キョンシー
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湘西地方の趕屍(遺体搬送)の習俗
もともと中国においては、人が死んで埋葬する前に室内に安置しておくと、夜になって突然動きだし、人を驚かすことがあると昔から言われていた。それが僵尸(殭屍)である。「僵」という漢字は死体(=尸)が硬直すると言う意味で、動いても何かの拍子ですぐまた元のように体がこわばることから名付けられた[4]。
ミイラのように乾燥した尸体は中国でも出土しているが、これは「
中国湖南省西部よりの出稼ぎ人の遺体を道士が故郷へ搬送する手段として、呪術で歩かせたのが始まりという伝承があり、この方法を「
中国の伝統的な価値観では「葉落帰根(落ち葉は根に帰る)」、すなわち異郷で死んでも遺体は故郷へ帰り、祖先の墓に埋葬されることが強く望まれた。しかし、湘西地方のような険しい山岳地帯では棺による運搬が困難であったため、趕屍(移霊)という独自の運搬法が生まれた。
- 趕屍匠(かんししょう):死体を運ぶ専門の道士。夜間に活動し、小銅鑼や摂魂鈴を鳴らして生者や家犬を避けさせながら移動する[7]。
- 術式:死体の額、背、胸、手足など七箇所(七魄が宿る場所とされる)に辰州符を貼り、耳・鼻・口を朱砂(辰砂)で封じて魂が散逸するのを防ぐ[8]。
- 運搬のカラクリ:実際には呪術で歩いているのではなく、長い竹竿を数体の死体の袖に通して担ぎ運ぶ手法(竹竿運搬説)が有力とされる。竹の弾性で死体が上下に揺れる様が、遠目には跳ねて歩いているように見えた。また、死体を軽量化(胴体を藁に置き換える等)して背負う手法もあった[9]。
- 弟子の選抜:趕屍匠になるには、激しく回転した後に正確に方角を指し示す能力(方向感覚)、重い死体を運ぶ体力、深夜の墓地で特定の物を回収してくる胆力(肝試し)の三項目の試験に合格する必要があった[8]。
文学作品としては明代から清代にかけて多くが存在するが、有名なもので清代の志怪小説で袁枚の『子不語』[10]「畫工畫僵屍」[11][1]他[12][13]20作ちかくあり[14]、『続子不語』第4巻[15]、紀暁嵐の『閲微草堂筆記』[16]、『聊斎志異』1巻の3 尸變[4][17]がある。また、『西遊記』でも殭屍(僵尸)が登場し一行に三度おそいかかり、2度偽の死体を残し逃げ去り3度目に孫行者(孫悟空)の如意棒に打殺された後に「行者道 他是個潛靈作怪的僵尸 在此迷人敗本 被我打殺 他就現了本相 他那脊梁上有一行字 叫做 白骨夫人」と孫行者が僵尸であると説明し、背骨に白骨夫人という名をもつ本相をあらわした。
日本では1980年代後半から『霊幻道士』、『幽幻道士』等の映画作品が多く公開されて知られるようになり、関連商品が販売されるなどの流行を見せた。「キョンシー」という日本語表記も、本来の中国語名称に由来しつつ、当時の映画配給会社、東宝東和の菅野陽介によって広く普及・定着したものである。
映画・テレビでの設定
主に映画によって吸血鬼、ゾンビのイメージに当てられたキョンシー像が作り上げられているが民俗学上根拠は薄い。
キョンシーの出現
- なんらかの事由によって風水的に正しく埋葬されていない者が、人間にある三魂七魄のうち魂がなくなり魄のみもつキョンシーになる。
- なんらかの事由によって、恨みや嫉みによってこの世を去った者が、死後も魄・怨念をもつことによりキョンシーになる。
- 符呪師や道士の符呪や儀式により、故意に埋葬されていない死体に魄を入れることによりキョンシーとなる。
- キョンシーにより傷つけられた生身の人間やキョンシーにより殺された人間もキョンシーになる。
キョンシーの特徴
身体の特徴
- 死体であるため身体は硬く、ほとんどの関節は曲がらない。基本的に生前の能力に比例して強力になる。
- 映画、テレビでは清時代の満洲族の正装である暖帽(mahala)と補褂(sabirgi kurume 官位を示す刺繍布を付けた礼服)を身に着けているが、伝承では明朝の儒者の服装の例もあるのでこれは単に昔の埋葬者のためである。この服装でも辮髪をしていない者が多いのは作品の時代設定が辮髪が行われなくなった清末期から中華民国初期のものが多いからである。作品によっては太極拳の衣装を着たキョンシーが登場している。

- 足首のみを利用して跳ねるように移動する。バランスをとるために腕を前に伸ばす。なお、『キョンシーvsくノ一』では、跳ねるように移動するのは男のキョンシーのみで、女のキョンシーは、左右の腕と足を同時に動かしてのそのそと歩くように描写されている。
- 魄が宿っているため、死体の爪が伸びている。また、幽幻道士などの映画では頭髪が伸びる現象もみられる。
- 視覚はほぼ失われている(後述する攻撃の特徴を参照)。ただし、霊幻道士シリーズ1作目で出てきたキョンシーのように視力が蘇り、道士が仕掛けた罠などを目視して回避できるようになる場合もある。
- 基本的に死体であるため腐敗臭がする。
- 日光にあたると火傷のような症状が現れたり崩れ、そのまま浴び続けると溶けたり燃えたりする。
- 夜行性であり、満月の夜は特に狂暴となる。
- 額に符が貼られていると、身動きが取れなくなる。また、道士の思い通りに動かすことができる(霊幻道士シリーズでのみコンシーと呼ばれる場合がある)。
- 自分の姿を映し出される鏡に弱く、近づけない。
- 硬直は時間とともに治るので、そのうち2足で歩いたり走ったりすることができる。
- 言葉を教えれば、少しずつ覚える。
攻撃の特徴
- 生き血を求め、人間や動物の頸動脈を狙い咬み付く。伝承においては、生きているものの首をねじ切り血を飲むとされる。
- 目玉はついているが見えておらず、人間の吐く息を嗅覚で察知して襲ってくる。
- 毒素の入った爪で握ったり、刺して攻撃をする。
- 空中を飛ぶ能力を持つと、飛殭(フェイキョン)、更に力を持つと屍尢となるが、映画内での呼称は特に変わらない。
- 生死に関わらず、キョンシーに咬まれたり傷を負った者もキョンシーになる。キョンシーとなった者を霊幻道士シリーズでのみバンバンシーと呼ぶ場合がある。
- 硬直が解けた場合、そのキョンシーが生前に中国武術を得ているのならば、通常のように技を繰り出すことが可能となる。
守備の特徴
- 死体であるのと同時に硬化しているため、銃剣はあまり効かない。ただし最新兵器や特殊な武器は除く。
- 冷気を口から出し、蒸気によって目くらましができる。
- 倒れても滑るように移動することができる。または体を曲げずに「起き上がりこぼし」の状態になる
キョンシーへの対処
一般の対処
- 吐く息を嗅覚で察知するため、察知されないように息を止める。ただし前歯が抜けているなどして口が開いていると口臭で察知されて襲われてしまう。
- ゆで卵や蒸す前の生のもち米を噛まれた傷に当てることで毒を緩和できる。
- 男児(童貞)の尿、黒い体毛の犬や雌鶏の血、生のもち米をかける。伝承では、米の他に赤豆、鉄が使われる。血は黒犬や黒い鶏以外の物を使うと、血の味を覚えてかえって狂暴化する。
- 噛まれたり傷を負った場合は、成長する牙や爪を削ることで凶暴性を抑えられる。
- 噛まれて絶命した者の死体を火葬することでキョンシー化を防ぐ。
修行を積んだ者(道士など)の対処
霊幻道士シリーズ
『霊幻道士』はキョンシー・ブームの火付け役となった最も有名な作品。手を前方に真っ直ぐ伸ばしてピョンピョンと飛び跳ねるお馴染みのキョンシー像はここから広まった。
