ブリグモフィセター
絶滅した鯨類の属
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ブリグモフィセター[1]またはブリグモフィゼテル[2](学名:Brygmophyseter)は、マッコウクジラ上科に分類される絶滅したハクジラ類。和名はカミツキマッコウ[3]、シガマッコウクジラ[2]。B. shigensis のみが分類される。1994年に記載され、当時は歯の形態からスカルディケタス属に分類されていたが、2006年に新属が設立された。その一か月後に Naganocetus 属が設立されたが、これは現在ジュニアシノニムとなっている。知られている唯一の標本はほぼ完全な骨格で、約1600万-1400万年前の中期中新世のものと推定されている。ホロタイプの体長は、複数の研究者によって6-7mと推定されている。上下の顎に11-12本の大きな歯があり、厚いエナメル質で覆われている。歯根は歯茎にしっかりと埋まっており、抵抗してくる獲物を容易に捉えることができた。Macroraptorial sperm whale(強肉食性のマッコウクジラ類)と呼ばれるグループに分類され、このグループは頂点捕食者であり、クジラのような大型の獲物も、大きな歯によって捕らえることができた。脳油器官を持ち、現生のマッコウクジラと同様に、反響定位に用いられていたと考えられる。ジュラシック・ファイト・クラブという番組で取り上げられたことがある。
| ブリグモフィセター | ||||||||||||||||||||||||||||||
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復元骨格 | ||||||||||||||||||||||||||||||
| 分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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| 学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
| Brygmophyseter shigensis (Hirota and Barnes, 1994) | ||||||||||||||||||||||||||||||
| シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||
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| 英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
| biting sperm whale |
発見
ホロタイプ(SFM-0001)は長野県東筑摩郡四賀村(現・松本市四賀地区)の別所層から、1988年に地元の小学生によって発見され、四賀村化石館(現・松本市四賀化石館)の協力によって発掘された[4][5]。標本はほとんど完全なもので、頭蓋骨の一部、顎骨、首の舌骨、椎骨、肋骨、胸骨、上腕骨、橈骨から成る[4]。1500万-1400万年のランギアンのものと推定されるが[4][5]、約1300万年前のものとする考えもある[6]。群馬県や茨城県からも本種と似た特徴を持つ標本が発見されているが、正確な種については不明である[4]。
属名は古代ギリシア語の「brygmos (噛み付く)」とマッコウクジラ属の属名である physeter を組み合わせたもので、これは古代ギリシア語で鯨の潮吹きを意味する[4][7]。シノニムとなった Naganocetus は、長野県とラテン語の「cetus (クジラ)」に由来する[8]。
分類
Macroraptorial sperm whaleというマッコウクジラ上科のステムグループに分類され、このグループには本種の他にもアクロフィセター、アルビケトゥス、リヴィアタン、ジゴフィセターが含まれる。このグループは上下の顎にエナメル質で覆われた歯を持ち、大型の獲物を狩るために使われる[8][9]。これらの特徴はバシロサウルス科のような祖先から受け継いだか、グループの中で一度か二度独自に進化したと考えられる。ブリグモフィセターは最古の捕食性の属である[10]。本属はマッコウクジラ科の絶滅亜科であるホプロケットゥス亜科 Hoplocetinae に分類されることが提案されていたが、この亜科は側系統群であり、無効であると考えられる。この亜科は本属およびスカルディケタス、ディアフォロケタス、Idiorophus、Hoplocetus を含んでいた[11]。
本種は1994年に廣田清治とローレンス・G・バーンズによって記載された。上下の顎にエナメル質に覆われた歯を持っており、似た特徴を持つ1867年に設立されたスカルディケタス属 Scaldicetus に分類された[12]。2006年には木村敏之、長谷川善和、ローレンス・G・バーンズによって、スカルディケタスは歯の特徴のみで定義づけられるゴミ箱分類群であり、本種は独自の属に分類されることが明らかになった。その結果本属が設立され、著者はバーンズのみとされた[4]。同年にGiovanni Bianucci と Walter Landini はジゴフィセターを記載し、同時に本種のために Naganocetus 属を設立した。体の大きさが似ていること、脳油器官が前に伸びていないこと、側頭窩が長いことなどから、この2属は最も近縁であるとされた[8]。Bianucci と Landiniの原稿の方が先に提出されたが、正式な発表はバーンズらの論文の方が一ヶ月早かったため、Naganocetus は本属のシノニムとなった[13]。
| 以下にブリグモフィセターと近縁種の関係を示す。Macroraptorial sperm whaleは太字で示す[10][14]。 |
形態

他のMacroraptorial sperm whaleのように、現生のマッコウクジラとは異なり、上下の顎にエナメル質に覆われた歯を持つ。それぞれの顎に11-12本の歯を持っていたと推定されるが、ホロタイプでは上顎の歯は失われている。種不明の2つの標本(GMNHPV-581とINM-4-012885)は、それぞれ長さ約14と16cmの歯で、2024年には aff. B. shigensis とされた。これはブリグモフィセターと近縁だが、明確に本種であるかは不明という意味である[4][15]。歯根は歯茎に固く埋め込まれており、抵抗する獲物も容易に捕らえることができた。ホロタイプの頭骨の大きさは約1.5mで、吻部は細長かった。眼窩上隆起は広く、頂部は平たかった。頬の鱗状骨にある頬骨突起は、大きく分厚かった。側頭窩は細長く、これは古鯨類の共有原始形質である可能性がある[8]。鼻腔は現生のマッコウクジラと同様に非対称であり、左側に比べて右側の鼻腔は小さい。他のマッコウクジラ上科と同様に、頭頂部には「supracranial basin」と呼ばれる深い窪みがあった。この部分には現生のマッコウクジラと同様に脳油器官があり、反響定位に用いられていたと考えられる。リヴィアタンとブリグモフィセターでは、この窪みは幅で見ると吻部全体に広がっていた[12]。項稜は頭部の後端で後ろに突き出ており、低く幅広かった。肩甲骨は高さよりも幅が大きく、この特徴は現生のマッコウクジラ上科とは異なるが、現生の他のハクジラ類とは似ている[4][12]。

体長は複数の研究者によって、6-7mと推定されている[8][16][17][18]。大きさはジゴフィセターと似ており、アクロフィセターより大きい[17]。10個の胸椎、10個の腰椎、15個の尾椎が保存されている。比較すると現生のマッコウクジラは、11個の胸椎、8個の腰椎、22個の尾椎を持つ。ブリグモフィセターの尾が短いのは、原始的な特徴だと考えられる。第7腰椎までは高さが増し、その後は下がる。第10胸椎を除き、胸椎では幅が高さよりも大きい。腰椎と尾椎は円形[4][12]。上腕骨の骨端は、骨幹に対して垂直である。多くの鯨類と同様に、上腕骨の関節は尺骨と区別できない。尺骨は現生のマッコウクジラよりも原始的な特徴を有しており、骨幹はより細長く、肘頭はより小さい[4]。
生態

ブリグモフィセターは中新世の海洋生態系において頂点捕食者であり、歯列は頑強で、体長は6-7mと、大型のシャチと同等であったことから、鯨類、鰭脚類、魚類など、主に大型の海洋性脊椎動物を獲物にしており、おそらくイカやサメなども捕食していたと考えられる。歯は厚いエナメル質で覆われており、咬合面は深かった。これを含めた歯の摩耗を分析した結果、固い獲物の肉を食べる際に、歯同士が頻繁に接触していたことが分かっている。このことは本種が強肉食性であり、大型の獲物を引き裂き、切断して食べていたことを裏付けている。これらはホロタイプのほとんど完全な骨格の分析により明らかになった[19]。
中新世の海洋食物網の頂点を占めており、資源を巡ってアルビケトゥスなどの他の強肉食性のマッコウクジラ類や、メガロドンなどの大型のサメなどと競合していた。現代のシャチと同等の栄養段階を占めており、一日に必要となる数千キロカロリーの栄養を維持するため、栄養価の高い海洋哺乳類を獲物とし、沿岸や外洋で待ち伏せや追跡によって捕食していた。頬の上顎骨には隆起があり、これは強い咬合力に対する支えとしての役割がある。また歯にも破損があり、これらの化石記録は、本種の胃の内容物や、獲物の骨の傷が見つかっていないにもかかわらず、本種が強肉食性であったことを裏付けている[17]。
本種は別所層の中期中新世の層から発見されており[4]、この層からは初期のマイルカ科やナガスクジラ科、アカボウクジラ科が発見されている[20]。また深海の熱水噴出孔の存在を示す二枚貝の化石や、化学合成を行うスペシャリストが生息する冷水湧出帯が存在した証拠も見つかっている。この層は中新世には水深1,000-2,000mの深海であった。他にも植物、棘皮動物、頭足類、深海の真骨類、海鳥の化石が発見されている[21][22]。サメの化石としてはメジロザメやメジロザメ属の一種、オロシザメ、Carcharodon hastalis、Isurus planus[23]、イチハラビロウドザメ[24]、カラスザメ属が見つかっている[25]。
映像作品
ジュラシック・ファイト・クラブという番組の「Deep Sea Killers」というエピソードに登場しており、反響定位を用いて獲物を気絶させ、シャチのように群れで生活する描写がなされた。作中で群れは体長15mのメガロドンに襲われ、一頭が重傷を負った後、残りの個体が協力してメガロドンを追い払った。怪我を負った個体はその後死亡し、メガロドンは戻ってきて捕食した。ブリグモフィセターの大きさは10.7–12.2mと誇張されている[26]。