を減らそうという議論は反対だし、逆効果」と述べた[50]。他の学者たちは、買春の犯罪化が実際に需要を減らすという証拠は不十分であり、売春を地下の闇市に追い込むだけだと主張している[51]。また、買春の犯罪化はセックスワーカーへの危害をほとんど軽減していないと主張する研究者もいる。2016年、アムネスティ・インターナショナルは100ページに及ぶ報告書を公表し、買春を犯罪化する法律によってセックスワーカーは警察による嫌がらせ、客からの暴力、差別、立ち退き、搾取のリスクに常に直面していると述べた[9]。セックスワーカーへの虐待や犯罪を秘密裏に報告できるサービスであるナショナル・アグリー・マグスが提供したデータによると、アイルランドが買春の犯罪化を採用した後、セックスワーカーに対する虐待や犯罪の報告が大幅に増加した。データによると、セックスワーカーに対する犯罪は90%増加し、暴力犯罪は92%増加した[52]

出典

参考文献

関連項目

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