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ノルナゲスト

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ノルナゲスト(古ノルド語: Nornagestr)は、北欧の伝説のサガに登場する300歳の長寿のひと。過去の英雄(シグルズをはじめヴェルスング族や、ラグナル・ロズブロークほか)や諸国王たちとの関わりの記憶を持つ。生後まもなく、いわゆる「命のろうそく」を巫女から授かったため、これが燃えつけないと死ねなかったが、キリスト教の洗礼を受けて満足し、ろうそくを燃やし切って死を選んだ。

ノルナゲストの死。
—グンナー・フォルセル(スウェーデン語版)画(1893年)[1]

中世のサガの一篇である「ノルナゲストの話(サットル)」[注 1](古ノルド語: Nornagests þáttr、英語: the Story of Norna-Gest)に語られる。

「命のろうそく」系のモチーフは、ギリシア神話のメレアグロスやオジエ・ル・ダノワ物語にも共通する要素である。

原典

「ノルナゲストの話」は、フラート島本他いくつかの写本[5]に所収される『オーラヴ・トリュグヴァッソンの最大のサガ』のなかの一篇の物語である[6]。『古エッダ』からの何編かの詩を含んでいる[8]。

作品は14世紀初頭の成立とされているが、保存されている写本は古いものでも14世紀後期を遡らない[9]。

あらすじ

ノルンたち
—ヨハネス・ゲールツ画(1889年)

本作品は枠物語の機構をなしており、長寿の人物(ノルナゲスト)自身の話が外枠で、その追憶のかたちで語られる個々のエピソードが、入れ子になった小話である[10][11]。

ノルナゲストは、オーラヴ・トリュグヴァッソン(オーラヴ1世)の即位3年目に食客となった設定になっている[12][注 2]。ノルナゲストは、デンマークのグレーニング[注 3]の出身で[15]、父親は「いがみ屋の」ソルド[仮訳][注 4]という人物だと自己紹介した[17][18] 。

ノルナゲストは、あるきっかけで( § 賭け事で語り始める参照)、長寿の自分が見てきたいろいろな話を聞かせて見せる(後述、 § 伝説の生き証人参照)。

それが終わると、また自分の身の上を語りだす。自分の名前("ノルンたちの客"の意[19][20])の由来については、自分が生まれた時、三人の巫女(スパーコナ[注 5]または「ノルン」[注 6])がやってきて、未来を予言したという。1人目は彼に美しい姿と勇敢さを、2人目は楽人の才能と豊かさを与えた。しかし末妹のノルンには相談がいかず[注 7]、ふらりとやってきたときには集まった人々に押されて転んでしまった。その仕打ちをうらみ、彼女は、赤ん坊がその揺りかごのそばで燃えている蝋燭が消えるより長くは生きられないだろうと呪った。年長のノルンはすぐに蝋燭の炎を消すと、赤ん坊の母親にこの蝋燭をうまく隠すように頼んだ、のであった[24][25][15]。

賭け事で語り始める

ひょんなことで、賭け事の勝負になる。ユールの祭りの前に、「赤毛の」ウールヴが、由緒ある黄金の腕輪[注 8]など宝物をオーラヴ王に献上したが、ノルナゲストは自分はそれよりも逸品を持っているので感心するに値しないといい、金品を賭けての品評会となった[28][29][30]。あくる日、ノルナゲストは巾着[注 9]のなかから鞍用のバックルを取り出したが[注 10]、王も皆も勝者はゲストであるという総意だった。それはどういう品なのか語ってみせよとの思し召しなので、ゲストはそれがシグルズの馬グラニが勢い余って胸繋(むながい)[注 11]を真っ二つに吹き飛ばしてしまい、その時に落ちたバックルだと説明した[34]。そこから多くの世代を生き延びてきた回顧録がはじまる[注 12]

伝説の生き証人

「長じてからその蝋燭を母からもらった」ノルナゲストは、300歳[36][37]の年月を生きてきたので、フランケンランド(ラインラント[38])に行き、評判の王子シグルズを目にして、その部下になり[41][42]、シグルズの生涯の名場面を目撃した:魔法にたけた小人レギンに師事し、レギンが鍛えた名剣グラムを贈られて龍ファーヴニルを殺せとけしかけられたこと等。 またシグルズにとって親のかたきであるフンディングの息子らは、うち数人までは腹違いの兄フンディング殺しのヘルギ(英語版)が斃していたが、いまだリュングヴィ(wikidata)[注 13]など生き残りもおり、祖国にのさばっていた[45]。

本作ではエッダ詩の引用もされることは述べたが[8]、このようなシグルズに関する追憶は、概してエッダやサガに倣っており[48]、さほど新鮮味はない[49]。しかし、シグルズがいざとなってリュングヴィ王への復讐を果たす場面においては、血のワシを体に刻む刑罰を加えたことが、エッダより克明に描かれている[50]。「ノルナゲストの話」では、ノルナゲストがレギンにその剣を手渡し、レギンがワシの紋をリュングヴィに刻んだとされている(血のワシ § レギンとリュングヴィ参照)[53][注 14]。

また、デンマーク(あるいはスウェーデンも含めて)の王シグルズ・フリング(英語版)が、義弟たちであるガンダールヴの息子たちを遣わし、ギューキ(英語版)王の息子ら グンナルとヘグニに朝貢を要求したときも、グンナル側にはシグルズが逗留していた。ガンダールヴの息子たちの軍の中にはスタルカズ(英語版)という巨人がいたが、ファーヴニル殺しシグルズの名乗りを聞いて逃げ出し始めた。シグルズはこれを追って名剣グラムの柄で顎を強打すると、スタルカズの臼歯が2本、折れて飛んだ。このうち一本の歯をノルナゲストが拾得したが、7オンス[注 15]の重さがあり、ルンドの教会の釣り鐘に使われたという。結果として敵軍は崩壊し、シグルズやギューキ王族側が勝利する[57][58][注 16]。

ノルナゲストは、(シグルズ・フリングの息子)ラグナル・ロズブローク、そのまた息子のビョルンほか兄弟とも時代を共にし[注 17]、またウプサラ王エリクや[注 18]、ハーラル美髪王の時代を生きた。そしてサクスランド(ドイツ)のフレズヴェル[仮カナ表記]王(すなわちフランク帝国のルートヴィヒ1世ことルイ敬虔王[69][70][71][注 19])により、ゲストは〈プリマ・シグナティオ〉(洗礼以前の初歩改宗、仮改宗のようなもの[注 20])を受けていた[73][74][77][78]。

終章

ノルナゲストが来訪したのは、キリスト教化に熱心なオーラヴ王の元であった。 ゲストは上述のように〈プリマ・シグナティオ〉までは受けていたが、洗礼は受けていなかったため、第1章では、ゲストに未洗礼のままデンマークの地を離れさせるとは何たることか、とスヴェン王(双叉髭王)をなじっている[14]。ノルナゲストは身の上話を語り終えると、オーラヴ王のもとへ行き、洗礼を受ける用意があるかと尋ねられ、承諾する。そして自分の「命のろうそく」に 火をつける。それが燃え尽きると、ノルナゲストの命も尽きた[79][82]

命のろうそく

この「命のろうそく」と同じモチーフ(「E 765.1.1 命とむすびつく蝋燭」「E 765.1.1 たいまつ」[83][84])がみられる伝承に、メレアグロス (薪が燃え尽きた時に死ぬ定めのギリシア神話の人物)が存在する[86][注 21][80]。

また、武勲詩に基づいた後期の改作版『オジエ・ル・ダノワ物語』にも「たいまつが燃え尽きた時に死ぬ運命」のモチーフがみられる[87]。早くはパンツァー(ドイツ語版)(1925年)の考察にみえ、ノルナゲストの作者が、オジエ伝説の類を融合させたと推論していた[90]。

フェロー諸島のバラッド

フェロー諸島で2001年に発行された郵便切手に描かれた、ノルナゲストの物語の一場面
—アンカー・エリ・ペーターセン(英語版)画

フェロー諸島のバラッド版『Nornagests ríma(ノルナゲストゥルのルイーマ)』も存在する。目録番号 CCF 4、4 異本[91]。最初に採集された稿本(A本、スヴロイ島(英語版)で採取)は、1818年、J・H・シュローター(wikidata)(Johan Henrik Schrøter)によるものだが、デンマーク王立図書館・新コレクション 蔵 NKS 345写本として手稿が残されていたまま、『Færoensia』第III巻(1951年)、53–55頁に発表されるまで未刊であった[92])。よって最初に刊行された稿本(B本[92])は、藻学者としても著名なハンス・クリスチャン・ルングビューが1822年に出版したそれである[93][94]。V・ U・ハンメシュハイム(英語版)[注 22]の編本(1851年刊[95]、D本[92])は、かつてカーショウ(1921年)や[94]、E・M・スミス=ダンピア(wikidata)[注 23](1934年)が英訳を手掛けている[96]。新たにA本の[97]英訳が、Helen F. Leslie‐Jacobsen、 Mortan Nolsøé Jacobsen の共訳で 2025年に刊行された[98]。

フェロー語のバラッドでは、ノルナゲストゥルが身の上話を語りだすきっかけが(「話」の § 賭け事で語り始めるきっかけと比べて)簡易化しており、王様が[注 24]12頭の牛を一刀両断に斬首したのを、ノルナゲストゥルだけは、さして関心すらせずだったので、ならばそれを超えた技の疲労というのを語ってみせよ、と咎められる[99]。バラッドでは、ノルナゲストゥルが回想するのは、シグルズ(フェロー語:シューウル [仮カナ表記] フェロー語: Sjúrður, Sjúrur /ˈʃʉuɹʊɹ/)関連の場面に限る[35]。

当バラッドでは、ノルナゲストゥルは命の蝋燭を身に着けてはおらず、鉛の容器(A本の場合[101])またはランタン(D本の場合[注 25])が水没されて隠されている。カーショウ(英語版)は、これについて「外在魂(wikidata)」(External Soul)のモチーフを見出すことができるとする[104]。藻類学者でもあったハンス・クリスチャン・ルングビューは、民間伝承としてノルナゲストゥルの魂が密封された鉛の箱に入れられ、その両親たちによってフィヨルドの底に沈められたが、年老いたときに、王からそのありかを教わったと語りつがれているのを見聞している[105][106]。 ルングビューはまた、ノルナゲストをギリシア神話で、やはり300歳まで生きたというネストールと比較している[107][104]。

演奏録音

『Nornagests ríma(ノルナゲストゥルのルイーマ)』の演奏は、フェロー諸島出身のバンドティア (Tyr)が 2008年に再リリースしたアルバム『How Far to Asgaard』に隠しトラックとして収録している(ボーナス・トラック2編のあと、しばらく沈黙したあとに再生される)。

ニカンダー

スウェーデンの詩人カール・アウグスト・ニカンダー(英語版)がノルナゲスト三部作("Norna-Gest")を完成させている。すなわち「客人の到来」(Gästen kommer);「広間での酔漢らの諍い」(De drucknas strid i salen);「竪琴の力」(Harpans makt)[いずれも仮訳題名]である[19]。

その他翻案

松村武雄編著に「蝋燭の火」と題して童話仕立てに再話された"ノルナゲスタ"の短編を記載(枠物語のみ)[108]。

現代のSF作家ポール・アンダースンは『百万年の船(英語版)』(1989年) において、登場させる11人の不死人たちのなかに、ノルナゲストを交えている[109]。

脚注

参考文献

関連項目

外部リンク

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